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利他的行動・博愛 - Info Shako
「協力行動の進化」 進化ゲーム理論からのアプローチ キーワード 筑波大学大学院システム情報工学研究科 秋山 英三 利他的行動 群淘汰 血縁淘汰 血縁度 利己的遺伝子 繰り返し囚人ジレンマ オウム返し戦略 互恵性が成立する条 件 四枚カード問題 エコー効果 N人囚人ジレンマ 2 ダーウィンが解決で きなかった大問題 利他的行動・博愛 人間の親の子に対する 自己犠牲・献身 ハチ・アリの自己犠牲 ハチの一刺し 働き蜂は不妊 http://www.carolinabees.com/media/img/main/honey-bee-queen-00.png 1960年代までの主流だっ た考え方 グループ淘汰(動物行動学者 コンラート・ローレンツ) 種族保存のために自己犠牲 を行うための遺伝子(みたい なもの)がある 有名になった例(やらせ・・):北欧 のレミングの「集団自殺」 進化の理論 人間・生物は進化の産物 である 生きること=適応度を上 げるための 競争 人間社会、生態系のあち こちで自己犠牲を伴う利 他的行動が見られるのは なぜだろう? 3 4 1964 進化の理論の革命: 血縁淘汰 (ハミルトン) 血縁者は自分と同じ遺伝子 を持っている 血縁者への自己犠牲 自分の遺伝子を後世に残 すことができる可能性 個体レベルでなく、遺伝子レ ベルで進化を考える http://notexactlyrocketscience.files.wordpress.com/2006/09/dna_overview.png?w=79&h=204 6 1 「血縁度 r 」 ・・・同じ遺伝子を共有する確率 「血縁度 r 」 ・・・同じ遺伝子を共有する確率 人間など2倍体の生物の場合 親と子の血縁度は0.5 兄弟との血縁度は0.5 父親経由の血縁度 +母親経由の血縁度 子1父子2 1. 2. – 父 子1の半分の遺伝子を 父が持つ (0.5) 父の半分の遺伝子を 子2が持つ(0.5) 0.5×0.5=0.25 1. 子1母子2 母 1. 2. – 2. 子1の半分の遺伝子を 母が持つ (0.5) 母の半分の遺伝子を 子2が持つ(0.5) 0.5×0.5=0.25 子1子2 ・・・0.25+0.25=0.5 血縁度の求め方 3. – 配偶者間に血縁がないと仮定 親子の血縁度が0.5の場合を例に 共通の祖先までの系譜を書く パスの長さがL個なら (0.5)L パスが複数あるなら、全てのパスの確率を 足す 兄弟の例を再確認 7 8 包括適応度(inclusive fitness) 血縁度:例題 祖父と孫の血縁度は? 答え 0.25 従兄弟との血縁度は? 答え 0.125 自分の適応度 - 利他的行動のコスト + 血縁者の適応度変化に関わる項 I=w- c+br w :自分自身の適応度 c : 利他的な行動を行うコスト b : 相手が受ける利益(相手の適応度の上昇) r : 自分と相手との血縁度 遺伝子を共有している人(b)の適応度が上がると(r) が大きいと、自分の適応度も上がる 9 ハチの例 血縁淘汰 ワーカーは全部メス I = w - c + b r (自分の適応度 + 血縁者の適 応度) b:相手の受ける利益、r:血縁度、c:コスト ハミルトン則 10 ハチは半倍数体 包括適応度が増えるとき利他的行動は広 がる b r > c なら利他的行動は広がる 血縁淘汰 11 ただし不妊 女王蜂に一方的な献身 メス 受精卵から ・・・染色体が対になって る オス 未受精卵から ・・・染色体が対にならな い 12 2 ハミルトンにはじまる革命(1960年代~) ハチの場合 親子 ½, 姉妹 ¾ 娘1父娘2 1. 2. 2. 父 母 娘1の半分の遺伝子を父が持つ (0.5) 父のすべての遺伝子を娘2が持つ(1.0) 0.5×1.0=0.5 名付け親: リチャード・ドー キンス (1976) 「淘汰の単位は「個体」では なく「遺伝子」である」 娘1母娘2 1. 