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数理解析特論 D 講義ノート
数理解析特論 D 講義ノート 2016 年後期 広島大学 吉野正史 常微分方程式の解の存在と一意性 微分方程式の解を調べるにあたり、まず大切なのは解の存在定理と一意性定理である。以下ではこれ を簡単にまとめる。D = {x ∈ Rn ; ∥x − x0 ∥ ≤ d} とする.このとき、次の定理が成り立つ. 定理1 f ≡ f (t, x) は f : [t0 − a, t0 + a] × D → Rn なる写像として連続であって、x について Lipschitz(リプシッツ) 連続とする.この時、初期値問題 (1) x′ = f (t, x), x ∈ D, |t − t0 | ≤ a x(t0 ) = x0 , は長方形領域 (R) |t − t0 | ≤ α ≡ min(a, d/M ), M = sup[t0 −a,t0 +a]×Ω ∥f (t, x)∥, x ∈ D, において、t について連続微分可能な解を持つ. この解は、一意的である。 一意性 解の一意性はつぎの Gronwall の不等式を用いる. 定理2 a > 0, δ1 > 0, δ2 > 0 とする.t0 ≤ t ≤ t0 + a で非負の連続函数 x(t), y(t) が次の不等式を 満たすとする. ∫ t x(t) ≤ δ1 x(s)y(s)ds + δ2 , t0 ≤ t ≤ t0 + a. ( ∫ t ) x(t) ≤ δ2 exp δ1 y(s)ds , t0 ≤ t ≤ t0 + a. t0 この時次が成り立つ. t0 Gronwall の不等式から次を示せる。 系 I = [a, b] とし、τ ∈ I とする。この時、I 上の実数値連続関数 u(t) が、定数 c ≥ 0, L ≥ 0 にた いして、不等式 ∫ t 0 ≤ u(t) ≤ c + L u(s)ds , t ∈ I τ をみたせば、I 上で、0 ≤ u(t) ≤ ceL|t−τ | が成り立つ。 一意性の証明 (1) に対して連続微分可能な解 ψ(t), ϕ(t) が存在したとする. この時これらはまた (2) の解である.すなわち ∫ t ∫ t ψ(t) = x0 + f (s, ψ(s))ds, ϕ(t) = x0 + f (s, ϕ(s))ds. t0 t0 一般性を失うことなく t ≥ t0 とする.t < t0 の場合も同様に行うことができる. これらの両辺を引い て Lipschitz 条件を用いると、任意の δ2 > 0 に対して ∫ t ∫ t ∥ψ(t) − ϕ(t)∥ ≤ K ∥ψ(s) − ϕ(s)∥ds ≤ K ∥ψ(s) − ϕ(s)∥ds + δ2 . t0 t0 従って δ1 = K, y(t) ≡ 1, x(t) = ∥ψ(t) − ϕ(t)∥ として Gronwall の不等式を用いると ( ∫ t ) ∥ψ(t) − ϕ(t)∥ ≤ δ2 exp K ds = δ2 eK(t−t0 ) . t0 1 従って、δ2 ↓ 0 として ∥ψ(t) − ϕ(t)∥ ≤ 0. 従って ∥ψ(t) − ϕ(t)∥ = 0. 系 f (t, x) が領域 R において、(t, x) について C r 級 (r ≥ 1) ならば、解 X(t) は I 上の C r+1 関数で ある。 証明は、帰納法による。あるいは直接、証明することもできる。 解の接続 微分方程式 (3) x′ = f (t, x) において f (t, x) は Rn+1 内の開集合 G において連続であって、かつ x についてリプシッツ条件を満 足すると仮定する. その時次の定理が成立する. 定理 3 G 内の任意の点 (t0 , x0 ) を通る初期値問題 (1) の解は、解曲線が G の境界に達するまで延長 することができる. 証明 t = t0 で初期値 x(t0 ) = x0 を満足する (3) の解を t > t0 の方向に接続する場合を考察するが、 t < t0 方向に接続する場合も同様に議論することができる. 定理 1 によって x0 から出発する解曲線が t < b まで G 内の有界閉集合に存在したとする. その時 limt→b x(t) が存在することを示す. 実際、コ ンパクト性より、集積点は存在する. これがただひとつであることを言えばよいが a < t < s < b とす るとき、微分方程式 (3) と f は G 内の有界閉集合上で有界であることにより ∫ t |x(t) − x(s)| ≤ f (τ, x(τ ))dτ ≤ M |t − s|. s 従って極限は存在すればただひとつである. よって、x1 = limt→b x(t) とおけば (b, x1 ) ∈ G である. 微分方程式と同値な積分方程式 (2) を考えるとこの時 t ≤ b まで解は延長されることがわかる. この ためには、積分方程式の両辺で、極限を取ればよい。他方定理1より (b, x1 ) ∈ G を通る解曲線は存 在してただひとつであるので解曲線はさらに延長できることがわかる. 従って、解曲線は G の境界に 達するまで延長することができる. 以下では特に断らない限り微分方程式の解というときはこのように延長された解を考えることにす る。 このような解を極大延長解と言う。 自励系 定理 ẋ = f (x) の x(τ ) = ξ となる極大延長解を x(t, τ, ξ) とする。この時、x(t, τ, ξ) = x(t − τ, 0, ξ) である。したがって、解曲線は初期時刻に依存しない。 このことより、自励系では初期時刻は、t = 0 としておいてよい。自励系において、点 ξ を通る最大 延長解のつくる曲線を積分曲線という。その像を軌道という。 証明 ϕ(t) = x(t − τ, 0, ξ), t − τ = s とおく。このとき、 d d ϕ(t) = x(s, 0, ξ) = f (ϕ), dt ds であり、ϕ(τ ) = x(0, 0, ξ) = ξ であるので、解の一意性より、求める式が成り立つ。 √ リプシッツ条件を満足しない方程式の非一意性 方程式 y ′ = 2 y を考える。この方程式の右辺は、 y = 0 でリプシッツ条件を満足しない。この時、一意性が成立しないことをしめそう。 一般解は y = (t + c)2 (c は定数) である.c = 1 として特殊解 y = (t + 1)2 を得る. 他方 y = 0 は一 般解で定数 c をどのように与えても得られない解であり、特異解である. また y = 0 (t ≤ a), = (t − a)2 (t > a) 2 も特異解である. ここで a は任意の数である. これより、初期値問題の一意性は成立しない。実際、 t = a で y = 0 となる解は少なくとも 3 つ存在する。 この例を別の観点から眺めると、解曲線、y = (t − a)2 を t ≥ a から移動してくると、t = a でこ れは、少なくとも 2 つに分岐する。 大域解の存在定理 I を実数直線の区間、Ω を Rn の領域として、I ×Ω で定義された微分方程式 ẋ = f (t, x) を考える。ここで、大域解とは、I 全体で定義された解のことである。 定理 I × Rn で定義された微分方程式 ẋ = f (t, x) を考える。f は x に関して、リプシッツ条件を満 たすとする。また、条件 ∥f (t, x)∥ ≤ A∥x∥ + B, A > 0, B > 0 を仮定する。この時初期値問題 (1) は大域解を持つ。 証明 右への延長を考える。今、[τ, ω) まで延長されたとする。X(t) は積分方程式の解であるから、 ∫ t ∥x(t)∥ ≤ ∥ξ∥ + (A∥x(s)∥ + B)ds. τ ここで、A = 0 ならば、t → ω − 0 のときの有界性より、解は t = ω まで接続できる。A ̸= 0 の時は、 ∥x(t)∥ + B B ≤ ∥ξ∥ + + A A Gronwall の不等式より、 B ∥x(t)∥ + ≤ A ∫ t A(∥x(s)∥ + τ B )ds. A ( ) B ∥ξ∥ + eA(t−τ ) . A したがって、上と同様にして解が接続できる。 線形方程式の大域解存在定理 f (t, x) = A(t)x + b(t), ここで A(t) は n × n 行列であり b(t) は n ベクトル函数の時、方程式は x′ = f (t, x) は線型方程式であるという。ここで、線形とは、未知関数 x に関して、一次式ということである。A(t), b(t) はある開区間 I において連続とする.この時、次が 成り立つ。 定理 4 線形微分方程式 (4) x′ = A(t)x + b(t) において G = I × Rn に初期値を持つ (4) の解はただひとつ存在して、I 全体で定義されそこで連続 微分可能である. すなわち、大域解がただひとつ存在する。 証明 今初期値を t = τ で x = ξ ∈ Rn で与えるとする。τ を含む任意の有界な閉区間 J ⊂ I を考え る。(4) の右辺を f (t, x) = A(t)x + b(t) とおく。このとき、J において、f (t, x) はリプシッツ条件を 満足することは直ちにわかる。したがって、局所解の存在定理より、与えられた初期値を満足する解 はただひとつ存在する。次に、これが J で大域解であることをしめすために、前定理を用いる。その ため、条件 ∥f (t, x)∥ ≤ A∥x∥ + B がある A ≥ 0, B ≥ 0 に対して成立することに注意する。したがっ て、解は大域解である。J は任意であるので、I において、大域解が存在する。 線型方程式 (4) において、b(t) ≡ 0 のとき、同次系そうでないとき、非同次系という。 解の爆発 線型方程式の場合と異なり非線型方程式の場合は大域解が存在するとは限らない. それ はある時刻までに解が無限大になったりして解曲線が右辺の函数の定義されている領域の境界まで到 達してしまうからである. ここでは mathematica によるシュミレーションのグラフによって、解が爆発する様子を観察する. 左は y ′′ + y − y 2 = 0, y(0) = 0, y ′ (0) = 1 のグラフ右は y ′′ + y + y 2 = 0, y(0) = 0, y ′ (0) = 1 のグラフ である. 無限大になって、解曲線が領域の境界(=無限大)に近づく様子が観察できる。 3 8 -2 4 2 6 -2 4 -4 2 -6 -8 -4 -3 -2 -1 1 2 3 相空間に移るとこの方程式は積分することができる.すなわち第一積分が求まる. 従って、解が爆発 する理由はこれからも説明することができる.(各自、証明してみよ。) 同様な事実を別の例で観察する。次の図は初期値問題 y (4) + 3y ′′ − y 2 = 0, y(0) = 0, y ′ (0) = ′′ 0, y (0) = 1, y ′′′ (0) = 0 である.原点付近では非線形性の影響が少ないため解は滑らかに変動して爆 発する様子は観察されない. しかし右のように広い範囲で観察すると解はあるところで爆発している 様子が観察できる. 1.4 25 1.2 20 1 0.8 15 0.6 10 0.4 5 0.2 -4 -2 4 2 -5 -10 5 10 次の図は初期値問題 y (4) + 3y ′′ − y + y ′2 = 0, y(0) = 0, y ′ (0) = 0, y ′′ (0) = 1, y ′′′ (0) = 0 である.左は 原点の近傍でのグラフであり右は広い範囲でのグラフである. 上と同じ現象が観察される. 2.5 10 2 1.5 5 1 -5 -10 5 10 0.5 -5 -10 -5 5 10 線型方程式の一般論 線型方程式の解は大域解であることをすでに見たが、さらに解の全体は有限次元のベクトル空間 であることを示す。以下では線型方程式の解はすべて、大域解であるので以後はいちいち断らないこ とにする。まず同次方程式を考える。 (5) x′ = A(t)x. I 上の (5) の解の全体を解空間という。(5) は x = 0 を解として持つので、これは x = 0 を含む。この とき、次が成り立つ。 命題 (5) の解空間は R 上のベクトル空間になる。 証明 I 上の連続微分可能な関数の全体は、ベクトル空間になることはよく知られている。これも、 4 代数学のよく知られた性質より、ある集合がベクトル空間で部分ベクトル空間になるためには、次の 重ね合わせの原理を示せばよい。x1 (t), x2 (t) が (5) の同次方程式の解であれば定数 A, B にたいして x(t) = Ax1 (t) + Bx2 (t) も (5) の解である。これは、方程式に代入すれば直ちにわかる。(証明終わ り) (5) の解、xj (t) (j = 1, 2, . . . , m) が R 上一次独立であるとは、 m ∑ cj xj (t) ≡ 0, cj ∈ R j=1 ならば、cj = 0 (j = 1, 2, . . . , m) となることである。 定理 (5) の解空間は R 上の n 次元ベクトル空間になる。 証明 ej (1 ≤ j ≤ n) を j 次の単位ベクトルとする。このとき、t = τ で初期値が ej となる解を ϕj (t) ∑ とする。このとき、ϕj (t)(1 ≤ j ≤ n) は一次独立である。実際、 nj=1 cj ϕj (t) ≡ 0 とすると、t = τ と して、初期値の条件を考えると、cj = 0 となる。(5) の任意の解 x(t, τ, ξ) がこれらの解の一次結合と して表せることをしめす。Φ(t, τ ) = (ϕ1 (t), . . . , ϕn (t)) とおく。Φ(t, τ )ξ は (5) の解であり、t = τ で の初期値は ξ に等しい。したがって、初期値問題の解の一意性より、これは x(t, τ, ξ) に一致する。し たがって、求めることが示された。 Φ(t, τ ) は素解といわれる。一般に、解空間の基底を解の基本系という。基本系 xj (t) (j = 1, 2, . . . , n) にたいして、X(t) = (x1 (t), x2 (t), . . . , xn (t)) を基本行列という。一般に一次独立とは限らない xj (t) (j = 1, 2, . . . , n) にたいして、X(t) = (x1 (t), x2 (t), . . . , xn (t)) とおく。このとき、det X(t) をロンス キアンという。このとき、次が成り立つ。 定理 ロンスキアンを (∫ ) y(t) = det X(t) とすると、ẏ = (tr A(t))y を満たす。したがって、y(t) = t y(τ ) exp τ tr A(s)ds である。 後半の証明は微分方程式を積分すれば明らかである。前半は、xj (t) = t (x1,j (t), . . . , xn,j (t)) とおい て、行列式の微分の公式をもちいて、計算すれば、わかる。(行列式の微分を計算する時、列ではな く行を微分すると、計算が簡単になる。詳しい計算は練習問題としておこう。) 非同次方程式の解 定理 (a) 同次方程式の解空間を V 、非同次方程式の任意の解を x∗ (t) とするとき、非同次方程式 の解の全体は x∗ (t) + V となる。 (b) 非同次方程式の解は ∫ t x(t, τ, ξ) = Φ(t, τ )ξ + Φ(t, s)b(s)ds τ で与えられる。ここで、Φ(t, τ ) は素解である。 証明 後半は直接確かめることができる。前半は、x ∈ V とするとき、x∗ (t) + x(t) が非同次方程 式の解となることは、直接確かめることができる。他方、任意の非同次方程式の解 y(t) にたいして、 y(t) − x∗ (t) は同次方程式の解である。したがって、求めることが出る。 2 階線形微分方程式 上の結果を 2 階線形微分方程式の場合にのべる。結果は一般の場合と同じであるが、証明を与え る。a(t), b(t) および p(t) を実数直線上の区間で連続として d2 y dy + a(t) + b(t)y = p(t) 2 dt dt (1) を 2 階線形微分方程式という. p(t) ≡ 0 の時同次方程式、そうでない時は非同次方程式という. この とき、次の基本的な性質が成り立つ. 定理 t の函数 y1 (t), y2 (t) が (1) の同次方程式の解であれば定数 A, B にたいして y(t) = Ay1 (t)+By2 (t) 5 も同じ同次方程式の解である. 証明 y1 ,y2 は同次方程式の解であるので y1′′ + ay1′ + by1 = 0, y2′′ + ay2′ + by2 = 0. 他方 y ′ = Ay1′ + By2′ , y ′′ = Ay1′′ + By2′′ であるので y ′′ + ay ′ + by = A(y1′′ + ay1′ + by1 ) + B(y2′′ + ay2′ + by2 ) = 0. 定理 yj (j = 1, 2) が (1) の同次方程式の解であって y1 y2 = ̸ 0 W (y1 , y2 ) = ′ y1 y2′ (2) を満足すれば (1) の同次方程式の任意の解 y は適当な定数 c1 と c2 を選んで y = c1 y1 + c2 y2 とあらわ せる. 注意条件 (2) はある一点で満足されていればよい.W (y1 , y2 ) をロンスキー行列式という. 証明 y を (1) の同次方程式の任意の解とすると y ′′ + ay ′ + by = 0. 他方仮定より、 yi′′ + ayi′ + byi = 0 i = 1, 2. よって b(t) を含む項を消去して (yi′′ y − yi y ′′ ) + a(t)(yi′ y − yi y ′ ) = 0, i = 1, 2. vi = yi′ y − yi y ′ とおくと vi′ = yi′′ y − yi y ′′ であるので vi′ + a(t)vi = 0, i = 1, 2. 従って、次の表示を得る. y1′ y ) ) ( ∫ t ( ∫ t ′ ′ a(s)ds . − y1 y = C1 exp − a(s)ds , y2 y − y2 y = C2 exp − ′ 他方、W (y1 , y2 ) も同じ微分方程式を満たすので ( ∫ t ) y1′ y2 − y1 y2′ = C3 exp − a(s)ds . これらの方程式より y ′ を消去すると ( ∫ t ) C1 y2 − C2 y1 C1 y2 − C2 y1 y= ′ exp − a(s)ds = . ′ y1 y2 − y1 y2 C3 条件 (2) を満たす解 y1 , y2 を同次方程式の一次独立な解という. 一次独立な二つの解の組を基本解と いう. 定理 y1 , y2 を (1) の同次方程式の独立な解とする.v を非同次方程式 (1) の勝手な解とすると非同次方 程式 (1) の一般解 y は適当な定数 c1 , c2 が存在して y = c1 y1 + c2 y2 + v 6 と表せる. 証明 実際 y − v は同次方程式の解であるので前の定理より求めることが従う. したがって (1) を解くためには同次方程式の一次独立な解を求める必要がある. また (1) の解をひと つ構成するにはいくつかの方法があるが、すでに述べた定数変化法もそのような方法のひとつである. 以下では方程式が定数係数の場合に一次独立な解の組を求める方法を述べる. 7 解の初期値に対する依存性 初期値問題 (3) x′ = f (t, x) を (t, x) 空間の領域 G で考える.f はそこで連続かつそこで x について Lipschitz 連続とする. この時 解は初期値の函数として連続あるいは f に微分可能性を仮定すれば連続微分可能である. 詳しくは次 の定理が成り立つ. 定理 5 f は D: |t − a| ≤ r, ∥x − x0 ∥ ≤ ρ で連続かつ x について Lipschitz 連続とする. (τ, ξ) ∈ D を通る (3) の一意解を x = ϕ(t, τ, ξ) とかく.このときある δ > 0 が存在して ϕ(t, τ, ξ) は |t − τ | ≤ α′ , |τ − a| ≤ δ, ∥ξ − x0 ∥ ≤ δ において連続である. ここで α′ = min{r − δ, (ρ − δ)/M }, M = maxD ∥f ∥. 証明に入る前に次のことを注意しておく. ある開区間の t に対して解が定義されている時その範囲内 に t をとれば解は初期値の連続函数である. 実際、接続を繰り返すことによりわかる. 証明 まず独立変数と未知函数の変換をおこなって初期値を固定する. すなわち t = τ + s, x = ξ + ζ とすると問題は dζ = f (τ + s, ξ + ζ), ds ζ|s=0 = 0 となる.この時、τ , ξ をパラメータにもつ f (τ + s, ξ + ζ) は (5) |τ − a| ≤ δ, ∥ξ − x0 ∥ ≤ δ, |s| ≤ r − δ, ∥ζ∥ ≤ ρ − δ において連続であって、ζ に関して Lipschitz 条件を満足する. この時存在定理により |s| ≤ α′ におい て解 x = ψ(s, τ, ξ) は存在する. この時 τ , τ ′ , ξ, ξ ′ を (5) の範囲にとっておけば積分方程式より ∫ s ′ ′ ′ ′ ′ ′ ∥ψ(s, τ , ξ ) − ψ(s, τ, ξ)∥ ≤ ∥f (τ + σ, ξ + ψ(σ, τ , ξ )) − f (τ + σ, ξ + ψ(σ, τ, ξ))∥dσ a ここで ∥f (τ ′ + σ, ξ ′ + ψ(σ, τ ′ , ξ ′ )) − f (τ + σ, ξ + ψ(σ, τ, ξ))∥ ≤ ∥f (τ ′ + σ, ξ ′ + ψ(σ, τ ′ , ξ ′ )) − f (τ + σ, ξ ′ + ψ(σ, τ ′ , ξ ′ ))∥ +∥f (τ + σ, ξ ′ + ψ(σ, τ ′ , ξ ′ )) − f (τ + σ, ξ + ψ(σ, τ, ξ))∥ ≤ ∥f (τ ′ + σ, ξ ′ + ψ(σ, τ ′ , ξ ′ )) − f (τ + σ, ξ ′ + ψ(σ, τ ′ , ξ ′ ))∥ + ∥ξ ′ − ξ∥ + K∥ψ(σ, τ ′ , ξ ′ ) − ψ(σ, τ, ξ)∥ ここで一様連続性により任意の ε > 0 に対して δ > 0 を十分小さくとれば ∥f (τ ′ + σ, ξ ′ + ψ(σ, τ ′ , ξ ′ )) − f (τ + σ, ξ ′ + ψ(σ, τ ′ , ξ ′ ))∥ + ∥ξ ′ − ξ∥ < ε 従って ∫ ∥ψ(s, τ , ξ ) − ψ(s, τ, ξ)∥ ≤ ε|s − a| + K ′ s ′ a ∥ψ(σ, τ , ξ ) − ψ(σ, τ, ξ)∥dσ . ′ ′ Gronwall の不等式により ∥ψ(s, τ ′ , ξ ′ ) − ψ(s, τ, ξ)∥ ≤ ε|s − a| exp (K|s − a|) . よって連続性がわかる. 注意 この定理は方程式が、パラメータ µ に連続に依存している場合にも拡張できる。 今、τ を固定して、初期値 ξ にたいして、時刻 t での解を対応させる写像 ϕt,τ : Ω → Rn , ϕt,τ (ξ) = x(t, τ, ξ) 8 を考える。このとき、次が成り立つ。 定理 写像 ϕt,τ は同相写像である。 