...

現状と課題

by user

on
Category: Documents
5

views

Report

Comments

Transcript

現状と課題
[第2章]
現状と課題
島根県の農業・農村の現状
島根県の農業農村整備の実施状況
「前指針」の実施状況と評価
農業農村整備の今後の課題
1 島根県の農業・農村の現状
1)農業・農村を取り巻く状況
我が国では、農業就業者の減少や過疎化、高齢化の進行、輸入農産物の増加な
どにる農業産出額の長期的な低迷・減少が続いています。
一方、諸外国では、発展途上国を中心とした人口の増加や中国等の新興大国の
工業化及びバイオ燃料の実用化の進展等による農産物の需要の増大、また地球温
暖化に伴う農業生産への影響など、世界の食料需給は不安定性を増してきてお
り、国内における自給力の向上が大きな課題となっています。
さらに、近年は度重なる食品の偽装表示や輸入農産物の残留農薬問題などによ
り、安全で安心な農作物への需要が増大しており、生産者や生産過程がわかる農
産物づくりや減農薬栽培などの環境保全型農業の推進など、消費者のニーズに対
応した生産体制を確立していく必要があります。
また、国民の環境問題への関心も高まってきており、リサイクルや省エネル
ギーといった取組みを通じて、環境に配慮した循環型社会の構築が必要となって
います。
2)島根県農業・農村の動向
県土の約85%が※1中山間地域である島根県においては、生産活動や生活面での
条件が厳しく、過疎化、高齢化の進行が極めて深刻な状況となっており、特に農
業就業者の年齢構成では、65才以上が3分の2を占めています。
また、耕地面積の減少や耕作放棄地の増加等により農地の有効利用が図られて
いない状況や、鳥獣被害の深刻化などにより、今後農産物の生産活動や集落機能
の低下が懸念されています。
最近では、原油価格の変動や飼料、肥料価格の高騰による営農経費の増大な
ど、農業経営は極めて厳しい状況となっていることから、食料の安定供給や農村
環境の維持が一層困難となっていくことが予想されます。
※1:島根県中山間地域活性化基本条例及び同施行規則に定める過疎地域、特定農山村地域、辺地等の指定
地域
10
●耕地面積
耕地面積は、平成 7 年から平成19年までの13年間で、約14%(約6,100ha)減
少しました。
図1
耕地面積の推移(農林水産省「耕地面積調査」)
しまね農業農村整備指針
(ha)
50,000
40,000
水田
11,000
9,800
8,500
畑
7,800
7,700
7,600
30,000
20,000
37,700
35,200
33,100
31,700
31,500
31,300
平成7年
平成12年
平成17年
平成18年
平成19年
10,000
0
平成2年
第 章
2
●耕作放棄地※2
耕作放棄地は、生産条件が不利な中山間地域を中心に年々増加しており、平成
17年には県全体で6,604ha、耕作放棄地率※3は18.4%にも達しています。
※2:過去1年間何も作付けされず、今後数年間に再び耕作するはっきりした意志のない土地
図2
耕地放棄地面積と耕作放棄地率の推移(農林センサス)
(ha)
(%)
8,000
耕地放棄地面積
18.4
耕地放棄地率
13.7
4,358
2,000
0
15
5,412
3,257
10
3,698
2,799
9.4
2,474
5.8
5.4
5.2
昭和50年
昭和55年
昭和60年
20
6,604
6,000
4,000
現状と課題
※3:耕作放棄地の経営耕地面積に占める面積割合
8.7
5
平成2年
平成7年
平成12年
平成17年
0
11
●販売農家数、農業就業人口
販売農家※4数は、平成17年までの直近10年間で約3割減少し、兼業農家が全体
の 8 割以上を占めています。
農業就業人口は直近10年間で25%減少しており、そのうち65才以上が 3 分の 2
を占め、高齢化が進行しています。
※4:経営耕地面積が30a以上または年間農産物販売金額が50万円以上の農家
図3
販売農家数の推移(農業センサス)
(戸)
50,000
専業
第1種兼業
第2種兼業
40,000
30,000
35,858
31,349
28,335
20,000
21,621
10,000
0
4,881
5,159
2,763
2,789
5,171
4,955
4,912
4,939
平成2年
平成7年
