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ヨーロッパ株式会社 - Doors

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ヨーロッパ株式会社 - Doors
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ヨーロッパ株式会社
ヨーロッパ株式会社
― その構造と法政策的展開の状況 ―
ジェラルド・スピンドラー
(ゲッチンゲン大学教授)
早 川 勝 訳
目次
Ⅰ.はじめに
Ⅱ . SE の構造と規制技術
A .一般的ガイドライン
1.加盟国法への関連づけ
2.多重国家性
3.共同決定
4.加盟国が選択できる規制
B .個別規制
C SE 規則の下における国の株式法の解釈
Ⅲ . SE の選択と慎重な選択の法事実上の理由
Ⅳ . ヨーロッパ会社法への方向
はじめに
ヨーロッパ株式会社(Socuetas Europaea、以下SEという)は、2004年
以来ヨーロッパにおいて現実のものとなった。EUは、30年以上の年月を費
やした後にようやくヨーロッパ規模で妥当する会社形式を定める初めての規
則を採択した。それは、清算することなく、EUの他の加盟国においていつ
でも開業することができる。ドイツ法から多くの着想をえたSEの最初の草
案に対して、SEの法衣は、大きく形を変えて、今日では実際には、なおそ
の時その時の加盟国の法律によって充足しなければならない枠組みとなって
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同志社法学 61巻 7 号
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おり、多くの法律問題を惹き起こす。
以下では、まず、SEの構造と規制技術について簡潔に説明し、引き続い
てSEの意義を述べ、企業がドイツとオーストリアにおいてSEを選択する理
由について説明したい。
Ⅱ . SE の構造と規制技術
SEは、まず、加盟国の法律と直接には関係しない法形式である。SEは、
真の超国家的な法形式であって、その法的基礎は、直接に、ヨーロッパ共同
体設立条約(EVG)249条 2 項に基づく法の形成におけるヨーロッパ法に基
づいている。
A.一般的ガイドライン
1 .加盟国法への関連づけ
それにもかかわらず、たとえば、ドイツの株式会社はただ一つの形式であ
ることができるにすぎないのと同じように、SEにはただ一つの形式という
ものは存在しない。なぜなら、法政策をめぐる議論のプロセスにおいて当初
計画されたような完全に規制されたSEではなく、SEは設立されたその時そ
の時の加盟国の法律によって充足しなければならない枠組み法(RumpfStatut)にすぎないからである。他の法律と比べると設立と住所の移転に関
する個々の留保について詳細に定めている。SEは、以前の提案のように、
「一
般的法原則」を定めるのではなく、その設立国のその時々の法律に関連づけ
られている。それに応じて、国と国とで異なったSEが存在し、極端な場合
には27の異なるSEが存在することになる。もちろん、新しい流れは、共通
のヨーロッパの法思考を考慮することによって、ヨーロッパの超国家的な特
徴を確保しようとする。
以上のことに加えて、さらに、SE規則をその時々の国に国内法化する場
合に、同時にその時々の株式法を包括的に指示参照することが加わる。した
がって、法を適用する者は、一方でSE規則、定款、当該加盟国の株式法と
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その施行法を考慮しなければならない。そのことは、全体としては複雑なも
のにする。国の施行法もその構成と規制システムはかなりの程度相違してい
る。たとえば、ドイツSE規則は、ドイツ株式会社の構成に従うのに対して、
イギリス施行法は規制の選択、規制の委任および一般的転換規定に応じて異
なって規制している。
もちろん、企業は、国際契約法上、規制を受けるSE法を自由に選択する
ことができない。なぜなら、SE規則によれば、当該SEが定款上の住所を有
する加盟国の株式法を守らなければならないからである。この住所は、強行
的に、SEの中央管理部が存在する国に設置しなければならない(SE規則 7
条)。したがって、ドイツを所在地にしている企業は、たとえばイギリスを
選択することができない。しかし、それがヨーロッパ共同体設立条約と合致
するかどうか疑問がある。
2 .多重国家性
さらに、ヨーロッパの立法者の観念によれば、SEは、典型的に多重国家
的で、したがって国境を越える。SE規則 2 条によれば、国境を越える合併
であれ、共通の持株会社または子会社SEの設立であれ、SEへの組織変更で
