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第 1 章 地方の自由及び責任に関する法律等の経緯 第 1 節 地方分権にか

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第 1 章 地方の自由及び責任に関する法律等の経緯 第 1 節 地方分権にか
第1章
地方の自由及び責任に関する法律等の経緯
第 1 節 地方分権にかかる演説等
ジャック・シラク(Jacques Chirac)大統領は共和国大統領選挙中の 2002 年 4 月 10 日の
ルーアン(Rouen)市での演説において地方分権について述べている。同演説において、シ
ラク大統領は「私は、(地方分権が)私達の民主主義に自発性の風を吹き込み、自由を躍
進させることを望む。また、近接性の考えに則って、再構成された行政が効率的に運営さ
れることを期待する。」、「フランスが偉大な民主主義を標榜し続けることを望むならば、
地方の民主主義の改革を促進し、近接性を重視した共和国を構築しなければならない」と
地方分権に関する強い意欲を表明している。また、同演説において「権限は常に可能な限
り近接性の最も強い段階において行使されなければならない。また、補完性の原則 1 が常
に適用されなければならない」とも述べ、今回の地方分権における根本理念を示している。
また、ジャン=ピエール・ラファラン(Jean-Pierre Raffarin)首相が同年 7 月 3 日の国
会 に お け る 施 政 方 針 演 説 に お い て 、 今 回 の 地 方 分 権 改 革 の 基 本 理 念 と し て 一 体 性 (la
cohérence)と近接性(la proximité)を掲げている。当該演説において示された定義をそのま
ま引用するならば、一体性とは「政府と地方団体から構成される国家全体が調和して機能
し、法の前の平等の保持を保証すること 2」であり、近接性とは「(住民が享受する住民サ
ービスが)県、コミューン及びコミューン間広域行政組織(établissement public de
coopération intercommunale;略称 EPCI)の行政活動の範囲内にあること 3 」を意味す
るとされる。また、同月のレスト・レピュブリカン紙(l'Est Républicain)とのインタビュー
において、今回の地方分権は、一体性の点において州が、近接性の点において県が重要な
役割を担うことを述べている。この一体性と近接性の精神が今回の権限移譲において中心
的役割を果たすものである。
第 2 節 地方の自由大会
こ の ラ フ ァ ラ ン 首 相 の 施 政 方 針 演 説 を 受 け て 、 同 年 9 月 9 日 に ニ コ ラ ・サ ル コジ
(Nicolas Sarkozy)内務大臣及びパトリック・ドゥヴジャン(Patrick Devedian)地方の自由
担当大臣は、州地方長官 4 会議において、今回の地方分権においての基本方針となる一体
1
国と地方の関係において、あらゆる権限について当該権限を最も適切に遂行することができる主体が当該
権限全体を行うという、憲法第 72 条第 2 項に規定される原則のこと。
“La cohérence, c'est s'assurer que l'ensemble national, composé de l'Etat et des collectivités
locales, fonctionne de façon harmonieuse, en préservant l'égalité de tous devant la loi.”脚注3参照。
2
“La proximité, c'est le champ d'action des départements, des communes et de leurs
groupements.” 本文は首相が述べた定義を掲載したが、誤解を恐れずに説明するならば、一体性とは「州
という枠の中で各地方団体が平等に位置づけられ、適切な協力関係により、均衡ある地域整備と国民間の
連帯を確保すること」、近接性とは「権限の性格を勘案した上で可能な限り住民に近いレベルの地方団体で
行政が行われること」という趣旨である。
4 州地方長官は州を、県地方長官は県を管轄する国の代表者である。脚注 29 も参照のこと。
3
-1-
性及び近接性の理念と地方分権における州の重要性を再確認するとともに、地方分権を進
めるにあたり、国と地方との協議の場、とりわけ、地方団体が地方分権に対して何を望ん
でいるかを明らかにする場として、フランス全土 26 州において地方の自由大会(assise
des libertés locales)を開催することを発表した。
地 方 の 自 由 大 会 の 運 営 方 法 等 を 検 討 す る 地 方 の 自 由 大 会 運 営 全 国 委 員 会 (le comité
national de pilotage des assises des libertés locales)には、サルコジ内務大臣及びドゥヴ
ジャン地方の自由担当大臣をはじめとして全仏州連合会(Association des Régions de
France、略称 ARF)会長や全仏県連合会(Assemblée des Départements de France、略称
ADF)会長、全仏メール会(Association des Maires de France、略称 AMF)会長等地方団体
の主だった関連組織の代表が委員として多く参加した。この運営全国委員会において、同
年 10 月 18 日のナント(Nantes)での開催を皮切りに、地方の自由大会が、海外州を含む全
26 州で開催されることが発表され、各大会は州議会議長 5、県議会議長 6、メール 7の代表
者及び社会職能別代表(les représentants socio-professionnels)などによって構成される運
営州委員会(le comité régional de pilotage)によって開催することが決められた。
フランスの全 26 州で行われた地方の自由大会は合計 38,000 人の参加者があり、この地
方の自由大会と同時に行なわれた 123 のテーマ別作業部会(atelier)には合計 25,000 人が
参加している。この中で権限移譲又は実験 8に関する 563 に及ぶ提案及び要望がなされた。
その内訳としては、要望数の多いものから順に、職業教育・訓練、文化及びスポーツ、社
会福祉、社会基盤及び地域整備、経済開発、環境に関するもの、となっている。地方の自
由大会でなされた議論の傾向として次の 5 つが挙げられる。
1)近接性に立脚した行政運営管理が、適用可能な全ての権限において要望されている
こと。
2)地方分権が国の統一性や国の役割の強化を伴うものでなければならないこと。
これは、特に社会保障や教育の分野で地方分権を進めるにあたり、国が当分野の全体
的な保証をすることが必要だからである。
3)全てのレベルの地方団体が新たな権限の移譲を希望していること。
4)新たな権限の移譲には十分な財源の付与が伴うべきこと。
5)地方団体及び市民の権利を保証するために、国が公平な規範を定め、また州間の財
源の平衡化を保証しなければならないこと、の5つである。
2003 年 2 月 28 日にはルーアンにおいて地方の自由大会総括大会(synthèse nationale
des assises des libertés locales)が開催された。この総括大会には、ラファラン首相やサ
ルコジ内務大臣、ドゥヴジャン地方の自由担当大臣をはじめとする多くの地方自治関係者
5
公選の州知事にあたる。仏では州議会議長が州議会の長と州執行部の長を兼ねている。
公選の県知事にあたる。仏では県議会議長が県議会の長と県執行部の長を兼ねている。
7 日本の市町村長に該当。
8 法律及び行政立法により定められる、特定の目的・期間・場所に限定されて適用される規制緩和の特例
のこと
6
-2-
が出席し、フランスの全 26 州で開催された地方の自由大会を総括する冊子が作成、配布
され、多くの地方自治関係者により地方の自由大会の意義及び結果が確認されている。
また、同日のパリ・ノルマンディ紙(Paris-Normandie)のインタビューの中でラファラン
首相は、現行の制度が現在の複雑な社会状況に対応していないことを指摘し、地方分権に
より、国全体の行政システムの効率化を図り、国を本来の任務に集中させ、国民により近
い地方団体に多くを委ねることを示唆した。
今回の地方分権で促進される実験の対象分野に関しては、具体例として、保健衛生、若
年者の法的保護及び国家教育手法の管理及び運営などを挙げている。
権限移譲に関しては、州は「人材育成及び地域整備等戦略的分野」、県は「近接性を重
視し、社会的連帯を所管する組織」、コミューンは「社会的紐帯及び近接性にかかる役務
であり、従来よりコミューンが担当している分野」、コミューン間広域行政は「コミュー
ン間の社会的連帯にかかる分野」と位置付けられている。具体的には、州には若年の成人
向けの職業訓練、教育、各種経済的関与など、県には児童、社会的疎外者、高齢者及び障
害者に関する社会連帯政策、国道の維持管理及び中学校の維持管理など、コミューンには
近接性のある身近な役務及び市民の紐帯が挙げられている。
前述の地方の自由大会での563の提案及び要望並びに共和国の地方分権化に関する2003
年3月28日第2003‐276号憲法的法律(Loi constitutionnelle n° 2003-276 du 28 mars 2003
relative à l'organisation décentralisée de la République)による憲法改正9を踏まえて、地
方の自由及び責任に関する2004年8月13日付第2004-809号法律(Loi n°2004-809 du 13
août 2004 relative aux libertés et responsabilités locales)及び社会参入最低限所得の地
方分権化及び社会活動最低限所得創設に関する2003年12月18日付第2003‐1200号法律
(Loi n°2003-1200 du 18 décembre 2003 portant décentralisation en matière de revenu
minimum d'insertion et créant un revenu minimum d'activité)、地方団体の財政自治に
関する2004年7月29日付第2004-758号組織法律(Loi organique n°2004-758 du 29 juillet
2004 prise en application de l’article 72-2 de la Constitution relative à l’autonomie
financière des collectivités territoriales)が制定されている。
当憲法改正の内容については、CLAIR REPORT 第 251 号「フランスの新たな地方分権について その
1」(2003 年 11 月 28 日)を参照されたい。
9
-3-
第2章
地方の自由及び責任に関する法律
第1節
法律制定の経緯
地方の自由及び責任に関する 2004 年 8 月 13 日付第 2004-809 号法律(Loi n°2004-809
du 13 août 2004 relative aux libertés et responsabilités locales、以下「2004 年権限移
譲法」という。)は 2003 年 10 月 1 日に 10 編 126 条からなる法案として閣議決定された。
上院(Sénat)の第 1 審議においては 472 項目について修正の上、同年 11 月 15 日に可決さ
れた。
その後、法案は国民議会(Assemblée Nationale;下院とも訳される。)に送付され、約
340 項目について修正の上、2004 年 4 月 14 日に可決された。
法案は、国民議会後に上院に再送付された。上院の第 2 審議では、同年 7 月 1 日に法案
が可決され、国民議会に再送付されたものの、4000 件を超える修正案が野党側から提出
されたため、通常の審議を行った場合、政府が目指す 7 月末の延長国会閉会前の法案の最
終的成立が難しい状況となった。
