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卓上ガスタービンの開発

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卓上ガスタービンの開発
平成 25 年度
修士論文
卓上ガスタービンの開発
指導
筒井
教員
康賢 教授
高知工科大学大学院
知能機械システム工学コース
筒井研究室
1165021
学生番号
岩浅
1
僚
目次
第1章
序論
1.1
1.2
1.3
1.4
第2章
研究背景
研究目的
ガスタービンについて
ガスタービンの紹介
卓上ガスタービンの製作
2.1
2.2
2.3
ガスタービンの基本計算
要求される性能
圧縮機(ファン)の製作
2.3.1 ファンの設計
2.3.2 ファンの製作
2.3.3 ステータの製作
2.4 タービンとノズルの製作
2.5 燃焼器の製作
第3章
組立
第4章
実験
第5章
結論
謝辞
参考文献
参考資料
2
第1章
序論
1.1 研究背景
現在,発電所や航空機のジェットエンジン等に使用されているガスタービンだが,稼働
中のガスタービンは羽根が高速回転で回っており,高温で騒音も激しいため近づくことが
出来ない。小型なガスタービンには,非常時の発電用に使用されているダイナジェット(図
1.4.2)があるが,これは騒音対策などのために厳重な筐体に納められており,その構造を知
ることは出来ない。そのため,生活に欠かせない物となりつつあるガスタービンは一般の
方だけではなく我々のような理系の学生にとっても身近な物とはなっていない。大学の講
義では,サイクルについて学ぶ機会はあるが,小型のガスタービンを見る機会もない
そこで,小型,低温,構造が分かりやすいガスタービンが作れないかと考えた。
1.2 研究目的
本研究の目的として,
「小型」,
「低温」
,
「構造が分かりやすい」の 3 つの点を考慮したガ
スタービンを製作する。大きさが小さければ様々な活用法があると考えているので,出来
る限り「小型」に重点を置き,机の上で運転できるサイズにする。これらの内容を満足す
る物が出来れば,実際のガスタービンを用いた遊具や大学や高校の教材や,簡単に製作で
きる事が分かれば中学,高校生向けのガスタービンの製作コンテストなどを行えるのでは
ないかと考えている。また,このようなイベントでガスタービンへの関心が高まり,ガス
タービンに関わる技術者が増えることを期待している。
1
1.3 ガスタービンについて
ガスタービンとは図 1.3.1 に示すように,
まずは吸入した気体を圧縮機で高圧力に圧縮し,
これに燃料を注入して燃焼し,高温高圧のガスを発生させ,これをタービンに導いてター
ビンを回転させる。そして,タービンで生じる動力を外部へ取り出す内燃機関である。圧
縮機とタービンは同軸であり,タービンでの動力と圧縮機の動力の差が出力となる。これ
を回転軸の出力として取り出し,発電機や回転機械等に用いる。また,出力を回転出力で
は無く排気ジェットとして取り出し,航空機の推進に利用するのがジェットエンジン(図
1.3.2)である。
図 1.3.1 産業用ガスタービンの基本構成
図 1.3.2 ジェットエンジンの構成
表 1.3.1 ガスタービンの特徴
長所
短所
・小型軽量で大出力
・高価
・使用燃料の種類が多い
・大気の状態が出力に影響する
・始動にかかる時間が短い
2
1.4
ガスタービンの紹介
ここで世の中にあるガスタービンについて紹介していく。
・産業用大型ガスタービン
左図は三菱重工社製の 1500℃級 G 型ガス
タービンである。四国電力坂出発電所では
このガスタービンに蒸気タービンをつない
でコンバインドサイクルとして利用してお
り,燃料は液化天然ガスを使用している。
燃焼温度は 1400℃,回転数 3600rpm,出力
は約 30 万kW となっている。
図 1.4.1
・小型ガスタービン
図 1.4.2 は研究室にある株式会社 IHI エアロスペース社製のダイナジェットという小型ガ
スタービンである。本研究室では月に一度これを回して充電している。燃料は灯油を使用
している。このガスタービンについての詳細は表 1.4.1 に示す。
表 1.4.1
型式
NMGT-2.6DX
長さ
843mm
幅
420mm
高さ
440mm
重量
65 ㎏
定格出力
2.6kVA
回転数
100,000rpm
図 1.4.2
3
第2章
2.1
卓上ガスタービンの製作
ガスタービンの基本計算
卓上ガスタービンを製作する際に行った計算を以下に示す。
自立運転を達成するために,必要なタービンの入り口温度を求める。
圧縮機の仕事
𝑊𝑐 = 𝐶𝑝
𝜅−1
𝑇1
(𝑃𝑟 𝜅 − 1)
𝜂𝑐
・・・(1)
タービンの仕事
𝜅−1
𝜅 )
𝑊𝑡 = 𝐶𝑝 𝜂𝑡 𝑇3 (1 − 𝑃𝑟 −
・・・(2)
𝑇1
圧縮機入口温度
𝑇3
タービン入口温度
𝑃𝑟
圧力比
𝜂𝑐
圧縮機断熱効率
𝜂𝑡
タービン断熱効率
κ
比熱比
自立運転するためには,タービンの仕事が圧縮機の仕事以上であればよいので,自立運転
の条件として
𝑊𝑐 ≤ 𝑊𝑡
を与える。この条件と式(1)
,
(2)を用いて必要なタービン入口温度を求める。
(Pr
κ−1
κ −1)
T3 =
ηc ηt (1−Pr
κ−1
−
κ )
T1
・・・(3)
この式より,温度比と圧力比のグラフを示す. ここで,圧縮機とタービンの平均断熱効率を
50%から 90%まで 10%ずつ変更させている.