平成12年
平成17年
図4
(千人)
250
農業就業人口の推移(農業センサス)
247,057
200
農業就業人口(全体)
総農家数
農業就業人口(65歳以上)
基幹的農業従事者数
159,482
150
113,132
100
97,808
89,176
79,611
57,084
50
0
12
51,293
42,744
昭和40年 昭和45年 昭和50年 昭和55年 昭和60年 平成2年 平成7年 平成12年 平成17年
●鳥獣被害の状況
イノシシ、サルなどの野生鳥獣による農作物被害は、今まで実施してきた進入
防止柵設置等の対策により減少傾向にあるものの、依然深刻な状況が続いていま
す。特に過疎化、高齢化が進行する中山間地域を中心に進入防止柵等施設の維
持管理労力が減少していることや施設の老朽化が進行しており、再設置が必要と
しまね農業農村整備指針
なっている状況があります。鳥獣被害は、農家の生産意欲の減退等に影響を及ぼ
すことから、効果的な対策が求められています。
鳥獣被害金額の推移(県森林整備課調べ)
図5
(百万円)
300
250
鳥類
イノシシ
サル
クマ
シカ
ノウサギ
ヌートリア
その他
200
150
第
100
2
0
章
50
平成7年
平成12年
平成13年
平成14年
平成15年
平成16年
平成17年
平成18年
平成19年
現状と課題
●小規模高齢化集落の状況
中山間地域において、小規模高齢化集落※5(戸数が少なく、高齢化率が高い集
落)は、中山間地域全集落の約11%あります。
※5:高齢化率50%以上かつ世帯数19戸以下
図6
高齢化率と戸数の状況(平成16年中山間地域研究センター資料)
高齢化率70%以上かつ
世帯数9戸以下 67集落(1.91%)
高齢化率50%以上かつ
世帯数19戸以下 401集落(11.45%)
12
9
2
0
0
0
0
0
0
0
80%
7
17
5
1
0
0
0
0
0
0
(高
70%
6
16
12
5
2
0
0
0
0
0
60%
12
41
34
21
7
3
2
1
1
4
齢
50%
7
58
72
64
41
21
20
5
4
13
化
40%
7
79
118
140
91
76
30
28
23
50
30%
15
75
179
203
179
119
99
86
59
213
20%
10
47
108
125
93
78
59
43
49
186
10%
4
13
13
12
8
15
10
7
8
60
0%
26
32
17
9
11
10
8
7
6
〜4戸
〜9戸
率)
90%
〜14戸
〜19戸
〜24戸
〜29戸
〜34戸
〜39戸
〜44戸
35
45戸〜
合計
3,503
(戸 数)
13
2 島根県の農業農村整備の実施状況
1)ほ場整備等生産基盤の整備
ほ場整備等の生産基盤整備は、農作業の省力化による労働生産性の向上、生産
コストの低減等を図るとともに、耕作放棄地の解消や担い手への農地利用集積の
契機となるものであり、また多様な作物にも適した水田の高度利用を可能にする
ために、欠くことのできない条件整備で、昭和38年度から実施しています。
平成19年度末までの水田の整備済み面積は、22,015ha、整備率は、70.4%※6と
なっています。
※6:県農村整備課調べ
図7
耕作放棄地率とほ場整備率(平成17年)
(県農村整備課調べ)
◆ は各市町村
80
作
60
用
放
50
権
利
耕
70
設
棄
定 率︵%︶
地 率︵%︶
40
30
20
10
0
◆ は各市町村
0
用 権
作 放
60
50
設 定 率︵%︶
棄 地 率︵%︶
40
30
20
10
0
14
10
20
30 40 50 60 70 80
ほ 場 整 備 率(%)
90 100
利用権設定率とほ場整備率(平成17年)
(県農村整備課調べ)
◆ は各市町村
50
利
耕
70
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
10
20
30 40 50 60 70 80
ほ 場 整 備 率(%)
90 100
0
45
40
35
30
25
20
15
10
5
図8
80
◆
50
0
10
20
30 40 50 60 70 80
ほ 場 整 備 率(%)
90 100
0
0
10
20
30 40 50 60 70 80
ほ 場 整 備 率(%)
事例
県内最大級の農事組合法人誕生!
