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試用期間の労働法的解釈論

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試用期間の労働法的解釈論
試周期間の労働法的解釈論
井
試用期間制度の意義
から停止条件付契約説、解除条件付契約、解約権留保付契約説が展
にみられる予約契約説、さらに、試用期間を労働契約と考える立場
法上の契約理論に基づいて論じられており、労働者の生存権の実現
を目的とする労働法の理念の認識に基づく労働法的価値判断として
の解釈が忘却されているといえよう。この試用期間はまさに労働契
みなされているが、その有効期間やその期間内に試用労働者に何を
期間は、労働契約の有効要件の付款として解約権を留保した期間と
がら、試用期間を採用内定契約における法的性質と同等ないしこれ
基法はもちろんのこと、就業規則、労働協約の適用を認めておりな
また、右のいずれの学説も試用期間は労務の提供があるとして労
約の理解と認識を問うことでもある。
課するかは全く企業の自由に委ねられている。このような試用期間
に準ずるものと解したり、採用内定の延長上の問題として論じられ
試用期間の労働法的解釈論(井上修一)
の法的性質をめぐって論争がある。すなわち試用期間を労働契約と
息の感があるが、法律論としては決着をみていない。そもそも試用
聞してきたといえる。その結果として、 いずれの学説もいわゆる民
試用期間の法的性質
は別個の契約と考える立場からの特別契約説やフランスやイタリア
彦
イ
開されていた。しかし、これらの学説の共通の原点には、試用期
はじめに
上
試用期間の法律関係
め
聞の存在を大前提としてとらえ、これに符合するための法理論を展
じ
試用期間無用論の提言
l
ま
試周期間をめぐる論争は三菱樹脂事件最高裁判決を機に一応の終
四
との観点に立って法理論を展開する結果、本採用までは企業は労働
よって、法的に試用期間は本採用への過程として絶対に必要である
ている感があり、しかも試用期間という労働契約の有効性の付款に
て、採用内定後から入社式までの問、使用者は企業の情報を内定者
調査や思想調査して、これらの総合評価によって決定する。そし
して知的能力を求め、数回にわたる面接によって人物評価し、身元
一般的に企業における採用内定の決定は、厳しい採用試験を実施
教 育 学 部 論 集 第七号(一九九六年三月)
者の適格性判断のための解約権を当然に留保していると解している
し、さらに誓約書の提出を求め、身元保証人を要求して、採用辞令
に送り、内定者から近況報告やレポートの提出を求めたり、研修や
本論文においては、 いわゆる労働法的解釈によって現実の労務提
を交付する。これ以後内定者は労働者として就労するのである。そ
が、この見解は労働法的解釈からすれば容認されないものといえよ
供ありたる時点において、採用内定契約は労働契約としての効力を
して、就業規則等で定められた一定期間の試用期間を経て本採用
合宿訓練を実施する。入社に際して、健康診断を実施して体力判定
有し本採用者となるという立場から論述するであろう。この考え方
(採用内定契約としての労働契約の効力の発生) と な る の が 一 般 的
、
つ
ノ
。
は結論的にいえば、労働法上試用期間は法的に問題とする必要はな
な労働慣行となっている。
は三カ月の試用期間を設ける。試周期間中の者はいつでも解雇でき
一般的に試用期間は、就業規則において﹁新たに採用された者に
いことになろう。しかも、この見解は採用内定から本採用にいたる
現実の労働関係の実態に則しており、労働法的解釈として妥当性を
有すると考える。
る。﹂とか、﹁試周期間中は、本人の人物、性格、能力、健康その他
について、会社が不適当と認めたときは解雇する。﹂、さらに、﹁試
者の、使用者による、使用者の利益のための﹂一雇用慣行であるとい
る過程は、使用者の主導の下に形成された一雇用慣行であり、﹁使用
し三カ月の試用期間を経て本採用されるのである。この本採用に至
定によって労働契約が成立し、入社式後の勤務開始後、 二カ月ない
わが国の企業における労働者採用の労働契約締結過程は、採用内
練の期間としての企業による企業への適応性と能力養成期間とみな
めの期間として考えており、この試用期間は、見習の期間 H教育訓
は、試用期間は、本採用後の職種決定、適正部署への配属決定のた
は、本採用の是非を判定する期間と考え実施されているが、実際に
う。﹂等々と定めている。このような就業規則によれば、試用期間
た、﹁従業員としての採否の決定は、試用期間満了の日までに行な
試用制度の意義
える。これは、わが国の雇用形態である﹁終身一雇用制﹂による一雇用
しているといえる。だから、もし試用期間を本採用のための適格性
用期間中労働契約を解除されなかった場合は本採用とする。﹂、ま
に関する慎重さの現われでもある。
や態様を明確にした実験的労働による評価が当然に要請されること
の有無を判断、判定する期間とみなすのであれば、試用労働の種類
適用を受けず解雇しうるが
使用期間中の者は
のみである。すなわち労基法二一条但書四号の規定によれば、試の
ると、労働者は、採用内定期間の不安定な期間と、さらに実際の労
指揮命令による具体的な労務が提供されており、この試用労働関係
このような試用期間の法的性質として、試用期間中は、使用者の
一四日をこえると一九条の適用を受け
一四日以内であれば、同法一九条の解雇制限の
になる。
務に服した試用期間中も解雇の不安にさらされることになる。この
は、労働契約が成立し発動しており、かかる事実の面と法的な契約
ると定めている。
ような試用期間の法的性質をどのように解するかが労働者にとって
論からして、労基法の適用下にあることは異論のないところであ