証明 初期値問題の解の存在と一意性より、写像は定義できる。逆が存在することは、もし単射でな いとすると時刻 t で同一の初期値を満足する2つの解が存在することになり、一意性に反する。初期 値に関する連続性はすでに示した。 ϕt,τ で、t を動かしてえられる写像の族を、微分方程式の流れという。ϕt,τ がつねに大域解であると き、大域的な流れという。特に方程式が自励系であって、大域解であるとき、ϕt := ϕt,0 は1パラメー タ変換群である。すなわち、(1) ϕ0 = Id, (2) ϕt+s = ϕt ◦ ϕs = ϕs ◦ ϕt , (3) (ϕt )−1 = ϕ−t , (4) ϕt (ξ) は (t, ξ) について、連続であって、かつ各 t を固定すると、同相写像である。 定理 6 方程式 (3) において f は (t, x) 空間の領域 G で連続で t, x について r 回連続微分可能である とする (r ≥ 1). その時解は初期値について r 回連続微分可能である. もし、x について r 回連続微分 可能であるとすると解 ϕ(t, τ, ξ) は ξ について r 回連続微分可能である. 証明 以下では、τ を固定して、∂x(t, τ, ξ)/∂ξk の存在を示す。差分商 ϕ(t, τ, ξ, h) = (x(t, τ, ξ + hek ) − x(t, τ, ξ))/h を考える。ここで、h は十分小さな0でない実数、ek は単位ベクトルとする。γ(s) := x(t, τ, ξ) + s(x(t, τ, ξ + hek ) − x(t, τ, ξ)) とおく。このとき、x(t, τ, ξ + hek ), x(t, τ, ξ) は方程式の解で あるので ∫ 1 1 d d ϕ(t, τ, ξ, h) = f (t, γ(s))ds. dt h 0 ds これを計算して ϕ(t, τ, ξ, h) は次の方程式の解である。 ∫ 1 ẋ = x 0 ∂f (t, γ(s))ds. ∂x 解のパラメータ h に関する連続性より、この解は h について、連続である。さらに、h = 0 とすると、 ϕ(t, τ, ξ, 0) := limh→0 ϕ(t, τ, ξ, h) は ẋ = x ∂f (t, x(t, τ, ξ)) ∂x の解となる。これを変分方程式という。したがって、初期値に関する連続性より limh→0 ϕ(t, τ, ξ, h) は ξ の連続関数である。∂x(t, τ, ξ)/∂ξk = limh→0 ϕ(t, τ, ξ, h) であるので、もとめる連続微分可能性 がわかる。一般に、高階のばあいには、変分方程式とあたえられた微分方程式を連立して考える。こ れらの方程式系は、条件より連続微分可能であり、従ってすでに示したことより、初期値に関して 連続微分可能である。考えている関数は、∂x(t, τ, ξ)/∂ξk = I が t = τ で成立するので、x(t, τ, ξ) と ∂x(t, τ, ξ)/∂ξk は初期条件 ∂x(t, τ, ξ)/∂ξk = I, x = ξ, t = τ を満足する連立方程式系の解である。 従って、解の一意性より、これらの関数は連続微分可能であり、x(t, τ, ξ) は初期値に関して、C 2 で あることがわかる。これを帰納的に行えばもとめる微分可能性がえられる。 注意: f (t, x) が実解析的な場合にも、上の定理は成立する。従って、解は初期値に関して、実解析的 になる。証明は、逐次近似の方法を適用して、ワイエルシュトラスの2重級数定理を用いる。なお、 対応する複素領域での存在定理もあるが、詳しくは本を参考のこと。 保測的な系と散逸的な系 微分方程式系 ẋ = f (t, x) を考える。div f をベクトル場 f の発散という。 div f = 0 なる系を保測的な系 (volume preserving) といい、そうでない系を散逸系とよぶ。たとえば、 後で述べるハミルトン系は保測的な系の代表的なものである。このとき、次が成り立つ。 定理 f ∈ C 1 かつ、div f = 0 であれば、微分方程式の流れは体積を保存する。 証明:ϕt,τ : ξ → x(t, τ, ξ) のヤコビ行列 X(t) は線形方程式 ẏ = (∂f /∂x)y の素解である。det X(t) は、 方程式 u̇ = tr (∂f /∂x)u の解である。この右辺は仮定により消えるので、det X(t) は定数である。こ 9 の定数は det X(τ ) = 1 に等しい。変数変換の公式を思い出せば、求める結果をえる。 Van der Pol 方程式 y ′′ − µ(1 − y 2 )y ′ + y = 0. ここで µ > 0 は定数である. この方程式は真空管を含むような電気回路であらわれる. この場合、大 きな振動は減衰し、小さな振動はエネルギーを得て増幅される. なぜならば µ(1 − y 2 )y ′ は減衰項であ り、運動が 1 − y 2 < 0 となるとこれはエネルギーが減衰する. 1 − y 2 > 0 となるとエネルギーをえる. このようにして周期運動があらわれる. 実際 c = µ(1 − y 2 ) とおくと方程式は y ′′ − cy ′ + y = 0 となる. ここで v = e−ct/2 y とおくと v は方 程式 v ′′ + (1 − c2 /4)v = 0 を満たす. もし c2 < 4 であるならばこの解は有界で振動する. c < 0 であれ ば y は減衰する. 逆に c > 0 であれば y は増大する. (x1 , x2 ) = (y, ẏ) とおくと、この方程式は ) ( ) ( ) ( )( d x1 0 1 x1 0 = + . −1 µ x2 −µx21 x2 dt x2 ここで、div f > 0 (|x1 | < 1), div f < 0 (|x1 | > 1) に注意する。これは、うえでのべた事実と対応す る。このとき、原点を含まない有界閉領域で極限閉軌道が存在し、これは周期軌道であり、すべての 解は、時刻無限大でこの軌道に漸近的に近づく。これは、ポアンカレ・ベンディクソンの定理といわ れる。Poincaré Bendixon の定理は次元が2次元の場合のみに適用可能であることに注意しておく. 次のグラフを参照の事. これは小さな初期値あるいは大きな初期値から出発した解が時間の経過 とともに増幅あるいは減衰してある一定の振幅を持った解に収束する様子を Mathematica で描いた ものである. 2 2 1 1 10 20 30 40 10 50 -1 -1 -2 -2 20 30 40 50 3 2 1 10 20 30 40 -1 -2 -3 このばあい、limit cycle という相空間での閉曲線に解軌道は近づく. 次の図は Mathematica を用いて小さなエネルギーあるいは大きなエネルギーから出発して相空間 内の曲線が時間の経過とともにある閉曲線(limit cycle と呼ばれる)に巻きついていく様子を描いた ものである. このような limit cycle は上のグラフで周期振幅があらわれることに対応している. 10 2 2 1 1 -1 -2 1 2 -1 -2 1 -1 -1 -2 -2 -2 2 2 1 1 -1 2 1 -1 -2 2 1 2 3 -1 -1 -2 -2 2 1 -2 -1 1 2 -1 -2 y ′ = v とおいて相空間に移ると dv v − µ(1 − y 2 )v + y = 0. dy limit cycle を求めるため、上の方程式の閉じた閉曲線を求める. µ が十分小さい時は v の方程式は近 dv 似的に dy v + y = 0 であるのでこれは円である. 真の曲線はこの円に近い形をしている. µ が大きい時には limit cycle は円ではなく、形が異なってくる. この存在に関しては Poincaré Bendixon の定理を用いて示せる. すなわち、軌道の正の極限点がすべて滑らかであるならばそれは limit cycle である. ここで極限点とはその任意の近傍に軌道が交わるような点である. ベクトル場の線形化定理 自励系 ẋ = f (x) を考える。f (a) = 0 なる点を特異点、f (a) ̸= 0 なる点を 正則点という。 定理 ベクトル場 f (x) の正則点の近傍において、適当な座標をとれば ẏ = (1, 0, . . . , 0) に変換でき る。特に、正則点の近傍において、n − 1 個の第一積分が存在する。 証明 後半は明らかである。e1 = (1, 0, . . . , 0) とおく。一般性を失うことなく、考える正則点は原点 であり、f (0) = e1 と仮定できる。今、座標変換 u を x = u(y) = ϕy1 (0, y2 , . . . , yn ) 11 によって、定義する。ここで、ϕt はベクトル場の流れである。この変換は原点を保存し、変換のヤコ ビ行列は ( ) ( ) ∂x ∂x ∂x ∂x Du(y) = ,..., = f (u(y)), ,..., ∂y1 ∂yn ∂y2 ∂yn とかける。f (0) ̸= 0 であることと、流れの性質から、右辺は原点の近傍で消えないので、これは変 換を与える。また、Due1 = f (u) であるので、座標変換の公式を思い出せば、これはベクトル場が ẏ = (1, 0, . . . , 0) に変換できることを示している。 注意: 一般に、変換 x = u(y) によって、ẋ = f (x) は ẏ = (Du)−1 f (u(y)) に変換される。この、右 辺に現れるベクトル場を、u による引き戻し (pull back) という。x 変数での流れを ϕt , y 変数での流 れを ψ t と書くと、ψ t = u−1 ◦ ϕt ◦ u となる。実際、右辺の関数を微分すると、 (∂y/∂x)(ϕt ◦ u)′ = (∂y/∂x)f (ϕt ◦ u) = (Du)−1 f (u(u−1 ◦ ϕt ◦ u)). 従って、もとめる関係式を得る。このような流れを共役であるという。 解の安定性と漸近挙動 平衡解の安定性について、考える。 定義 自励系 ẋ = f (x) の大域解 x(t, ξ0 ) が安定であるとは、任意の正数 ε に対して、ある正数 δ が存在して、∥ξ − ξ0 ∥ < δ ならば、任意の t ≥ 0 にたいして、∥x(t, ξ) − x(t, ξ0 )∥ < ε となることであ るという。上の条件がすべての実数 t に対して、成り立つときは両方向に安定であるという。 また、解 x(t, ξ0 ) が安定であって、ある正数 δ が存在して、∥ξ − ξ0 ∥ < δ ならば、limt→∞ ∥x(t, ξ) − x(t, ξ0 )∥ = 0 となるとき、解 x(t, ξ0 ) は漸近安定であるという。安定でないときは、不安定であると いう。 ここで述べた定義は、リヤプノフの安定性という。以下では、自励系 ẋ = f (x) (f (0) = 0) の平衡 解 x = 0 の安定性を考える。 (E) ẋ = f (x) = Ax + g(x), g(x) = o(∥x∥) を考える。ここで、A は n 次正方定数行列である。このとき、次の定理が成り立つ。 定理 (i) A のすべての固有値の実部が負ならば、原点は (E) の漸近安定な平衡点である。 (ii) A の固有値に実部が正のものが存在すれば、原点は (E) の不安定な平衡点である。 証明 未知関数に正則な線形変換を行っても漸近安定性はかわらないので、これによって、A は P −1 AP となるので、A は実ジョルダン標準型であるとしてよい。また、べき零部分はあたえられた ε より小 さいとしてよい。A の固有値のうち絶対値の最小値を c > 0 とする。このとき、シュワルツの不等式 から、 ⟨y, Ay⟩ ≤ −c∥y∥2 + ε∥y∥2 = −β∥y∥2 . ここで、β = −c + ε. 実際、実ジョルダン細胞にわけて、かんがえると、実の固有値に対応する部分 は容易であるので、省略する。複素固有値に対応する部分は ⟨( )( ) ( )⟩ αk −βk x1 x1 , = αk (x21 + x22 ) βk αk x2 x2 を用いて、示すことができる。(E) の解 y(t) にたいして、 d ∥y(t)∥2 = ⟨y, ẏ⟩ = ⟨y, Ay⟩ + ⟨y, g(y)⟩ dt である。ここで、g の仮定から、ある δ > 0 が存在して、 d ∥y(t)∥2 ≤ 2(−β + δ)∥y(t)∥2 . dt 12 この式で、t を s とおきかえて、0 から t まで積分すると、 ∫ ∥y(t)∥2 ≤ ∥y(0)∥2 + 2(−β + δ) t ∥y(s)∥2 ds. 0 グロンウオールの不等式から、 ∥y(t)∥2 ≤ ∥y(0)∥2 e2(−β+δ)t , 0 ≤ t < ∞. これより、安定性を得る。また、漸近安定性も容易に示せる。 (ii) の証明も同様に証明できるので、省略する。 注意: (E) において、行列 A の固有値を平衡点における特性指数 (characteristic exponent) と いう。固有値に0が存在しないとき、非退化 (nondegenerate) であるという。すべての固有値の実部 が0でないときは、平衡点は双曲型であるという。すべての固有値の実部が0であるときは、楕円型 であるという。 定理(ディリクレの定理) 自励系 ẋ = f (x) に対して、x = 0 は楕円型の平衡点であるとする。 もし、原点で狭義の極値をとる第一積分をもてば、原点は正負の方向に安定である。 定理の第一積分の仮定はたとえば、G(0) = 0, ∇G(0) = 0, ∇2 G(0) > 0 となれば、満たされる。ここ で、∇2 G は Hessian 行列であり、条件 ∇2 G(0) > 0 は Hessian 行列が正定値ということである。 証明 第一積分 G(x) は極小値の場合を考える。仮定より、ある δ > 0 が存在して、0 < ∥x∥ < δ ならば、G(0) < G(x) となる。0 < ε < δ にたいして、µ(ε) := min∥x∥=ε G(x) とおく。開集合 U を U := {x ∈ Rn : ∥x∥ < ε, G(x) < µ(ε)} で定義する。第一積分の定義より、すべての t にたいして G(x(t, ξ)) < µ(ε) (ξ ∈ U ) となる。これよ り、ξ ∈ U のとき、すべての t にたいして、∥x(t, ξ)∥ < ε となる。従って、安定性がでる。 定理(安定多様体定理) 自励系 ẋ = f (x) で、双曲型平衡点 x0 を考える。ベクトル場は C r とする。 また、x0 での線形部分の安定な固有空間 Es と不安定な固有空間 Eu の次元をそれぞれ、k, n − k = ℓ とする。このとき、ベクトル場の流れで不変な C r 多様体 Ws (x0 ) と Wu (x0 ) が存在して、次の条件を 満足する。 Ws (x0 ) は k 次元多様体であり、x0 ∈ Ws (x0 ) であって、x0 での接空間は Es に等しい。ξ ∈ Ws (x0 ) ならば、解 x(t, ξ) はすべての t ≥ 0 で存在して、ある正の数 C と α にたいして、 ∥x(t, ξ) − x0 ∥ ≤ Ce−αt , ∀t ≥ 0 が成り立つ。 Wu (x0 ) は、x0 ∈ Wu (x0 ) なる ℓ 次元多様体であり、x0 での接空間は Eu に等しい。ξ ∈ Wu (x0 ) ならば、解 x(t, ξ) はすべての t ≤ 0 で存在して、ある正の数 c と β にたいして、 ∥x(t, ξ) − x0 ∥ ≤ ce−βt , が成り立つ。 Ws (x0 ) を安定多様体、Wu (x0 ) を不安定多様体という。 13 ∀t ≤ 0 相空間での解析 微分方程式が独立変数を陽に含まず未知関数とその微分のみであらわさ れている時、そのような微分方程式は自立系であるという. すなわち F (y, y ′ , y ′′ ) = 0. ここで y ′ = dy/dt = v とおくと y ′′ = v ′ = dv dv dy dv = = v dt dy dt dy であるので方程式は y を独立変数とする一階の方程式となる. F (y, v, v dv ) = 0. dy このとき、y − v 空間を相空間という. 相空間は解の性質を調べるには都合が良い. 自由な調和振動子 これはつぎのような方程式であたえられる. y ′′ +y = 0. 初期条件として、y(0) = 1, y ′ (0) = 0 を考える. これの解は明らかに y = cos t. 相空間に移ると v = y ′ であるので v dv + y = 0, v(0) = 0. dy すなわち vdv + ydy = 0. 積分して v 2 + y 2 = c. よって初期条件を考えて v 2 + y 2 = 1. これは相空間 では単位円である. 自由な減衰のない振り子 次の図のような振り子の方程式を考える. 振り子 L θ mg sin θ mg Newton の運動方程式によればおもりの質量を m 重力加速度を g 振り子の長さを L 振り子と垂直方 向のなす角度を θ としてつぎの方程式を得る. mLθ′′ + mg sin θ = 0. そこで k = g/L として θ′′ + k sin θ = 0. θ が十分小さい時は方程式は θ′′ + kθ = 0 であるのでこれの解はただちに求めることができる. 厳密 解は求めることができない. 角速度 v = θ′ を用いると方程式は v dv = −k sin θ. dθ 14 変数を分離して vdv = −k sin θdθ であるので v 2 /2 = k cos θ + c. ここに現れる 3 つの項はそれぞれ運動エネルギー、位置エネルギー、 全エネルギーに比例する. これによって、振り子の運動の様子がわかる. 相空間の図 v c>k π c=k θ この相空間は周期 2π である. 楕円は周期運動をあらわす. その中心は全エネルギーが −k に対応する. この時全エネルギーはもっとも小さく振り子は停止している. すなわち v = 0. エネルギーが大きくな るとそれは楕円に対応する運動をしている. この時は周期運動である. さらにエネルギーがおおきく なるとそれは波線の運動になる. この時は運動の様子は全く異なる. 15 The Stationary Schrödinger Equation 定義と記号 次の方程式は静止系の (stationary) Schrödinger Equation といわれる. (1) d2 Ψ + (E − U (x))Ψ = 0. dx2 変数 x は粒子の Cartesian 座標といわれる. 複素数値関数 Ψ は粒子の波動関数 (wave function) とい われる. spectral parameter E は粒子のエネルギー、U は粒子のポテンシャルエネルギーといわれる. 量子力学は主に方程式 (1) の性質とそれを生成する偏微分方程式を研究する. 波動関数の絶対値の二 乗は確立密度といわれる. 例 自由粒子の場合 U = 0 とする. この時粒子は free であるといわれる. エネルギーが E = k 2 であるような自由粒子にたいする Schrödinger 方程式は次で与えられる. (2) Ψxx + k 2 Ψ = 0. この方程式は二つの独立な解 Ψ+ = eikx , Ψ− = e−ikx をもつ. これらはそれぞれ右と左に移動する粒 子をあらわす. ここで独立とは一方の関数が他方の定数倍としてあらわすことができないということ である. B. Potential Barriers ポテンシャル U はコンパクトな台を持つとする. ここで関数の台 supp U とは集合 {x|U (x) ̸= 0} の 閉包である. もし U ≥ 0 であれば potential barrier (壁) があるといい、U ≤ 0 であれば potential well (井戸)があるという. 粒子のエネルギー E = k 2 は正であるとする. ポテンシャルの台の左側では方程式 (1) は自由粒子 の方程式 (2) と一致する. そこでそこでは eikx , e−ikx という解を持つ. これらはそれぞれ左側から来 る解、左側に出ていく解といわれる. これらの解はすべての x にたいして、定義されているが eikx , e−ikx と一致するのは台の外側においてである. 同様にして、台の右側においてもそれぞれ eikx , e−ikx と一致する解が存在する. それらはそれぞ れ右側に出ていく解、右側から来る解といわれる. 練習問題 左から来た解が完全に反射されることはない. 実際、そのような解は右側で零であるが、解の一意性によりそのような解は 0 になって矛盾であ る. 粒子がすべて右側では出て行くことはありうる. C. モノドロミー作用素 定義 コンパクトな台をもつポテンシャルにたいする Shrödinger 方程式 (1) を考える. (1) の解は台 の左側で free particle の解に一致するので、そこで基本解の 1 次結合である. (たとえば c+ eikx +c− e−ikx のように適当な定数 c+ , c− を用いてあらわせる.) その解を台の右側に接続する. その時、そこでも free particle の解の 1 次結合であらわせる. (たとえば d+ eikx + d− e−ikx のように適当な定数 d+ , d− を用いてあらわせる.) これらの対応をあたえる変換をモノドロミー作用素という. 上のような基底を とればモノドロミー作用素 M は M (c− , c+ ) = (d− , d+ ) なる変換である. これは 2 次の行列である. な ぜなら考える方程式は線形作用素であるので、M は線形であるからである. さらに M は非退化であ る. これは解の一意性による. potential がなければこの変換は恒等変換である. 記号 R2 は (1) の実の解の空間とする. 粒子の状態の空間すなわち複素数値解の空間は R2 の複素 化でえられる. すなわち C2 = C R2 . 右、あるいは左から来る解あるいは出ていく解はこの空間に属 する. 自由粒子の実数解の空間は R20 をあらわす. 基底としては e1 = cos kx, e2 = sin kx がある. 自由粒 子の空間は C20 とあらわされる. 基底としては f1 = eikx , f2 = e−ikx がとれる. e1 , e2 も基底であり、 これらは f1 = e1 + ie2 , f2 = e1 − ie2 を満たす. 定義 (1, 1) unitary unimodular matrices SU (1, 1) は Hermitian form |z1 |2 − |z2 |2 を保存し、 行列式が 1 であるような 2 × 2 複素行列の全体である. すなわち ( ) a b |a|2 − |b|2 = |d|2 − |c|2 = 1, ac̄ − bd¯ = 0, ad − bc = 1. c d 16 実際エルミット形式 |z1 |2 − |z2 |2 を保存し、行列式が 1 であるような 2 × 2 複素行列にたいして ) ( )( ) ( y1 a b z1 = y2 c d z2 より、 |z1 |2 − |z2 |2 = |dy1 − by2 |2 − | − cy1 + ay2 |2 ¯ 2 ȳ1 . = (|d|2 − |c|2 )|y1 |2 − (|a|2 − |b|2 )|y2 |2 + (cā − db̄)y1 ȳ2 + (ac̄ − bd)y これより求めることが出る. 