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2008年度 内藤記念科学振興財団贈呈式

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2008年度 内藤記念科学振興財団贈呈式
2008 年度 内藤記念科学振興財団贈呈式
日 時 2009年3月17日(火)15:30開式
場 所 東京都千代田区丸の内1−4−6
日本工業倶楽部会館 大会堂(2階)
式次第(敬称略)
開式
理事長挨拶 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
選考経過報告 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥東北大学大学院医学系研究科 教授
贈呈書授与
第 40 回内藤記念科学振興賞
受賞者 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥慶應義塾大学理工学部 教授
受賞者 ‥‥ 理化学研究所脳科学総合センター グループディレクター
授与者 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥理事長
第 40 回内藤記念科学奨励金
受領者代表 ‥‥‥‥‥‥名古屋大学大学院生命農学研究科 教授
授与者 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥理事
第 3 回内藤記念女性研究者研究助成金
受領者代表 ‥‥‥‥東京大学大学院新領域創成科学研究科 助教
授与者 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥評議員
第 25 回内藤記念海外研究留学助成金
受領者代表 ‥‥‥大阪大学免疫学フロンティア研究センター 特任助教
授与者 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥理事
第 3 回フェローシップ
受領者代表 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥九州大学大学院医学研究院 助教
授与者 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥理事
第 37 回内藤記念特定研究助成金
① 受領者代表 ‥‥‥‥‥‥‥理化学研究所筑波研究所 主任研究員
授与者 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥評議員
② 受領者代表 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥慶應義塾大学医学部 助教
授与者 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥評議員
祝辞
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥文部科学大臣
科学振興賞受賞者記念講演 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥慶應義塾大学理工学部 教授
理化学研究所脳科学総合センター グループディレクター
閉式
記念祝賀パーティ 大ホール(3階)
6
内 藤 晴 夫
菅 村 和 夫
上 村 大 輔
御子柴 克 彦
内 藤 晴 夫
西 川 俊 夫
永 井 克 孝
富田(竹内)野乃
金 澤 一 郎
小 野 昌 弘
高 橋 信 孝
前 川 敏 彦
野 本 亀久雄
石 井
佐 藤
芝 田
藤 井
塩 谷
上 村
御子柴
俊
公
晋
義
輔
道
介
明
立
大 輔
克 彦
*第40回内藤記念科学振興賞受賞研究*
テーマ
生物現象に着目した生物活性天然物の探索研究
Exploratory Research on Bioactive Natural Products
with Focus on Biological Phenomenon
研究者
慶應義塾大学理工学部 教授
名古屋大学 名誉教授 理学博士
うえ むら だい すけ
上 村 大 輔
Daisuke Uemura, Ph.D., Professor
Department of Biosciences and Informatics, Keio University
Professor Emeritus, Nagoya University
推薦者
内藤記念科学振興財団 理事
大阪大学 名誉教授
きた がわ いさお
北 川 勲
栄えある内藤記念科学振興賞の受賞に際し、
川敏英博士)およびノーベル化学賞(下村脩博
内藤記念振興財団は勿論のこと、関係者各位に
士)の出た研究室である。昭和 42 年に学部4
心からの謝辞を申し上げたい。第 40 回という歴
年生として平田研究室に入ることが出来、研究
史の重さもさることながら、過去の受賞者の方々
者としての基本を学んだ。昭和 43 年2月には
の御偉業に心底から敬意を表するものである。
化学教室に野依良治助教授(2001 年ノーベル
さて、私の故郷は山深い岐阜県郡上市白鳥町
化学賞)が京都大学から赴任、有機化学分野と
石徹白と言い、名峰白山の南麓に位置する。村
して平田先生の天然物有機化学に反応有機化学
から白山へは2日程の道のりがあり、昔から初
が加わることとなった。当時の野依先生の強い
夏になると登山道の草刈りがなされ登山者のた
個性は私たちに快い新しい化学の息吹を感じさ
めに世話をすることが村の役目であった。小学
せるもので、教員も含めて一段と活性化された
校3年生まで、ここで勉強したが、故郷から学
と思う。その後、平田先生のもとで、「もう君
んだことが二つある。一つは、小学校の先生か
らの一歩前に出なさいという教育であり、今一
つは一心不乱に遊んだ中で、岩魚釣りには誰も
竿を出したことのない淵を狙えということで
あった。このことを懐に入れて、名古屋に出て
来たわけであるが、幸いなことに立派な先生方
に会うことが出来、名古屋大学に入学すること
となった。昭和 39 年、この頃、名古屋大学の
理学部では物理学の坂田昌一、化学の平田義正
両先生方が活躍されていた時代で、それぞれ、
2008 年のノーベル物理学賞(小林誠博士、益
7
イワスナギンチャク( Palythoa tuberculosa )
にはこれと言った良いテーマはないので自分で
探しなさい」と言われ、博士論文「トウダイグ
(図1)がつまっており、これが原因であろう
サ科植物の有毒成分」で学位を取得することと
と抽出しやはり繰り返し構造のない、分子量の
なった。すぐに助手として採用され、幸いにも
大きな毒にたどり着いた。この毒の構造を是非、
昭和 52 年には日本化学会進歩賞を頂くことに
決めるようにとの話し合いがまとまり 1974 年
なったが、比較的若い時期であり強く印象に
に研究を開始した。最初は沖縄本島で採集を開
残っている。さてここで、海を知らずに育った
始したが、うまく試料が得られず、翌年から石
私には何としても海洋天然物に関与したいとの
垣島で採集することになった。毎年、500 ∼
胸の内を平田先生に話した所、ちょうど良い
600 キログラムのイワスナギンチャクを採集、
テーマがあるので、考えるようにと指示を受け
冷凍して、空輸にて名古屋へ移送した。苦労し
た。それが切っ掛けで、楽しく海洋天然物化学
て得たイワスナギンチャクを抽出して効率よく
を展開することになった。
パリトキシンを得ることに成功した。この物質
は両親媒性で、水溶性であるとともに疎水的で
1.猛毒パリトキシン
もある。そのために水溶液のままで、ポリスチ
海洋生物の三大毒物は、フグ毒テトロドトキ
レン系樹脂に吸着させ、エタノールの濃度だけ
シン、麻痺生貝毒サキシトキシン、シガテラ毒
で脱着させる方法が良い結果を与えた。精製し
シガトキシンである。テトロドトキシンおよび
たパリトキシンはなんとフグ毒の 50 倍もの強
サキシトキシンについては構造研究が達成され
さを示し、不揮発性で、分子量が約 3,000 と多
ていたが、サンゴ礁海域で不規則に発生する死
糖やタンパク質とは異質の物質で、構造決定は
亡率の低いシガテラ中毒の解明は大きな、社会
困難を極めた。1978 年に 252Cf −プラズマ脱着
的な問題として残されていた。そのため、世界
法で、分子量は 2,681 と判明、8個の二重結合
中の研究者が目の色を変えて挑戦していたわけ
があることも明確となった 1)。C129H223N3054 の分
であるが、ハワイではハワイ大学を中心に生物
子式は驚異的なもので、一つの構造で書き表せ
学者も加わって大規模な研究体制が敷かれてい
る最も大きな天然分子として注目された。パリ
た。1971 年に彼らは A.H. Banner に案内されて、
トキシンの炭素鎖が従来になく長く、ヒドロキ
伝説に出てくる「Limu-make-o-Hana(ハナの
シ基も多かったので、構造決定のためにはポリ
有毒な海藻)」という語句の意味から、ある特
スチレン系樹脂カラム内での制限的過ヨウ素酸
定の場所を見つけ出し、ついに伝説に出てくる
酸化と部分的なオゾン酸化による酸化分解を試
生物にお目にかかることとなる。その場所は矢
毒として使用する原住民の首長のみが知る場所
で、そこへ足を踏み込むと災いが降り掛かると
の言い伝えがあったと聞く。ところが、その生
物は海藻ではなくて腔腸動物であると判明し
た。化学的な研究を初めて展開した P.J.
