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2012(平成24)年度
光技術動向調査 1. はじめに を作製したLEAP laserが報告されており、室温におけるしき 当協会では、光技術動向調査事業として、毎年、光技術動向 い電流値は14µA、高温では95℃までの連続発振が確認され、 調査委員会を設置し、国内外の光関連技術について最新動向 4Gb/sの直接変調において1ビット当たりの消費エネルギーは を調査・分析している。本年度は、下記の8つの調査項目に対 28.5fJと既存の直接変調レーザに比べ約100分の1の低消費電 応した分科会を構成し、調査を行った。調査結果は、2013年10 力化が実現された。Siフォトニクスでは、Geの発光素子を採り 月16日~18日に開催されるインターオプト2013の光技術動向セ 上げた。GeはSiと同様に間接遷移であるが光通信用の波長域 ミナーで紹介される予定である。また、最新の技術動向として、 での発光・受光が可能であり、n型不純物ドープと伸張歪の導 Web機関紙オプトニュースのテクノロジートレンドでそれぞれ 入によりΓ点とL点のエネルギー差を小さくすることができ、 の分野のトピックスを23件の記事として掲載した。 2010年に光励起での発振、2012年に電流注入での室温パルス 発振が報告された。また実用的な観点から低コストで大規模、 2. 光無機材料・デバイス(第1分科会) 高密度の光集積回路を実現できる技術としてSiフォトニクスの 光無機材料・デバイスの分科会では波長域が100µm付近の 微細加工技術とファウンドリに関する報告があった。トピックス テラヘルツ域から200nm付近の紫外域における、デバイス、材 としては、表面プラズモンと導波路型アイソレータを採り上げて 料、アプリケーションを調査した。 おり、表面プラズモンは光導波路、ビームスプリッター、集光レ ンズ、フォトダイオード、光スイッチ・変調器、センサなどへの応 2.1 テラヘルツ・中赤外域 用が検討されており、光損失に課題はあるものの、今後のナノ 現在、テラヘルツ域の検査装置としては、非線形光学効果を フォトニクスへの展開が期待される。光アイソレータでは従来 用いた波長変換技術により可搬型の装置が数社から製品化さ のファラデー回転を用いたバルク型に加え、今後の光集積回路 れている。今後のさらなる小型化に向けては半導体レーザや電 に適用できる導波路型が検討されており、伝搬方向によって異 子デバイスによる発生器が望まれており、単体の量子カスケー なる位相変化を利用した素子が化合物半導体及びシリコン系 ドレーザでは室温での動作に向け活性層の構造を工夫するこ で作製されており、1,550nm帯において28dBのアイソレーショ とで、動作温度199.5K、発振波長3.22THzが報告された。ま ンが得られている。 た別の方法として室温での高出力化が可能な中赤外の量子カ 2.3 可視・紫外域 スケードレーザを2つ用い、差 周波発生させることで1.0~ 4.6THzの発振が報告されている。一方、テラヘルツ波の適用 可視・紫外域では光源の波長域拡大に加え、高出力化と高 拡大に向けては、光源の広帯域化や高出力化が望まれており、 効率化が進んでいる。特に半導体レーザにおいては光の3原 非線形光学効果を用いた波長変換技術ではサブTHzから数 色である赤・緑・青色において、緑色の光出力や効率が著しく 十THzまでをカバーする波長可変THz光源や、パルスでのピー 低かったが、今年度は{2021}面上のGaN系半導体レーザにお ク出力1kW以上の高出力化が実現されている。 いて、波長530nm以上で100mW以上の高出力化、525nmで 中赤外域は防犯・セキュリテイの人体検出、非接触温度計、 8.9%の光電変換効率、5,000時間以上の長期信頼性などが報 環境ガスセンシングなどが用途としてあり、センサーとしては熱 告された。一方、さらなる長波長化では、Ⅱ-Ⅵ族であるがBeを 型センサーと量子型センサーがある。量子型センサーは高速応 加えることにより共有結合性を高めたBeZnCdSe量子井戸型 答や静態検知に優れるが、冷却が必要であったため適用範囲 レーザが報告されており、波長536nmにおいて、しきい電流値 が限られていた。しかしながら今年度はInSb系の量子型中赤 60mA、光出力50mW、さらに最長発振波長570nm(黄色)が 外センサーにおいて、InSbのpin構造にAlInSbの電子障壁層を 報告された。発光ダイオードでは、自立GaN基板の有効性が明 設けることで、2~7µmにおいて室温動作可能なセンサーが らかになって来ており、転位密度が少ないことから信頼性に有 製品化された。 利であるだけで無く、横方向に大電流を流してもn型GaN層の 膜厚が厚いことから光出力の飽和や効率の低下が少ない。ま 2.2 近赤外域(光通信用の波長域) た通常のC面に比べ、m面GaN基板上の発光ダイオードではピ 光通信用の波長域では通信容量の増大に伴い、バックボー エゾ分極が無いことから井戸層膜厚を厚くすることが可能であ ンからインターコネクションまで光素子及び光トランシーバの高 り、高電流注入時においてもキャリアのオーバーフローを抑制 速化、小型化、省電力化が進んでいる。バックボーンでは将来 でき、ドループの改善や1Aで1.23Wの高出力化が報告されて 的なデジタルコヒーレント伝送に向け小型のIQ変調器と小型光 いる。一方、半導体レーザ以外の光源としては、非線形光学結 受信器の開発が進んでおり、変調器材料としてはLNだけで無 晶を用いた擬似位相整合による短波長光源が進展しており、 く、InP系、ポリマー系、Si系などが検討されている。光受信器 連続光では第2高調波による緑色光源で20W以上が実現さ としては偏波分離、分岐及び光ハイブリットからなるパッシブ れ、パルス光では第4高調波による266nmで23Wや第8高調 部、光電変換部、TIA部などがあり、材料系の違いによりハイ 波による193nmでの紫外レーザが報告されている。 ブリット集積、モノリシック集積が比較検討されている。一方、 3. 