以上にみるごとく、試用期間を本採用の是非を判定する期間とす
は生存権に直接かかわる重要な意義を有するのである。
る。ただし、試用契約の法的性質とその効力の発生については論争
がある。
についての事実上の慣行のいかんをも重視すべきことは当然であ
された者に対する処遇の実情、とくに本採用との関係における取扱
規則の規定の文言のみならず当該企業における試用契約の下に雇用
試用期間中における契約をどのように法的に判断するかは、就業
解雇については、合理的理由も予告も必要ではなく、
と解し、労基法二一条但書四号によって、試用開始後一四日以内の
るための実験を目的とする期間の定めのある特別の労務供給契約﹂
期間とは、過去に形成された熟練を評価して採用・不採用を決定す
約ないし無名契約とみなす。山口教授は﹁試用労働関係ないし試用
試用期間の法的性質
る。試周期間の法的性格は、かかる試用期間の制度の趣旨や目的に
の解約については期間の定めのない労働契約と同等に扱われるとこ
﹂の説は試用期間を労働契約とは別個の特別契
照らして法理を展開することが要請される。試用期間をめぐる法律
ろの特別契約と解き、解約に際しては、予告と解約の実質的な理由
特別契約説
論については、労働契約の本質にかかわる問題であり、採用内定の
の存在を必要とすると説いている。さらに、使用の目的を職業的
いて定められているが、労働協約中において定められている場合も
を設けるや否やは自由であり、試用期間は一般的には就業規則にお
わが国における試用期間の制度は、私企業にあっては、この制度
義務は付随的義務と説くのである。
験実施義務としてとらえて、手段としての労務給付義務や賃金支配
用における当事者の基本的な義務を労働者の実験義務と使用者の実
能力の有無の﹁実験﹂ととらえ、労務給付をその﹁手段﹂とし、試
試用期間の労働法的解釈論(井上修一)
ある。法における試用期間にかかわるとみなしうるのは次の規定
一五日目以降
問題と連結した問題として学説、判例上の論争がある。
l
なり、これらの相互の法律関係が問題であり、採用内定契約の締結
内定契約と試用特別契約と労働契約の三つの契約が存在することに
用期間を労働契約とは区別した特別契約と説く点からすれば、採用
用の合理的な面からすれば、企業の一般的実態に則しているが、試
この特別契約説は、試用期間を﹁実験﹂としてとらえる点は、試
以後の数カ月の試用期間を通常の期間の定めのない労働契約に移行
の自由と労基法一九条の免除される法上の特別期間と考え
用期間の修了までの期間とに二分され
約説からすれば、試用期間中の一四日までの期間と一五日以降の試
期間を特別契約とみなす実益は乏しいことになろう。また、特別契
行し、労基法が全面適用されると解するならば、結果的には、試用
教 育 学 部 論 集 第七号(一九九六年三月)
をもって労働契約の成立とみなす学説・判例の通説に対して、採用
すると考えるならば
一五日以後の試用期間を特別契約と解する法
一五日
一四日以内は使用者の解雇
内定を労働契約の成立とみなさない場合、採用内定の法的性質をい
的意義は乏しく、むしろこの場合、試用期間を一四日とすべきが論
旨が明確となるのではあるまいか。
一四日以内であれば、同法一九条の解雇の予
あり、この間も労働法的解釈が当然に要請されるのであって、労基
なされているという事実関係から、この一四日中も労基法の適用が
﹁実験﹂義務とはいえ実際上使用者の指揮命令による労務の提供が
て、使用者の一方的な解雇の自由を認めているが、試用期間中は、
手続が明白であることが要求されることになる。さらに、この説に
否され労働契約の効力を有しないと解する。この説では本採用の
用となり労働契約の効力が発生し、条件成就しなければ本採用を拒
としての適格性評価を停止条件として、この条件成就によって本採
の効力に関する付款とする見解であり、試用期間中における従業員
﹂の説は、採用内定者の試用を労働契約
法二一条但書四号は、
よれば、試用期間中における現実の労務の提供の点を法的にどのよ
停止条件付契約説
告と予告手当の支払の法上の義務を免除したにすぎない。この条項
係の説明が困難であり、結果的に試用期聞を特別な契約とみなし、
一四日以内であれば
て決して許されないというべきである。もし
﹂の説は、試周期間の始期と同時に労働
解約権留保の見解によって説明せざるを得ないであろう。
解除条件付契約説
契約は効力を発生していると解し、従業員として不適格評価を解除
o この説に対しては、解除条件の成就
が、試用期間中は一四日以内であれば解雇は自由であるとするの
の効力が消滅するのであ記
条件とする労働契約であると考え、不適格と判定されると労働契約
さらに、試用期間の一五日目から期間の定めのない労働契約に移
は、法的にも労働関係の実態からも矛盾することになろう。
ば、採用内定中は合理的な取消理由がなければ内定取消はできない
使用者が合理的な理由もなく解雇の自由を認められると考えるなら
うに解するのか、内定契約との関係や、試用期間中と本採用との関
間の一四日以内の解約には合理的な理由も予告も必要ではないとし
また、特別契約説では、労基法二一条但書四号によって、試用期
かに構成されるのかが問題となる。
I
Z
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から、合理的な理由のない解雇を認めることは労働法的解釈からし
2
3
や解雇制限を論じる道もないとの批判や、試用と同時に労働契約
によって労働契約が失効し、試用期間の解約となり、労働者の解雇
から、原判決の上記認定、解釈には、右規則をほしいままにまげて
採用の際の一雇傭契約とは明らかにそれぞれ別個のものとされている
て、上告人は、上告人の見習試用取扱規則の上からも試用契約と本
