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691 - 法政大学大学院政策創造研究科

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691 - 法政大学大学院政策創造研究科
日本建築学会大会学術講演梗概集 (関東) 2015 年 9 月 7317
地域社会における在日外国人のコミュニティ形成に関する研究
-東京都の外国人集住地区を事例として-
在日外国人
インターカルチュラル・シティ
コミュニティ
集住
正会員
正会員
○井澤 和貴*
上山 肇**
共生
地域社会
1.はじめに
2014 年の日本における在日外国人数(外国人登録者)
は、約 208 万人に上る(平成 26 年度在留外国人統計)
。
グローバル化により、人々が移動する過程で、外国人同
士が集まり、外国人コミュニティを形成した都市もある。
近年の在日外国人の増加を受け、地域社会における多
文化共生への注目が集まる。総務省では「新しい地域社
会のあり方として、国籍や民族のちがいを超えた『多文
化共生の地域づくり』を進める必要性が増している」と
指摘している(1)。また、文化の多様性を活かす「インター
カルチュラル・シティ」という考え方にも注目が集まっ
ている。この概念は欧州委員会が提唱したものであり、
国際交流基金では「移住者や少数者によってもたらされ
る文化的多様性を、脅威ではなくむしろ好機ととらえ、
都市の活力や革新、創造、成長の源泉とする新しい都市
政策」と定義している(2)。最近になって専門家や自治体の
視察が始まったが、さらなるグローバル化を迎える地域
社会にとって、「多様な文化の存在」が都市の活力源とな
る可能性がある。
しかし、実際には在日外国人の取り巻く環境は厳しい。
総務省の報告によると「ニューカマーの中には日本語を
理解できない人もおり、日本語によるコミュニケーショ
ンが困難なことによる様々な問題が生じている。文化や
習慣等のちがいによる生活上の困難も大きい」という結果
ナタウンを形成した。1910 年から朝鮮半島の日本統治が
始まると、労働者として朝鮮人が強制的に移住をさせら
れた。そのため、京浜工業地帯を有する横浜市と川崎市
では、後に「オールドカマー」と呼ばれる在日朝鮮人が
増加した。
戦後は出稼ぎを理由に外国人が集まり、後に「ニュー
カマー」と呼ばれる。1990 年の出入国管理及び難民認定
法の改正以降は、製造業に従事する南米人が多く集まる。
結果、製造業の工場が建ち並ぶ、群馬県大泉町や静岡県
浜松市では、人口に対する南米人の比率が高くなる。
2000 年以降は、規制緩和によって外国人が集まる。し
かし、2008 年以降の世界的な不況などにより、全国的に
は増加を続けていた在日外国人数は若干減少している。
2-2 東京都における外国人集住地区
東京など都心部においては、引き続き在日外国人比率
は高い。東京都においては 2013 年に 390,674 人であった
在日外国人が、2014 年においては 394,410 人と再び上昇
に転じた。2014 年現在の新宿区・豊島区・江戸川区にお
ける外国人集住の現状を下記に示す。
表 1 新宿区・豊島区・江戸川区における在日外国人集住の現状
新宿区
出身国
韓国人
ミャンマー人
ネパール人
集住時期
戦後
1990 年代~
1995 年~
もある(1)。事実、在日ブラジル人が集住する保見団地(愛知
集住場所
新大久保東側
高田馬場
新大久保西側
県豊田市)では、「ゴミ出し」のルールをめぐりトラブルが
人口
11,377 人
1,086 人
1,493 人
発生した。
集住の背景
出稼ぎなど
難民など
難民など
現在日本では、多文化共生を推進する国と、異文化の
流入による混乱の両面がみられる。本稿では、日本にお
ける在日外国人の集住に関する歴史を踏まえた上で、今
後日本の地域社会が取るべき多文化共生政策のあり方に
ついて探る事を目的とし、地域住民と在日外国人を対象
に共生に関する調査を実施した。研究では、ミャンマー
人集住地区「新宿区高田馬場」とインド人集住地区「江
戸川区西葛西」を事例として取りあげる。
豊島区
江戸川区
出身国
中国人
出身国
インド
集住時期
1980 年~
集住時期
2000 年~
集住場所
池袋駅西側
集住場所
西葛西駅周辺
人口
11,584 人
人口
1,959 人
集住の背景
出稼ぎ、留学
集住の背
規制緩和で IT の
など
景
技術者の増加など
(出典:東京都 外国人人口)
2.地域社会における在日外国人の現状
2-1 在日外国人増加の経緯
外国人の日本在住の始まりは、1859 年の横浜港の開港
に始まる。横浜に通訳として集まった中国人が、チャイ
戦後の東京都においては、企業で働く労働者をきっか
けとして、在日外国人が増加した。1980 年以降は、留学
を理由としての移住も増える。1990 年以降は、出身国の
A study about the creation of foreign residents in Japan’s
community in local society -A case of the area where many
foreign residents in Japan live in Tokyo-
― 691 ―
IZAWA Kazuki, KAMIYAMA Hajime