Scheuer と R.E. Moore は繰り返し構造のない、
3,300 の分子量を持つ猛毒パリトキシンが存在
することを報告した。一方、日本ではやはりシ
ガテラ研究を進めていた東京大学農学部橋本芳
郎教授が、石垣島の言い伝えにソウシハギの内
臓を豚に与えないようにとの話をたよりにソウ
図1
シハギの内臓を調べた結果、そこには腔腸動物
8
イワスナギンチャクのコロニー
パリトキシン
みた。結晶化したものは X 線結晶構造解析を、
ウムチャネルの存在を示唆することとなった 4)。
また他は NMR 解析を駆使して、1981 年には平
その後、パリトキシンの電気生理学実験は標的
2)
3)
面構造 を、1982 年には立体構造 を明らかと
分子が Na +, K +-ATPase であり、このイオンポ
し、構造が決定された。平面構造の決定には当
ンプ内にチャネル構造があることを提唱するこ
時国内には数少なかった高磁場フーリエ変換核
ととなった。そのおかげで、一般的に ATPase
磁気共鳴装置を駆使して、構造解析を進めた。
にはチャネル構造があるということが定着する
各分解物から全体の構造を決めるために、当時
こととなった。2003年には、D.C. Gadsbyによっ
市販されていなかった 600MHz の装置を求め
てNa +, K +-ATPase 内のチャネル構造について
て、アメリカのカーネギー・メロン大学を訪れ
詳細な報告が出るに至ったが、同年に伊藤勝昭
た。立体構造の決定には分解物の詳細な NMR
教授とともに同様の結論に到達している 5)。い
スペクトルの解析に加えて、ハーバード大学岸
ずれにしても近年、多くの研究者が参入してパ
義人教授の有機合成化学手段との組み合わせで
リトキシンの生化学用試薬としての需用が大い
解明に成功した。パリトキシンのような長い炭
に高まっている。一方、パリトキシンの真の形
素鎖からなる海洋生物独特の代謝産物を「巨大
に対する興味は新たな挑戦を余儀なくされた。
炭素鎖有機化合物(Super-Carbon-Chain
すなわち、長い炭素鎖と多くのヒドロキシ基を
Compounds)」と名づけ、その後の新たな研究
含む物質に固有の形が存在するのかという点で
展開の先駆けとなった。その後の多くの化合物
ある。問題は、水溶液中のタンパク質のような
はいわば同工異曲と見えてしまうのは研究者と
固有の形に対する手法が適用可能であるかどう
しての性かもしれない。1984 年、村松郁延博
かである。結晶性であれば問題ないが、とても
士らとともに、パリトキシンが神経細胞内にナ
結晶にはなり得ないのであって、そこで放射光
トリウムイオンを流入させることにより、強力
X線小角散乱法を適応することとなった。
な冠動脈収縮や末梢血管収縮が起き、ナトリウ
SPring-8 の放射光装置を使うことによって目的
ムチャネルの阻害物質テトロドトキシンとは拮
を達成した 6)。すなわち、水溶液中でパリトキ
抗しないことを見いだし、新しいタイプのナトリ
シンは固有の形をとり、二量体として存在する
9
パリトキシン二量体(猛毒)
図3 クロイソカイメン
ルスからファインケミカルスへと指向が移り出
す切っ掛けとなったのである。そのような状況
の中、当然のように海洋生物、特に海綿動物に
N-アセチルパリトキシン(単量体、低毒性)
図2
注目が集まり、クロイソカイメンの抗腫瘍物質
の研究が始まった。 in vivo での B-16 メラノー
水溶液中におけるパリトキシンの形状
マに対する腫瘍細胞増殖阻害を指標に精査した
が、興味深いことに、分子の端に存在するアミ
結果、8個の同族体からなるハリコンドリン類
ノ基をアセチル化した N -アセチルパリトキシ
を見いだすに至った 8)。クロイソカイメンはそ
ンは単量体として存在し、強力な毒性も 1/100
の学名が東京大学油壺にある臨海実験所の岡田
以下に低下してしまう(図2)。さらなる研究
博士によって命名され、日本にとって由緒ある
を必要とするであろうが、こう言った巨大炭
海綿動物である。この学名に因んで、ハリコン
素鎖分子にも固有の形状があり、この結果は
ドリンと名づけたが、600 キログラムから多い
NMR スペクトルの詳細な解析からも示唆さ
もので 40 ミリグラム、少ないものは数ミリグ
れる 7)。
ラムが得られるだけで、通常の例えば 100MHz
の核磁気共鳴装置では決して構造決定が出来る
2.抗腫瘍物質ハリコンドリン
とは思えなかった。幸いなことに、パリトキシ
房総半島以南の太平洋の潮間帯でごく普通に
ンの構造決定で培った力を発揮でき、詳細な
見られる海綿に優れもの、クロイソカイメン
NMR 情報の解析だけではとても構造決定は無
(Halichondria okadai Kadota)(図3)がある。
理と結論した。特に活性の最も強いハリコンド
海綿動物は海水を体内へ取り込み、濾過して食
リンBに至っては壊れ易く、量も少なく、とて
物を得るほか、体内に自分の細胞よりも多い約
も困難な課題となった。そこで、量的に多いノ
60 %もの共生微生物を働かせて生活している。
ルハリコンドリンAを p-ブロモフェナシルエス
そのため、海綿動物は海洋における微生物の濃
テル化し、精製した所、幸いに良質の結晶を得
縮体と言える。また、約5億年余り前から生息
ることが出来た。X線結晶構造解析を進めた所、
し、移動することなく個としての存在を保って
極めて複雑で特異な構造に到達した 9)。分子内
来たことはそこに隠された持続力があるに違い
にあるボール状になった部分が極めつけで、寝
ないと誰しも思う所である。1970 年代のオイ
食を忘れて進めた結果であり将に寂滅為楽の心
ルクライシス以降、ヤギの仲間にプロスタグラ
境であった。分子の両端に多様性があり、一方
ンジンが大量に含まれることが発表され、海洋
は炭素鎖の数、伸長に変化が、もう一方ではヒ
の天然資源に注目が集まった。将にマスケミカ
ドロキシル基の数、酸化状態に変化がある。合
10
ノルハリコンドリンA: R 1 =R 2 =OH, R 3 =H
ノルハリコンドリンB: R 1 =R 2 =R 3 =H
ノルハリコンドリンC: R 1 =R 3 =H, R 2 =OH
ブロモ誘導体: R 1 =R 2 =OH, R 3 =CH2COC6H4Br
ハリコンドリンB: R=H
ハリコンドリンC: R=OH
ホモハリコンドリンA: R 1 =R 2 =OH
ホモハリコンドリンB: R 1 =R 2 =H
ホモハリコンドリンC: R 1 =H, R 2 =OH
エリブリン
計9種の変化が期待されるが、ハリコンドリン
教授によって 1992 年に合成された。この成果
Aだけは量的に少ないせいか見つかっていな
を基に、エーザイ株式会社のボストン研究所で
い。ハリコンドリンBの抗腫瘍活性は特に in
中間体の抗腫瘍活性が試験され、分子の右半分
vivo 実験で顕著であり、将来に向けて期待がか
に活性があると判明した。この結果は予想され
かった。ところが、少なからず毒性が付随し、
ていたとはいえ、私たちには大いに元気の出る