光通信ネットワーク(第2分科会) インターコネクションでは将来的な装置内での光通信に向け、 我が国の高度に発達した情報化社会は、光通信ネットワーク 活性層の体積を波長と同程度の大きさになるようにInPで埋め の技術革新によって支えられてきた。今日での光通信ネット 込み、高いQ値を実現するためフォトニック結晶構造で共振器 16 技術情報レポート 2012年度OITDA 3.4 アクセスネットワーク ワークでは、コア網には光増幅中継を繰り返して超長距離2点 間を結ぶ高密度波長多重(DWDM)システム、メトロ網には光 40~100Gb/sの大容量化を目指した光アクセスシステムであ 分 岐 挿入と増 幅 を行 うO A D M( O p t i c a l A d d / D r o p るNG-PON2(Next Generation PON phase2)の標準化が Multiplexer)ノードで構成されるDWDMリング網システム、ア 開始された。モバイルトラフィックの急増を背景に、携帯電話 クセス網には光分岐(下り)と光時分割多重(上り)を行うPON 基地局の収容回線として適用できる光ファイバ無 線(RoF: (Passive Optical Network)システムがそれぞれ導入されて Radio over Fiber)技術も議論の対象となっている。技術とし いる。 ては、基幹伝送系で開発が進んでいるデジタル信号処理を適 用したシステムの検討が精力的に進められている。 昨年度(2011年度)を振り返ってみると、100Gb/s/ch伝送シ ステムに向けたDSP-LSIが開発され、100Gb/s/chシステムの 3.5 光LAN/インターコネクト 商用化が進展した一方で、極めて高い周波数利用効率による 世界初の100Tb/s伝送実験が報告された。さらに、光ファイバ ストレージ向け規格では引き続き大容量化が進む一方、サー の伝送容量の物理限界が見え始める中、その限界を打破する バ向けのインタフェース規格であるPCI-Expressで光インタ 可能 性を秘めたマルチコアファイバ(MCF: Mu lt i- C ore フェースをもつ規格(PCIe OCuLink)の策定が発表された。ま Fiber)やフューモードファイバ(FMF: Few-Mode Fiber)を用 た、データコム分野では、400Gb/s規格への技術流用を意識し いた空間多重伝送実験が爆発的に増加して新たなトレンドを て光 多 値 変 調 伝 送 方 式や10 0 G b /sシリアル 伝 送、D M T 作った。また、多種多様なサービスを大容量かつ高品質で高効 (Discrete Multi-Tone)方式といった最新技術の利用も議論 率に収容可能な次世代パケット光トランスポートシステムの装 され始めた。 置化が進展するとともに、WDM信号の柔軟な経路切り替えが 3.6 光ファイバ 可能なCDC-less(Colorless, Directionless, Contentionless) 機能をもった光クロスコネクト装置が発表されるなど、フォト 空間多重光伝送の急激な増加に呼応してMCFやFMFに関 ニックノード及び光ネットワーキング分野ではフレキシブル化の する数多くの報告がなされた。さらにMCFやFMFによるファイ 方向で着実な進展が見られた。以上のような背景の下、第2分 バ増幅器を用いた長距離伝送実験も報告され、伝送容量、伝 科会(光通信ネットワーク)では、今年度(2012年度)の技術動 送距離ともに記録が更新された。また、MCFやFMFと通常の 向を以下ように6つの分野ごとにまとめた。 シングルモードファイバを接続するための光入出力技術に関し ての報告もあり、伝送媒体だけでなく周辺の技術もマルチコア 3.1 基幹光伝送システム 化/マルチモード化が進展した。 空間多重伝送技術の進展により伝送容量のトップデータが 4. 情報処理フォトニクス(第3分科会) 更新され、遂に1Pb/sの大台に乗った。各コアにおけるトップ 昨年までは「光メモリ・情報処理」として技術動向調査を クラスの周波数利用効率に加え、マルチコア光ファイバのコア 数増大も合わせて実現した。また、マルチモード光ファイバにお 行ってきたが、2012年度からは最近活発に研究開発されてい けるモード多重伝送でも、複数モードの一括増幅を可能とする る、LSI近傍やボード間における光インターコネクション技術を マルチモード光増幅器を用いた73.7Tb/s伝送実験や12×12の 新しく調査対象に加え、 「情報処理フォトニクス」と改名して技 MIMOの検討など精力的な研究開発が進められた。 術動向調査を行うこととした。光インターコネクションに関して は、近年スーパーコンピュータやデータサーバー等におけるラッ 3.2 フォトニックノード ク間やボード間の高速データ転送技術として実用化されてい エラスティック光ネットワークの進展に関して、“Performance”、 る。これは、CPUにおいて消費電力を抑えつつ性能を向上させ “Cost”、“Efficiency“、そして“Control Plane Requirements”な るために、マルチコア、メニーコアと呼ばれるように処理の並列 どの各分類において精力的な研究成果が数多く報告された。 化が進められており、LSIチップ内やチップ間、ボード間、筐体 また、波長選択スイッチ(WSS: Wavelength Selective Switch) 間の信号転送を高速に行う上で光インターコネクションの活用 に代表される光スイッチの大規模化・小型化が進展しており、 が積極的に進められている。また2012年3月に光協会でまとめ より高機能な光ノードをコンパクトに構成できることが期待さ られたテクノロジーロードマップでは、2030年の情報量は現在 れる。 の情報量の1,000倍の2YB(ヨタバイト)に達すると予想されて いる。今後も爆発的に増加すると予想される情報を高速に処理 3.3 光ネットワーキング し、有効活用するためには情報処理システムに求められる性能 OpenFlow等を用いたエラスティック光ネットワーク制御技術 向上は必須である。光インターコネクション技術は、これらの に関する実証実験、エラスティック化に伴うメリットやユースケー 技術ロードマップに対応するため、LSIチップ内、チップ間、 ス(光デフラグメンテーション技術など)の検討が着実に進展 ボード間、筐体間の各層において並列化が進む上で利用される するとともに、Software Defined Networking(SDN)技術を光 ことが期待される。