Comments
Description
Transcript
日本が戦う市場はどこに? - J
特集:2014年,次の一手はここにある! 第2章 日本が戦う市場はどこに? ―グローバル化加速の中で 山本 倫寛 東京都中小企業診断士協会城西支部 合いで考えられるのが「チャイナプラス 1 」 1 .はじめに である。その進出先としては,距離的に日本 から近く,そして親日的な国が多いアジアが 2013年は,国際展開を図る日本企業に,今 有力候補と言えよう。以下,候補先の国につ 後の方策をあらためて考える必要性を迫る出 いて個別に記していく。 来事が,多々生じた年であった。 2012年 9 月11日の日本政府による尖閣諸島 ⑴ インドネシア の国有化に端を発し,同月15日に発生した中 経済と人口の規模では,東南アジアで抜き 国における反日デモの暴徒化や,その後の日 本製品の不買運動など,チャイナリスクの認 ん出ている。人口2.38億人(2010年)は東南 アジア10ヵ国の約半分,名目 GDP8, 794億米 識を余儀なくされた。また,2013年 1 月にア ドル(2012年)は東南アジアの中で 1 位であ ルジェリアで発生した人質事件では,国際展 る。2009年に第 2 期目に入ったユドヨノ政権 開における人的リスク対策の見直しを迫られ の最優先課題は,経済発展と天然資源の活用 た。一方で,国内において賛否両論はあるが, 7 月には日本の TPP 交渉参加が実現した。 および人的資源向上で,成長率は2009年に4.6 そして 9 月 7 日には,2020年夏季オリンピッ は6.2%と,高いレベルを維持している。 %,2010年に6.1%,2011年に6.5%,2012年 ク・パラリンピックの東京開催が決定する嬉 ⑵ マレーシア しい話題もあった。 これらを踏まえ,今後の日本が戦う市場は 人 口 2,933 万 人(2012 年 ) , 名 目 GDP は どこにあるのか,考察していきたいと思う。 3,035億米ドル(2012年)と,インドネシア に比べると見劣りはする。しかしながら,社 2 .チャイナリスクへの対処策 会インフラが整っているのが大いなる魅力で, 一時期,人件費の高さから他国に拠点を移す チャイナリスクがあらためて認識されたこ 製造業が多々あったが,最近では製造業が回 とは事実ながら,撤退するには,従業員の解 帰している現象も生じている。 雇に伴う法外な経済保証金(退職金)や税金 また,イスラム教徒は宗教上の理由で,豚 の追加徴収などの困難を伴う現実もある。一 方で , この巨大な市場は依然として魅力があ 肉や豚由来の原料,アルコールなどを口にし り,とどまる選択肢が有力と考える。このよ るという戒律を守っているが,マレーシアに うな現実において,安全策をとっておく意味 はこの全世界16億人とも言われる「巨大ハラー ない,いわゆる「ハラール食品」だけを食べ 企業診断ニュース 2013.12 7 特集 ル市場」を狙える面で魅力がある。と言うの を浴びている。豊富な資源に加え,人口約10 も,この市場をターゲットにするには, 「ハ 億人,うち約 6 割は24歳以下という魅力。ま ラール認証」を取得する必要があり,認証機 た,2050年までに,世界でもっとも人口ボー 関は各国に存在するが,マレーシアでは政府 ナスをエンジョイするのはアフリカと言われ 系機関の「ジャキム」が認証を実施するなど, ている。2050年までに約12億人の人口増が見 国策として世界ハラール市場のハブを目指し 込まれ,加えて24歳以下の割合は約 5 割を維 ており,この分野においてはもっとも充実し 持するだろうと推察されている(図表 2 ) 。 ている。 図表 2 世界人口の推計 ⑶ フィリピン GDP は2, 504億米ドル(2012年)と見劣り するが,人口は9, 401万(2010年推定値)と 1 億人に手が届きそうで,消費市場という面 で今後は有望と言える。また,英語が通じる 点も非常に魅力である。 ⑷ ベトナム この国も GDP は1, 377億米ドル(2012年) (億人) 93億人 100 90 73.3億人 80 61億人 70 オセアニア 60 北米 50 中南米 40 16.3億人 ヨーロッパ アフリカ 30 アジア・アフリカの人口 アジア は100年間で4倍以上に 20 10 0 1950 1960 1970 1980 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050(年) 〈出典〉国際連合World Urbanization Prospects:The 2011 Revisionをもとに総務省作成 と見劣りするが,人口は8, 970万人(2012年) このように,若い世代が消費ブームを巻き と魅力がある。