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月次レポート 平成 26 年 12月 31日 大手銀行株を圧迫する日本郵政の

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月次レポート 平成 26 年 12月 31日 大手銀行株を圧迫する日本郵政の
月次レポート
平成 26年 12月 31日
大手銀行株を圧迫する日本郵政の上場
高配当期待で海外勢などがシフト、全体株は国策期待も
日本郵政グループの株式上場計画では、日本郵政と傘下のゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の 3社が来年 9
月前後にも同時上場する公算となったが、既存の大手銀行株にはマイナス材料として警戒される。約 8兆-
10兆円もの大型上場は需給悪化要因となるほか、3.5%
とも想定される高配当への期待感が海外勢を中心に既
存保有の大手銀行株処分と郵政株シフトを促しやすい。一方で大株主である政府=財務省は復興財源の捻出
を含めた財政危機対策として郵政上場を重要視しており、全体株は「国策」による株高維持策が期待されよ
う。
8-10兆円の大型上場、需給悪化に警戒
「日経平均株価は来年 3月にも 2万円の大台回復が見込まれるが、日本のメガバンク株は来秋の郵政上場
が重石となる」――。
大手米系証券の日本株担当幹部はこのような指摘を行う。郵政グループの上場では、ゆうちょ銀行を中心
に「3.5%の高い配当利回りが期待される」
(同)という。そのため、海外の年金、保険、投信、政府系ファン
ドといった長期保有型の外国人投資家は、
「現状段階から既存保有のメガバンク株に戻り売り圧力を強め、来
年 9月前後に想定される郵政株へと資金をシフトさせる」(同)可能性があるという。
東証の銀行業指数は現状、平均の配当利回りが実績ベースで 2.4
6%、予想ベースで 2.58%前後となってい
る。その比較でいえば、ゆうちょ銀を含めた郵政株は長期保有で魅力的だ。最近の銀行関連の大型上場とし
ては、20
06年 11月 14日のあおぞら銀行があった。同行の配当利回りは現在の直近ベースでも 3.9%前後と
高めの水準にあり、上場当時の資金調達額(資金吸収額)は約 3800億円となっている。
その「あおぞら銀行」が上場した 20
06年 11月には、前段階で需給悪化や既存銀行株からの資金シフト懸
念もあって総じて銀行株は軟調に推移した。全体株の低調さを含めた複合的な要因があったとはいえ、上場
3カ月前の 200
6年 8月 1
4日から上場の 11月 14日にかけての 3カ月間で、東証・銀行業指数は-8.1
3%の
下落となっている。
同期間中に大手銀行株では、新生銀行株が-1
3.15%、りそなホールディングス(HD
)の株価が-1
0.97
%、
三菱 UFJフィナンシャル・グループ(FG
)が-1
0.00
%、みずほ FGが-9.3
4%と大幅なマイナスを記録。一
方で三井住友 FGは、-3
.15%と影響が限られていた。前年末の 2
005年 12月末から 2006年 11月 14日まで
の騰落率でも、東証・銀行業指数は-11.02
%のマイナスとなっている。今回も来年 9月前後の郵政上場に向
けて、大手銀行株の戻り売り圧力が警戒されやすい。
また、全体株への影響としても、日本郵政による約 8兆-10兆円もの大型上場は需給悪化要因となる。郵
政グループの将来成長に関しても、郵便サービス、銀行、保険業務ともに、国内市場の縮小や民間との競争
激化、目新しい成長戦略の乏しさなどから、収益の伸びシロには疑心暗鬼が根強い。さらに過去の N
TTや JT
などの例もあり、上場後も政府が一定の株式を保有し続け、将来、追加で売り出されるという需給悪化も警
戒される。
もっとも日本郵政の大型上場は、日本株市場や日本の関連業界には活性化のプラス要因となるものだ。す
でに日本郵政グループは今年 2月、2016年度を最終年とする 3年間の中期経営計画を発表し、総額 1兆 3000
億円を投資する計画を明らかにした。株式上場を見据えて企業価値を向上する必要があるという判断により、
IT投資や経営基盤の強化、提携の推進などを一段と進める方向を示している。
新規投資の内訳は、施設・設備投資 5500億円、システム投資 4900億円、ネットワーク高度化に 16
00億円
などが含まれ、株式市場では ITシステム関連を中心に引き続き個別の物色テーマとなりやすい。すでに日本
郵政の関連業務を担う電算システムの株価は、足元で新高値を更新してきた。
