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特別講演抄録

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特別講演抄録
特別講演抄録
加速する高齢化の中で「治し、支える医療」とは:
~『Aging in Place』を目指して~
東京大学高齢社会総合研究機構
飯 島 勝 矢
2025 年問題とよく言われるように、未曽有の超高齢化を目前にしてわが国は 2005 年から
2030 年にかけ大都市圏を中心に後期高齢者が倍増する。同時に認知症患者や独居高齢者、老夫
婦のみの世帯が激増するとも推測される中、我が国の医療政策が問い直されており、幅広い視
点から医療・介護提供体制を大きく進化させていく時期に来ている。そこには、今までの治す
だけの医療から「病人である前に『生活者』である」という理念の下に、住み慣れた街全体で
生から死までを地域全体で支え、みて(診て・看て)いくという地域完結型の医療への進化、
そして機能分化型のシステム型医療へのパラダイム転換が求められている。すなわち従来の「治
す医療」から『治し、支える医療』という原点に立ち返る必要がある。その象徴的存在の一つ
が在宅医療であり、言い換えれば「生活臨床」とも言える。地域包括ケア病棟なる指針も国か
ら出され、目まぐるしく制度が変わってきている中で、どのように真の地域包括ケアを達成し、
どのように地域毎の様々な連携を円滑に実現し得るのか。そこには病院医療と諸入所施設、そ
して在宅医療を中心とした地域医療の全てが補完し合う関係性である必要があり、様々な関係
者とのチームビルディング構築も求められる。
高齢者の健康寿命を延ばすため、自助・共助・互助の精神の下、健康増進を普段から心掛け、
社会参加を促すことによって高齢者自身も社会の支え手とする社会システムが求められる。一
方で、たとえ自立度レベルが低下し要介助になった後でも、心を委ねられた医療人が横に寄り
添う姿も必要である。同時に医療・介護の円滑なシステムと療養生活環境システムの両面サポー
トが存在することにより、はじめて「Aging in Place/ Aging in Community(できる限り元気
で、住み慣れた街で弱っても安心して暮らす)
」が達成されるのであろう。また忘れてはならな
いのが、①「市町村単位」の地域完結型医療を考える上での地区医師会と市町村行政の両者のしっ
かり二人三脚を組んだ中核的役割、②新たな大学-地域間連携を構築しながら、地域医療にも
視野を広げられる若手医療人の養成・早期医学教育、③「老い方・死に方」というものを改め
て全国民が成熟した知識で再考していくための市民啓発、等も必要不可欠な課題である。これ
ら全てに調和のとれたシステムが出来上がり、その地域に根付き始めることこそが、理想的な
まちづくりの一歩近づいたことになるのであろう。演者の取り組んでいる課題解決型研究(ア
クションリサーチ)の実例も提示しながら、みんなで考えてみたい。
─ 10 ─
教育講演抄録
地域における高齢者の食支援
日本歯科大学 教授 / 口腔リハビリテーション多摩クリニック 院長
菊 谷 武
いつまでも、住み慣れた地域で暮らし続けるためには、安心して食生活を送れることが重要
と考える。患者の食べることの可否やどの程度の食形態が安全に食べることができるかという
ことについては,患者本人の摂食機能にのみ左右されるものではない。患者の摂食機能は,そ
れを決定する一つの指標に過ぎなく,むしろ,患者を支える環境因子こそがこれを決定する際
に大きな影響を与えるともいえる。すなわち,患者の咀嚼機能や嚥下機能が大きく障害されて
いても,患者の機能に適した食形態を提供できる体制であれば,さらには,食事の介助場面に
おいても適正な食事姿勢をとることができ,十分な見守りのもと介助できる環境であれば,患
者は安全に食べることができる。一方,患者の咀嚼機能や嚥下機能がたとえ十分に備わってい
たとしても,患者を支える体制がとれない環境においては,いつ何時,窒息事故が発生しても
おかしくはない。特に、このような環境因子の影響は、在宅療養者において顕著で、いわゆる
介護力に左右されるのはいうまでもない。そこで、私たちは在宅療養中の摂食嚥下障害を持つ
患者さんの支援を目的に、
「日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニック」を開設した。
クリニックでは、歯科医師、医師、言語聴覚士、歯科衛生士、管理栄養士が勤務し、外来およ
び訪問診療において摂食支援、栄養支援を行っており、在宅訪問での摂食支援は、現在月当た
り延べ 100 件におよぶ。ここでは、地域における病診連携や地域における多職種連携など縦糸
と横糸をつなぐ作業に腐心することになる。本講演では、北多摩南部地域におけるわたしたち
の地域での取り組みについて紹介する。
─ 11 ─
ランチョンセミナー抄録
精神科から見た認知症医療
横浜市立大学附属市民総合医療センター 精神医療センター
小
田
原
俊
成
わが国では高齢化問題に対応するため、自治体において地域包括ケアシステムの導入が提言
され、認知症は疾患としてのみならず、老年期のひとつのあり方として地域社会での受容を促
進する取り組みが行われつつある。認知症ケアは、身体症状に加えて心理・行動症状(BPSD)
への対応や、住環境、生活背景、権利擁護に対する配慮、さらには介護者に対する支援など多
くの視点が必要である。本セミナーでは、精神科的視点からみた認知症患者との関わりを以下
の点から論じてみたい。
1)鑑別診断(精神疾患との鑑別)
認知症専門外来における鑑別診断の内訳は、アルツハイマー型認知症(AD)の占める割合は
6 割弱であり、軽度認知障害(MCI)、AD 以外の変性疾患や脳血管障害、代謝性脳症、正常圧
水頭症のほか、うつ病や妄想性障害、アルコール関連障害などの精神科疾患が含まれる。また、