2000年以降,海外からの直接 起こす可能性が高く,有力市場になることは 投資も順調に増加し,2010年までの平均経済 間違いない。なお,アフリカの域内消費市場 成長率は7.26%と高成長を達成した。製造拠 規模は,2008年時点で84兆円と言われている。 点としての魅力に加え,今後は消費市場とし アフリカは天然資源,消費市場としての魅 ても有望と思われる。 力に加え,軽工業では中国の代替になるとも 3 .最後のフロンティア・アフリカ市場 言われ,有望市場であることは間違いない。 しかし一方では,2013年 1 月にアルジェリア のガス関連施設で起きた人質殺害事件のよう なリスクを抱えている点には,注意を払う必 図表 1 アフリカ大陸地図 要がある。 次に,日本にとって魅力的と思われる主た る各国の状況を下記する。 ⑴ 南アフリカ共和国 人口5,058万人(2011年)で,金,ダイヤ モンド,プラチナなどの豊富な鉱物資源,大 規模農業,自動車などの工業に加え,サービ ス産業も盛んである。1990年代にアパルト政 策が廃止されて,国際社会からの経済制裁が 解かれ,先進国型経済を歩んでいる。 「暗黒大陸」, 「絶望の大陸」と言われてき ⑵ ナイジェリア連邦共和国 たアフリカであるが,ここにきて大いに脚光 人口は 1 億6,250万人(2011年)とアフリ 8 企業診断ニュース 2013.12 第 2 章 日本が戦う市場はどこに? カ最大。加えて,24歳以下の割合が63%とい あたって注目しなければならない環境変化と う魅力を保有する。2020年までに 2 億人を突 して,TPP を含めた貿易・ 経済協定の進展 破すると見込まれており,この人口の多さが が挙げられる。 急速な経済成長の一因となっている。特に, ① TPP による貿易障壁の撤廃 人口1, 900万人と言われる南部の商業都市・ 日本企業の国際展開において,TPP は非 ラゴスが,ナイジェリア経済を引っ張ってい 常に重要な取組みである。日本の産業界にお る。 いて貿易障壁をなくすことは,競争力アップ に寄与するものと考える。日本の農業,特に ⑶ アルジェリア人民共和国 コメの生産者は不利な状況に追い込まれると 人口3,780万人(2013年) 。主な産業・産品 の意見もあるが,逆にチャンスとも言えるの は石油,天然ガス関連であり, 1 人あたりの GNI も5,265米ドル(2011年)と裕福である。 ではなかろうか。すなわち,高品質な米を海 ちなみに,自動車市場は南アフリカに次いで とって「美味しい」 , 「安全な」日本の米は, 第 2 位の規模で,2012年における登録台数の 必ず受け入れられるはずである。 伸び率が前年比約 5 割と急激な伸びを示して いる。フランスの自動車メーカーであるルノ ② ASEAN10ヵ国全域での関税の撤廃 TPP とは別に,2015年に ASEAN10ヵ国全 ーは,自動車組み立て工場の建設計画を発表 域で関税が撤廃される予定で,この動きも非 している。 外に輸出するスキームである。海外の顧客に 常に重要である。ASEAN では,物品,サー ビス,資本,人材(熟練労働者)の域内にお ⑷ エジプト・アラブ共和国 ける自由な移行を目指しており,各国におい 人口8,112万人(2011年) 。主たる産品は原 て規制緩和やインフラ整備に向けた取組みに 油と衣料。2011年に,約30年間にわたって独 拍車がかかると見られ,日本企業にとっても 裁政治の覇権を握っていたムバラク大統領が 生産拠点としての魅力がますます高まる。 失脚した。現在も政治体制の確立,憲法の制 定に向けて混乱が継続しているが,アジアと た と え ば 自 動 車 産 業 で は, 現 時 点 で の ASEAN 諸国における自動車生産国はタイ, ヨーロッパを最短で結ぶ航路のスエズ運河を インドネシア,マレーシアの 3 ヵ国である。 保有する物流の要衝であり,人口の多さも含 特に「アジアのデトロイト」とも称されるタ め,重要な市場としての位置づけには変わり イでは,外資企業に対する投資優遇策を打ち がない。 