!
1
〜生産基盤の整備(ほ場整備)〜
事 業 概 要
しまね農業農村整備指針
地 区 名●宇賀荘第一・第二地区(安来市)
事 業 名●農業生産法人等育成緊急整備事業
(経営体育成基盤整備事業)
受益面積●238.4ha
工 期●平成12年度〜平成19年度
総事業費●4,730百万円
受益戸数●338戸
農事組合法人ファーム宇賀荘の概要
宇賀荘第二地区
農事組合法人ファーム宇賀荘は、平成12年度か
ら平成19年度に実施したほ場整備事業を契機に平
成20年3月に設立し、関係農家数338戸のうち農
家戸数242戸が参加し、集積面積は、受益面積の
72%に当たる172.7haの規模を誇り、県内最大級
の農事組合法人です。
生産の主体は水稲と大豆で、大豆は平成20年度
の作付で97haとなりました。
また無農薬栽培にも取り組んでおり、EM菌ぼか
し肥料を用いて、水田にどじょうを放流し栽培した
「どじょう米」や「どじょう米」を使用した日本酒
「どじょう舞」など地域特産品等への開発にも取り
組んでいます。
宇賀荘第一地区
集積状況
事業実施前
事業実施後
〈凡例〉
▶
第
■
認定農業者
■
個別経営農家
法人への集積率 72.4%
2
章
法人への集積率 0.0%
■
農業生産法人
大豆栽培面積(ha)
100
96
97
80
60
53
45
40
0
平成16 平成17 平成18 平成19 平成20
年 度
現状と課題
24
20
大豆の大規模栽培
ほ場整備による効果
ほ場整備事業により整備した大区画(標準区画1ha)では、大型機械の導入や、無人ヘリコプターによる防除等を行い、
営農の効率化を図っています。
また、西日本初の自然圧パイプラインの採用により、水管理の省力化、維持管理の節減が図られ、さらには暗渠排水の整
備及び地下灌漑により、水田の汎用化が図られ大規模な大豆の栽培が可能となりました。
労働時間の短縮と生産費の節減
80
生産費:181
産
費︵千円/
生
150
60
労働時間:44
100
46
50
︶
大型機械による営農
20
8
0
実施前
実施後(目標)
10
a
︶
10
a
40
給排水ユニット透視図
働
時
間︵時間/
労
200
0
農事組合法人「ファーム宇賀荘」の今後の取り組み
今後「ファーム宇賀荘」では経営多角化に向け、生産活動だけでなく加工・流通・販売に取り組むと共に、地産地消への
取り組み、地域住民・消費者との交流活動を積極的に展開し、豊かな自然と農地を次世代に引き継ぐこととしています。
15
2)中山間地域の整備
島根県の中山間地域は、21市町村のうち20市町村、県土の約85%を占め、
国土保全機能や環境保全機能など多面的機能を有する重要な地域です。
この中山間地域の生産基盤や生活環境を整備するため、平成 2 年度から中
山間地域総合整備事業を実施しています。
平成19年度末までに23地区が完了しました。
事例
2
中山間地域を元気に!
!
