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第 1 章 洗濯機
第1章 洗濯機 - Ⅱ- 1- 1 - 1.1 実施目的・調査範囲・実施手順 家庭用大型洗濯機を対象として LCCBA(ライフサイクル費用便益分析)を行い、環境影響 コスト面から負荷の大きい箇所を抽出した。これらに対して環境対応策を設定し、その評 価を行い、対応製品の設計製造を行い、最終製品の LCCBA 評価を行った。 (a)洗濯機の構造と機能 洗濯機は衣類を洗濯槽に入れ、水および洗剤を注いで回転翼の回転による水流によって 衣類を洗濯し、さらに排水後水道水を注いで、すすぎをおこない、排水後洗濯槽を高速回 転させて遠心力により脱水を行うものである。このため洗濯機は筐体部、洗濯槽部、駆動 部、循環部、乾燥部、制御部などから構成されている。 (b) 環境影響の潜在性の推定(どのような部分で環境影響が大きいと推定されるか) 洗濯機は重量 70kg と重く、駆動部分、筺体部分などに各種の材料を用いるため素材~ 製造の環境負荷が大きいと予想される。また長期の使用時の環境負荷が大きく、廃棄時の 処理なども環境負荷が大きい可能性がある。 調査範囲は素材から製造、輸送、使用、リサイクルおよび廃棄までを対象とした。 LCCBA では、大きく以下の手順で実施するものとした。 (1) LCC および LCA の実施:ライフサイクルの視点から、環境と経済側面の評価を定量的 に分析する。エコデザイン(環境配慮型設計)を具体的に実施するための方針が得られれ ば次のフェーズに移行する。得られないときはデータ収集方法などを見直し、ステップ2、 テップ3、とエコデザイン(環境配慮型設計)の実施指針が得られるまで繰り返す。 (2) LCCBA の実施:エコデザインのためのシナリオごとに環境影響とコストの変化量を算 定するとともに、その結果をもとに費用対便益分析を行う。 (3) 最終製品の評価:シナリオ分析の結果から採用するエコデザインのシナリオを決定し、 これらをまとめた最終製品案を作り、当該製品の環境と経済改善効果を評価する。 以下、これらの手順に沿って洗濯機を対象とした評価結果について述べる。 1.2 LCA および LCC の実施 LCA については環境負荷データおよび LCIA(ライフサイクル影響評価)手法を利用し て環境影響の統合評価を行った。ここでは、LCCBA を効果的に実施するため、以下の要 領で評価を行った。 以下、各ステップごとにその評価の実施方法と結果について示す。 はじめに、現在製造事業所が LCA 実施のために所有しているデータの範囲内で LCA を 実施した(LCA Step1) 。 - Ⅱ- 1- 2 - 上記結果を受けてエコデザインのための方針を得るために新規に調査が必要なデータ を抽出し製造事業所が実施した調査結果を反映した LCA を実施し、エコデザインのた めの指針を得た。 (LCA Step2) また LCC についても効果的に経済分析を行うため LCA と同様、以下のような要領で 実施した。 ・ はじめに、製造事業所へのヒヤリング(日立アプライアンス㈱, 2006)をもとに 現在製造事業所が有している情報の範囲から一般的なデータベースによる LCC を実 施した。 (LCC Step1) ・ 上記結果を受けてエコデザインのための方針を得るために新規に調査が必要な データを抽出するべく製造事業所が実施した調査結果を反映した LCC を実施し、エ コデザインのための要点を抽出した。(LCC Step2) 1.2.1 LCA Step1 および LCC Step1 の実施 (a) LCA Step1 資源から生産まで、輸送、使用、廃棄・リサイクルについてそれぞれ以下のようにして データを収集した。 資源から生産まで:素材や梱包材の材料の種類と重量を製造事業所へのヒヤリングに より得た。部品製造、組立生産の際のユーテリティは含めない。 