思うに、試用契約の性質をどう判断するかについては、就業規則
の効力が発生しているが、試用期間中は正規の従業員ではなく、理
いる。また、この説は、労務の提供の実態に則した労働者保護をは
の規定の丈言のみならず、当該企業内において試用契約の下に一雇傭
解釈した違法があり、また、規則内容との関連において、その判断
かる見解であるといえるが、解除条件の不適格性は労基法上の合理
された者に対する処遇の実情、とくに本採用との関係における取扱
論と事実が一致しないとの批判、さらに就業規則において試用にお
的な解雇理由と同等のものでなければ実質的な意味はない。さもな
についての事実上の慣行のいかんをも重視すべきものであるとこ
に理由組断の違法があると主張する。
ければこの説は、停止条件説の条件成就前の労働関係を明らかにす
ろ、原判決は、上告人の就業規別である見習試用取扱規則の各規定
ける適格性の判断により本採用するとの規定との点が問題とされて
ることの意味しかないことになろう。
試用期間を労働契約の成立と解しながら、本採用後よりも使用者は
は解約権留保付の契約であると説く。さらに、解除条件説と同様に
名、配属部署を記載した辞令を交付するにとどめていたこと等の過
の作成をすることもなく、 た だ 、 本 採 用 に あ た り 当 人 の 氏 名 、 職
に本採用しなかった事例はかつてなく、一展入れについて別段契約書
のほか、上告人において、大学卒業の新規採用者を試用期間終了後
広い解約権を有するとの見解や、解約権の行使は自由裁量にゆだね
去における慣行的実態に関して適法に確定した事実に基づいて、本
﹂の説は、試用期間中の労働契約
られるべきではなく、客観的ないし合理的な事由を必要とすると
件試用契約につき上記のような判断をしたものであって、右の判断
解約権留保付労働契約説
か、社会通念上の妥当な判断を必要とする見解がみられる。これ
は是認しえないものではない。それゆえ、この点に関する上告人の
人に対する本件本採用の拒否は、留保解約権の行使、すなわち雇入
らの解約行使の適格性の判断に関する一応の決着を示したのが三菱
﹁本件においては、上告人と被上告人との聞に三カ月の試用期間
れ後における解雇にあたり、これを通常の雇入れの拒否の場合と同
主張は採用することができないところである。したがって、被上告
を付した雇傭契約が締結され、右の期間の満了直前に上告人が被上
この最高裁判決は、留保解約権の行使による解雇は、通常の解雇
視することはできない。﹂
記述のとおり、右の雇傭契約を解約権留保付の雇傭契約と認め、右
よりも広い範囲における解雇の自由が使用者に認められるとした上
試用期間の労働法的解釈論(井上修一)
ヨ
豆
の本採用拒否は一履入れ後における解雇にあたるとし、これに対し
告人に対して本採用の拒否を告知したものである。原判決は、冒頭
樹脂事件最高裁判決である。判決は次のごとく判示している。
4
が目的ではなく、職業上の適格性の判断が主目的となっていること
の労働ではない。すなわち﹁試用期間中は、労働力の使用そのもの
その判断にかかわる試用労働者の労務の提供は本採用労働者と同等
ある。そもそも試用期間は、職業上の適格性判断の期間であり、
のみ許されると判示している。この見解に対して次のような批判が
観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認される場合に
で、この解約権の行使は、解約権留保の趣旨、目的に照らして、客
由と社会通念上の相当性が要求される。またかかる場合においても
は使用者の自由裁量によることは許されず、当然に解雇の合理的理
有無にかかわるといえる。ただこの場合においても、解約権の行使
内定契約締結時に特定、明示した場合にのみ当該能力判定が解一層の
使に関しては、専門的な特殊能力や特別な資格に基づく能力を採用
練の期間といえるのである。だから、試用期間における解約権の行
正配属部署を決定するための見習ないし研修による企業内教育、訓
職業能力や適格性を問うことよりもむしろ本採用における職種や適
第七号(一九九六年三月)
から、当事者の義務は、通常の労働関係に要請せられる義務より緩
いわゆる見習、研修、訓練による技術や専門性は養成しうるのであ
教育学部論集
やかに解すべきである。したがって労働給付義務の内容や責任の程
って、特別に扱う必要もないといいうるであろう。
は本採用後よりも狭い範囲の自由しか認められないことになろう
この見解からすれば、右最高裁判決とは逆に、試用期間中の解約権
用労働関係の解約すなわち試用期間満了時における本採用拒否、試
試用期聞が付款されているが、その実態は労働契約関係である。試
試用期間中の労働関係は、労働基準法、就業規則の適用を受け、
試用期間中の法律関係
度は、本採用の労働者に比して軽いとみるべきであり、本採用の労
働者であれば懲戒事由に該当するとみられる行為でも試用期間中は
これに当らない場合もありうる。適格性の判断に当ってはこの点も
し、また試用労働者と本採用労働者との賃金、労働時間その他の労
周期間中の取消は、期間の定めのない労働契約の解雇と考えられ
考慮に入れるべきである﹂との指摘は傾聴に値するものであり、
働条件の格差も許されるとの論拠を与えることにもなろう。
要求しているが、新卒学生と熟練経験転職者、専門技術者と単純労
ら、解約権の行使については、本採用における解雇と同等の理由を
を有するが、適格性評価に限定される。しかし、
特に試用期間中の留保された解約権の行使はいわゆる解雇と同質性
規定、試用期間中の留保された解約権の法理によって律せられる。
る。よってかかる解雇は、労基法、就業規則における解雇に関する
働者とは同一に論じえない性質のものであり、試用期間の持つ意味
格性評価は、試用期間中と正規の社員とで差があるとは考えられな