MCI においても適応障害やうつ病などの精神科疾患が原因と考えられる症例が含まれており、
治療計画を策定する上で精神科的診たては重要である。
2)BPSD 入院治療
現在、BPSD に対する入院治療は精神病床で行われ、数万人の認知症患者が入院している。
そのうち、約 7 割が何らかの身体合併症を有し、居住先や支援が整えば退院可能な患者が約 5
割いることが報告されている。BPSD を有する認知症患者の地域生活を支援するためには、一
般医療機関と精神科医療機関の連携および多職種連携が不可欠である。
3)救急対応(精神科救急含む)
認知症患者は救急搬送が困難な事例が少なくなく、その理由として非認知症患者に比べて身
体的重症度が高く、外来転帰では社会的入院や死亡の割合が多いことが指摘されている。これ
は日常的な身体管理の困難さを示唆する所見と思われ、在宅診療・介護支援体制の強化、一般
病院における相談機能(PSW などの介入)
、精神科医療機関との連携の強化が望まれる。また、
高齢者虐待や自傷・他害のおそれのある認知症患者に対する精神医学的介入事例もしばしば経
験する。
4)身体合併症治療
BPSD を有する認知症患者の身体合併症入院治療では、行動制限(隔離・身体拘束)を要す
る割合が高く、有床一般病院精神科での対応がしばしば必要となる。しかしながら、有床一般
病院精神科は少なく、精神病床での身体管理の困難さも課題である。また、一般病院精神科の
重要な役割の一つとして他科コンサルテーション業務が挙げられる。2012 年度当院 65 歳以上
高齢者の他科併診例 191 例中、約 2/3 がせん妄(認知症含む)対応であった。
その他、高齢者に関する医学教育(認知症、うつ病、せん妄の鑑別)
、緩和ケア(対象疾患とし
ての認知症)、権利擁護(高齢者虐待、刑事・民事精神鑑定)といった点からも精神医学的アプ
ローチは重要である。
─ 12 ─
シンポジウム抄録
東京医科歯科大学における老年病内科
東京医科歯科大学老年病内科
○阿部 康子
超高齢社会を迎えた日本は、今や 4 人に 1 人が高齢者となった。開始から 14 年たった介護保険
が社会保障費の増大の一因となっている現在、高齢患者の適切な療養生活を見据えた診療計画をた
てることは、老年医学を専門とする医師の重要な役割である。
東京医科歯科大学の老年病内科を受診する患者の背景もここ数年で変化している。入院患者調査
において、平成 17 年と平成 25 年における前半期の入院患者 100 名を比較したところ、平均年齢は
66.4 歳から 72.9 歳と上昇し、女性と男性の比率が転じていることが分かった。入院傷病名にも変
化がみられ、多数を占めていた糖尿病入院が減少し、感染症や認知症、心不全、悪性腫瘍の割合が
増加した。後者のケースでは、生活基盤の見直しが必要な場合が多く、医療ソーシャルワーカーの
協力を以てしても在院日数が長期化するケースが目立った。
この事態は、大学病院の在院日数の短縮化への動きを考えると対策案が必要であるため、当教室
では、認知症などの検査を目的とした短期入院を組みこむことで、平均在院日数の短縮化をこころ
みている。
また、高齢患者への適切な診療や看護、家族指導を提供するためにも、研修医向けの高齢患者診
療のための指導マニュアルを作成したり、総合機能評価に繋げる目的で、院内共通の入院時患者評
価票作成への協力を行っている。コ・メディカルスタッフが参加できるような高齢者医療を考える
勉強会を定期的に開催し、臨床現場における人的環境の向上を意識した活動も継続中である。
杏林大学病院高齢診療科の現状と今後
杏林大学医学部付属病院高齢診療科
○竹下 実希
杏林大学病院は多摩地域唯一の大学病院であり、多摩地区ならびに 23 区西部を中心とした多く
の患者が受診する。その中で高齢診療科は入院病床 35 床を有し、医局員 19 名(うち病棟医 8 名)で、
病棟業務および外来業務(高齢診療科およびもの忘れセンター)を運営している。当科への入院患
者は年間 300 ~ 400 人で、約 90% を緊急入院が占めており、その数は年々増加している。また平
均年齢も 5 年前と比較し約 2 歳上昇し、入院時傷病名は急性心不全、誤嚥性肺炎、尿路感染症など
が多く見られている。しかし多種多様な疾患及び生活背景のため急性期疾患の治療のみでは完結せ
ず、早期に医療福祉相談室の介入や退院支援カンファレンスの開催が必要となっているが、これら
の努力にもかかわらず在院日数は長期化している。このため当科では正常圧水頭症タップテストな
どの検査を目的とした短期入院や肺炎パスを組み入れることで在院日数の短縮・業務の軽量化を目
指している。また 2014 年度の診療報酬改定により在宅等への退院を 75% 以上維持しなければなら
ず、これを達成するための工夫が求められており、現在様々な検討を行っているところである。高
齢診療科は臓器別診療科と異なり、実際に学生や研修医、また臓器別診療科医師からも診療内容が
不明確との意見を聞くことがある。今後これらを明確にすることにより高齢診療科医師の増加、発
展を目指していく必要がある。本シンポジウムで当科の現状および今後の課題につき詳述する。
─ 13 ─
シンポジウム抄録
健康寿命延伸を目指す、今後の高齢者診療
東京医科大学高齢総合医学
○金髙 秀和
我が国は世界でも類のないスピードで高齢化が進んでおります。その中で、我々は老年医学の専
門の立場から、健康寿命の延伸へ向けての高齢者の診療を実践しております。当科の平成 25 年度
の入院患者数は 513 人、平均年齢は 82.8 歳、平均在院日数 16.9 日で、外来患者延数 17809 人、新
患者数 1409 人でした。
高齢者は複数の疾患を併せ持ち、種々の機能障害を有することから、総合的または包括的な診療
が求められます。当科では、高齢者に多くみられる認知症、脳卒中、悪性腫瘍、神経変性疾患など
に加えて、転倒、誤嚥、低栄養、フレイルなどの老年症候群に対応しております。高齢者総合機能
評価(CGA)を用いると、在院日数の短縮や入院回数の減少、薬剤の適正化、QOL や ADL、認