4
自立運転温度比
7
6
温度比
5
圧縮機とタービン
4
の断熱効率
50%
3
60%
2
70%
1
80%
90%
0
1
2
3
4
5
圧力比
図 2.1.1 自立運転するための圧力比・温度比
次に,実際に常温(20℃)を圧縮機に流入したときのタービン入り口温度を求める.これによ
り,実際にタービン入り口でどの程度温度を上昇させれば自立運転するかが分かる.
自立運転温度
1800
タービン入り口温度(℃)
1600
1400
50%
60%
70%
80%
90%
1200
1000
800
600
400
200
0
1
2
3
圧力比 Pr
4
図 2.1.2 圧縮機入り口温度 20℃時のタービン入り口温度
5
5
2.2
要求される性能
卓上ガスタービンでは高圧力,高温は必要ない。先のグラフから分かるように平均断熱
効率が 80%以上のものができれば圧力比が 1 に近いところにおいて 200℃以下で自立運転
することが分かる。本研究では第一段階として 200℃以下を目指し,それが達成できれば最
終目標として 100℃以下を目指す。
実際に製作していくうえで求められることを以下に示す
・ある程度の耐熱
・損失の少ない構造
・圧縮機,タービンのバランス
これらを踏まえて卓上ガスタービンを製作していく。
2.3
圧縮機(ファン)の製作
卓上ガスタービンでは圧力比はほとんど 1 と等しいことから圧縮機を今後,ファンと呼
ぶこととする。
2.3.1 ファンの設計
また,大型のガスタービンでは羽根とボス部が別で作られており,下図のように一枚一
枚取り付ける構造になっているが今回製作するファンは小型であるため,羽根だけを作る
ことは可能だが結合部分を製作するのが難しい。よって本研究では羽根とボス部が一体型
のファンを製作する。さらに,通常,圧縮機は多段でできているが,卓上ガスタービンで
は圧力比が小さいため一段で運転する。
図 2.3.1 タービンブレードの取り付け例
6
ファンの製作する手順として,まずファンの概要を決め,翼弦長,取り付け角,翼厚を
求めていく。
表 2.3.1 卓上ガスタービンの圧縮機の概要
動翼直径[mm]
150
ハブ直径[mm]
75
3
空気の密度[kg/m ]
1.205
羽根の枚数
7
軸流速度[m/s]
10
回転数[rpm]
3000
揚力係数
0.4
迎え角[°]
1.2
圧力比
1.0004
圧力差[Pa]
40.3
ここで表のように値を決定した。まずは 1 つ製作を行い,それについて検討を行い,大
きさ等を変更していく。圧力比は小さいほど低温で回ることが図 2.1.2 より分かるので,圧
力比は小さくした。
次に翼弦長,取り付け角,翼厚を求める。
翼弦長 L
L=
ΔP 1
1
4π 1
𝜌 𝐶𝐿 √𝑈 2 + 𝑉 2 𝜔 𝑁
・・・(4)
ここで,圧力差をΔP,密度𝜌,揚力係数𝐶𝐿 ,軸流速度 U,周速度 V,角速度𝜔,羽根の数𝑁である。
表 2.3.1 の値を代入し翼弦長を求める.求めた結果を以下に示す.
