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公務員制度改革、かくあるべし。

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公務員制度改革、かくあるべし。
特集
公務員制度改革、
かくあるべし。
∼各界エキスパートからの提言∼
林 芳正 氏
磯部文雄 氏
水野 清 氏
公務員制度改革の現状
成田憲彦 氏
福井秀夫 氏
中林美恵子 氏
関する会議※が設置され、
政治任用(KEYWORDS参照)の一形態が実
現した。小泉首相は、
これらの新しい仕組みを積極的に活用し、自ら掲
右肩上がりの経済成長が終焉を迎えたわが国では、現在、行政経営
げる構造改革を推し進めている。
の改善や行政効率の向上を目指し、
「官から民へ」、
「中央から地方へ」
内閣の掲げる政策を実現するためには公務員の協力が不可欠である
等のスローガンの下、
さまざまな分野において見直しが進められており、
が、両者のリンケージは円滑に進んでいるのだろうか。わが国の公務員
公務員制度のあり方も俎上に載っている。具体的には、2000年に「行政
制度は、
「 文官試験試補及見習規則」による試験採用開始に端を発し
改革大綱」
(KEYWORDS参照)が、2001年には、
「公務員制度改革大
(右頁・資料2参照)、
大日本帝国憲法においては「天皇の官吏」
とされた
綱」
(KEYWORDS参照)が、
そして昨年末には公務員制度改革を含む
「今後の行政改革の方針」
(KEYWORDS参照)が、
それぞれ閣議決定
されている。
が、第二次世界大戦後に制定された日本国憲法では「全体の奉仕者」
として位置付けられている。
選挙で選ばれた多数党が内閣を形成する議院内閣制を採用するわ
「公務員制度改革大綱」では、能力主義導入と天下り規制を柱とする
が国において、
自らの掲げる政策の実現を目指す内閣と、
全体の奉仕者
改革を2006年度より実施する旨が明記されたが、
労働基本権付与をめぐ
たる公務員の関係をどのようにとらえればよいのか、
議論となっている。
る労働組合との交渉がまとまらなかった。このため、
「今後の行政改革の
方針」では「制度設計の具体化と関係者間の調整を進め、
改めて改革関
よりよい制度とするために
連法案の提出を検討」するとして期限を記さず、
人事評価制度などにつ
いて早期に試行する方針を示した。
現在、
わが国の公務員は約430万人で、
全国民のおよそ3.4%を占める
(右頁・資料1参照)。この巨大な組織をどのように改めればよいのか。ま
内閣機能の強化と公務員制度
た、
検討が進められている憲法改正問題において、
行政および公務員を
どのように規定すればよいのか。
さらに、
外国の制度にいかに学ぶべき
2001年1月6日、明治維新・戦後改革以来の大改革となる中央省庁等
であるのか。各分野のエキスパートにうかがった。
改革(KEYWORDS参照)の一環で、
省庁再編が実施された。これに併
せて、内閣のリーダーシップを強化すべく、内閣府が新設され、副大臣・
大臣政務官が導入されたほか、
政府内外の人材を結集した重要政策に
※ 経済財政諮問会議、総合科学技術会議、中央防災会議、男女共同参画会議の4つ
を指す
KEYWORDS
政治任用[Political Appointment]
行政府の長が官僚機構の主要幹部を指名し、任命すること。アメリカの例が有
名で、大統領が交代すると、大統領府や各省庁の主要スタッフ約3,000人が入れ
替わるとされる。なお、
政治任用者(Political Appointee)
とは、
政権交代に伴い
異動する者で、
その在職が任命権者(大統領や各省長官)の随意による者を言
う。わが国の場合、職員の任命権は各大臣に属するが、任用はメリット・システム
(成績主義)
に基づいて行われ、職業公務員が昇進を重ねて事務次官までのポ
ストを占めるのが通例。
画的に実施される各般の行政改革の指針。国家公務員・地方公務員制度の抜
本的改革を含む行政の組織・制度の抜本改革、地方分権・規制改革の推進等
を柱とする。
公務員制度改革大綱
平成13年12月25日閣議決定。
「行政改革大綱」を踏まえて検討を進め、集中改