知機能の改善などが期待されます。
また、認知症を正しく理解し、適切な対応をしていただくための認知症介護者教室を隔週ごとに
開催しております。
本年 5 月からは4診療科(高齢診療科・救命救急センター・脳神経外科・神経内科)による脳卒
中センターを発足し、急性期脳卒中に迅速に対応し、高度かつ専門的な治療体制を整えております。
当科での緊急入院率は 48% ながら、在宅復帰率は 75.8% と高い水準を維持しております。10 年
以上前から地域医師会との医療連携を構築し、高齢者の病診連携も推進しております。
総合診療、専門治療、医療連携、各々を益々発展させるべく行ってきた当科の現状をご報告いた
します。
東京大学医学部附属病院老年病科病棟における高齢者診療の取り組み
東京大学医学部附属病院老年病科
○浦野 友彦,秋下 雅弘
東大病院老年病科は当科では研修医と指導医、主治医が 3 人 1 組のチームを構成し、さらに各診
療チームの上位に 1 名のチーム管理医がおり、3 もしくは 4 チームで病棟全体の診療を行っている。
また教授回診に加えて、循環器疾患、神経疾患、呼吸器疾患、骨粗鬆症といった疾患に特化したカ
ンファレンスを各週一回行っている。さらに地域連携部のスタッフや病棟看護師とともに退院支援
を検討する退院支援カンファレンス、栄養士さんや担当看護師さんと低栄養状態の患者さんの対策
を検討する NST カンファレンスを施行し、多方面から入院患者さんの評価、診療を行っている。
当科における 2013 年度の入院患者総数は 390 名であった。物忘れを主訴とした認知機能障害の
患者さんに対する「認知症精査入院パス」を導入し、それに伴い認知症精査入院の患者数が増加し
た。入院患者の疾患の傾向では、認知症以外では肺炎、急性心不全のような救急疾患が多かった。
また入院中にすべての内服薬をリストアップし、多剤を内服している患者さんにおいては必要最小
限の内服薬への減量を行い、退院後の服薬アドヒアランスを良好に維持できるように介入を行って
いる。内服薬管理に関しては病棟専任で勤務する薬剤師による服薬指導を本人ならびに家族に適宜
行っていただいている。
以上のように特定の疾患の診断治療のみに関わるのではなく、入院患者さんに対する総合機能評
価(「総合評価加算」として入院中に実施・算定)を行っている。本シンポジウムではチーム診療
により高齢者の入院期間短縮、再入院率の低下、退院後のより良い QOL をめざし診療を行ってい
る当科の入院診療に関して概説する。
─ 14 ─
一般演題抄録
1.誤嚥性肺炎の治療後に間質性肺炎を発症した高齢女性の一例
杏林大学医学部高齢医学
○小池裕美子,田中 政道,長田 正史,竹下 実希,長谷川 浩,松井 敏史,
神﨑 恒一
発熱、意識障害を主訴に当院救急外来を受診した 84 歳女性。もともと ADL は軽介助で自立
していたが、平成 26 年 4 月 18 日、意識障害を認め、自発的に発話をすることが困難となり、4
月 19 日救急外来受診したが、血液検査、胸部 Xp、頭部 CT にて大きな異常所見を認めなかっ
たため一時帰宅となった。翌日になっても症状の改善がないため、
再度救急外来受診したところ、
血液検査にて炎症反応上昇、胸部 Xp, CT にて肺炎像を認め、また、尿検査にて、尿路感染症
を疑う所見を認めたため入院となった。入院後、抗菌薬投与にて治療開始し、翌日には解熱を
認め、第 7 病日炎症反応改善を認めたため抗菌薬投与終了とした。第 11 病日、経過観察目的に
胸部 CT を再検したところ、両肺上下肺背側に間質性陰影を認めた。原因として薬剤性肺炎を
疑い、入院後に新規に追加したアムロジピン 5mg を内服中止とし、経過を追った。第 18 病日
再度胸部 CT 施行したところ、間質陰影の改善を認めた。降圧薬のような常用される薬剤にて
重篤な間質性肺炎を来たすことがあり、今回文献考察を含め報告する。
2.短期作用型の吸入β 2 作動薬の濫用にインダカテロールが有効であった COPD の一例
杏林大学医学部呼吸器内科 1),杏林大学医学部付属病院リハビリ室 2),
杏林大学医学部付属病院看護部 3)
○和田 裕雄 1),竹田 紘崇 2),柳下 由弥 3),西之野梨奈 3),中村 益夫 1),乾 俊哉 1),
中本啓太郎 1),佐田 充 1),辻 晋吾 1),滝澤 始 1)
背景 COPD 患者の息切れには短期作用型β 2 作動薬(SABA)による「アシスト・ユーズ」
が有効であるが、その濫用の懸念もある。インダカテロール吸入を契機に SABA 濫用を軽減出
来たと考えられた症例を報告する。症例 75 歳、男性。10 年前に COPD 4 期と診断、以後、吸
入ステロイド(ICS)・長期作用型β 2 作動薬(LABA)合剤と抗コリン薬の吸入治療および、
在宅酸素療法を導入し外来管理されていた。2 年前より労作時呼吸困難が悪化したため、
「アシ
スト・ユーズ」を指導、一時的な改善を認めたが SABA 依存的となった。呼吸困難のためリハ
ビリの導入も困難であった。 昨年より ICS/LABA 合剤をインダカテロールに変更したところ、
2 か月後から呼吸困難が軽減し呼吸リハビリを開始し、SABA 使用制限を教育した結果、その
使用量の半減に成功した。考察 インダカテロールの FEV1 改善作用は病期 2/3 期の COPD で
は示されているが、病期 4 の患者でのエビデンスはなその臨床的意義は不明である。本症例は、
LABA からインダカテロールへの変更が SABA の濫用軽減に至った症例と考えられた。
─ 15 ─
一般演題抄録
3.急性胃腸炎を契機に溶血性貧血を来し自然軽快した認知症高齢女性の一例
杏林大学医学部高齢医学 1),同 血液内科 2),同 付属病院 臨床検査部 3)
○新井さおり 1),竹下 実希 1),井上慎一郎 1),松井 敏史 1),長谷川 浩 1),神﨑 恒一 1),
佐藤 範英 2),高山 信之 2),大西 宏明 3)