この点が問題視されたことも事実であった。
結果として捉えることが出来た。なぜならば、
1987 年、ハワイで開かれたがん研究に関する
全合成研究でしか物質供給は達成できないと認
日米科学セミナーでは NCI の B.A. Chabner や
識できるからである。その後、多くの研究者が
アリゾナ州立大学の G.R. Pettit から賞賛され
参加して、さらに構造をチューニングし磨き上
た。実はアメリカの Pettit、ニュージーランド
げ、エリブリンとして誕生させた。さらに現代
のカンタベリー大学 M. Munro もおのおの独立
有機合成化学の華となっているプロセス化学の
に異なったカイメンからハリコンドリンBを得
力を注入し大量合成にも成功、乳がん治療薬の
ていたのである。しかし、構造決定には至って
新しいブロックバスターとして世界から期待さ
いなかった。天然物の構造決定において、最初
れている。
に母核構造が決定されていれば、後は相当複雑
ここで生物からのハリコンドリンBの供給を
でも機器分析で構造を決めることが出来る。そ
考えてみたい。Munro のグループはカイメン
れ故、最初に骨格を出すことが極めて大切で、
の養殖を企画、実施し、研究を重ねているが、
この喜びを実感できるのは研究者としての特権
困難であることは言わずもがなである。しかし、
であろう。その後、ハリコンドリンBは複雑系
冒頭での議論のように海綿動物は多くの微生物
天然物の全合成の第一人者で、既にパリトキシ
を共生させ、また外部から食物として濾過濃縮
ンカルボン酸の合成にも成功していた、岸義人
している。ハリコンドリンの生産者が何である
11
かは大きな問題として捉えられ、内部に生息す
一見するとカーボサイクルのように見えるが、
る微生物が多くの研究機関で単離培養された。
実はシクロヘキセン生成に Diels-Alder 反応を
しかしながら、培養できる微生物はわずか1%
考えると、Diels-Alder 反応と Schiff 塩基の形成
以下であり、生息するにも関わらず培養できな
による6,7のスピロ環形成という生合成仮説
いものが大部分であると言われている。そこで、
(図4)が成立する。この生合成に基づいて岸
メタゲノムの手法を導入して遺伝子群を化合物
義人教授はピンナトキシンのエナンチオマーを
ソースと捉え、とりあえずフォスミドライブラ
最初に合成し、引き続き活性のある真のピンナ
リーを構築した。幸いにも 15 万のライブラ
トキシンも合成した。この特異な Diels-Alder
リーを取得し、物質生産、ゲノム情報取得に研
反応はマススペクトルの分裂様式において、
究を収束させつつある。今少しで、新しい生合
Charge-Remote Fragmentation の中でレトロ
成系の解明につなげられると考えている。いず
Diels-Alder 反応として観察できる。ピンナトキ
れにしても、エリブリンの上市が待たれる昨今
シン類は強い毒性を有し、フグ毒の約 1/8 の活
である。
性を示した。
この研究で、少量で構造決定が出来る方法論
3.食中毒の原因貝毒ピンナトキシン
が確立でき、その手法を巧く利用して、さらに
タイラギ(タイラガイ)について有明海の沿
中毒物質を解明することとなった。次に注目し
岸で中毒が起こるとの報告が有り、また中国で
たのは沖縄のマベ貝で、この貝は立派な貝柱を
はハボウキガイの中腸腺を食べないようにと指
持つにもかかわらず、沖縄ではこれを食べるこ
導している。どちらも立派な貝柱があり、日本
とはない。例えばウツボにこの外套膜を与える
では良い寿司ネタになっている。タイラギの持
と、獰猛なウツボが横を向くという程強い毒を
つ Ca 2 +チャネル活性化物質として私たちが単
持つと言われる。毒の本体は何であろうかと研
離構造決定した、タイラギ毒ピンナトキシンに
究してみたところ、プテリアトキシンAとB、
ついて解説する。高級食材のタイラギを大量に
Cであることが明らかになった 11)。プテリアト
入手するのは困難だったので、私たちは沖縄で
キシンB、Cでは 8 μ g というナノモルオー
は「毒があるから絶対に食べない」といわれて
ダーの構造決定を達成したことになる。この化
いる、タイラギの仲間イワカワハゴロモガイか
合物は丁度、前駆体のエポキサイドに対してシ
らその毒物を得ることにした。このイワカワハ
ステインが付加反応を起こしてエポキシドが開
ゴロモガイは海藻の間の砂地に埋まって生活し
いた形である。
ている。ピンナトキシンは水溶性で、分子内に
4.生態系ダイナミズムに着目した物質探索
イミニウムとカルボキシラートを持つ両性イオ
10)
ン物質であることが判明した 。その構造は、
生態系に真摯に学んだ物質探索により、関連
ピンナトキシンA
図4 ピンナトキシンAの生合成仮説
12
プテリアトキシンB: 34R isomer
プテリアトキシンC: 34S isomer
プテリアトキシンA
生命科学分野にインパクトを与える斬新な化合
大島のスナギンチャクからノルゾアンタミンを骨
物の発見を目指し、特に海洋での共生・寄生現
粗鬆症治療薬の可能性のある物質として発見し
象を中心とした生態、陸上動物の麻痺性神経毒
た 17)。この塩酸塩は閉経モデルマウスの骨形成
に注目して挑戦的課題を設定した。
を促進し、骨量および骨強度を回復させた 18)。
共生現象、寄生現象に関与する物質:沖縄県
食物連鎖ダイナミズムに着目した物質探索と
沿岸の海域でサンゴに被覆する黒色海綿 Terpios
機能:異なった海洋生物から同じ骨格の物質を
hoshinota から、サンゴの細胞を死滅させる物質
見いだすことがある。例えば、VCAM-1 合成阻
ナキテルピオシンを単離した 12)。当初提案した
害剤ハリクロリンと cPLA2 阻害剤ピンナ酸が例
構造は他の研究者によって合成化学的に訂正さ
示される 19)。これには共通する生産者が存在す
れた。またサンゴを食害するオニヒトデの誘因
ると推定され、食物連鎖で濃縮されたり、共生
物質としてアラキドン酸およびα-リノレン酸が
する種々の渦鞭毛藻が疑われる。そこで、無脊
有効であることを示し、捕獲実験を海洋で実施
椎海洋生物に共生する渦鞭毛藻に着目して、こ
13)
した 。比較的小さな巻貝レイシガイダマシも
れを単離培養し有用物質を探索することとし
サンゴの食害生物で、その捕獲には大変な労力
た。沖縄県で採取したヒラムシの共生藻より、
がいる。トラップやモニタリングの必要性が求
分子量 2,859 のポリオールマクロリド、シンビ
められていたこともあり、誘引物質モンチポリ
オジノライドを単離した 20)。シンビオジノライ
14)
酸類を発見し野外実験にも成功した 。これら
ドは宿主動物ヒラムシから体内の共生藻を排出
の物質はサンゴなど海洋生物と、被覆生物や捕
させるという興味深い作用を示した。また、新
食者の生存のための情報伝達物質としての機能
規三環性イミニウム化合物シンビオイミン類 21)
を持っている。一方、サンゴ幼生の着底・変態
や2つの特異な[4.4]−スピロアセタール環を
