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韓国朝鮮語教育における「チャット」の活用 - Doors

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韓国朝鮮語教育における「チャット」の活用 - Doors
韓国朝鮮語教育における「チャット」の活用
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韓国朝鮮語教育における「チャット」の活用
松 井 聖一郎
Ⅰ.はじめに
コンピュータの普及と期を一にして、日本ではCAI教育の試みがなされて
きた。そして今日、ウィンドウズというプラットホームの確立とブロードバ
ンドの普及によって、インターネットを利用した教育が普及している。外国
語教育においては英語と中国語を中心に、数々の積極的な試みがなされてい
る。
報告者の守備範囲である韓国朝鮮語においても、これまでに数々のCAI教
材が開発・市販されてきたし、またウェブ上では有料・無料の韓国朝鮮語講
座が公開・提供されている。報告者もまた、Hot potatoesやWebCTなどを利
用して、受講生にインターネットやコンピュータを使った自習教材を提示し
てきた。
CAI教材による語学学習の長所は、反復練習が容易である点や、時間や場
所に拘束されない点など多くある。特に昨今のコンピュータの性能の向上と
マルチメディア関連のソフトウェア、とりわけオーサリングツールの開発な
どはめざましいものがあり、専門のプログラマでなくても画像や音声を含め
た教材の開発が可能になりつつあり、CAI教材を利用した効果的な語学教育
については各分野で大いに期待されている。
しかし、CAI教材には以下のような短所も存在する。
①学習者がある答えを入力した場合に多様な反応が期待できない(択一
式回答は可能だが記述式の回答に対する対応が不十分)
②予想外の入力に対して対応しきれない
③簡単に問題の追加や修正ができない
「言語文化」7-特集号:157−166ページ 2004.
同志社大学言語文化学会 ©松井聖一郎
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松 井 聖一郎
④評価が画一的で面白くない(ほめられる喜びがない)
特に、①②④の点は、学習者が学習意欲を持ち続けるにあたってマイナス
要因として働く。これはテレビやラジオを利用した通信教育とも通ずる部分
であるが、CAI教材の場合、反復練習がその身上であるだけに、学習者はよ
りいっそう反応や評価の画一性に対する不満を感じずにはいられなくなる。
そこで報告者は、ブロードバンド時代になってますます利用されることの
多くなってきたチャットに注目した。
チャットとは、コンピュータ上で文字を利用して(時には画像や音声も含
めて)二人以上の相手とリアルタイムで交信することである。パソコン通信
の時代は特定の「チャットルーム」にアクセスし、そこにアクセスしている
不特定多数のメンバーと会話を楽しむという利用が主であったが、インター
ネットへのインフラが整い、高速にアクセスし接続料も定額制が主流となっ
た今日では、あらかじめ特定の相手を自分のチャッティングソフトに登録し
ておき、特定の相手と1対1、ないしは数人でチャットを楽しむという利用
が主になりつつある。報告者はこの後者の方法を採用し、それを韓国朝鮮語
の授業に応用してみた。すなわち、あらかじめ数人の韓国に在住する韓国人
学生に依頼し、日時を指定してインターネットに接続しておいてもらい、報
告者の担当している学習者と韓国朝鮮語でチャットをする相手になってもら
うというものである。
では、なぜチャットなのか。後でも再び述べるが、チャットは以下のよう
な長所を持つ。
①基本的に外国語(報告者のケースでは韓国朝鮮語)を母語とする人と、
文字を通じて交信するのであるから、反応が画一的でなく、こちらの
問いかけに応じてさまざまな返答が返ってくる。また向こうからもさ
まざまな問いかけがなされ、それに対して返答することを要求される。
とりわけ学習者としては、自分の入力した外国語の問いかけが通じて
いることを相手からの反応によって自ら確かめることができるため、
喜びをもって学習内容を習得することができる。
②日本の大学の一般教養における授業では、学習者は会話力を習得する
までには至らないのが現実である。また外国語の習得も、音声よりは
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文字に依存したものになりがちである。したがって、文字を通じて交