〜中山間地域の整備〜
(平成11年度〜平成18年度)
ほ場整備●隠岐島前地区(海士町:新開工区)
中山間地域総合整備事業(ほ場整
備6.4ha)を契機に営農組合が設立
(平成12年)され、遊休農地が解消
されました。
平成19年1月に農事組合法人「サ
ンライズうづか」を設立。
事業実施前
参加戸数●12戸
(農家10戸、非農家2戸)
経営面積●水稲12.3ha、ソバ0.4ha、
小麦0.6ha(うち地区内6.2ha)
生態系保全施設等整備●益美2期地区(益田市)(平成14年度〜平成21年度)
地区住民による直営施工で鳥獣(イノシシ)進入防止柵
を設置しました。
この共同作業を契機に地域の協調性が高まり、営農意欲
が向上したことにより、耕作放棄地が減少ました。
事業実施後
▶
活性化施設整備●江津地区(江津市)(平成14年度〜平成20年度)
集落間や都市間交流を促進す
るため、神楽などの伝統文化を
活用した地域活動の拠点として
この施設を設置しました。地域
の伝統文化である石見神楽の練
習などに活用されてます。
農業集落防災安全施設整備●やまゆりの郷地区(出雲市)(平成8年度〜平成14年度)
事業で防火水槽を設置し
ました。
この防火水槽を活用し、
地元消防団の訓練が行われ
ています。
16
3)農業用用排水施設の整備
用水施設の整備は、農業生産に不可欠な農業用水を安定的かつ適切に供給する
ため行うもので、昭和24年度から実施し、平成19年度末までに基幹的※7な用水路
437km※8、揚水機場163ヵ所※8の整備を行いました。
排水施設の整備は、農作物の湛水被害の防止や水田の排水不良を解消し、
「地域
しまね農業農村整備指針
水田農業ビジョン」の実現に向け収益性の高い水田農業の確立を目的として行う
とともに、地域の公共排水機能を補完するもので、平成19年度末までに基幹的※7
な排水路115km※8、排水機場55ヵ所※8の整備が完了しました。
※7:受益面積100ha以上の施設
※8:県農村整備課調べ
事例
3
渇水時にも農業用水の安定供給が可能に!
!
〜農業用ダム建設とパイプラインの整備〜
事 業 概 要
第
地 区 名●稗原地区(出雲市、雲南市)
事 業 名●かんがい排水事業(一般型)
受益面積●250ha
章
2
工 期●昭和55年度〜平成19年度
総事業費●12,358百万円
工事概要●重力式コンクリートダム1基
パイプライン63,400m
水管理改良施設1式
現状と課題
本地域の農業用水は、河川からの取水と約
600箇所の溜池により賄っていましたが、溜池
の相当数が老朽化し改修の必要に迫られていま
した。そこで、農業用水の安定確保と将来的な
維持管理労力の低減を図るため、農業用ダムの
建設とパイプラインを整備しました。
ダムとパイプラインによる灌漑
ダム
パイプライン
17
事例
大雨による湛水被害から農地を守る!
!
4
〜排水路や排水機場の整備〜
事 業 概 要
地 区 名●若宮地区(出雲市)
改修前の
排水路
事 業 名●かんがい排水事業(排水対策特別型)
受益面積●115.2ha
工 期●平成14年度〜平成19年度
総事業費●734百万円
工事概要●排水路(矢板護岸)1,620m
排水機場(ポンプφ800㎜)1箇所
本地域の幹線排水路はコンクリート柵渠工が主で
あり、老朽化による転倒や土砂堆積により、排水不良
が生じていました。また、排水ポンプの能力不足によ
り、農地では湛水被害が発生し、農地汎用化が困難な
状況にありました。そこで、これらの障害を解消する
ため、排水ポンプの増設及び排水路の改修を実施しま
した。
改修後の
排水路
排水ポンプ
4)農道の整備
農道の整備は、効率的な営農活動や農産物の合理的な輸送体系を確立する
とともに、市町村道から高規格幹線道路までの道路ネットワークを補完する
ことを目的に、昭和40年度から農道整備事業(県営)を行っています。
平成19年度末までに基幹的な農道310km※9、その他農道597km※9を整備し
ました。
※9:県農村整備課調べ
18
事例
農産物の合理的な輸送体系の確立!
!