誘引物質の解明研究では、無節サンゴモ由来の
有するシンビオスピロール類 22) を発見した。
タヤマヤスリサンゴ幼生の変態誘引物質 11-デオ
シンビオイミンは破骨細胞の分化抑制活性を示
キシフィツラリン-3を単離した 15)。また、本化
したことから抗骨粗鬆症薬のリード化合物とし
合物の変態誘引活性は、同じくサンゴモに含ま
て、シンビオスピロールAはホスファチジルセ
れるカロテノイドの添加で増強されるという興
リンが誘導する PKC の活性化を阻害したこと
味深い知見を得た。さらにグアム大学との共同
から抗炎症物質としての展開が期待される。
研究により、造礁サンゴ幼生に対して着底・変
陸上動物由来の麻痺性分子と機能解明:トガ
態誘引作用を示す特異な構造のルミナオライド
リネズミの唾液麻酔物質に関する研究では、北
を単離した 16)。サンゴ礁の環境保全に直結する、
米に棲息するブラリナトガリネズミ(図5)の
極めて重要な成果と位置づけられる。また、奄美
顎下腺より分子量 35kDa の致死性タンパク毒ブ
13
ルミナオライド
ハリクロリン
ピンナ酸
ラリナトキシン
(BLTX)
を単離し、アミノ酸一
次配列を決定した 23)。この毒は組織性カリクレ
インと高い相同性を有し、血圧降下作用を示す
シンビオジノライド
が、マウスに対して後脚の麻痺、呼吸困難、致
死前の激しい痙攣といった、従来のカリクレイ
ンにはない特徴的な神経毒症状を示した。カモ
ノハシ
(図6)の毒については、豪州ニューサウ
スウェールズ大学とタロンガ動物園の協力によ
り、新鮮な毒液を採取して、この毒がヒト神経
芽細胞に対する Ca 2 + 流入作用や、カリクレイ
シンビオイミン
ン様プロテアーゼ活性があることを初めて見出
した。さらに毒液成分の精製と MS/MS 解析に
より、C型ナトリウム利尿ペプチド
(CNP)の
HeLa 腫瘍細胞に対する細胞毒性を示すことを見
N末端部分、およびプレ配列に対応する6種の
出した。哺乳類由来の Ca2 + チャネル作動薬はこ
新規ペプチドを発見し、立体配置を決定した 16)。
れまで例はなく、従来にない神経毒作用や、画
CNP は血管拡張作用や利尿作用を示すペプチ
期的な新規麻酔剤や鎮痛剤の開発への展開が期
ドホルモンであるが、N末端側の断片ペプチド
待される。
およびプレ配列に相当するものは、今回初めて
狩りバチ由来の麻痺性分子に関する研究で
発見できた。またヘプタペプチド(HDHPNPR)
は、アシダカグモを特異的に獲物にして産卵行
が、ヒト神経芽細胞に対する Ca 2 + 流入作用、
動するベッコウバチ(図7)を採集しクモ麻痺
マウス皮下投与における炎症惹起作用、および
活性を指標に毒液成分の分離を行った。限外ろ
14
図7 ベッコウバチ
ニンキナーゼに似たタンパク質が麻痺活性を示
図5 ブラリナトガリネズミ
すことを明らかにした 24)。
以上述べて来たように、基本的新物質の発見
はあらゆる物質科学発展の鍵を握る。一方で、
昨今の網羅的な物質探索研究手法では得難い
「意外性」の重要性が見直されて来た。天然由
来化合物の構造や機能には、時として想像をは
るかに超える斬新さがあるので、私たちはこれ
までの経験と実績を活かし、フィールドにおけ
るダイナミックな生物現象に直接学ぶ過程で
「化合物探索」に新機軸を打ち出そうとして研
図6 カモノハシ
究を展開し、生物分子科学に新しい研究領域を
過、イオン交換など種々の条件で分離し、二次
創成することに成功した。終わりにあたり、恩
元電気泳動による分離、酵素消化、LC-MS 解
師の平田義正先生、岸義人先生に深謝するとと
析、およびリコンビナント実験により、アルギ
もに、共同研究者各位に感謝する。
−−−−−上村 大輔 理学博士の略歴−−−−−
昭和 43 年 3 月
昭和 48 年 4 月
昭和 48 年 4 月
昭和 50 年 5 月
昭和 54 年 3 月
昭和 57 年 6 月∼ 9 月
平成 3 年 4 月
平成 7 年 10 月
平成 9 年 10 月
平成 17 年 4 月
平成 20 年 4 月
平成 20 年 4 月
名古屋大学理学部化学科卒業
名古屋大学大学院理学研究科博士課程単位取得満期退学
名古屋大学理学部助手
名古屋大学 理学博士の学位取得
静岡大学教養部助教授
ハーバード大学客員研究員
静岡大学教養部教授
静岡大学理学部教授
名古屋大学大学院理学研究科物質理学専攻教授
名古屋大学高等研究院流動教員(併任)
慶應義塾大学理工学部生命情報学科教授 現在に至る
名古屋大学名誉教授 現在に至る
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−−−−−主要研究発表論文−−−−−
1) Macfarlane, R. D.; Uemura, D.; Ueda, K.; Hirata, Y. J. Am. Chem. Soc. 1980, 102, 875.
2) Uemura, D.; Ueda, K.; Hirata, Y.; Naoki, H.; Iwashita, T. Tetrahedron Lett. 1981, 21, 1909;
Uemura, D.; Ueda, K.; Hirata, Y.; Naoki, H.; Iwashita, T. Tetrahedron Lett. 1981, 21, 2781.
3) Klein, L. L.; McWhorter, Jr., W. W.; Ko, S. S.; Pfaff, K.-P.; Kishi, Y.; Uemura, D.; Hirata,
Y. J. Am. Chem. Soc. 1982, 104, 7362; Ko, S. S.; Finan, J. M.; Yonaga, M.; Kishi, Y.; Uemura,
D.; Hirata, Y. J. Am. Chem. Soc. 1982, 104, 7364; Fujioka, H.; Christ, W. J.; Cha, J. K.; Leder,
J.; Kishi, Y.; Uemura, D.; Hirata, Y. J. Am. Chem. Soc. 1982, 104, 7367; Cha, J. K., Christ,
W. J.; Finan, J. M.; Fujioka, H.; Kishi, Y.; Klein, L. L.; Ko, S. S.; Leder, J.; McWhorter, Jr.,
W. W.; Pfaff, K.-P.; Yonaga, M.; Uemura, D.; Hirata, Y. J. Am. Chem. Soc. 1982, 104, 7369.
4) Muramatsu, I.; Uemura, D.; Fujiwara, M.; Narahashi, T. J. Pharmacol. Exp. Ther. 1984, 231,
488; Muramatsu, I.; Nishio, M.; Kigoshi, S.; Uemura, D. Br. J. Pharmacol. 1988, 93, 811.