郵政上場は貴重な政府財源、「国策」株高維持の期待も
同時に日本郵政グループ 3社の大型上場は、全体株の市場エネルギー復活や NIS
A(少額投資非課税制度)
の一段の拡充期待などとあいまって、個人を含めた新規投資マネーを株式市場に呼び込む触媒となる。日本
株市場では大手銀行株の上値が抑えられる分だけ、日銀異次元緩和を受けた国内余剰マネーや、米国株の高
値を警戒した利食いマネー、あるいは欧州や新興国のリスクを警戒したグローバルなリスクマネーが、日本
の証券株や、その他金融株などの内需関連株にシフトされる余地が残されている。
同時に日本郵政の上場は、大株主である政府=財務省による全体株の「国策」株高維持への期待感を高め
ていく。実際、ある官邸関係筋は「財務省は来年 10月からの消費税 1
0%再増税が延期された今、来年 9月
前後に予定される日本郵政の上場成功に全力を注ぐ構えで、それまでは政策的な株式市場への配慮が持続す
るのではないか」という見通しを示す。
日本郵政による 2014年 3月末時点の連結純資産は 1
3兆 3388億円であり、NTTの約 11兆円を上回り、ト
ヨタの約 15兆円に迫る規模となっている。100%の株式を持つ政府は 2022年までの 7年間で約 4兆円の売却
収入を見込み、震災の復興財源などに充てる皮算用だ。財政赤字への懸念を強める財務省にとり、貴重な歳
入源と期待していることは間違いない。
同じように民営化のあと、1987年 2月に上場された NTTの実績でいえば、あくまで結果論ながらも日経平
均株価は 1年前の 1986年 2月安値から 19
87年 2月の高値まで+57.9
%の上昇ラリーが形成された。日経平
均の株価水準でいえば、上場 1年前の 1986年 2月安値が 1万 3046円であり、上場時の 1987年 2月高値が 2
万 0597円、その勢いのまま同年 10月には 2万 6646円まで株高のモメンタムに拍車が掛かっている。今回も
来年の 2万超えの一つの材料として、日本郵政の上場は注目されるものだ。
また、1993年 10月に上場された JR東日本のケースでも、日経平均は前年同月の安値から上場月の高値ま
で+23.1
%の上昇となっている。公的な株価対策の介在はともかく、来秋の日本郵政上場にかけては直接的・
間接的な「国策」による株高トレンドの継続が注目されよう。
なお、日本郵政については、11月に解党した「みんなの党」が日本郵政の株式売却にあたり、同社の保有
資産の一部を国庫に返納させて復興財源に充てる独自案を提案してきた。今年 7月には当時の浅尾慶一郎代
表が菅義偉官房長官に実現を直談判したが、浅尾氏の主張は以下の通りとなっている。
現在、日本郵政の帳簿上の純資産価値は 12兆 4000億円で、日本郵政の株主は日本国政府ただ一人の状態
にある。日本郵政が 1
00%株式を保有するゆうちょ銀行の帳簿上の純資産は 11兆円であり、1
2兆 4000億円
の日本郵政の純資産の大部分はゆうちょ銀行のものということになる。
問題は 12兆 4000億円の純資産を有する日本郵政の株式を上場して売却した場合、いくらの値段で売れる
かということだ。利益の成長性が見込める会社の場合は、当期利益の 10何倍もの価格で株価が形成される。
しかし、日本郵政の場合は、利益の大半をゆうちょ銀行に依存しており、利益の成長性も高いわけではない。
ゆうちょ銀行の純利益目標は 2200億円であり、何年分の利益で株価が決められるかを想定した場合に、参
考になるのは同種の業種だ。ゆうちょ銀行に一番近いのはメガバンクだが、メガバンクは利益の 10倍程度が
平均の株価となっている。つまり、年間 2200億円稼ぐ「ゆうちょ銀行」の時価総額は 2兆 20
00億円程度と
なることが想定される。12兆 4000億円の純資産が株式を公開すると、たったの 2兆 2000億円にしかならな
いとなれば大問題となる。
このことを解決するためには、ゆうちょ銀行が持っている 11兆円のうち、5兆円を日本郵政の上場前に国
庫に「配当」してしまえば良い。ゆうちょ銀行は、金利変動リスクや信用リスクに対応するために十分な資
本を残しても、5兆円程度は減資をすることが可能だ。そうすれば、日本郵政を経由し、政府に復興財源と
して 5兆円の臨時収入を渡すことが出来る――。
以上が浅尾氏の説明となっている。別の見方をすると、ゆうちょ銀行が内包する潜在的な配当余力は、上
場後の高配当期待として注目されそうだ。
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