5
〜基幹的農道の整備〜
事 業 概 要
「浜田自動車道・旭IC
(インターチェンジ)
」へのアクセス
地 区 名●那賀西部地区(浜田市)
しまね農業農村整備指針
事 業 名●広域営農団地農道整備事業
受益面積●4,670ha
工 期●平成3年度〜平成20年度
総事業費●18,308百万円
工事概要●総延長 19.7km
幅 員 全幅7.0m(有効幅員5.5m)
本農道は、石見地域のほぼ中央に位置する石央広域
営農団地を東西に結ぶ基幹農道です。農産物の効率的
な輸送の実現と、過疎、高齢化が進む中山間地域の生
活環境の改善を図ることを目的に、平成3年度より整
備を行ってきました。
本農道の開通により、旧那賀郡4町村の東西の交流
や、沿線集落から浜田自動車道旭ICへのアクセスが
容易となり、地域農業の発展に大きく寄与します。
広域農道開通による旭ICへの所要時間短縮効果
農産物やその加工品の集出荷の効率向上
第
章
2
現状と課題
■大型車両による農産物の輸送
平成20年10月の「島根あさひ社会復帰促進センター」開所
による新たな定住人口、交流人口の誕生を契機として、平成21
年4月に旭インターチェンジ横に開設した地産地消施設「まん
てん」へ農産物を輸送する重要な経路として貢献しています。
■地産地消施設
■ピオーネ栽培
■施設内の状況
19
事例
地域産業の活性化に貢献!
!
6
〜農村地域の道路網整備〜
事 業 概 要
地 区 名●前原西谷地区(斐川町)
事 業 名●一般農道整備事業
受益面積●186ha
工 期●平成8年度〜平成18年度
総事業費●1,024百万円
工事概要●総延長 2.1km
幅 員 全幅9.95m(片側歩道)
(有効幅員5.5m)
■ハスまつり
農産物輸送等の効率化に寄与し地域農業の振興を図ることはもとより、
観光アクセスルートとしても地域の活性化に貢献します。
■古代米田植え会
整備前
整備後
▶
荷痛みも無く、
より早く輸送できる
ようになったぞい
20
5)地すべり対策
地すべり対策は、地すべりによる農地や家屋等の被害を防止及び軽減すること
により県土の保全と県民生活の安定を図ることを目的に、地すべり等防止法に基
づく地すべり防止区域の指定を行い、昭和33年度から防止工事を行っています。
平成19年度末時点で292区域、14,047haが地すべり防止区域の指定(農林水産
事例
7
しまね農業農村整備指針
省農村振興局所管)を受けています。
安全で安心な農村づくり!
!
〜農地地すべり対策〜
第
水抜きボーリング
2
章
比較的浅い地下水の排除
排土+法枠
土砂を除去し斜面の安定を図る
表面水の地下浸透を防ぐ
現状と課題
排水路
集水井
比較的深い地下水の排除
21
6)老朽ため池等の整備
老朽ため池等の整備は、ため池や農業用施設の持つ機能を回復させること
により、農地や農業用施設の被災を未然に防止し、地域住民の災害に対する
不安を解消することで、県土の保全と県民生活の安定を図ることを目的に昭
和35年度から実施しています。
島根県には、ため池約5,200ヵ所※10、頭首工約2,100ヵ所※10がありますが、
平成19年度末までに老朽ため池の整備を203ヵ所※10、頭首工の改修41ヵ所※10
を行いました。
※10:県農村整備課調べ
事例
8
老朽化したため池の整備
事 業 概 要
工事前(迫の奥ため池)
地 区 名●斐川南地区(斐川町)
事 業 名●県営老朽ため池等整備事業
受益面積●10.9ha
工 期●平成13年度〜平成19年度