定理 基底 (f1 , f2 ) に関するモノドロミー行列は群 SU (1, 1) に属する. D. 代数の準備:群 SU(1,1) R2 で向きづけられた ξ と η で生成される長方形の面積を [ξ, η] とする. この skew-symmetric (歪 対称)な内積は symplectic structure といわれる. 今 e1 , e2 を R2 の基底で [e1 , e2 ] = 1 とすれば [ξ, η] はこの基底に関する ξ, η の表現のベクトルの通常の行列式である. [ , ] の複素化も同じ記号であらわす. このシンプレクティック内積は非退化である. Hermitian form < ξ, η >:= (i/2)[ξ, η̄] in C2 を考える. これが < λξ, η >= λ < ξ, η >, < ξ, η >= < η, ξ > を満たすことはただちにわかる. この時つぎのことは計算よりただちにわかる. 補題 f1 = e1 + ie2 , f2 = e1 − ie2 とするとき、次が成り立つ. < f1 , f1 >= 1, < f2 , f2 >= −1 証明 i i i < f1 , f1 >= [f1 , f¯1 ] = [f1 , f2 ] = 2 2 2 < f1 , f2 >= 0. ( 1 i 1 −i ) = 1. よって Hermitian form は (1,1) 型である. すなわち 1 個の正の項と負の項を < z, z >= |z1 |2 − |z2 |2 にもつ. C2 で Hermitian, symplectic, real structure を保存する変換を考える. 定義 C2 の Hermitian form <, > を不変にする変換を (1,1) unitary group と言い、U(1,1) で あらわす. symplectic structure [, ] を不変にする変換を unimodular 群といい、SL(2, C) であらわ す.GL(2, R) は実変換の群とする. この群は複素共役を不変にする. この時 < a, b >= (i/2)[a, b̄] である. 定理 これらの任意の二つの群の共通部分は 3 つの群の共通部分と一致する. これらは special (1,1) unitary group, SU(1,1) あるいは real unimodular group, SL(2, R) real symplectic group Sp(1, R) ともいわれる. 証明 もし行列 A が real, unimodular であるとすると [Aξ, Aη] = [ξ, η], Aξ¯ = Aξ. 従って、 < Aξ, Aη >= (i/2)[Aξ, Aη] = (i/2)[Aξ, Aη] = (i/2)[ξ, η] =< ξ, η > . A, real, (1,1)-unitary であるとすると < Aξ, Aη >=< ξ, η >, Aξ¯ = Aξ. したがって、 [Aξ, Aη] = −2i < Aξ, Aη >= −2i < Aξ, Aη̄ >= −2i < ξ, η̄ >= [ξ, η]. A, (1,1)-unitary, unimodular の時 [Aξ, Aη] = [ξ, η], [Aξ, Aη] = [ξ, η̄]. これより、 [Aξ, Aη] = [Aξ, Aη̄] がすべての ξ, η について成立. したがって、A は nonsingular であるので Aη = Aη̄. すなわち A は real である. 系 実基底 (e1 , e2 ) にかんして real, unimodular である作用素は複素共役基底 (f1 , f2 ) にかんして SU(1,1) であり、逆も成立する. 証明 Hermitial 内積は z1 f1 + z2 f2 にたいし、< z, z >= |z1 |2 − |z2 |2 で与えられる. 従って、次 のことは同値である. 17 (i) basis e1 , e2 に関して A は real, unimodular である. (ii) A ∈ GL(2, R) ∩ SL(2, C). (iii) A ∈ SU (1, 1) (iV) basis f1 , f2 に関して A は (1,1)-unitary, unimodular である. これらのことは前述の定理からわかっている. E. 幾何学の準備: SU(1,1) and Lobachevsky Geometry SL(2, R) と SU(1,1) は図 33 のようにして Lobachevsky Geometry と結びついている. たとえば SL(2, R) と SU(1,1) は同型である. これは同じ作用素の群からえられる. これを実基底 e1 , e2 で表現すると SL(2, R) であり、複素基底 f1 , f2 で表現すると SU(1,1) である. F. 実モノドロミー作用素の性質 (1) の解の空間 R2 と free particle (2) の解の空間 R20 以外に phase plane R2p を考える. phase plane の点は (Φ, Φx ) である. 作用素 B x を B x : R2 → R2p , Φ 7→ (Φ, Φx ) で定義する. これは同型である. なぜならば基本解 e1 , e2 をとれば Φ = c1 e1 + c2 e2 である. 従って、 次の関係式よりもとめることが出る. ) ( e1 (e1 )x x . B Φ = (Φ, Φx ) = (c1 , c2 ) e2 (e2 )x 同型 gxx12 = B x2 (B x1 )−1 は x1 から x2 への phase transformation といわれる. free particle の方程 式 (2) に対しても解と phase point の対応は同様に定義できる.B0x : R20 → R2p . これらの記号のもと で monodromy operator は次の可換図式によって与えられる. R2 Br Bℓ gℓr R2p R2p B0r B0ℓ R20 R20 M 定理 Schrödinger 方程式の monodromy operator の determinant は 1 である. 証明 R20 において basis e1 = cos kx, e2 = sin kx. 定義により ( ) cos kx sin kx x (B0 ) = . −k sin kx k cos kx 従って、det B0x = k は x に依存しない. とくに可換図式で B0ℓ と B0r の行列式は定数なので一致する. よって、可換図式より det M = det gℓr . Liouville の定理より、det B x は一定なので det gℓr = 1. よっ て、det M = 1. モノドロミー作用素は実であるが、これより unimodular であることがわかる. なぜならば ξ, η ∈ R2 にたいして M (ξ, η) = (M ξ, M η) である. [M ξ, M η] = det(M ξ, M η) = detM det(ξ, η) = det(ξ, η) = [ξ, η]. 従って、上の系よりモノドロミー作用素は SU (1, 1) である. 18 G. Complex Monodromy 作用素の性質 複素モノドロミー作用素は実モノドロミー作用素の複素化である. この証明は D での定理の証明で 示されている. 実基底 e1 , e2 ではモノドロミー作用素は SL(2, R) である. そこで、複素共役な基底 f1 , f2 に関しては SU(1,1) にはいる. 練習問題 Schrödinger equation (1) は台の左側で aeikx 右側で be−ikx となる解は zero 解に限るこ とをしめせ. (すなわち、左からやってくる粒子が右側からまったく出て行かないということはない.) 実際、monodromy operator は SU(1,1) であるので Hermitial scalar product < z, z > を保存す る. よって、|a|2 = −|b|2 . よって、a = b = 0. H. 透過係数、反射係数 定義 impulse k で左から来る解が透過係数 |A|2 , 反射係数 |B|2 で障壁を通過するとは Schrödinger 方程式 (1) が次のような解を持つことである. eikx + Be−ikx (障壁の左側), Aeikx (障壁の 右側). 補題 複素数 A, B にたいして、上の条件を満足する解 Φ は存在し、各 k > 0 にたいして、一意的であ る. 証明 障壁の右側で eikx であるような出ていく解を考える. この解は障壁の左側では e−ikx , eikx の一 次結合である. ここで eikx の係数は零でない. これは練習問題による. この係数で割れば求める解をえ る. このとき係数 A, B は一意的に決まる. 練習問題 transmission coefficient A はつねに零でないことをしめせ. 実際、そのような解は零に限る. 定理 |A|2 + |B|2 = 1. 補題 基底 f1 = eikx ,f2 = e−ikx をとるとき、monodromy 作用素はうえの係数 A,B をもちいて ( ) 1/Ā −B̄/Ā (M ) = −B/A 1/A とあらわせる. 証明 A, B の定義により、monodromy 作用素は公式 f1 +Bf2 7→ Af1 によって、作用する. monodromy 作用素は real であるので、f1 = f¯2 より、f2 + B̄f1 7→ Āf2 . A ̸= 0 であるので ( ) 1/A B̄/Ā −1 (M ) = B/A 1/Ā 定理の証明 M ∈ SU (1, 1) であるので行列式を計算して求める式を得る. 問題 区間 0 ≤ x ≤ a で定数 U0 、その他で零であるような potential にたいして、透過係数、反射 係数を計算せよ. 解答 U0 < E であるとき、 ( )−1 U 2 sin2 ak1 |A|2 = 1 + 0 , 4E(E − U0 ) ここで E = k 2 , E − U0 = k12 . 従って、壁の中での粒子の存在確率は外より大きくなる. この計算の方針は区間 0 ≤ x ≤ a においてポテンシャルの形より解の表示がえられる. これは Φ = c1 e−ik1 x + c2 eik1 x . この解が x ≤ 0 で eikx + Be−ikx とあらわされ x ≥ a で Aeikx とあらわされて いるので x = 0, x = a で微分までこめて両者は一致する. この関係式より、4 つの方程式がえられ、 これを解くことによって透過係数と反射係数がえられる. 19 0 ≤ x ≤ a において Ψ′′ + (E − U0 )Ψ = 0 であり、k12 = E − U0 とおく. このとき解は c1 , c2 を定 数として Ψ = c1 e−ik1 x + c2 eik1 x . 上に述べたことにより x = a において c1 e−ik1 a + c2 eik1 a = Aeika , k1 (−c1 e−ik1 a + c2 eik1 a ) = Akeika . x = 0 において 1 + B = c1 + c2 , k(1 − B) = k1 (−c1 + c2 ). この連立一次方程式を解くと透過係数と反射係数がえられる. エネルギー E が大きくなると反射係数は零に収束する. |B|2 ∼ U02 sin2 ak1 . 4E(E − U0 ) U0 ≥ E であるとき、透過係数は指数的に小さい. |A|2 = 4k 2 κ2 (k 2 + κ2 )sh2 aκ + 4k 2 κ2 , ここで、E = k 2 , U0 − E = κ2 . 遷移係数は指数的に小さいが、それは零ではない. これはトンネル 効果である. 古典的な粒子は壁を乗り越えられないが、量子的な粒子は壁を通りぬけることができる. それが、右側で粒子が存在することの説明である. I. 散乱行列 左から右への接続に対応して、右から左への接続も考えることができる. 対応する解は e−ikx +B2 eikx (壁の右側)A2 e−ikx (壁の左側) である. 定義 行列 ( ) A B B2 A2 は散乱行列あるいは S-行列という. 定理 散乱行列は unitary であり、左から右への透過係数と右から左への透過係数は一致する. 証明 monodromy 作用素は次のように作用する. A2 f2 7→ f2 + B2 f1 , 従って、 ( (M ) = Ā2 f1 7→ f1 + B̄2 f2 . 1/Ā2 B2 /A2 B̄2 /Ā2 1/A2 ) . これと monodromy の表示を比較して、 A2 = A, B2 = −B̄A/Ā. |A|2 + |B|2 = |A2 |2 + |B2 |2 = 1, AB̄2 + B Ā2 = 0 であるので S は unitary である. 注意 E = k 2 では実のパラメータを考えてきたが、k を複素数まで広げてかんがえると有用で ある. 散乱行列は複素数の k にたいしても unitary, symmetric である. さらに S(k) は analytic, real, S(−k) = S(k) である. A(k) は上半平面 ℑk > 0 で解析的な関数の実軸への境界値であり、虚軸の上 に有限個の極を持つ. J. Bound State 20 以下では potential の井戸がある場合を考える. すなわち、U (x) ≤ 0, U (∞) = 0. 粒子が井戸の中 にあるとは波動関数 Φ が x → ±∞ の時、 Φ → 0 となることである. 井戸の右あるいは左では解は eiκx ,e−iκx の一次結合である. ここで、κ2 = −E. この一次結合に対し、井戸の右側では指数増大する 指数関数の係数が右側で零になり、かつ井戸の左側では指数増大する指数関数の係数が零になれば粒 子は井戸の中に存在する. 明らかに、すべての負のエネルギーに対してこれが成立するわけではない. このためには、いわゆる固有値方程式が成立する必要がある. 井戸がより深くかつ広くなればなるほど、静止状態の粒子が存在するようになる. このようなエ ネルギー E は stationary levels といわれ、x → ±∞ で零になるような波動関数は bound state とい われる. 21 偏微分方程式の非線型性 応用上であらわれる非線型方程式の例をあげる. 非線型 Schrödinger 方程式は非線型媒体を伝わる電 磁波の式としてあらわれる. ∂u ∂ 2 u (1) i + 2 + |u|2 u = 0. ∂t ∂x ここで u は電場の包絡関数である. この方程式はまた非線形項がポテンシャルであるような Schrödinger 方程式とみなすこともできる.t は時間であり、x は空間変数である.x の微分は一般にはラプラシアン になる. sine-Gordon 方程式は共鳴レーザー媒体における超短光パルスの伝播、ジョセフソン素子におけ る磁束の伝播などにあらわれ次の形をしている. ∂2u ∂2u − 2 = sin u ∂x2 ∂t (2) この方程式はまた一列にばねで結合された振り子の問題からもあらわれる. 振り子はばねの方向と垂 直な平面上をふれるものとする. K d V(Korteweg de Vries) 方程式は浅瀬の波を記述する方程式として導かれたが、格子状の非 調和振動子の問題とプラズマ物理に応用されている. この方程式はソリトンといわれる解を持つ方程 式としてよく知られている. ∂u ∂ 3 u ∂u + 6u + = 0. (3) ∂t ∂x ∂x3 ∂u この方程式のうち ∂u ∂t + 6u ∂x は衝撃派の方程式としてしられている. 非線形項は波形を鋭くする効果 3 を持つ. ここで ∂∂xu3 は分散効果すなわち波形を滑らかにする効果をもつ. 分散効果が粘性によって与えられている方程式の別のものは Burgers 方程式がある. ∂u ∂ 2 u ∂u + 6u − = 0. ∂t ∂x ∂x2 (4) 2 ここで、 ∂∂xu2 は粘性項といわれる. この項が存在すると解は滑らかになる. この方程式はあとで詳しく 調べられる. 衝撃波 まず KdV 方程式の一階部分の方程式を解こう. 適当な座標を取ることにより、つぎの初期値 問題を解く. ∂u ∂u +u = 0, u(x, 0) = f (x). ∂t ∂x 方程式を解くためには特性曲線の方法を用いるが、ここでは省略し、その結果として一般解は u = F (x − ut) で与えれていることに注意する.F はあとで決める関数である. 実際、t = 0 とすると u(x, 0) = F (x) であるので初期条件より F (x) = f (x) である. 従って、解は陰関数の形 u = f (x − ut) であたえられる. Burgers 方程式の解 Burgers 方程式をいわゆる Cole-Hopf 変換を用いて線形の拡散方程式に変換する. 拡散方程式はその 解の公式が知られているのでこれを用いて解の様子が解析できる. 方程式 (4) を次の初期条件のもとで解く. u(x, 0) = u0 (x). Cole-Hopf 変換は2段階に分けておこなわれる. まず u(x, t) = − ∂ ϕ(x, t) ∂x 22 (5) としてきまる関数を導入する.uux = (u2 )x /2 であるので ∂ 0= ∂t ( ) ( ) ( ) ( ) ∂ϕ 1 ∂ ∂ϕ 2 ∂ 3 ϕ ∂ ∂ϕ 1 ∂ϕ 2 ∂ 2 ϕ − + + =− − − . ∂x 2 ∂x ∂x ∂x3 ∂x ∂t 2 ∂x ∂x2 この式を x について積分して ( ∂ϕ 1 − ∂t 2 ∂ϕ ∂x )2 − (6) ∂2ϕ = f (t). ∂x2 f (t) は積分定数である.f は関数 ∫ t ϕ(x, t) = ψ(x, t) + f (s)ds 0 を導入すると方程式から消去できる. 従って、f = 0 とできる. つぎに ψ(x, t) = 2 log z(x, t) の変換をする. すると ∂ϕ 1 − ∂t 2 ( ∂ϕ ∂x )2 ∂2ϕ 2 2 ∂z − − 2 = 2 ∂x z ∂t z ( ∂z ∂x z ̸= 0 であるときはこれから 初期条件は ) 2 − 2 z ( ∂2z z 2− ∂x ( ∂z ∂x )2 ) 2 = z ( ∂z ∂2z − 2 ∂t ∂x ) = 0. ∂2z ∂z − 2 = 0. ∂t ∂x (7) ( ) ∫ 1 x z(x, 0) = exp(ψ(x, 0)/2) = exp − u0 (s)ds . 2 −∞ (8) 今の変換は2段階で行われたがこれをまとめると u(x, t) = −2 zx (x, t) ∂ log z(x, t) = −2 ∂x z(x, t) (9) が求める変換である. この変換で Burgers 方程式は拡散方程式に変換される. 境界がない場合に拡散方程式の初期値問題を解いて Burgers 方程式の対応する初期値問題を解く. まず (7)-(8) の解はグリーン関数を用いて次のように与えられることが知られている. ∫ ∞ 1 2 z(x, t) = √ z0 (s)e−(x−s) /4t ds. (10) 4πt −∞ 従って、ψ = ϕ は初期条件を考えて [ 1 ψ(x, t) = ϕ(x, t) = 2 log √ 4πt ∫ ( ∞ exp −∞ −(x − s)2 ψ0 (s) + 4t 2 従って、変換の公式と (8) を用いて ( ) ∫ 2 1 s exp −(x−s) − u (λ)dλ ds 0 4t 2 −∞ ( ) . ∫∞ ∫ s −(x−s)2 − 12 −∞ u0 (λ)dλ ds 4t −∞ exp ∫∞ u(x, t) = x−s −∞ t 23 ) ] ds 分子を部分積分して ( ) ∫ −(x−s)2 1 s u (s) exp − u (λ)dλ ds 0 0 4t 2 −∞ −∞ ( ) u(x, t) = . ∫∞ ∫ −(x−s)2 1 s exp − u (λ)dλ ds 0 4t 2 −∞ −∞ ∫∞ ソリトン解 ソリトン (soliton) とはつぎのような性質を持った波である.(i) 無限遠方では波の高さは一定である.(ii) ソリトン波は形をかえない. (iii) ソリトン波は他のソリトン波とぶつかったあとも位相はずれるがそ の波形は変わらない. ここでは代表的な sine-Gordon 方程式と KdV 方程式に対してソリトン解を構 成する. まず1ソリトン解を構成する. これは ϕ(x, t) = u(x − vt) なる解である. ここで v はソリトン の速度 u は1変数の関数である. ∂2ϕ ∂2ϕ − 2 = sin ϕ (11) ∂x2 ∂t に代入すると 2 2 d2 u 2d u 2 d u − v = (1 − v ) = sin u. dξ 2 dξ 2 dξ 2 従って、 (12) sin u du d2 u du = . 2 dξ dξ 1 − v 2 dξ すなわち次を得る. d dξ ( ( ) ) 1 du 2 cos u + = 0. 2 dξ 1 − v2 積分して 1 2 ( du dξ )2 + (13) cos u = C. 1 − v2 C は積分定数である. これを du/dξ について解く. du = dξ ( ) 2 cos u 1/2 2C − . 1 − v2 (14) ここで符号が正と負の二つの項が現れるが負のほうは u を −u でおきかえればよいので正のほうだけ を考える. 変数分離すると ( )1/2 ∫ ξ ( )1/2 ∫ u ds 2 2 √ = ds = (ξ − ξ0 ), B = C(1 − v 2 ). (15) 1 − v2 1 − v2 B − cos s u0 ξ0 このパラメータ B の値に応じてソリトンが求まる. 以下では B = 1 とする. 1 − cos u = 2 sin2 (u/2) d 1 log tan(u/4) = du 2 sin(u/2) であるので ∫ u u0 1 ds √ =√ B − cos s 2 ∫ u u0 √ ds = 2 sin(s/2) ( tan(u/4) tan(u0 /4) (15) 式に代入して u について解くと u(ξ) = 4 tan −1 ( ( )) ξ − ξ0 tan(u0 /4) exp √ . 1 − v2 24 ) . ここでパラメータを適当に取ると u(ξ) = 4 tan −1 ( ( )) ξ − ξ0 exp √ 1 − v2 なる解が存在することがわかる. これを kink 解と呼ぶことがある. 上でマイナスの符号をとると次の 反ソリトン解がえられる. )) ( ( ξ − ξ0 −1 u(ξ) = 4 cot exp √ 1 − v2 B ̸= 1 のときは別の型の解が得られる. これは楕円関数をもちいて u(ξ) = 2 sin−1 (ksn(ξ, k)) √ とあらわせる. ここで k = (1 − B)/2 は楕円関数の母数 (modulus) であり sn は楕円関数である. 