あれ、異なる国籍の株式会社が参加するかあるいは設立された外国の子会社
が存在する場合に設立することができる。可能な五つの設立形式は、その表
われである。もちろん、ここでは多重国家性を茶番にさせてしまう迂回路も
作られている。
それにもかかわらずSEの設立における多重国家性に関するかかる規定は
法政策的に批判される。なぜなら、SEは国の法形式と際限のない競争をす
べきでないし(補完性の原則)、国の共同決定法から逃避することを防止す
べきであるというかつての動機はもはや維持できないからである。とくに重
要な自由、加盟国における外国の法形式の承認というヨーロッパ規模で行わ
れる後述の展開がそのことを支持する。さらに、多重国家性の要件は、株式
会社が「最低 2 年間他の加盟国の法律に服する子会社を有する」場合(SE
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規則 2 条 4 項)にだけSEに組織変更できることによって、実際に容易に回
避することができる。同一の結果は、 2 年の期間をまたずに、施行法 2 条 1
項によって直ちに株式会社と合併することを唯一の目的とする外国の子会社
を設立することによって達成することができる。
3 .共同決定
SEは、個々の加盟国の共同決定法を指示参照する法律の方を選択できる
という処理を定めることによって、初めて政治的に可能になった。まったく
共同決定を定めたくなかったイギリスと監査役会において共同決定を維持し
ているドイツとの溝が克服されている。まず最初、複雑な交渉手続きが特徴
的である。両方の側、一方でSEならびに取締役会、他方で労働者代表が、
SEについて、とくに管理機関を一層制にするか二層制にするかを選択して、
その選択に合わせて構成するように交渉することができる。
4 .加盟国が選択できる規制
加盟国の法律への関連づけは、SE規則は多数の規定において、しかし会
社自体にも、たとえば一元的な「取締役会」制度および取締役と監査役会と
いう「二元的な」制度のうちのどちらかを加盟国に選択する裁量を認めるこ
とによって補足的に強化される。しかしながら、多数の加盟国は、たとえば、
SEの管理機関構成員、取締役または監査役会構成員の最高限と最低限の員
数については、選択権の行使の際にその時々の株式法上の伝統に従って一人
ないし三人になる。同じことは、少数株主権の行使に関する要件(たとえば
議題の補充)について当てはまる。一方で少数株主権ないし訴権の行使に関
して(ドイツ、オーストリア)、他方で住所移転または合併に対する当局の
異議権についても利用されている。
とくに興味深いのは、取締役会制度(一層制システム)と取締役―監査役
会社制度(二層制システム)との間の強行的に定められた選択の実行である。
フランス、オランダ、フィンランドのような若干の加盟国は、すでに事前に
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制度間の選択権を有しており、多数の会社は一元的制度を決定した。しかし、
事前に制度の一方しか有していない国では、そのシステムが守られている。
イギリスは、イギリス会社法においてかなりの程度まで支配している私的自
治を盾に基準としないことによって、実際にはドイツの二元制度に接近する
ことをやめた。しかし、ドイツも、理事会(Verwaltungsrat)の下で業務
執行する取締役を設置することによって(SE規則施行法40条)、取締役会の
一元的制度を事実上取締役―監査役会という二元的な構成に近づけた。その
業務執行取締役の地位は、ドイツの取締役の地位に似ている。その過半数が
業務執行取締役から構成されてはならない理事会は、その側ではドイツの監
査役会に合わせて形成される。いずれにしても、平等共同決定を業務執行の
問題に拡大しないという努力がドイツの規制の背後にある。なぜなら、企業
指揮者・会社と労働者代表が合意することができない場合には、平等共同決
定が受け皿として決定的に介入するからである。たとえ個々の規制が平等共
同決定よりも決定的でないとしても、もちろん一元的解決は、ドイツにはも
はや取締役会に相応する「伝統的な」構造ではないので、結局それはドイツ
においてはかなり魅力を失う。ドイツのSE法は、理事会における労働者取
締役に対してなんら強制的な地位を定めておらず、また監査役会において労
働者によって強制的に任命されるべき代表議長も規定していない。
B.個別規制
SEの多数の規定は、資本会社法の一般的規制の一部であり、その限りに
おいてたとえば株主の責任制限(SE規則 1 条 2 項)または「SE」としての
商号(同法11条 1 項)に関してあまり驚きを与えない。同じことは、業務執
行と持分所有者総会との分離(同法38条)、招集、決議のような総会の手続
きなど(同法54条以下)について妥当する。もちろん、法人も機関構成員と