「利己的遺伝子」説 父が一倍体 血縁度 娘1の半分の遺伝子を母が持つ (0.5) 母の半分の遺伝子を娘2が持つ(0.5) 0.5×0.5=0.25 娘1娘2 ・・・0.5+0.25=0.75 姉妹である女王蜂に尽くすの も遺伝子レベルから見ると合 理的 遺伝子淘汰 「個体レベルで利他的に見 える行動も、遺伝子レベル では純粋に利己的な行動」 13 14 ハミルトンにはじまる革命(1960年代~) 「利己的遺伝子」説 例) 1. 2. 遺伝子を共有する自分の子供への献身は、自 分の遺伝子を後の世代に残すことに役立つ。 自分の姉妹を産む女王蜂を助ける働き蜂は、 自分で生殖しようとする個体よりも多くの遺伝 子コピーを次の世代に残すことができる。 では、血縁がない者の間 の協力行動は? 特に人間に見られる 個体・個人は、集団のために行動するわけ でもなく、個体のために行動するのでもな い。遺伝子の利益のために行動する。 15 囚人ジレンマ おたがい協力してい たら、懲役2年で すんでいたのに・・・ あ な た の 戦 略 「自分の利益」と 「みんなの利益」と どちらを選ぶかで、 相棒の戦略 ジレンマ 協力 (自白しない) 裏切り (自白する) -2, -2 -7, 0 0, -7 -5, -5 左:あなたの利得 右:相棒の利得 囚人ジレンマゲームの結論 解は「二人のプレーヤーの裏切り合 い」 裏切り (自白しない) (自白する) 協力 囚人ジレンマで協力は無理? 人間や生物は、協力することもあ る・・・なぜ? 現実の人間関係は、一回きりでは終 わらない。また、様々な人とつきあう 集団で、繰り返し囚人ジレンマゲー ムの総当たり戦をするとどうなる? にわかには分からない 実験! 3 進化ゲーム理論による分析 進化ゲーム理論による分析 アクセルロッドの「繰り返し囚人ジレンマ」 アクセルロッドの「繰り返し囚人ジレンマ」 「繰り返し 囚人ジレンマ」のコンテスト ( R. Axelrod 1980) 様々な分野の研究者に、繰り返し囚人ジレンマを戦 うための、コンピュータープログラムを募集した 総当たり戦で総得点を競う 「オウム返し戦略」が優勝 (4行のプログラム!) 1. 2. 最初は「協力」する 2回目からは、「前の回に相手 がとった行動」をマネする。 協 裏切り 力 次は 次は 協力! 裏切り 19 オウム返し戦略の強さ 裏切り者 (1)自分から は裏切らない 協 裏 裏 裏 (2) 裏切られたら すぐに制裁する。 裏 搾取されない。 協 協 協 協 協 協 協 裏 裏 裏 キーワード 互恵性(お互いに恵みあう) 今日はあなたに協力します。 明日はあなたが私に協力してくれるでしょ う。 (3) 協力的な人 とは、協力して 協 得点を稼ぐこと ができる オウム返し戦略に よる協力の発生: 例 20 互恵性の進化(ゲーム論+進化論) 第一次世界大戦、塹壕戦の歩兵の行動 長期間の対峙のあとにできた暗黙のルール 自分たちの部隊が現在の標的になっていない限 り、おたがい、相手には発砲しない。 (オウム返し戦略!) 相手の食事の邪魔になるような攻撃はしない 集団内で繰り返し相手とつきあうような状 況では、 互恵的な戦略が進化できる その結果、協力的な社会になる可能性があ ることが(制約条件つきだが)数学的に証明 できる。「進化ゲーム論」 「お互い恵みあう」メカニズムが進化しう る! 4 A A B B 進化ゲーム理論による分析 A -1 -1 B 7 -6 A -6 7 B 5 5 「オウム返しの協力」は世界に広がるのか? 進化ゲーム理論による分析 2. A -1 -1 B 7 -6 A -6 7 B 5 5 「オウム返しの協力」は世界に広がるのか? 前提:現実世界のように: 1. A A B B 相手の前回の行動を考慮する戦略 オウム返し戦略が「進化的安定戦略」であること が証明できる。(宿題) 様々な相手と、繰り返しつきあうと仮定(終 わりがない) 人間・生物が適応的に振る舞うと仮定(学 習・進化) (1)全て裏切り (2)オウム返し オウム返し戦略により、協力的な社会が形成さ れ、安定化されうる! カギとなること = 「オウムは、個々の対戦では、ほ とんど勝ちも負けもしない。総合得点で勝つ」 全て A-A(利得の時間平均は?) 