さらに、最高裁判決は試用期間中の広い解雇の自由を認めなが
も違ってくるであろう。そもそもわが国の定期採用型における新卒
ぃ。ただ、試用期間中の解雇理由は、この不適格に限定されるので
一般的にはこの適
学生の労働契約締結時における包括的合意を前提とする試周期間は
あって、これ以外の理由による解雇は解雇権の濫用となり無効であ
であり、強行規定であって、 いかなる特約によっても労働条件格差
ところで、試用期間中の賃金に関しては、労基法に規定はない
は差別待遇として罰則の対象となるのである。
ではあるまいか。かくして試用労働関係と労働契約関係は法的にも
が、最低賃金法八条二号において、試用期間中の労働者を適用除外
る。しかし、本採用後における解雇権の濫用とほとんど差はないの
実態からしても区別してとらえる実益は乏しいと考えられるのであ
している。試用の目的を特別契約説のいう実験説や、労働者の適格
性の判断、見習、研修、企業内教育、等々のいづれの見解に立つ場
合でも、試用労働は労働契約上の本旨に基づく労働を目的とするも
いえないし、明示の約定によれば、期間中の賃金請求権を放棄する
務供給契約であり、賃金は約定によりどのように低くとも違法とは
約とみなす説によれば、試用は採用・不採用の実験を目的とする労
差をつけることが許されるのかが問題となる。試用期間を特別契
本採用労働者と同一労働条件となるのか、当事者の特約によって格
ば、試用期間中の労働者の賃金、労働時間、その他の労働条件は、
基準法の適用があるとするのが学説・判例の通説である。しから
り、内定契約による労働契約が発動しているのであって、当然労働
試用期間は、使用者の指揮命令による労務の提供がなされてお
しての労務の提供は労働契約の本旨の内容に基づく労務をいうので
働の対償としての賃金によって生活するものである。賃金の対償と
る。労働者は労働契約の締結によって生存権を確保し、具体的な労
労基法一条にいう﹁労働者の人たるに値する労働条件﹂の実現にあ
者の﹁人間の尊厳に値する生活﹂の実現を目的とする。法的には、
る。労基法を含む労働者保護法は生存権理念を基本原理とした労働
適用下にあり、労働法的価値判断による法解釈が当然に要請され
論としてとらえているのではないか。そもそも試用期間は労基法の
見解は、試用期間中の労働を一般的な民法的な契約概念に立脚した
ず、最低賃金法は適用除外していると考えられる。しかし、かかる
労働基準法と試用期間
ことができるとする。さらに、試用期間中の労働時間には労基法
あるが、試用期間中は労働契約が発動しており、労働者は使用者の
のではないから、労働と賃金との契約上の有償双務契約とはいえ
の適用は認めるが、経営上の必要による時間外協定は適用されない
指揮命令の下で労務に服しているのであって、労基法一 一条の﹁労
労働者の提供する労働力の処分権は使用者に委ねられるのであり、
働の対償﹂としての賃金請求権を当然に有するのである。すなわち
採用労働者との労働条件差別は許されないのであり、労基法は労働
この労働力を実験や見習、研修、企業内教育として使用するや否や
試用期間の労働法的解釈論(井上修二
4コ
者の﹁人たるに値する労働条件﹂の実現を目的とする社会政策立法
しかし、労基法の適用を認めるかぎり、試用期間中の労働者と本
と説く。
る
は使用者の自由である。このことは労働者に無関係であり、労働者
とになり、使用者はこれらの義務違反に対する懲戒処分はできな
務、企業秘密保持義務、企業の信用保持義務、等は制限を受けるこ
教育学部論集 第七号(一九九六年三月)
がその労働力を使用者の処分に委ねているという事実があれば、使
いが民事責任は問うことができる。これに対して試用を労働契約の
上のすべての権利・義務を有することになる。新卒者の場合、試用
用者は労働力の受領義務があり、労働契約上の本旨に従った労務に
わが国では、試周期間は一般に一カ月から六カ月の長期に及ぶの
期間は労働者の適格性を本採用労働者と同等の労務に服しながら判
効力発生とみる説によれば、解約権の留保を除き労働者の労働契約
が通例であり、この間の労働者の生活の保障の観点からすれば、む
断されるのであり、現実には見習や研修、企業内教育の実態を有し
を労働契約の成立・効力の発生とみなす立場からすれば、就業規則
ており、懲戒権の行使になじまないとの見解もある料、試用期間
としての最低賃金法の適用を是認すべきでありかかる立法改正な
の懲戒権の行使を認めることが論理一貫するというべきである。
問中であれ、 いやしくも使用者の指揮命令の下に労務提供あるかぎ
り、反対給付としての賃金詰求権は当然に発生するのは自明の理と
なろう。以上の点から極論すれば、最低賃金法八条二号は労基法一
ある。試用労働関係にあっては現実の労務の提供がなされており、
聞における労働関係は就業規則において定められているのが通例で
次に、試用労働者と就業規則の関係が問題となる。 一般に試用期
味は、組合の自主性、団結自治を守るために使用者の利益代表者の
こともできる。しかし、組合による組合員の範囲の限定の本来の意
において、組合が組合員の範囲を特定し試用労働者を加入させない
によって試用労働者は労組法の全面適用を受ける。ただ、組合規約
する使用者による逆締めつけ条項、さらに、労働協約によって組合
労基法が適用され、就業規則も当然に適用される。就業規則中にお
また、試用労働者をめぐる賃金、労働時間以外の権利・義務につ
員の範囲を限定し、嘱託、臨時工に準じて試用期間中の労働者の組
排除にある。ところが、わが国では、企業別組合を常態とし、ユニ
いて、特別契約説によれば、当事者の実験のための義務を負うので
合加入を認めない例が多い。しかし、本来組合員の範囲は組合の白
いて試用労働者の労働条件を本採用者と区別する定めをする場合
あり、これ以外の労働者に求められる一般的義務としての忠実義
