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(3) 考察 3. 行動追跡調査 (1) 調査方法

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(3) 考察 3. 行動追跡調査 (1) 調査方法
(3) 考察
野外においては野生動物からの赤外線以外に、太陽光の直射や散乱光をはじめ様々な赤
外線が放射されており、いずれも動物調査にとっては誤作動の原因となる(小金澤
2004)。
また、カメラの発売元からは、低温により電池の電圧が低下すると誤作動が起きて、赤外
線を感知しなくても連続して撮影動作を行ってしまうとの情報が得られている。このよう
な誤作動やカメラの不調による無効な撮影の頻度を減らすことができれば、自動撮影によ
る記録は、撮影場所間や調査時期による出現頻度の比較を行えるようなデータとなりうる
と思われる。しかし、そのためには、カメラの調整とテスト、設置場所の検討等を事前に
行うことが不可欠である。
毎年、前年度調査時の結果から一部のカメラの設置位置や方向等を変更し、太陽光によ
る誤作動をかなり減少させてきた。今回は、特に第 1 回の調査において有効撮影比率が大
幅に向上した。これは、この時期にまだ樹木の葉が展開していて、林内のカメラ設置場所
での太陽光による連続誤作動がほとんど無かったことによると思われる。第 2 回調査では,
明らかに太陽光によると思われる連続誤作動により、極めて短時間でフィルムを使い切っ
てしまった場合が、少なくとも 4 ヶ所のカメラ(No.2、No.4、No.7、No.12)で起こってお
り、第 3 回では No.7 を除く同じ場所のカメラにおいてさらに極端な連続誤作動が起こって
いた。一方、毎年厳冬期に調査を行っている関係上、低温による誤作動と思われる無効な
撮影枚数がかなりあったが、今回は第 3 回でもそのような例はほとんど無かった。表 4-2
及び表 4-3 において、稼働時間が短く、フィルム(36 枚撮り)を短時日に使い切っている
場合は、総て太陽光による誤作動が連続して起きていたものであった。使用したフィルム
36 本のうちこのような連続誤作動と思われる状態のものは 7 本であった。
一方、第 3 回調査の No.8 は,カメラが故障していたものと思われる。
季節的な変化としては、秋季のシカの繁殖期にあたったためか、特にオスジカが従来よ
り高い割合で撮影された。また、厳冬期の調査では撮影されないコウモリ sp が第 1 回、第
2 回には比較的多数撮影された。その他にも、従来の冬季の調査では撮影されていないモ
モンガ(?)、鳥(種不明)等が記録された。
一方、従来はまれにしか撮影されなかったイノシシが、今回は秋季、冬季を問わず多数
撮影された。
今後も有効撮影枚数の比率を高めるよう検討を行いながら継続して調査を行えば、撮影
場所間や季節間のニホンジカによる利用頻度の変化、野生動物相の変動等を明らかにする
ことも可能であると思われる。ただし、太陽光による連続誤作動を回避するためには、季
節毎のカメラ位置の調整が必要である。
3. 行動追跡調査
(1) 調査方法
当地域のシカの行動特性を把握するため GPS テレメトリーシステムを利用した行動追跡
調査を行った。GPS テレメトリーは、従来の VHF ビーコンをアマチュア無線用受信機等で
追跡する、いわゆるハンディ・テレメトリー法に比べ、装置は高価であるが、精度の高い
衛星データを自動で測定・蓄積することができ、調査効率を飛躍的に向上させることがで
95
きる。シカに GPS テレメトリー首輪(以下「GPS 首輪」)を装着した後は、首輪から補助的
に発信される VHF ビーコンを随時受信することにより、個体の位置をおおよそ把握するこ
とができる。また首輪には個体が一定時間以上動かなくなったことを検出するモータリテ
ィ・センサーが組み込まれており、これが作動した場合には VHF ビーコンのパルス間隔が
短くなって個体の異常を知ることができる。