5) Ito, K.; Toyoda, I.; Higashiyama, M.; Uemura, D.; Sato, M. H.; Yoshimura, S. H.; Ishii,
T.; Takeyasu, K. FEBS Lett. 2003, 543, 108.
6) Inuzuka, T.; Fujisawa, T.; Arimoto, H.; Uemura, D. Org. Biomol. Chem. 2007, 897.
7) Inuzuka, T.; Uemura, D.; Arimoto, H. Tetrahedron 2008, 64, 7718.
8) Hirata, Y. Uemura, D. Pure Appl. Chem. 1986, 58, 701.
9) Uemura, D.; Takahashi, K.; Yamamoto, T.; Okumura, Y.; Katayama, C.; Tanaka, J.; Hirata, Y.
J. Am. Chem. Soc. 1985, 107, 4796.
10) Uemura, D.; Chou, T.; Haino, T.; Nagatsu, A.; Fukuzawa, S.; Zheng, S. Z.; Chen, H. J. Am.
Chem. Soc. 1995, 117, 1155; Chou, T.; Kamo, O.; Uemura, D. Tetrahedron Lett. 1996, 37,
4023; Chou, T.; Haino, T.; Kuramoto, M.; Uemura, D. Tetrahedron Lett. 1996, 37, 4027.,
Takada, N.; Umemura, N.; Suenaga, K.; Chou, T.; Nagatsu, A.; Haino, T.; Yamada,
K.; Uemura, D. Tetrahedron Lett. 2001, 42, 3491.
11) Takada, N.; Umemura, N.; Suenaga, K.; Uemura, D. Tetrahedron Lett. 2001, 42,
3495; Hao, J.; Matsuura, F.; Kishi, Y.; Kita, M.; Uemura, D.; Asai, N.; Iwashita, T.
J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 7742.
12) Teruya, T.; Nakagawa, S.; Koyama, T.; Suenaga, K.; Kita, M.; Uemura, D. Tetrahedron Lett.
2003, 44, 5171; Teruya, T.; Nakagawa, S.; Koyama, T.; Arimoto, H.; Kita, M.; Uemura, D.
Tetrahedron 2004, 60, 6989.
13) Teruya, T.; Suenaga, K.; Koyama, T.; Nakano, Y.; Uemura, D. J. Exp. Mar. Biol. Ecol. 2001,
266, 123.
14) Kita, M.; Kitamura, M.; Koyama, T.; Teruya, T.; Matsumoto, H.; Nakano, Y.; Uemura, D.
Tetrahedron Lett. 2005, 46, 8583.
15) Kitamura, M.; Koyama, T.; Nakano, Y.; Uemura, D. J. Exp. Mar. Biol. Ecol. 2007, 340, 96.
16
16) Uemura, D.; Kita, M.; Arimoto, H.; Kitamura, M. Pure Appl. Chem. 2009, 81, 1093.
17) Fukuzawa, S.; Hayashi, Y.; Uemura, D.; Nagatsu, A.; Yamada, K.; Ijuin, Y. Heterocycl.
Commun. 1995, 1, 207; Kuramoto, M.; Hayashi, K.; Fujitani, Y.; Yamaguchi, K.; Tsuji, T.;
Yamada, K.; Ijyuin, Y.; Uemura, D. Tetrahedron Lett. 1997, 38, 5683.
18) Kuramoto, M.; Hayashi, H.; Yamaguchi, K.; Yada, M.; Tsuji, T.; Uemura, D.
Bull. Chem. Soc. Jpn. 1998, 71, 771.
19) Uemura, D.; Chem. Rec. 2006, 6, 235.
20) Kita, M.; Ohishi, N.; Konishi, K.; Kondo, M.; Koyama, T.; Kitamura, M.; Yamada, K.;
Uemura, D. Tetrahedron 2007, 63, 6241.
21) Kita, M.; Kondo, M.; Koyama, T.; Yamada, K.; Matsumoto, T.; Lee, K. H.; Woo, J. T.; Uemura
D. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 4794.; Kita, M.; Oishi, N.; Washida, K.; Kondo, M.; Yamada,
K.; Koyama, T.; Uemura, D. Bioorg. Med. Chem. 2005, 13, 5253.
22) Tsunematsu, Y.; Ohno, O.; Konishi, K.; Yamada, K.; Suganuma, M.; Uemura, D. Org. Lett.
2009, 11, 2153.
23) Kita, M.; Nakamura, Y.; Okumura, Y.; Ohdachi, S. D.; Oba, Y.; Yoshikuni, M.; Kido, H.;
Uemura. D. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 2004, 101, 7542; Kita, M.; Okumura, Y.; Ohdachi,
S. D.; Oba, Y.; Yoshikuni, M.; Nakamura, Y.; Kido, H.; Uemura, D. Biol. Chem. 2005, 386,
177.