オンショップ協定とこれと引きかえに組合員を企業内労働者に限定
労組法には試用期間中の労働者に関する規定はないが、同法三条
労働組合法と試用期間
きかぎり、試用期間中は使用者の利益に帰するのみである。試用期
賃金法一条の目的からすれば、むしろ試用期間中こそ最低生活保障
しろ憲法二二条、 二五条、労基法一条の立法趣旨から、さらに最低
従事しなくとも賃金請求権を有するのである。
ノ¥
は、労基法に違反することは許されないのである。
一条に反し無効と解すべきが労働法的解釈といえまいか。
2
命や目的を自ら放棄するものであるといえるであろう。だから、労
認めないのは、組合自身が組合法によって保護されている組合の使
内において労務を提供している試用期間中の労働者を組合員として
そもそも労働組合法の一条ないし三条からすれば、現実に同一企業
定めうるものであって、労働協約で限定されるべきものではない。
由かつ自主性に委ねられており、組合自治として組合規約において
求を拒否したことは解雇理由たりえないといえよう。
は許されないであろう。もちろんこの場合、使用者の代替要員の要
者といえども組合の団結活動を妨害するおそれのある業務への就労
にスト破り(スキップ)をさせることになるからである。試用労働
れを是認すべきではない。これを認めることは試用労働者に結果的
者をスト労働者の代替要員として使用できるかの点については、こ
ストライキを実行したとき、使用者はかかる非組合員たる試用労働
の解雇については組合の同意を求めることが必要となるのである。
し、その間その職務を良好な成績で遂行したときに正式採用となる
公務員の採用はすべて法律により、条件付採用期間を六カ月と
公務員の条件付採用制度
働協約において試用労働者を組合員と認めないとの定めがあったと
しでも、組合が試用労働者を組合員として認めた場合は、使用者は
組合に対して協約違反の責任は聞いえないのである。この場合、組
かかる見解は労使の信頼関係における道義上の問題であるとの批判
のである(圃公法五九条一項、地公法二二条一項)。国家公務員は
合と使用者聞において、解雇同意約款が存する場合は、試用労働者
もあろうが、法的には憲法二八条の団結権の保障とこれを具体化す
六カ月の問﹁勤務成績の不良なこと、心身に故障があることその他
と認められる場合﹂に正式採用しなくてもよいのである (人事院規
る労組法の目的の実現からすれば試用労働者を除外することは許さ
また、使用者による試用労働者の組合の結成・加入を理由とする
則一 一ーー四第九条)。かかる条件付採用制度は、公務員の職務の公
の事実に基いてその官職に引き続き任用しておくことが適当でない
解雇その他の不利益な行為は不当労働行為として禁止されている
共性、これに基づく住民への効率の良いサービス、能率性の要求の
間終了時に解雇した事件に対して、裁判所はかかる解雇は不当労働
行為に参加して職場を放棄したことを理由として、使用者が試用期
カ月間の実証によって判断し、当該職員が適格性を欠く場合のその
の受験成績や勤務成績その他の能力と右の公務としての適格性を六
ための上司に対する規律の要請によるものであり、採用された職員
)0
行為であるとして無効と判示したのは妥当である。この場合、試
この六カ月の条件付採用期間中は、正式採用の職員と労働の実態は
職 員 の 排 除 を 容 易 に す る た め の も の で あ る (国公法三三条一項)。
試用期間の労働法的解釈論(井上修一)
ブL
さらに、試用労働者が組合に加入していない場合に、当該組合が
用労働者が組合員でなくても同様の結論となるのである。
(労組法七条一号
この点に関して試用労働者が組合に加入し争議
れないであろう。
3
教 育 学 部 論 集 第七号二九九六年三月)
変わるものではなく、この期間中の職員に対する分限処分について
試用期間の満了と延長
試用期間を就業規則等で定める目的からすれば、試用期間の長さ
は、任命権者に相応の裁量権が認められているが、それは純然たる
自由裁量ではなく、その判断が合理性をもつものとして許容される
は、試用労働者の能力や勤務態度を 評価し、適格性を判断するのに
説判例にいう解雇理由を法定しており、正式採用後の分限と同等に
用拒否は、国公法の分限規定に則ることになり、労基法における学
七八条、人事院規則
一ーー四第九条の規定によるのであり、正式採
であるが、この六カ月の期間中の分限は、国公法五九条一項と同法
この条件付採用期間六カ月は、私企業の試用期間と比して長期間
として六カ月と明記しているが、労基法では試用期間の定めがな
のが妥当である。しかし、試用期間は国公法では条件付任用期間
長 期 の 試 用 期 間 の 定 め は 民 法 九O条 の 公 序 良 俗 に 反 し 無 効 と 解 す る
地位におかれるのであり、適格性判断に必要な合理的範囲を越えた
る解約ないし解雇を認めており、試用労働者はこの期間中不安定な
性質に関する学説・判例のすべてが試用期間中の適格性の有無によ
4
限度をこえた不当なものであるときは、裁量権の行使を誤った違法
必要な合理的な期間でなければならない。しかし、試用期間の法的
亡〉
なものとなる。
4
取り扱われているといえよう。
た用
場期
合間
に中
おの
い地
て方
つ
f木
明記するよう立法措置をとらない限り、使用者に有利な長期の試用
ば、労基法において国公法のごとく合理的な期間(一二カ月なり)を
く、各企業は自由に定めることができるので、試用期間は一カ月か
至付
次に地方公務員の場合は、条件付期間中の者にも労働基準法が適
条
に件
ら六カ月ないし一年と幅があり、合理的な期間の範囲の判定は困難
2
用される。この点に関して労働省基準局は﹁地方公務員法第二二条
さで
である。だから、試周期間を労働者の適格性判断の期間とするなら
そ子
