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ステンレス鋼およびチタン合金の切削加工特性に関する研究 ―エンドミル
報 文 ステンレス鋼およびチタン合金の切削加工特性に関する研究 −エンドミル側面切削および正面フライス切削− Study on Milling Characteristic of Stainless Steel and Titanium Alloy -Peripheral Milling and Face Milling日開野輔*,小川仁* Tasuku Higaino, Hitoshi Ogawa 抄 録 エンドミル側面切削および正面フライス切削において,代表的難削材であるステンレス鋼およびチタン合 金の冷却方法の違いによる工具寿命への影響の評価を行った.水溶性切削液の使用は冷却を行わない場合よ りも工具寿命を悪化させることがわかった.オイルミストの使用は工具寿命の改善がみられたが,切削速度 を高くするとオイルミストの効果は減少することがわかった.また,SUS410 と SUS430 の正面フライス切削 においては,SUS304 よりも比較的被削性が良好であった.Ti6Al4V はエンドミル側面切削および正面フライ ス切削共に SUS304 よりも工具摩耗の進行が速く,被削性が悪いことがわかった. 1 緒言 ステンレス鋼やチタン合金は,強度,耐食性等の 工具摩耗測定:マイクロスコープ(キーエンス VH-7000) 優れた性質を有しており,様々な分野で使用されて 表面粗さ測定:ハンディサーフ(東京精密 E-10A) いる. しかし, 熱伝導性が低く切削熱が逃げにくい, 2・2 切削条件 靭性が高く溶着しやすい,さらにステンレス鋼は加 工硬化が生じやすい等の理由から代表的な難削材と されている. そこで,ステンレス鋼とチタン合金のエンドミル 側面切削および正面フライス切削を行い工具摩耗と 表面粗さを調査し,切削条件の違いによる切削性能 の比較を行った. 2 実験方法 2・1 使用工具,被削材,使用機器 切削条件は表 1∼3 の通りとした. 表 1 エンドミルの切削条件 被削材 寸法 mm 切削速度 m/min 送り速度 mm/tooth 径方向切り込み mm 軸方向切り込み mm 切削方向 切削油剤 SUS304 Ti6Al4V 60×60×100 50×50×100 75.4 0.08 0.5 10.0 ダウンカット 冷却無し,水溶性切削液, エアブロー,オイルミスト Ti6Al4V:エアブローのみ エンドミルは 4 枚刃φ8mm の TiAlN コーテッド超 硬(日立ツール社製)を用いた. 正面フライス切削ではカッタ直径:80mm,アキ シャルレーキ:+22°,ラジアルレーキ:−11°, 真のすくい角:+23°,コーナー角:45°のカッタ (サンドビック社製)を用いた.正面フライス用チ ップは TiN コーテッド超硬 M20 種(サンドビック社 製)を用いた. また,以下の機器を使用し実験を行った. 加工機:マシニングセンタ(オークマ MD-45VA) 表 2 正面フライスの切削条件(ステンレス鋼) SUS410 SUS304 被削材 SUS430 寸法 mm 60×60×100 60×30×100 100,150,185 500 切削速度 m/min 0.15 0.3 送り速度 mm/tooth 0.5 切り込み mm 切削方向 センタカット 冷却無し,水溶性切削液, 切削油剤 オイルミスト SUS430:冷却無しのみ 2・3 評価方法 *電子機械課 エンドミル側面切削および正面フライス切削共に, 数パス毎にマイクロスコープを用いて工具逃げ面摩 16 耗の評価を行った.ハンディサーフを用いて切削面 14 は,逃げ面摩耗幅 0.2mm もしくはチッピングが発生 12 するまでとした. 表 3 正面フライスの切削条件(チタン合金) 被削材 寸法 mm 切削速度 m/min 送り速度 mm/tooth 切り込み mm 切削方向 Ti6Al4V 純チタン 50×50×100 50,100,150 200 0.1 0.5 センタカット 冷却無し,水溶性切削液, オイルミスト 純チタン:冷却無しのみ 切削油剤 表面粗さ (μm) の表面粗さを評価した.また,工具の寿命判定基準 SUS304オイルミスト SUS304エアブロー SUS304水溶性切削液 10 SUS304冷却無し 8 Ti6Al4Vエアブロー 6 4 2 0 Ra Rz 図 2 冷却方法の表面粗さへの影響 900 3 実験結果 オイルミスト エアブロー 水溶性切削液 冷却無し 3・1 エンドミル側面切削 図 1 に工具摩耗進行曲線を示す.SUS304 において 冷却無しの場合はそれ以外の冷却条件より逃げ面摩 耗が大きくなっており,9m 切削時点でチッピング が発生した.