24) Yamamoto, T.; Arimoto, H.; Kinumi, T.; Oba, Y.; Uemura D. Insect Biochem. Mol. Biol. 2007,
37, 278.x
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*第40回内藤記念科学振興賞受賞研究*
テーマ
中枢神経系の発生と分化―IP3 受容体の発見とその機能の解明
Studies on the development and differentiation of the central nervous
system - discovery of IP3 receptor and analysis of its function
研究者
独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター
神経発達障害研究グループ グループディレクター
東京大学 名誉教授 医学博士
み こ しば
かつ
ひこ
御子柴 克 彦
Katsuhiko Mikoshiba, M.D., Ph.D., Group Director
Neuro-Developmental Disorder Research Group
RIKEN Brain Science Institute
Professor Emeritus, Tokyo University
推薦者
内藤記念科学振興財団 理事
理化学研究所基幹研究所 研究顧問
東京大学 名誉教授
なが い よし
たか
永 井 克 孝
1.はじめに
正常と異常との比較
中枢神経系の複雑性
正常な働きを有する脳を見ていても、
その働きを
中枢神経系は、神経細胞とグリア細胞の二種類
詳細に理解することは出来ない。異常すなわち病気
に大別される細胞から構成される。神経細胞は形や
の脳を正常と比較することにより、何が不足している
神経伝達物質の種類により多くのタイプに分類され、
為に、
この様な病気になるかがわかってくる。
もし、
こ
グリア細胞もオリゴデンドロサイ
ト、
アストロサイ
トやミクロ
こに行動異常をおこす動物がいたとする。この動物
グリアに大別される。
これらの細胞が混在しながらも
の脳を調べて、
もし形の異常があるとするならば、行
調和のとれた細胞社会を営むことによりはじめて高
動異常と形の異常とが関連づけられるであろう。更
度な高次機能が発現する。
に、分子レベルでの解析をした結果、
ある特定のタン
発生学的な立場からの見方
パク質が欠落していることが分かれば、欠落している
このような複雑な高次機能を有する脳を解析す
タンパク質が形態異常と行動異常の原因になって
るにはどうしたら良いであろうか。
まず、大切なことは、
複雑な脳がどのようにして出来上がるかを理解しな
ければならない。いかに複雑な脳といえども精子と
卵子の合体に基づく授精現象からはじまる。細胞分
裂を繰り返しながら、外胚葉がつくりあげられ、
その
外胚葉の一部から神経管がつくられる。
この神経管
は、一層の細胞から成るが、
ここでも細胞分裂が繰り
返されて、複雑な脳が出来上がってくる。脳の各部
位がどの様にしてつくられるかの形態学的変化を見
ることにより、多くの情報が得られる。
18
いる可能性が高い。この様な正常と異常の比較解
解析されていることがわかった。P400 の解析より遅
析を通じて、正常の解析だけでは明らかにし得ない
れて1983 年になってBerridgeらによりIP3 がセカンド
脳の発生・分化の分子機構解析が可能となる。
メッセンジャーであることが報告された
(Nature 306,
67-69, 1983)。
2.IP3 レセプターの発見の経緯 ∼発達依存的なリン
1976 年にこの P400タンパク質の研究に着手して
酸化糖タンパク質(P400)としての IP3レセプター∼
以来、ニューロンの突起伸展、
シナプスの形成に重
私は、小脳失調ミュータントマウスであるプルキンエ
要なタンパク質に違いないと考え、約十数年にわた
(Purkinje cell degeneration)
、
細胞変性マウス
(pcd
る研究の結果、P400が IP3レセプターそのものである
nervous、Lurcher)やプルキンエ細胞というニューロ
ことを1989 年に発見した
( Nature 1989 )。発見の
ンの樹状突起形成不全があり、
シナプスを形成すべ
きっかけが発生・分化過程で変化するタンパク質で
き棘突起の欠損した staggerer マウスでは著明な減
あり、発生・分化研究に基礎をおいた研究であった
少を示すタンパク質(P400)の解析を1976 年にすす
ことから、
「情報伝達の研究者」には思いもつかない
めていた。
このP400タンパク質はリン酸化タンパク質
ようなユニークな発想によりその後の研究がすすめ
で あ っ た( Develop. Neurosci 2, 254-275,
られて、受精、細胞分裂、受精後 4 細胞期における
1979,Develop. Neurosci. 7, 179-187, 1985)。P400
背腹軸決定、ニューロンの突起伸展など
( Science
は後に他 のグループによってもリン酸 化タンパク
、
まさ
1992、Cell 1993、Science 1997、Nature 2002)
(PCPP-260, GreengandらJ. Neurosci. 6, 954-961,
に多様な発生・分化に深くかかわる分子であること
1986 )、
シナプスに特異的な糖タンパク質( GP-A,
を発見した。更に、構造 機能相関の解析、生理機
としても
KellyらJ. Neurochem. 42, 534-546, 1984)
能の解析、構造生物学的解析を進めた。
遺伝性小脳変性マウス
小脳の神経回路網に障害があるために小脳失調
症を示す。
高分子膜タンパク質(P400)が欠落
pf :平行線維
cf :登上線維
mf :苔状線維
P :プルキンエ細胞
G :顆粒細胞
小脳の神経回路網の模式図とプルキンエ細胞に変異を起こす
プルキンエ細胞欠損マウスとスタゲラーマウスの回路網
(スタゲラーの小脳のプルキンエ細胞はCrepel により 1984 年にカルシウムスパイクがないことが報告された)
19
P400 と IP3 受容体は同一分子
プルキンエ
細胞欠損
正常
正常
シナプス
欠損
=
P400
IP3R
P400タンパク質がIP3 受容体であることを発見
遺伝性小脳変性症ミュータントマウスの小脳タンパク質の解析により P400 タンパク質が欠損しているこ
とが発見された。
1)モノクローナル抗体による発現ベクター系を
ベクター系(λgt11)
を用いてcDNAをスクリーニング
用いたIP3 レセプターの cDNAクローニング
して、IP 3 レセプターをコードする約10k base pair
P400タンパク質の精製過程で単一バンドにまでな
cDNA 全長をクローニングすることに成功した。これ
かなか進まなかった。そこで、IP3 レセプターの構造の
は、古市貞一博士(当時、岡崎基礎生物学研究所
決定のために大変ユニークな手法を用いた。ほぼ
講師)の力により、
その後の IP 3 レセプター研究に大
精製した標品を用いて免疫したハイブリドーマのスク
きく貢献した。分子量は 313,000 ダルトンという巨大
リーニングをウェスターンブロット法で行った。これは
な膜タンパク質で、
この cDNA の長さは当時世界で
私の最初の大学院生であった前田信明君の力によ
2番目に大きなものであった
(当時一番大きな分子
る。P400 のモノクローナル抗体の作製に約2年半も
は故沼正作教授のグループがクローニングしたリアノ
の年月をかけ、特異的な抗体を3種類とることに成功
ジンレセプターであった)。P400タンパク質の完全精