GPS 首輪は、正常に動作していれば、装着前に設定してある任意のスケジュールに従っ
て測位を行い、データを蓄積する。また、GPS 首輪はタイマー設定により予定日数経過後
に自動的に脱落するが、昨年度の調査で装着した首輪は電波信号によって強制的に脱落さ
せる機能も付加されたものであり、より確実に脱落・回収が行える。
1. シカの捕獲と GPS テレメトリー首輪の装着
捕獲対象地域およびその周辺地域(図 1-2 参照)において、3 カ所の定点に誘引餌を
まき、誘引されたニホンジカのメス成獣を麻酔銃で捕獲する定点捕獲を試みた。シカの
誘引状 況を 確認す るた め、定 点に 自動撮 影カ メラ(Stealth Cam Prowler HD Scouting
Camera, Stealth Cam 社)を設置した。誘引餌および自動撮影カメラの設置地点を図 4-2
に示した。
誘引地点
図 4-2
シカ捕獲・GPS 首輪装着のためのシカ誘引地点
誘引餌および自動撮影カメラは、平成 22 年 9 月 10 日に各定点に設置した。10 月 6 日
に誘引餌の補充と自動撮影カメラに撮影された映像による誘引状況の確認をしたとこ
ろ、少数ではあったが誘引されたシカが複数頭確認された。そこで、10 月 6 日~8 日に
誘引地点において麻酔銃によるシカの捕獲作業を実施した。
その後、12 月 13 日~15 日には林道周辺に出没するシカの捕獲作業を行った。また、
平成 23 年 2 月 7 日にも捕獲作業を行うべく現地に向かったが、降雪のため作業を中止
96
した。さらに、2 月 27 日~3 月 3 日にも林道周辺におけるシカの捕獲と GPS 首輪の装着
作業を実施した(表 4-9)。
なお、今回捕獲したシカ装着した GPS 首輪は四国森林管理局から供与された Lotek
Wireless 社(カナダ)製 GPS3300S で、タイマー式の自動脱落装置を備えたものである。
表 4-9
シカの誘引および捕獲・GPS テレメトリー首輪装着作業実施日
年月日
作業内容
平成22年9月10日
誘引地点における餌及びセンサーカメラの設置
平成22年10月2日
誘引地点における餌補充及びセンサーカメラの管理
平成22年10月6日~8日
誘引地点におけるシカ捕獲及びGPSテレメトリー首輪装着作業
平成22年12月4日
誘引地点における餌補充及びセンサーカメラの管理
平成22年12月9日
誘引地点における餌補充及びセンサーカメラの管理
平成22年12月13日~15日
平成23年2月7日
麻酔銃によるシカ捕獲及びGPSテレメトリー首輪装着作業
捕獲作業に向かうが,降雪のため中止
平成23年2月27日~3月3日 麻酔銃によるシカ捕獲及びGPSテレメトリー首輪装着作業
2. 昨年度装着した GPS 首輪の回収とシカの行動解析
昨年度調査において GPS 首輪を装着した個体は、発信されている VHF パルスを頼りに
個体の状態を随時モニターした。装着中の GPS 首輪は、回収後に今年度の調査において
使用する予定であったため、今年度の捕獲時期に合わせて 9 月中旬以降に遠隔操作によ
る脱落・回収を試みた。
回収された GPS 首輪から測位データを抽出し、位置データの精度を高めるため Lotek
Wireless 社 製 の 精 度 補 正 計 算 ソ フ ト ウ ェ ア ( N4 Differential post-processing
software)により補正(ディファレンシャル補正)を行い、シカの行動特性分析に供し
た。
(2) 結果
1. シカの捕獲と GPS テレメトリー首輪の装着
平成 22 年 10 月 6 日~8 日の誘引個体の捕獲作業と 12 月 13 日~15 日の林道周辺を中
心とした捕獲作業ではシカの捕獲には至らなかった。平成 23 年 2 月 27 日~3 月 3 日の
捕獲作業では、3 月 1 日にメス成獣(個体番号:H22-1)を林道周辺で、3 月 2 日にメス
成獣(個体番号:H22-2)を同じく林道周辺で捕獲した。各捕獲個体の捕獲地点を図 4-3