出し,また,工業団地の造成など国を挙げて の自動車産業振興に邁進している。 ⑸ リビア 人口642万人(2011年)ながら,北アフリカ 一方で,洪水や人件費の上昇などを背景に, ASEAN 域内での生産拠点分散化を目指す企 最大の石油産出国で,世界第 8 位の石油埋蔵 量を誇る。 このため, 1 人あたりの GNI は における関税の撤廃や物品,サービス,資本, 1 万2,320米ドル(2009年)と非常に高い。な 人の自由な移動を活用し,タイ,インドネシ お,日本が同国より主に輸入しているのは石 ア,マレーシア以外の国における組み立て工 油ではなく,クロマグロなどの水産品である。 場の建設も考えられる。たとえば,ある部品 4 .日本企業の国際展開に際しての考察 の組み立て工場に供給することで,効率化・ 業も増えている。将来的には,ASEAN 域内 はタイで集中生産を行い,ASEAN 域内の他 コストダウンを図るなどの動きも出てくると ⑴ 貿易・経済協定 考えられる。このような動きに対して,日本 今後,日本が諸外国との競争を勝ち抜くに 企業もタイミングを逃さぬよう,的確なフォ 企業診断ニュース 2013.12 9 特集 積している「ヘマラート・イースタン・シー 図表 3 アセアン地図 ボード工業団地」を訪問した際には,中小企 業向けに賃貸工場を用意しているとの話を聞 いた。広さは最小で500 m2,賃料は平均で 1 ヵ月200タイバーツ⊘m2 という。 また大和ハ ウスは,ベトナムやインドネシアで賃貸工場 を建設し,中小企業の進出をサポートする計 画を打ち出している。業種の異なる中小企業 が共同出資をして現地法人を立ち上げ,共同 運営をするという方式も,低リスク進出の 1 例であろう。 〈出典〉千葉県ホームページ 5 .おわりに ローが必要であろう。 国際展開という意味では,インバウンドビ ⑵ シンガポールの活用 ジネスも考える必要がある。その最たるもの ASEAN 全体の人口は約 6 億人,名目 GDP が,外国人観光客の呼び込みである。2020年 も 2 兆米ドルを超える規模で,製造拠点のみ 夏季オリンピック・パラリンピックの東京開 ならず,消費市場としても大いに期待される。 催は,非常に大きなチャンスと言える。しか 一方で,ビジネス環境においてもっとも優 しながら,一過性のものに終わらせてはなら れ て い る の は, シ ン ガ ポ ー ル で あ る。 ASEAN を攻めるには,情報収集の基盤とし ず,日本の誇る「お・も・て・な・し」や「ク ールジャパン」を全面に押し出し,大会終了 て高い優位性を占めるシンガポールをベース 後もリピーターとして,あるいは口コミで外 にするのも一考である。シンガポールは人口 国人観光客の増加を継続させることが重要で 540万人(2013年 9 月)の小国で,2012年に ある。外国語の習得, 「ハラール認証」の取 おける実質 GDP 成長率も1. 3%と見劣りする。 し か し な が ら, 1 人 あ た り の GDP は 5 万 得など,準備すべきことはたくさんある。ひ 2,051米ドル(2012年)飛び抜けている。また, ASEAN 域内ではとびぬけて高所得者が多い 展開の市場は日本かもしれない。 うえ,法人税率も低く,起業するにはもって こいの国と言える。 シンガポールで成功すれば,その事業モデ ょっとして,もっとも熱く,攻めるべき国際 〈参考文献〉 本文中の人口,GDP,GNI データの出典:外務省ホーム ページ ルを近隣諸国に展開するという,ASEAN 市 場攻略の足がかりとすることも可能であろう。 ⑶ 中小製造業の海外進出形態へのヒント 経営資源の限られている中小企業にとって, 海外に工場を建設して進出するには,資金面 での厳しさに加え,非常に高いリスクを負う 覚悟が必要となる。これを避けるため,賃貸 工場を利用するのも 1 つの方策である。たと えば,タイにおいてもっとも自動車産業が集 10 山本 倫寛 (やまもと ともひろ) 錦帯橋で有名な山口県岩国市生まれ。早 稲田大学法学部卒業後,総合商社に入社, 現在はプラスチック専門商社に勤務。決 算短信や有価証券報告書などの開示業務, および全般的経営管理に携わる。また, 商社マンとして通算17年間の海外駐在 経験を活かし,国際派診断士を目指す。共著に「ふぞろいな中 小企業診断士」 (同友館) 。 企業診断ニュース 2013.12