信されるチャットは、日本の大学の一般教養の授業における外国語の
学習者にとって、よりストレスの少ないコミュニケーションの方法と
いえる。
③学習者が十分な外国語の実力を持っていれば、ネイティブスピーカー
と直接会って会話をすることはもっとも有益な方法であろう。しかし
十分に実力が伴わない学習者にとって、相手から投げかけられた問い
かけに対して即座に反応しなければならない直接会話の場合、時間を
かけて返答を考える余裕もなければ、相手の目の前で辞書や会話集を
開いて適当な返答を探すわけにもいかない。結局口ごもってしまい、
ろくに話もできないという結果になりがちである。その点でチャット
はお互いを直接見ているわけではないし、またチャット相手は往々に
して別の作業をしながらチャットの相手をしてくれることが多く、返
答に際して多少のタイムラグが許容される。時には教科書や会話集、
辞書を見ながら、あせらずに落ち着いてチャットの返答を考え、入力
することができる。
④文字を通じて交信するチャットは、交信内容が自動保存されるよう設
定しておくことも可能である。したがってインストラクターが交信し
ている場にいなくとも、後に交信内容をチェックして、ミスタイプや
単語の誤用などのフィードバックを学習者に与えることが容易であ
る。
⑤インターネットに接続できる環境があれば、場所の制約を受けない。
また関係ができれば、お互いが好きなときにチャットによる交信が可
能である。すなわち相対的に時間の制約からも自由となる。
⑥当該外国語だけで充分に意思疎通ができない場合、非常手段として英
語または日本語を混用したチャットも可能である。これはその外国語
の教育的効果としては疑問が残るが、文化理解という側面からみると
それなりに教育的効果があると考えられる。
⑦教室での一般的な授業とは異なる性格の授業であるため、これまであ
まり積極的でなかった学習者の積極的参加が期待できる。
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⑧コンピュータの性能の向上とインフラの整備により、デジタルカメラ
を使用すれば、授業の風景やチャット参加者のスナップをすぐに相手
に送信することができ、チャットをいっそう臨場感のある、楽しい作
業にしてくれる。また実力のある学習者の場合、希望すれば音声また
はビデオチャットへの移行も可能である。
Ⅱ.チャットの実践
以上のような認識に基づいて、報告者は2003年度にチャットを利用して担
当する韓国朝鮮語の授業を行った。その内容を以下に紹介する。
1.使用環境について
チャットのソフトウェアはさまざまなものがあるが、報告者はMicrosoftが
提供している「MSNメッセンジャー」を利用した。報告者が恒常的に使用
しており、使い方を熟知しているというのがその最大の理由であるが、また
日本語←→韓国朝鮮語の切り替えが非常に簡単であるため、韓国朝鮮語を用
いてチャットを行うのにもっとも適していると判断したからである。
コンピュータは、結論から言うと報告者の私物であるウィンドウズのノー
トパソコンを使用した。当初は、大学の情報語学演習室のコンピュータを使
用するつもりだったが、セキュリティ上の問題から情報語学演習室のコンピ
ュータにはMSNメッセンジャーがインストールされておらず、インストー
ルすることも許可されていない。結果としてMSNメッセンジャーがすでに
セットアップされているコンピュータを複数台教室に持ち込んで授業をせざ
るを得なかった。
報告者が勤務している立命館大学では、学生の使用するコンピュータの
OSはWindows2000に統一されており、韓国朝鮮語のソフトウェアとしては
オムロンの『楽々韓国語』というソフトウェアがインストールされている。
したがってこの環境でチャットの実演を行うのが望ましかったのだが、場合
によってはWindows98、あるいはWindows Meのパソコンを使用し、韓国朝
鮮語のIMEもWindowsに添付されている「GLOBAL IME」を使用することも
あった。
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ハングルの入力に際しては、「KS」入力方式を用いた。『楽々韓国語』に
は「Knn4方式」と呼ばれる、日本語のローマ字感覚で入力できる入力方式
も使用でき、学習者によってはそちらを好む者もいたが、汎用性のある
「KS」入力方式を用いた。マイクロソフトが標準でOSに添付している