その意味で、2012年度からLSI近傍から筐 ネットワークに適用検討する研究開発が大きく発展した。 体間までを高速に接続する光インターコネクション技術の動向 調査を扱うことにした。 一方、現行の光ディスクメモリに代表される光メモリでは、 技術情報レポート 2012年度OITDA 17 光技術動向調査 Blu-Rayディスク(BD)によって研究開発の進展や応用展開が [In・Ga・Zn oxide]の製品化の三点であった。TV用大型パ 一段落し、磁気ハードディスクや半導体メモリに対する差別化 ネルの価格下落は続いており、どの企業も利益を出していな という点でブレークスルーが求められる状況にある。もちろ いため、各社ともタブレットPCやスマートフォン用の中小型パ ん、BDにおいても多層化技術は進展しており、5インチディス ネルに注力している。しかし、この分野の製品サイクルは極 クに1TBの記憶容量を目指した実用化技術・基礎技術は着実 めて短く、安定した売り上げを上げることはどの会社でも困 に進んでいる。現状光ディスクの方向性として長期データ保存 難な状況である。このため大きな差別化を図ろうと、いくつ 用アーカイブメモリにフォーカスされている。これについては、 かの会社は大型有機LEDの開発、販売を発表した。 ⑵ PDP DDS(デジタルデータストレージ)との競合技術としての進展が 期待されている。この従来からの光ディスクメモリの技術動向 2011年の欧州通貨危機や、各国政府が行ってきた補助金 調査も行いつつ、今後は光を情報媒体とした光インターコネク 政策の終了が影響し、PDP市況も厳しい結果となった。競合 ションがLSIチップ内やチップ間の超高速信号処理部分に入っ のLCDに対するコスト面での優位性が殆どなくなり、それと てくるとこれらをサポートする高速光レジスタや光メモリ、光演 の差別化が難しくなってきたことが影響し、販売シェアの高 算技術も必要な技術となることが予想される。また、システム指 かったパナソニックとサムソンの2社が大幅な減産を進め 向である光情報処理の研究動向調査においても従来のマクロ た。中国など新たな生産拠点も現れ、コスト面での優位性が な光学素子や液晶空間光変調素子による情報センシングやデ 再び見直される動きもあるため、今後の新興国市場での巻き ジタル機器と光学技術の融合した情報処理システム、計算機 返しが期待される。そのような状況下で、技術開発の動向と イメージングなどの実用化を目指した研究開発を中心として技 しては、エナジースタープログラムに代表されるような消費電 術動向を調査しつつ、ナノ領域で発現する特異な光の性質(ナ 力削減要求へ対応する、低消費電力化と高画質化に関する ノフォトニクス)を用いた新規な光演算素子モジュールの研究 ものが中心であった。また、新たな技術応用分野の探索も進 や開発を調査して行くことが重要となってくる。 められた。 ⑶ OLED(有機EL) これらの状況をふまえ、2012年度は光メモリ、光インターコ ネクション、光演算(光情報処理)の3つを柱として技術動向 現在、普及が著しいSamsung電子のモバイル機器に搭載 調査を行った。将来的には3つの技術の融合による、光を情報 されているパネルサイズは最大のもので7.7型に達し、パネ 媒体としたシームレスな革新的な情報処理技術、システムへの ルの画素数もWQVGA(Wide Quarter Video Graphics Array) 展開を期待したい。 までを包含するに至った。中小型分野では高精細化が求め られる市場の要求にも対応する解像度も飛躍的に高まって 5. ディスプレイ(第4分科会) いる。長期にわたって培った中小型での製造技術は、いよい 2012年のディスプレイ業界は、混沌とした年であった。再編 よ大型化へ向けて本格的な取り組みが加速している。 ⑷ バックプレーン(BP) 成されたディスプレイ業界が、赤字からの脱却を狙って様々な 施策を取ったものの、まだ成果が見いだせない状況である。デ BPは低コストのa-Si(アモルファスシリコン)が主役で、 バイスとしては、大型TVからモバイルへ完全に移行している。 a-Siで作れない高精細は低温ポリシリコンが市民権を得た。 スマートフォンとタブレットがディスプレイの唯一の牽引力と 今後はa-Siがどれだけ高精細領域に迫るか、酸化物半導体 なっており、どのメーカも中小パネルに注力している。またe-ink が両領域にどれだけ食い込めるかが注目である。フレキシブ 方式の電子ペーパデバイスが各社から市場に投入され、本格 ルは現在の延長線では市場拡大は厳しく、急速な市場立ち 的な電子書籍の時代に突入した。ディスプレイ開発の歴史を振 上がりを促すアプリ・材料、プロセス革新に期待したい。 ⑸ 立体ディスプレイ り返ると、1990年代のフラットディスプレイの実用化から始ま り、大型化、サイズ及び表示方式の多様化と進み、今後はフレ 立体ディスプレイにおいても、ディスプレイ業界全般におけ キシブル化、タッチパネルやカメラなどのセンサ技術と合わせ る高解像度化の流れが波及しており、4K2K解像度の裸眼 て、存在を意識せずに情報を入出力するデバイスへと進歩して 式の大型テレビや、パッシブメガネ方式の3Dテレビ、複数の いくと思われる。 3Dパネルを用いた3D大画面ディスプレイなどが発表されて このような状況の中、技術開発はタッチパネル、4K2K、8K いる。 ⑹ タッチパネル 4Kなどの高精細化、酸化物半導体の特性改善、大型及び中小 型高精細有機LEDパネルの実用化などに向けられた。今年の 本年度に華々しく登場したインセルタッチパネルであるが、 調査報告書では、従来のディスプレイデバイスに加えて、ディス 将来、この技術が100%の市場を得るとはまだ言えない。来 プレイを駆動するバックプレーン、ディスプレイパネルに組み込 年度、カバーガラス一体化技術を用いた製品が出始め、それ まれたインセルタイプのタッチパネルの技術動向も調査した。 との性能/コストの比較が行われ、優劣がつくことになる。 