この状況を受けて、ラファラン首相は憲法第 49 条第 3 項の規定に則った「政府の責任
による強行採決権」を行使することを決定した。
これは、政府が「信認問題」に指定した法案について、議決を経ずに可決成立させるこ
とを可能とした特別規定で、国民議会は 24 時間以内に内閣不信任案を可決するか、当該
強行採決を受け入れるという規定である。
野党側はこれに対して内閣不信任案を提出したものの、否決されたため、それをもって
法案成立となり、同年 7 月 30 日、両院合同委員会により採択され、憲法評議会による違
憲審査後の 8 月 13 日に公布された。
2004 年権限移譲法は、10 編 203 条からなる法律である。まず、第Ⅰ編では、州に対す
る経済開発、観光振興及び職業教育・訓練関係の権限の移譲について、第Ⅱ編では、県に
対する道路の権限の移譲や、地方団体に対する港湾、空港などの大規模施設の権限の移譲、
首都パリを有するイル・ド・フランス州の交通、ヨーロッパ構造基金関係などについて規定
してある。第Ⅲ編では、社会福祉、若年者の法的保護、社会住宅、保健衛生などの権限の
移譲について、第Ⅳ編では、教育及び文化(歴史的遺産など)の権限の移譲について規定し
てある。
以下、第Ⅴ編から第Ⅹ編では次の内容が規定されている。
第Ⅴ編
移譲される事務に従事する公務員の身分等
第Ⅵ編
権限移譲に伴う財政的な補償
第Ⅶ編
諮問的住民投票及び地方団体の政策評価
第Ⅷ編
権限移譲された後の国の任務と組織
第Ⅸ編
権限移譲に関連するコミューン及びコミューン間広域行政
第Ⅹ編
同法が 2005 年 1 月 1 日から施行されることが規定されている。
-4-
第2節
1
内容
目的
フランスでは、1982 年及び 83 年に大規模な地方分権が行われたが、当該分権において
は以下に挙げるような点が課題として残されていたと言われている。
1.国・地方間で同じ権限を分け合い、権限関係が複雑となったこと
2.地方団体に権限は移譲したものの、コミューン、県、州それぞれに対して適切な権
限配分が行われなかったこと
3.広域行政組織が権限移譲の対象として扱われなかったこと
こうした点の改善こそが今回の地方分権の発端であり、基本的な課題でもある。上記の
課題を背景とした 2004 年権限移譲法の目的は、前述のラファラン首相施政方針演説、同
首相による国民議会法案趣意説明等において以下のように述べられている。
まず、1 番目は、公共政策における責任の所在を明らかにすることである。これは、同
じ権限を複数の地方団体で分かち合っているため、どの地方団体が主な権限行使の主体で
あるかを明確にする必要があるためである。この場合、必要に応じて、憲法第 72 条第 5
項10を尊重することとしている。
2 番目は、地方の裁量の幅を広げることである。地方分権を実施するならば、国は地方
団体の政策を信頼し、裁量の余地を与えなければならず、また、移譲される権限の執行に
関しては、法令による規制は最低限のものとされなければならないとされている。
3 番目は、地方の実情への適応及び手続自体の柔軟性の確保である。
4 番目は、権限移譲により、同時に国の制度改革を実現することである。国が、安全保
障、司法、教育、雇用、保健衛生、国家利益を有する公共施設の分野において責任を保持
することにより、地方団体へ権限移譲された分野においても、必要最小限のルールを決定
し、適法性の監督を行い、公共政策の評価を促進する権限を保持する。しかしながら、地
方団体へ権限移譲された分野においては、従来国がその職務の行使に充てていた財政的手
段や人的資源を、地方団体が代わりに利用する。
2
概要
2004 年権限移譲法の特徴をまとめると以下のようになる。
①権限ブロックによる移譲(transfert de bloc de compétences)
国及び各地方団体レベルで事務の輻輳を避けるため、カテゴリーごとに事務をまとめて
移譲先を特定している。例としては次のようになる。
10
「いずれの地方団体も他の地方団体を後見監督することはできない。ただし、ある権限の行使に複数の
地方団体の協力を要するときは、法律の定めるところにより、当該複数地方団体のうちの一つ又はその集合
体のうちの一つが共通した活動の形態を企画・組織することができる。」
-5-
・ 経済開発分野及び職業訓練分野
-
専ら州に移譲される。
・ 社会福祉分野
-
専ら県に移譲される。
・ 輸送分野
-
港、空港は州に、道路は県に移譲される。
②公務員の移譲
82 年に高等学校、中学校に関する権限の移譲を行ったが、今回の地方分権により高等
学校技術職員(Technichiens et Ouvriers de Service;略称 TOS)
11を州に、中学校技術職
員を県にそれぞれの権限と併せて移譲する。また、移譲される道路等に従事する国の職員
も移譲対象となる。
③広域行政の強化
広域行政体の再編・統合、外国地方団体との広域行政の結成等多くの新たな措置を可能
とする。
④財源補償措置の充実
権限移譲にかかる財源補償の規定は従来から存在したが、同法により補償が一層充実す
る。
⑤民主参加の促進
従来、コミューンにのみ認められていた住民投票が全ての地方団体で実施可能となる。
⑥実験としての移譲
分野を問わず、多くの権限が実験として期限付きで移譲される。なお、当該実験を実施
するかどうかは個別権限主体の裁量に委ねられる。
3
権限移譲
2004 年権限移譲法では第Ⅰ編から第Ⅳ編にわたり、個別行政分野における個々の行政
主体への権限移譲及び所管権限の確認を行っている 12。その特徴としては、コミューン、
コミューン間広域行政組織及び県は、従前から責任を有する分野において、それを補完す
る新たな権限を移譲され、州は一体性の理念を満たすための権限及び広い領域における実
施に適した権限が移譲されている。
(1)
経済開発、観光及び職業教育・訓練
2004 年権限移譲法第Ⅰ編は、第Ⅰ章で経済開発、第Ⅱ章で観光、第Ⅲ章で職業教育・
訓練について規定している。
①経済開発(第 1 条及び第 2 条)
第 1 章に掲げられる経済開発の分野は従来より州の担当する分野であるが、2004 年
権限移譲法においては、州により多くの権限が与えられることとなった。当分野におい
ては、次頁のような権限配分がなされた。
11
学校施設に勤務する教師以外の職員のことで、受付職員、給食配給職員等が該当する。なお、権限移
譲の移行措置として、2005 年における中学・高校の技術職員の採用及び配置権限は国が有する
12 今回の権限移譲前に各地方団体が所管していた事務の概略については「フランスの地方自治」(2002
自治体国際化協会)p14 参照。
-6-
・ 州:
(ア)州内の経済開発計画の策定権限
(イ)企業助成規定権限
資金の貸付、役務・財・サービス対価の前払い、還付金、一部の補助金及びサービ
ス給付等による企業助成にかかる規定を整備する権限。なお、助成を実施する場合は、
毎年の実施状況を地方長官に報告しなければならない。
・ 県、コミューン及びコミューン間広域行政組織:
(ア)
限定的企業助成権限
州が規定を整備する権限を有する企業助成に関して、州と協定を結んだ範囲内にお
いて企業助成をすることができる。また、助成の実施にあたっては、国と協定を結ぶ
ことも可能である。助成を実施する場合は州議会に対して助成内容とその成果を報告
する義務がある。
(イ)
非限定的企業助成の権限
賃貸若しくはリースに関する優遇措置、更地、整備地若しくは改修された建築物の
販売にかかる優遇措置等州が規定を整備する権限を有していない企業助成に関しては、
州と協定を締結せずとも助成を実施できる。また、助成の実施にあたっては、国と協
定を結ぶことも可能である。なお、州との協定がなくとも、助成を実施する場合は、
州議会に対して助成内容及び目的達成状況を報告する義務がある。
・ 国: 地方団体等による助成制度等の欧州委員会への報告義務
国は、地方団体及びその広域行政体が用意する助成制度と助成計画を、国の経済開
発計画とともに欧州委員会へ報告する義務を有する。
②観光(第 3 条から第 7 条)
観光分野は従来より国の責任に負うところが多かった分野であるが、2004 年権限移
譲法により、以下の権限配分がなされる。
・ コミューン及びコミューン間広域行政組織: 観光局(office de tourisme)設置権限
及びカジノからの負担金徴収権限
・ 国: 観光政策決定権限及び観光関連施設の格付け等の権限
③職業訓練(第 8 条から第 15 条)
職業訓練は従来より州の担当する分野であるが、2004 年権限移譲法により、フラン
ス国内在住者の職業訓練を州、フランス国外在住者の職業訓練を国が受け持つこととな
る。
・ 州: フランス国内在住者に対する就職若しくは再就職活動又は雇用の維持に役立つ
程度の職業訓練及び職業指導権限
・ 国: フランス国外在住フランス人に対する職業訓練及び指導の権限
-7-
(2)
社会基盤整備、構造基金及び環境保護
2004 年権限移譲法第Ⅱ編は、第Ⅰ章で道路、第Ⅱ章で大規模施設、第Ⅲ章でイル・
ド・フランス州における交通、第Ⅳ章で欧州構造基金、第Ⅴ章で廃棄物処理計画について
規定している。
①社会基盤整備
ア.道路(第 16 条から第 27 条)
以下のように、専ら県に新たな権限が移譲されるとともに、国が所管する権限が確認
された。他の規定が定められない限り、国道の移譲は 2008 年 1 月 1 日をもってなされ
る。
・ 州: 州内のインフラ設備及び輸送に関する整備計画策定権限
・ 州、県、コミューン及びコミューン間広域行政組織: 道路関連投資に対する補償
国が所管する道路、又は地方団体が管理する道路及び関連用地に何らかの投資行為を
行った場合、その支出の一部について、付加価値税補償基金から補償を受ける。
・ 県: 国道の移譲
県は約 2 万 km に及ぶ国道(route national)及びその付属物の維持管理権及び所有権、
及び移譲される国道にかかる整備予定地の移譲を受ける。
・ 県、コミューン及びコミューン間広域行政組織(コミューン事務組合を除く):
料金所設置権限
トンネルや橋などの交通に関する構造物の建設を実施した場合に、当該建設費用・維
持費用を賄う目的で、完成物に料金所を設置することが認められる。
な お 、 2004 年 権 限 移 譲 法 に よ り 、 国 は 、 高 速 道 路 、 国 内 の 欧 州 道 路 13 (route
européene)、その他の国道(県管理分除く)の整備及び管理権限を有することが確認さ
れている。
イ.飛行場(第 28 条及び第 29 条)
・ 州: 飛行場の管理・維持権限の移譲
2007 年の 1 月 1 日までに、国が所有している都市圏飛行場の管理及び維持権限が優
先的に移譲される14。また、2006 年 12 月 31 日を期限とする、実験の一環として、地
13
欧州道路は、国が所有する道路のうち、道路の起点又は終点の少なくともどちらか一方が他の欧州諸国
に存在する道路である。
14 州への優先的移譲の具体的方法は次のとおりである。まず、移譲を希望する地方団体あるいは広域行
政体は、定められた期日までに、国に対して移譲を要求する。要求団体が一つの場合は、自ずからその団
体に移譲される。要求団体が複数の場合に、州が含まれていれば州に移譲され、州が含まれていなければ
各団体間で協議が行われて、一の候補団体に絞られる。一の候補団体に絞られない場合には、移譲対象
物に対する出資が最も多い候補団体が移譲を受ける。それでも決まらない場合には、州地方長官が、経済
及び国土整備上の観点から、移譲対象物の性質及び交通事情等を勘案して移譲先を決定する。なお、移
譲希望団体が一つも存在しない場合には、州地方長官が上記の判断基準に基づき移譲先を決定する。県、
コミューンに優先的に移譲される場合も同様の手続きを取る。
-8-
方団体は当該権限の移譲を受けることができる。ただし、その場合においても、2007
年 1 月 1 日をもって、本来的な移譲先へ譲渡される。なお、当該移譲の対象には、国
家の特命事項に従事する空港、又は国防、都市交通、都市警備若しくは気象予報に必
要な施設の移譲は除かれる。
ウ.港(第 30 条及び第 31 条)
国が所有する海港について、2007 年 1 月 1 日までに以下のように移譲する。
・ 州: 沿岸商業港の建設、整備及び運営権限の優先的移譲
・ 県: 沿岸漁港の建設、整備及び運営権限の優先的移譲
・ コミューン及び広域行政体: マリーナの建設・整備・運営権限の優先的移譲