症例は 88 歳女性。家族やヘルパーによる介護を受けていたが、一日中独居状態となることが
多く、詳細な生活状況は不明であった。2014 年 4 月 18 日夕食時に嘔吐し、翌 19 日にも嘔吐・
下痢を認め、救急車で当院を受診した。画像検査で大腸の浮腫性壁肥厚があり、血液検査で白
血球数高値、高ビリルビン血症を認めた。賞味期限切れの刺身を電子レンジで温めて摂取した
ことが確認され、急性胃腸炎の診断で入院となった。補液にて腹部症状は改善したが、第 3 病
日に全身の黄染が出現し、血液検査で貧血の進行と高ビリルビン血症の増悪を認めた。網赤血
球数上昇、尿中ウロビリノーゲン(3+)
、ハプトグロビン低値より溶血性貧血が疑われ、骨髄穿
刺を施行したが有意な異常所見は見られなかった。また、高ビリルビン血症は第 5 病日をピー
クに徐々に低下して基準値内となり、全身の黄染も消褪した。精査の結果、溶血性貧血の原因
として血液疾患は否定的で、感染症に伴う溶血性貧血と判断した。独居の認知症高齢者は今後
増加の一途を辿ることから、生活状況の情報共有や生活環境の調整が非常に重要と考えられた。
非常に示唆に富む症例であり、文献的考察を交え報告する。
4.不明熱にて入院し、びまん性大細胞型 B 細胞性リンパ腫(DLBCL)と診断、化学療法にて
寛解した 1 例
東京大学医学部附属病院老年病科
○加瀬 義高,山賀亮之介,大田 秀隆,山口 泰弘,浦野 友彦,小川 純人,
秋下 雅弘
症例は 80 歳男性。高血圧症にて近医通院していた。H25 年 6 月末より食欲低下・疲労感を自
覚し、7 月初旬より両側手掌・手背の腫脹等が出現した。7 月中旬より、夕方~夜に 37℃台後
半の発熱を認めるようになった。近医精査も原因特定されず、間歇熱持続するため同年 8 月に
当科初診、入院となった。入院後の胸腹 CT にて右腋窩~鎖骨上窩、腸間膜、腹部傍大動脈域、
両側骨盤壁に多発リンパ節腫脹を認めた。FDG-PET においても同部位に多発性のリンパ節へ
の集積を認める一方、実質臓器への集積は認めなかった。sIL-2R 2066 U/ml と高値からも、悪
性リンパ腫を疑い、右腋窩リンパ節生検を施行した。病理結果より、びまん性大細胞型 B 細胞
性リンパ腫(DLBCL)StageIIIb と診断した。80 歳と高齢であるが、認知障害や ADL 低下なく、
現役で仕事をされており、R-CHOP による化学療法を開始した。4 コース施行後の胸腹 CT にお
いて、CR を確認。その後計 8 コースの R-CHOP 施行し、現在も CR 維持している。80 歳以上
の高齢 DLBCL 患者への治療に対するエビデンスは確立しておらず、
考察を交えここに報告する。
─ 16 ─
一般演題抄録
5.両側の腸腰筋膿瘍を繰り返した高齢者 2 型糖尿病の 1 例
船橋市立医療センター
○下山 立志,岩岡 秀明
腸腰筋膿瘍は原因不明の原発性と隣接臓器の感染から波及した続発性に分類される。原発性
は潜在的な感染巣から血行性またはリンパ性に炎症が波及すると考えられており、糖尿病など
の基礎疾患を有する compromised host に発症しやすいとされる。続発性は急性虫垂炎、
憩室炎、
大腸癌、クローン病、腎盂腎炎、化膿性脊椎炎などからの炎症が波及したものが多いとされて
いる。抗生剤の進歩や栄養状態の改善などにより減少し、比較的稀な疾患であると認識されて
いたが、近年、高齢者を中心に増加傾向にある。症例は 79 歳。63 歳時に 2 型糖尿病と診断され、
経口糖尿病薬で治療されていたがコントロールは不良、68 歳時には増殖性網膜症でレーザー治
療を受けていた。73 歳時に子宮留膿腫を発症し、腹式子宮単純全摘術、両側卵管卵巣摘出術を
受けた。約 2 か月後に右腸腰筋膿瘍、約 1 年後に左腸腰筋膿瘍、5 年後に右腸腰筋膿瘍、6 年後
に左腸腰筋膿瘍と、両側性の腸腰筋膿瘍を相次いで繰り返した稀有な症例を経験したので報告
する。
6.精嚢膿瘍により慢性的な炎症反応上昇を来たした、維持透析中の高齢糖尿病患者の一例
公立学校共済組合関東中央病院代謝内分泌内科
○鶴谷 悠也,近藤 真衣,金子 裕嗣,佐川 尚子,佐田 晶,宮尾益理子,
水野 有三
症例は 78 歳男性。47 歳頃糖尿病を指摘され、2008 年(72 歳)より腎機能が悪化し、2013 年
3 月に血液透析が導入された。2013 年 10 月に、血清 CRP が 7.45 mg/dl と高値となり、以後慢
性的に CRP 高値が持続していたが、発熱などの自覚症状はなく経過観察されていた。12 月に
なり CRP 15 mg/dl まで上昇したため、精査加療目的に当院紹介となった。体温 37.1℃と微熱
を認めるものの、身体所見上特記すべき異常は認めなかった。造影 CT を施行したところ、右
精嚢が腫大し、内部に嚢胞状領域が出現しており、精嚢膿瘍と診断された。泌尿器科にて精嚢
膿瘍に対して穿刺ドレナージ施行、ドレーンを留置し、抗生剤投与したところ、CRP 値は漸減し、
第 30 病日には正常化した。精嚢膿瘍は文献的にも報告が少なく非常に稀な疾患であるが、本症
例は維持透析中、高齢、糖尿病と易感染状態かつ泌尿器感染症を来たしやすい背景があること
が発症に関与していると考えられた。精嚢膿瘍は画像検査によって初めて診断されることも多
く、同様の基礎疾患を有し原因不明の炎症反応上昇を来たす症例において、鑑別すべき疾患と
考えられる。
─ 17 ─
一般演題抄録
7.褥瘡の臨床検査医学的検討 37 報 アルブミンの供給と消費に関する血液検査値の動態
一般財団法人愛生会多摩成人病研究所厚生荘病院 1),
大東文化大学スポーツ健康科学部健康科学科 2)
○牛尾 龍朗 1),渋谷 正行 1),永見 雄太 1),鈴木 孝臣 1),池上 茂 1),牛尾 益行 1),
只野 智昭 2)
[目的]褥瘡例のアルブミン(Alb)の供給と消費に関係する因子を探るべく血液分析値の相
関と動態を解析し,難治 3 症例の創の滲出 Alb の回収を試みた.