詳 しくは省略する. sine-Gordon 方程式のソリトン解としては次のものがある. ( ) √ u(x, t) = 4 tan−1 exp((x − vt)/ 1 − v 2 ) , 1 ソリトン ( ) √ v sinh(x/ 1 − v 2 ) √ , 2 ソリトン u(x, t) = 4 tan−1 cosh(vt/ 1 − v 2 ) ( ) √ 2) sinh(vt/ 1 − v √ u(x, t) = 4 tan−1 , ソリトンと反ソリトン v cosh(x/ 1 − v 2 ) (√ ) 2 1 − v sin(vt) √ u(x, t) = 4 tan−1 , 息. v cosh(x/ 1 − v 2 ) これらが解であることは方程式に直接代入して確かめることができる. ソリトンのグラフ次の図は1ソリトン解のグラフである.v = 0.6, t は順に t = 1, t = 4, t = 7 で ある. 最後の図は3つを合成したものである. 横軸は x, 縦軸は u を表す. mathematica では次のよう に書く. v := .6; t := 1; g1 = Plot[4 ArcTan[Exp[(x - t v)/Sqrt[1 - v^2]]], {x, -3, 8}]; v := .6; t := 4; g2 = Plot[4 ArcTan[Exp[(x - t v)/Sqrt[1 - v^2]]], {x, -3, 8}]; v := .6; t := 7; g3 = Plot[4 ArcTan[Exp[(x - t v)/Sqrt[1 - v^2]]], {x, -3, 8}]; Show[g1, g2, g3] 25 6 6 5 5 4 4 3 3 2 2 1 1 -2 2 4 6 8 -2 6 6 5 5 4 4 3 3 2 2 1 1 -2 2 4 6 8 -2 2 4 6 8 2 4 6 8 次の図は2ソリトン解のグラフである. 横軸は x, 縦軸は u を表す. v = 0.5 で t = 0 から t = 12 まで 2 刻みでグラフを描いた. mathematica では次のように書く. v := .5; Do[Plot[4 ArcTan[v Sinh[x/Sqrt[1 - v^2]]/Cosh[v t /Sqrt[1 - v^2]] ], {x, -9, 9}], {t, 0, 12, 2}]; -7.5 -7.5 -5 -5 6 6 4 4 2 2 -2.5 2.5 5 7.5 -7.5 -5 -2.5 -2 -2 -4 -4 -6 -6 6 6 4 4 2 2 -2.5 2.5 5 7.5 -7.5 -5 -2.5 -2 -2 -4 -4 -6 -6 26 2.5 5 7.5 2.5 5 7.5 -7.5 -5 6 6 4 4 2 2 -2.5 2.5 5 7.5 -7.5 -5 -2.5 2.5 -2 -2 -4 -4 -6 -6 5 7.5 6 4 2 -7.5 -5 -2.5 2.5 5 7.5 -2 -4 -6 次の図はソリトンと反ソリトンのグラフである. 横軸は x, 縦軸は u を表す. v = 0.5 で t = 2 から t = 12 まで 2 刻みでグラフを描いた. mathematica では次のように書く. v := .5; Do[Plot[4 ArcTan[Sinh[v t/Sqrt[1 - v^2]]/(v Cosh[x /Sqrt[1 - v^2]] ) ], {x, -9, 9}], {t, 2, 12, 2}]; 5 6 4 5 4 3 3 2 2 1 -7.5 -5 -2.5 -7.5 -5 -2.5 1 2.5 5 7.5 -7.5 -5 -2.5 6 6 5 5 4 4 3 3 2 2 1 1 2.5 5 7.5 -7.5 -5 -2.5 27 2.5 5 7.5 2.5 5 7.5 6 6 5 5 4 4 3 3 2 2 1 1 -7.5 -5 -2.5 2.5 5 -7.5 -5 -2.5 7.5 2.5 5 7.5 次の図は”息”のグラフである. 横軸は x, 縦軸は u を表す. t = 5.5 から t = 6.5 まで 0.2 きざみでグ ラフを描いた. mathematica では次のように書く. v := .5; Do[Plot[4 ArcTan[ Sin[v t]Sqrt[1 - v^2]/(v Cosh[x Sqrt[1 - v^2]]) ], {x, -9, 9}], {t, 5.5, 6.5, .2}]; 1.75 2 1.5 1.25 1.5 1 1 0.75 0.5 0.5 0.25 -7.5 -5 -2.5 2.5 -5 7.5 -7.5 -5 -2.5 1.2 0.6 1 0.5 0.8 0.4 0.6 0.3 0.4 0.2 0.2 0.1 -7.5 -5 -2.5 -7.5 5 -2.5 2.5 2.5 5 5 7.5 7.5 -7.5 -5 -2.5 -7.5 -0.01 -5 -2.5 -0.1 2.5 5 7.5 2.5 5 7.5 2.5 5 7.5 -0.2 -0.02 -0.3 -0.03 -0.4 -0.04 -0.5 -0.6 -0.05 -0.7 KdV 方程式のソリトン解 u(x, t) = z(x − vt) としてこれをソリトンの方程式 ∂u ∂u ∂ 3 u + 6u + = 0. ∂t ∂x ∂x3 28 (16) に代入する. その時次の方程式を得る. −v dz dz d3 z + 6z + 3 = 0. dξ dξ dξ これを積分して次を得る. (17) d2 z = A. dξ 2 −vz + 3z 2 + A は積分定数である. この両辺に dz/dξ をかけてから積分すると 1 −vz /2 + z + 2 2 ( 3 dz dξ )2 − Az = B. (18) B は積分定数. ここで孤立波を求めるということより z, dz/dξ, d2 z/dξ 2 は ξ → ∞ で 0 であるという 条件を仮定する. この時、A = B = 0 である. 一般の場合は楕円積分を用いてあらわせるが、今は立 ち入らない. この条件下では (18) は次の形になる. ( 変数分離をして ∫ z z0 dz dξ )2 = z 2 (v − 2z). ds √ = s v − 2s ∫ ξ (19) ds = ξ − ξ0 . (20) ξ0 ここで s = 2v(ew + e−w )−2 (= 2−1 vsech2 w) なる変数変換をおこなうと v − 2s = v − 4v(ew + e−w )−2 = v(ew − e−w )2 (ew + e−w )−2 . ds = 2v(−2)(ew + e−w )−3 (ew − e−w )dw さらに積分の上端と下端はそれぞれ w0 と w に変換されたとすると w0 = sech−1 √ −1 sech 2z/v であるので (20) より ∫ w 2 2 ξ − ξ0 = − √ dw = − √ (w − w0 ). v w0 v 従って、 √ 2z0 /v, w = √ w=− v (ξ − ξ0 ) + w0 . 2 簡単な計算より v z(ξ) = sech2 2 (√ ) v (ξ − ξ0 ) − w0 . 2 これはパラメータのとり方によりいろいろな解を表す. 次はそのような解である. u(x, t) = √ v sech2 (2−1 v(x − vt)). 2 この解は ξ → ∞ で 0 になるためには v > 0 でなければならない. これはソリトン波は正の方向すな わち右にしか動いていかないことを表している. また振幅は v に比例する. 従って、大きなソリトン 波は小さなソリトン波よりも早く動いている. 次の図は v = 3 のグラフである. 横軸は x, 縦軸は u を表す. t = −2 から t = 3 まで 1 きざみでグ ラフを描いた. mathematica では次のように書く. 29 v := 3; Do[Plot[v (Sech[Sqrt[v](x - v t)/2])^2, {x, -8, 11}], {t, -2, 3, 1}]; 3 3 2.5 2.5 2 2 1.5 1.5 1 1 0.5 0.5 -7.5 -5 -2.5 2.5 5 7.5 10 -7.5 -5 -2.5 3 3 2.5 2.5 2 2 1.5 1.5 1 1 0.5 0.5 -7.5 -5 -2.5 2.5 5 7.5 10 -7.5 -5 -2.5 3 3 2.5 2.5 2 2 1.5 1.5 1 1 0.5 0.5 -7.5 -5 -2.5 2.5 5 7.5 10 -7.5 -5 -2.5 2.5 5 7.5 10 2.5 5 7.5 10 2.5 5 7.5 10 次の図は v = 1 のグラフである. 横軸は x, 縦軸は u を表す. t = −2 から t = 3 まで 1 きざみでグラフ を描いた. mathematica では次のように書く. v := 1; Do[Plot[v (Sech[Sqrt[v](x - v t)/2])^2, {x, -8, 11}], {t, -2, 3, 1}]; 30 1 1 0.8 0.8 0.6 0.6 0.4 0.4 0.2 0.2 -7.5 -5 -2.5 2.5 5 7.5 10 -7.5 -5 -2.5 1 1 0.8 0.8 0.6 0.6 0.4 0.4 0.2 0.2 -7.5 -5 -2.5 2.5 5 7.5 10 -7.5 -5 -2.5 1 1 0.8 0.8 0.6 0.6 0.4 0.4 0.2 0.2 -7.5 -5 -2.5 2.5 5 7.5 10 -7.5 -5 -2.5 2.5 5 7.5 10 2.5 5 7.5 10 2.5 5 7.5 10 このグラフをみるとわかるように、波形は形を変えずに右のほうに移動していくことがわかる. また 波の高さが大きい波ほど速く移動していくことがわかる. Bäcklund 変換 ベックルント変換は曲面の間の写像の研究のために考案されたが、偏微分方程式ではこれは解曲面の 間の写像ととらえる.Cole-Hopf 変換で Burgers 方程式を性質のわかった線形拡散方程式に変換して解 の性質を調べたように、他の性質のわかった方程式に変換してその性質を調べる. 2 次元の空間の曲面が u = u(x, y) のようにグラフで表示されているとしてまた 2 回の偏微分方程 式の解であるとすると曲面を決定するためには x, y, u, ux , uy が必要である. これらの量は次の帯条 件が必要である. du = ux dx + uy dy. したがって、これを考えてベックルント変換は次で定義される. u, u′ は 2 階の偏微分方程式を満足し、また帯条件 du = ux dx + uy dy, du′ = u′x′ dx′ + u′y′ dy ′ を満足するとする. この時、(x, y, u, ux , uy ) から (x′ , y ′ , u′ , u′x′ , u′y′ ) への変換が条件 Fj (x, y, u, ux , uy , x′ , y ′ , u′ , u′x′ , u′y′ ) = 0, を満足する時ベックルント変換とよぶ. 31 j = 1, 2, 3, 4. (21) u′y′ ベックルント変換が積分できるための条件をもとめる. 簡単のため、ux = p, uy = q, u′x′ = p′ , = q ′ とあらわす. この時、帯条件は du = pdx + qdy. 今解曲面が存在したとすると p, q は x, y の 関数であるのでこれを微分して 0 = d2 u = て、p′y′ = qx′ ′ . よって、求める積分条件は ∂ ∂y pdy ∧ dx + ∂ ∂x qdx ∧ dy. これより、py = qx . 同様にし p′y′ = qx′ ′ . p y = qx , (22) 例コーシーリーマンの関係式は vx = −uy , ux = vy であり、x = x′ , y = y ′ とあわせるとベックル ント変換をあたえる. この時、可積分条件は (vx )y = (vy )x であるので uxx + uyy = 0. 同様にして vxx + vyy = 0. これは調和であることを示している. 例 ベックルント変換 vx = u − v 2 , vt = −uxx + 2(uvx + ux v), x′ = x, t′ = t によって KdV 方程式 ut − 6uux + uxxx = 0 は vt − 6v 2 vx + vxxx = 0 に変換される. 例 ベックルント変換 ′ ′ u′x′ = ux + βe(u+u )/2 , u′y′ = −uy − β −1 e(u−u )/2 , x′ = x, y ′ = y を考える. これは線型方程式 u′xy = 0 と uxy = eu の間の変換を与える. 後者の方程式は Liouville’s equation と呼ばれる. 実際、可積分条件を計算すると ′ (u′x )y = (ux )y + βe(u+u )/2 (uy + u′y )/2 ′ ′ = (ux )y + βe(u+u )/2 (−β −1 e(u−u )/2 ) = (ux )y − eu , (u′y )x = −(uy )x + eu . これらを足したり、引いたりすれば求める式を得る. Burgers 方程式と Cole-Hopf 変換 Burgers 方程式を Cole-Hopf 変換で線形の熱方程式に変換することを考える. この時、1 つの変換と して zx = −uz/2 (23) を用いた. その他の 3 つの変換は x = x′ , t = t′ および次の変換を用いる. Burgers 方程式の解を用いて ) ( ∫ 1 x u(s, t)ds z(x, t) = exp − 2 であるのでこれを t で微分して方程式を用いる. ∫ ∫ z x z zt = − ut ds = − 2 2 x uxx − uux ds = z 2 (u − 2ux ). 4 (24) これら 4 つの変換が Bäcklund 変換である. たとえば zxx = (−ux z − uzx )/2 = −ux z/2 + u2 z/4 = z 2 (u − 2ux ) = zt 4 であるので z が熱方程式を満足することがわかる. 自己ベックルント変換 Bäcklund 変換である方程式の解が同じ方程式の解に変換されることがある. このような変換を自己 32 ベックルント変換という. このような例として sine-Gordon 方程式を考えよう. つぎのベックルント 変換を考える. u′x′ = ux − 2β sin((u + u′ )/2), u′y′ = −uy + 2β −1 sin(u − u′ )/2), x′ = x, y ′ = y. (25) ここで β はベックルントパラメータである. これは変換の自由度をあらわす. また空間変数は保存して いることに注意する. ここで積分可能条件を用いると u あるいは u′ の満足する方程式が sinc-Gordon 方程式であることがわかる. これを以下で示す. x′ = x, y ′ = y に注意して、最初の式を y で微分し、 u′y を代入する. そうすると (u′x )y = (ux )y − β(uy + u′y ) cos((u + u′ )/2) = (ux )y − 2 sin(u − u′ )/2) cos((u + u′ )/2). (26) 2 番目の式を x で偏微分して、u′x を代入する. (u′y )x = −(uy )x + β −1 (ux − u′x ) cos((u − u′ )/2) = −(uy )x + 2 cos(u − u′ )/2) sin((u + u′ )/2). (27) 可積分条件より (u′x )y = (u′y )x (= u′xy ), (ux )y = (uy )x (= uxy ) であるので、これらの式を加えて 2u′xy = −2 sin(u − u′ )/2) cos((u + u′ )/2) + 2 cos(u − u′ )/2) sin((u + u′ )/2) = − sin u + sin u′ + (sin u + sin u′ ) = 2 sin u′ . これは ξ = (x + t)/2, η = (x − t)/2 とおいて utt − uxx = uξη であるので sine-Gordon 方程式の標準 形になる. 同様にして、2 つの式をひくと uxy = sin u を得る. したがって、上のベックルント変換は sine-Gordon 方程式の自己ベックルント変換である. 同様の計算を KdV 方程式に対して実行してみよう. KdV 方程式は vt + 6vvx + vxxx = 0 (28) ut + 3u2x + uxxx = 0 (29) であるが、一般性を失うことなく を考えればよいことをしめす. 実際、v = ux とすると (28) に代入して utx + 6ux uxx + uxxxx = ∂ (ut + 3u2x + uxxx ) = 0. ∂x 積分して ut + 3u2x + uxxx = f (t). ∫t u − f (s)ds を新しい未知関数にとって f = 0 としておいてよい. したがって、これによって v は変 化しないので (29) を考える. つぎの自己ベックルント変換を考える. u′x′ = −ux + β − (u − u′ )2 /2, u′t′ = −ut + (u − u′ )(uxx − u′x′ x′ ) − 2(u2x + ux u′x′ + u′2 x′ ) x′ = x, t′ = t. この変換で KdV 方程式が不変であることを示す. まず ′ ′ ′ ′ ′ 2 ′ 2 2 u′t + 3u′2 x + uxxx = −ut + (u − u )(uxx − uxx ) − 2(ux + ux ux + ux ) + 3ux − uxxx − (u − u′ )(uxx − u′xx ) − (ux − u′x )2 = −(ut + 3u2x + uxxx ). 他方、可積分条件は (u′x )t = (u′t )x , (ux )t = (ut )x であるので (u′x )t = −uxt − (u − u′ )(ut − u′t ), (u′t )x = −utx + (u − u′ )(uxxx − u′xxx ) − 3(uxx + u′xx )(ux + u′x ). 33 従って、次が成り立つ. −(u − u′ )(ut − u′t ) = (u − u′ )(uxxx − u′xxx ) − 3(ux + u′x )(uxx + u′xx ) = (u − u′ )(uxxx − u′xxx ) + 3(ux + u′x )(ux − u′x )(u − u′ ) ′ = (u − u′ )(uxxx − u′xxx ) + 3(u − u′ )(u2x − ux2 ). すなわち ′ (u − u′ )(ut + uxxx + 3u2x − u′t − u′xxx − 3ux2 ) = 0. これらの式はベックルント変換は KdV 方程式を不変にしていることをしめす. 非線形重ね合わせの原理 自己ベックルント変換が知られている方程式に対しては非線形重ね合わせの原理をしめすことができ る. まず KdV 方程式を考える. 同様のことは sine-Gordon 方程式に対しても成立する. KdV 方程式は vt + 6vvx + vxxx = 0 (28) であるが、一般性を失うことなく ut + 3u2x + uxxx = 0 (29) を考えればよい. つぎの自己ベックルント変換を考える. u′x′ ′ = −ux + β − (u − u′ )2 /2, u′t′ = −ut + (u − u′ )(uxx − u′x′ x′ ) − 2(u2x + ux u′x′ + ux2′ ) x′ = x, t′ = t. すでに示したように、この変換で KdV 方程式は不変である. この変換を用いて自明な解 u′ = 0 から 新しい解を構成できる. ベックルント変換より次の方程式をえる. ux = β − u2 /2, ut = uuxx − 2u2x . 最初の式は変数分離によって積分できる. 詳しくは省略する. 解は次の 2 つである. 最初の解は正則で あり、2 番目の解は x − 2βt = 0 で特異性をもつ. [√ ] √ u(x, t) = 2βtanh β/2(x − 2βt) , (30) U (x, t) = √ 2βcoth [√ ] β/2(x − 2βt) . (31) ここで、大文字は特異解であることを表す. 以下では特異解は大文字であらわす. これらが解である ことは直接方程式に代入することによってわかる. ここで、次の公式に注意する. sinh x = ex − e−x ex + e−x sinh x cosh x , cosh x = , tanh x = , coth x = . 2 2 cosh x sinh x (sinh x)′ = cosh x, (cosh x)′ = sinh x, (tanh x)′ = 1 − tanh2 x, (coth x)′ = 1 − coth2 x. また、ベックルント変換の 2 番目の関係式は最初の式より、ut + 2βux = 0 となる. これをみるため には uxx = −uux , ut = −u2 ux − 2u2x = −2u2x − ux (2β − 2ux ) = −2βux . (30), (31) により x について偏微分して最初の KdV 方程式の解が得られる. すなわち、 [√ ] v(x, t) = ux (x, t) = βsech2 β/2(x − 2βt) [√ ] V (x, t) = Ux (x, t) = −βcosech2 β/2(x − 2βt) . 34 ここで最初の解は 1 ソリトン解である.β は正にとる必要がある.2 番目の解は特異解であるので物理 的には意味がないが非線形重ねあわせでは必要な解である. 線型方程式では 2 つの解 ϕ, ψ がもとまれば αϕ + βψ (α, β は定数)はまた同じ方程式の解であ る. つまり、方程式を解くことなく代数的な演算で第 3 の解がもとまる. 非線型方程式の場合にはこ のような一般的な原理は存在しないが、方程式ごとに適切な代数的な演算で第 3 の解を求める方法が 存在する. これを非線形重ね合わせの原理という. 自己ベックルント変換が存在するような方程式に 対して、これを実行する. まず (29) の KdV 方程式を考える. ϕ を (29) の解とし、ϕβ は ϕ にベックルント変換を施して得られる解とする. β はベックルントパ ラメータである. ベックルント変換は次である. u′x′ = −ux + β − (u − u′ )2 /2, u′t′ = −ut + (u − u′ )(uxx − u′x′ x′ ) − 2(u2x + ux u′x′ + ux2′ ) ′ x′ = x, t′ = t. ϕ にたいしてベックルントパラメータ β, γ を持つベックルント変換を施して得られる解をそれぞれ ϕβ , ϕγ とする. この時、つぎの関数は解である. ψ =ϕ+2 β−γ . ϕβ − ϕγ (32) この解は次のようにして得られる. ϕβ,x = −ϕx + β − (ϕ − ϕβ )2 /2 ϕγ,x = −ϕx + γ − (ϕ − ϕγ )2 /2 つぎに、ϕβ に γ のベックルント変換を施して得られる解を ϕβγ とし、ϕγ に β のベックルント変換を 施して得られる解を ϕγβ とする. これらは次の方程式を満足する. ϕβγ,x = −(ϕβ )x + γ − (ϕβ − ϕβγ )2 /2 ϕγβ,x = −(ϕγ )x + β − (ϕγ − ϕγβ )2 /2. ここで条件 ϕβγ = ϕγβ = ψ (33) を仮定して上の式をひくと次の式を得る. 