ただし、マリーナの移譲を受ける場合には、当該移譲を受ける可能性を有する他のコ
ミューン及びコミューン間広域行政組織の承認を必要とする。
また、上記の他に、州又は県がそれぞれの優先的移譲を受けない場合、州は沿岸漁港、
県は沿岸商業港、コミューン及び広域行政体は沿岸漁港及び沿岸商業港の移譲を受ける
ことが可能。なお、当該移譲の対象には、危険物取扱港、有事に警察が利用する港、国
防・災害対策上重要な港、航行困難な船舶を収容する港は除かれる。
エ.河川、湖及び運河(第 32 条)
河川、湖及び運河に関して以下のように権限が移譲される。
・ 州: 河川、運河の優先的移譲
・ 州、県及びコミューン: 自己の所管する河川、運河及び湖沼への料金所設置権限。
オ.都市圏外交通インフラ(第 33 条から第 36 条)
・ 県(イル・ド・フランス州内を除く): 都市圏外交通にかかる鉄道インフラ敷設
及び整備権限
②イル・ド・フランス州における交通(第 37 条から第 43 条)
イル・ド・フランス州の鉄道及び道路を管理するイル・ド・フランス交通組合を州に移
譲する。
・ イル・ド・フランス州:
イル・ド・フランス交通組合(Syndicat des Transport
en Ile de France:;略称 STIF)の移譲
これにより、従来、国の設置する公施設法人15であった STIF は地方公施設法人にな
り、州議会議長もしくは議長に指名された州議会議員が当該法人の長に就任する。
また、移譲に伴い、STIF に次の権限が付与される。
15公法上の法人格を付与されているが、一般的な管轄権限を有さず、特定の公役務を遂行することを目的と
する団体。フランスの伝統的な定義の一つに従えば、「区域(territoire)」に基づく地方分権化を行う「地方
公共団体」に対して、「役務(service)」による地方分権化を担う特別な団体が公施設法人であるとされる。こ
の公施設法人のうち、地方団体が設置するものが地方公施設法人である。
-9-
a.学校生徒の輸送手段、デマンドバス、旅客用定期水上交通(シーバスなど)にか
かる組織編成及び都市計画の策定及び改定
b.投資計画の実施
c.法で規定された上限金額の範囲内での輸送料金の決定
なお、上記移譲は、権限移譲後の STIF の定款に関するデクレの成立から遅くとも
6ヵ月以内又は 2005 年の 7 月 1 日までには施行される予定である。
③欧州構造基金(第 44 条)
・ 州: 実験又は委任による欧州構造基金の管理及び支払権限
実験又は国の委任により、2000 年から 2006 年分の欧州構造基金16に関する管理権限
と支払権限を取得することができる。
・ 県: 委任による欧州社会基金の管理及び支払権限
欧州構造基金のうち、欧州社会基金の管理権限と支払権限に関しては、国が州に委任
しない場合は、県が国から委任を受けることができる。
なお、上記権限を行使する場合、州及び県は欧州裁判所が決定する経済制裁措置に協
力し、権限実施予算にかかる決算を州地方長官に提出する義務を有する。
④家庭廃棄物処理計画(第 45 条から第 48 条)
・ 県: 家庭廃棄物処理計画策定権限
県は家庭廃棄物処理計画を策定することができる。なお、イル・ド・フランス州につ
いては州によって作成される。
(3)
社会連帯及び保健衛生
2004 年権限移譲法第Ⅲ編は、第Ⅰ章で社会福祉政策、第Ⅱ章で若年者の法的保護、第
Ⅲ章で社会住宅及び建築、第Ⅳ章で保健衛生について規定している。
①社会福祉政策(第 49 条から第 58 条)
・ 県:
(ア)社会福祉・社会医療計画策定権限
県は社会福祉政策・社会医療政策の両方にかかる計画を策定する。
(イ)若年労働者に対する助成権限
県は、18 歳から 25 歳までの就職又は社会参加が難しい若者に対する若年者助成基
金(Fonds d’Aide aux Jeunes;略称 FAJ)の移譲を受け、前渡金助成を行う。当該
基金は県が実施の責任を負うものの、コミューン又はコミューン間広域行政組織に関
しても、県と協定を締結することにより、当該権限を実施することが可能となる。
16
欧州構造基金は欧州地域開発基金、欧州社会基金、欧州農業指導・保証基金、漁業指導財政基金の
4 基金で構成される。
- 10 -
(ウ)連帯住宅基金(Fonds de Solidarité Logement;略称 FSL)の移譲
家賃、水道料金、電気料金等を支払えない者に充てられる基金である連帯住宅基金
の管理権限が県に移譲される。なお、受給者に対する保証は県が行う。
(エ) 委任による社会訓練実施権限
また、県は州が有する社会訓練の実施権限について、州と協定を結ぶことにより、
委任を受けることができる。
(オ) 社会保障組織の設立及び諮問機関の移譲
県は、国と協定を結び、高齢者の社会保障組織の設立をすることができる。また、
県は退職者及び高齢者に対する政策立案のための諮問機関として、従来は国の地方支
部部局の組織であった「退職者及び高齢者にかかる県委員会」の移譲を受ける。
・ 州: 社会訓練実施権限
州は社会訓練 17を実施する。州は、社会訓練を免除されている公施設法人及びその生
徒に対して財政支援をすることができる。
②若年者の法的保護(第 59 条)
・ 県: 実験による未成年者への助成権限
実験の一環として、県に対して、未成年者への社会的側面での助成権限が移譲される。
③社会住宅及び建設(第 60 条から第 68 条)
・ 県又はコミューン間広域行政組織: 委任による社会住宅に対する助成権限
県地方長官との協定により、社会住宅に関する公的助成の配分の権限の委任を受ける
ことができる。なお、当該委任は最長 6 年とされている。
・ コミューン又はコミューン間広域行政組織: 委任による社会住宅割当権限
県地方長官との協定により、財政的に困難な状況又は社会的に不利な状況にある個人
に対する社会住宅18の割当権限の一部あるいは全部の委任を受けることができる。
・ コミューン: 学生用公営賃貸住宅の配分権限
・ その他:従来、県が所管していた住民委員会を統合し、州の管理下に州住宅委員会
(comité régional de l’habitat)19として再編する。
④保健衛生(第 69 条から第 74 条)
公的保健衛生の領域においては、専ら国が実施について権限を有する。当分野におい
ては、州は専ら職業訓練を、県は家族と児童の公衆衛生保護に関して権限を有する。
17
社会訓練は、社会生活から疎外又は社会生活において不利な扱いを受けている者に対して、職業上の
資格取得や社会的地位向上を目指して行政が行う訓練である。
18 公的団体によって建設される家賃に制限のある住宅
19 地方団体の政策に一貫性を持たせ、住民の要望への対応を協議することを目的として、地方団体により
設置される諮問委員会
- 11 -
・ 州:
(ア) 実験による保健衛生施設設置権限及び財政支援権限
(イ) 医療分野の職業訓練施設の許認可並びに施設に対する財政措置権限
(ウ) 衛生分野の職業訓練施設の設置及び生徒への助成権限
州は衛生分野の職業訓練施設を設置することができる。また、州は当該職業訓練に
おいて、生徒への助成の配分基準に関する決定権及び配分権限を有する。職業訓練学
校が公的施設である場合は、州がその施設整備及び運営の権限並びに責任を負うとと
もに、運営、施設状況等の情報を県地方長官に報告しなければならない。また、当該
施設が私企業である場合、州はこの施設に対して財政支援をすることができる。
(エ) 病院薬剤師の職業訓練施設の整備及び運営権限
・ 州、県及びコミューン: 検診・予防活動に関する権限等
地方団体は国との協定によって、ガン検診、ハンセン氏病対策又はツベルクリンワク
チン投与などの検診・予防活動を実行することが出来る。
・ 県:
(ア)虫を媒介とする伝染病対策権限
虫を媒介とした伝染病の危険がある県においては、県が必要な調査、治療、支援、
管理等を行なうことができる。
(イ)国との協定による国の保健衛生計画策定への参加
・ コミューン: 住居内の衛生維持に関する権限
実験の一環として、コミューンは 4 年の期限付きで住居内の衛生維持にかかる政策を
実行することができる。その実行にあたり、コミューンは、国と協定を結ぶことにより、
国及び住宅改良全国機関(Agence Nationale pour l’Amélioration de l’Habitat;略称
ANAH)の基金を活用できる。
・ 国:2004 年権限移譲法においては、以下の二点が国の権限であることが確認された。
(ア) 伝染性のある性病対策、HIV 感染予防及び保菌昆虫対策に関する権限。
(イ) 介護、育児補助、救急士及び病院薬剤師の職業訓練における、受講条件、訓練
プログラム、教育組織及び生徒の評価手法の決定権並びに卒業証書の交付権限
(4)
教育、文化及びスポーツ
2004 年権限移譲法第Ⅳ編は、第Ⅰ章で教育、第Ⅱ章で歴史的遺産、第Ⅲ章で演劇芸術
教育、第Ⅳ章でスポーツについて規定している。
①教育(第 75 条から第 94 条)
教育は国の公的サービスであり、その組織及び機能は国により保証されることが教育
法において再確認された。
各地方団体については、以下に挙げるような権限移譲が行われた。
- 12 -
・ 州:
(ア)
中学校、高等学校、専門学校、海洋職業高校及び農業教育施設にかかる予備的
教育計画策定権限
(イ)
高等学校の技術職員の採用及び管理権限
(ウ)
高等学校付属不動産の所有権
なお、州は高等学校付属不動産の一般的及び技術的維持管理、修繕等に責任を負う。
また、高等学校の移譲に関しては、人的移譲にかかる経費以外は財政的補償がなされな
い。人的移譲にかかる国の補償は毎年の財政法により決定される。当該補償は、州が負
う技術職員の給与に関する社会的及び財政的負担を完全に償うことができるように決定
される。
・ 県:
(ア)
中学校の技術職員の採用・管理権限
(イ)
中学校付属不動産の所有権
(ウ)
中学校の学区割権限
(エ)
通学用輸送組織にかかる管理及び財政支援権限
なお、県は中学付属不動産の一般的及び技術的維持管理、修繕等に責任を負う。また、
中学付属不動産の移譲は、人的移譲にかかる経費以外は財政的補償はなされない。人的
移譲にかかる国の補償は毎年の財政法により決定される。当該補償は、県が負う技術職
員の給与に関する社会的及び財政的負担を完全に償うことができるように決定される。
・ コミューン及びコミューン間広域行政組織:
(ア)コミューン又はコミューン間広域行政組織内に存在する公立学校の学生証交付権限
(イ)5 年を期限とする実験としての、小学校の設置権限
ただし、(イ)については、学区及び関係する学校の了解が得られた場合に限られる。
また、設置された小学校の運営委員会(conseil d’administration de l’etablissement)
には地方団体の代表、教員の代表及び生徒の親の代表が参加する。
・ 国:
政府は、大学区(Académie) 20、県及び教育施設の報告を基に、過去 5 年における
技術職員数の推移及び人員配置状況の報告を、国会に対して毎年行う。
なお、教育プログラムの策定、教育内容の決定、教育組織の編成、卒業証書の交付、
国所属の教育従事者等の採用及び管理、教育の平等性を確保するための予算配分、国会
報告用の各種評価等に関しては国の権限として残されている。
・ その他:
政府は、教育システムの機能及び学生に対する教育サービスの質に関して、地方分権
教育行政の単位であり、フランスは全国が 28 の大学区で構成される。一つの大学区は複数の県から構
成され、規模はほぼ州に相当する。児童及び学生はこの単位に基づいて各大学区に割り振られる。
20
- 13 -
による効果及びその評価を国会に報告しなければならない。当該報告に関しては、教育
高等委員会(Conseil supérieur de l’éducation)、国家教育地域委員会(Conseil territorial
de l’éducation nationale)及び農業教育国家委員会(Conseil national de l’enseignement
agricole)が意見を提出する権利を有する。
上記委員会のうち、国家教育地域委員会については、2004 年権限移譲法により新た
に設立された委員会である。当委員会は国、州、県、コミューン及びコミューン間広域
行政組織の代表者により構成され、審議においては、教育従事者代表及び教育享受者代
表をこれに加えることとしている。また、当委員会は公的教育サービスを受ける者の平