「GLOBAL IME」もこの方式であるためである。その代わりハングルキーボ
ードや、キートップにハングルのシールを貼り付けたノートブックパソコン
を使用し、学習者に配慮した。
インターネットへの接続については、原則として大学内に整備されている
無線LANを使用した。ただし、後述するように授業時間外の時間に談話室
を利用して実演したこともあり、その場合はPHS回線を利用してインターネ
ットにアクセスしチャットを行った。
なお、授業でチャットを試みた際の出席人数は1クラス15∼20名程度であ
り、彼らはこの授業の実施までに150時間(100コマ)程度の韓国朝鮮語の授
業を受けてきた学習者である。ただし、ハングルのタイピングの練習は報告
者により事前説明を受けたのみで、ほとんどはじめてハングルをタイピング
する状態であった。
2.チャットの提示1
最初に、チャットとはどういうものかを学習者に提示した。あらかじめ無
線LANをセットしたPCを教室に持ち込み、プロジェクターに接続して、報
告者と韓国人とのチャットを授業中に行って見せた。なお、チャットの即時
性をできるだけ学習者に体験させるために、相手の発言を韓国語→日本語の
翻訳ソフトを用いて翻訳し、その結果も見せたことを付け加えておく。
むね
チャット相手にはあらかじめ授業で用いる旨を伝えておいたため「ソウル
の天気は快晴だがそちらはどうか」「そちらの学生は何人いるか」などと、
チャットの即時性と楽しさを感じられるような質問を投げかけてくれ、多く
の学習者が関心をもって見ていた。ただ、この段階ではまだ学習者は「お客
さん」である。
3.チャットの提示2
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次の授業では、ハングルの入力についての説明を加えた後、報告者がサポ
ートしながら、一部の学習者に実際にハングルの入力を担当させて、韓国と
の間でチャットの実演を行った。
韓国側は新丘大学の学生たちが相手を引き受けて、1人あたり1∼2つの
質問を日本側に投げかけてくれた。こちらはそれに対して返答し、時には韓
国側に質問を投げかける、という形で進めた。
このときに韓国側と日本側でなされた質問には以下のようなものがあっ
た。
・「日本で人気のある韓国人サッカー選手は」(韓国→日本)
・「日本の芸能人を誰か知っているか」(日本→韓国)
・「カメラ機能つき携帯電話を持っている学生の数」(日本→韓国)
・「デジタルカメラを持っている学生の数」(韓国→日本)
・「北朝鮮についてどう考えるか」(日本→韓国)
授業に参加した多くの学習者が関心を持って見ていたが、1時間半の授業
内では韓国側の質問5∼6つに答えるのがやっとであった。また入力の大半
を報告者が肩代わりして行ったため、ほとんどの学習者はやはり「お客さん」
である。
4.チャットの実演1
上記3の授業に参加した学習者のうち、希望者を募って、授業時間外にチ
ャットの実演をした。参加者は3名。談話室で行ったので無線LANは使用
できず、PHS回線を使用。授業外に参加してきた学習者ということで、非常
に積極的にハングルを入力し、チャットに参加してくれた。また上記のチャ
ットのメリットを最大に生かし、辞書や会話集を参照しながら入力した。
韓国側は学生2人が相手を務めてくれ、日本側の学習者の興味にあわせた
話題の誘導を行ってくれた。
このときの質問や会話の内容は以下のとおりである。
・「DVDで『秋の童話』を見た」(日本→韓国)
・「日本映画『呪怨』が公開されるが評判はどうか」(韓国→日本)
・「夏休み韓国に遊びに行く」(日本→韓国)
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・「予定が決まったらメッセンジャーで知らせてほしい」(韓国→日本)
・「韓国の食べ物で食べたいものは」(韓国→日本)
・「日本の食べ物で食べたいものは」(日本→韓国)
・「好きな日本人の芸能人は」(日本→韓国)
5.チャットの実演2
授業中に再度、チャットの実演を行った。このときは学習者20人に対して
コンピュータを3台準備し(実質2台のみ稼動)、無線LANとPHS回線を使
用してアクセスし、チャットを行った。機械や回線の不具合が発生し、参加
できない学習者がかなり発生した。
以下に実際に行われたチャットの一部の記録とその翻訳を示す。Seiichiro
は日本側、Gimは韓国側の発言を示す。下線部は、日本側学習者のミスタイ
プないしは間違いである。
日:こんにちは。
韓:こんにちは。
韓:^^
韓:私は金◇◇です。