第一項に規定する条件付採用期間は、労基法一二条四号に規定する
引べ
きき
続で
きあ
使ゐ
回の
純然たる自由裁量ではなく、分限事由には自ずから制限があり、客
一般的に試用労働者は、試用期間の満了時において、本採用を拒
者を継続して使用しているときは、労働者の実験義務の黙一不の積極
しての地位を取得する。特別契約説によれば、試用期間経過後労働
否する不適格との認定を受けなければ試用労働者は本採用従業員と
要する﹂との基準を示している。
観的合理的な理由が存し社会通念上相当とされるものであることを
期間を許すことになるのではあるまいか。なお、労基法二一条四
主
と
は 、 労 基 法 二 一 条 た だ し 書 の 規 定 に よ り 、 労 基 法 二O条 の 適 用 が あ
日巴
号 は 試 用 期 間 を 一 四 日 と 定 め た も の で は な く 、 同 法 二O条 を 除 外 す
四宮
る﹂(昭犯・ 1 ・4基 収 六 二 二 七 号 ) と の 見 解 は 妥 当 で あ る 。 教 育
長
官
る規定にすぎないのである。
刀、、ー『
地方公務員の条件付採用期間中の免職に関して、最高裁は﹁裁量の
山試
務
回の
(叫)
的評価があったとして期間の定めのない労働契約が締結されたと擬
制することになる。さらに停止条件説・解除条件説・解約権留保
説によれば、試用労働者が無事に試用期間を経過したときは、解約
権が消滅し、本採用労働者の地位を取得するのである。
次に、試用期間の延長ないし更新は許されるかに言及する。試用
である。
試用期間無用論の提言
私見については本論で一応の論述を試みたつもりであるが、試用
試用期間について、①わが固における労働契約締結過程の実態の
期間について次のごとく提言するであろう。
あるから、この期間をさらに延長することは、労働者により一層の
面、②労働法なかんずく労働者保護法の目的・理念に基づく面、を
す品
に力点を置いているといえるが、期間延長は例外的な場合であっ
(
沼
﹂
て、労働者の利益にかかわる場合、例えば不適格評価の改善を求
一般的に労働契約の締結に際しては、労
なされているかは疑問である。わが国の企業における一雇用の実態
は、西欧諸国とは異なり、
(﹄。
σ
) を一雇用条件として労働契約を締結するという認識はなく、労
使双方ともに特殊な資格や専門性を特定し、労働者の特定の仕事
し
ミ
の取得のためのものであると認識して、契約を締結しているのが実
働契約は、労働条件よりも特定企業の労働者としての固定的な地位
の見解は、試用期間の存在を前提とするものであり、私見は試用期
態である。だから日本における労働契約は労働者の包括的合意によ
試用期間の労働法的解釈論(井上修ニ
間自体の存在を法的に容認しない故に組みすることはできないもの
めるための延長のみが許されると判示してい説。これらのすべて
わが国における労働契約締結過程において労働条件の明示が
不安と大きな不利益をもたらすことになる。試用期間の延長・更新
期間は解約権が留保されており、労働者にとっては不安定な期間で
四
総合的に労働法的価値判断すれば、現実の労務提供の時点すなわち
う必
は、試用期間制度の意義に反するものであり、就業規則に定めがあ
v
いわゆる試用期間開始の時点で労働契約の効力が発生しており、本
の
こ存
の在
よ カf
る場合、労働慣行がある場合、労働者の同意がある場合のいづれに
え
事
るぎ由
採用労働者となると見倣すべきが妥当であると考える。ゆえに、
Z授
おいても原則として許されないのである。これに対して、判例は、
り解
わゆる試用期間の法的性質をめぐる論争の中心問題となっている解
T 正
試用期間の更新・延長は試周期間中に適格性の判断のための十分な
ι社
民与
雇や賃金・労働時間その他の労働条件はすべて正規の従業員と全く
期雇
聞は
機会がなかった等の合理的理由がある場合に認めてい針。この場
日解
平等に扱われるのである。結論的にいえば試用期間無用論となる。
め間
合、延長された試用期間を従前の期間と全く同質の適格性判断の期
三の
次にその論拠を箇条的に列挙するであろう。
従こ
間の延長と解するものが多いが、二回目の試用期間延長は相当な措
前の
に裁判所は期間延長を安易に認め、適格性の有無による解約の是非
要置
でと
あは
るい
とえ
しず
って締結されているといえるのであって、労働者にとって本来重要
件その他において区別ないし格差をつけることは法適用平等の原則
する諸説の見解に立脚する限り、試用労働者と正規従業員と労働条
第七号二九九六年三月)
な意味を持つ職場や職種の決定さえも、特定せずに契約を締結して
から許されないことである。
教育学部論集
おり、使用者に全面的にこれらの決定権を一任しているのが通例で
典型的な付従契約による白紙委任契約として労働契約を締結してい
条件に関するかぎり、使用者の提示する労働条件に同意するという
明することは採用拒否につながる危険性が十分あるのであり、労働
の対価と解しうるのであって、かかる労働力の提供を試用期間中は
う労働の対償としての賃金である。この賃金の法的性質は、労働力
者の生存権の実現に最も直接的にかかわるのが、労基法一 一条にい
の通説であり自明の理であるが、労基法上の労働条件の中で、労働
試用期間中労働者は労基法の適用を受けることは学説・判例
る。この実態からすれば、試用期間は企業による労働者の職種や配
労働契約の本旨に基づく労務ではなく特別の労務と解するのは、市
ある。採用段階において労働者が労働条件について自己の意思を表
属部署の決定過程にすぎず、企業の内部的なことがらにすぎないと
すれば労務の提供ある限り賃金請求権は必然的に発生するのであ
く労働契約理論からは認められないものである。労働法的観点から
民法上の契約理論からは許されたとしても、生存権的基本権に基づ