[方法]褥瘡 22 名(男 9,女
13)平均 84.7 歳の解析に係る相関は無相関検定,動態は t - 検定を用いて評価した.
[結果]被
験対象の体温と脈拍に正相関を認め,血液 Hb,血清 Alb,T-Cho との間に極めて良い正相関
を認めた.この 3 項目と pre Alb,Tf,A/G 比,TG,LDL-C,Ca,Fe,血清アミノ酸の Val,
Fischer 比に正相関と CRP に負相関を認め,治癒群に比し難治群の体温,脈拍,血清蛋白γ
-Glb 分画に有意(p < 0.01)の高値と Hb,Alb,pre Alb,A/G 比,Tf,T-Cho,HDL-C,Fe,
Val,Fischer 比に有意の低値を認めた.創の滲出 Alb の回収の試みで,
1 例に 0.6g/1 日,
2 例に 0.08
~ 0.1g/1 日を認めた.[結論]褥瘡例の Alb の供給と消費に関する因子の究明には創の状態と
バイタルサイン,血液 Hb,血清 Alb,T-Cho,TG,A/G 比,CRP に加え創の滲出 Alb の観察
が必要と考えた.
8.ペットボトルの開栓能力と運動機能との関連
聖マリアンナ医科大学病院リハビリテーション部 1),
聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院リハビリテーション部 2),
聖マリアンナ医科大学整形外科学教室 3)
○森尾 裕志 1),大森 圭貢 2),堅田 紘頌 1),小山 真吾 1),清水 弘之 3)
【目的】握力は上下肢運動機能を反映するとともに、ペットボトルの回旋トルクと関連がある
ことが報告されている。本研究の目的は、ペットボトルの開栓の可否が運動機能と関連するか
を検討することである。【方法】対象は、リハビリテーション依頼のあった女性高齢入院患者
95 例で、四肢の関節痛、手指変形、片麻痺、検査に必要な指示に従うことができない症例は除
外した。開栓能力は、未開封のペットボトル(500ml)を用い、可能群と不可能群に分類した。
運動機能は、10m 最大歩行速度、握力、膝伸展筋力、片脚立位時間、前方リーチ距離とした。
分析は可能群と不可能群間で各運動機能を比較した。
【結果】不可能群(41 例)は、可能群(54
例)に比べて、全ての運動機能が低値であり、不可能群の握力は全例が 20kgf を下回った。また、
不可能群では歩行速度が 1.0m/sec を下回る症例が 68.3%(28 例)であった。
【結論】不可能群
の全例が、サルコペニアの一指標である握力 20kgf を下回り、およそ 7 割の症例が実用的な歩
行速度に達していなかった。以上から、
ペットボトルの開栓の可否は、
運動機能を簡便にスクリー
ニングできる指標になり得る。
─ 18 ─
一般演題抄録
9.LOH 症候群の一例
東京大学医学部附属病院老年病科
○七尾 道子,小島 太郎,浦野 友彦,山口 泰弘,小川 純人,秋下 雅弘
84 歳男性。1 年前から食思不振、不眠が出現し、次第に興味や関心、意欲が激減した。1 か
月前から症状の増悪を認め、10kg の体重減少も認めた。2 週間前より食事が全く摂れなくな
り、精査目的に当科入院した。身長 167cm、体重 49kg、BMI17。身体所見上、やせ及び四肢筋
力低下を認めた。高齢者総合機能評価は MMSE28/30、Barthel index 100/100、IADL 4/8、
GDS14/15、簡易転倒スコア 11/13 と、うつ症状と易転倒性を認めた。便潜血反応、腹部超音波
検査、上部消化管内視鏡、胸腹部 CT 検査では、器質的な消化管疾患は認めなかった。遊離型
テストステロン値は 1.1pg/ml と低値、AMS スコアは 70/85 と高値であり、以上より LOH 症候
群と診断した。アンドロゲン補充治療を開始したところ、1 か月後遊離型テストステロン値は
17 pg/ml まで回復、AMS スコアは 1 ヶ月後 43 点、3 か月後 35 点まで改善し、食思不振、不眠
症状、うつ症状も改善した。LOH 症候群は様々な臨床症状を示し、時に診断が困難である。ホ
ルモン補充により顕著な改善を認めたためここに報告する。
10.心不全入院を契機に在宅診療へ移行した高齢認知症女性の一例
東京慈恵会医科大学附属柏病院循環器内科 1),東京慈恵会医科大学附属柏病院中央検査部 2)
○工藤 敏和 1),吉田 純 1),鈴木健一郎 1),山田 崇之 1),小菅 玄晴 1),中田耕太郎 1),
久保田健之 1),宮永 哲 1),小武海公明 1),吉田 博 2)
83 歳女性。陳旧性心筋梗塞、慢性心不全などで通院中。某年 4 月頃から徐々に、健忘やつじ
つまの合わない言動などが見られていた。6 月の診察日に来院せず、7 月○日、デイケア施設職
員が呼吸不全状態と判断し救急要請した。慢性心不全の急性増悪と診断し入院加療を開始。利
尿剤と血管拡張剤で経過良好に改善した。御本人の言動から認知症を疑い行った MMSE 10 点、