に示す。捕獲した各個体については、外部計測と生体サンプル(体毛、血液)を採取し
た後、行動追跡用の GPS 首輪及び耳標識を装着した。上記作業を各個体あたり約 1 時間
で終了した後、覚醒薬を投与して放獣した(写真 4-10~15)。
捕獲個体に装着した GPS 首輪及び脱落装置等の仕様等を表 4-10 に示した。なお、捕
獲・GPS 首輪装着を実施した翌日に GPS 首輪から発信される電波を受信したところ、シ
ステムが正常に作動していることを示す 40 回/分のパルスの発信を確認した。各個体の
外部計測値については表 4-11 に示した。
97
なお、今年度装着の首輪は、タイマー式の脱落装置により平成 23 年 9 月 27 日に脱落
する予定である。
捕獲地点
図 4-3
GPS 首輪装着個体の捕獲地点(平成 22 年度)
写真 4-10
装着した GPS 首輪(H22-1)
写真 4-12
GPS 首輪装着個体(H22-1)
写真 4-11
写真 4-13
98
タイマー式脱落装置(H22-1)
GPS 首輪装着個体(H22-1)
写真 4-14
装着した耳標(H22-1)
写真 4-15
放獣後の個体(H22-1)
写真 4-16
装着した GPS 首輪(H22-2)
写真 4-17
タイマー式脱落装置(H22-1)
写真 4-18
GPS 首輪装着個体(H22-2)
写真 4-19
GPS 首輪装着個体(H22-2)
99
写真 4-20
装着した耳標(H22-2)
写真 4-21
表 4-10
捕獲個体の GPS 首輪等の装着状況
個体番号
捕獲
年月日
性別
H22-1
H23.3.1
♀
成獣
41
Lotek GPS3300S
(黄)
H22-2
H23.3.2
♀
成獣
表 4-11
放獣後の個体(H22-2)
GPSテレメトリー首輪仕様
脱落装置
S/N
バックパック
VHF周波数
(MHz)
GPS01422 151.8000
10-0706
147.103
45
Lotek GPS3300S 2681 GPS05814 147.0160
(黄)
10-0705
146.073
耳標
年齢 番号
(色)
型式
ID
S/N
557
周波数
(MHz)
GPS 首輪を装着したシカの外部計測値
個体
番号
捕獲
年月日
性別
齢
クラス
耳標
体重
番号
(kg)
(色)
全長
(cm)
体長
(cm)
尾長
(cm)
体高
(cm)
首囲
(cm)
胸囲
(cm)
胴囲
(cm)
腰囲 前肢長 後肢長 耳介長 耳介幅
(cm) (cm) (cm) (cm)
(cm)
H22-1
H23.3.1
♀
成獣
41
25.0
(黄)
124.5
66.8
10.5
64.5
25.0
64.0
76.5
64.0
42.3
35.2
10.7
5.0
H22-2
H23.3.2
♀
成獣
45
28.5
(黄)
123.0
70.0
12.2
64.0
23.3
65.1
81.5
74.5
42.3
32.0
11.0
7.0
2. 昨年度装着した GPS 首輪の回収とシカの行動解析
昨年度調査において GPS 首輪を装着した 2 個体(個体番号:H21-1 及び H21-2)は、
それぞれ平成 22 年 1 月 21 日及び 1 月 22 日に捕獲した個体である。
H21-2 個体については、平成 22 年 9 月 9 日に GPS 首輪から発信される VHF パルスが停
波していることを確認したため、GPS 首輪の脱落を試みた。バックパックの VHF ビーコ
ンを頼りに個体の位置を突き止め、遠隔操作により無事に GPS 首輪を脱落・回収するこ
とができた。H21-1 個体についても同日に脱落を試みたが、遠隔操作で脱落装置を作動
させることができなかった。平成 22 年 10 月 6 日~8 日及び 12 月 13 日~15 日の捕獲作
業時にも脱落装置の作動を試みたが、近距離からの操作にも関わらず、GPS 首輪を脱落
させることができず、脱落装置が故障した可能性が示唆された。しかし、平成 23 年 1