した。通常はポリクローナル抗体をとって研究をすす
製に成功した1988 年には、前述の発現ベクター系を
める研究者が大部分であったが、
特異性に執着して、
用いたモノクローナル抗体によるスクリーニングで既
モノクローナル抗体の作製をすすめたのである。
この
に、IP3レセプターのcDNA 全長を得ていた。
モノクローナル抗体を用いて、cDNAライブラリーを作
モノクローナル抗体を採取することに同意して力を
り
(非常に長い cDNAを含むライブラリー作りが一つ
注いだのは、前田信明という優秀な大学院生がい
のポイントであった)モノクローナル抗体を用いて発現
たことに加えて、私が細胞生物学が好きで、特異的
20
IP3 レセプターはCa2+ チャネルであることの発見
受精後のゆっくりした Ca2+ 振動
(2-3 分に1回位)
機能阻害抗体を加えると停止する
IP3 レセプターが Ca2+ オッシレーター(発振装置)であることの証明
な抗体を用いて様々な形態学的解析ができると考
チャネルでないと考えられていた。
しかし、精製した
えたからである。事実、
この様に苦労して得たモノク
IP 3 レセプターを組成の明らかな人工脂質二重膜へ
ローナル抗体は機能阻害の働きや、免疫沈降能
組み込ませるとそれのみでIP3 依存的なCa2+ 放出活
性がみられた
(J. Biol. Chem.1991)。
を持つなど生化学的
(IP3 結合活性をも沈降させた)
従来、IP3 レセプターは IP3 結合タンパク質であり、
解析にすぐれた性質を有していた。
2)IP 3 レセプターはカルシウムチャネルであり
Ca2+ チャネルは別の分子であると考えられていたが、
Ca2+ の波や振動を引き起こすことの証明
IP3 結合タンパク質を人工脂質二重膜へ組み込ませ
るとIP3 により開くCa2+ チャネルであることを明らかに
そ
当時は IP 3 が未知の IP 3 レセプターに結合して、
2+
2+
した
(J.Biol.Chem.1991)。Nature 342, 32-38, 1989
が放出されるだろうと考えていた。従って当時の教科
にクローニングしたIP3 レセプターの cDNAを細胞に
2+
発現させるとIP 3 結合能とCa 2 チャネル活性が増加
の情報が近くにあるCa チャネルに伝えられて Ca
書は IP 3 結合タンパク質が IP 3 レセプターであり、Ca
21
した
(Neuron 1990)。以上の結果により、IP3 レセプ
プターはCa2+ 振動発振装置であることを証明したこと
ターは IP 3 結合タンパク質とCa 2+ チャネルの両方の
になる(Science 1992)。
性質を合わせて持つことを証明した。この構造・機
3.IP3 レセプターの発生・分化及び高次機能に必須
能相関の解析は宮脇敦史博士(当時大学院生)の
力により、
その後のCa2+ 研究に大きく貢献した。
であることの証明
1)受精現象におけるIP3レセプターの役割の解明
更に全長のcDNAを細胞に発現させるとIP3 結合
2+
生命の根源的な現象である受精の際にCa2+ 波が
( Neuron
活性とCa 放出活性がともに上昇する
2+
ことから、IP3 レセプターは Ca チャネルである
1990)
おきることは知られているが、何がこの波を引き起こす
ことが示された。それ 自身が四量体構造として
かは不明であった。ヘパリンをはじめとして、
いくつか
C a 2 + チャネルを 形 成 することを 明らか にした
の薬剤を用いて、IP3レセプターが Ca2+ 振動に関わっ
(J.Biol.Chem. 1991、PNAS 1991a)。そのCa2+ チャ
ているらしいことは予想されていたが、
これら薬剤が
ネルは滑面小胞体にあり、従来の細胞膜にあるCa2+
様々な阻害機能をもつことから決定的なことは不明
チャネルとは構造の異なる新しいタイプのものであっ
であった。
この Ca2+ 波は IP3レセプターの特異的な機
た
(Nature 1991, Nature 1989)。
能阻害抗体で見事に消失し、且つ受精現象も停止
我々の体を構成する細胞は、全て外界からの刺
することを発見した
(Science 1992)。卵は興味深い
激に対応して、細胞内でCa2+ の応答を引き起こすこ
ことに小脳プルキンエ細胞等のニューロンに多いタイ
2+
2+
2+
がほとんどで
(発生後期に2 型、3 型
プI 型(IP3 R1)
wave)
として伝播する。
この波は大変ゆっくりと10 分
が発現する)
、受精に伴うCa2+ 波がIP3 R1 特異抗体
間に数回という頻度の振動として引き起こされる。
こ
で阻害されたことが最初の証明となった。
とが知られていた。この Ca 応答は Ca 波(Ca
後にホヤの卵の Ca 2+ 振動は IP 3 R1 の阻害抗体
れまではこの様なものは振動とは考えられていな
2+
により、
ヒトデでは“IP 3 スポンジ”
(天然の IP 3 レセプ
ゆっくりと
かったが、性能の良い Ca 指示薬により、
2+
したこの様な Ca 振動が正確に観察出来るように
ターよりも約 500 倍高い IP3 親和性をもつ配列が IP3
なった。これまで、
この Ca2+ 振動が大切であるらしい
結合部位の配列から開発して、IP3 スポンジと命名し
ことは解っていたが、
その機構が不明であったために
た)
(J. Biol. Chem. 2002)によりIP3 を吸収すること
曖昧にされていた。
ところがIP3レセプターに特異的な
により、
受精現象が停止した
(J. Biol. Chem. 2002)。
機能阻害のモノクローナル抗体を用いることにより、
これらの実験からIP 3 レセプターが Ca 2+ 波や Ca 2+ 振
明解にCa2+ 波を止めることが出来たことからIP3 レセ
動に必須であることが確固たるものとなった。
神経形成と背腹軸形成 背腹軸形成にIP3レセプターが関与する(Science1997)
anti-XIP3R:機能阻害抗体、control :コントロール抗体
22
2)背腹軸決定因子としての IP3 レセプターとその
Inactivation)により、ニューロンの先端の神経成
長円錐での小胞体からの Ca 2+ 放出が突起伸長に
下流因子の解析
必須であることが示された(Science 1998)。
リチウムはイノシトールリン酸代謝系の阻害を引き
次に、遺伝子相同組換え法によりタイプ1型 IP3 レ
起こす。
リチウムをアフリカツメガエル初期胚(中胚葉
誘導のはじまるアフリカツメガエル 32-64 細胞期胚)
セプターを特異的に欠失しているマウスが作製され
へ加えると腹側が背側に変換して二次軸の形成が
た。
このマウスはてんかん発作をおこし、全例 20 日齢
みられることは報告されていた。そこで背腹軸形成
頃死亡する。
ヒトに使用する抗てんかん薬でてんか
において IP3 レセプター/Ca2+ シグナル系が働いてい
ん発作は消失し、運動失調があらわれた( Nature
る可能性を仮定した。
1996)。すなわちIP3 レセプターはてんかんや小脳失
発生時期では背側化と神経化とは同義語として
調をおこさせないようにする大切な分子であることが
使われているように背腹軸の形成は神経系の形成
明らかになった。
に特に重要である。
IP 3 レセプター欠失マウスを用いてシナプス可塑性
マウスの IP3 レセプターの機能阻害抗体はアフリカ
が解析された。小脳では特徴的なシナプス可塑性で
ツメガエルの IP3 レセプターを認識しないためcDNA
ある長期抑圧現象(LTD)
があるが、欠損マウスでは
クローニングを行い全長を得て
(Cell 1993)
、
この配
この 小 脳 の 学 習 機 能 が 抑 えられて おり( J .