するのを通例としていることである。新規学卒者は実際上内定決定
の時点で、就職が決定したとして、これ以後他企業への就職活動は
指揮命令の下で労務に服するのであり、企業側はこれを自社の労働
る。さらに採用内定者は、入社式以後労働者意識をもって使用者の
例である。通常は試用期間は就業規則において定められるが、試用
ロから一年の長期に及ぶものもあるが
企業側が自由に定めることができるのであり、実際上試用期間はゼ
労基法には、回公法のごとく試用期間に関する定めはなく、
者として受け取り対応しているのである。この実態を労働法的に判
期間を三カ月と定める場合、この期間の妥当性は明確性を欠く。試
一切しないのが実情であり、この点は企業も十分承知のことであ
断し評価するならば、かかる労務を提供した時点をもって、内定契
周期間の長短は企業の特色や特殊性による適格性とは無関係に定め
しい採用試験を実施して知的能力を問い、面接によって人物評価
ないことから、採用内定契約の締結までに、企業は採用予定者に厳
日本の雇用形態としての終身雇用制によって解雇が容易では
一般的には二 1三カ月が通
約によって成立した労働契約の効力が発生すると解するべきが妥当
られているのが実情である。
る合理的理由はないというべきである。
試用期間中は労働契約関係にあり、現実の労務の提供がなさ
れると認めた上で、労基法、就業規則、労働協約の適用があると解
6
性を有するのであり、この限りにおいて試用期間を付款として設け
る
日本の雇用形態における特質は、新規学卒者を定期的に採用
ぃ、える。
4
5
2
3
し、さらに家庭調査までして、従業員としての適格性を綿密に調査
判例の多くは、試用期間中における企業による不適格性の評
価に基づく解雇に対して、試用期間を考慮せず、
一般的な解雇にお
した上で採用内定決定するのであり、特に新規卒業者に対しては、
ける合理的理由によって判決している。さらに公務員に関する免職
の裁量は純然たる自由裁量ではなく、分限理由には自ずから制限が
あり、客観的合理的な理由があり社会通念上相当とされるものであ
はないといえる。
ば 、 同 法 二 O条 の 解 雇 予 告 な い し 予 告 手 当 を 免 除 し て い る に す ぎ
一般的に解雇の合理的理由と
試周期間が労働協約で定められている場合はどのように考え
るべきかについて言及する。アメリカやフランスでは試用期間は労
同程度を要するから、試用期間中を特別扱いする理由も存しない。
労 働 者 の 雇 用 契 約 に お け る 試 用 労 働 は 、 物 に 対 す る ク lリングオフ
働協約において定められていることを前提としているが、わが国に
あっては労働協約中で定めることは稀であり、
一般的に就業規則中
は、労働法的解釈からすれば同法一条、一一一条、
で定めている。そこで、労働協約、就業規則、労働契約の効力関係
一条に違反するも
のである。さらに一四日という期間の立法趣旨も明確ではないので
が問題となる。労働者保護法では労働者の生存権の確保として労働
なされていないのが実情であり、試用期間経過後は黙示的、自動的
約における労働条件を変更しうるが、この場合、労基法に違反する-
効力が及ぶことになる。就業規則は労基法九三条によって、労働契
契約の締結が決定的意味をもち、実労働の提供において就業規則の
に期間の定めのない労働契約としてとらえられており、試用期間は
ことは絶対に許されない。さらに、就業規則中の労働条件は労働契
なく企業の事情すなわち企業目的の将来の長期にわたる実現の一環
なされていないともいえるが、これは労働者の事情によるものでは
訓練のためのものと考えるならば、労働契約の本旨に基づく労働が
労働協約をあえて規定したことを評価すべきである。そして、かか
ける対等性に関して、労基法の範轄外の集団的労働関係にかかわる
ない。この点は労基法二条二項でいみじくも、労働条件の決定にお
れるが、かかる就業規則は労基法と労働協約に反することは許され
約の締結を包括的合意を前提として実質的に使用者によって確定さ
としての意味をもっており、正規の従業員と賃金その他の労働条件
る労働協約は労基法および労働法の立法趣旨に反することは許され
試用期間の労働法的解釈論(井上修二
に関して格差を認めることは許されないのである。
試用期間中の労務の提供を適格性の判断ないし見習、研修、
契約法的に特別な意味を有していないのである。
実際上試用期間終了時において、具体的な労働契約の締結が
ある。
の制度と決して同視してはならないものであり、労基法二一条四号
1
1
するのであって、この合理的理由は
ることを要求している。この点においても試用期間は実質的な意味
労基法二一条四号では、試用期間開始後一四日以内であれ
試用期間における適格性の判断の意図は全く稀薄である。
1
0
ず、この間の解雇は、労働契約の解約であり、合理的理由を必要と
7
8
9
る試用期間の法理﹂﹁労働法の解釈理論﹄(有泉古稀記念)九一頁以下、
教育学部論集 第七号(一九九六年三月)
ないのである。しかし、労働協約は労組法一六条によって、結果的
山口前掲 (4)論文一一七頁参照。
われる。
外尾健
除条件説によると﹁本契約たる労働契約の効力は試用期間の当初から
花見忠﹁試用契約の法的性質﹂季労二四号七五頁以下において、解
二二五頁。
ソニ 1厚木工場事件・東京高判昭四三・二了二七、高民集一一一巻三号
﹁試用期間の法理﹂討論労働法六O号六頁、判例としては
七一五号。山口前掲 (1)論文九一頁では、イタリアの通説であるとい
二号三八三頁。希望学園事件・札幌地判昭四四・三・二八、別冊労旬
三九 O頁。三菱樹脂事件・東京地決昭三九・四・二七、労民集一五巻
山武ハネウェル事件・東京地決昭三二・七・二 O、労民集八巻四号
由を要しないことが原則になっているといわれる。