総事業費●484百万円
ため池の下流には、県道や市道等の公共施設や神
社・民家があり、決壊すれば甚大な被害が想定される
ため整備を実施しました。
また、この地区では、周辺の複数のため池を再編
し、必要なため池の整備と不用なため池の廃止を行う
ことで、維持管理の効率化を図っています。
22
工事後(迫の奥ため池)
▶
工事概要●迫の奥ため池整備他3ヵ所
【迫の奥ため池概要】
貯水量 10,500t
堤 高 5.3m
堤 長 47.0m
事例
9
老朽化した頭首工の整備
事 業 概 要
工事前
地 区 名●中島地区(隠岐の島町)
しまね農業農村整備指針
事 業 名●県営農業用河川工作物応急対策事業
受益面積●50.9ha
工 期●平成15年度〜平成17年度
総事業費●295百万円
工事概要●頭首工改修1ヵ所
(鋼製ゲート 幅18.4m×高さ1.3m×2門)
工事後
▶
既設の頭首工は、ゴムを膨張させて河川をせき止め
取水する方式でしたが、老朽化に伴い正常に作動しな
くなったため、豪雨時には堤防決壊による甚大な被害
が想定されることから改修を行いました。
また、改修に合わせて魚道を設置し、漁業資源の確
保と河川の生態系の維持を図っています。
第
章
2
現状と課題
7)農業集落排水の整備
農業集落排水事業における汚水処理施設の整備は、農村地域のし尿・雑排水を
処理することにより、農業用用排水の水質保全、農業用用排水施設の機能を維持
し、生活環境の改善を図るものであり、併せて公共用水域の水質保全に寄与する
など、重要な役割を担っています。
さらに、農業集落排水の整備は、汚水処理施設から発生する汚泥を有効利用で
きるよう、汚泥を堆肥化する資源循環施設を整備することで、循環型社会の構築
にも貢献しています。
島根県では、昭和56年度から農業集落排水の整備を実施しており、平成 6 年度
からは「全県域下水道化構想」
(現「県汚水処理施設整備構想(第 3 次構想)
」
)に
基づき、整備区域を分担し計画的に推進しています。
平成19年度末までに138地区(供用人口は99,746人)が完了しました。
23
事例
10
農業集落排水汚泥のコンポスト(堆肥)化による農地還元!
!
〜農業集落排水施設の整備〜
事 業 概 要
桜江中央処理場(資源循環施設)
地 区 名●桜江中央地区(江津市)
事 業 名●農業集落排水事業
工 期●平成9年度〜平成13年度
総事業費●3,518百万円(計画処理)
主要工事●資源循環施設、処理場、管路一式
処理人口3,200人
濃縮汚泥を脱水乾燥ユニットで乾燥させ、発酵槽で
一次発酵させたのちに袋詰(10kg)し、1ヶ月程度の
自然発酵(2次発酵)を経てコンポスト化します。 『肥料名:さくらえゆうき』
事 業 の 効 果
農業集落排水汚泥をコンポスト化して農地還元し、循環利用100%達成
(24t/年 製造出荷)
桜江中央コンポスト利用模式図
顆粒状にコンポスト化した汚泥
葉物野菜がよく育つ!
●「さくらえゆうき」
は、化学肥料と比べてカリ分が不足しているが、
有機物・窒素を多く含み、やせた土地の地力向上及び土壌改良に
適しています。(日本肥料検定協会)
※処理区域内で半分以上利用
●葉物野菜(白菜、キャベツ等)の生育効果が優れています。
(農家)
●生育効果等より良質材としての評判を受け、年々利用者が増加し
ています。
・平成15年度/肥料登録
・平成16年度/37戸に配布
・平成17年度/51戸に配布
・平成18年度/67戸に配布 14戸の増!
16戸の増!