等性を確保することを目的に、国に対してあらゆる提言をすることができる。国は教育
分野において地方団体に関係するあらゆる問題について、当委員会に対して意見を求め
ることが定められている。
②歴史的遺産(第 95 条から第 100 条)
・ 州、県、コミューン及びコミューン間広域行政組織: 指定不動産及び指定動産の移譲
歴史的遺産に関しては、国又は国立モニュメントセンターは、国務院のデクレで定め
る リ ス ト に 記 載 さ れ る 指 定 不 動 産 (immeuble classé) 及 び 指 定 動 産 (objet mobilier
classé)の所有権を、希望する地方団体に移譲する。当該移譲は、指定不動産及び指定動
産の提供するサービス及び人員を伴うものとする。なお、当該移譲には財政的補償は予
定されていない。また、国は、国が所有する重要な芸術作品(œuvre significative)を地
方団体のフランス美術館(musée de France)に貸与することができる。
・ 州及び県: 4 年を期限とする実験としての指定不動産及び指定動産の維持権限等
4 年を期限とする実験の一環として、州又は県(州が当該実験を実施しない場合のみ、
県は当該実験を実施できる)は、指定不動産及び指定動産の維持、修繕及び予算管理に
かかる権限を要求することができる。なお、当該実験に関しては、実験期間終了 6 ヶ月
前までに、政府は国会に対して参加地方団体の意見を盛り込んだ評価を報告する。
・ 州: 歴史的遺産目録作成権限
州は、自団体の領域内に存在する歴史的遺産の一般目録の作成を担当する。当該目録
作成権限については、自団体の領域内に存在する歴史的遺産目録作成を希望する他の地
方団体に対して、協定を結び、委任することができる。
③演劇芸術教育(第 101 条及び第 102 条)
・ 州: 舞台芸術課程の職業教育(enseignement professionnel)に係る組織編成及び財
政措置権限
・ 県: 音楽、ダンス及び演劇の領域における芸術課程計画策定権限
・ コミューン及びコミューン間広域行政組織: 上記県の計画における舞台芸術課程
(enseignement)と芸術教育(education)21の組織編成及び財政措置権限
21
enseignement は普遍的な意味での教育(学校教育、大学教育等)、education は塾、セミナーなどの教育
を指す。そのため、enseignement artistique は専門学校での「芸術」の授業等、education artistique はバレ
エスクールのレッスン等、といった違いがある。
- 14 -
④スポーツ(第 103 条)
第 4 章は野外スポーツに関する章で、用地及び景観の確保、改善、管理について定め
ている。
4
財源補償
2003 年 3 月に改正された憲法第 72 条の 2 第 4 項により「国と地方団体との間で権限が
移譲される場合は、当該権限の行使のために充てられていた財源に相当する財源の付与が
伴わなければならない。」と規定されている。この規定は、大別すると以下の 4 類型の権
限の変更に適用されることになる。
①地方公共団体の新たな事務の創設
②地方公共団体の同一事務内での権限の拡大
③国から地方公共団体への権限の移譲
④地方公共団体の事務の変更
上記憲法改正を受けて、2004 年権限移譲法第Ⅵ編は権限移譲にかかる財源補償につい
て規定している。
(1)
経費評価諮問委員会(commission consultative sur l’évaluation des charges;第 118 条)
2004 年権限移譲法により、地方議会議員の代表が長を務める「経費評価諮問委員会
(commission consultative sur l’évaluation des charges)」が地方財政委員会22の内部組織
として設けられ、国・地方団体間の権限の移譲に伴って財源補償すべき金額の評価方法及
び金額を決定する。個々の権限移譲に関して、当委員会は、国及び当該権限移譲に関連す
る地方団体の同数の代表から構成される。ただし、全てのカテゴリーの地方団体に関連す
る権限の移譲の場合、当委員会には地方財政委員会の委員全員が参加する。総会の構成員
としては、国の代表 11 名、地方団体の代表 11 名(州の代表 2 名、県の代表 4 名、市の代
表 5 名)の計 22 名となる。
経費評価諮問委員会の主な権限は財源補償にかかる省庁間アレテ((4)③参照)の検
討、権限移譲に係る経費の算定、権限移譲に係る事務の要件についての意見具申である。
(2)
財源補償に充てられる財源について(第 119 条から第 121 条)
権限移譲にかかる財源補償については従来から地方自治総合法典に規定されていたもの
であるが、本法により、より詳細な規定がされている。
まず、財源の補償に充てられる財源は権限移譲の際に国によって当該権限に充てられて
いた財源に権限の増加又は減少を加味した額と同額とすることとされている。
経常部門の事務についての補償は、権限移譲に先立つ 3 年間における実績での費用の平
1979 年 1 月 3 日法により創設された委員会で、経常費総合交付金などの交付金の配分についての決
定や監督に関する事項など、地方財政に関し、政府に助言や協議を行なう。
22
- 15 -
均額、投資部門の事務については権限移譲に先立つ 5 年間における実績での費用の平均額
とする。これは、建設等に関する投資的経費は安定的でないことがあるため、補償額の過
大評価又は過小評価を防ぐために、一定期間の実績費用の平均を基に、地方団体への補償
額を決定するものである。
また、権限移譲についての財源補償は、予算法の定める条件により、原則として、あら
ゆる種類の租税(impositions de toutes natures)によって行なわれることが可能である。
ただし、付与された租税による収入が外的要因により減少する場合、国は予算法の定める
条件により、権限執行以前に当該権限移譲に充てられていた財源のレベルを補填するため
に減少分を保証しなければならない。この租税収入の減少及び減少分については、国務院
の議を経たデクレの定める条件により、地方財政委員会へ報告しなければならない。また、
新たな権限の創設又は権限の拡大の補償として移譲される租税の税収の伸張状況又は税収
額についても同様に報告をするものとされている。
更に、本法により、地方団体の負担を増やす権限の創設又は拡大は、法律により決定さ
れる必要な財源を伴うことが規定された。
また、補償についての例外規定も次のように定められている。
・ 海 港 (ports maritimes)の 移 譲 に 伴 う 財 源 補 償 が 地 方 分 権 化 一 般 交 付 金 (dotation
générale de decentralisation)23で措置されること
・ 歴史的建造物等特定の地方団体によってのみ行使される権限の移譲にかかる財源補
償を国務院の議を経たデクレで定めること
・ 県に移譲される国道の財源補償の算定基準及び基準の詳細は国務院の議を経たデク
レにより定められること
・ 高等学校及び中学校の経常的運営管理に関する権限の移譲に伴う財源補償が、従来
から地方団体の権限に属する学校施設整備に関連付けられた財源である学校施設整備州
交付金(dotation régionale d’équipement scolaire:DRES)及び中学校施設整備県交付金
(dotation départementale d’équipement des colleges:DDEC)によって補償されるので
はなく、地方分権化一般交付金で措置されること
などが規定されている。
(3)
移譲財源
2003 年 7 月 8 日に行なわれた地方財政委員会においてアラン・ランベール(Alain
Lambert)予算及び財政改革担当大臣は地方に移譲することができる税源の条件として、
次に掲げる 4 つの条件を挙げている。
まず第 1 に、税収の変動が小さい租税であること。
第 2 に、課税標準を地域間で公平に分配することができること。なお、この点について
1983 年 1 月 7 日法及びこれを補完する 1983 年 7 月 22 日法による国から地方団体への権限移譲の
際に、国から地方団体への税源移譲によって補償されない部分を付与するために作られた交付金。
23
- 16 -
言えば、住民 1 人当たりの課税標準に大きな差がある租税や首都のパリが所在するイル・
ド・フランス州に税源が偏在している租税は好ましくない。
第 3 に、社会保障(la protection sociale)にかかる財政メカニズムに大きな影響を与えな
いこと。これは、社会保障の財政メカニズムが複雑であるため、影響があった場合には他
の分野より高度な調整機能が必要とされるからである。
第 4 に、移譲により、EU レベルで解決できない問題が生じるような租税は移譲するこ
とができないこと、の4つである。
今回の地方分権により移譲される権限は、当該権限を行使するために国が充当していた
財源で換算して、およそ 110 億ユーロ程度(約 1 兆 4850 億円、換算レート;1 ユーロ
=135 円)に上ると言われている。そのうち、県分が約 80 億ユーロ24(RMI‐RMA 法に
よる移譲分(第 3 章参照)が約 50 億ユーロ、2004 年権限移譲法分に基づく移譲分が約
30 億ユーロである)、州分が約 30 億ユーロである。
財 源 補 償 に 充 当 す る 財 源 の う ち 、 県 分 が 石 油 製 品 内 国 税 ( taxe intérieure de
consommation sur les produits pétroroliers;略称 TIPP)及び保険契約特別税(Taxe
spéciale sur les conventions d’assurance)により25、州分が石油製品内国税により賄われ
る。なお、上記の 4 つの条件に照らして、石油製品内国税の利点としては、課税標準がイ
ル・ド・フランス州に集中しておらず、州間の税収差が小さいこと、税収の変動が大きくな
いことがアラン・ランベール予算及び財政改革担当大臣により挙げられている。
(4)
財源補償の原則
2005 年 2 月 11 日付け内務省通達第 LBLB0510006 号により、財源補償の原則(les
principes de la compensation financière)として以下の4つが明示されている。
①完全性(Intégral)
移譲される財源は、移譲される権限に対して国が従来充当していた財源に相当するも
のとする。この財源には、直接・間接を問わず、国が充当していた全ての財源を勘案す
るものとする。
②同時性(Concomitante)
全ての権限の増加は、当該権限の実施に必要な財源の移譲を同時にもたらすものとする。
③管理性(Contrôlée)
権限移譲に伴う財源の増加は、経費評価諮問委員会の意見を経て、関係省庁アレテに
より確定される。
④財政自治適合性(Conforme à l’objectif d’autonomie financière)
権限移譲とそれに基づく財源補償は、憲法第 72 条の 2 の規定26を満たす範囲で行わ
れなければならない。
24
全仏県連合会試算
(http://www.departement.org/Jahia/pid/665 及び http://www.departement.org/Jahia/pid/1435 参照)
RMI‐RMA 法に基づく移譲分(第 3 章参照)が石油製品内国税により、2004 年権限移譲法分が保険
契約特別税により移譲される。
26 「いかなる地方団体においても、税収及び固有財源が、当該地方団体の全収入のうちで決定的な割合を
占めなければならない。」
25
- 17 -
(5)
財源補償における地方団体の懸念
2004 年権限移譲法には上記のように財源補償の規定が存在するものの、すでに多くの
地方団体からは財源補償の有効性を懸念する声が挙がっている。
1982 年の地方分権において、国から地方団体に多くの権限が移譲されたが、移譲され
た権限の実施にあたっては、多くの地方団体が、権限移譲前と比べて地域住民の要望に即
した行政サービスを提供することに努めたため、きめ細かな行政が実現された代償として
各権限執行に要する費用が増大することとなった。しかしながら、この一方で、権限移譲
に伴う財源補償に関しては定額支給とされており、1.インフレ率に連動していない、2.