5.1 電子ディスプレイデバイス 5.2 トピックス ⑴ LCD 今年度は、放送局用マスタモニタ、4K2Kディスプレイ、フレ 2012年の主な技術は、タッチパネルのLCDパネルへの組 キシブルディスプレイ及び8K高精細スーパーハイビジョンの3 み込み、4K2K、8K4Kの高精細化、酸化物半導体IGZO 項目を取り上げた。 18 (石森義雄) 技術情報レポート 2012年度OITDA 6. ヒューマンインタフェース(第5分科会) 素化に対応した高密度センサの開発に依存してきた面もある 本分科会では入力デバイスから応用技術まで、幅広くヒュー が、デジタルカメラは画素サイズ向上の取り組みがほぼ飽和に マンインタフェースの最新技術動向を調査している。3年間調 近づき、何らかの新しい機能の追加が課題になってきている。 査を続けた「ブレインマシンインタフェース(Brain Machine デジタルカメラ関連では、手振れ補正技術、超解像技術、 Interface; BMI)」については、脳機能計測技術の進歩に伴っ データ転送技術、さらに最近の新しい入力デバイスであるペン て進む脳機能の解明による研究開発の進展について報告し、 型入力デバイスを用いた超音波+赤外線を用いた手書き文字 一定の成果が見られたため今年度は調査対象から外した。今 認識、CMOSカメラ+印刷パターン認識によるアドレス検出技 年度は新たなテーマとして「拡張現実感を実現するトラッキン 術、さらにそれをプレゼンテーションなどに応用したインタラク グ技術」について調査した。防災と光・情報技術分野では、前 ティブシステムといった周辺技術の開発が進展している。 年度は2011年3月11日に発生した東日本大震災による情報通 6.5 カラーユニバーサルデザイン 信システムへの影響をテーマとして「震災と情報通信システム」 として調査をおこなったが、今年度は防災の視点をさらに進 電子情報機器やインターネットの普及、カラー印刷技術の発 め、ヒューマンエラーに着目した「エラーとヒューマンインタ 達により、電子ドキュメントやウェブサイト、印刷物など様々な フェース設計」について調査した。 媒体によって、色を用いた情報発信が誰でも容易にできるよう になった。一方で、色の見え方が人によって異なる色覚特性や 6.1 イメージセンサデバイス 閲覧環境により変化することを考慮した上で情報を正しく伝え CMOSイメージセンサの画素微細化は微細化競争は0.9µm る「カラーユニバーサルデザイン」という考え方が2000年ごろ 程度でほぼ終わりを告げ、高性能化のトレンドは、グローバル にNPO法人カラーユニバーサルデザイン機構によって提唱さ シャッタ搭載や科学技術用途の超高速撮像などの高速化、3 れ、近年、様々な分野で取り入れられてきている。 次元距離計測用センサの開発等に移ってきた。 今後さらにユニバーサルデザインの普及を進めていくために 今後は微細化を活かし、バイオ医療をはじめとする様々な分 は、コンテンツ制作者・利用者双方の支援ツールの研究開発に 野への応用展開と共に、Light Field Cameraのような超多画素 加えて、色彩心理やカラーコーディネートなどの感性面での研 を活かしたソフトウェアとの協調アプリケーションが重要になっ 究や支援も必要となる。 てくると予想される。 6.6 拡張現実感を実現するトラッキング技術 6.2 エラーとヒューマンインタフェース設計 拡張現実感(Augmented Reality: AR)は、ユーザの現在 東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所の被災 の位置や向いている方向に応じて刺激を生成し、現実世界から 時対応においてヒューマンエラーの可能性が指摘されている。 の刺激と同時に知覚させることにより、現実世界には存在しな これまでヒューマンエラーに対しては、極力その発生を抑え込 いものが、あたかも目の前に存在するかのように感じさせる技 む方向で対策が講じられてきたが、実際にはヒューマンエラー 術である。この特徴を利用して、医療、観光、教育、保守、建 が原因とされる事故は後を絶たないのが現実である。 築、芸術、エンターテインメント、軍事など、様々な分野への応 ヒューマンエラー対策における新たなアプローチとして、レジリ 用が試みられている エンス・エンジニアリングという新たなシステム設計の考え方が A Rの実現には、⑴ 情報を提 示するディスプレイ技術、⑵ 提唱され、注目を集めている。これは従来のアプローチと比べて ユーザの位置と方向を計測するトラッキング技術、⑶仮想情報 建設的かつ生産的であるとされ、今後ますますリスクが増大す の位置合わせするレジストレーション技術、⑷レンズ歪等の調 るであろう世界において、重要性が高まっていくと思われる。 整するキャリブレーション技術で構成される。 6.3 ヘルスケアと光技術 7. 加工・計測(第6分科会) 人口減少と高齢化が進行する日本では、健康で安全なライ 今年度の加工・計測分科の調査では、光源技術として「国内 フスタイルへの志向が高まっており、ヘルスケアへの関心が高 のファイバレーザ動向」、「垂直共振器面発光半導体レーザ まってきている。 (VCSEL: Vertical Cavity Surface Emitting Laser)」、 「直 一方で日本では世界に先駆けて、ブロードバンドインターネット 接加工用半導体レーザ(DLD)」に加えて「インドの光技術動 接続や、公衆無線LANやLTE等のモバイル利用環境が整備さ 向」を、加工技術として「超高速ビームスキャン」、 「レーザ加工 れており、スマートフォンやタブレット端末を利用したモバイル・ プロセスの高時間分解能観察」、 「CFRPのレーザ加工」を、計 ヘルスケアや生活情報サービスが広がる兆しをみせている。 測技術としては「プラズモンセンサ」、 「脳機能計測」を取り上 今後さらに、人間の行動や生活環境の各種デジタル情報が げた。 リアルタイムで、安価で容易に共有できるようになることで、ヘ ルスケアサービスのネットワーク化が進展するとみられる。 7.1 加工用光源 6.4 画像入力デバイスと機器 た。隔年で国内と海外の開発動向を調査している。