1 (ϕβ )x − (ϕγ )x = γ − β − (ϕβ − ϕγ )(ϕβ + ϕγ − 2ψ). 2 他方、上式より 1 ϕβ,x − ϕγ,x = β − γ − (ϕβ − ϕγ )(ϕβ + ϕγ − 2ϕ). 2 これらの式を等しいとおくと ψ が求まる. これは求める重ねあわせである. この非線形重ねあわせが 実際解であることをしめすためにはそれを微分して KdV 方程式に代入する. この計算は複雑である が計算すればしめせるのでここでは省略する. 例 KdV 方程式の2つの解 [√ ] [√ ] √ √ u(x, t) = 2βtanh β/2(x − 2βt) , U (x, t) = 2βcoth β/2(x − 2βt) (34) を用いて非線形重ね合わせの原理より新しい解を構成する. (32) で ϕ = 0 とすると ϕβ あるいは ϕγ は (34) の解のいずれかである. この時、とりうる解の組み合わせとしては正則解と正則解、特異解と特 異解、正則解と特異解がある. 前の2つの組み合わせは連続な解にならない. 正則解の組み合わせを √ √ 考える.ξ = x − 2βt → +∞ では分母 ϕβ − ϕγ は 2β − 2γ であり、ξ = x − 2βt → −∞ では分母 35 √ √ ϕβ − ϕγ は − 2β + 2γ となる. これらは符号が異なり分母は連続関数なので中間値の定理より零点 をもつ. 特異解のときも同様である. 従って、連続な解を構成できるのは正則解と特異解の組み合わ せに限る. この場合、中間値の定理は適用できない. 実際、β > γ の場合分母が消えないことを証明す ることができる. 上の解を用いて次の2ーソリトン解が得られる. β1 sech2 ξ1 + β2 cosech2 ξ2 √ v(x, t) = 2(β1 − β2 ) √ ( 2β2 cothξ2 − 2β1 tanhξ1 )2 ここで ξ1 = √ β1 /2(x − 2β1 t), ξ2 = √ β2 /2(x − 2β2 t). さらに β1 = 2, β2 = 8 とすると v(x, t) = −12 3 + 4cosh(2x − 8t) + cosh(4x − 64t) [3cosh(x − 28t) + cosh(3x − 36t)]2 次のグラフは −v/12 のグラフを表す.t は −0.3 から 0.4 まで 0.1 きざみである. mathematica では次 のように書く. Do[Plot[(3 + 4 Cosh[2 x - 8 t] + Cosh[4 x - 64 t]) /(3 Cosh[x - 28 t] + Cosh[3x - 36t])^2, {x, -8, 8}, PlotRange -> All], {t, -.3, .4, .1}]; 大きなソリトンが追いついて小さなソリトンを追い越していく様子がわかる. ふたつのソリトンはぶ つかったあとも形を変えずに移動していく様子がわかる. -7.5 -5 -2.5 0.6 0.6 0.5 0.5 0.4 0.4 0.3 0.3 0.2 0.2 0.1 0.1 2.5 5 7.5 -7.5 -5 -2.5 36 2.5 5 7.5 0.5 0.6 0.5 0.4 0.4 0.3 0.3 0.2 0.2 0.1 0.1 -7.5 -5 -2.5 2.5 5 7.5 -7.5 -5 -2.5 0.6 -7.5 -7.5 -5 -5 -2.5 5 7.5 2.5 5 7.5 2.5 5 7.5 0.6 0.5 0.5 0.4 0.4 0.3 0.3 0.2 0.2 0.1 0.1 -2.5 2.5 2.5 5 7.5 -7.5 -5 -2.5 0.6 0.6 0.5 0.5 0.4 0.4 0.3 0.3 0.2 0.2 0.1 0.1 2.5 5 7.5 -7.5 -5 -2.5 sine-Gordon 方程式の非線形重ね合わせの原理 sine -Gordon 方程式の自己ベックルント変換は u′x′ = ux − 2β sin((u + u′ )/2), u′y′ = −uy + 2β −1 sin(u − u′ )/2), x′ = x, y ′ = y. (25) ここで β はベックルントパラメータ. ϕ を sine Gordon 方程式の任意の解としてこれにベックルント パラメータが β と γ のベックルント変換を施して得られる解をそれぞれ ϕβ , ϕγ とする. このとき、非 線形重ね合わせの公式は ) ( β+γ tan[(ϕβ − ϕγ )/4] . (35) ψ = ϕ + 4 tan−1 β−γ 37 付録 A 常微分方程式の求積法に関する事項の簡単な導入をする. 必要に応じて参考にしてほしい。常微分方 程式とは独立変数 x の関数 y(x) とその導関数をふくむ方程式である. たとえば y ′′ + sin y = 0 (吊り下げられた振り子の方程式、y は振り子の垂直方向とのなす角度) y ′′ + ky = 0 (振動するばねの方程式、y はばねの伸び、k はフックの定数) √ y ′ = −k y (タンクからの水の流出方程式、y は水位) などである. ここで、未知関数は y であり、独立変数は、明示されていないが時間 t あるいは、別の d2 y ′′ 変数 x である。したがって、y = y(t), y ′ = dy dt , y = dt2 である。方程式にあらわれる最高階の導関 数の微分の回数を微分方程式の階数という. たとえば、上の 2 つの方程式は 2 階であり、最後は1階 である. n 階の微分方程式は (E) F (x, y, y ′ , . . . , y (n) ) = 0 とかける. ここで x は独立変数、y = y(x) は未知函数、y ′ , . . . , y (n) は x に関する微分を表す. 上の例 では、独立変数 x は、表にあらわれていない。 (E) の特別な場合で次の形の方程式を正規形の微分方程式という. y (n) = f (x, y, y ′ , . . . , y (n−1) ). この方程式は (E) を陰函数定理で y (n) について解いた形をしている. 上の 3 つの例では、いずれも 正規形の方程式であることに注意しておく。正規形の方程式でない方程式は、多く存在する。たとえ ば、y 2 + (y ′ )2 = 1 はそのような例である。 関数 y = y(x) が解であるとは (E) に y, y ′ , . . . , y (n) を代入したとき、すべての x について (E) が 成立することである. 解のグラフ、{(x, y(x)); x ∈ R} を解曲線 または 積分曲線 という.(E) の解で 任意定数を含むものを一般解 といい、一般解の定数に特別な値を代入して得られる解を 特殊解 とい う. 一般解の形で表せない解として特異解がある. 例 (y ′ )2 = 4y の一般解は y = (x + c)2 (c は定数) である.c = 1 として特殊解 y = (x + 1)2 を得る. 他 方 y = 0 は一般解で定数 c をどのように与えても得られない解であり、特異解である. これ以外にも y = 0 (x ≤ a), = (x = a)2 (x > a) は特異解である. ここで a は任意の数である. 微分方程式を解くというのは、一般的には、このような一般解や特異解を求めることである.し かしながら、応用上はさらに解のうち、ある特別な条件を満たすものを求めることも多い. それらの うち代表的なものは、初期値問題と境界値問題である。境界値問題は、微分方程式をみたす解のう ち、考えている領域の境界で、あたえられた条件を満足するようなものをもとめることである。ここ では、初期値問題について、すこし詳しく述べる。 初期値問題とは、微分方程式に初期条件といわれる方程式の階数と同じ個数の条件を初期時刻 ( 通常は t = 0 とすることが多い) に連立して、解を求めるものである。 例 上であげた振動するばねの方程式 y ′′ + ky = 0 を考える。これは、2 階の方程式であるので、 時刻 t = 0 で、2 つの初期条件 y(0) と y ′ (0) を与える。これは、ばねの初期時刻での変位(=のび) と速度を与えるものである。3番目の水の流出方程式では、時刻 t = 0 での水位 y(0) をあたえれば、 よい。 一般には方程式 (E) の解であって x = x0 での初期条件 y(x0 ) = a0 , y ′ (x0 ) = a1 , . . . , y (n−1) (x0 ) = an−1 をみたす y(x) を求める問題を初期値問題という. ここで x0 は初期時刻であり a0 , a1 , . . . , an−1 は与 えられた数である. 多くの場合、時刻は x のかわりに、t で表すことが多い。 38 例 y ′′ + ky = 0, y ′ (0) = 1, y(0) = 0 は初期値問題の例である.(ばねの振動の方程式)これと対比 される初期値問題の例は、y ′′ + ky = 0, y ′ (0) = 0, y(0) = 1 である。 例 (一階の方程式)上の例で、n = 1 の場合、方程式は、(x = t と書いて) ẏ = f (t, y) となる。このときは、初期値としては、y(0) を与えることが多い。あとで、このような例を与える。 連立の方程式 さらに、応用上は未知関数が複数個あることが多い。また、理論を構成するときは、 未知関数を増やして、連立の微分方程式としたほうが扱いが、すくなくとも理論的には、見通しが良 くなる場合がある。一般的な定義を述べる前に、有名な例をひとつ挙げる。 例 (Lotka-Volterra 方程式) この方程式は、たとえば、ウサギと狐のような一方が他方に捕食 されるような関係にある2つの集団の個体数の変化を記述する方程式である。このような、関係にあ る集団は多くある。大きな仮定は、ウサギはいくらでもえさを見つけることが可能であり、したがっ て、 (あとで述べるように、その集団は幾何級数的に増大する。 )他方、狐の集団は、餌がもしなくな れば、その個体数は、幾何級数的に減少する。ということである。また、ウサギの減少率は、狐の個 体数に比例し、狐の増加率は、ウサギの個数に比例する。前置きはさておいて、微分方程式系は、次 のようになる。 y1′ = ay1 − by1 y2 , y2′ = ky1 y2 − cy2 . ここで、a,b,c, k は、すべて正の定数である。さて、ここで未知関数は、もちろん y1 と y2 であるが、 読者はどちらが、ウサギと狐の個体数であるのか推量してみてほしい。上で、述べたことより、わか るはずである。より正確には、すぐ後で述べる Malthus の法則を参考にするとわかりやすいと思わ れる。 さて、一般の連立方程式を述べておこう。y1 , y2 , . . . , yN を未知関数として、 ẏj = fj (t, y1 , y2 , · · · , yN ), j = 1, 2, . . . , N が、連立方程式の例である。。簡単のため、y = (y1 , y2 , . . . , yN ), f = (f1 , f2 , . . . , fN ) とおいて、 ẏ = f (t, y) と書くことが多い。もし、f (t, y) が t に依存しない場合、すなわち ẏ = f (y) のとき、方程式は自励系 (autonomous system) であるという。 例 ẏ = Ay, A は N 次正方定数行列は、連立方程式の例である。このような方程式の解法は、あ とで述べる。 上のようなベクトルの未知関数の方程式の場合、解を考える領域は通常、(t, y) ∈ D = R × Ω で ある。Ω を相空間 (phase space) という。f をベクトル場という。これについては、後で詳しく触れ ることにする。 まとめ 微分方程式の基本的な用語が、出てきた。方程式の階数、正規形、解の定義をもう一度見直 しておこう。具体例については、あとで詳しく述べるので、ここでは、あまり気にする必要はない。 一階の方程式 (求積法による解法) まず最初に、微分方程式が求積できるとは、四則演算、微分積分、逆関数を取る操作で、初等関数を 用いて解をあらわせることである。 a(x), b(x) をある区間で連続とする. y ′ + a(x)y = b(x) 39 (3) を一階線形微分方程式といい、b(x) ≡ 0 のとき同次方程式 という. ∫x 定理 a(x) の原始関数を A(x), A(x) = a(t)dt とすると、(3) の同次方程式の一般解は y(x) = −A(x) Ce , (C は定数) である. (3) の一般解は ∫ x −A(x) −A(x) eA(t) b(t)dt y(x) = Ce +e (C は定数) によって与えられる. 特異解は存在しない. 証明 (3) の同次方程式より、 dy = −a(x)y. dx 両辺を x について積分して ∫ x 1 dy dx = − y dx ∫ ここで K は定数. 従って、 ∫ a(x)dx = −A(x) + K. 1 dy = −A(x) + K. y 従って、log |y| = −A(x) + K. これより y = ±eK e−A(x) . C = ±eK とおいて y = Ce−A(x) . 一般解を求めるためには定数変化法を用いる. すなわち一般解が y = C(x)e−A(x) となっていたと して C(x) をきめる. 微分して y ′ = C ′ (x)e−A(x) − C(x)a(x)e−A(x) = −a(x)y + C ′ (x)e−A(x) . 従って、b(x) = C ′ (x)e−A(x) となるように C(x) を決めればよい. よって、 ∫ C(x) = b(t)eA(t) dt + C C は定数. これより求める表示を得る. 一般に dy = f (x)g(y) dx の形の方程式を変数分離形という. この形の方程式は上の方法によって積分することができる. 以下では、求積できる方程式の具体的な例をあげる。多くの例を計算したほうが、解法が理解される が、具体的な例の計算は演習に譲る。 Malthus の法則 小集団の生物の個体数はいわゆる Malthus の法則にしたがって増加する. すなわ ち増加率は集団の個体数に比例する. この微分方程式は y ′ = ky, k > 0, y, 個体数 時刻 t = 0 において y(0) = 1 である時、その個体数を求めよ. この計算は、授業でおこなうので、各 自、予習してみてほしい。 放射性物質の崩壊 実験によれば放射性物質の崩壊する割合は存在する量に比例する. すなわち、時 刻を t, その時存在している放射性物質の量を y = y(t) とすると y ′ = ky. ここで定数 k は物質ごとに決まった定数である. たとえば、ラジウム 88 Ra226 では k ∼ −1.4×10−11 sec−1 である. 今、時刻 t = 0 で 2g であるとき、放射性物質の量を求めよ. これは上の方程式を初期条件 40 y(0) = 2 のもとで解くことである. 解答 変数分離法で解く. すなわち、 y′ = k. y (log y)′ = y ′ /y に注意して両辺を積分して、 log y = kt + C, C は定数 これより、y = Aekt , A は定数. ここで初期条件より、 2 = y(0) = Ae0 = A. よって、求める解は y = 2ekt . 炭素による時代同定法 大気中あるいは活動している生物の中の炭素 6 C 12 とその同位体 6 C 14 の割 合は一定である. この 6 C 14 の量は生物が活動を停止すると崩壊して減少する. そこで 6 C 14 の残って いる量を測定して時代を予測することができる. 今、ある遺跡のなかに木の燃えかすがありその 6 C 14 の残っている割合は大気中の 80% であった. このとき、この遺跡はどのくらいの年代が経っていると 予測できるか. 但し、大気中の 6 C 14 の量は年代とともに変化はしないと仮定する. 解答 解くべき方程式は y ′ = ky. そこでこれの解は y = Aekt , A は t = 0 での 6 C 14 の量である. 定 数 k をきめるため、6 C 14 の半減期が 5730 年であることを用いると 0.5 = ekt = e5730k , k = ln 0.5/5730 = −0.000121. 80% の 6 C 14 が残っているためには次が成り立つ必要がある. 0.8 = e−0.000121t , t = −ln 0.8/0.000121 = 1844. ここで実験の誤差が 40 年程あるので実際は 1900 年程と考えておくのがよいだろう. 穴から流れ出る水の方程式 (Torricelli の法則) y = y(t) は時刻 t における底面からの高さとする.t = 0 ではその高さは 16k 2 であるとして、解を求めよ.(図1) タンクからの水の排水 y(t) 41 √ 解答 力学の考察により、つぎの微分方程式がえられる.y ′ = −k y ここで k は排水溝の断面積およ びタンクの断面積、重力加速度によってきまる定数である. これより y −1/2 dy = −kdt. これを積分して 2y 1/2 = −kt + c. 定数 c は初期条件より c = 2 · 4k = 8k. よって求める解は y = (8k − kt)2 /4. これは2次関数である. スカイダイビング 今飛行機からとびおりた人が速度 v0 になったときにパラシュートが開いたとす る. このときの時刻を t = 0 としてこのあとの速度をもとめよ. 最終的にはどれだけの速さになるか. この速さは v0 とどのような関係になるか. 解答 運動は常に地面の方向をむいているのでその速さをもとめる. 速さを v とすると Newton の運 動方程式によれば簡単のため人の質量を m としてつぎの方程式をえる. m dv = mg − bv 2 , dt ここで g は重力加速度、b はパラシュートによってきまる定数である. 以下では簡単のため数値とし て b = m と仮定する. この時、解くべき式は dv = −dt. v2 − g 部分分数展開の公式により 1 1 = √ v2 − g 2 g であるので ∫ ( 1 1 √ − √ v− g v+ g ) √ v− g 1 dv 1 √ √ = √ (log(v − g) − log(v + g)) = √ log √ . v2 − g 2 g 2 g v+ g 従って、積分をして次を得る. これより、 √ v− g 1 log √ √ = −t + c. 2 g v+ g √ √ v− g √ = Ce−2t g . v+ g C は定数.v について解いて √ √ 1 + Ce−2t g √ . v(t) = g 1 − Ce−2t g √ これよりわかるように、t → ∞ の時、v(t) は g に近づく. そこでこれは v0 によらない. 実際、終速 度は重力加速度以外にダイビングをした人の重さとパラシュートによってきまる. 解の中の C は初期 条件によって決まる. 実際、 √ 1+C v0 = g . 1−C 従って、 √ v0 − g C= √ . v0 + g いくつかの C の値に対してグラフを描くと次のようになる. t → ∞ での極限が C の値に依存しない ことがわかる. ここで簡単のため g = 1 としてグラフを描いている. 42 3 2.5 C=1 2 1.5 1 C=0.5 C=-1 0.5 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 Bernoulli 方程式と人口モデル- logistic law Malthus の法則では人口は時間とともに幾何級数 的に増大するが人口が増大すると増加率を押さえるようなモデルがある. これは次のようなモデルで ある. y ′ = ay − by 2 , a > 0, b > 0. 時刻 x = 0 で人口が 1 のときこの方程式を解け. ただし、b/a < 1 とする. ∫ 解答 u = 1/y とおくと u′ + au = b. h = adx = ax とおいて ∫ u = e−ax ( beat dt + C) = e−ax (beax /a + C). したがって、y = eax /(beax /a + C). 今 x が大きくなるとこれは a/b に近づく. C は 1 = 1/(b/a + C) よりもとまる.C = 1 − b/a. 2.2 b=0.5a 2 1.8 1.6 1.4 b=0.6a 1.2 1 2 4 3 0.8 43 5 注意 ここでの方法は Bernoulli の方程式といわれる. これは y ′ + p(x)y = g(x)y a , a は実数 この方程式は u(x) = y 1−a とおくと次の方程式になる. u′ + (1 − a)p(x)u = (1 − a)g(x). この方程式は上と同様にして解くことができる. 化学反応の方程式 リッターあたり a モルの物質 A と b モルの物質 B からつぎのような化学反応を 考える.A + B → M . y を時刻 t での M の量とすれば mass action の法則によれば温度が一定の時次 の微分方程式がなりたつ. y ′ = k(a − y)(b − y). a ̸= b としてこの方程式を解け. 解 変数を分離すると であるので dy = kdt. (a − y)(b − y) ( ) 1 1 1 1 = − (a − y)(b − y) b−a a−y b−y 1 b−y b−y log = kt + c, = Cek(b−a)t . b−a a−y a−y これを y についてとくと y= b − aCek(b−a)t . 1 − Cek(b−a)t C = 0.5, b = 2, a = 1, k = 1 としたグラフは次のようになる. 12 10 8 6 4 0.2 同次形の方程式 0.4 0.6 1 0.8 (y) dy =f dx x 44 1.2 を同次形の方程式という. この方程式は v = y x とおくと y ′ = v + xv ′ であるので dv f (v) − v = dx x となって変数分離形になる. Clairaut の微分方程式 x dy −y =f dx ( dy dx ) を Clairaut の微分方程式という. この方程式は特異解を持つ. 両辺を x で微分すると xy ′′ = f ′ (y ′ )y ′′ . 従って、y ′′ = 0 あるいは x = f ′ (y ′ ). 前者より、y = Ax+B 、 A, B は定数. これをもとの方程式に代入して −B = f (A). 従って、y = Ax − f (A). これは一般解で ある. x = f ′ (y ′ ) とする. 今これより y ′ = p(x) と表せたとする. その時微分方程式 xy ′ − y = f (y ′ ) より y = xp(x) − f (p(x)). これは特異解である. ケプラー問題と3体問題 質量 M (M ≫ 1) の太陽の周りを質量 1 の惑星がまわっているとして、 (厳 密な言い方ではないが)惑星は質点 P であって、その座標を x = (x1 , x2 , x3 ) とする。また、G を万 有引力定数として、k = GM とおく。この時、万有引力の法則より、 k x, ∥x∥ = (x21 + x22 + x23 )1/2 . ẍ = − ∥x∥3 この方程式の解を求めることを、ケプラー問題という。ケプラー問題は解くことができる。 