表 2.3.2 翼弦長
r[mm]
L[mm]
75
28.1
70
30.0
60
33.2
50
37.4
40
42.3
37
43.9
ここで中心から翼端までの距離を r,翼弦長を L とする。
7
求めた値を図示したのが以下のようになる。
20
10
0
翼弦長mm
37
42
47
52
57
62
67
72
-10
-20
-30
前縁
後縁
-40
-50
半径方向距離mm
図 2.3.2 圧縮機ブレードの展開図
取り付け角
右の図のように翼列を考えたとき,軸流速度を U,周速を V としたとき,取り付け角θは以
下の式で決まる。
∅ = tan−1
𝑈
𝑉
θ=∅+α
・・・(5)
・・・(6)
ここでαは迎角となる。
式(5),(6)から取り付け角を求めた結果は以下となる。
表 2.3.3 取り付け角
r[mm]
Θ[deg]
75
29.1
70
30.8
60
34.7
50
39.7
40
46.0
37
48.3
ここで中心から翼端までの距離 r,取り付け角をθとする。
8
取り付け角の角度変化をグラフ化したのが以下のようになる。
60
取り付け角[°]
50
40
30
20
取り付け角
10
0
37
47
57
半径方向距離[mm]
67
図 2.3.3 取り付け角の角度変化
翼厚の決定
翼厚を決定するためには翼型を選定しなければならない。今回製作する卓上ガスタービ
ンの動翼は低レイノルズ数の時には,薄翼が性能が良いので薄翼を使用する。
使用する翼型は参考文献[1]より NACA4306 を選択した。
この翼型のデータを参考資料[1]に示す。
9
2.3.2
ファンの製作
CAD データを基にファンを製作していく。ファンを製作するうえで,取り付け角やねじ
りも正確に作ることができることから NC 加工機を使用して製作した。今回使用した NC
加工機と仕様を以下に示す。
Roland の MDX-5000R の仕様
10
まずは発砲プラスチックを加工して翼を試作した。
図 2.3.4 圧縮機の正面図と側面図
側面を見ると翼型形状になっており,表面もボールエンドミルを使用することで滑らかな
仕上がりになっている。ファンは高温にならないので,発砲プラスチックを材料として使
用した。
2.3.3 ステータの製作
ファンによって作られた流れの旋回成分を取るのがステータの役割である。これもファ
ンと同様に本大学にある 3 軸の NC 加工機を用いて製作する。ステータも発泡プラスチッ
クから製作をする。羽根の枚数は加工機で切削できる限界の枚数にしている。
図 2.3.5 ステータ
11
静翼直径[mm]
150
ハブ直径[mm]
75
羽根の枚数[枚]
13
2.4
タービン動翼とノズルの製作
タービンは平成 24 年度の研究と同様にアルミ板を加工し製作をした。全体の設計値を変
更したのでタービンの方も変更した。またノズルも同様の方法で製作した。
今回製作したタービンを以下に示す。
タービン動翼
動翼直径[mm]
150
ハブ直径[mm]
75
羽根の枚数[枚]
7
タービンノズル
ノズル直径[mm]
150
ハブ直径[mm]
75
羽根の枚数[枚]
8
図.2.4.1 タービンノズルとタービン動翼
2.5
燃焼器の製作
昨年までは燃焼器としてロウソクを使用していたが,ロウによる汚れをなくし燃焼中の火
力調整を可能にするためにブタンガスに変更する。以下に製作したガス燃焼管を示す。
図 2.5.1 ガス管の製作
12
製作したガス管はパイプを曲げて制作した物で,燃料はガスボンベから供給している。ガ
スボンベの取り付けはカセットコンロを改良することにより製作し,カセットコンロ本来
の機能によりガスの流量を可変に出来る(図 2.5.2)。ガス管は 2 カ所に設置してある。
図 2.5.2 燃焼器取り付け
13
第3章
全体の組立
これまでに製作した物を軸に取り付けたのが以下のようになる。左から,ファン,ステ
ータ,燃焼器,ノズル,タービンである。
図 3.1 部品の取り付け
アウターケーシングをアクリルパイプで作ることにより,外部から稼働している状態が
確認することが出来る。インナーケーシングは塩化ビニールパイプを用いている。
図 3.2 全体図
14
第4章
実験
実際に製作した卓上ガスタービンの稼働実験を行った。
図 4.1 稼働中のガスタービン
最初に少し軸を回転させることに緩やかではあるが,自立運転をすることが出来る。こ
れの上部にディフューザを付けることにより,回転数の増加が出来た。
図 4.2 ディフューザの取り付け
15
第5章
結論
昨年までとは違う設計値を用い,新たにファンのステータとタービンのノズルを取り付
けることと,ディフューザ効果により昨年度より遙かに高速回転で,自立運転出来る事が
確認できた。さらに昨年からの問題であった,燃料の変更,内部構造の透明化を達成する
ことが出来た。しかし,今後改善する点も多く見つかった。
まず,ファンとステータの材料の変更である。現在は発泡プラスチックを用いているが,
実際に稼働してみると表面が少し溶けてしまっていた。これは,ガスを出してから添加す
るまで時間がかかった時,ガスがファンとステータのある下部に溜まり,点火したときに
ファンの羽根が溶けてしまった。このような損傷が起きないように,当初材料の候補にし
た耐熱性の高いケミカルウッドを用いる事も考えるべきである。
今後、横型にするための軸受けなど構造についても検討すべきである。
16
謝辞
本研究を行うに当たり,本研究全体にわたってご指導いただきました高知工科大学
筒
井康賢先生にこころより深く御礼申しあげます。
本研究を行うに当たりファン製作に関しての基盤を作り,多忙な中,製作,実験におい
てご協力いただいた波多野勇気君,前田莉絵子君,そして研究室の皆さんに深く感謝しま
す。
17
参考文献
[1]H. ABBOTT AND ALBERT E. VON DOENHOFF. THEORY OF WING
SECTIONS(1958),P346
[2]ガスタービン技術継続教育教材作成委員会,ガスタービン教育シンポジウム教材「ガス
タービン」(2010),
18
参考資料[1]
19
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