権限執行に要する費用の増大に伴う増額がない、という当該財源補償の二つの性質により、
移譲された権限を行使する地方団体の実質的な財政負担が重くなったことが地方団体側か
ら指摘されている27。
権限移譲に伴う財源補償における上記二つの性質は、今回の地方分権に伴う財源補償に
ついても同様に指摘することができるため、すでに多くの地方団体からマスコミ等を通じ
て財政負担増加の懸念が表明されている。
5
部局及び公務員の移譲
2004 年権限移譲法第Ⅴ編は、新たな権限の行使に必要な国の担当部局を移譲し、当該
部局に所属する公務員の身分を規定するものである。
(1)
部局及び公務員の配置及び移譲(Mises à disposition et transfert des services et des
agents;第 104 条から第 111 条)
2004 年権限移譲法第Ⅴ編第 1 章は権限移譲に伴う部局及び公務員の配置及び移譲につ
いて規定している。1982 年の地方分権により、高等学校及び中学校に関する権限移譲を
行ったが、今回の権限移譲により、高等学校技術職員が州に、中学校技術職員が県に移譲
される。また、県に移譲される道路に従事する職員も移譲の対象となる。なお、移譲の対
象となる職員数は約 13 万人に及ぶ。
2004 年権限移譲法により、地方団体又は広域行政組織に移譲される権限の行使に関す
る部局の全部又は一部は、地方自治総合法典の規定する方法及び国務院の議を経たデクレ
で規定する方法により移譲される。また、これらの部局の全部又は一部は、基本的に、移
譲を受ける地方団体の執行機関の下に置かれる。
協定の雛形を決定するデクレの公布から 3 ヶ月以内に、地方長官と移譲を受ける地方団
体の間で協定を締結し、移譲される部局の全部又は一部のリストを作成する。上記 3 ヶ月
以内に協定が締結されない場合、移譲される部局の全部又は一部のリストは、地方団体の
各カテゴリー及び広域行政組織の代表者を含む調停委員会(commission de conciliation)へ
27
例えば、パリに隣接するセーヌ・サンドニ県では、82 年に移譲された教育関連権限にかかる費用は、権
限移譲前に国が充当していた予算額と比べて約 10 倍に増大したと言われている。
- 18 -
の諮問の後、地方団体担当大臣及び関係大臣の共同アレテ28 (arrêté conjoint du ministre
chargé des collectivités territoriales et du ministre intéressé)によって定められる。
部局の移譲に伴って、移譲される職員数が決定された後に、国から当該地方団体に移譲
された職員にかかる経費に対する財源補償がなされる。
移譲の前年の 12 月 31 日において、当該部局に所属していた職員が地方団体又は広域行
政組織に移譲される。ただし、その数は 2002 年 12 月 31 日時点の職員数を下回らないこ
ととされている。
政府は、経費評価諮問委員会に対して、2004 年権限移譲法に基づく部局の移譲に関し
て、2002 年から 2004 年における国家公務員数の増減に関する報告をする。
部局の移譲を決定するデクレの公布の日から 2 年以内に、地方団体又は広域行政組織に
移譲される部局の全部又は一部の公務員は、地方公務員の身分への移行又は国家公務員の
身分の維持を選択することができる。この時、地方公務員の身分への移行を選択する国家
公務員は、地方公務員身分規程(dispositions statutaires)の定める条件に基づき、地方公
務員となる。一方、国家公務員の身分の維持を選択する国家公務員は地方団体又は広域行
政組織への無期限の出向(en position de détachement)となるが、当該出向者はいつでも
地方公務員への身分切替を希望することができる。また、地方団体又は広域行政組織の執
行機関は、この出向者に対して懲戒権(pouvoir disciplinaire)を行使することができる。
なお、部局の移譲を決定するデクレの公布の日から 2 年以内に、身分に関する上記選択
をしない公務員は、国家公務員の身分を維持する、地方団体への無期限の出向者となる。
そして、地方団体へ移譲される、又は出向する国家公務員は、国家公務員資格に付随す
る権利を保持し続ける。また、移譲又は出向後に、職員が地方団体において国の部局に所
属していた際と同じ内容の職務を行う場合、年金期間を継続して積算することができる。
部局の全部又は一部の移譲を決定するデクレの施行日に、国の臨時職員は、同一の契約
内容のまま、地方団体の臨時職員となる。ただし、前述の部局の移譲を決定するデクレの
施行日以前に契約期限を迎える臨時職員は、地方団体の臨時職員として再雇用されうる。
また、上記公務員身分の選択に関する規定及び臨時職員に関する規定は、社会参入最低
限所得の地方分権化及び社会活動最低限所得創設に関する 2003 年 12 月 18 日第 20031200 号法により県に配置される職員にも適用される。
なお、公務における一時的雇用の解消、採用の近代化及び地方公務員の勤務時間に関す
る 2001 年 1 月 3 日法(La loi du 3 janvier 2001 relative à la résorption de l'emploi
précaire et à la modernisation du recrutement dans la fonction publique ainsi qu'au
temps de travail dans la fonction publique territoriale)により、国の臨時職員が一定の条
件の下で正規職員となることができる特別な措置が定められているところであるが、権限
28
執行機関(大臣、地方長官、メールその他の行政機関)の決定のうち、一定の法律効果を発生させる意思
を表示して行われる明示の行政決定をいう。
- 19 -
移譲に際して正規職員となる場合、当該職員は上記公務員身分の選択に関する規定、年金
に関する規定等の適用を受ける。
(2)
実験及び委任としての配置(Mises à disposition au titre de l’expérimentation et des
délégations de compétences;第 112 条)
実験又は権限の委任として、地方団体又は広域行政組織に配置される部局の全部又は一
部の公務員及び臨時職員は、当該地方団体又は広域行政組織の管理下に置かれる。
(3)
その他の組織等(第 113 条から第 115 条)
国家公務員高等評議会29(Conseil supérieur de la fonction publique de l’Etat)及び地方
公務員高等評議会30(Conseil supérieur de la fonction publique territoriale)の共通委員会
(commission commune)が創設され、公務員の移譲にかかる協定の雛形について諮問を受
ける。また、委員会の委員の決定方法等は国務院の議を経たデクレにより決定される。
パリの公務員に関する法令等により、地方公務員の地位の変更は、直接的にはパリの公
務員には適用されないことを定めているが、地方団体としてのパリに配置又は移譲される
公務員については、本法が適用される。
6
権限移譲後の国の役割
2004 年権限移譲法第Ⅷ編は、同法による権限移譲後の国の役割について規定するもの
である。
(1)
国の地方における事務及び組織(Missions et organisation territoriale de l’Etat;第
131 条から第 136 条)
国の地方における事務及び組織に関する改正として、州地方長官 31 及び県地方長官
(préfet)32などに関する改正が行なわれている。
まず、州地方長官に対しては、州における国の役務の一体性の保証に関する権限を移譲
するものである。具体的には、従来から有する、州における国の地方支部部局の指揮命令
権限に加えて、県地方長官間の施策の調整(coordination)、県地方長官に対する指導及び
推進(animation)の権限を移譲するものである。
国家公務員一般身分規程 1984 年 1 月 11 日第 84-16 号法(Loi n°84-16 du 11 janvier 1984
portant dispositions statutaires relatives à la fonction publique de l'Etat)第 13 条によって設立さ
れた首相を長とする評議会。国家公務員に関する一般的事項について諮問を受ける。
30 地方公務員一般身分規程 1984 年 1 月 26 日第 84-53 号法(Loi n°84-53 du 26 janvier 1984
portant dispositions statutaires relatives à la fonction publique territoriale)第 8 条によって設立さ
れた地方団体の代表を長とする評議会。地方公務員に関する一般的事項について諮問を受ける。
31 州庁所在地の県の県地方長官が兼ねる。
32 県に設置される国家代表。1982 年の地方分権法以前の県執行機関であった官選知事(préfet)を引き
継ぐものであるが、同年以降の地方分権改革により県の自治行政執行権は県議会議長に移され、現在は、
国家代表としての権限、地方自治行政の監視者としての権限及び管轄区域内の国の地方出先機関の長と
しての権限を有する。
29
- 20 -
また、州地方長官の固有の権限を再定義している。州地方長官の権限は、共和国の地方
行政に関する 1992 年 2 月 6 日第 92-125 号法(Loi n°92-125 du 6 février 1992 relative à
l'administration territoriale de la République)によって、地域整備(aménagement du
territoire)並びに経済及び社会開発(développement économique et social)について規定さ
れているが、本法により雇用、環境、持続的発展(développement durable)、住宅、都市
再開発及び保健衛生(santé)に関する権限が加えられている。
さらに、地方団体との関係については、州地方長官のみが国の名において州との全ての
協定を締結することができると規定された。
また、郡(arrondissement)の区域(limite territoriale)の変更について、従来は国務院の
議を経たデクレによって決定されていたが、2004 年権限移譲法により、州地方長官が県
への諮問の後、アレテにより決定することができるとしている。
さらに、従来は、フランスの地方団体が外国の地方団体と共同で設立する越境広域行政
組織(groupement local de coopération transfrontalière)への新たな加盟は国務院の議を経
たデクレによって規定する手続により許可されていたが、当該許可権限が州地方長官に移
譲される。
県地方長官に関しては、県地方長官が現行政府の各閣僚を代表し、県における国の政策
を実施する立場にあること、県における国の機関を運営すること、コミューン、県、県内
の公施設法人の行政監督の責任を負うこと等が確認された。
また、県地方長官の権限は、新たに定められた州地方長官の権限の枠内で確定され、県
地方長官の施策は州地方長官の調整、指導及び推進の枠組の中で行なわれるとされている。
また、選挙法典が次のとおり改正されている。従来は県議会議員、県地方長官、コミュ
ーン議会又は関係コミューンの有権者がコミューンの選挙区の分割 (sectionnement)を請
求することができたが、2003 年 3 月に改正された憲法第 72 条第 5 項により「いずれの地
方団体も他の地方団体を後見監督することはできない。」と定めされたため、県議会のコ
ミューン議会に対する関与を避けるため、県議会議員による請求権を廃止し、分割の実施
者を県地方長官に定めている。
(2)
適法性の監督(Contrôle de légalité;第 138 条)
適法性の監督は、地方長官の憲法上の義務であり、地方長官にとって不可欠な任務であ
る。しかしながら、1982 年の地方分権改革から 20 年以上が経過し、適法性の監督の効率
性を向上させるために、現実に即した制度とすることが必要となっている。
まず、非訟的異議申立33(recours gracieux)の行使を阻害しないために、地方自治総合法
典を改正し、従来期間の定めのなかった特定の個人に関する地方団体による行政決定
(décision individuelle)の地方長官への送付については、書面又は電子的手段により署名か