革期間に位置付けられる平成17年度末までに公務員制度改革について取り組
む内容を決定したもの。新人事制度の構築、適正な再就職ルールの確立などを
柱とする。
中央省庁等改革
今後の行政改革の方針(新行政改革大綱)
簡素・透明・効率を基本とした行政システムの確立を目指し、
「省庁再編」「
、内閣
のリーダーシップ強化」、
「行政のスリム化」、
「独立行政法人制度の導入」を柱に
進められた一連の改革。
平成16年12月24日閣議決定。行政改革の積極的な推進を目指し、公務員制度
改革については、現行制度の枠内で実施可能なもの(早期退職慣行の是正、非
営利法人への再就職の際の報告、
評価の試行、
人材の確保・交流・能力開発の
推進)
について早期に実行するとした。
行政改革大綱
平成12年12月1日閣議決定。平成17年までの間を一つの目途として集中的・計
04 法律文化 2005 May
資料 1
公務員の種類と人数
資料 2
公務員の種類と人数(人数は原則として平成16年度末)
大臣、副大臣、政務官、大使、行使等
(約400人)
特別職
(約307,000人)
裁判官、裁判所職員
(約25,000人)
防衛庁職員
(約277,000人)
特定独立行政法人
日本郵政公社役員
(約200人)
行政職職員
(約185,000人)
教育職職員
(約300人)
非現業国家公務員
(約303,000人)
公務員
(約4,047,000人)
公安職職員
(約44,000人)
検察官
(約2,000人)
国営企業職員(林野)
(約5,000人)
特定独立行政法人職員
(約69,000人)
一般行政職職員
(約640,000人)
研究職職員
(約2,000人)
その他
(約10,200人)
日本郵政公社職員
(約280,000人)
福祉関係職員
(約430,000人)
地方公務員
(約3,080,000人)
○国家公務員制度
・日本国憲法により公務員の基本的位置づけは「全体の奉仕者(第15条)
」に転換。
・官吏に関する事務は、法律に定める基準に従い内閣が掌理することとされ(憲法第73条)、国家公務員
法が制定された。
・国公法には、各省大臣が任命権者とされ、競争試験による採用を原則とする成績主義原則、法律に定
める要件に合致しなければみだりに解雇されない身分保障の原則、職務を分析しこれに応じて給与を支
給する職務給の原則、政治的行為の制限、
ストの禁止など厳格な服務規制などが規定された。
・採用試験や給与勧告、不服申立に対する審判等を行うため人事院が設置
昭和21年(1946)
昭和22年(1947)
昭和23年(1948)
昭和25年(1950)
日本国憲法公布
いわゆるフーバー顧問団による勧告に基づき国家公務員法制定
2.1ゼネストなど激しい官公労の労働争議に対し、ストを禁止する国公法の改正が行われる。
地方公務員法制定(国家公務員法の内容をほぼ踏襲)
医療職職員
(約7,500人)
税務職職員
(約54,000人)
一般職
(約660,000人)
○明治官吏制度
・官吏は「天皇の官吏」として高い社会的威信を与えられていた。
・官吏は天皇が任命し、天皇からの距離に応じて親任官∼判任官等の身分的区分が設けられていた。
・高文試験や政党政治からの身分保障などの官吏制度が天皇の発出する勅令で定められ、官吏は天皇
のため忠実無定量の勤務に服し、体面維持のための俸給や恩給を支給された。
明治20年(1887) 文官試験試補及見習規則により試験採用が始まる
明治22年(1889) 明治憲法制定
明治32年(1899) 文官分限令により文官の身分保障が定められる
国会職員
(約4,000人)
国家公務員
(約967,000人)
公務員制度の歴史と経緯
教育公務員
(約1,150,000人)
警察・消防職員
(約430,000人)
その他(公営企業職員)
(約430,000人)
○国家公務員法の改正
その後の主な国家公務員法の改正としては次の二つが行われている。
・ILO条約の批准に伴い、使用者側労務管理担当部局として内閣総理大臣が中央人事行政機関に加え
られ、各省人事管理の総合調整や服務の維持等を所管(補助部局として総理府人事局を設置)
・60歳定年制を導入するための改正(昭和60年実施)