輸送:東京から大阪までの往復輸送を想定した。距離は 500km、重量は 70kg とした。 使用:公開されている調査データ(久保ら, 2005、東京二十三区清掃一部組合,2001) をもとに 11.5 年使用したものと想定した。電力と水、洗剤の消費量に関しては洗濯機 製品調査結果(日本電機工業会, 2006)に基づき、8kg 以上の家庭用大型洗濯機の平均 値を利用した。 リサイクルおよび廃棄は、構成素材と梱包材のリサイクルおよび廃棄量をヒヤリング により得た。リサイクル効果として、再生材の生産に伴って新規の材料生産が回避され ることによる環境影響削減効果を含めた。 上記基礎データから、マテリアルフローを作成し、これらにインベントリデータ、影 響評価手法を適用して、LCA を行った。インベントリデータは、なるべく国内のデータ ベース(AIST ver.4(産業技術総合研究所, 2005) 、 3EID(南斉ら, 2006)など)を利用 することとしたが、整合性が良くない場合は海外のデータ(Ecoinvent(Swiss Center for Life Cycle Inventories, 2005)など)も合わせて活用した。影響評価手法についても、 国内の手法を利用することを重視するため、LIME(日本版被害算定型環境影響手法) (伊 坪ら, 2004)を一律に利用した。LCA に利用される上記データを LCA ソフトウェア Simapro7(Pre consultants, 2006)に入力し、環境影響の評価を行った。評価は、LIME - Ⅱ- 1- 3 - の結果として出力される特性化、被害評価、統合化すべてを利用した。図 1.2-1 に評価 結果の例として洗濯機の環境影響統合化結果を示す。 4000 3500 環 境 影 響 ( 円 ) 3000 2500 2000 1500 水 1000 洗剤 500 電力 0 ステージ 図 1.2-1 LCA Step1 の評価結果(横軸は円) 素材から生産までと使用における環境影響が大きかった。素材から製造までは、部品等 詳細なデータは無く、その内訳について考察することができない。使用は水の影響が最 も大きく、洗剤の影響がこれに次いで大きかった。リサイクル・廃棄、輸送時における 環境影響は上記のプロセスに比べると相対的に小さかった。 (b) LCC Step1 資源から生産まで、輸送、使用、廃棄・リサイクルについてそれぞれ以下のようにして データを収集した。 資源から生産まで:電気洗濯機の生産者価格として、産業連関表、部門別品目別国内 生産額表(総務省ら, 2004)を利用した。 輸送:日本全国の輸送を単純化して東京から大阪までの往復輸送を想定した。距離は 500km、重量は 70kg、1 回の輸送において 6 トントラックで製品 84 台を輸送するものと して、一台あたりの費用を算定とした。 使用:公開データを下に 11.5 年使用したものと想定した。電力と水、洗剤の消費量 に関しては日本電機工業会による洗濯機製品調査(日本電機工業会, 2006)に基づき、 8kg 以上の家庭用大型洗濯機の平均値を利用した。ただし、修理やメンテナンスの費用 - Ⅱ- 1- 4 - は含めなかった。 リサイクルおよび廃棄は、経済産業省による再商品化施設の試算結果(経済産業省, 2006)から再商品化施設の洗濯機処理費用の平均値を採用した。 上記基礎データから、マテリアルフローを作成し、これらに各ステージのコストデー タを割り当てて LCC を行った。図 1.2-2 に洗濯機の LCC の分析結果を示した。 250,000 200,000 150,000 100,000 50,000 0 ステージ 図 1.2-2 洗濯機の LCC Step1 の結果(横軸は円) これによれば、使用が全体の 80%を占め最も大きく、素材~製造がこれに次いで大き かった。輸送およびリサイクル・廃棄は上記プロセスに比べて小さかった。