考える方程式は、直交変換で不変であることにより、x(0), ẋ(0) の張る平面が、x1 , x2 平面である ように、座標をとる。この時、ケプラー問題の初期条件は次で与えられる。 xi (0) = ξi , ẋi (0) = ηi , (i = 1, 2), x3 (0) = ẋ3 (0) = 0. あとで証明するように初期値問題の一意性を用いると、x3 ≡ 0 と仮定しておくことができるので、結 局次の平面上の微分方程式を考えればよい。 k ẍi = − xi , (i = 1, 2), ∥x∥ = (x21 + x22 )1/2 . ∥x∥3 この初期値問題を解くために、極座標 (r, ϕ) を x1 = r cos ϕ, x2 = r sin ϕ (r > 0) で導入する。この時、合成関数の公式より、 ẋ1 = ṙ cos ϕ + rϕ̇(− sin ϕ), ẋ2 = ṙ sin ϕ + rϕ̇ cos ϕ. ẍ1 = (r̈ − rϕ̇ ) cos ϕ + (2ṙϕ̇ + rϕ̈)ϕ̇(− sin ϕ), ẍ2 = (r̈ − rϕ̇2 ) sin ϕ + (2ṙϕ̇ + rϕ̈)ϕ̇ cos ϕ. 2 考える方程式の右辺は k − 2 r ( cos ϕ sin ϕ ) . したがって、次の方程式を得る。 r̈ − rϕ̇2 = − k , r2 2ṙϕ̇ + rϕ̈ = 1 d 2 (r ϕ̇) = 0. r dt r2 ϕ̇ は 角運動量といわれる。したがって、第2式より、角運動量は一定。すなわち、ケプラーの第 2法則を得る。 問題 r2 ϕ̇ = c とおいて、第1式を r の微分方程式として書き表せ。この時、解が楕円軌道をあ らわすことをしめせ。(ケプラーの第一法則。)また、ケプラーの第3法則を示せ。(本を参照。計算 はかなり複雑になる) 45 付録 B 線形代数と解析の基礎知識についてまとめる。x = t (x1 , x2 , . . . , xn ) ∈ Rn , y = t (y1 , y2 , . . . , yn ) ∈ Rn にたいして、 ユークリッド内積とユークリッドノルムをそれぞれ ⟨x, y⟩ = n ∑ xj yj , ∥x∥ = √ ⟨x, x⟩ = √ x21 + · · · + x2n . j=1 で定義する。ここで、ノルムとは、あるベクトル空間から非負の実数への写像であって、次の性質を 持つものである。 (i) ∥x∥ ≥ 0 であり、∥x∥ = 0 となるのは、x = 0 の場合かつそのときにかぎる。 (ii) ∀α ∈ Rn にたいして、∥αx∥ = |α|∥x∥. (iii) ∥x + y∥ ≤ ∥x∥ + ∥y∥ (三角不等式) 補題 区間 [a, b] 上の連続な Rn 値関数 f (t) = (f1 (t), . . . , fn (t) に対して、不等式 ∫ b ∫ b f (t)dt ∥f (t)∥dt ≤ a a が、成り立つ。ここで、 ∫ (∫ b f (t)dt = a ∫ b b f1 (t)dt, . . . , a ) fn (t)dt . a 証明.リーマン積分の定義により、分割 a = t0 < t1 < · · · < tn = b に対して、 ∑ lim ni=1 f (ti )(ti − ti−1 ).従って、ノルムの連続性より、 n ∫ b n ∑ ∑ = lim f (t)dt f (t )(t − t ) = lim f (t )(t − t ) i i i−1 i i i−1 a i=1 ≤ lim n ∑ ∥f (ti )(ti − ti−1 )∥ ≤ lim i=1 ∫b a f (t)dt = i=1 n ∑ ∫ ∥f (ti )∥ (ti − ti−1 ) = b ∥f (t)∥ dt. a i=1 n × n 行列の全体を Mn として、行列 A = (aij ) ∈ Mn のノルムを次によって、定義する。 v u∑ u n |aij |2 . ∥A∥ := t i,j=1 次の性質が成り立つ。 補題 (i) ∥αA∥ = |α|∥A∥ (α ∈ R), (ii) ∥A + B∥ ≤ ∥A∥ + ∥B∥. (iii) ∥Ax∥ ≤ ∥A∥∥x∥ (x ∈ Rn ), (iv) ∥AB∥ ≤ ∥A∥∥B∥. (i) と (ii) の証明は略する。(iii) は Schwartz の不等式による。(iv) は (iii) を成分ごとに用いることに より、わかる。(iv) の証明.B = (B1 , . . . , Bn ) として、 AB = (AB1 , AB2 , . . . , ABn ). 従って、 ∥AB∥2 = ∥(AB1 , AB2 , . . . , ABn )∥2 = n ∑ j=1 46 ∥ABj ∥2 . (iii) を用いて、右辺は次のように評価できる. ≤ ∥A∥2 n ∑ ∥Bj ∥2 = ∥A∥2 ∥B∥2 . j=1 (iii) の証明.A = t (A1 , A2 , . . . , An ) とすると、シュワルツの不等式を用いて ∥Ax∥2 = n ∑ |⟨Aj , x⟩|2 ≤ j=1 n ∑ ∥Aj ∥2 ∥x∥2 = ∥A∥2 ∥x∥2 . j=1 定義 領域 D が x 方向に凸であるとは、D の任意の2点 (t, x), (t, y) を結ぶ線分が D に含まれるこ とをいう。有界閉領域 D で f (t, x) が C 1 級であるとは、D の内点で連続微分可能であり、その微分 ∂f ∂xj (j = 1, 2, . . . , n) が境界まで連続であることである。 (t, x) ∈ R × Rn , x = (x1 , . . . , xn ) とする.d > 0 と x0 ∈ Rn にたいして D = {x ∈ Rn ; ∥x − x0 ∥ ≤ d} とする.t0 を実数、a > 0 とする. リプシッツ連続性 f ≡ f (t, x) が f : [t0 −a, t0 +a]×D → Rn なる写像として x について Lipschitz(リ プシッツ) 連続とは、正の定数 K > 0 が存在して ∥f (t, x1 ) − f (t, x2 )∥ ≤ K∥x1 − x2 ∥, ∀|t − t0 | ≤ a, ∀x1 , x2 ∈ D が成り立つこととする. ここで距離は通常の距離とする. 命題 Rn に値をとる関数 f (t, x) が x 方向に凸な有界閉領域 Ω で C 1 級であれば、そこでリプシッツ 条件を満たす。 証明。ys = sx1 + (1 − s)x2 (0 ≤ s ≤ 1) とおくと、凸性より ys ∈ Ω であり、平均値の定理より ∥f (t, x1 ) − f (t, x2 )∥ = ∥f (t, y1 ) − f (t, y0 )∥ = ∥ d f (t, ys )|s=α ∥ = ∥∇x f (t, yα )(x1 − x2 )∥. ds ここで、0 ≤ α ≤ 1. 解の存在の証明 証明 まず解の存在をしめす.(1) の両辺を t について t0 から t まで積分した次の積分方程式の連続 な解を求める. ∫t (2) x(t) = x0 + t0 f (s, x(s))ds. 明らかに (2) の連続な解は (1) の連続微分可能な解となる.(右辺は t について連続微分可能である. この方程式を Voltera 型の積分方程式という) (2) の解の存在は逐次近似法による.x0 (t) = x0 (定数函数) として順に xj (t) を ∫ t xj (t) = x0 + f (s, xj−1 (s))ds, j = 1, 2, . . . t0 で定義する. まず近似列が定義可能であることを示そう. 実際、|t − t0 | ≤ α であれば xj−1 (t) が f (t, x) の定義域に入っていることをみればよい.あきらかに x0 (t) = x0 は f (t, x) の定義域に入っている.帰 納法によるとして、xj−2 (t) が |t − t0 | ≤ α の時、f (t, x) の定義域に入っているとする.従って xj−1 (t) は定義されており、|t − t0 | ≤ α であれば M の定義より ∫ t ∫ t ∥xj−1 (t) − x0 ∥ = f (s, xj−2 (s))ds ≤ ∥f (s, xj−2 (s))∥ ds t0 t0 47 ∫ t ds ≤ M |t − t0 | ≤ M α ≤ d. ≤ M t0 従って |t − t0 | ≤ α であれば xj−1 (t) は f (t, x) の定義域に入っている.よって、xj (t) は定義可能で ある. 次に函数列 xk が |t − t0 | ≤ α で一様収束することをしめす.つぎに、函数列 xk が一様収束するこ ∑ とは、xk が一様にコーシー列であることをしめせばよい。xk = kj=0 (xj − xj−1 ) (但し x−1 = 0 と する) であるので m > n として、 xm − xn = m ∑ (xj − xj−1 ) j=n+1 より、 lim ∥ m,n→∞ m ∑ (xj − xj−1 )∥ ≤ lim j=n+1 m ∑ ∥xj − xj−1 ∥ j=n+1 であり、右辺が0であることを示せば、十分である。これは次の一様収束と同値である。 ∞ ∑ ∥xj − xj−1 ∥ < ∞ j=0 今、これを示せたとする。この時、函数列 xk が |t − t0 | ≤ α で一様収束すれば、連続関数の一様 収束極限として、lim xk =: x は、連続関数である。さらに、f (s, xj−1 (s)) は f (s, x(s)) に、一様収束 するので、 ∫ t ∫ t ∫ t x(t) = lim xj (t) = x0 + lim f (s, xj−1 (s))ds = x0 + lim f (s, xj−1 (s))ds = x0 + f (s, x(s))ds. j t0 t0 t0 よって、x(t) は、考える積分方程式の連続な解である。 定義式より ∫ t ∫ t ∥x1 (t) − x0 (t)∥ ≤ f (s, x0 (s))ds ≤ ∥f (s, x0 (s))∥ ds ≤ M |t − t0 |. t0 次に t0 ∫ t ∥x2 (t) − x1 (t)∥ ≤ f (s, x1 (s)) − f (s, x0 (s))ds t0 であるが、Lipschitz 連続性より右辺は ∫ t ∫ t ≤ K ∥x1 (s) − x0 (s)∥ds ≤ KM |s − t0 |ds . t0 t0 ∫ t ここで t0 |s − t0 |ds = |t − t0 |2 /2! であるので ∥x2 (t) − x1 (t)∥ ≤ M K |t − t0 |2 . 2! 一般に、j = 2, 3, . . . , j に対して ∥xj−1 (t) − xj−2 (t)∥ ≤ M 48 K j−2 |t − t0 |j−1 (j − 1)! であるとすると ∫ t . ∥xj (t) − xj−1 (t)∥ ≤ f (s, x (s)) − f (s, x (s))ds j−1 j−2 t0 Lipschitz 連続性より右辺は ∫ t ∫ j−1 ≤ K ∥xj−1 (s) − xj−2 (s)∥ ≤ M K t0 従って、 t t0 ∞ ∑ ∥xj (t) − xj−1 (t)∥ ≤ j=1 ∞ ∑ j=1 K j−1 |t − t0 |j |s − t0 |j−1 ds ≤ M . (j − 1)! j! M K j−1 |t − t0 |j . j! 右辺の級数は |t − t0 | ≤ α で一様収束する. よって解の存在は示された. Gronwall の定理の証明 ∫t 証明 条件式の両辺に δ1 y(t)(δ1 t0 x(s)y(s)ds + δ2 )−1 をかけて t について t0 から t まで積分する. そ の時 ∫ t ∫ t δ1 x(s)y(s) ∫s y(s)ds. ds ≤ δ1 t0 δ1 t0 x(σ)y(σ)dσ + δ2 t0 従って ) ( ∫ t ∫ t y(s)ds. x(s)y(s)ds + δ2 − log δ2 ≤ δ1 log δ1 t0 t0 すなわち ∫ t δ1 ) ( ∫ t y(s)ds . x(s)y(s)ds + δ2 ≤ δ2 exp δ1 t0 t0 仮定の不等式を用いれば求める式を得る. 49 付録 C 複素領域での微分方程式 正則な係数を持つ微分方程式 z を複素変数として、次の微分方程式を考える. dwj = fj (z, w), dz (1) j = 1, . . . , n, w = (w1 , . . . , wn ). ここで fj (z, w) は複素変数 z, wj (j = 1, . . . , n) について連続であって、かつ正則であるとする. 正則 とはすべての変数 z, wj (j = 1, . . . , n) について微分可能であることであるとする. 以下では解の微分 は正則函数としての微分を考えることにする. 次の Cauchy の存在定理は基本的である. 定理 (1) において fj (z, w) は z = α ∈ C, w = β ∈ Cn において正則とする. その時 z = α で w = β となる (1) の正則な解がただひとつ存在する. 証明 まず z = y + α なる独立変数の変換および w = v + β なる未知函数の変換を行うことにより、 α = 0, β = 0 と仮定することができる. 以下では記法を簡単にするため次の記号を導入する.Z+ は非 負の整数の全体とする. wη = w1η1 · · · wnηn , w = (w1 , . . . , wn ), η = (η1 , . . . , ηn ) ∈ Zn+ . また (2) f (z, w) = (f1 (z, w), . . . , fn (z, w)) と定義する. この時 f (z, w) が z = 0, w = 0 で正則であるとは ∑ ak,η z k wη (3) f (z, w) = k∈Z+ ,η∈Zn + とテイラー展開できることである. ここで ak,η ∈ Cn は定数ベクトルである. 解を構成するため未定係数法を用いる. すなわち解が (4) w(z) = ∞ ∑ wk z k , wk = (w1,k , . . . , wn,k ) k=0 とテイラー展開されたして展開係数を微分方程式と初期条件から形式的に決める.次にこの展開が実 際収束することを示す. 初期条件を考慮すると展開は k = 1 から始まるとしてよい. ∑ k−1 .(1) は w ′ = f (z, w) とかけることに注意して、w および (4) を微分して w′ (x) = ∞ k=1 wk kz w′ のテイラー展開を代入する. (∞ )η ∞ ∑ ∑ ∑ ∑ k−1 j η j k (5) wk kz = aj,η z w = aj,η z wk z . k=1 j∈Z+ ,η∈Zn + j∈Z+ ,η∈Zn + k=1 ここで (6) (∞ ∑ )η wk z k = k=1 Rp,η z p , R0 = 1 n ∏ (∞ ∑ )ην ν=1 k=1 p=0 k=1 と展開してその係数 Rp,η を決める. (∞ ∑ ∞ ∑ )η wk z k = 50 wν,k z k であるので右辺をすべて展開して z p が現れるのは Ω: n ∑ (k1,ν + · · · + kην ,ν ) = p, kℓ,ν ∈ N, ℓ = 1, 2, . . . , ην , ν=1 なる各項の積であり、このような和を考えて (7) Rp,η = n ∑∏ wν,k1,ν · · · wν,kην ,ν . Ω ν=1 である.(6) を (5) の右辺に代入して (8) ∞ ∑ k=1 wk kz k−1 = ∑ ( aj,η z j j∈Z+ ,η∈Zn + ∞ ∑ )η wk z k k=1 = ∞ ∑ k=0 ∑ aj,η Rp,η z k . j+p=k,η∈Zn + したがって次の漸化式より wk が順に決まればよいことがわかる. ∑ (9) (k + 1)wk+1 = aj,η Rp,η , k = 0, 1, . . . j+p=k,η∈Zn + k = 0 とするとこれより w1 は決まる. 一般に wk まで決まったとすると (9) の右辺では wk までしか現れ ないからこれは既知である.従って、wk+1 を決めることができる. よってすべての wk (k = 0, 1, 2, . . .) はただ一通りにきまる. この事実より正則な解は存在すればただひとつしかないことがわかる. なぜならば正則函数の一般 論より正則関数は原点でのテイラー展開の係数から一意的に決まるからである. よって定理を示すた めには上で構成した級数解が実際収束することを示せばよい. このためには優級数の方法を用いる. 2 つのべき級数 ∞ ∞ ∑ ∑ k Ak z k ak z , U (z) = u(z) = k=0 k=0 に対し、すべての k, k = 0, 1, . . . に対して |ak | ≤ Ak が成り立つ時 U (z) は u(z) の優級数であるといい u(z) ≪ U (z) と表す. ここで |ak | はベクトル ak の各成分をその絶対値で置き換えたベクトルであり、不等式 |ak | ≤ Ak は各成分ごとに不等式が成り立つこととする. 直ちにわかるようにもし U (z) が z = 0 の近傍で収束 すれば u(z) も原点の近傍で収束する. 以下の証明はこのような優級数の存在をしめす.まず f (z, w) の優級数を構成する. f (z, w) は |z| ≤ ρ, |wj | ≤ R (j − 1, . . . , n) を含むある開集合で正則とする. したがって Cauchy の 積分公式より ε > 0 を十分小さくとれば (10) I I I 1 f (ζ, ξ1 , . . . , ξn ) f (z, w) = dζdξ1 · · · dξn . ··· n+1 (2πi) |ζ|=ρ+ε |ξ1 |=R+ε |ξn |=R+ε (ζ − z)(ξ1 − w1 ) · · · (ξn − wn ) η (3) より ak,η = (∂zk ∂w f )(0, 0)/(k!η!) であるので (10) より ε ↓ 0 として I I I 1 f (ζ, ξ1 , . . . , ξn ) (11) ak,η = dζdξ1 · · · dξn , ··· n+1 (2πi) ζ k+1 ξ η+e |ζ|=ρ |ξ1 |=R |ξn |=R ここで e = (1, . . . , 1). |f (ζ, ξ)| ≤ M とすれば (12) |ak,η | ≤ M ρ−k R−|η| , 51 |η| = η1 + · · · + ηn . したがって次の優級数を得る. ∑ (13) f (z, w) ≪ M ρ−k R−|η| z k wη = M (1 − z/ρ)−1 (1 − w1 /R)−1 · · · (1 − wn /R)−1 ≡ F (z, w). k,η この時方程式 (1) に応じて優微分方程式 dW = F (z, W ) dz (14) を考える. 初期値 W (0) = 0 のもとで (14) の形式解を構成すると W は w の優級数であることをしめ ∑ ∑ k す.F (z, w) = k,η Ak,η z k wη 、W (z) = ∞ k=0 Wk z と展開すると解の構成により Wk は (9) で w を W ,aj,η を Aj,η とした漸化式よりきまる.w0 = W0 = 0 であるので帰納的に |wk | ≤ Wk であることは 容易にわかる. 実際 ∑ ∑ |aj,η ||Rp,η | ≤ (k + 1)−1 |wk+1 | ≤ (k + 1)−1 Aj,η |Rp,η | = Wk+1 . j+p=k,η∈Zn + ここで |aj,η | は aj,η の各成分をその絶対値で置き換えた行列であり、上の不等式は各成分ごとに成り 立つとする. 従って求めることが出る. そこで (14) の解が正則であることを示せばよいがこれは求積 法により求めることができる. 解の接続については正則函数の解析接続により解が存在する範囲で一意的に解を接続することが できる. 線形系 正則な解の存在 次の線型方程式系を考える. (15) dw = A(z)w. dz ここで w = w(z) = (w( z), . . . , wn (z)) であり、A(z) はある領域 D で正則であるとする. 正則な場合 には次の定理が成立する. 定理 任意の a ∈ D と z0 ∈ Cn に対して w(a) = w0 となる (15) の正則な解はただひとつ存在する. 証明 D 内のなめらかな路 C : z = g(t) について解を解析接続できることをしめそう.実での議論 によりこのような路の上に方程式を制限して考えるとその短点まで解を接続できる. そこでその端を z = b として、そこでの w の値を w1 とする.w(b) = w1 となる (15) の正則な解は存在する. これを u(z) とするとき、実での解の一意性より C 上では u(z) = w(z) である.実際これらの函数は z = b で 同一の値をとり C 上で同じ方程式を満足する. 従って、解析接続の原理より w は z = b で正則であ る. これより解は D で正則であることがわかる. 特異点の近傍での解の表示 以下では A(z) が特異点を持つ場合に解の特異点を調べる. まず A(z) は z = 0 に実際極を持つとする. D : 0 < |z| < r として D 内では A は一価正則とする. 実の場合の 線型方程式の一般論は今の場合も成立するので D の点をひとつ固定するとその近傍で正則な基本解 X(z)(非特異な n 次正方行列) が存在して、X(z) は (15) の解であり、任意の解は適当な正則な定数ベ クトル c = t (c1 , . . . , cn ) によって X(z)c と表せる. この解を D 内で原点を一周するジョルダン閉曲線 に沿って解析接続して C 上同一の点に戻ったとする. 解析接続して得られる解を U (z̃) (z̃ = e2πi z) と 書くことにすると解析接続により微分方程式は dU = A(z̃)U dz̃ となる. A の一価性により dU dz = A(z)U . 従って、U は (15) の解であり、適当な非特異な定数行列を 用いて U = XC とあらわせる.さて基本解は X のかわりに XP (P は det P ̸= 0) をとることができ 52 るのでこの時関係式は U P = XP C となる. すなわち U = XP CP −1 . そこで J := P CP −1 をジョル ダン標準形になるように選んでおくとする. この時 X は XJ に変換される. 以下ではまず J が対角行列すなわち J = diag (µ1 , . . . , µn ) である場合を考える. 1 log µj , j = 1, . . . , n 2πi によって λj をきめる.分枝は適当にとって固定する. λj = Φ(z) := X(z) diag (z −λ1 , . . . , z −λn ) によって Φ(z) をきめるとこれは原点の周りを解析接続した時一価である. 実際、解析接続により diag (z −λ1 , . . . , z −λn ) は J −1 diag (z −λ1 , . . . , z −λn ) になる.従って解の基本系として次の形のものをとることができる. Φ(z) diag (z λ1 , . . . , z λn ) = Φ(z)eΛ log z , Λ = diag (λ1 , . . . , λn ). ここで Φ(z) は一価な函数である. 