Comments
Description
Transcript
連 載 オシロスコープに文字を描く回路
連 載 〈第 15 回〉 (最終回) オシロスコープに文字を描く回路 柴田 肇 Hajime Shibata 前回(第 14 回,2004 年 12 月号)は,三角波を入力す ると,なめらかに変化する出力が得られる差動ペアを て動作させてみます. 写真 15 − 1 に示すのは,試作回路(写真 15 − 2)を動 利用した回路をいくつか紹介しました.差動ペアを上 作させて,オシロスコープに文字を描かせたようすで 手に使いこなすことで,山状や正弦波状の出力信号が 得られたり,山の高さを調整できたりすることがわか す.回路は 2,3 時間ででき上がる簡単なものなので, 手作りに挑戦してみてはいかがでしょうか. りました. 今回は,これらのテクニックを利用して,三角波を 入力するとオシロスコープに“Q”の文字を描くこと ができる信号を生成する回路を設計し,実際に試作し “Q”字生成回路を作る ■ 差動ペアを上手に組み合わせて “Q”字変換回路を作る 作りたいのは,三角波を入力すると“Q”の文字を 描く信号(図 14 − 6)を生成する非線形変換回路です. 前回紹介した図 14 − 6 と図 14 − 20 の波形を見比べて ください.差動ペアをうまく組み合わせていけば,目 的の非線形変換が実現できそうです.図 15 − 1 に示す ように,波形が tanh っぽく曲がっている箇所に,tanh 特性をスケーリングしながら当てはめていけばよいの です.具体的には,図 14 − 6 の波形に対して,グラフ 処理ソフトウェア(GNUPLOT)を使って,目測で適当 に tanh 関数を当てはめていきます. X 軸と Y 軸に入力する信号は,次に示す関数でそれ 写真 15 − 1 オシロスコープに表示された Q の文字 なりに近似できそうです.X 軸用の駆動信号 VX(t)は 次式で表されます. Y X ( 軸) Y 目標の 軸 用信号 目標の信号波形に近 いtanh関数を割り当 てていく 0 写真 15 − 2 トランジスタを使って試作した Q 字回路基板 222 X 図 15 − 1 Q 字回路の出力信号波形は tanh 特性を合成すること で再現できる 2005 年 1 月号 VX(t)= 50 − 35 tanh + 38 tanh + 60 tanh + 38 tanh t α するのはとても簡単です. tanh 関数を差動ペアに置き換え,係数に比例した t−7 t − 14 − 50 tanh α α t −17 t − 19 − 35 tanh α α t − 22 ……………… (15 − 1) α Y 軸用の駆動信号 VY(t)は次式で表されます. t − 3.9 VY(t)= 10 + 45 tanh α t −10.5 t −16.5 − 50 tanh + 60 tanh α α t −19 t −22 − 90 tanh + 50 tanh α α テール電流,tanh 関数のシフト量に比例した電圧シ フトを与えるだけです.ただし,シフト量はスケーリ ングを考えないといけません. ● シフト電圧のスケーリング 式から回路に変換する際,シフト電圧をスケーリン グする必要があります.なぜなら,tanh 関数で 1 シ フトすることと,差動ペアを 1 V シフトすることは, 1 : 1 対応しないからです.そこで,スケーリング係 数を簡単な計算で求めてみます. ……………………………………………… (15 − 2) ここで, α は横方向のスケーリング係数で, α = 2.5 としています. 図 15 − 2 に示すのは,式(15 − 1)が表す波形と目標 の X 軸用の入力信号波形を比較した結果です.完全 には一致していませんが,今回の用途では十分な精度 まず,差動ペアの入出力特性を示す式(14 − 3)を関 数の形で書き直して, VX diff(VX,IT)= ITtanh …………… (15 − 3) 2 VT とします.近似関数は, t − t0 tanh ……………………………(15 − 4) α といった形で与えられているので,式(15 − 3)を式 (15 − 4)に合う形に変えます. (t)について変形すると, 式(15 − 3)を tanh 1 diff (2 VTt,IT)……………(15 − 5) tanh(t)= IT でしょう. このような差動ペアを使った回路をマルチ tanh 回 (2) . 路と呼びます(1) この回路技術は,今回のように“Q”の文字をオシ ロスコープに描くだけでなく,OP アンプのスルー・ となります.さらに式(15 − 4)に合うように変形する と, レート改善や三角関数発生回路,gm − C フィルタ,フ tanh ォールディング型の A − D コンバータの入力回路など に幅広く利用されています(3). = 1 IT diff 2V T α t− 2VT α t0 ……………………………………………… (15 − 6) となります.つまり,t0 = 1 シフトするには,入力電 圧を 2 VT/α= 20. 8mV シフトさせる必要があります. ■ tanh 関数を回路に置き換える マルチ tanh 回路を利用すれば,式から回路に変換 実際のシフト電圧は,図 14 − 9 に示したように片側 40 80 70 式(15-1)が 表す関数 30 目標の Y 軸用 入力信号 60 目標の X 軸用 入力信号 50 出力信号 20 出力信号 t − t0 α 10 0 40 30 式(15-2)が 表す関数 20 10 −10 0 −20 −10 −30 −20 0 5 10 15 入力信号 t 20 (a)X 軸(ch-1)用の信号 25 0 5 10 15 入力信号 t 20 25 (b)Y 軸(ch-2)用の信号 図 15 − 2 Q 字回路の入力信号を tanh 関数で近似した結果 2005 年 1 月号 223