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腹圧上昇により白線ヘルニア小腸嵌頓を来たした鈍的腹部外傷の1例
骨盤骨折と下腸間膜動脈損傷 による出血性ショックの1例 倉敷中央病院救急科 田村暢一朗 症例 37歳 男性 主訴:下腹部痛 現病歴: サーキットでバイク練習走行中に転倒し、その後後方から きたバイクに礫過され受傷した。ドクターヘリ要請あり。現 場にて頚椎カラー、全脊柱固定、静脈路確保、酸素投与行 い、当院に搬送された。(12:30来院) 既往歴:特になし 服薬歴:特になし、アレルギーなし Vital sign(来院時) 血圧90/63mmHg 心拍数106回/分 呼吸回数25回/分 体温36.8℃ SpO2 100%(10l リザーバー) 意識レベルE4V5M6 身体所見 胸部:呼吸音清 左右差なし 左胸郭圧痛あり 皮下気腫なし 腹部:下腹部に圧痛あり 反跳痛なし 上腹部に擦過傷あり FAST陰性 四肢:左下腿に変形を伴う圧痛あり。開放創なし 胸部レントゲン 骨盤レントゲン 来院時からCT検査前まで ①右外傷性気胸、両側肺挫傷 左胸腔ドレナージ施行 脱気あり、胸腔内血液貯溜なし ②骨盤骨折による出血性ショックの疑い 輸液にて反応あり。 胸腹部CT検査へ 腹部造影CT 診断 骨盤骨折(両側恥坐骨、左腸骨、右仙骨) 下腸間膜動脈損傷 左気胸、両側肺挫傷、両側第10,11肋骨骨折 左脛腓骨骨折 第1-5腰椎横突起骨折 CT検査後経過 CTからERに帰室後、血圧低下あり。 収縮期血圧=60台 (14:22) 気管挿管 次の一手は? ① 開腹 ② extrapelvic packing ③ IABO ④ ①~③の組み合わせ CT検査後経過 ERにて緊急開腹術を選択。 <開腹所見> 下行結腸間膜、左後腹膜腔に血腫あり。(Zone2.3) 腹腔内は血液貯溜なし、expandingなし 下結腸間膜のガーゼパッキング Intraperitoneal Pelvic Packing Packing後、血圧上昇あり (収縮期血圧=90-100台) Management of traumatic retroperitoneal hematoma:Ann surg:211(2)1990 この時点での術式は? ①パッキングのままTAE? ②Mattox maneuverの追加? (結腸間膜損傷の止血) ③その他? ①packingのままTAEの方針とした。 閉鎖動脈 腸腰動脈 1 腸骨回旋動脈 4 閉鎖動脈 5 左結腸動脈 2 腸腰動脈 3 外側仙骨動脈 下腸間膜動脈 TAE (TAE中、収縮期血圧は90-110mmHgで推移) TAE後ORにて再開腹 下腸間膜動脈分枝より出血。同部を結紮縫合処理 左後腹膜血腫増大あり、緊満あり。 下行結腸~S状結腸に虚血性変化を認めず。 ガーゼパッキング入れなおし ICU入室後経過 開腹 TAE ICU入室 30 2500 輸液量(ml/hr) 25 輸 液 1500 速 度 1000 (ml/hr) 2000 Hb(g/dl) Lac(mmol/L) 20 Plt(×104/μl) 15 10 500 5 0 0 1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 21 23 25 来院からの時間経過(hr) RCC 輸血 FFP PC 8U 12U 10U 16U 10U 4U 6U 14U 16U 14U 10U 10U 10U 10U 24時間以内に外科的止血を追加すべきであったか? 受傷翌日の開腹所見 ICU入室後経過②(24時間以降) Open abdomen管理続行 後腹膜血腫はPOD2以降は緊満強いが増大傾向なし バイタルも安定 止血コントロールはついたと判断。 閉腹を目指すか? Planned ventral herniaにするか? POD5 腹部造影CT 閉腹するには後腹膜血腫除去が必要。 年齢を考慮し、閉腹の方針。 いつ血腫除去+閉腹術を行うべきか? 閉腹を早くすれば 閉腹を遅らせば 血腫除去による再出血 腹腔内感染、腸管浮腫の遷延 POD7に後腹膜血腫除去+腹直筋前鞘飜転法 による閉腹術施行 <術中所見> 後腹膜血腫はゼリー状になっており再出血なし (重量:約1500g) 単純閉腹は困難であり、小腸切除施行の上 腹直筋前鞘飜転法を選択した。 ICU入室後経過③(閉腹以降) POD13に腹直筋前面SSI発症 同日皮膚を開放し、洗浄・ドレナージ 左脛腓骨骨折に対する内固定行い、POD65に 独歩退院となった。 まとめ 下行結腸間膜損傷+骨盤骨折による 出血性ショック(Zone2.3)に対する適切 な止血の方法は? 24時間以内で追加すべき止血手技が あったか? 巨大後腹膜血腫があった際の閉腹方法は? いつ行うべきか?