して認めているSE規則47条 1 項は型破りであって、多くの加盟国の伝統に
反している。
資本に関する基準(SE規則 5 条)または年度決算書(同法 6 条)のよう
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にその側で指令に由来している若干の加盟国の規定も間接的にヨーロッパ化
されている。株主指令による株主の情報権および議決権に関する若干の規定
が近い将来にそれに加わる。もちろん、これらの指令は、最低水準をあらか
じめ決めるにすぎないことがしばしばであって完全な調整ではない。その結
果、加盟国は広範な要件を設けることができる。
しかしながら、ヨーロッパの立法者は、多数の法律と異なり、定款の厳格
性というドイツの原則について決定した。換言すれば、定款は、SE規則が
それを明確に認める場合にだけ任意に定めることが許される。その結果、
SE施行法のすべての他の規定が強行的になる。結局、複雑な像が各国の法
律に応じて現れる。つまり、それは、最初の段階ではSE規則の強行的規制
と関連して、加盟国の法律の第二段階では、SE規則における規制に関連づ
けず、事情によっては、定款自由が再度考慮される。
C.SE規則の下における加盟国の株式法の解釈
SE規則の不備を埋め合わせるためにSE規則 9 条 1 項cに基づいて考慮さ
れる加盟国の株式法の解釈は、魅力にあふれた方法論的問題に関連する。そ
れでは、加盟国の株式法は、いまや独立してヨーロッパ法上、いわばSE規
則に照らして解釈できるのであろうか? SE規則については、これを独立し
て解釈することができ、欧州裁判所が最終的に決定することは全く異論がな
いのに対して、加盟国の法律についてはこれが妥当しない。なぜなら、ヨー
ロッパの立法者は、加盟国の法律の指示参照によってかかる国の規定を共同
体法の本体に統合したがらないしまたすることもできず、共同体のレベルで
正当化できる譲歩を引き出せないという不備を埋め合わせするために、それ
自体を引き合いに出すことができるにすぎないからである。そのことによっ
て、国の法律は、今後欧州裁判所からも免れることになる。―しかし、不備
を埋める株式会社がヨーロッパ法に友好的でなく、その結果、SE特有に解
釈しなければならないことはない。したがって、加盟国の株式法の、しかし
またその時々の国内法化法のSE特有の解釈が必要となりうる。そのことは、
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もちろん事情によっては、国の株式法と不備を埋める株式法との間に別々の
基準を設けることを許す。
会社法上の指令の共同体法(ius communitate)または加盟国の会社法に
共通の原則(ius commune)に関連づけることは、結局、SEの沿革史に基
づけば問題にならない。なぜならば、相応する指示参照は1970年と1975年の
SE規則の最初の草案においては規定されていたけれども、再度削除されて
しまったからである。さらに、ヨーロッパの会社法の共同体法への指示参照
を明確に規定する当時のヨーロッパ私会社規則草案(EPG)は、SEに適用
することができないものと考えられる。
法政策的には、SE規則の以前の草案が定めていたように、不備の充足を
もともとヨーロッパ法から導き出される「共同体法」が引き受けるべきかど
うかという問題は未解決のままになっている。ヨーロッパの会社法がつぎは
ぎされた絨毯のままに置かれて、判例法の諸国の裁判所に比較できる裁判制
度を有していない限りにおいて、もちろん法的安定性が損なわれる。さらに、
個々の類推は、SE規則が含む規制分野では許されているが、それは規則制
定者の明確な意思に正反対に逆らうことになるので、規則からえられた原則
に基づく全体の類推は認められない。
Ⅲ . SE の選択と選択に慎重な法事実上の理由
SEの選択は当初慎重であったが、この間に新法形式に好感が持たれ始め
た。アリアンツやポルシェ持株会社、オーストリアではシュトラバーグ
(Strabag)(道路建設コンツェルン)のように、企業は、SEを法形式として
選択した。しかしSEはヨーロッパ中で妨害されることのない凱旋行進を始
めたのではない。そのことは、一般に、ヨーロッパにおいて会社形式の流動
性に関してつぎのようなパラレルな法の展開においてみられる。
1 欧州裁判所は、インスパイアー判決(Inspire)とーその逆の徴候を
示すカルテージオ判決(Cartesio)において、法人は一つの加盟国において
設立されることができ、ヨーロッパの国境を越えて自由に移動できるよう配
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慮した。加盟国は、欧州裁判所が明確にしたように、当該会社の管理の所在
地がもはや設立地の加盟国に存在しなくても、ある加盟国は他の加盟国の法