次に自明でない Jordan block が存在する場合を考える. 各ブロックについて考えればよいので一 1 log µ によって λ を定める.Jordan 般性を失うことなく対角成分はすべて µ に等しいとする.λ = 2πi 行列の冪零部分の行列を N で表すと J = µI + N であり、 Y (z) := X(z) diag (z −λ , . . . , z −λ ) を原点の周りで解析接続すると Y (z) は Y (z)(I + N/µ) に変換される. この変換は一価な Φ(z) にた いして log z Φ(z)(I + N) 2πiµ の受ける変換と同じである.(各自試してみよ) 上と同様な議論から解は Φ(z)(I + log z N )z λ 2πiµ と表せる. Φ(z) が z = 0 で極を持つ時、z = 0 は方程式の確定特異点であるといい、真性特異点を持つ時不 確定特異点であるという. 確定特異点を持つ微分方程式ー局所理論ー 定理 方程式 (15) において (16) A(z) = B + C(z) z ここで C(z) は z = 0 で正則、B ̸≡ 0 とする.この時 (15) は z = 0 で確定特異点をもつ. 証明 w = P v (det P ̸= 0) なる一次変換を施しておけば (15) は z dv − P −1 BP v = zC(z)P v. dz 簡単のため B の固有値は互いに相異なるとする.さらにすべての固有値が整数を法として相異なる 場合を考える. すなわち固有値を λj (j = 1, . . . , n) とするとき (17) λi − λj ̸∈ Z. 53 ∑ ∑∞ j n w = zλ ∞ n=0 wn z なる形の解を求める. zC(z) = j=1 z Cj と展開して (16) に注意して (15) に代 入して両辺の冪 λ, λ + 1, λ + 2, . . . を比較する. λ は λj (j = 1, . . . , n) のいずれかに等しいとする. z λ の係数より (λ − B)w0 = 0. (18) λ = λk であれば w0 = ek = t (0, . . . , 0, 1, 0, . . . , 0) ととることができる.一般に z λ+k の係数より ∑ (19) (k + λ − B)wk = C j wν . j+ν=k,j≥1,ν≥0 条件 (17) より k + λ − B は可逆である. 従って、帰納的に (19) より wk を決めることができる. 従っ て、独立な n 個の形式解が求まる. 形式解の収束を優函数の方法で示す. C(z) ≪ (1 − z/R)−1 Λ となる R > 0 と定数行列 Λ をとる.さらに定数 0 < ε ≤ 1 を |k + λ − λj | ≥ ε, k = 0, 1, 2, . . . ; j = 1, . . . , n となるようにとる. この時次の優方程式を考える. εW = z(1 − z/R)−1 ΛW + 1. (20) この方程式は陰函数定理より z = 0 で正則な解 W (z) を持つ. W (0) = 1/ε である.従って W (z) が上 ∑ j で求めた形式解 w(z)z −λ の優函数であることをしめせば証明は終わる. z(1 − z/R)−1 Λ = ∞ j=1 Dj z ∑∞ k と展開する.この時 |Cj | ≤ Dj である.W (z) = k=0 Wk z と展開すると直ちにわかるように ∑ Wk+1 = ε−1 Dj Wν , k = 0, 1, 2, . . . j+ν=k 定義より |w0 | ≤ W0 . いま |wj | ≤ Wj (j ≤ k) とすると漸化式より ∑ ∑ |Cj ||wν | ≤ ε−1 Dj Wν = Wk+1 . |wk | ≤ |(k + λ − B)−1 | j+ν=k j+ν=k 従って W (z) は w(z) の優函数である. 次に条件 (17) が成立しないとする. 明らかに λi が λi − λj がすべての j = 1, . . . , n に対して負の 整数とならないならば上の議論は有効でありそのような λi にたいして z λi v(z) (v は正則) の形の解が 求まる. 簡単のため λ1 を考えて、整数 1 ≤ p1 < p2 < · · · < pℓ が存在して pj + λ1 − λkj = 0, (21) j = 1, . . . , ℓ となったとする.λ をパラメータとして R(λ) := ℓ ∏ (pj + λ − λkj ) j=1 と定義して (22) w(z, λ) = R(λ)z λ e1 + w1 (λ)z λ+1 + · · · , e1 = t (1, 0, . . . , 0) となるような w(z, λ) を (19) の漸化式を用いて決定する. その時 (23) z dw − Bw − zC(z)w = R(λ)(λ − λ1 )z λ e1 dz 54 となる.この両辺を λ について ℓ 回微分して λ = λ1 とおく.その時 (23) の右辺は消えるので v(z) = (∂λℓ w)(z, λ1 ) は d z v − Bv = zC(z)v dz を満たす. 従って v は解である. v(z) の計算からわかるように v(z) は log z について高々 ℓ 次の多項 式である. この函数は他の解と独立であることは v(z) の定義と (22) よりわかる. ∑ k つぎに w(z, λ) とその λ についての ℓ 階までの微分が収束することを示す. w(z, λ) = z λ ∞ k=0 wk (λ)z ℓ ℓ−ν と展開するとき優函数の存在を示す. 前の議論と同じ議論を用いる. (∂λ w)(z, λ) において (log z) ∑ の係数として現れる項は (∂λν wk (λ)z k の定数倍であるのでこれらの級数が収束することを示せばよ ∑ い. (23) の両辺を λ について微分して log z の等しい冪を比較すると (∂λν wk (λ)z k の満足する微分 方程式が得られる. これらの方程式は適当な整数に対して B を B + q としたものになる.優函数を構 成して収束を示す時には議論に変更はないのでこれらの方程式は同様に扱うことができる. (log z)ℓ の 係数の収束は前と同様に示すことができる. 詳しくは省略する. 以上により (17) が成立しない場合に も確定型の基本解を構成できる. つぎに固有値の中に同じものがある場合を考える. B が対角型であるときは議論はうえの場合と同 じであるので B が自明でない Jordan ブロックを持つ場合を考える.λj (j = 1, . . . , k) を Jordan block に対応する固有値としてこれらは条件 (17) を満足するとする. 従って各 λj (j = 1, . . . , k) にたいして 収束する確定型の解を構成することができる. 簡単のためひとつの Jordan ブロックを考える. この時、 (k + λ − B)−1 = ((k + λ − B0 ) − N )−1 B0 は対角成分、N は冪零部分を構成する必要があるが (k + λ − B0 ) は可逆であるのでこれは有限の ノイマン級数で表せる. 従って漸化式を解くことができ優函数の方法を同様に適用すると収束する解 を構成できる. 従って、あとはフロベニウスの方法を適用して独立な他の解をもとめる.(λ − λ1 )ν をかけて λ に ついて ν 回微分してフロベニウス解を構成する. これによって Jordan ブロックの多重度に応じた独 立な解を構成できる. 詳しくは略する. さらに (17) が成立しない時は Jordan ブロックに対応する解を構成するときにフロベニウス解を もちいる.さらに多重度に応じた解を構成する時にも適当なフロベニウス解を構成する必要がある. この構成は略するが同様にして構成できる.以上をまとめるといずれの場合でも確定型の解を構成で きる. 一般の場合以外ではパラメータについて微分することによりフロベニウス解を構成して対数項 を含む解となる. 55 付録 D 定数係数の線形微分方程式 定数係数の n 階線形同次方程式 (n ≥ 1) y (n) + a1 y (n−1) + · · · + an y = 0 (4) を考える. ここで aj は定数である. 次の方程式を特性方程式という. λn + a1 λn−1 + · · · + an = 0. (5) 方程式 (5) の解を λi (i = 1, 2, . . . , k)、その多重度を pi , p1 + · · · + pk = n とする. この時函数 yi,j (t) を j = 0, 1, . . . , pi − 1; i = 1, . . . , k yi,j (t) = tj exp(λi t), で定義する.yi,j (t) (j = 0, 1, . . . , pi − 1, i = 1, . . . , k) は一次独立な函数である. この時次が成り立つ. 定理 yi,j (t) (j = 0, 1, . . . , pi − 1, i = 1, . . . , k) は一次独立な (4) の解である. 証明 一次独立性はロンスキー行列式を計算することによってわかる. 詳しくは略する. 解であること は pi = 1 のときは y = yi,0 = eλi t であるので y (n) + a1 y (n−1) + · · · + an y = (λni + a1 λin−1 + · · · + an )eλi t = 0. pi = 2 の時は y = teλi t であるので上と同じ計算により y (n) + a1 y (n−1) + · · · + an y = (nλni + a1 (n − 1)λin−1 + · · · + an−1 )eλi t . この右辺は多重度が 2 であることによりゼロである. 一般の場合も同様に計算してわかる. 例 2 階の方程式 y ′′ + a1 y ′ + a2 = 0 の特性方程式は λ2 + a1 λ + a2 = 0. この解を λ1 , λ2 とするとき、 λ1 ̸= λ2 の時は eλ1 x , eλ2 x が一次独立な解である. λ1 = λ2 の時は、独立な解は eλ1 t , teλ1 t である. 行列形の定数係数の線形微分方程式 方程式 (4) を行列形にあらわすと理論が見やすくなる. y1 = y, y2 = y ′ , . . . , yn = y (n−1) とおくと (4) は次の形になる. y1 y2 d .. dx . yn−1 = yn 以下では y1 y2 .. . Y= yn−1 yn とおいて次の方程式を考える. ··· 1 .. . ··· ··· .. . −an −an−1 · · · 0 ··· 0 0 1 0 ,A = 0 0 1 yn−1 −a1 yn ··· 1 .. . ··· ··· .. . 0 0 −an −an−1 · · · 0 ··· 1 −a1 0 0 Y′ = AY. 1 0 y1 y2 .. . (6) 注意:行列 A は必ずしも上のような形である必要はなく以下では n 次正方行列であればよい.以下 では、行列 A は一般の定数行列であるとして、考えることにする。 56 定理 (6) の基本解は exp(tA) で与えられる. 特に、素解は exp((t − τ )A) で与えられる。 注意 ここで exp(xA) = ∞ ∑ xj Aj j=0 j! = Id + xA + x2 A2 x3 A3 + + ··· 2 3! である.収束することはこれらの準備の下で級数は任意の R > 0 にたいして |x| ≤ R で一様に絶対収 束する. 実際 |t| ≤ R で ∞ ∞ ∑ |t|j ∥Aj ∥ ∑ Rj ∥Aj ∥ ≤ <∞ j! j! j=0 を示せばよいが、∥Aj ∥ j=0 ∥A∥j ≤ であるので求める収束が従う. 定理の証明 Y = exp(tA) が解であることは直接微分することによってわかる. 級数は t につい て |t| ≤ R で一様に絶対収束するので微分は項別に微分してよい. Y′ = (Id)′ + A + tA2 + t2 A3 t2 A2 + · · · = A(Id + tA + + · · · ) = AY. 2! 2! 列ベクトルを考えることにより n 個の解が得られるがこれらが独立であることをしめす.実際、行列 式の満足する微分方程式を考えると、行列式が消えないことを示すためには、t = 0 で考えれば十分 である。従って、求めることがでる。 注意 この事実を直接計算で確かめることもできる。行列式を計算する. A = P −1 JP とすると (J は Jordan 標準形 P は正則行列) P An P −1 = (P AP −1 )n = J n であるので P etA P −1 = ∑ P tn An −1 ∑ tn P An P −1 ∑ tn J n P = = . n! n! n! n n 右辺の対角成分を考えるとそこには etA の固有値が並んでいるので A の固有値を λ とすると etA の 固有値は etλ である.det etA は etA の n 個の固有値の積であるが、det etA = et traceA となってこれ は零でない. 従って、一次独立性が出る. 非斉次方程式の解の公式 次の非斉次方程式を解く. Y′ = AY + b(t). (7) (7)で b(t) = 0 とした方程式の一般解は C を定数ベクトルとして etA C で与えられる. したがって、 定数変化法より C の満足する方程式は Y = etA C として AetA C + etA C ′ = AetA C + b. ∫t 従って、C ′ = e−tA b(t). 積分して C = 0 e−sA b(s)ds. これより解は ∫ t tA Y(t) = e e−sA b(s)ds + etA C. 0 ジョルダン標準形と解の具体的表示 つぎの実ジョルダン標準形を用いる。 補題(実ジョルダン標準形) 実行列 A に対して、実正則行列 P を適当に選んで J := P −1 AP は次 の形に変換できる。 J(λ1 , m1 ) 0 0 0 .. . J(λq , mq ) . J = K(α1 , β1 , ℓ1 ) .. . K(αr , βr , ℓr ) 57 ここで、λj は実数、αj , βj は実数である。さらに J(λj , mj ), K(αj , βj , ℓj ) は実ジョルダン細胞といわ れる。これは次で与えられる。ここで、簡単のため、添え字 j を省略する。 λ 1 0 0 L I2 0 0 0 λ 1 0 0 L I2 0 0 λ 1 0 L I 2 . .. .. J(λ, m) = , K(α, β, ℓ) = . . 0 λ 0 L .. .. . 1 . I2 λ L ( ここで、L = α −β β α ) , I2 は 2 次の単位行列である。 証明 複素行列に対するジョルダン標準形の結果を用いる。固有値が実数であれば、J(λj , mj ) の部 分が得られる。他方、複素数の固有値が現れると K(αj , βj , ℓj ) が現れる。実際、ある複素固有値に対 するジョルダンブロックを考えればじゅうぶんである。そこで、その固有値を λ, 固有ベクトルを uj とすると、Au1 = λu1 , Au2 = λu2 + u1 , · · · , Auk = λuk + uk−1 となるが、ここで、固有値と固有ベ クトルを実部と虚部にわけると、もとめる表示を得る。 簡単のため、λ = α + iβ, u1 = u′1 + iu′′1 とする。この時、 Au1 = λu1 = (α + iβ)(u′1 + iu′′1 ) = αu′1 − βu′′1 + i(βu′1 + αu′′1 ). ( ) α −β t ′ ′′ t ′ ′′ ′ ′′ (αu1 − βu1 , βu1 + αu1 ) = (u1 , u1 ) β α 方程式 Au2 = λu2 + u1 では、u2 = u′2 + iu′′2 , t (u′2 , u′′2 , u′1 , u′′1 ) を考えて同様に計算をすればよい。 練習問題 上の議論を実行して、求めるような行列表示が得られることを示せ。 基本解の表示 方程式 ẏ = Ay を考える。基本解 etA を計算する。このため、未知関数の変換 y = P x を行うと方程式は ẋ = P −1 AP x となる。そこで、正則行列 P を適当に選んで、A を実ジョ ルダン標準形に変換する。以下では、簡単のため、A = J すなわち、最初から実ジョルダン標準形に なっているとする。 etJ は次のようにあらわせる。実際、 etJ = ∞ k k ∑ t J k=0 であるので、J k を計算すると J(λ1 , m1 )k k J = 0 .. . k! 0 0 J(λq , mq )k K(α1 , β1 , ℓ1 )k .. . . K(αr , βr , ℓr )k 和をとって、つぎの表示が成り立つことがわかる。 eJt = etJ(λ1 ,m1 ) ⊕ · · · ⊕ etJ(λq ,mq ) ⊕ etK(α1 ,β1 ,ℓ1 ) ⊕ · · · ⊕ etK(αr ,βr ,ℓr ) . この意味は、eJt は、対角成分に右辺の直和成分が並ぶような行列であるという意味である。これよ り、J は最初から、上の実ジョルダン細胞のどれかの成分であるとして、計算してよいことがわかる。 58 命題 次が成り立つ。 etJ(λ,m) t2 2! R R tR tα =e etK(α,β,ℓ) ··· .. . 1 t .. .. . . .. . tλ =e R ここで、 ( これを証明するため、まず次を考える。 次の補題からはじめる。 ( ) ( 0 −β cos tβ tJ 補題 J = のとき、e = β 0 sin tβ etJ = ∞ k k ∑ t J k=0 k! . .. . .. t2 2! . t 1 = ν=0 + 2ν! , .. . .. . .. . .. . .. t2 2! R . tR R . ) . ) − sin tβ cos tβ ∞ 2ν 2ν ∑ t J tm−1 (m−1)! R ··· .. . .. . .. . tR .. . .. . .. . .. cos βt − sin tβ sin tβ cos tβ R= 証明 tm−1 (m−1)! t2 2! 1 t ∞ 2ν+1 2ν+1 ∑ t J ν=0 (2ν + 1)! . ここで、J 2 = −β 2 I, I は2次の単位行列であるので、 ∞ 2ν 2ν ∑ t J ν=0 2ν! = ∞ 2ν ∑ t (−1)ν β 2ν 2ν! ν=0 I = cos βI. ( ) ( ) ∞ 2ν+1 2ν+1 ∑ t β (−1)ν 0 −1 0 −1 = = sin tβ . 1 0 1 0 (2ν + 1)! (2ν + 1)! ∞ 2ν+1 2ν+1 ∑ t J ν=0 ν=0 これよりもとめる式を得る。 ( ) ( α −β cos tβ tA tα 補題 A = のとき、e = e β α sin tβ − sin tβ cos tβ ) 証明 etA = etαI+tβJ = etαI etβJ = etα etβJ . 前の補題より、求める式を得る。 etK(α,β,ℓ) を計算するため、 K(α, β, ℓ) =: E + N 59 とあらわす。ここで、E は適当な次数の単位行列、N は冪例行列である。 0 I2 0 0 L 0 0 0 L 0 0 0 0 I2 0 0 L 0 0 0 I2 , E = . N = .. 0 L 0 0 . .. I 2 0 0 .. . .. . 0 L したがって、 etE = etK(α,β,ℓ) = etE+tN = etE etN . etL 0 0 0 0 etL 0 0 tL 0 e 0 = (etα R)I .. tL . 0 e .. . 0 etL I は単位行列であるので、etN を計算する。 etN = I + tN + I2 tI2 0 I 2 0 = t2 2! I2 t2 N 2 + ··· 2! 0 tI2 t2 2! I2 I2 tI2 .. . 0 I2 .. . .. . . t2 2! I2 tI2 I2 これよりもとめる表示を得る。etJ(λ,m) も同様なもう少し簡単な計算で示せる。詳しくは省略する。 上の計算は理論的には、明快であるが、具体的な計算は前に述べたように行うほうが簡単な場合も 多い。解の存在と一意性がわかっている場合には、一般解の形をあらかじめ与えておき、定数を(初 期条件などから)決めるほうが簡単であろう。 60 付録 E 逆散乱法 Gardner, Greene, Kruskal, Miura らによって発展させられた逆散乱法について述べる. これはもと もとは KdV 方程式の初期値問題の解を時間に独立なシュレディンガー方程式の散乱問題の時間発展 に変換して解くというものである. 後者は比較的簡単に解けるので求める解をえる. これは線形微分 方程式を Fourier あるいは Laplace 変換をして解くということに対応する. 逆散乱法 KdV 方程式を例にとると、逆散乱法は次のような方法である. KdV 方程式の初期値問題を解く. すなわち ut − 6uux + uxxx = 0, u(x, 0) = u0 (x). ここで u0 (x) は与えられた関数である. これは無限大で十分早く0になるような関数から選ぶ. 第一段 ここでポテンシャル u0 を持つ Schrödinger 方程式を考える. −ϕ′′ + u0 (x)ϕ = λϕ. つぎに、ポテンシャルが t とともに、Korteweg-de Vries 方程式に従って変化する時その散乱データ がどのように変化するか調べる. ここで、散乱データとは束縛状態の固有値、固有関数、連続状態の 透過および反射係数である. このとき、これらの散乱データがポテンシャルが KdV 方程式に従って 変化する時、どのように変化するか調べる. これは簡単な法則に従うことがわかる. ここは逆散乱法の 核心である. 第2段 散乱データが与えられた時、それからポテンシャルを求めることを逆問題という. Schrödinger 方程式に対する逆問題は積分方程式 Gel’fand-Levitan 方程式を解くことによりわかる. これより逆散乱法は Schrödinger 方程式の散乱問題をとくことによって、KdV 方程式を解くこと であるといえる. 固有関数と固有値の時間変化 Schrödinger 方程式のポテンシャルが KdV 方程式に従って変化す る時、その固有値と固有関数はどのように変化するか調べる. (1) − ψxx (x, t) + u(x, t)ψ(x, t) = λ(t)ψ(x, t), ここでポテンシャル u(x, t) は KdV 方程式の初期値問題の解とする. (1) を t について微分する. ψxxt − (ut − λt )ψ − (u − λ)ψt = 0. KdV 方程式をもちいて、ut を消去する. ) ( 2 ∂ − (u − λ) ψt + (uxxx − 6uux )ψ + λt ψ = 0. (2) ∂x2 uxxx ψ を次の式を用いて書き直す. (ux ψ)xx = uxxx ψ + ux ψxx + 2uxx ψx Shrödinger 方程式を用いて書き直すと、 ∂2 uxxx ψ = (ux ψ) − ux ψxx − 2uxx ψx = ∂x2 ( ) ∂2 − (u − λ) (ux ψ) − 2uxx ψx . ∂x2 これを (2) に代入して ( 2 ) ∂ (3) − (u − λ) (ψt + ux ψ) − 2(3uux ψ + uxx ψx ) + λt ψ = 0. ∂x2 次の式に注意する. (4) (uψx )xx = uxx ψx + 2ux ψxx + uψxxx . 