月 20 日に、森林総合研究所四国支所の奥村栄朗氏が遠隔操作による脱落を試みたとこ
100
ろ、脱落装置が作動し回収することができた。これら 2 個体の昨年度調査における捕獲
地点と GPS 首輪の回収地点を H21-1 については図 4-4 に、H21-2 については図 4-5 に示
した。捕獲地点と GPS 首輪の回収地点は、両個体ともにそれほど離れていない。
H21-1 及び H21-2 個体について、放獣後、首輪回収日までの全測位回数について、月
別、測位精度別の測位点数を表 4-12 に示す。この間の測位は 2 個体とも設定されたス
ケジュール通り行われており、全測位回数はそれぞれ 1693 回及び 894 回であった。
各個体の測位データについては、得られた位置データの精度を高めるためにディファ
レンシャル補正を行った。補正計算前後でともに 3D(測位成功)と判断され、測位精度
が最も信頼できる位置データは、H21-1 が 68 回(4.0%)、H21-2 が 150 回(16.8%)であ
った。
:捕 獲 地 点
:脱 落 地 点
図 4-4
H21-1 の捕獲地点及び GPS 首輪脱落地点
:捕 獲 地 点
:脱 落 地 点
図 4-5
H21-2 の捕獲地点及び GPS 首輪脱落地点
101
表 4-12
H21-1 および H21-2 から得られた GPS 測位点数
個体 H21-1
測位データ区分
年
月
測位回数
*
**
3D
(回)
(回)
測位失敗
***
(%)
(回)
(%)
0.0
39
95.1
1月(1/21~)
41
2月
112
0.0
112
100.0
3月
124
1
0.8
3
2.4
120
96.8
4月
200
8
4.0
3
1.5
189
94.5
5月
124
4
3.2
1
0.8
119
96.0
6月
120
22
18.3
6
5.0
92
76.7
7月
204
10
4.9
10
4.9
184
90.2
8月
121
6
5.0
0.0
115
95.0
9月
120
10月
204
11月
H22
H23
(%)
2
****
補正前2D
4.9
0.0
0.0
1
0.8
119
99.2
11
5.4
6
2.9
187
91.7
120
1
0.8
0.0
119
99.2
12月
124
3
2.4
3
2.4
118
95.2
1月(~1/20)
79
0.0
3
3.8
76
96.2
4.0
36
2.1
1,589
93.9
合計
1,693
68
個体 H21-2
測位データ区分
年
月
測位回数
*
3D
(回)
H22
*
**
補正前2D
測位失敗****
***
(%)
(回)
(%)
(回)
(%)
1月(1/22~)
37
10
27.0
3
8.1
24
64.9
2月
112
30
26.8
9
8.0
73
65.2
3月
124
47
37.9
4
3.2
73
58.9
4月
200
41
20.5
18
9.0
141
70.5
5月
124
10
8.1
3
2.4
111
89.5
6月
120
12
10.0
4
3.3
104
86.7
7月(~7/21)
177
0.0
177
100.0
合計
894
4.6
703
78.6
0.0
150
16.8
41
通常 6 時間毎(1 日 4 回)、4 月、7 月、10 月の上旬 10 日間については 2 時間毎(1 日 12 回)
**
***
4 個以上の人工衛星の電波により測定された測位点。
3 個の人工衛星の電波により測定されたデータ(2D)であるが、ディファレンシャル補正に
より精度の向上が図られた測位点。
****
ディファレンシャル補正を行えなかった 2D のデータも含む。
102
(3) 考察
1. 各個体の活動点の分布
個体 H21-1 から得られた測位点のうち、平成 22 年 1 月から平成 23 年 1 月までの全て
の測位成功地点(3D:68 地点)を図 4-6 に示した。図 4-6 より、捕獲地点の出合滑付近