HDS-R 9 点であり、各種血清学的検査では認知症様症状を来す内科疾患は認められず、画像検
査では脳外科的疾患はなく陳旧性脳梗塞のみの所見であった。血管性認知症の発症と進行のた
め怠薬傾向となり、慢性心不全の急性増悪を来したと考えられた。娘と孫との 3 人暮らしでは
あるが、どちらも仕事のため患者は平日早朝から夜間までは独居状態であり、また娘も孫も認
知症に気付いていなかった。要介護度の見直しと在宅支援調整、および訪問診療医と連携をと
り在宅医療を導入し、退院後は良好に経過している。高齢患者の心不全増悪では認知症と支援
不足が重要な要因であるが、在宅医療へ移行した後は良好な経過となった症例を経験したので
報告する。
─ 19 ─
一般演題抄録
11.在宅での看取りの条件―当院における経験より
大倉山診療所 1),東邦大学医療センター大森病院リハビリテーション科 2)
○山崎 都 1),海老原 覚 2)
(背景)当院は日常診療の一環として、患者・家族の求めにより訪問診療も行っている一般開
業医であるが、近年在宅看取りも増加傾向である。最近 2 年間で 33 名の方を在宅で看取ったが、
同じ時期に 18 名の訪問診療中の方が入院後、病院で死亡された。この両群を比較し、在宅看取
りの条件について検討したので報告する。
(方法)2011 年 10 月 13 日―2013 年 10 月 12 日の 2
年間に当院が在宅で看取った 33 名と、入院後、病院で死亡された 18 名を、カルテにより、性別・
年齢・基礎疾患・死亡病名・急性疾患の有無・日常生活自立度(寝たきり度)
・同(認知症の状況)
・
家族の介護力・かかりつけ病院の有無・初診からの期間・往診期間などについて比較検討した。
(結果)基礎疾患・家族の介護力・往診期間などでは有意差はなく、病院群において、日常生活
自立度が寝たきり度・認知症の状況のいづれも比較的軽度、在宅で管理困難な急性疾患の合併、
かかりつけ病院の存在が有意に認められた。
12.高齢者医療需要に対応する急性期医療と在宅医療との地域連携プロジェクト
日本医科大学多摩永山病院内科・循環器内科 1),からきだ駅前クリニック 2)
○草間 芳樹 1),関原 正 2),小谷英太郎 1),新 博次 1)
当院が位置する多摩市では、65 歳以上の高齢者人口割合が 2030 年には現在の 1.5 倍(33%)
となり、脳卒中、心不全、癌による入院は各々 1.8 倍、1.9 倍、1.2 倍に増加すると予測される。
高齢者は複数疾患を持つ場合が多く、繰り返し入院治療を要すると見込まれる。このような増
加する医療需要に対応するには、急性期病院での入退院を円滑に実行する、急性期医療チーム
と慢性期長期医療チームとの継続性ある医療を提供可能にする地域連携の確立が必要である。
このため当院では平成 25 年 4 月より在宅診療を実践する医療機関と連携し、在宅医療連携プ
ロジェクトを企画しスタートさせた。このプロジェクトにて入院し、加療後退院した初期症例
5 症例につき、入院時の対応・受け入れ状況、退院時連携に関する問題の有無につき検討した。
その結果、速やかな入院受け入れが全例で可能であり、自宅退院した例での家族満足度につい
ても好評であった。
─ 20 ─
一般演題抄録
13.高齢者に発症した第 VIII・IX・XI・XII 因子欠乏を認めた後天性血友病
厚生中央病院総合内科 1),厚生中央病院消化器病センター 2),
順天堂大学医学部付属順天堂医院血液内科 3),
東京医科大学臨床検査医学分野血液凝固異常症遺伝子研究寄附講座 4)
○羽生 直史 1),青田 泰雄 1),横山 智央 1),樋口 良太 2),北川 尚之 1),後藤 明彦 3),
篠澤 圭子 4),天野 景裕 4),櫻井 道雄 1),
症例:84 歳,女性.主訴:皮下出血.現病歴:2014 年 3 月より両下肢に腫脹・皮下出血の出
現と自然消退を繰り返した為に近医受診.採血検査にて Hb 6.1g/dl と著明な貧血を認め,精査
加療目的にて当院紹介.経過:貧血の原因検索目的にて施行した上下部内視鏡検査,胸部 - 骨
盤部 CT では異常所見を認めなかった.採血検査では APTT の延長(95sec)
,第 VIII 因子 1%
以下,第 VIII 因子インヒビタ ? 陽性(509 BU/ml)であった.vWF 活性の低下はなく,LAC
陰性であった為に後天性血友病と診断.さらに,第 IX・XI・XII 因子の低下を認めた.基礎疾
患は否定的であり,特発性と診断.診断後,PSL1mg/kg/day を開始し,全身の皮下出血に対
して活性型 PT 複合体製剤の投与及び輸血療法を施行し,
出血所見改善を認め PSL の減量を行っ
ている.考察:本症は年間 100 万人あたり約 1.48 人と稀な疾患であるが,APTT の延長を伴う
原因不明の出血傾向のある高齢患者では鑑別すべき疾患である.更に,重篤な出血と感染症で
死亡する報告もあり,早期からの原因となるインヒビターの除去および止血療法が重要である.