使用の中で は、水消費に伴うコストが最大であったが、洗剤とともに、費用計算のための基礎デー タ、特に洗濯回数に関するデータが十分でなかった。また、素材~製造までの費用は内 訳が得られないためこれらの構成について検討する必要があるものと考えられた。 (c) LCA Step1、LCC Step1 の妥当性の検証 LCA Step1、LCC Step1 により得られた結果について検討し、エコデザインのための 具体的な方針が得られるかどうかについて検証した。 ・LCA Step1 生産までのプロセスは相対的に環境影響が大きく、特に重視すべきプロセスであるが、 ユニットや材料に関する環境影響の内訳について情報が得られていないため具体的な - Ⅱ- 1- 5 - 環境影響削減のための方針を得ることが出来ない。 使用に関しては、環境負荷削減のための方針(水および洗剤消費量を削減するための 設計)を得ることが可能であるが、使用シナリオとして重視される洗濯回数に関する情 報が想定値であったことから、当該データを見直し不確実性を改善する必要があるもの と考えられた。 また、電気電子機器産業は、近年の化学物質規制に伴い、指定有害物質の使用回避の ための製品政策を積極的に採用している。現在の評価では、化学物質に関するデータは 含まれておらずこれらの対策の効果について評価できない。 ・LCC Step1 使用に関しては、環境負荷削減のための方針(水および洗剤消費量を削減するための 設計)を得ることが可能であるが、使用シナリオとして重視される洗濯回数に関する情 報が想定値であったことから、当該データを見直し不確実な部分を改善する必要がある ものと考えられた。 また LCA の場合と同様に生産までのプロセスは相対的に環境影響が大きく、特に重視 すべきプロセスであるが、ユニットや材料に関する環境影響の内訳について情報が得ら れていないため具体的なコスト削減のための方針を得ることが出来ない。 上記の妥当性の評価をデータの信頼性の評価を含め表 1.2-1 に示す。 ここでデータの信頼性の判定方法は第Ⅰ部 3.4.3 データの信頼性の検証に述べた 方法よるものであり、判定基準は第Ⅰ部 表 3.4.3 データ品質と判定基準(ISO 14044, 2006、Weidema ら, 1996)によった。 この表から水の消費のみがエコデザインの指針として得られるが、他のシナリオとの 重要性の比較を行い、その具体策を得るにはデータが不十分であることがわかる。エコ デザインの指針を得るためには負荷およびコストの大きい項目について、より詳細なデ ータを得てステップ2を行う必要性があることが結論された。 表 1.2-1 LCA Step1 と LCC Step1 のデータの信頼性チェック表と改善案の立案 信頼性 データ品質指標 LCA /LCC プロセス 素材~製造 LCA 水(使用) 洗剤(使用) 水(使用) LCC 洗剤(使用) 素材~製造 時 間 的 範 囲 地 理 的 範 囲 5 5 5 5 5 4 5 4 5 4 4 5 デ 技 | 正 完 透 再 術 タ 確 全 明 現 範 ソ 性 性 性 性 囲 | ス 5 4 4 4 4 4 3 3 3 5 2 4 2 3 4 5 3 5 4 4 3 5 4 3 4 2 3 5 4 3 3 4 3 5 4 3 不 確 実 性 情 報 イ ン ベ ン ト リ 分 析 項 目 数 3 2 2 3 2 2 4 3 3 - 判 要改善項目 定 (エコデザイン・ 結 パラメータ) 果 x ○ (c)水の消費 x ○ (c)水の消費 x x - - Ⅱ- 1- 6 - エコデ ザイン・ 調査範囲 パラ 改善案 の妥当性 メータ の抽出 可能性 ○ ○ ○ ○ ○ ○ x ○ x ○ x x 節水対策 節水対策 1.2.2 LCA Step2 および LCC Step2 の実施 a) LCA Step2 の実施 この結果を受けて、資源から生産まで、使用、リサイクルおよび廃棄におけるデータ の見直しを行った。 