1回目以外はA-A(利得の時間平均は?) すべてB-B(利得の時間平均 は?) 25 26 オウム返し戦略の特徴 1. 2. 3. 4. 問題 上品さ(最初は協力する) 短気さ(やられたらすぐやり返す) 1. 寛容さ(相手の協力にはすぐに協力で答 える。それより過去は問わない) 分かりやすさ(シンプルである) 2. A B A -1 7 B -6 5 ALLA(常に裏切り), TFT(オウム返し) を2戦略として、 2戦略対称ゲームの利得表を作成しなさい。ただし、 繰り返し回数は n (自然数)とし、利得は全繰り返しの 合計得点とする。(黒板で簡単に説明します) ALLAがESSであることを証明しなさい。 27 問題(続き) 3. 4. A B A -1 7 B -6 5 時間構造:適応のダイナミクスの一つ 「レプリケータ(複製子)ダイナミクス」 TFTがESSであるための n の条件を求めなさい。 TFT のpopulationの頻度が p とする。TFTの期待利得 がALLAの期待利得を上回るための p の条件を求め なさい。 28 (問題を解いたら、たとえば、n=10の時、どのくらいの値に なるかを自分で計算して確認してびっくりすること。) 29 dxi /dt = xi [ [Ax] i – (x, Ax) ] 純粋戦略の集合 I = { 1, 2, …, n } 純粋戦略の頻度のベクトル x = (x1, x2, …, xn ) (Σxi = 1.0 ) 適者生存を微分方程式の形で表現(突然変 異は考慮されていない) 30 5 互恵性が成立する条件(1) 「適応」のダイナミクスを見ると・・・ (以下、レポート問題で確認せよ) Point 1:繰り返しの回数 1 0.8 dxi /dt = xi [ [Ax] i – (x, Ax) ] 0.6 Point 2:つきあう相手の多さ コンピュータでの 進化シミュレーション 0.4 「常に協力」戦略 協力に応じる人がグループに尐しでも居れば、オウ ム返し戦略が広がりうる。 0.2 0.5 1 1.5 2 2.5 3 「人口の割合」の変動(横軸は進化の「世代」) 繰り返しの回数が大きくなればなるほど、(オウム返 し戦略による)協力者が有利になる。 まわりにオウムが多ければ多いほどオウムは得する まわりに裏切り者がたくさんいても、裏切り者は得しない。 逆に言うと、上記2条件が充分に満たされないと、 相恵利他に基づく協力を形成するのは難しくな る。 31 32 互恵性が成立する条件(2) プレーヤーの能力 プレーヤーの能力(1) 個体・個人が、社会の構 成員をお互い認識できる 能力。 お互いの過去の行動をあ る程度記憶できる能力。 実は、人間以外の動物では、それほど簡 単に例が見つかるわけではない 比較的高度 トゲウオは、個体認識と対戦成績の記憶を 行っていることが確認されている。(Milinski and Dugatkin (1987, 1991)) しかし、チスイコウモリの例も含め、これらの 例は、ある意味、Axelrodの発表のあと、探し 回って見つけた例。 33 34 プレーヤーの能力(2) 互恵性を支える能力 親切にしてもらった人には何となく親切 にしないと申し訳ない気がする・・ 人間社会ではありふれた概念・習慣: 「義務」、 「借り」 、 「好意」 、 「交換」 、 「約束」 などが成立するのは、実は、そ れなりの能力が必要 チスイコウモリの大脳新 皮質は、コウモリの中でも 特に大きい。 人間の脳 Triune Brain model 35 小脳・大脳基底核 36 6 互恵性が成立する群れの大きさ 霊長類と食肉類 互恵性が成立する群れの大きさ(2) 大脳新皮質の大きさ vs 群れの大きさ 新皮質の割合と社会集団 の大きさの間に強い相関 (Dumber1992) 人間の認知能力に適した 社会集団の大きさ 大脳新皮質の大きさ vs 群れの大きさ 約150人らしい 大都市の人間関係が索 漠とする原因? 