を集中的に利用しており、全活動点の 63%が集まっていた。また、郭公岳周辺の高標高
域も利用していた。同個体の活動点のうち南東部に 1 点だけ大きく離れた活動点が得ら
れた。この活動点については、前後の活動点の位置から考えてシカが移動して測位され
た点とは考えにくく、何らかの影響により誤差の大きい測位になったと考えられる。よ
って、以下の分析からはこの活動点を除外した。
個体 H21-1 の月別の活動点を図 4-7 に示した。ただし、平成 22 年度の 2 月、9 月およ
び平成 23 年 1 月の活動点については、3D で測位された点がなかったため、図示しなか
った。図 4-7 より、郭公岳周辺の高標高域は 5 月下旬から 6 月にかけて季節的に利用し
ていること、それ以外の期間は、捕獲地点の出合滑付近をよく利用していることが分か
った。また、万年橋近くの林縁部および駐車場横の広場では、夜間に林縁部や広場に生
育する草本類を採食する数頭のシカを目撃した。個体 H21-1 についても、11 月や 12 月
に万年橋の近くの広場に活動点が分布している。地点数が非常に少ないため、あくまで
推測にすぎないが、冬季に林内の草本類が減少すると、広場に植え付けた草本類を利用
するために標高を下げた可能性がある。
0
0.25
0.5
Kilometers
図 4-6
H21-1 の活動点
103
1月
0
0
0
0.25
3月
0
0.5
0.25
Kilometers
Kilometers
4月
5月
0.25
0.5
0
0.25
Kilometers
Kilometers
6月
7月
0.25
0
0.5
Kilometers
0.25
0.5
0.5
0.5
Kilometers
図 4-7(1)
H21-1 の月別の活動点
104
8月
0
0.25
10 月
0
0.5
11 月
0
0.25
0.25
0.5
Kilometers
Kilometers
12 月
0.5
0
Kilometers
0.25
0.5
Kilometers
図 4-7(2)
H21-1 の月別の活動点
105
個体 H21-2 から得られた測位点のうち、平成 22 年 1 月から 7 月までの全ての測位成
功地点(3D:150 地点)を図 4-8 に示した。個体 H21-2 の GPS 首輪は、平成 22 年 9 月 9
日に脱落させたが、GPS 首輪から発信されているべき VHF パルスが停波しており、GPS
首輪から得られたデータには 7 月 21 日以降のデータは蓄積されていなかった。おそら
く何らかの影響による著しいバッテリーの消耗、もしくは GPS 首輪の電子回路等の故障
が一因となり VHF パルスが停波したものと考えられる。H21-2 の活動点は、大久保山と
鬼が城山にかけての鞍部付近や、そこから黒尊スーパー林道へトラバースする登山道周
辺に集中している。
個体 H21-2 の月別の活動点を図 4-9 に示した。ただし、平成 22 年度の 7 月の活動点
については、3D で測位された点がなかったため、図示しなかった。1 月や 5 月に、鬼が
城山から東に延びる尾根に活動点が測位されているが、それ以外は鞍部周辺に活動点が
測位されており、季節的な活動域の変化は見られず、極めて狭い範囲で行動しているこ
とが示唆された。
0
0.1
0.2
Kilometers
図 4-8
H21-2 の活動点
106
1月
0
2月
0.1
0
0.2
3月
0
0.2
4月
0.1
0.2
0
Kilometers
0.1
0.2
Kilometers
5月
0
0.1
Kilometers
Kilometers
6月
0.1
0
0.2
0.1
0.2
Kilometers
Kilometers
図 4-9
H21-2 の月別の活動点
107
2. 各個体の行動域
個体 H21-1 の行動域(90%カーネル法)とコアエリア(50%カーネル法)を図 4-10
に、これらの面積を表 4-13 に示した。行動域の面積は 1.88km 2 、コアエリアは 0.45 km 2