このため新規に製造事業所へのヒヤリングの下、データの再調査を行った。以下に各 プロセスのデータ収集の方針を示す。 素材から生産まで:製造事業所からユニットごと(筺体部・駆動部・制御部・吊り棒 部・乾燥部・外槽部・洗濯槽部・上蓋部・検査梱包・組立)別のデータを入手した。ユ ニットを構成する材料の種類と重量、副資材、さらに組立の際のユーテリティ、工場か らの大気、水圏、土壌への排出物質の種類と排出量、産業廃棄物量について得た。 使用頻度は首都圏 300 人を対象にした調査結果(日本石鹸洗剤協会, 2006)からライ フサイクルの洗濯回数を算定し、これより電力・水・洗剤の消費量を得た。 リサイクル:家電リサイクル法によるリサイクルが行われるものと想定した。製品の 化学物質対策に対する効果について評価するため、基板には鉛はんだが利用されている と想定するとともに、潜在的環境影響量を評価するため、回収したはんだは全量土壌に 埋立てられるものと想定した。 上に挙げた事項を中心に、ヒヤリング調査、文献調査を実施し、これらの結果を反映 した形で LCA を行った。ユニットに分類した生産までの環境影響の評価結果を図 1.2-2 に示した。 - Ⅱ- 1- 7 - 1400 1200 1000 環 境 影 響 ( 円 ) 800 600 400 200 0 図 1.2-3 生産までの評価結果に対するユニットごとの内訳(縦軸は円) ユニット別にみるとはんだなどの金属や半導体集積回路や各種回路素子などエネル ギー集約型のデバイスを多く搭載している制御部の環境影響が最も高かった。これにつ いで駆動部・筐体部・洗濯槽部の環境影響が大きかった。その他のユニットや組立工程 に関する環境影響は小さかった。 図 1.2-4 に製品ライフサイクルを対象とした LCA 評価結果を示した。 - Ⅱ- 1- 8 - 12000 10000 環 境 影 響 8000 ( 6000 鉛はんだ 円 ) リサイクル・廃棄 4000 洗剤 水 2000 電力 二次輸送 0 一次輸送 素材~製造 ステージ 1.2-4 再調査後の LCA 結果 生産までについては、ユニットごとに詳細に評価することで、環境影響が潜在的に大 きい部材を抽出することが可能となった。使用に関しては、シナリオの改善に伴い、洗 剤による環境影響の過小評価を回避された。さらに、鉛はんだの使用を想定することで、 その潜在的環境影響は大きいことがリサイクル・廃棄段階の評価結果からわかった。 これらの評価結果を受けて、制御部を中心とした材料の制御、水や洗剤の消費量の削 減、鉛はんだの変更もしくは鉛の適切な回収に伴う有害化学物質の影響回避が重要な設 計方針であると考えられた。 (b) LCC Step2 の実施 資源から生産まで、使用におけるデータの見直しを行った。 また新規に製造事業所へのヒヤリングを行い、製造のデータの再調査を行った (日立アプライアンス㈱, 2006)。以下に各プロセスのデータ収集の方針を示す。 素材から生産まで:直接費および間接費・一般管理費についてそれぞれ計上する。直 接費には、材料、ユーテリティ、副資材をユニットごとに求めた。これは製造工程全体 - Ⅱ- 1- 9 - の数量を各ユニットの工程の工数に比例分配して算出した。間接費には、製造事業所の 経理データ(日立アプライアンス㈱, 2006)から企画、開発、製造、輸送、営業、流通 について情報を得た。 輸送は、工場から拠点、拠点から販売店までに関する詳細データを製造事業所ヒヤリ ング(日立アプライアンス㈱, 2006)から得た。回収輸送は、全国の7箇所の拠点から 販売店と同一の輸送費として取り扱った。 使用頻度は日本石鹸洗剤協会による首都圏 300 人を対象にした調査結果(日本石鹸洗 剤協会, 2006)からライフサイクルの洗濯回数を算定し、これより電力・水・洗剤の消 費量を得た。 