最近の動 ここ数年、加工用光源として「ファイバレーザ」に注目してき ここ数年来の画像入力技術の進化は、デジタルカメラの高画 技術情報レポート 2012年度OITDA 向として、国内メーカからkWクラスのファイバレーザがリリース 19 光技術動向調査 され加工機への搭載が進んでいるという調査結果が報告され た研究が進められている。 ている。また、日本独自の技術として、Pr(プラセオジウム)を 7.4 メディカル応用 添加したファイバで可視域のレーザ発振が実現し、昨年調査し メディカル分野での計測技術として脳機能計測に関する調 たパルス幅のバリエーションと共に波長域でもファイバレーザ 査を行った。近赤外光を頭皮に照射して生体内を伝搬して戻っ のバリエーションが広がってきている。 てくる光強度の変化から脳機能を計測できる。新しい脳科学 ファイバレーザ以上に電気-光変換効率が高い半導体レー の研究ツールとして期待されている。 ザの最新技術を調査した。これまでの半導体レーザ(LD)は ウェハ面に平行に共振器が形成され、劈開面から光を取りだし 8. 光エネルギー(第7分科会) ていた。縦方向と横方向の光の発散角が異なるため複数のレ 2012年度は、太陽電池の年間導入量が飽和傾向を示したこ ンズで平行光にコリメートし、高出力化のためには切り出され たエミッタやバーを二次元に並べる必要があり、歩留まりの低 と、日本でもFIT(固定価格買取制度)が導入されたことの2 下や高コスト化といった課題を克服しなければならなかった。 つのトピックスがあった。世界の太陽光発電システムの累積導 一方、垂直共振器面発光半導体レーザ(VCSEL)はウェハ面 入量は2012年度に初めて100GWを超えた。しかしながら、年 に垂直に共振器が形成され、ウェハ上で素子を二次元的に集 度導入量は30GWと予測され2011年度の31GWに対しては低下 積することにより高出力化が可能となり、取りだした光を単レン が見込まれている。一方、日本では2012年度10月時点で累積 ズアレイでコリメートできるというメリットがある。これまでは通 5.9GW(2011年度累積4.7GW)であった。7月に導入された 信用に開発が行われてきたが、最近になって高出力化の開発 FITの影響は小さいと伺え今後に期待がされる。 が進んでいる。 8.1 結晶系シリコン太陽電池 一方、端面発光型半導体レーザにおいても技術開発が進ん でいる。エミッタの高輝度化と共に集積化技術、ファイバ結合 低コスト化へ向けて、原料ポリシリコンでは製造方法として 技術が発展し、金属の溶接・切断に直接利用できるレベルま VLD(Vaporto Liquid Deposition)法や亜鉛還元法の開発が で高出力化が実現している。異なる波長のLD光を1本のファイ 進められている。また、U MG(Upg raded Meta llurg ica l バに結合し、コア径50µm~2kWの光出力が得られるように Grade)材料の高純度化、擬似単結晶(MONO-like)成長など なってきた。波長多重以外にも偏光合成や光学配置の工夫によ の研究も進められている。セルプロセスでは基板の薄型化へ向 り1kW~10kWのファイバ出力が利用可能となってきている。 け、スライス技術としてのダイヤモンド砥粒を表面に固着した固 定砥粒ワイヤーの利用、エミッタの不純物プロファイルの見直 加工用光源開発といえば、これまで国内や欧米の動向に注 しなどが進められている。 目しがちであったが、インドにおける技術動向を調査する機会 変換効率の観点では、裏面p及びn層の両方を形成する裏面 を得た。日本から数社が参加したLASER World of PHOTONICS 接 合型のセル開発 が進められ 、Su n Power社はセル効率 INDIA 2012の様子を紹介した貴重なレポートを掲載する。 24.2%、カネカも小面積ながら23%を超えを実現している。ま 7.2 加工技術 た、HIT構造(a-SiとSiのヘテロ接合)セルで、パナソニックが 最近は超短パルスレーザの高平均出力化のために、パルスの 23.7%の変換効率を得ている。 繰り返し周波数が数100kHz~MHzといった高繰り返し化が 8.2 シリコン薄膜系太陽電池 顕著になってきている。高繰り返しで材料をパルス照射した際 に熱的影響を最小限に抑制するためには、高速でレーザ光を 変換効率面では僅かな向上が見られている。変換効率8.0% 掃引することが重要となる。欧米では掃引速度100m/sを目指 から三接合セルでは15%を超える効率も見られる。また、5.7m 2 した超高速スキャナの開発が盛んになってきている。 サイズのa-Si太陽電池モジュールの大面積化技術の開発も進 められている。 フェムト秒レーザを用いた加工技術として長岡技術科学大 学では、パルスレーザをストロボとして使う加工現象の時間分 8.3 化合物薄膜太陽電池 解計測手法やフェムト秒レーザで開けられた穴の壁面に形成さ れる微細周期構造形成の研究が行われている。また、CFRPの 昭和シェル石油がSAS(セレン化後の硫化)法により小面積 レーザ加工に関して、シングルモードCWファイバレーザとナノ 単セルで19.7%、N R EL(Nationa l Renewable Energ y 秒グリーンレーザを用いた加工結果を紹介する。CWレーザで Laboratory)が同時蒸着法で20.4%の変換効率を達成した。 も高速ビームスキャナを利用することで熱影響が少ない加工が 特に、NRELは基板にポリイミド樹脂を使用している。CdTe太 可能となり、短パルスレーザを用いることでさらに良好な切断 陽電池ではGE Research社が小面積セルで変換効率18.3%を 面が得られることが報告されている。 達成した。Cu(Zn,Sn)Se2(CZTS)系は研究発表が年々増し ているが、CIS系が1980年代に達成したレベルにあり、光吸収 7.3 計測技術 係数がCIS系に比べて一桁低いなどの課題もある。 プラズモンセンサの調査を行った。プラズモンセンサは伝搬 8.4 色素増型太陽電池 型と局在型に大別されるが、それぞれの方式での産業界の取 セルの変 換効率はシャープが 新 規 Ru 錯体色素を用いて り組みを紹介する。