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日本建築学会大会学術講演梗概集
(北海道) 2004年 8 月
9207
パラオ・コロールにおける日本委任統治期建築物の現存状況
正会員
同
南洋群島
実測調査
南洋庁
公共建築物
○辻原
今村
万規彦*
仁美**
近代建築
医院
1.はじめに
本稿では,南洋庁が置かれて委任統治行政の中心地で
計画されているコロールからの首都移転後の取扱いは,
あった現在のパラオ共和国コロール州で,日本委任統治
期に建設された建物の現存状況を,現地調査に基づき報
(3)南洋庁観測所
現 在 は , 東 西 の 2 階 部 分 を 増 築 し て Belau National
告することを目的としている。1922(大正 11)年に設置
Museum として使われているが,2003 年8月現在,新館
された南洋庁には地方行政のために7つの支庁が設けら
が建設中であり,その後は保存を目指すとのことであっ
れていたが,コロールには本庁とパラオ支庁が置かれて
た。1929(昭和4)年7月に,この建物の中央部分と1
いた 。なお,当時の用語や呼称をそのまま用いた。
階東側部分が増築された9)。設計者は不明である。
2.調査の概要
現地での調査は,2001 年7月 12 日∼14 日,2002 年7
(4)南洋庁気象台
現在は,社会文化省の幾つかの部局が使用しているこ
月 12 日∼24 日,2003 年8月 17 日∼27 日の三次に亘って
の建物は,1938(昭和 13)年に気象台を創設した以降に
行った。現地では,車や徒歩による踏査,現地の関係機
建設された。設計者は,前述の山下の可能性が高い。な
関での聞き取り調査と資料収集,現地在住の当時を知る
お,2階部分は戦後建て直したのものである。
人々への聞き取り調査などを行い,一部の建物について
(5)電信所の発電室
委任統治期の用途は,電信所の発電室と推測される10)。
1)
は実測調査を行った。
2003 年8月現在は不明であった。
図は,1983 年現在の地図2)を基に,1938(昭和 13)年
建設時期は 1937(昭和 12)年以前である11)。現在は,当
現在の復元地図3)と戦前期にアメリカ側によって作成され
時の姿を留めないほどに増築されて国会議事堂として使
た地図 を重ね合わせ,さらに現地調査結果と日本委任統
用されているが,首都移転後の取扱いは不明であった。
治期の街並みなどが写された数多くの写真などを用いて
4.さいごに
南洋群島における日本委任統治期の建築物に関する調
4)
作成した。ただし,地図は未だ完全なものではない。
3.現存している建築物
2003 年8月現在で現存が確認された日本委任統治期の
査や研究は,未だ不明な点が多い。今後,鋭意,研究を
建物のうち,比較的規模が大きく,かつ実測調査を行う
謝辞:在日本パラオ大使館,オーシャニック・ワイルドライフ・ソサエティ倉
田洋二先生,在パラオ日本大使館小川和美専門調査員ならびに三田貴専門調査
員,山下三長氏ならびに実測の許可をいただいた各機関にご協力いただいた。
なお本稿の一部は,平成 13∼14 年度科学研究費補助金(奨励研究(A)
,若手
研究(B)
,課題番号 13750557)と平成 13 年度(第 39 回)三島海雲記念財
団学術奨励金によった。記して謝意を表する。
ことができた5件について,概要を述べる。
(1)南洋庁パラオ支庁(後の西部支庁)庁舎
現在は,Palau Supreme Court として使用されているこの
建物は,1938(昭和 13)年頃から 1939(昭和 14)年頃
に建てられたと考えられる5)。RC 造の一部地下1階地上
2階である。設計者は不明だが,当時,南洋庁土木課内
の建築行政や設計などを主導していたと考えられる山下
弥三郎6)である可能性が高い。なお,南洋ホテルの車寄せ
(現存)とこの建物の車寄せはデザインが類似している。
(2)南洋庁パラオ医院本館
現在は,Palau Community Collage の Main Office として
使 用さ れ てい るこ の 建物 は ,1931 ( 昭和 6) 年 ない し
1932(昭和7)年頃に建てられたと推測される7 ),8 )。RC
造平屋建てであるが,戦後一時,一部2階建てとして使
用されていた。設計者は不明であるが,同じ南洋庁のト
ラック医院とデザインが類似している。なお,2004 年に
進めていきたい。
<参考文献>
1) 南 洋 庁 長 官 々 房 : 南 洋 庁 施 政 十 年 史 , 南 洋 庁 長 官 々 房 , pp.46 ∼ 56,
1932.7.
2 ) United States Geological Survey : Topographic Map of Oreor ,
United States Geological Survey,1983.