であった。行動の中心は、出合滑付近および郭公岳周辺であった。
個体 H21-2 の行動域(90%カーネル法)とコアエリア(50%カーネル法)を図 4-11
に、これらの面積を表 4-13 に示した。行動域の面積は 0.77km 2 、コアエリアは 0.02 km 2
と、個体 H21-1 と比較すると非常に狭い範囲を利用していた。行動の中心は、鞍部より
やや大久保山よりの傾斜がゆるやかな尾根上であった。
:行動域
0
0.25
0.5
:コアエリア
Kilometers
図 4-10
0
0.1
H21-1 の活動点および行動域
0.2
:行動域
Kilometers
:コアエリア
図 4-11
H21-2 の活動点および行動域
108
表 4-13
個体 H21-1 及び H21-2 の行動域及び
コアエリアの面積
2
面積(km )
個体番号
*
行動域
*
**
コアエリア
H21-1
1.88
0.45
H21-2
0.07
0.02
**
90%カーネル法による面積
50%カーネル法による面積
3. GPS 首輪の測位率
個体 H21-1 の月別測位点数(表 4-12)より、補正前後で 3D となった測位点は、全体
の 4.0%に過ぎず、非常に低い取得率であった。一方、測位に失敗した頻度は、93.9%
と非常に高く、ほとんど測位できていない状態であった。郭公岳周辺の高標高域を頻繁
に利用していた 6 月の 3D 取得率は、18.3%と他の月に比べ高い取得率を示したことか
ら、全般的に測位率が低かった原因として、出合滑付近は傾斜がきつく、測位時に衛星
を捕捉しにくい地形であったことが考えられる。また、GPS 首輪は、毎年バッテリーを
新しいものに変えて再使用しているため、GPS 本体内部が経年劣化し測位率が低くなっ
ている可能性がある。
個体 H21-2 の月別測位点数(表 4-12)より、補正前後で 3D となった測位点は全体の
16.8%、測位に失敗した頻度は 78.6%と測位率は低かった。3D の測位率は、1 月から 4
月では 20%を超えているが、5 月以降は 10%以下となった。また、図 4-8 の活動点が測
位された地形を見ると、そのほとんどが尾根上であり、人工衛星からの電波を捕捉しや
すい場所であったことがうかがえる。大久保山から鬼が城山にかけての尾根上には登山
道があり、登山客も見受けられる。そのため、シカが大久保山と鬼が城山にかけての鞍
部付近だけを集中的に利用しているとは考えにくく、本来はもっと広い行動範囲をして
いると考えられる。人工衛星からの電波を捕捉しにくい斜面および展葉後の季節は GPS
の測位率が著しく低下し、尾根および冬季に測位された活動点が目立っているとも考え
られる。また、個体 H21-1 と同様に GPS 本体内部が経年劣化し測位率が低くなっている
可能性がある。
平成 21 年度に捕獲した H21-1 および H21-2 はいずれもメス成獣であるが、鳥獣保護区
や特別鳥獣保護区内に生息しており、近年黒尊スーパー林道周辺で行われている狩猟や有
害鳥獣捕獲から免れている可能性がある。これら 2 個体が比較的狭い行動域面積であった
ことは、狩猟が入らない鳥獣保護区等の区域内のシカは、さほど広い行動域を持たず、特
にメス成獣は定住性の強い傾向があることを示唆している。三本杭山頂を中心とする地域
109
において、植生の衰退や消失が進行し裸地化が目立つ今、黒尊スーパー林道周辺の捕獲だ
けでなく、鳥獣保護区等でも積極的な管理捕獲を行っていく必要がある。
平成 18 年度以降のメスジカを中心とした行動追跡により、当地域のシカが定住性の強
い傾向を持つことが明らかになってきた。しかし、年間を通して追跡できた事例がまだ少
ないことから、今後も引き続き行動調査に取り組む必要がある。また、自動撮影カメラに
よる調査から、オスジカの割合も低くない推察されることから、オスジカの行動追跡につ
いても検討する必要がある。
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要約