主に生化学・医学の分野で実用化へ向け 20 技術情報レポート 2012年度OITDA 11.9%(1.005cm 2)、ローゼンヌ工科大学ではZnポルフィリン色 Conditioning System-交流出力盤-高圧変圧器盤-電力会 素と共増感剤を用いCoベースの電解質で1sunで12.9%、東大 社高圧系統へ連係となる。事業に当たっては20年という長期 は赤色色素(N719)のセルと新規高効率広帯域増感色素のセ 事業であるため、発電量の劣化・設備故障・災害などの事業リ ルを組み合わせたタンデムで12.5%を得ており、着実な進展が スクを考慮する必要がある。また、日常的には目視点検などの 見られている。モジュールの変換効率は2011年度以来更新は メンテナンスが重要になる。 出ていない。また、耐久性に関しても検討が進展しつつある。 8.9 アジア諸国の開発動向 尚、色素増感太陽電池を搭載したi-Pad用ワイヤレスキーボード 中国の生産能力は結晶Si系で24GW、薄膜系で3GWなどに (屋内用)が販売された。 なっているが、国内導入量は5GW弱程度になっており、また、 8.5 有機薄膜太陽電池 欧米のアンチダンピングの影響を受けて輸出量も大幅に減少し 低発電コストが期待できるので材料から製造方法まで研究 ており、在庫が増加している。このため、国内市場の更なる拡 開発が盛んに進められている。実用化に向けては変換効率向 大に向けて政策を打ち出している。 上に加えて耐久性の向上やモジュール開発が必要である。変 台湾の生産能力は9GWになっているが、中国の低価格戦略 換効率はUCLA&住友化学が高分子塗布型タンデムセルで の影響で苦境に立たされている。生き残りを掛けて川上から川 10.6%、Heliatek社が低分子蒸着タンデムセルで10.7%、モ 下の統合、また、横方向でも合併が始まっている。更に、メガ ジュールで9.0%を記録した。この変換効率向上に向けて無機 ソーラー建設にも触手を伸ばし、輸出先を確保するなどが進め バッファ層を用いた逆構成、発電層に添加物を添加、プラズモ られている。 ン共鳴などが研究されている。また、モジュール化技術として 9. 光有機材料・デバイス(第8分科会) フィルム基板へのロールtoロール、大面積均一蒸着、レーザに エレクトロニクス分野のみならず、自動車、航空機といった分 よる精密スクライブなどがキーになっている。 野においても、電子材料や機能性化学材料を中心とする高付 8.6 超高効率太陽電池 加価値材料の開発で日本は存在感を示している。本分科会で Ⅲ-Ⅴ系集光型太陽電池は、Solar Junction社が一部のエピ は、日本の強みを活かせる将来技術を広く調査することを目的 タキシャル成長にMolecular Beam Epitaxyを用いて高品質な として、光有機デバイスとその材料に関連する技術動向をまと 低バンドギャップ層を成膜する手法により変換効率44%を記録 めた。 した。また、Azur社は43.3%と変換効率は若干劣るものの従 光有機デバイスの将来は、その特徴を活かせるフレキシブル 来技術の延長で量産できると推定され、2013年度には上市が デバイスへ向かうと考えられ、日本は、基盤となる材料技術、 想定されている。尚、2012年初頭に、Amonix社による30MW 機械・印刷・プロセス技術において、企業個別単位で非常に強 集光型太陽光発電プラントが竣工した。 い技術力を有している。当面は、立ち上がりの早い照明・エネ 第3世代太陽電池は、タンデム型ではCyrium Technologies ルギーへの関心が高く、これらの分野の開発に注力されて行く 社はInGaP/GaAs(InAs量子ドット)/Geの3接合セルで500 と予想されるが、センサー・バイオといった分野への取り組みが 倍集光時に変換効率40%を達成している。材料としては安価 広がることを期待している。一方、米国や欧州でも地域を越え なSiを使うアプローチもある。中間バンド型ではRochester た連携で研究が進められており、これらの取り組みに遅れを取 Institute of TechnologyとNRELは400倍集光時に変換効率 らぬよう、産学官の連携、企業間・国際間の連携、国際標準化 18%台を達成した。 なども含めた活動を推し進めて行く必要がある。 8.7 評価技術 9.1 有機発光材料 性能評価関連で、IEC 61853シリーズの審議が進んでおり、 低分子系、及び、高分子系有機EL発光材料について調査し 温度照度依存性測定IEC 61853-1が発行、分光感度・入射各 た。低分子系材料では、高色純度化が進展し、TVの色規格に 依存度・動作温度測定法IEC 61853-2が承認された。他に、 近づく実用的な性能を示しつつあり、高分子系材料でも課題の 集光型太陽電池性能・発電量評価などの審議が進められてい 効率、寿命特性が大幅に改善されてきている。一方、熱活性化 る。太陽電池性能評価の測定・校正精度は結晶Si型が1~2 遅延蛍光を利用した新規発光材料の研究が進められ、100% %、薄膜や多接合型が3~5%の場合がある。これらの精度向 に迫る内部量子効率が得られている。 上が課題になっている。 また、力学的な刺激により繰り返し発光する応力発光材料 が見出され、構造物の劣化検査や、光治療・光診断などへの応 8.8 メガソーラー技術 用が検討されている。 2012年7月に再生エネルギー導入促進を主目的に固定価格 9.2 有機半導体材料 買取制度(FIT)が施行され、本格的なメガソーラー構築の幕 開けとなった。FIT認定は2012年11月時点で524件1.4GWで、 低分子塗布型、及び、高分子系有機半導体材料ついて調査 2012年度内には1,200件2GWを超える状況が予想されている。 した。新規な塗布法、プロセスによって配向を制御し、材料本 システムは、太陽電池モジュール-接続箱-集電盤-Power 来の特性を発現させる技術などの進展があった。今後、高性能 技術情報レポート 2012年度OITDA 21 光技術動向調査 なデバイスにつながると期待される。また、自己組織化能を活 ルのガスバリア性の評価では、様々な方式の装置開発、性能向 かして膜の高次構造が制御できる液晶性有機半導体材料が注 上が図られているが、測定精度や測定時間などの面での課題 目されてきており、発光デバイスや光電変換デバイスへの応用 も残っており、装置内部の吸脱着ガスの影響の検証、各測定手 研究が進んでいる。 