冷却無し以外の条件では,工具の摩耗 ビッカース硬さ (HV) 800 700 600 500 は安定して推移しており, 明確な差異は見られない. 400 また,Ti6Al4V は SUS304 に比べ,工具の摩耗が若干 300 大きいが安定して推移しており,SUS304 よりも難削 0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12 切削面からの距離 (mm) 材であると言える. 図 2 に加工終了後の算術平均粗さ Ra,最大高さ粗 さ Rz を示す.SUS304 において,水溶性切削液を用 いた場合 Ra,Rz ともに大きくなっている.これは 切削油剤の使用による冷却効果で熱応力が高まり工 具に熱クラックが発生したためと考えられる. 図 3 加工硬化層(SUS304) それ以外の条件での表面粗さに明確な差はみられな い. 図 3 に切削面からの距離に対する被削材のビッカ ース硬さの関係を示す.切削面からの距離が大きく 20 なるとともにビッカース硬さは小さくなり,0.1mm チッピング 18 付近以降は安定して推移している.このことから加 逃げ面摩耗 (μm) 16 工硬化層は約 0.1mm と考えられ,エンドミル加工を 14 する際の切り込みは 0.1mm 以上にすることが望まし 12 い. 10 8 3・2 正面フライス切削 SUS304オイルミスト SUS304エアブロー SUS304水溶性切削液 SUS304冷却無し Ti6Al4Vエアブロー 6 4 2 3・2・1 SUS304 切削速度 100m/min において冷却方法の違いによ る影響を調査した.冷却方法としては,冷却無し, 0 0 5 10 切削距離 (m) 図 1 工具摩耗進行曲線 15 水溶性切削液,オイルミストの三種類の比較を行っ た.図 4 に工具摩耗進行曲線,図 5 に表面粗さを示 す.冷却無しでは,実切削距離 1900m でチッピング が発生し工具寿命に達したのに対して,水溶性切削 削速度が上がるとともに小さくなっており,切削速 液を使用した場合は,実切削距離 362m で工具寿命 度 185m/min ではオイルミストによる効果はほとん に達した.水溶性切削液を使用することで,冷却性 どない. が向上したため,熱衝撃による熱クラックが発生し 3・2・2 SUS410 および SUS430 たためと考えられる.また,オイルミストを使用し 図 7 に SUS410 と SUS430 の工具摩耗進行曲線を た場合は,冷却無しよりもさらに実切削距離が伸び 示す.SUS430 は SUS410 に比べ工具摩耗の進行が遅 2714m となった.これの原因として,オイルミスト い.切り込みは 0.5mm と各条件とも同じであるが, は,水溶性切削液を使用した場合よりも冷却性が低 送りが 0.3mm/tooth,切削速度も 500m/min と高速で いことと,オイルによる切削抵抗の低減によるもの あり,比較的被削性が良い. と考えられる. 3・2・3 Ti6Al4V および純チタン 表面粗さは,水溶性切削液を用いた場合は,冷却 Ti6Al4V と純チタンの工具摩耗進行曲線を図 8 に, 無し加工の場合よりも低い値を示す.また,オイル 表面粗さを図 9 に示す.Ti6Al4V においては,切削 ミストを用いた場合は実切削距離 905m までは冷却 速度が上がると急激に工具寿命が短くなり,切削速 無しより高い値を示すが,それ以降は冷却無し加工 度を 100m/min 以下にすることが望ましい.また, 時とほぼ同じ値で安定して推移する. Ti6Al4V における加工面の表面粗さは切削速度およ 図 6 に切削速度ごとのオイルミストの効果を示す. 冷却無し 切削速度100m/min 冷却無し 切削速度150m/min 冷却無し 切削速度185m/min オイルミスト切削速度100m/min オイルミスト切削速度150m/min オイルミスト切削速度185m/min 切削速度が高くなるとともに工具寿命が短くなって いる.また,各切削速度のオイルミストの効果は切 水溶性切削液100m/min 0.15mm/tooth 逃げ面摩耗幅 (μm) オイルミスト100m/min 0.15mm/tooth 350 300 250 200 150 100 50 0 逃げ面摩耗幅 (μm) 冷却無し100m/min 0.15mm/tooth 450 400 350 300 250 200 150 100 50 0 0 0 1000 2000 3000 1000 2000 実切削距離 (m) 3000 図 6 オイルミストの効果(SUS304) 実切削距離 (m) 図 4 冷却方法の工具寿命への影響(SUS304) SUS410冷却無し500m/min 0.3mm/tooth 