14.著しい低コレステロール血症とネフローゼ症候群を呈し治療が奏功した後天的 LCAT 欠損
症の一例
千葉大学大学院医学研究院細胞治療内科学 1),千葉大学医学部附属病院未来開拓センター 2),
千葉大学医学部附属病院腎臓内科 3),関東中央病院代謝内分泌内科 4)
○石橋 亮一 1),竹本 稔 1),黒田 正幸 2),小川 真 3),若林 華恵 3),服部 暁子 1),
茂手木宏美 1),渡邉 亜紀 1),鶴谷 悠也 4),横手幸太郎 1)
67 歳男性。検診にて HDL-C 4mg/dl と著しい低下を指摘され当院に紹介となった。初診時、
角膜混濁や貧血、腎機能障害は認めず、TC 82mg/dl、HDL-C 7mg/dl、LDL-C 1mg/dl、TG
342mg/dl、コレステロールエステル比 20%であった。69 歳時にネフローゼ症候群を呈し、腎
生検で膜性腎症と診断された。70 歳時にプレドニゾロン(PSL)30mg を開始後、尿蛋白は減
少し HDL-C 73mg/dl、LDL-C 230mg/dl と上昇した。PSL 治療前の 2 次元電気泳動法では異常
な HDL が検出され、LCAT 活性は測定感度以下であった。患者血清と健常人血清を混合する
と LCAT 活性の著しい低下を認めた。患者血清の IgG 分画を用いて健常人血清を免疫沈降し
SDS-PAGE 後に抗 LCAT 抗体で免疫ブロットを行ったところ LCAT 蛋白が検出された。腎生
検検体では糸球体基底膜にそって LCAT 蛋白の沈着を認めた。PSL 投与後、LCAT 活性は改善
し、正常と考えられる HDL も検出された。以上より抗 LCAT 自己抗体による後天性 LCAT 欠
損症と診断し得た症例を経験した。
─ 21 ─
一般演題抄録
15.舞踏運動にて発症した脳アミロイドアンギオパチー関連白質脳症の一例
東京医科大学病院高齢診療科
○深澤 雷太,清水聰一郎,廣瀬 大輔,金高 秀和,馬原 孝彦,櫻井 博文,
羽生 春夫
症例は 84 歳女性。2014 年 3 月中旬(84 歳)
、物忘れを主訴に当科紹介受診。頭部 MRI T2 強
調画像にて左側頭葉~後頭葉の広範囲な高信号域を認めた。診察時、両下肢末端の不随意運動
を認め、白質脳症精査として 4 月 9 日入院となった。入院後、造影 MRI 施行し造影効果なく明
らかな腫瘍病変なし。腰椎穿刺にて明らかな異常所見認めず。白質脳症診断目的にて脳生検施行。
病理所見として、アミロイドβ蛋白の血管壁・大脳皮質での広範な沈着、神経原線維変化、髄
鞘軽度淡明化を認めた。アルツハイマー病合併アミロイドアンギオパチー関連白質脳症と診断。
メチルプレドニゾロン 1g/ 日× 3 日間のステロイドパルス療法施行。不随意運動および白質病
変の改善を認めた。ステロイドパルス効果ありと判断し計 3 クール施行、PSL 30mg にて内服
加療継続とした。基礎疾患にアルツハイマー病あるため、認知症残るものの不随意運動は消失。
PSL 20mg 内服にて 6 月 27 日退院となった。認知症精査に対し病理診断にて確定診断を得る事
が出来た。舞踏運動で発症したアミロイドアンギオパチー関連白質脳症の報告は今までなく過
去の文献的報告と比較し、ここに報告する。
16.肝機能障害を契機に発見されたアミオダロン肝障害、角膜沈着を呈した 1 例
防衛医科大学校神経・抗加齢血管内科 1),けやき内科 2)
○伊藤 美沙 1),小松 知広 1),綾織 誠人 1),佐々木 誠 1),西田 尚史 1),西脇 正人 2),
池脇 克則 1)
症例は、77 歳女性。心房細動、狭心症、CKD、ペースメーカー留置後等にて遠方へ通院して
いたが、転倒に伴い圧迫骨折、
腰痛症が出現し、
通院困難となったため近医紹介となった。その後、
近医にて肝機能障害が続くため、精査目的で当院紹介となった。C 型肝炎ウイルス既感染だが
現在活動性はなく、また心不全等を認めず、腹部超音波検査において明らかな異常所見を認め
なかった。精査目的で施行した単純 CT にてび漫性の肝臓吸収値上昇を認めたことから、
遺伝性、
薬剤性肝障害等の鑑別疾患を検討した。アミオダロン内服中(内服期間 14 か月)であり、血中
アミオダロン高値(1786ng/ml)であり、沈着性の角膜混濁を認めたことから、アミオダロン
肝障害と診断した。一方、アミオダロンによる肺疾患、甲状腺機能異常、皮膚症状等は認めなかっ
た。アミオダロンを内服中止したところ、6 ヶ月経過にて採血で肝障害は改善したが、1 年経過
しても血中アミオダロンは残存し単純 CT においても吸収値は高値のままであり副作用は遷延
している。アミオダロンの副作用として肝障害を継時的に観察しえた高齢女性の症例について、
文献的考察を加え報告する。
─ 22 ─
一般演題抄録
17.慢性膵炎による栄養障害を伴う重症骨粗鬆症の一例
東京医科歯科大学老年病内科
○馬渕 卓,佐々木真理,泉本 典彦,中村麻里衣,袴田 智美,豊島 堅志,阿部 庸子,
金子 英司,下門顕太郎
症例は 71 歳男性。膵性糖尿病のためインスリン治療中であった。X 年 1 月に小脳出血のため
入院後、リハビリ転院調整のため当科転科。身長 160cm、体重 40.9kg とるい痩あり。検査では
Alb 低値(3.6 g/dl)
、ALP 上昇(1149 U/L)を認めた。体動による疼痛を訴え、肋骨、腰椎を
含む多発性の骨折を認めたため骨代謝疾患を疑い検査を行った。骨折部位に腫瘍性病変は認め
なかった。骨密度は YAM60% 以下に低下していた。血液検査では、血清 Ca、P、intact PTH
は正常範囲、骨型 ALP(131 μ g/l)は上昇、25(OH)D(5ng/ml 以下)
、ビタミン E(0.53mg/
dl)は低下していた。血清 FGF23 は軽度上昇しており、FGF23 産生腫瘍または慢性膵炎に伴う
骨軟化症を疑ったが、確定診断には至らなかった。重症骨粗鬆症と診断し、活性型ビタミン D
製剤とビスホスホネート製剤を投与した。またパンクレリパーゼ投与により、25(OH)D、ビ
タミン E、Alb の上昇を認め、栄養障害と ADL の改善を得、自宅への退院が可能となった。慢