61 Schrödinger 方程式より、ψxx を消去し、Schrödinger 方程式の微分より ψxxx を消去する. (uψx )xx = uxx ψx + 2ux (u − λ)ψ + u(ux ψ + (u − λ)ψx )) = uxx ψx − 2λux ψ + 3uux ψ + (u − λ)uψx . この関係式を 3uux ψ + uxx ψx についてとき、Schrödinger 方程式とその x に関する微分の関係式を用 いると次を得る. 3uux ψ + uxx ψx = (uψx )xx + 2λux ψ − (u − λ)uψx ) ( 2 ∂ − (u − λ) (uψx ) + 2λux ψ = ∂x2 ( 2 ) ∂ = − (u − λ) (uψx ) + 2λ(ψxxx − (u − λ)ψx ) ∂x2 ( 2 ) ∂ = − (u − λ) (uψx + 2λψx ). ∂x2 ここで3番目の関係式は Schrödinger 方程式の x に関する微分の関係式を用いた. 最後の関係式は微 分について整理した. この関係式を (3) に代入する. ( (5) ) ∂2 − (u − λ) (ψt + ux ψ − 2(uψx + 2λψx )) + λt ψ = 0. ∂x2 ここで次の量を導入する. Ψ := ψt + ux ψ − 2(uψx + 2λψx ) = ψt + ψxxx − 3(u + λ)ψx . ここで Schrödinger 方程式の x に関する微分の関係式を用いた. このとき、(5) は次のように書くこと ができる. ) ( 2 ∂ − (u − λ) Ψ + λt ψ = 0. (6) ∂x2 束縛状態 束縛状態の固有値 λn および固有関数 ψn をかんがえる. (6) に ψn をかけて積分する.Schrödinger 方程式を用いると ( ) ∂2Ψ ∂2Ψ ∂ 2 ψn ∂ ∂Ψ ∂ψn 2 (7) −λn,t ψn = ψn 2 − (u − λn )Ψψn = ψn 2 − Ψ ψn −Ψ . = ∂x ∂x ∂x2 ∂x ∂x ∂x これを積分して ∫ (8) −λn,t ∞ −∞ ψn2 (x)dx ( ) ∂Ψ ∂ψn ∞ . = ψn −Ψ ∂x ∂x −∞ この右辺は束縛状態の固有関数の性質とポテンシャルへの仮定より 0 である. 他方、ψn はゼロでない から次を得る. dλn = 0. dt すなわち、固有値はパラメータ t に依存しない. これは驚くべき事実である. この事実より、いくつ かの重要な結論が導かれる. (6) より Ψn は固有値 λn に対する Schrödinger 方程式の固有関数である. したがって、ψn と独立なもうひとつの解 ϕn を用いて Ψn (x, t) = An (t)ψn (x, t) + Bn (t)ϕn (x, t). 62 ポテンシャルが x → ∞ でぜろになると仮定しているので基本解として次のようなものが取れる. lim ψn (x, t) ∝ e∓κn x , (9) lim ϕn (x, t) ∝ e±κn x . x→±∞ x→±∞ 従って、Ψn の指数関数の増大をさけるためには Bn (t) = 0 でなければならない. すなわち Ψn = ψn,t + ψn,xxx − 3(u + λn )ψn,x = An ψn . (10) 今 An Nn + Nn,t = 0 なる関係で Nn を導入する. このとき、(10) に Nn をかけて Nn ψn,t + Nn ψn,xxx − 3Nn (u + λn )ψn,x = Nn An ψn = −ψn Nn,t . (11) これより次を得る. (Nn ψn )t + Nn ψn,xxx − 3Nn (u + λn )ψn,x = 0. (12) ここで Nn (t)ψn ∼ cn (t)e−κn x x → ∞ であり、λn = −κ2n であるので (12) に代入して cn,t −4κ3n cn = 0 がえられ、これを積分して cn (t) = cn (0) exp(4κ3n t) (13) がえられる. 連続状態 連続状態を特徴付けるために、x = +∞ から入射する波 e−ikx を考える. 但し、固有値 λ は λ = k 2 を満足する. この波はポテンシャルとぶつかり、x = −∞ で振幅 a(k) を持つ透過した波 e−ikx と x = +∞ で振幅 b(k) を持つ反射された波 eikx に分解する. すなわち、 e−ikx + b(k)eikx (14) x → +∞, a(k)e−ikx x → −∞. a(k) を透過係数、b(k) を反射係数という. これらは複素数の量である. これは x = −∞ から入射する 波 eikx を考えることもできる. ポテンシャルとの干渉により x = −∞ で振幅 b∗ (k) を持つ反射した波 e−ikx と x = +∞ で振幅 a∗ (k) を持つ透過した波 eikx に分解する. すなわち、 eikx + b∗ (k)e−ikx (15) x → −∞, a∗ (k)eikx x → +∞. ここで a∗ (k) = a(k), b∗ (k) = b(k) である. これらの表示は等価である. 連続的な固有値を持つ状態の時間的な変化を記述する式を導くために連続的な固有値からなる集 合は、散乱問題が意味を持つような固有値のスペクトルの部分集合として不変であることに注意する. 従って、固有値を固定して λk がどのように変化するかをみればよい. よって、λk,t = 0 である. した がって、Ψk (x, t) を ψk とこれに独立な解 ϕk の一次結合としてあらわせる. Ψk (x, t) = Ak (t)ψk (x, t) + Bk (t)ϕk (x, t). このとき、ロンスキアン W (ψk , Ψk ) = ψk Ψk,x − Ψk ψk,x (16) は t だけの関数である. すなわち ∂ (ψk Ψk,x − Ψk ψk,x ) = 0. ∂x なぜならば、代入して W (ψk , Ψk ) = ψk (Ak ψk,x + Bk ϕk,x ) − (Ak ψk + Bk ϕk )ψk,x = ψk Bk ϕk,x − Bk ϕk ψk,x . 63 これを微分して方程式を用いれば求める式を得る. 定数を決めるため、W の x → ±∞ の極限を計算すると、(10) より Ψk = ψk,t + ψk,xxx − 3(u + λk )ψk,x = ψk,t + ux ψk + uψk,x − λk ψk,x − 3(u + λk )ψk,x = ψk,t + ux ψk − 2(u + 2λk )ψk,x . 従って、Ψk = ψk,t + ux ψk − 2(u + 2λk )ψk,x であって、ポテンシャルは x → ±∞ で消えるので簡単 のため添え字 k を省略すると Ψ = ψt − 4k 2 ψx と考えてよいので ψΨx − Ψψx = ψψxt − 4k 2 ψψxx − ψx ψt + 4k 2 ψx2 . (14) あるいは (15) を代入するとこの右辺は 0 であることがわかる. 実際 x → −∞ の場合を代入する と定数はゼロであることがわかる. 従って、次を得る. ψk Ψk,x − Ψk ψk,x = 0. 従って、定数 Ak (t) が存在して Ψk (x, t) = Ak (t)ψk (x, t) である. この定数を計算するため x → ∞ で の漸近挙動を計算する. ポテンシャルは消えるので無視すると Ψ ∼ ψt − 4λψx である. そこで (14) を 用いると (bt − 4ikλk b)eikx + 4ikλk e−ikx . Ak = lim (Ψk /ψk ) ∼ x→∞ beikx + e−ikx 今これが等号で成り立っているとして分母を払って Ak (beikx + e−ikx ) = (bt − 4ikλk b)eikx + 4ikλk e−ikx . (bt − 4ikλk b − Ak )eikx + (4ikλk − Ak )e−ikx = 0. eikx と e−ikx の一次独立性を用いると eikx と e−ikx のそれぞれの係数は零である. そこで Ak = 4ikλk = 3 4ik 3 , bt = 8ik 3 b が成立する. これを解いて b(k, t) = b(k, 0)e8ik t . 同様にして透過係数の時間変化は Ak = lim (Ψk /ψk ) = x→−∞ at + 4iak 3 at e−ikx − 4λk (−ikae−ikx ) = a ae−ikx から得られる. これより、Ak = 4ik 3 および at = 0 をえる. 従って透過係数は t によらない. これらは 逆散乱変換をおこなうために必要なすべての情報を含んでいる. 逆散乱変換 初等的な量子力学では散乱問題はポテンシャルを与えて、散乱の性質をシュレディンガー方程式を解 いてもとめる. 量子力学のポテンシャルは散乱の結果から決定できるのであろうか. これを逆問題と いう. すでにしらべたようにポテンシャルから散乱データが求まるとポテンシャルが変化する時の散 乱データは簡単な関係式でもとまる. この散乱データからポテンシャルは求まるのであろうか. 逆散乱法では Jost 解を用いる. ∫ ∞ ∫ ∞ ikx iks −ikx (17) ϕk (x) = e + K(x, s)e ds, ϕ−k (x) = e + K(x, s)e−iks ds. x x ここでこれらの解は次の性質を持つ. (18) lim ϕ±k (x) = e±ikx . x→∞ k が実数の時は λ = k 2 > 0 であるので固有関数は連続状態に対応する. 他方、k が準虚数のときは λ = k 2 < 0 であるので束縛状態に対応する. 64 Jost 解をシュレディンガー方程式に代入すると、次の関係式を得る. ∂2K ∂2K − − uK = 0, ∂x2 ∂s2 (19) u(x, t) = −2 (20) ∂ K(x, x, t). ∂x これから K をきめればポテンシャル u が求まる. 実際、これらの関係式をシュレディンガー方程式に代入する. 簡単のため x に関する微分は ′ で 表す. d2 ϕ + (k 2 − u)ϕ = 0. dx2 ∫ ∞ ′ ikx ikx ϕ = ike − K(x, x)e + ∂x K(x, s)eiks ds, (21) x d ϕ′′ = −k 2 eikx − eikx K(x, x) − ikK(x, x)eikx + (−∂x K(x, x)eikx + dx ∫ ∞ ∂x2 K(x, s)eiks ds) x 従って、 ∫ ∞ ∫ ∞ d2 iks 2 2 ikx K(x, s)e ds + k K(x, s)eiks ds ϕ + (k − u)ϕ = −ue − u dx2 x ∫ ∞x d ∂x2 K(x, s)eiks ds). − eikx K(x, x) − ikK(x, x)eikx + (−∂x K(x, x)eikx + dx x 他方、境界条件により ∫ ∞ ∫ ∞ s=∞ = ∂s K(x, s)e − ik ∂s K(x, s)eiks ds s=x x x ∫ ∞ s=∞ s=∞ iks iks 2 = ∂s K(x, x)e − ik K(x, s)e −k K(x, s)eiks ds s=x s=x x ∫ ∞ ikx ikx 2 = −∂s K(x, s)e + ikK(x, x)e − k K(x, s)eiks ds. iks ∂s2 K(x, s)eiks ds x 従って、これらの関係式より d2 d 0 = 2 ϕ + (k 2 − u)ϕ = −eikx (u + 2 K(x, x)) + dx dx ∫ ∞ (∂x2 − ∂s2 − u)K(x, s)eiks ds. x よって、求める関係式を得る. 解 ϕk と ϕ−k は一次独立であるのでこれらはシュレディンガー方程式の一次独立な解である. いま x → −∞ で ψk → e−ikx となる解を ψk と書くことにすると (22) ψk (x) = A(k)ϕ−k (x) + B(k)ϕk (x) となる.x → ±∞ の極限を考えて、 (23) lim ψk (x) ∼ A(k)e−ikx + B(k)eikx , x→∞ lim ψk (x) ∼ e−ikx . x→−∞ 前半は Jost 解の性質よりもとめ、後半は定義による. e−ikx の係数が 1 となるように正規化して考え ると、a(k), b(k) を反射係数とすると (24) a(k) = 1 , A(k) b(k) = 65 B(k) . A(k) (22),(24) を用いて、K の積分方程式が得られる.Jost 解の表示を (22) に代入して (24) の関係式を用 いると [ ] ∫ ∞ ∫ ∞ (25) a(k)ψk (x) = e−ikx + K(x, s)e−iks ds + b(k) eikx + K(x, s)eiks ds . x x この式の両辺に (2π)−1 eiky y > x をかけて k について積分する. すなわち、エネルギーについてフー リエ変換する. このとき、次が成り立つ. ∫ ∞ ∫ ∞ ∫ ∞ ∫ ∞ 1 1 1 iky ik(y−x) (26) a(k)ψk (x)e dk = e dk + K(x, s) eik(y−x) dkds 2π −∞ 2π −∞ 2π −∞ x ∫ ∞ ∫ ∞ ∫ ∞ 1 1 + b(k)eik(x+y) dk + K(x, s) b(k)eik(x+y) dkds 2π −∞ 2π −∞ ∫ ∞x = K(x, y) + B0 (x + y) + K(x, s)B0 (s + y)ds. x ここで (27) 1 2π ∫ ∞ −∞ eik(y−x) dk = δ(y − x) を用いた. また、 (28) 1 B0 (z) = 2π ∫ ∞ b(k)eikz dk −∞ は反射係数のフーリエ変換である. (26) の右辺にあらわれる量は反射係数からきまる量である. 他方、 左辺は透過係数から決まる積分であるのでこれを計算するために積分路を変更して、留数定理によっ て計算する. そのためには透過係数の解析的な性質を調べる必要がある. いま解析性がわかっているとして、その特異点での様子をしらべる. 束縛状態が起こる時はエネ ルギーが負であることがわかっているのでその波数は純虚数 k = iκ である. そこで Jost 解の漸近挙 動を考えて (29) (30) ψiκ (x) ∼ A(iκ)eκx + B(iκ)e−κx ψiκ (x) ∼ eκx , x→∞ x → −∞ となる. そこで |x| が大きくなる時 ψiκ (x) が指数関数的に大きくなることを避けるためには A(iκ) = 0 でなければならない. すなわち、a(k) = 1/A(k) より、透過係数は k = iκ で極をもつ. この極の位数が1であることを示す. 今簡単のため ψk を ψ と略記することにして、k に関する微 分を ψ ′ とあらわす. また、x に関する微分は · をもちいて ψ̇ のようにあらわす. このとき、 ·· − ψ +uψ = k 2 ψ (31) でありこれを k で微分して ·· (32) 2kψ + k 2 ψ ′ = uψ ′ − ψ ′ . これらの式からポテンシャルを消去すると ·· (33) ·· ψ ′ ψ − ψ ′ ψ= −2kψ 2 . 66 これを積分して ( )∞ ∫ ∞ dψk′ ′ dψk ψk − ψk = −2k ψk2 dx. dx dx −∞ −∞ (34) これから次の関係式を示す. iA′ (iκ) = (35) 1 B(iκ) ∫ ∞ −∞ 2 ψiκ dx. (34) の左辺の量を計算する.(30) によれば x → −∞ の時はあらわれる量はすべて 0 に収束することは 簡単な計算でわかる. そこで、x → ∞ の場合を計算する. ψk の Jost 解による表示により次の関係式 をえる. (36) ψk = Aϕ−k + Bϕk , ψk′ = A′ ϕ−k − Aϕ′−k + B ′ ϕk + Bϕ′k . (37) ψ̇k = Aϕ̇−k + B ϕ̇k , ψ̇k′ = A′ ϕ̇−k − Aϕ̇′−k + B ′ ϕ̇k + B ϕ̇′k . 従って、k = iκ としてこの点で A(iκ) = 0 であることを用いると ψk (38) dψk′ dψk − ψk′ = Bϕk (A′ ϕ̇−k + B ′ ϕ̇k + B ϕ̇′k ) − B ϕ̇k (A′ ϕ−k + B ′ ϕk + Bϕ′k ) dx dx = Bϕk (A′ ϕ̇−k + B ϕ̇′k ) − B ϕ̇k (A′ ϕ−k + Bϕ′k ) = A′ B(ϕk ϕ̇−k − ϕ−k ϕ̇k ) + B 2 (ϕ̇′k ϕk − ϕ′k ϕ̇k ). x → ∞ の Jost 解の漸近挙動を用いると (38) の右辺第 1 項は Wronskian であることに注意して ikx ikx (ik − K(x, x)) e 1 ik − K(x, x) e (39) e−ikx e−ikx (−ik − K(x, x)) = 1 −ik − K(x, x) = −2ik. (38) の右辺第2項は (40) ϕ̇′k ϕk − ϕ′k ϕ̇k ikx e eikx (ik − K(x, x)) = ixeikx eikx (−kx − ixK(x, x) + i) = e2ikx (−kx + i + kx) = ie2ikx . この右辺は0に収束する. これよりもとめる表示を得る. 束縛状態の時 ψiκ (x) は実関数に取れる. 従って、(35) の右辺は零でない. これより、A の零点は 位数が1であることがわかる. そこで、積分路 C を −R から出発して実軸上を R までいき、そこから中心が原点で半径が R の 円周上を反時計回りに −R まで戻る積分路とする. R → ∞ とするときこの積分が (26) の左辺の積分 と一致することを示すためには R → ∞ のとき、半円状の積分が0に収束することを示す. ψ の満足する Schrödinger 方程式では uψ は k 2 ψ より小さいので近似的に解いてつぎの評価を得る. (41) lim ψk (x) ∼ c1 e(Im k)x + c2 e−(Im k)x . k→∞ ここで c1 , c2 は零でない定数である. これと Jost 解の定義を比較すると特に透過係数は有限のままで あることがわかる. そこで、y > x であることより、R → ∞ のとき、半円状の積分は零である. 留数定理より ( ∫ ) ( ) ∫ ∞ 1 1 ψk (x)eiky iky iky . (42) a(k)ψk (x)e dk = lim a(k)ψk (x)e dk = iRes R→∞ 2π C 2π −∞ A(k) k=iκ 67 (42) の留数はロピタルの定理と A が1位の零点をもつことを用いて計算する. すなわち ( ) ( ) ψk (x)eiky ψk (x)eiky ψiκ (x)e−κy = i lim (k − iκ) (43) iRes =i . k→κ A(k) A(k) A′ (iκ) k=iκ (35) でもとめた A′ (iκ) の値を用い、束縛状態では波動関数は (44) ψiκ (x) = B(iκ)ϕiκ (x) であるので ( (45) iRes ) (∫ ∞ )−1 ψk (x)eiky 2 2 = −B(iκ) ψiκ dx ϕiκ (x)e−κy . A(k) −∞ k=iκ ここで波動関数 ψiκ は正規化されていると仮定する. ϕiκ (x) の漸近形 limx→∞ ϕiκ (x) ∼ e−κx と (44) および前に示した関係式 Nn (t)ψn ∼ cn (t)e−κn x x → ∞ より Nn (t) = 1 に注意して B(iκ) = cκ とし てよい. したがって ( ) ψk (x)eiky (46) iRes = −c2κ ϕiκ e−κy . A(k) k=iκ Jost 解の定義式を思い起こすと ∫ ∞ ∫ ∞ 1 K(x, s)c2κ e−κ(s+y) ds. (47) a(k)ψk (x)eiky dk = −c2κ e−κ(x+y) − 2π −∞ x 一般には N 個の束縛状態があり t 独立性を考えると (26) 式より ∫ ∞ K(x, s, t)B(s + y, t)ds = 0 (48) K(x, y, t) + B(x + y, t) + x が得られる. 但し、 (49) B(z, t) = N ∑ n=1 c2n e−κn z 1 + 2π ∫ ∞ b(k, t)eikz dk −∞ である. この積分方程式は Gel’fand - Levitan 方程式といわれる. この K がもとまればポテンシャ ルは u(x, t) = −2(∂/∂x)K(x, x, t) でもとまる. 以下では逆散乱法の例を与える. 例 ポテンシャルがひとつの束縛状態を示し、その時は固有値が λ = −κ2 , 規格化定数 c で連続 状態では反射係数が 0 となる場合を考える. このとき、 B(z, t) = c(t)2 e−κz = c20 e8κ t e−κz 3 である. 但し、c(0) = c0 である.Gel’fand-Levitan 方程式は K(x, y, t) + c20 e8κ t e−κ(x+y) + c20 e8κ t e−κy 3 3 ∫ ∞ K(x, s, t)e−κs ds. x この方程式を解くために核分離法を用いる. すなわち K(x, y, t) = f (x, t)e−κy とする. これを代入して積分をじっこうすると次の代数関係式を得る. f (x, t)e−κy + c20 e8κ t e−κ(x+y) + 3 68 c20 8κ3 t −κy −2κx e e e f (x, t) = 0. 2κ この式を解くと 3 e4κ t eκx0 f (x, t) = −κ cosh(κ(x − x0 − 4κ2 t)) ここで 1 x0 = ln 2κ ( 従って、 c20 2κ ) . e4κ t eκ(x0 −y) . cosh(κ(x − x0 − 4κ2 t)) 3 K(x, y, t) = f (x, t)e−κy = −κ 従って、 u(x, t) = −2(∂/∂x)K(x, x, t) = −κ2 sech2 (κ(x − x0 − 4κ2 t)). これは振幅 −2κ2 , 速度 4κ2 の1ソリトン解である. 一般に反射のない N 個の束縛状態を持つポテンシャルは逆散乱変換によって N ソリトン解になる. 例 反射係数がゼロでないときは連続状態は KdV 方程式の解にどのような影響を与えるのであ ろうか. そのために、反射係数がゼロでなく束縛状態をもたないようなポテンシャルの例として u(x, 0) = 2sech2 x を数値計算すると減衰しながら左に流れる波をもつ. これはポテンシャルが束縛状態を持たないとき の KdV 方程式の初期値問題に共通の性質である. 69