列に対する特異的機能阻害抗体を二年かけて作
Neurosci.1998)、海馬では長期増強現象が促進し
製し、受精後 4 細胞期の腹側へ注入したところ、腹
ていた
(Nature 2000, Learning & Memory 2000)。
側を背側に変換できた
(Science 1997)。各種分子
海馬 De-potentiation, LTP suppressionなどの抑制
マーカーの解析を含めて腹側の細胞が背側に運命
機能が抑えられていた。更にIP3レセプターはシナプス
転換したことが明らかとなった。IP3 レセプターが背側
機能の特定化に関わっていることも明らかとなった
軸の決定に関わっていることを示す最初の報告と
これらの結果から、IP3レセプターは
(Nature 2000)。
なった。
シナプス可塑性に関わっていることを示している。
IP3レセプターから放出されたCa2+ の下流の因子を
探したところ免疫系で働くNF-AT(Nuclear factor
4.新しいシグナリング系路の発見
of activated T cell)であることを発見した
(Nature
1)IP3 レセプターから放出されるIP3 の擬似物質
(アービット)の発見
2002)。4 細胞期にドミナントネガティブなNF-ATを注
入することにより二次軸の形成がみられた
(Nature
従来 IP 3 の役割は IP 3 レセプターを介して、Ca 2+ 放
(glycogen synthase kinase
2002)。一方、GSK3β
出のみと考えられていた。
しかしIP3 の役割は Ca2+ 放
3β)
は、最近タウタンパク質のリン酸化を行い、
アルツ
出のみならず、新しい分子の放出をしていることを明
ハイマー病との関わりが示唆されているが、NF-AT の
らかにした。
ドミナントネガティブな作用により引き起こされた二次
IP 3 レセプターの IP 3 結合コアーに結合していて,
軸形成が GSK3βの導入により回復することが明ら
I P 3 により放 出されるタンパク質として発 見して
かとなった。
この様に初期発生に於いても免疫系や
IRBIT(アービット)(IP3 receptor binding protein
老化などで通常利用されている因子が働いているこ
released with inositol 1,4,5-trisphosphate)
と命名
とが明らかとなった。
(Molecular Cell ,2006)。
した(J.Biol.Chem, 2003)
3)ニューロンの突起伸長および高次機能におけ
これまで IP 3 → IP 3 レセプター→ Ca 2+ 放出というス
る役割
キームが知られていたが、
これに加えて IP3 → IP3レ
標的分子に対する特異抗体に、マラカイ
トグリー
セプター→アービットのスキームが付け加わった
ンという色素を結合させレーザー照射してラジカルを
(Science STKE 2006 に1 頁にわたりトッピクとして
紹介された)。
放出させて標的分子を破壊する新しいレーザー分
a)アービット
(IRBIT)の働き
子不活化法(Chromophore-Assisted Laser
23
IP3 レセプターから放出されたIRBIT がNBC1(ナトリウムイオン、重炭酸イオン共輸送タイプ1型)を活
性化する仕組み(Proc. Natl. Acad. Sci., 2006)
アービット
(IRBIT)は、IP 3 レセプターに対して、IP 3
分子であり、
カルシウムシグナルとpH バランスをつな
と同じ場所に結合するため IP 3 と拮抗的に作用す
げる最初の報告となった( Proc.Natl.Acad.Sci.,
る。結合してもIP3 レセプターを活性化はせず IP3 によ
2006
2+
この論文は Science STKE に1頁にわたり
るCa 放出を抑制する。RNAi でIRBIT 量を低下す
トッピクとして紹介された)。更にアービットは小胞体
ると、IP3 誘導 Ca2+ 放出活性が上昇することを明らか
でRNA 合成においてポリアデニレーションに関わる
にした。すなわち、IRBIT は IP3 の擬似体であり、IP3
cleavage and polyadenylation specificity factor
レセプターの機能を調節していた
(Molecular Cell,
や、signal recognition particle 14に働くことを見出
2006)。カルシウム振動に対する効果を総合すると、
した。この事実は、IP3 受容体が RNA 合成やタンパ
IP3 によるカルシウム振動の高さと頻度を調節して細
ク質合成を制御していることになる。以上のことは、
胞の機能の制御をしていた。
これまで小胞体にありながら全く独立と考えられた二
つの現象が IP3 受容体から放出されるアービットがつ
b)アービット
(IRBIT)の三次メッセンジャーとして
なげていたのである。
の働き
2)レドックス制御とIP3 レセプターを介したCa2+ 系
アービット
(IRBIT)の更に新しい働きはその下流
との連携
の分子の探索により、標的分子は膵臓タイプのナトリ
レドックス
(酸化還元)制御とCa2+ 系との直接的な
ウム・重炭酸イオン・共輸送体1
(pancreas type
Na
+
,bicarbonate-
関連がある報告はなかったが、小胞体内のレドックス
cotransporter 1, pNBC1)であっ
た。アービット
(IRBIT)
はpNBC1を活性化した。すな
センサーERp44を発見することにより直接レドックス
わちpNBC1は、膵臓のみでなく、全身に発現する分
変化が IP3 レセプターに働き制御することを発見した
子で、
既にこの変異により、
白内障、
緑内障、
低身長、
( Cell 2005; Cell 誌を始めとして多くの雑誌でレ
知能障害などがおきることが知られている。即ちアー
ビューで紹介された)。
またERp44を細胞内に加える
ビットは酸・塩基平衡とカルシウムを直接リンクさせる
とアポトーシスが阻害された。
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5.IP3 受容体 2 型、3 型欠損による外分泌障害と
6.終りに
ヒトの疾患
IP 3 レセプターの発見から、その構造機能の解析
タイプ2 型、3 型のIP3レセプターのダブル欠損マウス
により、IP3レセプターが Ca2+ チャネルとして、Ca2+ 振
では唾液分泌障害、涙腺分泌障害、膵液分泌障害
動発振装置であること、そしてそのゲーティングの機
これらの事
がおきることを発見した
(Science 2005)。
構もあきらかにしてきた。更にIP3 レセプターは、多く
実はタイプ2型、
3型ダブルノックアウトマウスがシェーグ
の分子と結合する、いわゆる
「スキャフォルドタンパク
レン症候群のモデルとなりうることと考えられる。そこ
質」
としての機能をもつことも明らかにしてきた。
この
で全く同じ症状を呈するシェーグレン症候群の患者
ようにIP 3 レセプターの解析を通して細胞内の Ca 2+
やリューマチの患者を含めた2,000 人ちかくの自己
の制御機構を明らかにして細胞の多様な生理機能
免疫疾患患者を検索したところ、50%以上の確率で
を引き起こすメカニズムを明らかにすることが出来
血 清 中に I P 3 受 容 体 抗 体が検 出された( C l i n .
た。IP3レセプターは多くの神経変性を引き起こす病
Rheumatol. 2007, Modern Rheumatol. 2007)。
気の原因遺伝子と結合することも明らかとなってき
各々の自己免疫疾患のタイプによりIP 3 受容体の
ており、
どのような細胞環境により、正常なIP3レセプ
各々の異なるエピトープの抗体が産生されていた。
ターの機能に障害が起きて、病態像を引き起こすの
自己免疫疾患患者の血清を用いて、診断の可能性
か解明もすすめることにより、小胞体からカルシウム
があることを示している。
を放出するカルシウムチャネルであり、かつ、スキャ
フォールドタンパク質であるIP3レセプターの本質的な
役割を解明することが出来ると考える。
これにより細
胞内のカルシウムイオン制御機構のより深い理解が
可能となると考える。
−−−−−御子柴克彦 医学博士の略歴−−−−−
昭和 44 年 3 月
昭和 48 年 3 月
昭和 48 年 3 月
昭和 49 年 4 月
昭和 51 年 1 月
昭和 57 年 5 月
昭和 60 年 5 月
昭和 61 年 4 月
平成 4 年 4 月
平成 4 年 7 月
平成 12 年 4 月
平成 13 年 1 月
平成 15 年 4 月
平成 16 年 10 月
平成 16 年 4 月
平成 19 年 6 月
慶應義塾大学医学部卒業
慶應義塾大学大学院医学研究科(生理系生理)博士課程修了
慶應義塾大学大学 医学博士の学位取得
慶應義塾大学医学部生理学教室 専任講師
フランス パスツール研究所 研究員
慶應義塾大学医学部生理学教室 助教授
大阪大学蛋白質研究所 教授
岡崎国立共同研究機構 基礎生物学研究所 教授(併任)
東京大学医科学研究所 教授
理化学研究所 主任研究員(併任)
東京大学医科学研究所 基礎医科学大部門
脳神経発生・分化分野 教授
科学技術振興事業団 国際共同研究、SORST
カルシウム振動プロジェクト 代表研究者(併任)
理化学研究所 脳科学総合研究センター
神経発達障害研究グループディレクター(平成 19 年より専任)
スウェーデン・カロリンスカ研究所 客員外国人教授
山形大学客員教授
東京慈恵会医科大学客員教授
東京大学 名誉教授 現在に至る
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