法間の相関関係の明確化などが待たれる。 9.3 透明導電性材料 -ITO代替材料- 10. 特許動向調査委員会 10.1 光技術に関する特許動向調査 レアメタルの供給問題やフレキシブルデバイスへの要求など 昨年度と同様、ワーキング・グループ別に調査・分析を実施し から、ITOの代替となる透明導電性材料技術の動向が注目さ た。光通信ネットワーク、光メモリ、ディスプレイ、太陽光エネル れている。 PEDOT/PSS[Poly(3,4-ethylenedioxythiophene)/poly ギーの各産業分野の特許出願動向の定点観測に加え、光技術 (4-styrenesulfonate)]系導電性高分子材料の高導電化、 のトピックスとして、本年度はマルチコアファイバ、非線形補償 金属ナノワイヤーなどの様々なメタル系導電性材料の開発、及 技術、MZ型光変調器の制御、太陽電池本体材料(化合物半 び、エレクトロマイグレーション耐 性に優れる新炭 素 材 料 導体)を取り上げ、その詳細な特許動向分析を実施した。 (CNT、グラフェン)の透明導電膜への応用研究などが進んで 10.2 特許庁との懇談会(2012年12月21日) いる。 特許庁からは特許審査第一部 中田 誠 光デバイス 審 9.4 光伝送用透明材料 査監理官はじめ5名の方々にご出席いただき、特許動向調査 プラスチック光ファイバでは、より低損失化を目指し、重原子 委員会からは、児玉委員長はじめ11名の委員が出席した。本年 置換したグレーディッドインデックス型光ファイバや、全フッ素 度は、当協会より、 「光技術産業の特許出願動向と特許庁への アモルファス樹脂を用いた光ファイバなどの開発が進んでい 要望」と題して児玉委員長が講演を行なった。 る。ポリマー光導波路についても、低コスト化を含めた技術課 また特許庁より、“今後の特許審査の重点施策”と題して、中 題の解決に向けた動向が見受けられ、各コンポーネント間の接 田審査監理官に講演いただいた。その後、これら講演内容をふ 続損失低減や位置ずれに対するトレランスを確保できる自己 まえて、出席者間で熱心な意見交換が行なわれた。 形成光導波路などが検討されている。 10.3 特許フォーラム(2013年3月1日) 9.5 クロミック材料 本年度の特許動向調査結果の報告と特別講演からなる光協 エレクトロクロミック材料では、太陽エネルギーの透過量を 会特許フォーラムを2013年3月1日に学士会館(東京都千代田 制御し、部屋の冷暖房効率を向上させる調光ガラスへの展開 区)で開催した。賛助会員、一般参加、合わせて約80名の方々 が注目を集めている。ボーイング787の窓へ標準搭載されるな に出席いただいた。 ど、環境負荷低減の方向性とも併せて飛躍的に発展が期待さ 本年度は特別講演として、元キヤノン㈱ 専務取締役で金 れている。また、フォトクロミック材料の新しい機能が発見・開 沢工業大学客員教授の丸島儀一弁理士に、 「企業における特 発され 、フォトメカニカル機能を用いた光 駆 動アクチュエー 許戦略のあり方(技術で企業を強くするために)」のご講演を ター、金属原子に対する蒸着選択性を利用した電極パターニン いただいた。 グ、高機能回折格子などへの応用展開が試みられている。 11. 高効率スペクトル活用光通信技術に関す る調査研究 9.6 光有機デバイス加工関連技術 11.1 背景 プリンテッドエレクトロニクス向けの加工技術として、ロール 状モールドやロール式ナノインプリント装置など、特にロールツ 平成24年度の光産業技術調査研究事業の一環として「高効 ロール製造を目指したプロセス技術や装置技術が進展してい 率スペクトル活用光通信技術に関する調査研究」をテーマに、 る。また、透明性、表面平滑性に優れたプラスチック基材やロー 光技術の応用可能性、プロジェクト化可能性について調査・研 ルツロール製造に対応する超薄板ガラス、高解像フォトレジス 究を実施した。 ト及び多重パターニングなどの微細化技術、光照射によって自 インターネットの発展と共に急増するデータトラフィックは、 在に脱着・接着が行える新しい接着剤などの関連材料・プロセ 近年のスマートフォン、クラウドコンピューティング等の普及によ ス技術の開発も進んでいる。 り益々激化する傾向にある。現在、デジタル・コヒーレント 100Gb/sが実用化され、次世代の超大容量トラフィックに対応 9.7 光有機デバイスの共通課題 する通信ネットワーク(データセンタ含む)を実現していくため 光有機デバイスの性能、信頼性・安定性の向上のためには、 には、100Gb/s超の光信号を高効率で経済的に収容する革新 その評価技術の開発も重要である。有機半導体の評価では、 的な技術が必要となる。このような状況に対し、2008年頃から これまで困難であった空準位を精密に測定できる近紫外逆光 日本が世界に先駆けてコンセプトを提唱している「エラスティッ 電子分光法が開発され、新規な高性能材料開発への活用が期 ク光パスネットワーク」があり、このコンセプトへの動きは北米 待されている。また、光有機デバイスが必要とする高度なレベ や中国などでも近年活発になっている。当協会では、光技術動 22 技術情報レポート 2012年度OITDA 向調査委員会第2分科会(光通信ネットワーク)の平成23年度 ◦フレキシブル光スイッチ・デバイス技術 活動において、次のブレークスルー的テーマとして、この「エラ ◦大規模光スイッチ・デバイス技術 スティック光パスネットワーク」「フレキシブル光ノード」「大規 ◦ ODUクロスコネクト技術 模光スイッチ」等を抽出した。しかしながら、それらのキーとな ◦小型実装技術 る光スイッチ技術については、この数年海外の後塵を拝してい ◦ネットワーク制御/管理関連技術 る現実がある。 高機能光ノードのアーキテクチャは、CDC(Color-less, このような状況に鑑み、今年度は新コンセプトのネットワーク Direction-less, Contention-less)-ROADMからさらに、 を実現するための適応型光ノード及び大規模光スイッチに着目 Grid-lessで固定波長gridからの開放されることにより、今 し、将来技術を掘り下げて調査するために、 「高効率スペクトラ 後、エラスティックネットワークに向かって進展していくと考え ム活用光通信技術」に関する調査研究を実施した。