ら 15 日以内に地方長官に送付しなければならないこととされる。
また、1990 年以降、地方長官に送付される行政行為の件数が約 40%も増加し、適法性
33
非訟的異議申立は行政不服申立(recours administratifs)の一種である。
- 21 -
監督の質及び効率性が懸念されていたため、地方長官への送付義務のある行政行為を減ら
している。
7
住民参加
2004 年権限移譲法第Ⅶ編は、地方団体の決定行為に対する諮問的住民投票及び地方団
体の政策の評価について規定するものである。
(1)
諮問的住民投票及び地方議会の機能(第 122 条及び第 123 条)
従来は、共和国の地方行政に関する 1992 年 2 月 6 日第 92-125 号法(Loi n°92-125 du 6
février 1992 relative à l'administration territoriale de la République)により、コミュー
ン及びコミューン間広域行政組織における諮問的な住民投票のみが法定されていたが、
2004 年権限移譲法により、州及び県も諮問的な住民投票を実施できることとした。
同法で定められた内容は以下のとおりである。
地方団体の有権者は、地方団体が予定している決定行為に関して諮問的住民投票を行う
権利を有する。当該決定行為が地方団体の一部の区域にのみ関係する場合は、その一部の
区域の有権者に限定して住民投票を行なうことができる。コミューンの場合は有権者の 5
分の 1、コミューン以外の地方団体の場合は有権者の 10 分の 1 の署名により、議会が決
定権を有する全ての事項について諮問の実施を要望することができる。有権者は同一地方
団体における同内容の諮問については 1 年間に 1 回のみ実施の要望に署名することができ
る。また、地方団体も住民投票を行ってから 1 年間は同一目的について住民投票を実施す
ることができない。なお、コミューンを除く地方団体における諮問の要望代表者は、当該
地方団体の執行機関に、要望の発起人が登録されているコミューンの選挙人名簿の写しを
送付しなければならない。
諮問実施の原則、方法及び投票日については諮問を行う地方団体議会が決定し、有権者
に周知を図る。
当該議決は、遅くとも投票日の 2 ヶ月前までに地方長官に送付される。当該議決が違法
であると推定される場合、地方長官は議決の受理から 10 日以内に行政裁判所(tribunal
administratif)に提訴する。この場合、同時に執行停止の申立を行なうことができる。行
政裁判所は執行停止の申立に対し 1 ヶ月以内に判示し、諮問にかけられる案の合法性に関
して重大な疑義を生じさせるものがあると思われる場合は、当該執行停止の申立に応じる。
また、諮問実施の議決が、公の自由又は個人の自由を侵害すると思われる場合は、行政
裁判所は 48 時間以内に執行を停止させる。
地方長官は、執行停止の場合を除き、コミューンを除く地方団体の諮問実施の議決を、
15 日以内に、諮問が予定されているコミューンに通知する。通知を受けたメール34は投票
を実施するが、メールがその実施を拒否する場合、地方長官はメールに投票実施命令を発
した後、自ら実施する。
34
日本の市町村長にあたる。
- 22 -
諮問の実施にかかる費用は、当該諮問の実施を決定した地方団体の義務的経費となる。
他の地方団体の決定した諮問を実施するためのコミューンの投票関連費用は、当該コミュ
ーンの登録有権者数及び設置投開票所数に基づいて計算された一括交付金の形で補償され
る。なお、当該交付金の額はデクレにより決定される。
有権者は提示された議決案又は行政行為案に対して賛成又は反対の意見を表明し、地方
団体は諮問の結果を踏まえて決定を行う。
また、地方団体が諮問を実施することができない期間について、地方自治総合法典第
L.O.1112-6 条35が準用される。
有権者に関しては、地方自治総合法典第 L.O.1112-11 条36が準用される(地方自治総合法
典第 L.1112-22 条)。
さらに、従来はコミューン合併の時に構成コミューンの申請等により実施していた有権
者への諮問を、義務的に実施することとしている。
なお、この諮問的住民投票及び地方議会の機能についての規定は、地方自治総合法典第
1 部第 1 巻第 1 編第 2 章に有権者の諮問に関する第 2 節(第 L.1112-15 条から第 L.1112-22
条)及び同法第 L.2113-2 条として追加される。
(2)
地方議会の運営方法(fonctionnement des assemblées locales;第 124 条及び第 125 条)
従来から、地方自治総合法典により、地方議会の召集、日程及び審議案件に関する情報
を議員の自宅へ文書によって送付することが規定されていたが、送付の形態については特
に規定がなかった。2004 年権限移譲法により、書面であれデジタル媒体であれ、いかな
る形式でも送付できることが確認された。
(3)
地方の政策評価(Evaluation des politiques locales;第 130 条)
地方団体の政策評価について、以下のように改正された。
従来より国から地方団体への権限移譲をする場合、政策評価に関する追跡調査の必要性
から当該権限の行使に関する統計の作成が地方団体に義務付けられていたが、今回の改正
により、地方団体間の比較が可能になるように、国は全国から集められた一般データの解
析結果、又は自治体の権限執行に関する分野のデータ解析の結果を地方団体又は広域行政
組織に定期的に通知することとなった。
8
コミューン及びコミューン間広域行政
2004 年権限移譲法第Ⅸ編は、コミューンの地位の強化、コミューン間広域行政の強化
及び簡素化を目的としている。
35
36
CLAIR REPORT 第 251 号「フランスの新たな地方分権について その 1」26 ページ以下参照
CLAIR REPORT 第 251 号「フランスの新たな地方分権について その 1」28 ページ以下参照
- 23 -
(1)
コミューンの権限(Les compétences des communes et des maires;第 145 条から第
148 条)
①コミューンの責務
コミューンは行政の第 1 段階(le premier niveau d’administration publique)かつ近
接性の第 1 段階(le premier échelon de proximité)であり、コミューン及びコミューン
間広域行政組織は州や県とともに権利の平等(l’égalité de droits)及び地方で果たされる
責務(les responsabilités qui sont exercées localement)を保証する使命を有する。
コミューン及びコミューン間広域行政組織は、法によって規定する方法により、州又
は県が策定する計画等の策定に参加する。
コミューン及びコミューン間広域行政組織は、協定の規定する条件に基づく要望によ
り、州又は県に属する権限の全部又は一部の行使に参加することができる。
②財産
民法を改正し、従来コミューンに所属することとされていた、相続が放棄された物品
ないし相続人のいない死亡者の持ち物の所有権は、国の所有となる。また、国有財産法
を改正し、所有者不在物品の所有権を、従来存在した県地方長官の関与を経ずに、直接
当該物品が存在するコミューンに帰属させる。なお、コミューンが当該権利を放棄した
場合、国の所有となる。
③兼職
コミューン議員と、他のコミューン議員が代表を務める社会福祉センター(CCAS)
の職員との兼務が禁止される。また、従来、メールが所有する企業の職員とコミューン
の助役の兼任は禁止されていたが、当該職員が企業所有者(メール)の権限の実施に直
接関わっていなければ、助役に就任することができるとされた。
(2)コミューン間広域行政組織への権限の委任(第 151 条)
フランスの地方団体はコミューン、県、州であり、コミューン間広域行政組織は含まれ
ていない。しかし、規約により明確に規定された場合には、固有課税型コミューン間広域
行政組織(l’établissement public de coopération intercommunale à fiscalité propre)37が、
地方団体により与えられた権限の全てあるいは一部を、県又は州の名において、その代理
機関として執行することができる(第 151 条)。
(3)コミューン間広域行政組織の再編と統合(第 152 条、第 153 条及び第 155 条)
従来、あるコミューン間広域行政組織が他のコミューン間広域行政組織へ変化する場合
の規定は存在したが、本法により、新たにコミューン間広域行政組織の再編及び統合が規
定されることとなった。
①再編・統合の条件
(再編)
37
固有の税源を有する、コミューン間の広域行政組織のこと。コミューン共同体、都市圏共同体等がある。
- 24 -
あるコミューン事務組合が、実質的に、参加コミューンに代わって事務を行う主体で
あり、かつ、法によりコミューン都市圏共同体 38 あるいはコミューン共同体 39 の権限と
して定められている権限を行使している場合で、それらの共同体のどちらかの創設条件
を満たしている場合、条件を満たした共同体への再編(移行)が可能である。
(統合)
固有課税型コミューン間広域行政組織とその他のコミューン間広域行政組織との統合
は、県地方長官によるアレテの発出、並びにコミューン間広域行政組織参加コミューン
及びコミューン間広域行政組織評議会の議決により認められる。
さらに、混合事務組合40についても統合が許可される。
②決定方法
(再編)
コミューン事務組合がコミューン共同体あるいは都市圏共同体に再編(移行)する場
合、再編は、その提案が行われてから 3 ヶ月以内になされる、組合委員会とそれぞれの
参加コミューン議会における特別多数決 41による議決及び関係する県地方長官によるア
レテにより決定される。もしも 3 ヶ月以内に議決が行われない場合には、議決をしなか
ったコミューン事務組合又はコミューンは提案に賛成とみなされる。
(統合)
固有課税型コミューン間広域行政組織の統合は、1)統合を希望する 1 つ若しくは複
数のコミューン間広域行政組織参加コミューン議会又はコミューン間広域行政組織評議
会が統合を希望する旨の議決を行った後、2 ヶ月以内に別の1つ若しくは複数のコミュ
ーン間広域行政組織参加コミューン又はコミューン間広域行政組織評議会が同内容の議
決を行った場合、2)関連するコミューン間広域行政県委員会 42 により統合を求める答
申がなされた場合、の 2 つの場合において、関連する県地方長官のアレテにより、まず、
統合後のコミューン間広域行政組織の区域の境界の提案がなされる。そのアレテから 3
ヶ月以内に、各コミューン間広域行政組織評議会による決議及び統合後の全参加コミュ
ーンによる特別多数決がなされることにより統合が認められる。もしも 3 ヶ月以内に議
決が行われなかった場合には、議決しなかったコミューン間広域行政組織又はコミュー
ンは、当該提案に賛成とみなされる。
また、混合事務組合の統合に関しては、各混合組合の決定機関による決議と、総人口
の半分以上を代表する各組合において 3 分の 2 以上の賛成、もしくは総人口の 3 分の 2
を代表する各組合において半数以上の賛成を得られた場合に統合が認められる。
38
一定規模の中心都市を有する連合型広域行政体。
コミューンが構成する連合型広域行政体。
40 1 つ以上の地方団体又はその広域行政組織を含む公施設法人で、異なるレベルの地方団体や商工会
議所等の公的な法人で構成される。
41 コミューン間広域行政組織を構成する総人口の半分以上を代表するコミューン議会における 3 分の 2 以
上、もしくは総人口の 3 分の 2 以上を代表するコミューンの議会の半分以上を指す。
42 地方長官、コミューン議会議員、コミューン間広域行政組織代表、県議会議員、州議会議員で構成され
る委員会。広域行政組織の設立、変更等に関する提案ができる。
39
- 25 -
③再編・統合後の権利・義務
(再編)
再編されるコミューン事務組合の物品、権利、義務、職員及び再編前の組合の決議に
基づく責任は、再編を決定する県地方長官のアレテの日付をもって再編後のコミューン
間広域行政組織へ引き継がれる。また、契約は当事者の反対が無い限り、再編前に定め
られた条件で契約期限まで有効である。コミューン事務組合からコミューン共同体又は
都市圏共同体への再編においては、国又は他の地方団体からの財政的補償が一切行われ
ない。再編後のコミューン間広域行政組織に関して、コミューン間広域行政組織評議会
における議席再配分と、その委員を選出するための選挙 43が各構成コミューンにおいて
