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2008年10月/刑事弁護人の役割とマスコミ報道〈PDF〉
LEGAL REPORT 「刑事弁護人の役割とマスコミ報道」 2008.10.23 ■ 猪木・手島法律事務所 弁護士 猪 木 健 二 はじめに 本的人権を保護すべき使命 山口県光市で起きた母子 をも有しているのであっ 殺害事件。テレビ番組で、 て、そのような職責を全う 弁護団の活動のあり方に疑 すべき弁護士の活動が多数 問を呈し、懲戒請求を呼び 派に属する民衆の意に沿わ かけた橋下徹弁護士に対し ない場合があり得る。多数 て 、平 成 2 0 年 1 0 月 2 日 、 の者が懲戒請求をしたこと 広島地方裁判所は合計80 をもって懲戒相当性を認め 0万円の損害賠償を命ずる る こ と は で き な い 。」 判決を下しました。 ここで指摘されているよ その判決には、①弁護士 うに、弁護士は少数派の人 平成4年4月 の基本的な性格、②刑事弁 権を守る基本的な職責を負 ( 登 録 番 号 22432 ) 護人の役割が如何なるもの っており、これは多数決原 平成7年4月 なのか、③マスコミ報道は 理とは相容れない性格のも どうあるべきかなど、興味 のなのです。 ■ □弁護士登録 □事務所設立 □主な経歴 S39.07.03 岡山市生まれ 深い内容が含まれているの S58.03 芳泉高校卒 で紹介します。 S62.03 岡山大学法学部卒 ■ H01 司法試験合格 H02.04 H04.04 刑事弁護人の役割 内容が荒唐無稽であり主 弁護士の基本的役割 張自体許されないことをも 懲戒請求を呼びかける行 って懲戒事由となり得るの 司法研修所入所 為について、結果的に多数 でしょうか。この点につい 弁護士登録 の懲戒請求がなされたこと て裁判所は次のとおり判示 しています。 H07.04 猪木法律事務所開設 を根拠に違法性はないと判 H13. 岡山弁護士会住宅紛争 断できるのでしょうか。こ 「憲法及び刑事訴訟法等 審査会・紛争処理委員 の点について、裁判所は次 の諸規定に照らせば、被告 のように判示しています。 人は有罪判決が確定するま 「弁護士法1条1項に、 では無罪の推定を受け、弁 弁護士は、基本的人権を擁 護人はそのような被告人の 護し、社会正義を実現する 保護者としてその基本的人 ことを使命とすると規程さ 権の擁護に努めなければな れていることから明らかな らない。また、弁護士法1 H18.08. ~ 手 島 弁 護 士 と 事 務 所 合 ように、弁護士は議会制民 条は、1項において、弁護 併「猪木・手島法律事 主主義の下において、そこ 士 は 、基 本 的 人 権 を 擁 護 し 、 に反映されない少数派の基 社会正義を実現することを 登録 H14.02.01 ~ 岡 山 県 建 設 工 事 紛 争 審査委員 岡山弁護士会副会長 H17.04. H18.05. ~ 日 弁 連 ADR 委 員 会 委 員 務所」に -1- な ど を 指 摘 し て い る 。」 使命とすると規定し、2項 否かという問題について、 において、弁護士は、前項 当該説明がどのように報道 結果的に、マスコミ報道 の指名に基づき、誠実にそ されるかは予測困難である の問題点が浮き彫りにされ の職務を行い、社会秩序の として、一般市民に対し説 た形となりました。 維持及び法律制度の改善に 明をすべきであるとは断定 ■ 努力しなければならないと しませんでした。 その判断のなかで、放送 規 定 す る 。( 略 )」 最後に 私は、この判例の紹介を 通じて、被告人の主張の適 倫 理 ・ 番 組 向 上 機 構( BPO ) 否、弁護団の活動の適否、 士は依頼者に対するいわゆ 放送倫理検証委員会が本件 あるいは橋下弁護士の言動 る誠実義務を負い、弁護士 刑事事件に関する33のテ の適否を議論する材料を提 としては被疑者・被告人の レビ番組について調査・作 供したいのではありませ ために最善の弁護活動をす 成した意見書に次のように ん。 る使命・職責があり、被告 触れています。 人の主張内容が不合理で荒 「同意見書は、本件刑事事 弁護士の基本的性格、刑事 唐無稽なものであったとし 件に関する上記番組がすべ 弁護人の基本的役割、マス ても、被告人がその主張を て コミ報道のあり方などにつ 「以上に照らせば、弁護 この判決の理由の中に、 維持する限り、上記使命・ ①「 被 告 ・ 弁 護 団 」対「 被 いて、考えさせられる指摘 職責を果たすには少なくと 害者遺族」という対立構図 がなされているので参考に も被告人の主張を無視した を描き、感情的に前者の荒 なさっていただきたいと思 り、これに反する主張をす 唐無稽さと異様さに反発 うのです。 ることはできないと判断さ し、後者に共感するという 平成21年5月から裁判 れ る 。」 単純な対比的手法を用い、 員制度が始まります。この 「少なくとも弁護人が被 事件それ自体の理解にも犯 判決を契機に、刑事弁護人 告人の意向に沿った主張を 罪防止にも明らかに役立た を含む弁護士の基本的役割 する以上、それは弁護士と ない内容であったこと、 や司法制度に対する一層の しての使命・職責を果たし ②当事者主義や弁護士の 理解が深まることを望んで たと評価することが可能で 役割など刑事裁判に関する やみません。また、マスコ あり、それ自体が違法行為 前提的知識を欠いていたこ ミもその報道のあり方を今 を構成するような場合は格 と、 一度見直す必要があるよう に思います。 別、その主張内容が荒唐無 ③事件・犯罪・裁判報道 稽であるなどということが の基本的役割、少年事件に なお、判決の全文は、光 弁護士としての品位を損な おける量刑基準のあり方に 市事件懲戒請求先導問題弁 う非行に当たるなどとはと ついての議論、被告の内面 護 団 広 報 ペ ー ジ ( HP ) に うていいうことができな や人間像を洞察することの 掲載されています。 い 。」 重要性など全体的な視野を ■ 志向する意識が希薄又は欠 マスコミは公平な報道 を行ったか 落し、いびつで偏った内容 判決では、弁護人はその であり、公正性・正確性・ 担当する事件について一般 公平性の原則がいずれも満 市民に対し説明をすべきか たされていなかったこと -2- 2008.10.23