(2)論文一 O六頁によれば、アメリカでは試用期間中の解雇に正当事
論文一 O 一頁、名古前掲 (2)論文一 一O頁以下参照。また、山口前掲
巻一号二一一頁以下参照。この説に対する批判として、毛塚前掲 (
2
)
山口浩一郎﹁試用労働契約の法的構成について﹂社会科学研究一八
用制度は可能である﹂とされる。
は、フランスにおいても﹁労働協約が認めている場合にかぎって、試
太﹁フランスの労働契約﹂﹁労働契約の研究﹂本多還暦記念五一四頁で
定されているのがノーマルであると指摘されている。また、大和田敢
山口前掲 (2)論文によれば、アメリカでは試用期間は労働協約で規
参照。
である。かくして労働協約において、試用期間を設け、特別な期間
もたらす労働協約を締結することは、労組法一条の趣旨に反するの
みなされる組合)において、労使対等の原則の下に労働条件差別を
結している。かかる限定された条件(ドイツではアウトサイダーと
働協約を締結し、 ユ ニ オ ン シ ョ ッ プ と 逆 締 付 条 項 を セ ッ ト と し て 締
にほかならない。ところが、わが国では企業別組合を常態として労
ころである。これはまさしく労働協約の効力における有利性の原則
労働者を不利益ないし差別待遇することは決して許すべから、ぎると
には労働契約、就業規則の内容を変更しうるが、労働協約において
巨
ヨ
5
とし、解約権の留保等の定めをすることは労組法一条、労基法
条、二一条に違反し無効と解すべきが妥当であろう。
山口浩一郎﹁試用期間と採用内定﹂季刊労働法人三号で学説史の文
献研究がなされている。
試用期間制度の目的・合理性について、名古道功﹁試用﹂﹁労働契約
一二七頁以下、毛塚勝利﹁採用内
の研究﹂本多還暦記念一 O三頁以下、高井隆令﹁労働契約の締結と展
開﹂片岡ほか著﹃新労働基準法論﹂
定-試用期間﹂現代労働法講座叩﹁労働契約・就業規則﹂九六頁以下、
一
九O頁以下、山口浩一郎﹁アメリカにおけ
下井隆史﹃雇用関係法﹂九七頁以下、木村五郎﹁試用期間﹂ジュリス
ト増刊﹃労働法の争点﹄
3
4
6
7
8
j
主
2
発生していることになるが、実際には試用期間中は正規の従業員とな
っていないのであるから、理論的説明と事実とが全然一致しない﹂と
批判されている。
後藤清﹁試用期間中の労働関係﹂学会誌労働法二五号八八頁以下、
判例としては、東京コンクリート事件・東京地決昭三二・九・二一、
労民集八巻五号六八八頁にはじまり三菱樹脂事件・最高裁判昭四人・
下井前掲 (
2)の論文一 O二頁以下、松岡前掲書一二三頁以下参照。
我孫子中学校免職事件・最高裁判昭五三・六
ブラザー工業事・名古屋地判昭五九・二了二三、労判四三九号六四
頁参照。
ILO一一九号勧告リ使用者の発意による雇用の終了に関する勧告
一八条川項で試用期間は﹁あらかじめ決定され、かつ合理的なもので
なければならない﹂と定めている。
外尾前掲労働実務大系の一七四頁以下、山口前掲 (
4)論文
以下参照。
頁参照。
名古前掲論文
ている。
0 ・三一、労民集一五巻五号
雅叙園観光事件・東京地判昭六O
一九五頁は
長者を解履する場合は、正社員に対すると同様の解雇事由の存在が要
では、第二回目の試用期間の延長は相当な措置とはいえず、右試用延
一・二 O、 労 働 判 例 四 六 四 号
れた事実のみに基づいて試用者を解雇することは許されないと判一不し
合理的な理由が必要であるが、延長前に発生し、かつ延長の事由とさ
五・七・一 O、労民集二一巻四号一 一回九頁は、試用期間の延長には
一五頁以下、大阪読売新聞社事件・大阪高判昭四
いものと解するのが相当である﹂と判示している。山本前掲書一八二
諾がない以上、所定の試用期間を一方的に延長更新することはできな
﹁新採用者につき従業員としての適格性を疑わせる事情ないし本人の許
件・東京地判昭三九・一
高井前掲 (2)の論文二二四頁、この見解に対して、国際タクシー事
J¥
二了二一、民集二七巻二号五三六頁によって、解約権留保説が定着
したといえる。
﹁採用・配転・出向・解雇﹂労働法実務大系一七四頁参照。
下井前掲凶の著書九九頁以下参照、苗向井前掲 (
2)論文二一八頁以下
参照。
外尾健
荒木誠之﹁採用内定・試用期間﹂季刊労働法別冊﹁労働基準法﹂五
六頁以下参照。山口前掲 (
2)論文一 O六頁では、アメリカでは試用期
問中、労働条件については、特別の規定が明定きれないかぎり正規の
被用者と同じに扱われるとされる。
O六頁以下参照。
山口前掲 (
1)論文一 O 八頁以下参照。
4)論文一
山口前掲 (
4)論文一 OLハ頁以下参照。
山口前掲 (
一八三頁以下参照。
浅井清信﹁採用内定と試用をめぐる法律問題﹂竜谷法学三巻三・四
号二八頁以下参照。
山本吉人﹁現代労働基準法の課題と改正問題﹄
栃木玩具事件・宇都宵地決昭三四・一 0 ・六労民集一 O巻五号。
一二二頁以下参照。
ヨ
主
松岡三郎﹁経営権と人事権と労働法﹂
試用期間の労働法的解釈論(井上修二
頁
2
2 2
1 2
0
2
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2
4
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2
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5 1
4 1
3
1
9 1
8 1
7
(
m
)
教育学部論集 第七号二九九六年三月)
社会教育学科)
(一九九五年十月二五日受理)
(いのうえしゅういち
前掲読売事件・大阪高判参照。
荒木前掲論文五八頁参照。
求されると判示している。
2
8
/
、
ー
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