昭和40年(1965) 内閣総理大臣を中央人事行政機関に
昭和56年(1981) 定年制度導入(地方公務員法も同時改正)
昭和59年(1984) 総務庁発足に伴い人事局を総務庁に移管
○公務員制度の検討
公務員制度については、臨時行政調査会などにおいて累次にわたる検討が加えられ、各種答申等が出さ
れている。
昭和39年(1964)
第一次臨調「公務員に関する改革意見」
学者・有識者を中心に、公務員の範囲の見直しや一括採用、信賞必罰の励行など広
く議論が行われたが、ほとんど実施されなかった。
昭和57年(1982)
第二次臨調基本答申
財政再建が課題となり、給与勧告が凍結される中で、公務員給与のあり方を中心に人
事院、内閣総理大臣の機能の分担が議論された。
平成9年12月(1997) 行政改革会議最終報告
省庁再編や内閣機能の強化に関連して、人材の一括管理システム、内閣総理大臣
の人事管理機能の強化、内閣官房や内閣府への優秀な人材の確保をはかるための
政治任用の拡大や任期付き採用制度の導入などが提言された。
平成11年3月(1999) 公務員制度調査会基本答申
行政課題の複雑高度化に対応して、能力・実績に応じた昇進、給与の実現など採用
から退職まで各局面における人事管理の見直しが提言された。
平成11年4月(1999) 中央省庁等改革の推進に関する方針
行革会議最終報告、公制調答申を受け、能力、実績等に応じた処遇、退職管理の適
正化などの政府の公務員制度改革を本部決定
平成12年12月(2000)行政改革大綱
信賞必罰の人事制度の実現など公務員制度の抜本的改革の方針を決定
出所:行政改革推進事務局ホームページ「公務員の種類と人数」
(http://www.gyoukaku.go.jp/siryou/koumuin/syurui.html)
出所:行政改革推進事務局ホームページ「公務員制度の歴史と経緯」
(http://www.gyoukaku.go.jp/siryou/koumuin/history.pdf)
公務員制度改革に関する情報源
[公務員と法]
○竹之内一幸、橋本基弘(著)
『国家公務員法の解説』
(一橋出版・2001)
○栗田久喜、柳克樹(編)
『国家公務員法・地方公務員法』
(注解法律学全集第5巻/青林書院・1997)
○斉藤寿『行政改革の憲法学的研究』
(評論社・2000)
○鹿児島重治[ほか]編『逐条国家公務員法』
(学陽書房・1988)
○塩野宏[ほか]編『公務員判例百選』
(別冊『ジュリスト』№ 88)
○「特集・公務員制度改革」
(
『ジュリスト』2002年7月1日号・№ 1226)
○二宮厚美、晴山一穂(編著)
『公務員制度の変質と公務労働:
NPM型効率・市場型サービスの分析視点』
(自治体研究社・
2005)
○日本行政学会(編)
『公務員制度改革の展望』
(ぎょうせい・
2003)
○新藤宗幸『異議あり!公務員制度改革:官僚支配を超えて』
(岩
波書店・2003)
○大河内繁男『現代官僚制と人事行政』
(有斐閣・2000)
○能率増進研究開発センター(編)
『新たな時代の公務員制度を
目指して:公務員制度調査会の基本答申』
(ぎょうせい・1999)
○公務員制度研究会(編)
『公務員制度改革と公務員の意識』
(良書普及会・1999)
○河中一學(編)
『新時代の公務員制度』
(良書普及会・1998)
○片岡寛光『職業としての公務員』
(早稲田大学出版部・1998)
○自治体人事制度研究会(編)
『公務員の成績主義人事管理』
(自治体研究社・1997)
○片岡寛光『官僚のエリート学:
「官の論理」を「国民の論理」に
組み替える』
(早稲田大学出版部・1996)
○老川祥一(編)
『やさしい行政と官僚のはなし』
(法学書院・
1995)
○辻清明『公務員制の研究』
(東京大学出版会・1991)
○佐藤達夫『国家公務員制度』
(第6次改訂/学陽書房・1991)
○マックス・ウェーバー(著)/阿閉吉男、脇圭平(訳)
『官僚制』
(恒星社厚生閣・1987)
[制度改革史]
○秦郁彦(編)
『日本官僚制総合事典:1868-2000』
(東京大学出
版会・2001)
○利光三津夫、笠原英彦『日本の官僚制:その源流と思想』
(PHP研究所・1998)
○広見直樹『日本官僚史!