1−1.三本杭山頂周辺天然林内の固定調査プロット(平成 17 年度設定)において、ニホ
ンジカ(以下、シカ)による剥皮被害調査を継続しておこなった。今年度は 10~11 月
に前年調査時から 1 年間の被害発生状況を調査した。6 プロット合計で、本調査時点ま
でに調査開始当初の全立木本数の 8.1%にあたる 146 本が枯死し、その 70%以上は剥皮
被害木であった。最優占樹種であるコハウチワカエデの調査開始時からの枯死率は約
11%に達した。被害本数率は全樹種の 6 プロット合計で約 30%、コハウチワカエデでは
47%に達している。新規被害(樹幹+根張り)の発生本数率は、6 プロット合計で 8.0%
であり、落葉広葉樹天然林としての衰退傾向は変わっていない。
2−1.シカの影響を排除して植生の回復状況を調査するため、平成 19 年 1 月に天然林内
3ヶ所にシカ排除実験区を設定した。シカ排除柵内および柵外林分において設定後 3 年
6 ヶ月経過時の枯死木および新規剥皮被害の発生状況を調査した。平成 20 年度まですべ
ての柵内、柵外調査区で発生していた枯死木は、3 調査区(柵外 2、柵内 1)のみで発生、
6 ヶ月間の枯死率は全立木の 0.7%にとどまった。すべての柵外調査区で継続的に新規
被害が発生し、特に実験区 No.1、No.3 において多くの被害が発生した。
2−2.シカによる林床植生への影響を調査するため、3 カ所に設置したシカ排除実験区に
おいて、排除柵設置から 3 年間経過後の柵内および柵外のミヤコザサ、草本、樹木稚樹
の再生状況を調査した。その結果、ミヤコザサや一部の草本類では顕著に増加したもの
がみられた一方で、コハウチワカエデやアカシデの様に稚樹発生数は多いものの消失も
激しく柵の効果が判然としないものに分かれた。消失の激しい稚樹については、ササの
優占度合いに関わらず消失していることから、林床が暗い環境での定着が難しいことが
要因と考えられる。また、実験区 No.3 では、ミヤコザサが急激に成長しており、ここ
では、本来の更新阻害要因として機能していると考えられた。「たるみ」ではミズメ、
リョウブなどの稚樹が柵内のイワヒメワラビ群落内で多く発生、成長しており、これも
シカ排除柵の効果と見ることができる。
3−1.平成 17~21 年度に引き続き、同一の調査区画で糞粒法によるシカ生息密度推定調
査を実施した。その結果、12.84 頭/km 2 の生息密度が推定された。昨年度の推定結果 16.54
頭/km 2 からさらに低下し、平成 19、20 年度の推定結果(24 頭/km 2 、23 頭/km 2 )から引
き続く山頂付近の利用度の低下傾向が明瞭となった。しかし、依然として自然植生に大
きな影響を引き起こす高いレベルの生息密度であった。
3−2.自動撮影カメラによる調査では、昨年までの冬季(12 月)の調査に加え、9 月およ
び 10~11 月にも調査を行った。その結果、秋季の繁殖期にはオスジカが多く撮影され、
また冬季には見当たらないコウモリなど、従来の冬季のみの調査では撮影できなかった
ものが多く撮影されていた。
111
3−3.シカの行動追跡調査では、シカ捕獲区域内において新たに 2 頭のメスジカに GPS
首輪を装着した。また、昨年度に GPS 首輪を装着した個体から GPS 首輪を脱落回収した。
回収した GPS 首輪から測位データを回収したところ、滑床渓谷で GPS 首輪を装着した個
体(H21-1;メス成獣)は得られた測位データが極めて少なかったが、主に 6 月は高標高
域に移動し、それ以外の季節は出合滑の比較的標高の低い場所を利用していた。イノシ
シのコルで GPS 首輪を装着した個体(H21-2;メス成獣)は、大久保山と鬼が城山の間の
鞍部を集中的に利用していた。両個体とも行動域の面積は広くないため、鳥獣保護区内
のメスは定住性が強い傾向にあることが示唆された。
112
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