●農地のほか多目的(街路樹、公園内花壇、学校内農園等)に利用
されています。
「さくらえゆうき」の成分・特徴・
使用方法等をまとめたパンフレット
を作成し市内へ配布しています。
24
8)地域資源の保全への取り組み
高齢化や混住化が進行し、農業生産に欠かすことのできない農地や農業用水等
の資源を守る地域のまとまりが弱まっていることや、国民の環境への関心が高ま
る中で、良好な農村環境の形成や環境を重視した農業生産への取り組みが求めら
れています。
しまね農業農村整備指針
このため、農地や農業用水などの資源と農村が有する豊かな自然や景観等を地
域住民が一体となって守り育む共同活動や環境負荷を軽減する先進的な営農活動
への取り組みを支援する「農地・水・環境保全向上対策」が、平成19年度から始
まりました。
島根県では、県内全市町村で共同活動を実施しており、平成21年度現在の取組
地区数は477地区、取組面積は19,877haに上っています。なお、この面積は島根
県の農振農用地面積の約45%に相当し、中国・四国地方で最も高い取り組みと
なっています。
第
取組事例
2
章
農業用水路の補修
田んぼの生き物調査
農道の補修作業
現状と課題
農業耕作道の草刈り
25
の実施状況と評価
3 「前指針」
昨今の厳しい県財政から、事業の「選択と集中」の徹底が求められる中、「前
指針」計画期間(2005〜2007)においては、下記の基本方向に基づき各種施策を
展開してきました。
基本
方向
Ⅰ.効率的・安定的な経営体
(担い手)
の育成・確保に資する基盤整備
Ⅱ.農業の生産活動を支える施設整備
Ⅲ.快適な農村生活を支援する環境整備
Ⅳ.住みやすいふるさとを守る保全管理
1)実施状況
「前指針」の計画期間内における実施状況は、以下のとおりとなっています。
Ⅰ.効率的・安定的な経営体
(担い手)
の育成・確保に資する基盤整備
成 果 目 標 項 目
成果目標
実 績
者
5経営体
5経営体
業
1社
1社
織
2組織
1組織
既存営農組織の法人化
6組織
5組織
330ha
286ha
45%
53%
成 果 目 標 項 目
成果目標
実 績
農 業 用 水 の 安 定 供 給 農 地
903ha
816ha
排 水 条 件 を 改 善 し た 汎 用 化 農 地
260ha
238ha
広 域 農 道 の 全 線 供 用 開 始
1地区
1地区
39路線
35路線
41km
38km
11路線
8路線
11km
8km
認
担 い 手 の
農
確保・育成
集
区
画
整
定
農
外
落
営
理
業
企
農
組
面
積
ほ場整備完了地区(9地区)の担い手への集積率
Ⅱ.農業の生産活動を支える施設整備
全
線
供
用
開
始
部
分
供
用
開
始
その他農道
26
Ⅲ.快適な農村生活を支援する環境整備
成 果 目 標 項 目
成果目標
実 績
集落道路整備により利便性が向上する農業集落
41農業集落
32農業集落
農業集落排水による下水道普及率上昇ポイント
3.2%
3.4%
成果目標
実 績
成 果 目 標 項 目
農地地すべり対策工事の完了
老
朽
た
め
池
の
区
域
7区域
7区域
面
積
411ha
411ha
整
備
12カ所
13カ所
3カ所
3カ所
農業用河川工作物応急対策で整備する危険箇所
しまね農業農村整備指針
Ⅳ.住みやすいふるさとを守る保全管理
2)評 価
第
●区画整理や用排水路、農道等の整備について、中山間地域の条件不利地で現地
状況により工事が遅延し、一部が計画期間後の完成となったことなどにより、
章
2
成果目標を下回る実績となりました。
しかし、区画整理の実施に伴う担い手への農地集積により、担い手の育成・
確保や大規模営農にる省力化が図られていることや、施設の整備により農業用
水の安定供給が可能となった農地、「地域水田営農ビジョン」に即した農業の
現状と課題
展開を可能とする汎用化水田等も着実に確保されていること、農道整備に伴い
生産及び輸送コストが軽減されるなど、効果が発現しています。
●農業集落排水や老朽ため池等の整備は、目標を上回り着実に実施しています。