冷却無し100m/min 0.15mm/tooth SUS430冷却無し500m/min 0.3mm/tooth 水溶性切削液100m/min 0.15mm/tooth オイルミスト100m/min 0.15mm/tooth 逃げ面摩耗幅 (μm) 表面粗さRa (μm) 0.30 350 0.25 0.20 0.15 0.10 300 250 200 150 100 50 0.05 0.00 0 0 1000 2000 3000 実切削距離 (m) 図 5 冷却方法の表面粗さへの影響(SUS304) 0 500 1000 実切削距離 (m) 図 7 SUS410 と SUS430 の被削性の違い 1500 び工具寿命に関係なく推移していることがわかる. 却無しに比べ切削距離が延び, 実切削距離 2430m で 純 チ タ ン は Ti6Al4V に 比 べ る と 切 削 速 度 が 工具寿命に達した.これは,オイルミストは水溶性 200m/min と高いが,工具摩耗の進行が遅く,被削性 切削液よりも冷却性が低く潤滑性が高いことが理由 は良好であった.純チタンの表面粗さは,Ti6Al4V と考えられる.また,表面粗さは冷却無しと水溶性 に比べ大きい. 切削液を用いた場合とでは,ほぼ同じであり,オイ 切削速度 100m/min において冷却方法による影響 を調査した.冷却方法としては,冷却無し,水溶性 ルミストを用いた場合はそれらよりも若干高い値と なった. 切削液,オイルミストの三種類の比較を行った.図 10 に工具摩耗進行曲線,図 11 に表面粗さを示す. 冷却無し 100m/min Ti6Al4V オイルミスト 100m/min Ti6Al4V 水溶性切削液 100m/min Ti6Al4V 冷却無しでは,実切削距離 1080m でチッピングが発 生し工具寿命に達したのに対して,水溶性切削液を 250 した.水溶性切削液を使用することで,冷却性が向 上したため,熱衝撃による熱クラックが発生したた めと考えられる.オイルミストを用いた場合は,冷 500 50m/min冷却無しTi6Al4V 100m/min冷却無しTi6Al4V 150m/min冷却無しTi6Al4V 200m/min冷却無し純チタン 逃げ面摩耗量 (μm) 400 逃げ面摩耗量 (μm) 使用した場合は,実切削距離 108m で工具寿命に達 200 150 100 50 0 0 1000 2000 実切削距離 (m) 300 図 10 冷却方法の工具寿命への影響(チタン合金) 200 冷却無し 100m/min Ti6Al4V オイルミスト 100m/min Ti6Al4V 水溶性切削液 100m/min Ti6Al4V 100 0.3 0 1000 2000 3000 実切削距離 (m) 図 8 切削速度の工具寿命への影響(チタン合金) 50m/min冷却無しTi6Al4V 100m/min冷却無しTi6Al4V 150m/min冷却無しTi6Al4V 200m/min冷却無し純チタン 表面粗さRa (μm) 0 0.25 0.2 0.15 0.1 0.05 0 0.3 表面粗さRa (μm) 3000 0 0.25 0.2 1000 2000 実切削距離 (m) 3000 図 11 冷却方法の表面粗さへの影響(チタン合金) 0.15 4 まとめ 0.1 エンドミル側面切削において 0.05 1)SUS304 におけるエアブローによる切削は切削 0 0 1000 2000 実切削距離 (m) 3000 図 9 切削速度の表面粗さへの影響(チタン合金) 油剤を使用した場合と同等の加工が可能であ る. 2)Ti6Al4V は SUS304 より被削性が悪い. 3)SUS304 の加工硬化層は約 0.1mm 存在すると考え られ,切り込みは 0.1mm 以上にすることが望ま しい. 正面フライス切削において 1)SUS304 と Ti6Al4V のいずれの場合でもオイル ミストの使用により工具寿命を延ばすことが できるが,切削速度が上がるとその効果は小さ くなる. 2)SUS304 と Ti6Al4V のいずれの場合でも水溶性 切削液を使用すると工具寿命が短くなる. 3)被削性は以下の順に良好である. SUS430 > SUS410 >> SUS304 純チタン> Ti6Al4V 参考文献 1) (社)日本チタン協会編: 「チタンの加工技術」 , 日刊工業新聞社,pp20-26,pp39-45(1998-1) 2)狩野勝吉:「難削材・新素材の切削加工ハンド ブ ッ ク 」, 工 業 調 査 会 , pp205-211 , pp220-226(2002-7) 3)「平成 13 年度共同加工試験報告書」 ,独立行政 法 人 産 業 技 術 総 合 研 究 , pp28-39,pp73-75, (2002-2)