本調査研 られる。今後の主な訴求ポイントは、⑴大規模化、⑵収容効 究では、次世代の大容量光ネットワークの将来像を描くととも 率の向上、⑶省電力化である。これに対応して、フレキシブ に、それを経済的に実用導入していくために開発すべき技術を ル光スイッチ・デバイス技術、大規模光スイッチ・デバイス技 抽出することを目的とする。 術、ODUクロスコネクト技術、及びそれらの小型実装技術の 本調査委員会では、名古屋大学大学院の佐藤健一教授を委 研究開発が、国内外で著しい発展を遂げている。但し、CDC 員長に迎え、光ネットワークに関わる大学、通信キャリア、シス やGrid-less ROADMに対応するWSSや大規模光スイッチ テムベンダ、光部品ベンダの研究者・技術者、及び光協会事務 など、日本は北米などの海外勢に先行されているのが現実と 局を加え、総勢17名からなる組織で調査研究を実施した。通算 なっている。2005年頃までは、PLCのROADM、AWG或い で4回の調査委員会を開催し、第1回委員会では、より専門的 は半導体光デバイスなどで世界の光通信ネットワークを先導 な技術内容について、香川大学の神野正彦教授を招き討論会 して来た日本の技術力を今一度復活させ、次世代のエラス を実施、第2回以降は、各委員で分担した下記調査内容につい ティック光ネットワーク、そしてデータセンタ光化ネットワーク て活発な議論を行った。 において、デバイスからシステム、ネットワーク制御に至る事 業化を産学官連携にて進めていくべきであろう。 11.2 調査研究結果 11.3 まとめと今後の展開 ⑴ 次世代ネットワークにおける光ノード技術 高機能化光ノード(ROADM)構成技術、大規模光スイッ 本調査研究では、高効率スペクトラム活用による大容量光 チ構成技術及びデータセンタ光化技術に代表される次世代 ネットワークの将来像を描くとともに、新しい光技術領域「エラ 光ノードの実用化に向けた技術調査を行った。 スティック光パスネットワーク」と融合した光のルーティング機 キャリアネットワークにおいては、フレキシブル・グリッドの 能に着目し、次世代のフレキシブルで超大容量な光ノード技 ROADMを用いたエラスティック光ネットワークの研究開発 術・光スイッチ技術並びに関連する各種要素技術群に関する が、世界的に大きな潮流となっている。ハードウェアのテーマ 調査研究結果をまとめた。また、これらを経済的に実用導入し としては、 マルチレート/マルチリーチ/マルチフローのトラン ていくために開発すべき課題の抽出を行なった。 スポンダ、帯域可変パスクロスコネクトスイッチが重要であ 今後の課題として、超大容量の伝送を担うコアネットワーク、 る。また、収容効率を向上するためのネットワーク・デフラグメ 変動性の高い大量のトラヒックを扱うモバイルバックホール・ ンテーションやフレキシブル・グリッド・ネットワークの制御が ネットワーク、データセンタ・ネットワーク構成技術並びにそれら 重要なテーマである。光ノードアーキテクチャとしても、シリコ を相互に接続する仕組みとして、柔軟で高効率な光ネットワー ンフォトニクスを用いたトランスポンダ・アグリゲータを適用し キングが重要になる。特に、データセンタのサーバ間接続ノード たCDC-ROADM、OTN/WDMネットワークの共有メッシュ・ には、多ポート性(1000ポート規模)、データ粒度に対する可変 レストレーション、大規模光クロスコネクトのノード構成など、 性(フレキシブル光パス粒度)等を満足する新規光スイッチノー 新しいアーキテクチャやハードウェアが提案されている。 ド技術が必要になると考えられる。 データセンタ・ネットワークにおいては、近年のデータセン これまで、日本はコアネットワーク向けのAWG、メトロ・リン タ光化技術の調査結果を述べ、要求される性能、トラフィッ グネットワーク向けのPLC-ROADMなどで世界の光ネットワー ク予測、消費電力予測、Proteusなど光を導入したネットワー ク技術をリードしてきたが、最近では空間光学系用いて波長を クのアーキテクチャについて述べた。また、このような新しい ハンドリングするWSS技術において、海外に後れをとっている アーキテクチャを導入した場合の、消費電力及びコスト削減 のが現実である。今後は、メトロ・アクセス向けのエラスティック の効果について見積もった。 ネットワーク、及びデータセンタ・ネットワークに適用できる大規 ⑵ 実用化に向けた必要用件及び開発すべき技術項目 模光スイッチ技術・ネットワーク技術が狙うべきターゲット領域 1項で述べた次世代光ノード技術の実用化に向け、以下 となる。前述のWSSは高機能なデバイスではあるが、空間光学 の技術項目を洗い出し、それぞれについて最新の研究開発 系に依存しているためにその大規模化は極めて困難と考えら 動向を調査した。さらに、これらの調査結果を基に、今後開 れ、今後の新たな技術開発が必要である。 ノードのスループットの拡大とともに消費電力の削減が将来 発すべきテーマを絞り込んで行くこととした。 ◦高機能光ノードアーキテクチャ 技術情報レポート 2012年度OITDA の通信ネットワークにとって重要な課題である。米国のデータ 23 光技術動向調査 センタの消費電力を例にとると現在米国内の総発電電力の2 %強を消費しており、10年後にはその割合は4%を超えると予 測され、大きな課題となっている。データセンタ内のトラフィッ ク流通量はグローバルなIPネットワークのトラフィック総量の約 4倍に達しており、データセンタ内光スイッチ技術が極めて重 要な研究課題と言える。L2/L3のトラフィックを光でオフロー ドし、スイッチング電力を大幅に低減できる技術が、これから 開発すべき重要なテーマの一つである。 また、プロジェクト化の観点から、データセンタ向けノードに おける光レイヤでの高効率ネットワーキング技術とその実現デ バイス並びにスマートワイアリングを含む各種要素技術に関す るプロジェクトは未着手である。デバイス・装置・NW方式技術 を一気通貫した産学官連携の研究開発体制を構築し、出口戦 略を見据えた技術開発を早急に開始する必要がある。 24 技術情報レポート 2012年度OITDA