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Ray レイ Ray レイ

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Ray レイ Ray レイ
Ray レイ
塚本 弘
魂の歌声
レイ・チャールズのすべてといってよい
ほど、完璧にこの天才音楽家の生涯が描か
れている。
何といっても、レイ・チャールズを演じ
るジェイミー・フォックスがすばらしい。
レイと同様に3歳の時からピアノを弾き始
めたそうで、音楽シーンではレイになり切
ってしまったような迫力が魅力的だ。
テイラー・ハックフォード監督は、この
映画の準備に15年かけたとのこと。昨年6
月にレイは73歳で亡くなったが、生前にこ
の映画について相談を受けた際、とにかく
真実を語ってくれと言ったそうだ。まさに
その言葉どおりに、輝かしい音楽的才能の
発揮や数々のヒットといった光の面ととも
に、貧しい時代の苦労、浮気、麻薬など影
の面もあますところなく描かれている。
今の若い人たちには、想像もつかないか
もしれないが、米国の南部地域では、黒人
の差別は激しく、学校、バスなどでは、分
離が徹底していた。1950年代に公民権運動
が起きて、レイも、61年ジョージア州での
公演を人種隔離施設を設けているために拒
否して、大きな騒動になった。そういった
人種偏見の問題もきちんと取り上げられて
いる。
一流の音楽家になるための試練の厳しさ
が印象的だ。ニューヨークでレコーディン
グをする際、レイは懸命に歌うが、ナット
キング・コールなどのまねに過ぎないと冷
たく拒否される。うまいだけの歌手はたく
さんいる、そこを突き抜けた独特の個性が
ないと一流になれない。麻薬に手を染めた
のも、何か激しいインスピレーションをつ
かみたいとの気持ちだったのだろう。
ジャズの即興性もうまく描かれている。
例えば、「ホワッド・アイ・セイ」は、も
う15分ほど公演を延ばしてほしいと言われ
©2004 Unchain My Heart Louisiana,LLC A Universal
Release All Rights
■ 監督:テイラー・ハックフォード
■ 出演:ジェイミー・フォックス、ケリー・ワ
シントン、クリフトン・パウエル、ハ
リー・レニックス、リチャード・シフ
■ 配給:UIP映画
て、とっさに思いついて作られた。簡単な
言葉をいくつも連ねたものだが、聞く人の
気持ちをぐっとつかんでしまう迫力があ
る。ボーカル・シンガーのメアリー・アン
や3人の女性コーラスとの歌のからみ合い
もスリリングだ。筆者は約10年前に、ニュ
ーヨークのブルー・ノートで、レイ・チャ
ールズのライブを聞く機会があったが、彼
が演奏を始めたとたんに、会場全体に輝か
しいオーラが流れ、皆が歌の渦の中に引き
込まれてしまったのが印象的だ。
幼い頃の回想シーンの色合いが、とても
美しい。貧しい暮らしだが、しっかりした
優しい母親と弟との毎日がとても楽しそう
に描かれている。もはや、かなわぬことな
がら、生前のレイに一度だけでもこの幸せ
な映像を見せてあげられたらなあと思う
と、熱いものが胸にこみ上げてきた。
イマージュ エッサンシェル
∼ベスト・オブ・イマージュ∼
オムニバス盤
2,730円/ソニー
リラクシング系のコンピレーションとして高い評価を得ている
クラシックやワールド・ミュージックとクロスオーヴァーした、
『イマージュ』。愛をテーマにした『イマージュ・アムール』、ライ
耳に心に快いトラックが揃っている。きっと日々の慌しさの中で
ヴ音源による『ライヴ・イマージュ』なども含め、これまで6タ
ホッと一息つきたい時の、優しく、頼もしいパートナーになって
イトルがリリース(DVDもあり)されてきたこのシリーズに、待
くれるはず。
望のベスト盤が登場した。
ひところのヒーリング/リラクシング・ミュージック・ブーム
収録されているのは、過去の作品群から厳選した楽曲に新曲も
も、今ではすっかり落ち着いた観があるけれど、そのブームの火
加えた全17曲。セリーヌ・ディオンとの共演で世界に名を馳せた
点け役だったとも言える『イマージュ』の選曲センスには、やは
ヴァイオリニスト、葉加瀬太郎の代表曲で、MBS/TBS系『情熱
り光るものがあり、本シリーズのコンピレーションとしてのクオ
大陸』のエンディング・テーマとしてもおなじみの「エトピリカ」、
リティーは非常に高いと思う。その集大成とも言えるのが本作。
同じくTBS系『世界遺産』でフィーチャーされている鳥山雄司の
世代を問わず、幅広い層に楽しんでもらえる好企画盤だ。
壮大なオーケストラ曲「The Song of Life」
、日本でも人気のチ
ちなみに、4月中旬から5月末まで、参加アーティストが多数
ェリスト、ヨーヨー・マによるNHK「新シルクロード」のオープ
出演する全国ツアーが行われることも決定しているので、興味の
ニング・テーマ「モヒーニー(魅惑)」、そしてあの「♪ダバダ∼」
ある方は、ぜひとも足を運んでいただきたい。
のCM曲をバンドネオン(アコーディオンの1種でアルゼンチ
ン・タンゴの演奏で使用)奏者、小松亮太がドラマティックに奏
でる「目覚め∼ネスカフェ・ゴールドブレンドのテーマ」、さらに
は『冬のソナタ』の主題歌を韓国のピアニスト、アリヤが独自の
アレンジでカヴァーした「最初から今まで」…などなど。
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Shokokai ● 2005.3
鈴木ヒロカズ:広告営業マン、広告制作、エンターテインメント雑誌の編集
を経て、フリーランスの音楽ライターに。現在、『POPEYE』『ぴあ』
『ELLE』での連載をはじめ、雑誌やサイトでのインタビュー、アーティスト
単行本の編集、CDのライナー・ノーツなどを手がけている。
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