Comments
Description
Transcript
環境倫理
第5章 現代の諸課題 環境倫理 公害 1.公害の具体例 大気汚染・水質汚濁・土壌汚染・騒音・地盤沈下・悪臭・振動など。 2.公害問題の先駆者 ① 田中正造 足尾銅山鉱毒事件(日本における公害問題の原点)に取り組む ② 南方熊楠 神社合祀令(鎮守の森の破壊)に反対・生物学者(粘菌の研究)・エコロジー ③ 石牟礼道子 『苦海浄土』 水俣出身の著者が水俣病患者に寄り添う立場から書いた記録文学。 3.日本の四大公害 ① 熊本の水俣病 ② 新潟水俣病 ③ 富山のイタイイタイ病 2 第 55 講 ④ 四日市ぜんそく 4.公害問題の法律 ① 公害対策基本法(1967) ② 環境基本法(1993) 環境破壊 1.オゾン層の破壊 ① 原因物質 フロンガス スプレーなどに含まれる。 ② 影響 オゾンホールの発生 ⇒ 紫外線の直射・皮膚がんの発生や森林の枯渇 ③ 国際的取り決め • ウイーン条約 オゾン層保護。 • モントリオール議定書 オゾン層破壊物質への対処。 3 環境倫理 第5章 現代の諸課題 2.酸性雨 ① 原因物質 硫黄酸化物(SOx)・窒素酸化物(NOx) ② 影響 湖沼の酸性化 ⇒ 動植物の絶滅・土壌の悪化など 3.砂漠化 ① 原因 人口の増加 ⇒ 過耕作・過放牧・薪炭の過剰採取 ② 影響 森林の減少 ⇒ 地球温暖化の加速・食糧危機 4.地球温暖化 ① 原因物質 温室効果ガス 二酸化炭素など。 ② 影響 南極大陸での氷の溶解 ⇒ 海面の上昇・生態系バランスの崩壊・異常気象 4 第 55 講 環境倫理 5.ダイオキシン汚染 ① 原因物質 塩化ビニールの焼却灰 プラスチックなど。 ② 影響 環境ホルモン(内分泌かく乱物質)⇒がん・生殖機能の低下・奇形児の原因 6.環境難民 環境破壊(チェルノブイリや福島の原発事故など)により居住地を離れざるをえなくなっ た人々。 環境問題への警鐘 1.『沈黙の春』 レイチェル=カーソン(アメリカ) (1) 「自然は沈黙した。薄気味悪い。鳥たちはどこに行ってしまったのか。みんな不思議 に思い、不吉な予感に怯えた。 春が来たが沈黙の春だった。 」 (2) DDT などの有機塩素系農薬や殺虫剤の大量使用が生態系を破壊、食物連鎖を通して 人間の生命にも危機を及ぼすと警告。 (3) 生態系 一定の地域に住む生物群と、大気・水・土壌などの環境がつくり出すシステム 生態系 における生物と環境の関連・構造を研究する学問がエコロジー。 (4) 食物連鎖 生態系内での食物によるつながりがピラミッド型になる状態で、頂点には人間がたつ。 食物連鎖に有害物質が入りこむと、それが濃縮されて人間にも悪影響を及ぼすことになる。 5 第5章 現代の諸課題 2. 「宇宙船地球号」 ボールディング(アメリカ) 生態系(エコシステム)は宇宙船のように閉ざされた環境。汚染物質などを地球の外に排 出することはできない。同じ船の乗組員という意識で環境問題に取り組む必要。 3. 『成長の限界』ローマ=クラブ 石油など化石資源の使用が環境汚染を進めると警告。 国際社会での取り組み 1.国連人間環境会議(1972・ストックホルム)「かけがえのない地 球」 人間環境宣言 環境は人類の生存権に関わる重要問題・各国が解決に積極的に行動。 2.国連環境開発会議=地球サミット(1992・リオデジャネイロ)「持 続可能な開発」 ① 環境と開発に関するリオ宣言・その諸原則を実行するための行動計画であるアジェン ダ 21 ② 気候変動枠組条約(温暖化防止条約)・生物多様性保全条約 ③ 世代間倫理 現在の世代は未来の世代に対して責任。環境保全と長期的な発展の両立を可能とする開 発が必要。 6 第 55 講 環境倫理 3.京都議定書(1997) 気候変動枠組条約第 3 回締約国会議(COP3) (1) 地球温暖化防止京都会議で、先進国に対し二酸化炭素など温室効果ガスの削減目標を 設定。法的拘束力あり。 (2) 目標 1990 年を基準に日本 6%・アメリカ 7%・EU8%の削減。 (3) 問題点 • 中国・インドなど開発途上国には排出削減を求めない。 • 2012 年以降の枠組みは未定。 • 2001 年・最大の排出国アメリカが離脱を表明(のちロシアが批准して 2005 年発効)。 • 先進国にのみ厳しい目標設定 ⇒ 京都メカニズム。 先進国が開発途上国で行った事業による削減分を自国の排 クリーン開発メカニ 出枠に加算できる。 