3)小菅輝雄:南洋群島 今昔,グアム新報社,pp.22∼23,1977.5.
4 ) Dan E. Bailey : WW II Wrecks of Palau , North Valley Diver
Publications,pp.16∼17,1977.5.
5)南洋群島文化協会,南洋協会南洋群島支部編:南洋群島写真帳,南洋群島
文化協会・南洋協会南洋群島支部,p.66,1938.10.
6)矢野,辻原,平川:南洋群島における日本人建築技術者について,日本建
築学会大会(関東)学術講演梗概集,F-2,pp.335∼336,2001.9.
7)南洋庁:南洋群島地方病調査医学論文集,第二輯,南洋庁警務課,巻末写
真集,1934.9.
8)吉田清編:日本統治地域南洋群島解説写真帖,研文社,p.8,1931.2.
9)川崎英男:台風発生地南洋群島の気象観測史,測候時報,33 巻,pp.1∼
78,1966.
10) 瀏鉱太 郎: 南洋渡 りある 記, 南洋群 島協会 々報, 208 号 ,pp.3∼ 4,
1965.3.
11)著者不明:昭和 12 年度 大日本帝国軍艦 沖島特別行動記念,発行所不
明,発行年月不明.
Investigation on Buildings in Palau under the Japanese Mandate
̶413̶
Makihiko TSUJIHARA and Satomi IMAMURA
*:熊本県立大学環境共生学部 助教授・博士(工学)
**:アトリエ イマージュ
*:
**:
̶414̶
マラカル
1
日本時代の新波止場
パラオ最高裁判所
0
旭ヶ丘の官舎街
(日本時代)
旧パラオ支庁
(現パラオ最高裁判所)
防空壕の跡
200
N
南洋庁
長官官邸
新国立博物館
気象台
高校
Mobil
灯籠
:現在の建物
:現存する日本時代の鋼製水タンク
凡例
:現存する日本時代の水タンク
:現存する日本時代の門柱
ベラウ国立博物館
観測所庁舎
5
南洋神社の跡
(一部現存,
一部は戦後に整備)
南洋神社の参道の橋
:日本時代の住宅の基礎?
(戦後,その上に上屋を建てているものもあり)
南洋電気の発電所の跡?
南洋神社
の門柱?
日本人墓地
:日本時代の建物跡
:現存する日本時代の建物
社会文化省分館
建設中の気象台庁舎
4
熱帯産業研究所
の官舎の跡
南洋ホテル
の門柱
スペイン教会
現存している日本委任統治時代の建物や基礎などを,ゴシック体で表現している。
注3)未確認情報も含まれている。
注2)
5
4
木工徒弟養成所の官舎の基礎
小学校
南洋ホテル
(車寄せのみ現存)
木工徒弟養成所の寄宿舎の基礎
旧気象台(新庁舎)
(現社会文化省分館)
日本時代の井戸?
TREE-D
モーテル
グランド
木工徒弟養成所
旧観測所(旧庁舎)
(現ベラウ国立博物館)
3
エピソン博物館
日本時代の寮(南洋拓殖)の基礎?
大日本航空
社宅?
南洋庁長官
官邸の門柱
日本時代の建物
旧電信所の発電室?
(現国会議事堂)
パラオ本願寺
注1)「日本委任統治時代」を「日本時代」としている。
日本時代
の井戸?
郵便局
ヤノ
パレイシア
ホテル
WCTC
ショッピッングセンター
日本時代
の灯籠
コロール波止場
Tドッグ
図 パラオ・コロールにおける日本委任統治期の建築物の現存状況
500m
2003年8月現在
南洋拓殖の寮の基礎?
(2002.12撤去)
御木本真珠養殖所
熱帯生物研究所の跡
夕日ヶ丘の官舎街
(日本時代)
コロール
小学校
モービルSS
国立
体育館
グアム銀行
南洋貿易
売店
旧パラオ医院
(現パラオ短期大学)
国会議事堂
防空壕の跡
コロール
州政府
ウィンチ
ェルズ
NECO
プラザ
ハワイ
銀行
御木本真珠
の社宅の跡?
南洋庁の倉庫?
日本時代の
かまど?
2
高松宮の碑
『パラオ公園』
グランド
3
電信所の発電室?(右側)
昌南倶楽部門柱
パラオ
高校
南洋庁
日本時代の共同
炊事場と階段?
南洋拓殖
内務部長官舎?
電信送信通信所?
観光局
武徳殿門柱
パラオ短期大学メインオフィス
HKモーテル
パラオ国際
サンゴ礁センター
1
水産試験場
の倉庫?
南洋庁パラオ支庁
物産陳列所
日本時代のトーチカ
アラカベサン
パラオ医院本館
2
Fly UP