行われる。
(統合)
統合後のコミューン間広域行政組織は、自動的に、選択可能な形態の中で、最も多く
の義務的権限を有する固有課税型コミューン間広域行政組織 44となる。統合前のコミュ
ーン間広域行政組織の物品、権利、義務、職員は統合後のコミューン間広域行政組織へ
引き継がれる。統合後のコミューン間広域行政組織は、その権限の執行において統合前
のコミューン間広域行政組織を代替する。また、契約は当事者の反対が無い限り、統合
前に定められた条件で契約期限まで有効である。統合後のコミューン間広域行政組織評
議会の議席の配分については、統合後のコミューン間広域行政組織の領域を提案するア
レテが県地方長官から出されてから 3 ヶ月以内になされる。また、統合後のコミューン
間広域行政組織評議会委員を選出するための選挙が各構成コミューンにおいて行われる。
統合前にコミューンからコミューン間広域行政組織へ既に移譲されていた権限は、統
合後のコミューン間広域行政組織へ自動的に引き継がれるが、統合時点においてコミュ
ーンからコミューン間広域行政組織へ移譲が予定されている権限については、予定どお
り移譲を受けるか、又は移譲を取りやめるかを統合後のコミューン間広域行政組織が選
択できる。
なお、1 以上のコミューン共同体又は都市圏共同体を含む統合が行われた場合、統合初
年度に国からコミューン間広域行政組織へ交付される交付金は、統合前のコミューン間広
域行政組織の税統合係数(coefficient d’intégration fiscale)45の値を用いることとなる。
複数の固有課税型コミューン間広域行政組織が統合した場合、統合 1 年目の交付金算定に
用いられる税統合係数は、統合前のこれらのコミューン間広域行政組織が用いていた税統
合係数のうち、最も高い値が用いられる。
また、通常、コミューン共同体が設立された際には、設立初年度に国から交付される交
付金は、本来受け取るべき額(算定上の額)の 50%相当額とされているが、統合後のコ
43
コミューン間広域行政組織の議員は各構成コミューン内で選出されたコミューンの代表者である。なお、
選出は住民の直接選挙ではなく、コミューン議会議員によって間接的に行われる。
44 固有課税型コミューン間広域行政組織には 4 形態存在し、形態によって義務的に執行する権限、選択
可能な権限等の範囲が異なる。
45 交付金の算定の際に用いられる係数
- 26 -
ミューン共同体には当該規定が適用されない。
統合後のコミューン共同体又は都市圏共同体が統合初年度に国から受け取る交付金は、
統合前の固有課税型コミューン間広域行政組織の交付金と同額とする。もしも統合前に複
数の固有課税型コミューン間広域行政組織が存在していた場合には、その中で最も高い住
民 1 人当たりの交付金額を基にして、交付金額を計算する。
(4)コミューンの合併(第 157 条)
従来より、コミューンが合併した際には、合併前後でその歳入が大きく落ち込むことが
ないように、国による歳入補填という形で激変緩和措置が採られてきたが、本法により、
当該措置の拡充が図られる。具体的には以下のとおりである。
(従来)合併前後でコミューンの歳入が減少している場合、措置初年度においては、合
併前後のコミューンの歳入差額の 6 分の 5 を交付。以下 5 年間にわたり、前年分
より歳入差額の 6 分の 1 ずつ減額した額を交付。
(改正後)合併前後でコミューンの歳入が減少している場合、措置初年度においては、
合併前後のコミューンの歳入差額の 13 分の 12 を交付。以下 12 年間にわたり、
前年分より歳入差額の 13 分の1ずつ減額した額を交付。
(5)業務及び組織の委任(第 166 条)
業務運営上有益であるならば、コミューン間広域行政組織と1又は複数の参加コミュー
ン間で協定を結ぶことにより、コミューン間広域行政組織は当該コミューンに自己の業務
の一部あるいは全部の運営を委任することができる。その場合、当該コミューンはコミュ
ーン間広域行政組織に前述の協定を通じて必要経費を要求できる。また、コミューンが協
定に基づいて執行する業務を本来担当するコミューン間広域行政組織の部署は、当該コミ
ューンの直接の指揮命令及び監督下に属する。
また、その反対に、コミューンが自己の参加するコミューン間広域行政組織と協定を結
ぶことにより、コミューンはコミューン間広域行政組織に自己の業務の一部あるいは全部
の運営を委任することができる。その場合、コミューン間広域行政組織は当該コミューン
に前述の協定を通じて必要経費を要求できる。また、コミューン間広域行政組織が委任協
定により執行する業務を担当するコミューンの部署は、当該コミューンの直接の指揮命令
及び監督下に属する。
なお、2005 年 1 月現在、1992 年冬季オリンピック開催地であるアルベールビル等のコ
ミューンにおいて、この組織の委任を予定している。
(6)欧州区(district européen)の創設(第 187 条)
地方団体とコミューン間広域行政組織は、法人格と財政自治を備えた国境間協力集合体
として、外国の地方団体と共に「欧州区」を設置することができる。
①目的
欧州区の目的は、各参加地方団体の利益を保護し、公共サービス及び公共施設を創出
- 27 -
及び管理することである。
②法人格
その法人格は、欧州区が存在する州の州地方長官によるアレテにより、アレテで定め
られた日付において認められる。
③欧州区を設立できる場合
以下の4つの場合において、欧州区を創設することができる。
1)フランスの地方団体と外国地方団体が共同で設立する場合
2)フランスのコミューン間広域行政組織と外国地方団体が共同で設立する場合
3)外国の地方団体がフランスの混合組合に参加する場合
4)外国のコミューン間広域行政組織がフランスの混合組合に参加する場合
(7)その他コミューン間広域行政組織に関する改正(第 159 条、第 161 条、第 162 条、
第 163 条、第 166 条及び第 175 条)
①コミューン間広域行政組織評議会議席の変更
コミューン間広域行政組織の区域又は権限の変更の際に、コミューン間広域行政組織
評議会又は参加コミューン議会の要請により、コミューン間広域行政組織評議会の議席
数又は参加コミューン間の議席配分の変更が可能である。
②組合型コミューン間広域行政組織参加コミューンの編入にかかる特例
コミューン事務組合又は混合組合に参加しているコミューンの一部又は全部が、コミ
ューン共同体又は都市圏共同体に編入される場合、当該コミューンは編入先のコミュー
ン間広域行政組織においても、編入前に組合内で有していた代表者数を保有する。
③大都市共同体(communauté urbaine)46の議席数にかかる特例
大都市共同体が新規にコミューンを編入する場合、新規コミューンが 1 議席以上の議
席を有することとし、その結果として、地方自治総合法典で規定する議席数よりも多く
なることも可能とする。ただし、その場合は、次回の選挙時に修正を図ることとする。
④コミューン間広域行政組織の長による諸規定の設定
コミューン間広域行政組織の長は清掃、家庭ごみの収集について、権限の範囲内で規
定を設定することができる。
⑤コミューン間広域行政組織職員の出向
固有課税型コミューン間広域行政組織に関しては、共同体及び参加コミューンの定め
る職員規定の枠内において、コミューンへの出向が可能である。
⑥コミューンの加入に際しての特例
県地方長官は、コミューン間広域行政組織へ新規にコミューンが参入する場合に際し
て、他の構成コミューンが当該コミューンの参入を拒否する場合であっても、コミュー
ンのコミューン間広域行政組織への加入を許可できる。
46
共同体内に 50 万人を超える人口を有する連合型コミューン間広域行政体。
- 28 -
9
異なる地方団体間での定期的協議の場(第 202 条)
権限の執行に関して、法により協議が規定される全ての案件並びに 2 つ以上の地方団体
間の検討が必要とされる分野の調査及び議論のため、「執行者会議」と名づけられる協議
機関が創設される。この機関は州議会議長と州内の県議会議長、大都市共同体議長及び都
市圏共同体議長により構成される。この会議は県議会議長の提案により少なくとも 1 年に
1 回召集される。
- 29 -
第3章
社会参入最低限所得の地方分権化及び社会活動最低限所得創設に関する法律
第1節
法律制定の経緯
社会参入最低限所得の地方分権化及び社会活動最低限所得創設に関する 2003 年 12 月
18 日 付 第 2003 ‐ 1200 号 法 律 (loi n°2003-1200 du 18 décembre 2003 portant
décentralisation en matière de revenu minimum d'insertion et créant un revenu
minimum d'activité、以下「RMI-RMA 法」という)は、2003 年 5 月 7 日に閣議決定され、
5 月 27 日に上院で修正の上可決。11 月 25 日に国民議会で修正の上可決された後、上院
に再送付された。これを受けて、12 月 10 日に上院で再可決され、12 月 18 日に憲法評議
会の審査を経て、同日付で公布されている。
同法は、2004 年 1 月 1 日から社会参入最低限所得(revenu minimum d'insertion、通称
RMI)制度に関する権限を県に移譲するとともに、社会活動最低限所得(revenu minimum
d'activité、通称 RMA)制度を創設するものである。
同法は、RMI 手当受給者に対して、社会参入及び雇用のよりよい機会を提供すること
を目的の一つとしている。そのためには、RMI 手当受給者に対して職業面での社会参入
と私的側面での社会参入を支援する必要があり、これらの社会参入がその者に関係のある
地域や個人を通じて行われるものであるため、RMI 制度を地方分権化して、国から県に
権限移譲するものである。当該権限移譲は、今回の地方分権改革における地方団体に対す
る最初の権限移譲となった。
第2節
RMI 制度の概要
RMI 制度は、社会参入最低限所得に関する 1988 年 12 月 1 日第 88‐1088 号法(loi
n°88-1088 du 1er décembre 1988 relative au revenu minimum d'insertion、以下「1988
年法」という)により創設されたものであり、経済・雇用状況等による非就労者に対して
最低限所得を保障しつつ、RMI 手当受給者が社会的及び職業的参入を果たすことを目的
としている。
RMI 制度は、RMI 手当支給及び社会参入(insertion)からなる。まず、対象者はフラン
スに居住し、収入が一定の最低限所得に達しない 25 歳以上の個人等であり、最低限所得
基準と受給権者の世帯収入との差額を支給するものである。従来は県地方長官が RMI 手
当の支給決定権限を有し、その財源は全額国庫負担であった。
次に社会参入について、1988 年法により、県議会議長と県地方長官が共同議長を務め
る社会参入県評議会(Conseil départemental d’insertion:CDI)と、県議会議長と県地方
長官の共同管轄下におかれる社会参入地域委員会(Commission locale d’insertion:CLI)が
創設され、CDI は社会参入県計画(programme départemental d’insertion:PDI)の策定を、
CLI は社会参入地域計画(programme locale d’insertion:PLI)の策定などを行う。RMI 手
当受給者は、原則的に手当受給開始の 3 ヶ月後には、本人の能力に応じた内容の社会参入
契約(contrat d’insertion)に署名しなければならず、署名された社会参入契約は CLI の承
- 30 -
認を受けなければならない。
(2004 年 12 月 31 日現在で受給者はおよそ 106 万人であり、1 年未満の受給者が 21.3%
であるのに対し、1 年以上 2 年未満が 21.5%で、2 年以上 3 年未満は 26.2%、3 年以上 10
年未満は 18.0%、10 年以上は 13.0%に上っており(%は 2000 年 2 月現在の割合)、長期受
給者が多い。また、職業経験のない受給者も 22.6%となっている。
第3節
RMI-RMA 法の概要
RMI-RMA 法は、第Ⅰ編により県への RMI 制度に関する権限移譲を、第Ⅱ編により
RMA 制度の創設を、第Ⅲ編により統計、評価及び監督に関して規定している。
1
県への RMI 手当の移譲
従来 RMI 手当の支給については国が、社会参入については県が権限を分担していたが、
