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現代中東の地殻変動とその眺望:政治・社会・思想の動態的連関を考察する

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現代中東の地殻変動とその眺望:政治・社会・思想の動態的連関を考察する
研究計画 B02「越境的非国家ネットワーク:紛争と国家破綻」共催研究会
「現代中東の地殻変動とその眺望:政治・社会・思想の動態的連関を考察する」報告
2016 年 11 月 19 日@京都大学吉田キャンパス
文責:佐藤麻理絵(日本学術振興会特別研究員 PD/B02 研究協力者)
2016 年 11 月 19 日、京都大学イスラーム地域研究センター(KIAS)現代中東地域研究・京
大拠点、京都大学科学研究費基盤研究(A)「グローバル化時代に対応する 21 世紀型イスラー
ム学の構築」との共催で、研究会「現代中東の地殻変動とその眺望:政治・社会・思想の動態
的連関を考察する」が開催された。本研究会では、昨今の中東の「地殻変動」の中心に位置す
るシリア、エジプト、イラク、イランをそれぞれ専門にする研究者によって、各地域の変動の
動態が報告された。
冒頭では、小杉泰教授(京都大学)により本研究会の趣旨説明がなされた。人文社会に対す
る社会的圧力に鑑みて、中東地域研究及び現代の人文社会学が担うべき役割に言及し、21 世紀
型イスラーム学構築の必要性が指摘された。そのためには、政治・社会・思想の動態的連関を
考察するという、多様なスペクトラムの中で事象を見る、また追求することの重要性が指摘さ
れた。
続いて、黒田賢治研究員(人間文化研究機構・国立民族学博物館)より、最新のフィールド
調査のデータを元に、イランのシリア紛争介入についての社会動態及び政治分析が行われた。
シリア国内に点在するシーア派の聖所防衛としてのシリア紛争介入の側面が指摘され、その中
で「殉教」が分析概念として提示された。イランでは殉教概念が政治的操作の元で公共空間へ
埋め込まれ、政治的言説になったとし、これが現在は差別や暴力の対象となってきた国内のア
フガン難民に対しても用いられ、「偉大なる殉教者」として評価されるに至っていることが報
告された。フロアからは殉教について各地域の事例ともに議論となり、またアフガン人の聖所
防衛のための軍団についてもその指令系統に関する質問のもと活発な議論が展開された。
次に、山尾大准教授(九州大学)は、戦後イラクの政治変動について、イスラーム主義運動
の歴史的展開とイラク国内にて実施された世論調査の結果を用いながら分析した。イラクでは
政治アクターの分裂が顕著である上に、国民の政治不信が世俗派かイスラーム主義かを問わず
に深刻化していることが指摘された。特に、戦後イラクで決定的となった国内組と亡命組の対
立は、政権を安定化することが出来ずに各アクターの競合と分裂が進み、統治するイスラーム
主義の失敗が起きていることが明らかにされた。
エジプトのイスラーム主義運動について、ムスリム同胞団を手がかりに考察を行なったのは
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横田貴之准教授(明治大学)である。現在スィースィー政権下でムスリム同胞団は「テロ組織」
に指定され、非常に厳しい監視下に置かれており、事実上政治活動は停止している。しかしな
がら、社会活動は継続しており、政権側も黙認する状態が続く。政治活動においては「戦略的
撤退主義」の立場をとる同胞団であるが、同胞団の組織構造の基礎を為す社会活動の継続やそ
れを担う従事者の「中道性」から、イスラーム主義は依然としてエジプト社会・政治の重要な
構成要素であることが明らかにされた。アラブの春以降の一連の政治展開を踏まえて、同胞団
の思想の変化など、現代エジプトにおける政治・社会・思想の往還をどのように考えるか、質
問と議論が活発に行われた。
最後の報告は、アラブの春以降「メルトダウン」する中東政治をどのように捉えるのか、そ
の枠組みを提示する試みであった。末近浩太教授(立命館大学)は、社会科学における Why と
地域研究における What の関係を示した後で、自身の著書『現代シリアの国家変容とイスラー
ム』を元に、What をめぐる仮説の提示、実証の展開の意義について論じた。その議論を踏まえ
て、2011 年からのシリア紛争における様々な現象を著書で用いた 3 つのキー概念から説明し、
通常想定外とみなされがちの「アラブの春」やその後の「メルトダウン」が「現代シリア」の
固有性に鑑みた場合、決して想定外とは言えないことが示唆された。最後に基礎研究としての
地域研究の可能性に言及し、そこでは、What の問いを追求することで個別の現象についての
Why の問いをより意義あるものにできると述べられ、地域研究の手法においてテクストとコン
テクストを組み合わせて地域の内的論理を理解することの重要性が再度強調された。社会科学
と地域研究の建設的な関係構築については、What の問いの根源的な意義について質問が出た他、
地域研究における方法論について活発に議論が展開された。
本研究会は、現代中東の地殻変動を論じる上で欠かせない国々の政治・社会・思想について、
フロアからのそれぞれの専門の視点からの質問と合わせて、これらの動態的連関についての議
論が深まり、現代中東研究の更なる発展を予見させるものであったように思う。
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