37 38 四枚カード問題 四枚カード問題 参考) http://homepage1.nifty.com/NewSphere/EP/b/psych_cards4.html 文脈をあたえるとどうなるか ウェイソンの選択課題 (認知心理学) A 3 D 6 アルファベットと数字が裏表の4 枚のカード 【母音のカードの裏はいつも偶 数】がホントだと確認するには最 低どのカードをめくればいい? よく間違える 【「18歳未満は飲酒禁止」に違 反していない】ことを確かめる にはどのカードをめくればい い? ほとんど正解する 記号でなく、文脈があればい いのか? 16 ビ 20 歳 ー 歳 ル を 飲 む 人 コ ー ラ を 飲 む 人 参考) http://homepage1.nifty.com/NewSphere/EP/b/psych_cards4.html 39 40 進化心理学 四枚カード問題 「人間の裏切り者探知能力」 コスミデスの実験 「社会契約の文脈」を入れると正答 率が上がる 「額に入れ墨がある人しかキャッサバ を食べてはならない」というルールの 場合? 「キャッサバを食べるのなら、入れ墨 をしていなければならない」といった規 則を破っている人がいないかどうか? を探すのが人間は得意 「オウム返し戦略」の問題点(1) キ ャ ッ サ バ を 食 べ る モ 墨三 ロ が頭 の あの 実 るワ を シ 食 の べ 入 る れ 墨三 が頭 なの いワ シ の 入 れ 「現実のプレーヤーは間違える」 「エコー効果」:ちょっとでもゲームにノイズ(出す 手を間違える)が入ると、得点が下がってしまう。 C C D* C D C D ・・・ C C C D C D C ・・・ C = 協力する cooperate D = 裏切る defect(脱走する、離脱する) 一方、「キャッサバ畑の近くにだけ入 れ墨をした人が住む」といった「文 脈」を与えても結果はいまいち。 参考) http://www.kansai-cs.com/yamagishi-2.htm 41 42 7 「オウム返し理論」の問題点(2) 「オウム返し戦略」の問題点(1) ノイズの下では、「寛大なオウム返し」戦略が 比較的強い。(Nowak and Sigmund 1992, 1993) 2人囚人ジレンマでいいのか? プレーヤーの人数が3人以上になる と どうなる? 裏切りに対して、時々、制裁せずに許す。 しかし、裏切りの進入を許してしまう。 他にもいろいろな研究が進行中。(Win-stay Lose-shift 1993) 「最適戦略がなにか?」はさておき、2人ジレ ンマ状況では、互恵的な戦略によりある程度 協調的な社会が実現されることは確認されて いる(進化シミュレーションなど) 43 44 話は戻って 協力の理論の研究の現状 N人囚人ジレンマ Nが増えると「協力が困難になる」というこ とが数学的に証明されている (Boyd&Richardson 1988) どうすれば協力を導くことができる? 1. 囚人ジレンマ自体を避けるしかない? 匿名性の問題が出てくる ただ乗り 2. 同じジレンマ的状況でも、2人ゲームと3 人以上のゲームは根本的に違う 3. ・・・困った。(まだ open problem) なぜ困る? 政府,法制度,税金の役割? コストがかかりすぎる.また,super power が存在しない状 況、たとえば、国と国の間の争いはどうする? 「評判」など、二次的な情報の効果?例)ヤフオク 総当たりでいいの?人間関係のネットワーク構造は もっと複雑では? 様々な方向への発展 解析的手法の限界 45 46 1 0.8 ジレンマ研究の現状 研究の現状 0.6 0.4 様々な方向への発展 解析的手法の限界 実験2のレポート 第1ターンでは、同じグループの人がどのくらい点数を寄付す るか分からなかったので、中間値の3点を寄付した。すると、 他のプレイヤーも同じことを考えていたので 0.2 0.5 1 1.5 2 2.5 3 コンピュータによる数理的分析 (次回紹介) 非線形・空間的な相互作用の 分析 例) 空間構造が入った囚人ジレ ンマの理論 被験者実験・・認知心理学との結合 様々な分野の知見・様々な手法 新しい理論の構築 47 経済“学”の「主体」でなく、現実の「主体」を知る 48 8 Further Reading 一般書 ロバート・アクセルロッド「つきあい方の科学 ―バクテリアから国際関係まで」 パウンドストーン「囚人のジレンマ」 トリヴァース「生物の社会進化」 49 9