RMI-RMA 法による改正は、この権限のねじれを解消することを目的としている。
まず、2004 年 1 月 1 日以降、県に RMI 手当の支給決定及び手当支給に関する権限が移
譲された。また、CDI については、その議長の職が県議会議長に委ねられ、従来は県議会
議長と県地方長官で決定していた評議員を県議会議長が単独で決定することとなった。一
方、CLI については、従来県議会議長と県地方長官で決定していた委員長及び委員を県議
会議長が単独で決定することとなり、県議会議長に社会参入契約の承認の権限が移譲され
る。更に、県議会議長は CDI の意見を踏まえて PLI を策定し、実施する。
2
RMA 制度の創設
RMA 制度の創設は、長期間にわたる RMI 受給者の存在が多いことを背景として、就労
が困難な RMI 受給者の社会的・職業的参入を容易にし、RMI 制度における社会参入を補
完することを目的とする。その運営面及び財政面に関する権限は県が有する。
RMA は、最低週 20 時間で 2 回の更新が可能な 6 ヶ月の労働契約(つまり最長 18 ヶ月
の労働契約)を意味する Cirma(社会活動最低限所得参入契約)に基づく手当てを指す。
2 年以上の RMI 受給者は、労働契約締結時に、契約条件として最低週 20 時間 Cirma を
組み込んだ労働契約を締結することができる。当該労働契約締結者は RMI の地位も同時
に保持し、全体で週当たり少なくとも法定最低賃金(SMIC)の時給の 20 時間分の給与を受
け取る。
第4節
権限移譲にかかる財源補償
財源補償に関しては、RMI-RMA 法第 4 条により、予算法の定める条件に基づき、国の
徴収する税収の一部の付与により補償されることが規定された。その額については、2004
年は 2003 年の社会参入最低限所得の支出を基に算定され、2005 年以降については、予算
法により調整される(2005 年は予算補正法)。
この条項を受けた 2004 年予算法(loi n°2003-1311 du 30 décembre 2003 de finance
- 31 -
pour 2004)第 59 条に詳細について規定してあり、今回の RMI-RMA 法による権限移譲に
かかる県に対する税源移譲は、2004 年は約 50 億ユーロ(約 6750 億円、換算レート:1 ユ
ーロ=135 円)となっている。
2004 年の RMI-RMA 法による権限移譲に関して付与される財源は、2003 年の国の
RMI 手 当 給 付 及 び 社 会 政 策 ・ 家 族 法 典 第 L.522-14 条 に 基 づ く 連 帯 所 得 (revenu de
solidarité)支出額と同額とするとされ、その財源はエンジン用燃料に対する石油製品内国
税の税収の一部によるが、2004 年予算法においては、2003 年のエンジン用燃料販売量並
びに国の RMI 手当給付額及び連帯所得給付額が確定していないため、暫定的な金額とさ
れた。また、この財源については、2005 年予算補正法の中で RMA 制度の創設及び RMI
手当給付の増加による支出の増加を考慮して修正し、2004 年の県の RMI 手当給付及び
RMA 制度に関する支出額が確定した後の直近の予算法により、RMI 手当給付及び RMA
制度の支出の増加を考慮して、最終的な予算額を決める。
各県は、移譲額として、2003 年に国が当該県において RMI 手当給付及び連帯所得給付
として執行した支出額と同額を受け取る。当該金額については、内務省及び決算担当省の
共同アレテにより確定されるが、2003 年の国の RMI 制度にかかる支出の最終的な金額が
確定するまでは、内務省及び決算担当省の共同アレテにより暫定的に決定される。
また、2006 年以降は、政府は 3 年ごとに国会に、各県の支出総額に対する RMI 手当及
び連帯所得の割合、並びに RMA 手当受給者一人当たりの支出額の年伸び率、各県の当該
施策の行政的及び財政的運営管理情報、各県の RMI 手当、連帯所得及び RMA 手当受給
者数の変化の分析に関する報告書を提出する。
- 32 -
第4章
地方団体の財政自治に関する組織法律
第1節
法律制定の経緯
地方団体の財政自治に関する 2004 年 7 月 29 日付第 2004-758 号組織法律(Loi
organique n°2004-758 du 29 juillet 2004 prise en application de l’article 72-2 de la
Constitution relative à l’autonomie financière des collectivités territoriales)は、当該法
律案が 2003 年 10 月 22 日に閣議決定された。同法案は 2003 年 3 月に改正された憲法第
72 条の 2 第 3 項において、「いかなる地方団体においても、税収及び固有財源が、当該地
方団体の全収入のうちで決定的な割合を占めなければならない。この規定の適用に関し必
要な事項は、組織法律で定める。」と規定されていることを受けて制定されたものである。
同法案は、2004年5月12日から行われた国民議会第1審議、同年6月1日から行なわれた
上院第1審議、同年6月23日から行なわれた国民議会第2審議、同年7月21日及び22日の上
院第2審議を経て、可決された。その後、法案は憲法評議会による違憲立法審査を受け、7
月29日に組織法律第2004-758号として制定された。
この組織法律は、全 5 条からなる法律である。まず、第 1 条では地方自治総合法典第 1
部第 1 巻第 1 編に「第 4 章
財政自治」を挿入すること、第 2 条ではこの組織法律の対象
となる地方団体のカテゴリーについて、第 3 条では固有財源について、第 4 条では全収入
のうちでの決定的な割合について、第 5 条ではこの組織法律の適用の保証について規定し
てある。
第2節
1
内容
対象団体(地方自治総合法典第 L.O.1114-1 条)
地方団体の財政自治に関する組織法律の対象となる地方団体のカテゴリーは、コミュー
ン、県及び州である。ただし、県のカテゴリーには、マイヨット、サン・ピエール・エ・ミ
クロン(いずれも海外県)及び 1 又は複数のコミューンと県の合併により生ずる特別な地
位 を 有 す る 団 体 (les collectivités à statut particulier issues de la fusion d’une ou
plusieurs communes et d’un département)が含まれ、州のカテゴリーには、コルス(英語
読みではコルシカ)州や海外地方団体、県及び州の合併により生ずる特別な地位を有する
団体(les collectivités à statut particulier issues de la fusion de départements et de
regions)などが含まれる。
2
固有財源(地方自治総合法典第 L.O.1141-2 条)
固 有 財 源 は 、 憲 法 第 72-2 条 第 2 項 に 規 定 さ れ る あ ら ゆ る 種 類 の 租 税 等 賦 課 金
(impositions de toutes natures)、給付役務にかかる利用料(redevances pour services
rendus)、財産収入(produits du domaine)、都市計画負担金(participations d'urbanisme)、
財務収益(produits financiers)、寄付及び遺贈(dons et legs)である。あらゆる種類の租税
- 33 -
等賦課金とは、法律により地方団体がその課税標準、税率若しくは料金を決定することを
認められたもの、又は法律により地方団体ごとに課税標準若しくは税率を当該団体で決定
することができるようにしたものである。
なお、コミューンのカテゴリーの固有財源には、コミューン間広域行政組織の固有財源
が加えられる。
3
「全収入のうちでの決定的な割合」(地方自治総合法典第 L.O.1114-3 条)
「全収入のうちでの決定的な割合」は、この組織法律の第 1 条に規定されるカテゴリー
ごとに計算された数値によって判断されるものである。
全ての地方団体のカテゴリーについて、固有財源の割合は、固有財源総額を、歳入総額
から地方債、実験として移譲された権限又は国から委任された権限に関する国からの財政
措置及び同一カテゴリーの地方団体間の財政移転を除いた金額で除して、算出される47。
ただし、コミューンの歳入総額には、コミューン間広域行政組織の歳入総額から地方債、
実験として移譲された権限又は国から委任された権限に関する国からの財政措置を除いた
金額を加え、コミューンとコミューン間広域行政組織の間の財政移転による重複を差し引
く。
この「決定的な割合」は、地方団体の各カテゴリーにおいて、固有財源の割合が各々の
権限を考慮して、地方団体の行政運営の自由を保証する場合に、決定的であると見なすこ
とができるものであり、具体的には現段階では 2003 年に確認された固有財源の割合を下
回ることはできないとされているのみである。
4
組織法律の適用の保証(地方自治総合法典第 L.O.1114-4 条)
政府は、地方団体の各カテゴリーの当該年度の固有財源の割合、その算定方法及び伸張
状況に関する報告書を、遅くともその翌年度の 6 月 1 日までに国会に提出する。
固有財源の割合が本法第 3 条によって規定される全収入のうちでの決定的な割合を満た
さなかった場合、国会は遅くとも当該年度の翌々年度の予算法において、必要な措置を決
定する。必要な措置を講じない場合、憲法裁判所の審査を受けることとなる。
47
計算式の形にすると、以下のようになる。
(固有財源の割合)=固有財源総額/(歳入総額-地方債-財政措置(*1)-財政移転(*2))
*1:実験として移譲された権限及び国から委任された権限に対する国による財政措置
*2:同一カテゴリの地方団体間の財政移転
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参考文献
(書籍)
『フランスの地方自治』(2002 年 1 月)、財団法人自治体国際化協会
『フランスの地方分権 15 年』(クレアレポート第 221 号、2001 年 10 月 12 日)、財団法人
自治体国際化協会
『フランスの新たな地方分権
その1』(クレアレポート第 251 号、2003 年 11 月 28 日)、
財団法人自治体国際化協会
『フランス法律用語辞典』中村紘一・新倉修・今関源成監訳(2002 年 1 月)、三省堂
『フランスの政治』奥島孝康・中村紘一編(1993 年 10 月 25 日)、早稲田大学出版部
「フランスにおける地方分権の動向(十一)」山崎榮一、『地方自治』平成 16 年 4 月号、地
方自治制度研究会編、ぎょうせい刊
「フランスにおける地方分権の動向(十二)」山崎榮一、『地方自治』平成 16 年 5 月号、地
方自治制度研究会編、ぎょうせい刊
『La Décentralisation』、Jacques Baguenard PUF(2002 年 1 月)
「La décentralisation, nouvelle frontière de la République」『Collectivités Territoriales
Intercommunalité』2004 年 11 月号
(ホームページ)
首相府 HP:http://www.premier-ministre.gouv.fr/fr/
首相演説:
http://www.premier-ministre.gouv.fr/acteurs/discours_9/premier_ministre_m146/
内務省 HP:http://www.interieur.gouv.fr/
内務省地方団体総局 http://www.dgcl.interieur.gouv.fr/
内務大臣演説:
http://www.interieur.gouv.fr/rubriques/c/c1_le_ministre/c13_discours/index_html
http://www.interieur.gouv.fr/rubriques/c/c1_le_ministre/c17_discours_sarkozy
上院 HP:http://www.senat.fr/
国民議会 HP:http://www.assemblee-nationale.fr/
(執筆者)
監修
担当
所
長
四方
和幸
次
長
富澤
信央
前所長補佐
緒方
兼太郎
所長補佐
中村
俊介
調
Stéphanie
査
員
DUROSOY
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