日:私はマ○○です。
韓:はい
韓:お会いできてうれしいです
日:韓国の天気はいいですか。
韓:いいえ、雨が降っています。
韓:梅雨が始まったと言われています。
韓:日本の天気は良いんですか。
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日:日本の天気は曇りです。
韓:雨は降っていませんか。
日:いいえ、今降ってません。
下線部はかなりひどいミスタイプではあるのだが、話題から十分内容を類
推できる程度のものであり、韓国側学生の忍耐力のおかげでなんとかチャッ
トが成立した。
Ⅲ.結びに代えて
韓国朝鮮語の授業におけるチャットの利用は、教室で学習した単語や表現、
文法事項などを定着させ、会話へと導いてくれる、教科書と会話の架け橋と
いうことができる。すなわち、学習者のモチベーションを高め、大学におけ
る外国語学習というのは通過儀礼的な苦行ではなく楽しいコミュニケーショ
ンの手段を身につけることであるということを学習者に認識させてくれる、
非常に有効な手段であると報告者は確信している。
しかし、現実にチャットを利用して授業を実施してみると、その短所も明
らかになってくる。以下に列挙する。
①韓国朝鮮語の場合、ハングルのキーボード配列を覚えざるを得ない。
やっとハングルの読み書きができるようになった学習者にさらなる負
担を強いることとなる。
②韓国語ネイティブスピーカーであるチャット相手に負担をかけること
になる。場所の制約は受けないが、こちらの都合に合わせてパソコン
の前に座っていてもらう必要がある。また日本側の学習者の遅い入力
や間違いだらけのハングルに耐える忍耐力を強要することともなる。
③ある程度の設備が必要となる。学習者にそれなりのチャットの機会を
提供するには、最低でも学習者5人あたり1台のパソコンは必要であ
る。30人の授業ならパソコンが5∼6台必要で、しかもそれぞれのパ
ソコンがインターネットにアクセスできなければならない。
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④ ③と関連して事前準備や片付けに時間がかかる。またコンピュータ
やネットワーク上のさまざまなトラブルが容易に発生する。そのため、
90分の授業時間で計画通りに学習者にチャットをさせることは困難を
伴う。ともすれば学習者は非常に無駄な時間を過ごすことにもなりか
ねない。
⑤チャットの記録をチェックし、フィードバックする作業は学習者の人
数が増えるにつれて困難になる。
⑥チャットが上達した学習者が、チャットで友人になった韓国人と日本
または韓国で直接会うということが当然想定されるが、万が一そこで
何らかのトラブルが発生した場合(たとえば、暴力行為が発生するな
ど)、責任を問われるという事態が発生しうる。
しかし、報告者は上記の点についてかならずしも悲観的ではない。
このうち、①∼⑤の点については、外国語学習におけるチャットの有効性
が認識されれば、おのずから解消される問題点であろう。また⑥についても、
チャットを利用した授業、ないしは大学間の交流の有効性が認識されれば、
大学教育で行われるチャットの相手は公式なルートを通じて推薦された学生
に限定されるであろうから、おのずからトラブルも減少するであろう。また
トラブルに対する対策も事前に立てておくことが可能になる。その意味では、
準備段階からフィードバックにいたるまで、もう少し方法などを工夫し、よ
り有効なチャットの活用方法を作り上げる必要があると考える。
日本では、語学教育におけるCAI教育や教材開発が英語や中国語を中心に
盛んである。韓国朝鮮語の分野でもいくつもの大学でコンピュータとインタ
ーネットを使った教育の試みがなされており、また商業ベースの教材開発や
販売も行われている。しかし、それらの教材や教育は、その多くが上に述べ
たような欠点を持つ、「型にはまった」ものであり、モチベーションを持続
させにくいのではないかと考える。こういった既存のCAI教材と、ここで述
べたチャットをシームレスに接木していくことができないだろうか。この可
能性を追求していきたい。
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松 井 聖一郎
Key words: CAI, chatting, Korean language, MSN Messenger, foreign
language, software
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