形式を承認しなければならない。受け入れ国は、他の法形式の支店を阻み国
内の法形式と異なる扱いをする障害を設けることが許されない。
欧州裁判所は、逆に、カルテシオ事件において、設立国は、会社が設立国
から離れる場合には、設立された法形式がその法規定に従って再度清算され
なければならないか、もしそうであればいかなる条件によってかということ
について自由に決定できることを確認した。なぜなら、設立国の法は、いわ
ば成立に関する法であって、その結果、それはそこで設立された法人の存立
に関しても決定をするからである。
しかし、会社について広範な移住の自由がそこから導き出され、その結果、
ヨーロッパにおけるある種の法律競争が始まった。さらに、ヨーロッパ市民
は、資本会社を設立することを望む加盟国を自由に選択できる。このことは、
その側では資本の流通の自由を保障し、その結果、ドイツもイギリスにおい
てイギリス人が参加していない責任制限会社を設立することができる。その
場合、当該会社はその住所をドイツに移転することができ、ドイツ法はこの
会社に対して規制することができない。
2 ヨーロッパレベルにおける第二の展開は、比較可能なインパルスを考慮
する。それは、前述した住所移転指令の制定である。そのことによって、ド
イツの共同決定にもかかわらず、ドイツの企業はドイツから外国に自己の住
所を以前よりも実質的に簡単に移転することができる。企業はまだ制限され
た範囲でのみ課税のためにそれを妨げられる。この新しい住所移転指令の結
果、ドイツの企業が共同決定制度にもかかわらず、以前よりも簡単に住所を
ドイツから外国に移転させることができる。
3 .最後に、欧州裁判所は、セービック判決(Sevic)において、国境を越
える合併が共同体法上も支店開設の自由の表現として承認されるものと考え
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た。なるほど、カルテージオ判決によれば、国境を越える合併もそのことを
考慮しているのかどうか明確ではないが、国境内に入ってくる合併は少なく
とも捕捉する。しかし、後者は、国境を越える新合併指令によって補填され
る。その結果、イタリアのRAS保険会社との合併によって完全に統合する
ためにSEに転換したアリアンツ株式会社の理由も薄弱になる。さもないと
ヨーロッパの合併に関する法的基礎があまりにも不確実であったので、アリ
アンツは、当時はっきりとSEを選択した。
これらの手段をもって、すでに、とくにドイツの企業には嫌な共同決定か
ら解放されることが可能である。しかし、この論拠は、相応する共同決定を
有していないので、他の加盟国の法には最初からあてはまらない。
さらに、自由になる法形式以外にも、非集中的企業組織(とくに責任の縮
減)については経営学上の理由がある。なぜなら、国の法的な枠組み条件は、
まず税法または競争法のように、その他の点においては適用されるからであ
る。
その結果、SEの主たる選択の理由がむしろ心理的なものであると評価さ
れることによって、一部の文献においては、冷静な結論が引き出される。国
境を越える合併の場合における国民感情が関連づけられる。SEという商号
によって同時に「ヨーロッパブランド」が作られる。法的な利点よりも企業
の国際的設立に顔を向ける努力が前面に出る場合には、SEを望む企業のプ
レス・リリースは同じ方向を示している。
Ⅳ . ヨーロッパ会社法への方向
現在、ヨーロッパ私法の統一において二つの学派が相互に競い合ってい
る。つまり、(必ずしも最小ではない)共通の原則(ius commune)を求め
る試みと整序された共同体法(ius communitate)について既存の共同体法
の全体(aquis communautaire)を求める試みである。ヨーロッパ委員会は、
「ヨーロッパ私法の共通のネットワーク」による調整を図ることを試みる。
「ヨーロッパ・コーポレート・ガバナンス・フォーラム」とヨーロッパ専門
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家委員会も、この組織における基本的な構成要素である。
「評価する」法比較の形式において「最善の解決」を見出す可能性が事実
上存在するのかどうかは確かではない。それは、専門家のネットワークによ
ってすべての会社法の「最善」の会社法を創設する期待を相対化する。かつ
ての共通の原則(ius commune)は、周知のように、「すばらしい創意」に
よって机上の空論を作り出すのではなく判例法から成り立つ。加えて、共通
の原則は抽象的であることができ、具体的な法律問題の解決には役立たなく
なる。
(訳者注)本稿は、同志社大学EU研究センターが2009年10月28日に主催した法科大学院の特
別講演会の報告原稿である。
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