しかし、依然として整備が立ち後れているため、今後も継続して推進していく
必要があります。
●農地地すべり対策工事や農業用河川工作物の整備は、目標を達成しています。
しかし、対策が必要な区域や施設が多数残っているため、継続して計画的に推
進していく必要があります。
●その他、新たな取り組みとして、平成19年度から「農地・水・環境保全向上対
策」を推進し、地域の特色を活かした資源保全の活動が県下全市町村で取り組
まれるなど、農地や土地改良施設等の地域資源の維持保全に対する地域の意識
が高まりを見せており、今後も継続した支援が必要です。
27
4 農業農村整備の今後の課題
1)生産基盤整備の推進
過疎化、高齢化による担い手不足及び耕地面積の減少や耕作放棄地の増加等に
よる農業生産力や生産量の低下が懸念される中、将来にわたって農業生産活動を
継続し、安全で安心な食料を安定的に供給するためには、耕作放棄地の解消を含
めた優良農地の確保と農地の汎用化等による営農の効率化、安定的に営農を展開
する企業的経営体や集落営農組織等の担い手の確保・育成を図る生産基盤の整備
を計画的に推進していく必要があります。
2)生活環境の改善
農村は、そこで居住する地域住民にとっての居住空間であるとともに、やすら
ぎや憩いを求める都市住民との交流の場や、UIターン者等の受け皿ともなるも
のです。
しかし、農村の生活環境基盤(道路、下水道等)の整備は、都市に比べ依然と
して遅れており、道路や下水道などの基礎的な生活環境基盤の整備を計画的に進
めるとともに、利用可能世帯率の低い県内の超高速情報通信環境の向上を推進
し、地域の資源を活かした魅力ある農村環境を整備していく必要があります。
図9
都市部及び島根県の生活水準(総務省「平成17年度公共施設状況調べ」)
道路改良率
(延長)
大都市
100
下水道普及率
(人口比)
80
60
中都市
道路舗装率
(延長)
県
40
20
自動車通行可能率
(延長)
上水道普及率
(人口比)
し尿衛生処理率
(処理量)
ごみ収集率
(処理量)
注)大都市:人口50万人以上 中都市:人口10万人以上
28
3)防災対策の強化
島根県は、県土の全域が特殊土壌地帯※11の指定を受けるなど、その地質的要
因から地すべり防止区域が多く、緊急性を踏まえた対策を今後も実施し、県土の
保全と生活の安定を図っていく必要があります。
また、災害を誘発する危険性の高い、老朽化の進行したため池や頭首工なども
しまね農業農村整備指針
多数あり、放置すると営農や生活に多大な影響を及ぼす恐れがあることから、計
画的な改修等の対応を行っていく必要があります。
※11:特殊な火山噴出物や花崗岩風化土等特に浸食を受けやすい土壌に覆われ、台風の頻度が高く雨量が
極めて多いこと等から、災害が発生しやすく、農業生産にも不利な面のある地域。
4)資源保全への取り組みの拡大
農業・農村は、多様で安全・安心な農産物の供給を担うとともに、都市住民を
洪水から守る“国土の保全機能”や、“保健休養機能”などの公益的機能を有し
ており、こうした多面的機能は、農家が農業生産活動等を通じて適切に農地や農
第
業用水施設等を管理することにより守られてきました。
しかしながら、近年の過疎化、高齢化、混住化の進行に伴い、農村の集落機能
章
2
そのものの低下が著しいことから、農家と地域住民・都市住民が連携した保全活
動の推進と定着を図り、農業・農村の持つ多面的機能の保全を図ることが緊急の
課題となっています。
特に近年、耕作放棄地の増大が懸念されており、その発生防止や再生利用が
現状と課題
求められています。また、過去に整備してきた約7,800kmの農業用用排水施設、
907kmの農道及び138地区の農業集落排水施設等、多くの施設が更新時期を迎え
ますが、これらの施設が安定的に機能を発揮しなければ、営農や農村生活に多大
な影響を及ぼすことから、施設の長寿命化を図りつつ、計画的・効率的に補修又
は更新を行う機能保全対策(ストックマネジメント)の取り組みを推進していく
必要があります。
29
Fly UP