性膵炎の高齢者では、栄養障害と骨粗鬆症の発症を念頭に置く必要がある。
18.原因不明の消化管出血の一例
東京都健康長寿医療センター消化器内科 1),東京都健康長寿医療センター内視鏡科 2)
○平井 葉子 1),潮 靖子 1),神林 玄隆 1),中嶋研一朗 1),佐々木美奈 1),上垣佐登子 1),
西村 誠 2)
【症例】85 歳女性【主訴】鮮血の下血【既往歴】胃潰瘍・胃部分切除術(47 歳)
、胆石・胆嚢
摘出術後(60 歳)、心臓弁膜症(83 歳)
、高血圧、高脂血症、高尿酸血症【現病歴】201X 年 8
月末に著明な貧血で近医に入院。上部・下部消化管内視鏡検査で異常なく、アスピリン腸溶剤
休薬と輸血のみで経過観察。以後月 1 回の下血が持続、翌年 5 月に週 3 回の下血あり。当院受
診時、Hb6.7g/dl と貧血を認め、緊急入院。
【経過】入院後輸血で Hb10.1g/dl まで改善。出血源
精査のため上部・下部消化管内視鏡検査を施行したが明らかな出血源認めず。反復する鮮血の
下血で、小腸の出血性病変の疑いあり、経肛門的小腸内視鏡検査(ダブルバルーン型)を施行。
回腸末端から 50cm の所に Angiodysplasia(血管異型)を認め、アルゴンプラズマ凝固法で焼
灼処置を行った。その後、食事開始後下血なく退院。
【まとめ】血管異型は小腸出血の原因で最
も頻度が高く、観察と治療処置を同時に行える小腸内視鏡検査が適しており、本症例のように
超高齢者にも有用である。当院で施行した超高齢者の小腸内視鏡検査施行症例をまとめ、若干
の考察を加え報告する。
─ 23 ─
一般演題抄録
19.91 歳女性の左冠動脈主幹部完全閉塞急性心筋梗塞、心原性ショックに対し冠動脈形成術を
行い自宅退院した 1 例
日本赤十字社大森赤十字病院循環器内科
○辻川 雄,神原かおり,福岡 雅浩,降旗 修太,河南 智子,峯岸慎太郎,
持田 泰行
症例は 91 歳女性。2014 年 5 月下旬、持続する胸痛および繰り返す嘔吐を主訴として、発症
約 5 時間後に当院に救急搬送された。心電図で aVR・V1-3 の ST 上昇、その他広範な誘導での
ST 低下を認め、左冠動脈主幹部病変を疑い緊急心臓カテーテル検査を施行。左冠動脈主幹部は
完全閉塞であり、急性前側壁心筋梗塞と診断。心原性ショックを合併していたため、カテコラ
ミン投与下で冠動脈形成術を行った。当院到着後 50 分(発症後 6 時間)で冠動脈再疎通を達成
し、薬剤溶出性ステントを左冠動脈前下行枝に向けて留置。血行動態安定化のため術後大動脈
内バルーンポンピングを挿入したが、数時間後には離脱できた。右冠動脈に有意狭窄は認めず、
左冠動脈への側副血行の存在が示唆された。その後心不全増悪や NSVT を認めながらも、第 1
病日より心臓リハビリテーションを開始し、第 34 病日に自力歩行で退院した。最終的に心臓超
音波検査では広範な前壁領域の壁運動の軽度低下が残存したが、本例のように超高齢者の左冠
動脈主幹部完全閉塞急性心筋梗塞でカテーテル治療が奏功し、入院前と同程度の ADL レベルで
退院した例は非常に稀少であると考え報告した。
20.恒久的ペースメーカー留置 6 日後にたこつぼ型心筋症を発症した高齢患者の一例
東京都健康長寿医療センター循環器内科
○高附 里江,小松 俊介,原田 和昌,武田 和大,藤本 肇,坪光 雄介,石山 泰三,
田中 旬,杉江 正光,十菱 千尋
症例は 83 歳女性。労作時呼吸困難を主訴に当院を受診。心電図上、ST 変化ないも、完全房
室ブロック並びに急性左心不全を認め、緊急入院。同日一時的ペースメーカー挿入し、集中治
療室へ収容。心不全軽快するも、完全房室ブロックが続いたため、第 5 病日に DDD ペースメー
カー植え込み術施行。術後 6 日目に突然の呼吸苦が出現し、再度急性心不全を発症。12 誘導心
電図ではペーシング調律に加えて V2-5 の陰性 T 波、
心臓超音波で心尖部の壁運動低下を認めた。
緊急心臓カテーテル検査を施行したところ、冠動脈に有意狭窄はなく、左室造影で基部の過収
縮と心尖部に冠動脈の走行に一致しない収縮低下を認め、たこつぼ型心筋症と診断した。ヘパ
リン投与、非侵襲的陽圧換気、利尿剤投与により心不全は軽快し、独歩で退院となった。たこ
つぼ型心筋症は高齢者に多く、時に心不全を合併し重篤化する疾患であるが、ペースメーカー
植え込み術によって惹起されたという報告はほとんどない。本症例においてもペースメーカー
植え込みとたこつぼ型心筋症との因果関係は定かではないが、高齢者に対するペースメーカー
植え込み術後の管理において注意を喚起する症例として報告する。
─ 24 ─
一般演題抄録
21.めまいを契機に診断が得られた高齢者の硬膜動静脈瘻の一例
東京医科大学高齢診療科 1),東京医科大学脳神経外科 2)
○波岡那由太 1),清水聰一郎 1),高田 祐輔 1),羽生 春夫 1),橋本 孝朗 2),渡辺 大介 2),
岡田 博史 2)
症例は 90 歳男性。高血圧症と前立腺肥大症で近医通院中。2014 年 1 月 3 日午後 2 時頃、立
位で家事の最中に突然脱力感とめまいを自覚。その後シャーシャーという雑音が頭の中で 15 分
程度聴取。心配になり近医を受診し、頭部 CT 検査施行したが明らかな異常所見を認めず、1
月 6 日当院耳鼻咽喉科紹介受診。脳血管障害を否定する為、頭部 MRI 検査を施行。拡散強調画
像で左側後頭葉皮質に高信号域を認めた為、当科コンサルト。同日精査加療目的で当科緊急入
院。右耳介後部に血管雑音を聴取し、MRA で右 S 状静脈洞~横静脈洞の描出を認めた為、硬
膜動静脈瘻を疑い、頭部 3DCT 検査を追加で施行。右後頭動脈が拡張・蛇行し、右後頭蓋窩の
dural AVF と診断。当院脳神経外科で脳カテーテル検査が施行され、PS 良好で手術適応と判断。
脳外科再入院し、2 月 24 日シャント塞栓術施行。今回、めまいを契機に診断が得られた高齢者
の硬膜動静脈瘻の一例を経験したので、文献的考察を加えて報告する。
─ 25 ─
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