リサイクル:ステップ 1 と同一のデータを利用した。 上に挙げた事項を中心に、ヒヤリング調査、文献調査を実施し、これらの結果を反映 した形で LCC を行った。ユニットに分類した生産までの環境影響の評価結果を図 1.2-5 に示した。 120.00 100.00 コ ス ト ( % ) 80.00 一般管理費 販売直接費 労務費 60.00 用役以外の間接経費 発送費(LCA) 40.00 用役費(LCA) 直接材料費(LCA) 20.00 0.00 洗濯機の製造コスト 図 1.2-5 洗濯機の生産までの LCC データを費目に分類した結果 直接材料費が生産の約半分を占めるが、販売費、労務費、一般管理費、間接経費が 5 ~20%程度を占めた。これらを合わせると生産費の約半分を占めるが、これらの項目は 環境影響への寄与は小さく、一般に評価の対象となっていない。LCC と LCA を適切に - Ⅱ- 1- 10 - 評価するうえで対象とすべき範囲が異なりうることの妥当性が示された。 図 1.2-6 に洗濯機の LCC Step2 の評価結果を示す。 90 80 70 コ ス ト ( % ) 60 50 リサイクル・廃棄 水(使用) 40 洗剤(使用) 30 電力(使用) 流通 20 輸送 販売・一般管理 10 製造原価 0 ステージ 図 1.2-6 洗濯機の LCC Step2 の分析結果(横軸はコスト(%)) LCC Step1 の結果とほぼ同じ傾向が得られ、その妥当性を確認することが出来た。生 産までについては、費目ごとに詳細に評価することで、直接材料費が潜在的に大きい費 目であることが分かった。使用に関しては、シナリオの改善に伴い、水消費に関わる費 用が過小評価されることを回避できた。 LCA Step2 および LCC Step2 の結果に基づき各プロセスの環境影響と費用の割合の関 係をプロットしたものを図 1.2-7 に示す。コスト面では使用段階の水および洗剤、素材 から製造までが、環境影響からはリサイクル・廃棄、使用段階の洗剤、素材から製造ま でが改善すべき重要項目であることがわかった。 0.3 リサイクル・廃棄 環境影響 (割合) 洗剤(使用) 0.2 素材~製造 - Ⅱ- 1- 11 0.1 輸送 電力(使用) 販売・一般管理 0.0 水(使用) 図 1.2-7 洗濯機の各プロセスのコストと環境影響(割合) c) LCA Step2 および LCC Step2 の妥当性の検証 上記の LCA Step2 および LCC Step2 の実施による重要項目の選定結果につきデータの信 頼性をチェックした。LCA Step1 および LCC Step1 の妥当性の検証と同様に、データの信頼 性の判定方法は第Ⅰ部 3.4.3 データの信頼性の検証に述べた方法よるものであり、判定基 準は第Ⅰ部 表 3.4.3 データ品質と判定基準(ISO 14044, 2006、Weidema ら, 1996)によ っている。 表 1.2-2 にその結果を示す。製造工場の良質なデータを用いていること、バックグラウン ドデータとしては Ecoinvent などヨーロッパのデータを用いたこと、LCC では国内のデータ を用いていることなどからこれらの評点を定めた。判定結果、調査結果の妥当性は各項目 に対し良好である。 表 1.2-2 LCA Step2 および LCC Step2 のデータの信頼性チェック表と改善案の立案 信頼性 データ品質指標 LCA /LCC プロセス 時 間 的 範 囲 リサイクル・廃棄 5 地 理 的 範 囲 デ | 完 透 再 タ 全 明 現 ソ 性 性 性 | ス 技 正 術 確 範 性 囲 不 確 実 性 情 報 イ ン ベ ン ト リ 分 析 項 目 判 要改善項目 定 (エコデザイン・ 結 パラメータ) 果 4 4 4 5 5 5 4 3 5○ (d)土壌への浸出 (不法投棄による 鉛) (e)使用・保守材の 