:驚きのエピソードで綴る官僚たちの歴
史』
(ダイヤモンド社・1997)
○天川晃(編)
『中央省庁の再編』
(GHQ民政局資料「占領改革」
第6巻/丸善・1997)
○岡田彰(編)
『国家公務員法』
(GHQ民政局資料「占領改革」
第7巻/丸善・1997)
○川村祐三『ものがたり公務員法:あらためて公務の原点を考え
る』
(日本評論社・1997)
○岡田彰(訳・解説)
『GHQ日本占領史12 公務員制度の改革』
(日本図書センター・1996)
○岡田彰『現代日本官僚制の成立:戦後占領期における行政制
度の再編成』
(法政大学出版局・1994)
○日本公務員制度史研究会(編著)
『官吏・公務員制度の変遷』
(第一法規出版・1989)
○笠原英彦『明治国家と官僚制』
(芦書房・1991)
○戦前期官僚制研究会(編)
『戦前期日本官僚制の制度・組織・
人事』
(東京大学出版会・1981)
○人事院管理局法制課(訳)
『米国連邦公務員制度改革法』
(人
事院・1979)
○人事院(編)
『国家公務員法沿革史』
(人事院・1969)
[海外事例]
○人事院(編)
『政治任用∼主要国における実態∼』
(人事院・
2004)
○日本ILO協会(編)
『欧米の公務員制度と日本の公務員制度:
公務労働の現状と未来』
(日本ILO協会・2003)
○自治体国際化協会ニューヨーク事務所(著)
『米国における地
方公務員制度』
(自治体国際化協会・2003)
○秦郁彦(編)
『世界諸国の制度・組織・人事:1840-2000』
(東京
大学出版会・2001)
○公務員制度研究会(編)
『諸外国公務員制度の展開』
(良書普
及会・2000)
『欧米国家公務員制度の概要−英米独
○外国公務員制度研究会(編)
仏の現状−』
(社会経済生産性本部生産性労働情報センター・
1997)
○日本公務員制度史研究会(編著)
『官吏・公務員制度の変遷』
(第一法規出版・1989)
[白書、大綱等]
○人事院ホームページ『公務員白書(人事院年次報告書)
』
(http://www.jinji.go.jp/hakusho/f-hakusy.htm)
○同「公務員制度改革が向かうべき方向について」
(http://www.jinji.go.jp/kankoku/h14/pdf/houkoku_
koumuin.pdf)
○人事院「新たな公務員人事管理の実現に向けて」
(
『人事院月
報』2004年9月号)
○Ⅰ種採用試験に関する研究会「Ⅰ種採用試験に関する研究会
報告書」
(http://www.jinji.go.jp/saiyo/honbun.pdf)
○行政改革会議「行政改革会議最終報告」
(http://www.kantei.go.jp/jp/gyokaku/report-final/)
○首相官邸ホームページ「中央省庁等改革」
(http://www.kantei.go.jp/jp/cyuo-syocho/)
○総務省人事局(編)
『公務員制度改革への提言 : 21世紀の公
務員像を求めて』
(大蔵省印刷局・1997)
○公務員制度調査会「公務員制度改革の基本方向に関する答
申」
(http://www.soumu.go.jp/jinji/990518.htm)
○総務省行政管理局ホームページ「行政改革」
(http://www.soumu.go.jp/gyoukan/kanri/suisin_f.htm)
○行政改革推進本部ホームページ「公務員制度改革について」
(http://www.gyoukaku.go.jp/about/koumuin.html)
○同「行政改革大綱」
(http://www.gyoukaku.go.jp/about/taiko.html)
○同「公務員制度改革大綱について」
(http://www.gyoukaku.go.jp/jimukyoku/koumuin/taikou/
index.html)
○同「今後の行政改革の方針(新行革大綱)
」
(http://www.gyoukaku.go.jp/jimukyoku/houshin.html#k
oumuin_suishin)
○新しい日本をつくる国民会議(21世紀臨調)
「公務員制度改革
に関する緊急提言」
(http://www.jpc-sed.or.jp/)
2005 May 法律文化 05
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