ズム 先進国が共同で削減事業を行った場合、各国間で排出枠を 共同実施 移転し合うことができる。 森林の二酸化炭素吸収分を排出枠に認める。 ネット方式 排出枠を市場で売買できる。日本政府も 2009 年にウクラ 排出量(権)取引 イナからの排出枠買取を表明した。 • 南北問題 北半球の先進国と、南半球の開発途上国との経済格差やそこから生じる問題。環境問 題において途上国が先進国を批判することは南北問題のあらわれ。 7 第5章 現代の諸課題 今後に求められること 1.循環型社会 (1) 大量生産・大量消費・大量廃棄を改め、資源を有効活用して廃棄量を最小にとどめる。 (2) リデュース(省資源化)・リユース(再使用)・リサイクル(再利用)=3R 2.代替エネルギーの開発 風力・太陽光・地熱・バイオ燃料など 3. 「地球規模で考え、足元から行動する」 身近なことから始める グリーン=コンシューマー・リサイクル運動・フリーマーケッ ト運動など。 4.環境アセスメント法 環境に著しい影響を与える事業に対して事前調査・予測・評価する。 5.自然の生存権 自然の権利訴訟 アマミノクロウサギ訴訟・高尾山天狗裁判など。 8 第 55 講 9 環境倫理 第5章 現代の諸課題 次の文は、公害による環境破壊に反対した人物についての説明である。 a には人物名を、 b にはできごとを、それぞれ番号で選びなさい。 (センター試験) a は「民を殺すは国家を殺すなり」と訴え、農民の立場から公害問題に取り組み、日本 の公害の原点といわれる b が大きな社会問題になった際には、その先頭に立って抗議運動 を展開した。 ① 田中正造 ② 石牟礼道子 ③ 南方熊楠 ④ 足尾銅山鉱毒事件 ⑤ 水俣病 未来世代に対する責任の自覚と取組を説明するものとして適当でないものを,次の①∼④の うちから一つ選べ。 (センター試験) ひ ゆ ① 「宇宙船地球号」という比喩は,その乗組員として人類が一体であり,閉じた環境とし ての地球の未来について責任を共有しているという意識の現れである。 ② リオ宣言を採択した地球サミットでは,地球環境保護と長期的な経済的発展は両立しな いものではなく,むしろ相互に補完的な関係にあることが確認された。 ③ 京都会議では,経済の発展状況にかかわらず,全参加国に対して一律に温室効果ガスの 排出削減を求めることが定められ,排出量取引などのメカニズムが認められた。 ④ 「地球規模で考え,足元から行動を」という標語は,地球環境への人間の影響力を意識 するからこそ,身近なことから改善を始めようという決意を表している。 10 第 55 講 環境倫理 環境問題について提起されてきた考え方の内容説明として適当でないものを,次の①∼④の うちから一つ選べ。 (センター試験) ① 「持続可能な開発」 : これまでは経済成長のために環境を犠牲にして開発が進められてきたが,さらなる環境破 壊は開発の継続をも不可能にするので,今後の開発は環境を保全するという条件下で行わ なければならない。 ② 「世代間倫理」 : 環境破壊や資源問題などは長期間にわたって影響を及ぼすので,子や孫ばかりでなく,決 して出会うことのない,はるか後の世代の人間に対しても,私たちは責任を負っている。 ③ 「地球規模で考え,地域から行動しよう」 : 環境問題に関しては,その関連や重要性を地球規模で考えるとともに,ゴミの排出やエネ ルギー消費の削減など,各人の身近な事柄から行動を始めるべきである。 ④ 「宇宙船地球号」 : 地球も宇宙船と同様,閉鎖システムであるから,宇宙船で発生する廃棄物が高度の科学技 術によって船内で完全に処理されているように,地球環境問題も科学技術のさらなる発達 によって解決されうる。 11 第5章 現代の諸課題 深刻化してゆく環境問題への対応を考えるうえで,ふまえておくべき概念の説明として正し いものを,次の①∼④のうちから一つ選べ。 (センター試験) ① 生態系: 地球上の生物とその周囲の無機的環境とから作り出される様々な関係の総体としてのシス テムを意味し,ピラミッド状を成すその頂点に人間が位置している。 ② 環境難民: 汚染された土地や環境が破壊されてしまった土地に暮らし続けている人々のことで,安全 な土地へと移住することができるよう早急に対策を立てる必要がある。 ③ 世代間倫理: 現在どのような行動をとるかによって次の世代の生存が危うくなることもありうるのだか ら,今生きている世代は生まれてくる世代に対しても責務を負っている。 ④ 循環型社会: 環境のことを考えてリサイクルを積極的に推進する社会のことで,経済や消費の水準をさ らに高めながら,同時に環境をも守ろうとする発想に基づいている。 12 第 55 講 環境倫理 未来世代の人々や動植物,あるいは自然環境そのものをも「他者」とみなし,さらにそれら を尊重することを求める立場について、その立場に基づく主張として最も適当なものを,次の ①∼④のうちから一つ選べ。 (センター試験) ① 限りある資源の節約やリサイクルに努め,私たちの社会を循環型社会へと転換していく ことは,この私たちが現在の生活レベルを享受しつづけるために必要である。 ② 際限のない生産・開発や利潤追求を放置しておくと,生態系へ深刻な影響が及び,動植 物の権利を侵害するおそれがあるので,何らかの対策を講じるのが望ましい。 ③ 科学の研究や食用などのために毎日数多くの動物たちが命を奪われているが,そのこと を悲しむ人々が少なからずいるのだから,何らかの制限を設けるべきである。 ④ 酸性雨によって世界各地の歴史的建造物が被害を受けているが,そうした建造物を残し てくれた先人たちの偉大さを思うならば,防止策の検討が早急に求められる。 環境問題に取り組むうえで重要な考え方として「循環型社会」がある。この説明として最も 適当なものを、次の①∼④のうちから一つ選びなさい。 (センター試験) ① 環境に大きな影響を及ぼす事業について、事前に調査し評価することを積極的に推し進 めていく社会。 ② 資源の有効利用をめざし、資源の消費を抑制し、環境への負荷をできる限り低減しよう とする社会。 ③ 将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、今日のニーズを満たすような開発 を進めていく社会。 ④ 地球規模の視野をもつだけでなく、自分にできる身近な活動から環境保護を始めていこ うとする社会。 13 第5章 現代の諸課題 今日の環境問題に関する記述として最も適当なものを,次の①∼④のうちから一つ選べ。 (センター試験) ① レイチェル・カーソンは,その著書『沈黙の春』において,地球温暖化やオゾン層破壊 を原因として生じる生態系の破壊について警鐘を鳴らした。 ② 地球温暖化やオゾン層破壊などの地球規模の環境問題とは違って,砂漠化や 酸性雨問題では,被害の起きている現地で抜本的な解決策を立てうる。 ③ 地球温暖化問題においては,現在の討議や民主的決定手続に参加できない未来世代が, 現在の世代から深刻な環境危機を押しつけられる恐れがある。 ④ 地球温暖化問題への取り組みの当初から,先進国のみならず発展途上国も温室効果ガス の排出量を削減する義務を負うという合意が確立している。 次の文章を読み,以下の設問 a∼g に答えよ。 (センター試験) 当初,(a)環境問題は,地域レベルの公害問題として把握されたが,日本でも 1970 年代初頭 になって環境庁が設立されるなど,国家レベルでの対応が図られるようになった。また,ロー マ・クラブは,産業化の傾向がそのまま加速し続ければ, 1 などによって,世界は 100 年 以内に成長の限界に達すると予測した。この提言は,自然環境の有限性への意識を喚起するき っかけとなった。こうした動きを踏まえて,環境問題に国際レベルで対応する必要性が深く認 識され,(b)ストックホルムで開催された国連人間環境会議が,我々は「歴史の転換点」を迎え たと宣言した。これらの事実は,環境破壊の問題がすでに 70 年代の段階でいかに深刻になって きたかを物語っている。 今日,現実に差し迫った危機的な状況に対応する必要から,自然環境をめぐる倫理的な問題 領域が新たに成立し,伝統的な諸宗教の自然観や従来の倫理的な思考の枠組みが改めて問い直 されるようになった。こうして登場した環境倫理の前提には,地球という生態系は, 「宇宙船地 球号」と呼ばれるべき,閉ざされた有限な空間であるとする基本認識がある。 14 第 55 講 環境倫理 環境倫理には,自然との調和を図りつつ,自然の賢明な利用や開発を志向する「 2 を中 心に考える立場」と,原野などをそのままの状態で残すべきであるとする「生態系を中心に考 える立場」の二つが考えられる。なかでも,後者の立場に立つ環境倫理の大きな特徴は,(c) 自然にも存続する権利を認めることである。 