量・特性 (d)有害物質の使用 (制御部の基板・ (c)水の消費 エコデ ザイン・ 調査範囲 パラ 改善案 の妥当性 メータ の抽出 可能性 ○ ○ ○ ○ 基板の鉛はん だのリサイクル LCA 洗剤(使用) 5 4 4 4 5 5 5 4 3 5○ 素材~製造 水(使用) 5 5 4 5 5 4 5 4 5 5 5 5 5 5 5 4 3 5○ 3 5○ ○ ○ ○ ○ 節洗剤対策 鉛フリーはんだ の採用 節水対策 水(使用) 5 4 5 4 5 4 4 4 ○ 節水対策 洗剤(使用) 5 4 4 4 5 4 4 4 ○ 素材~製造 5 5 5 5 5 5 5 5 3 5 ○ (c)水の消費 ○ (e)使用・保守材の 3 5 ○ (d)有害物質の使用 量・特性 ○ (制御部の基板・ 3 5 ○ 鉛) ○ 節洗剤対策 鉛フリーはんだ の採用 LCC ○ これらの結果から要改善項目として土壌への浸出(不法投棄による鉛)、使用・保守材の量・ 特性(洗剤) 、有害物質の使用(制御部の基板・鉛)、水の消費が挙げられた。またこれら の改善策として基板の鉛はんだのリサイクル、節洗剤対策、鉛フリーはんだの採用、節水 - Ⅱ- 1- 12 - 対策が重要であると考えられた。 1.3 改善案の費用対便益分析 上記の結果を受けて、シナリオごとに環境影響とコストの変化量を算定するとともに、 その結果をもとに費用対便益分析を行う。シナリオとしては、表 1.3-1 に挙げるように、 節水、節洗剤、化学物質対策が挙げられた。 表 1.3-1 洗濯機のエコデザインのための三つのシナリオ 改善案 節水 方式候補 鉛フリーはんだの採 用 節洗剤 風呂の残り湯再利用、 すすぎ水の再利用、衣 類材質等検知・水量最 適化、循環シャワー 洗剤低減は洗浄効 果に疑問、同量の SnCu,SnAgCuBi、 濃縮高濃度の洗浄 SnZnBi, SnBiAgなど 液を用いる 考慮項目 消費者動向、洗浄品質 洗浄効果 採用方式 新型パルセータ翼によ る少量の高濃度洗浄液 不採用 の循環シャワー方式を 採用 新形状翼による洗浄方 技術項目 式・高トルクモータ・制 御方式・生産設備 コスト 環境影響 価格、用途、はんだ 特性、設備 Sn0.7Cu採用 - 開発・製造・製造補助の コスト増、 節水による 水使用料低減 - 循環ユニット追加(資源・ 電力)・水使用の低減 - 生産設備・生産技術 高融点のためリフ ロー炉電力上昇・は んだ材料費の増加 Pbの不採用、SnCuの 使用、リフロー炉電力 の上昇 ここでは、製品開発の技術的、経済的、環境的観点から実現可能性について考察した上 で、これらを満たすものと判断された節水シナリオと鉛フリーはんだ採用シナリオについ てそれぞれ評価した。ここでは紙面上の都合から節水シナリオに関する評価結果について 説明する。 図 1.3-1 に節水型洗濯機の仕様について示す。従来製品はパルセータが大量の水を回転 させることにより洗濯物間の摩擦を生じさせて洗浄していたが、このシナリオでは新型の 節水パルセータを用いて洗濯物を直接上下運動させ少量の水でこすり洗い、たたき洗いを 行うことにより洗浄する。少量の水を水と洗剤を洗濯物に行き渡らせるため、下部から循 環ポンプで高濃度の洗剤液をくみ上げ上部から散布する。洗浄力の点から洗剤の使用量は 従来と変わらず、このため従来よりも高濃度の洗浄液を用いて洗浄を行う(日立アプライ アンス㈱, 2005) 。 - Ⅱ- 1- 13 - 高濃度 洗剤液 節水パルセータ翼 (押し・たたき・もみ洗い) 循環ポンプ 約2倍 高濃度洗剤液 少ない水でも 水に浸った状態を作り出す 図 1.3-1 高濃度洗剤液を循環させることによる節水方式 上記洗濯方式の採用により、水の使用量削減が期待されるが、その一方で少量の水で洗 濯物を洗浄させるため、高トルクを発生させるモーターが必要になる。さらに、高い運転 負荷に耐える強度を持ったバスケットや外槽等が必要となる。