政治的混乱で、難民として移住するケースも起きる。近
年では西葛西のように、規制緩和とIT技術者の需要の
高まりによって移住するケースも起こる。
3.研究対象地域の概要と多文化共生の現状
ここでは新宿区高田馬場地域と江戸川区西葛西地域の
概要と多文化共生の現状について整理する。高田馬場地
域についてはインタビュー調査を行っている。
住民と外国人との交流を目的として活動する組織も多い。
国際交流に対するボランティアを活発化させるため、東
京都では 2003 年より「国際交流サロン」を開設した。現
在、地域住民と在日外国人との交流拠点の一つとなって
いる。
一方、国際交流に関心を持たない住民も多い。筆者が
行った在日外国人の印象に関するインタビューでは、
① どのように関わればよいか分からない(西葛西)
② 語学に自身がない(西葛西)
3-1 研究対象地域の概要
③
(1)新宿区高田馬場地域
2014 年現在、新宿区には 1086 人のミャンマー出身者が
国際交流イベントの参加者が少ない(高田馬場)
などの意見があった。
住む。もともとは、寺院があった西武新宿線中井駅周辺
以上の事から、地域社会では在日外国人に対して閉鎖
にミャンマー人が住んでいたが、交通の便の良さなどか
的な側面もあることが分かった。このことを藤巻
らミャンマー人街はしだいに高田馬場に移る。
(2012)は「日本社会の閉鎖性」という言葉で表してい
その後、ミャンマー人の多い高田馬場は、出身の同じ
る(4)。
人が居るという理由で、さらにミャンマー出身者が集ま
るようになり、ミャンマー人街ともいえる高田馬場が形
4.地域社会における多文化共生に向けて
成された。
東京都には、キーパーソンや組織の存在によって、外
国人コミュニティが形成したケースがみられる。さらに、
日本の地域社会は、異文化に対して消極的な例も見られ
た。このことは日本の地域社会において、異文化と交流
した経験の少ない事が考えられる。
しかし、地域社会における異文化の存在は地域の活力
源ともいえる。特に、歴史的に見ても人の動きが多いヨ
ーロッパではそのように考えられることが多い。例えば、
イタリアのエミリア市は、専門家でなく移民者が講義を
行い、
「多文化が共に創るまち」の意識がみられる。
(2)江戸川区西葛西地域
2010 年現在、江戸川区の在日インド人人口は 2,367 人
であり、そのうちの約 70%が葛西地区に在住している
(基本計画の概要)
。2000 年以降、IT技術者の需要が高
まり、2000 年に日本とインドとのIT分野での協力を目
的としてビザ取得の規制緩和をしたために在日インド人
が増加した。
西葛西に集住した理由については、チャンドラニ氏の
存在が大きな要因となる。チャンドラニ氏は紅茶の輸入
を行う事業家で、インド人の生活相談にも応じるように
地域社会のグローバル化は、今でも起き続けている。
なり、西葛西に「江戸川インド人会」というコミュニテ
そのため、「都市の中の異文化」を好機と見るインターカ
ィが出来た。在日インド人の増加を受け、2011 年には船
ルチュラル・シティの概念は必要性を増してきている。
堀にヒンドゥー寺院が完成した。
地域社会の住民と在日外国人の両者が住みやすい「多文
3-2 地域社会における共生の現状
化共生」の実現のためには、異文化の新たな流入を好機
在日外国人から見た地域社会について調査するため、
高田馬場でミャンマー料理店の経営者にインタビューを
行った。結果、高田馬場について以下の事が分かった。
① 高田馬場は同じミャンマー出身者が在住するため、
とし、その文化の多様性を活かす取り組みが求められる。
ミャンマー料理店の利用者は、かつてはミャンマ
ー人の方が多かったが、開業から時間がたつにつ
れ、今では日本人が多くなった。
③ ②のことから、ミャンマー料理店が日本とミャン
マーが出会う場になることを経営者(ミャンマー
人)が望んでいる。
地域社会に住む在日外国人は、同胞のコミュニティほ
か、自らが日本との懸け橋になろうとする姿勢が見える。
実際にミャンマー人との交流を楽しむため、都外から高
田馬場を訪れる利用者見られた。日本の地域社会側も、
*法政大学大学院 政策創造研究科 修士課程
**法政大学大学院 政策創造研究科 教授
博士(工学),博士(政策学)
【参考・引用文献】
(1)総務省:『多文化共生の推進に関する研究会 報告書
故郷ミャンマーを思い出す場所である。
②
そして、多様性は新たな地域活性化の要素ともなり得る。
~市域に
おける多文化共生の推進に向けて~』(2006)
(2)国際交流基金:『インターカルチュラル・シティと多文化共生』
(2010)
(3)江戸川区:『基本計画の概要』
(2011)
(4)藤巻秀樹:『移民列島
ニッポン』(2012)藤原書店
(5)山脇啓造:『インターカルチュラル・シティ―欧州都市の新潮流
―』(2012)
(6)法務省:
『平成 26 年度在留外国人統計』(2014)
(7)東京都:
『平成 26 年 外国人人口』
(2014)
* Graduate Student, Hosei Graduate school of Regional Policy Design
**Hosei Graduate school of Regional Policy Design, Prof., Dr. Eng., Ph.D.
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