また,環境倫理の観点からすれば,(d)現在生きている人々は将来生まれてくる人々が生存 する可能性を狭めてはならない。1990 年代初頭にリオデジャネイロで開催された国連環境開発 会議(地球サミット)では,このことに配慮して, 3 が主要なキーワードとなった。この会 議は同時に,環境問題には,環境破壊の責任の所在をめぐる(e)南北間の対立が含まれているこ とを明らかにした。 自然環境の破壊が急激に進む現在,我々には,自らのライフスタイルの転換,さらには社会 のあり方の改革も含めて,環境倫理が提起している諸問題について考え,行動することが求め られているのである。 15 第5章 現代の諸課題 問 a 下線部(a)に関連して,次のア∼エの記述が当てはまる人物の組合せとして最も適当なも のを,以下の①∼⑥のうちから一つ選べ。 ア 工場廃液による汚染のために公害病に冒された人々を取材し,被害者に強い共感を 示して公害問題の実態に迫った。 ごうし ちんじゅ イ 生態学的な視点から,神社合祀令による神社の統廃合によって鎮守の森が破壊され ることに反対した。 ウ 消費を中心とする社会を批判し,農民の立場に立って自然と協調しながら生きる世 の中の確立を説いた。 エ 地元の鉱山の鉱毒によって農民が被害を受けている現実に直面して,鉱山の操業停 止を求める運動を起こした。 ① ア 田中正造 イ 南方熊楠 ウ 安藤昌益 エ 石牟礼道子 ② ア 南方熊楠 イ 安藤昌益 ウ 石牟礼道子 エ 田中正造 ③ ア 安藤昌益 イ 石牟礼道子 ウ 田中正造 エ 南方熊楠 ④ ア 石牟礼道子イ 南方熊楠 ウ 安藤昌益 エ 田中正造 ⑤ ア 田中正造 イ 石牟礼道子 ウ 南方熊楠 エ 安藤昌益 ⑥ ア 石牟礼道子 イ 田中正造 ウ 安藤昌益 エ 南方熊楠 問 b 下線部(b)の説明として最も適当なものを,次の①∼④のうちから一つ選べ。 ① いまや我々は国家の垣根を越えて,生活水準の格差を縮め,貧困をなくすという重 要な課題に直面している。 ② 人口爆発と呼ばれる危機的な事態が目前に迫っており,第三世界を中心として,多 くの餓死者が出る可能性がある。 ③ 我々が環境のことを慎重に考えて行動しなければ,回復不可能なほどの重大な害を 地球環境に対して与えることになる。 ④ 環境保護と国際平和と経済成長は,相互に関連しており,互いに切り離すことがで きない。 16 第 55 講 環境倫理 問 c 下線部(c)の立場の事例として適当でないものを,次の①∼④のうちから一つ選べ。 ① 自然観察グループを中心とした人々が,アマミノクロウサギなどの野生生物を原告 として自然環境保全のための訴訟を起こした。 ② 動物愛護運動をしている人々が,動物の生命を尊重する立場から毛皮製品の販売や 使用に反対した。 ③ 絶滅の危険があるオオタカがダムの建設予定地に生息していたため,建設計画が行 政によって大きく変更された。 ④ 森林の伐採が進み洪水の危険性が高まったので,地方公共団体が近辺の山岳地帯に 植林を行った。 問 d 下線部(d)の考え方を表す語句として最も適当なものを,次の①∼④のうちから一つ選べ。 ① 世代間倫理 ② 間柄の倫理 ③ 生命倫理 ④ 責任倫理 問 e 下線部(e)に関連して,環境問題をめぐる南北間の対立についての記述として最も適 当なものを,次の①∼④のうちから一つ選べ。 ① 開発を促進してきた先進諸国は,環境問題に早くから配慮してきた開発途上国から その政策を取り入れるように要求されている。 ② 気候や風土に恵まれた南の国々は,環境破壊に悩む北の国々への援助を拒否してい るので,後者から反発を招いている。 ③ これまで環境破壊を引き起こしてきた先進諸国が,開発途上国の開発のあり方に 種々の要請を行っていることに対して,抵抗や反発が生じている。 ④ 豊かな自然が残っている開発途上国では,先進諸国からの工場移転は,公害輸出と して受けとめられ,認められないことが多い。 問 f 文中の 1 ∼ 3 に入れるのに最も適当なものを,次のそれぞれの①∼④のうち から一つずつ選べ。 1 ① 科学技術の進歩 17 ② 地球の温暖化 ③ 南北格差の増大 第5章 現代の諸課題 ④ 資源の枯渇 2 ① 利潤 ② 人間 ③ 地域 ④ 地球 3 ① かけがえのない地球 ② 地球にやさしい技術 ③ 持続可能な開発 ④ 無理のない成長 18 第 55 講 環境倫理 19