また、新製品の開発、製造、 製造補助のコストや環境影響の増加が見込まれる。CBA では、このようなシナリオの導入に 伴う、環境影響とコストの比較評価を行った。表 1.3-2 に節水対策前後における基礎デー タと費用の差異について一覧で示した。 表 1.3-2 節水対策の導入前後における基礎データとコストの差異 ステージ 資源・エネルギー 単位 対策前 対策後 差 コストの差 (円) 単価 26物質、 循環ユニットなし 循環ユニットあり 1,784.00 素材~ 部品・材料 1.28kg 製造 製造電力 kWh 0.00 3,904.00 0.26 0.26 1回の使用電力 Wh/回 157.81 170.00 12.18 0.27 22円/kWh 年間電力 kWh/年 84.50 91.03 6.52 143.56 22円/kWh 電力 LC電力 kWh 971.77 1046.81 75.02 1,650.97 22円/kWh LC使用電力料金 21,378.95 23,029.92 1,650.97 1回の水使用量 L/回 196.00 88.00 -108.00 -13.82 年間使用水量 kL/年 104.95 47.12 -57.83 -7,402.13 使用 水 LC使用水量 kL 1,206.92 541.88 -665.04 LC上水使用料金 円 154,485.19 69,360.70 -85,124.49 -85,124.49 128円/kL LC下水使用料金 円 120,691.56 54,188.05 -66,503.51 -66,503.51 100円/kL 1回の洗剤使用量 g/回 47.40 47.40 0.00 0.00 0.38円/g 洗剤 年間洗剤使用量 kg/年 25.38 25.38 0.00 0.00 LC洗剤使用量 kg 291.88 291.88 0.00 0.00 407,468.77 257,491.74 -149,977.03 -144,289.03 LC使用料金 円 節水対策により、水の消費量が削減された一方で、部品点数や重量の増大に伴う生産時 の電力消費量増大、ポンプの使用による電力消費量増大が見込まれた。しかし、これらの 増大によるコスト増加よりも水消費量削減による上下水道費の削減効果がより大きく、ラ イフサイクルのコストは 3 割程度削減することが出来るものと推定された。今回の対策で は洗浄力の確保のため洗剤の消費量は対策前と同等程度と想定した。 - Ⅱ- 1- 14 - 図 1.3-2 に節水シナリオ導入時における環境影響について比較したものを示す。コスト の場合と同様に、部品点数の増大等に伴う製造ステージの環境影響の増大よりも、使用段 階での水消費量削減に伴う環境影響削減効果が大きく、全体で一割程度ライフサイクル全 体の環境影響を低減することができるものと評価された。 25000 20000 環 境 影 響 ( 円 ) 15000 リサイクル・廃棄 使用 10000 輸送 素材~製造 5000 0 対策前 100% 対策後 92.3% 図 1.3-2 節水対策導入前後における環境影響の変化(横軸は円) 鉛フリーシナリオについても導入前後の環境影響を比較したものを図 1.3-3 に示す。 不法投棄による土壌への鉛の浸出のリスクが低減することにより環境影響のおよそ 25%が 低減することができるものと評価された。 - Ⅱ- 1- 15 - 30000 25000 環 境 影 響 ( 円 ) 20000 リサイクル・ 廃棄 15000 使用 10000 輸送 5000 素材~製造 0 対策前 100% 対策後 92.3% 図 1.3-2 鉛フリー化対策導入前後における環境影響の変化(横軸は円) 表 1.3-3 シナリオ 洗濯機の CBA 結果のまとめ 環境保全コスト1) 環境保全効果2) 環境保全対策に伴う経済効果3) B=B1+B 2 内容 製品企画・開発コスト増加 節水 製造コスト増加 費用 C (円) 内容 環境影響 B1 (円) 2,000 節水による 19,000 環境影響低 減 上水使用料金低減 85,124 1,8004 ) 下水使用料金低減 66,504 (循環ポンプの材料・部品・金 型・用役および生産技術・資材 など製造補助コスト) 小計 電力使用料金低減 6) 21,000 はんだ材料の変化(Sn37Pb→ 鉛フリー化 Sn0.7Cu)による材料費増加およ びはんだリフロー電力の増加 内容 150 1,800 有害物質排 出リスク抑 制による環 境影響低減 5,8005 ) 小計 150 5800 合計 21,150 7,600 1)企業の環境保全コスト 2)社会的効果 3)企業以外の関係者(ユーザ等)への効果 (+は費用節減を、-は費用増大を示す) 7) 130,777 7.23 5,800 5,650 38.67 149,977 157,577 136,427 7.45 0.001 0 4)水使用量665kL削減 5)鉛排回避量14.5kg 6)循環ポンプ使用による電力使用量増大。 7)重金属処理費低減 (例) 費用対便益分析を行うため、シナリオごとに費用と便益を求め、それぞれの対応関係を見 た。表 1.3-3 に評価結果を環境会計のガイドライン(環境省, 2005)に添った形でまとめ た。企業の負担する環境保全コスト C、環境保全効果(環境影響の削減効果)B1、環境保 - Ⅱ- 1- 16 - B/C -1,651 149,977 151,777 重金属処理費低減 B-C 金額 B2 (円) 全に対する経済効果 B2 を挙げ B1 と B2 の和を対策による便益 B とした。 節水シナリオでは環境保全コスト C として節水のための製造コスト増加、循環節水型洗 濯機開発のための製品企画・開発費増加をあげた。環境保全効果 B1 としては環境負荷を LIME による金額で表した場合の低減分を、環境保全に対する経済効果 B2 は節水による 上下水道料の低減分などを示した。鉛フリーシナリオでは環境保全コスト C としてはんだ の鉛フリー化のためのコストとして材料の変化によるコスト増加、はんだのフロー電力の 増加を計上した。環境保全効果 B1 は鉛の排出リスクの環境負荷を LIME による金額で表 した。また環境保全に伴う経済効果 B2 としては一例として鉛の浸出を防ぐための重金属 処理費の低減分を挙げた。ここでは、費用対便益分析を行うため、シナリオごとに費用と 便益を求め、それぞれの対応関係を見た。 CBA の結果は C-B もしくは B/C により得られる。これまでの費用対効果分析は、環境 影響を経済指標で表すことが困難だったため、費用と直接比較することが困難であった。 LIME により環境影響を金額評価することが可能になったため、C-B を求めることができ るようになった。ここでは、参考のため B/C も合わせて示す。この指標は効率性を示すも のとして有用であるが、C が負である場合は妥当な結果を表示することができないことに 注意が必要である。 水の消費量削減に伴い、環境影響とコストの双方が削減された。その中でも使用時に消 費者の負担するコストの削減効果は非常に大きいことがわかった。その結果、便益 B が費 用 C(企業の負担する環境保全コスト)を大きく上回り、13 万円程度の総合的費用の削 減(B-C)が得られた。改善案の効率を示す B/C は7程度となる。 一方、鉛フリー化によれば、材料費およびリフロー炉の電力費の増加に伴い費用は増大 するものの、それ以上に廃棄後の環境影響リスクの削減効果が大きいことから、5,700 円 程度の総合的費用の削減(B-C)が見積もられ、B/C はおよそ 39 となった。 1.4 最終製品の評価 これまでの結果を用いて、鉛フリーはんだを採用し、かつ、節水型シナリオを採用した 製品を最終製品として、ベースラインの製品(シナリオ導入前)との間の比較評価を行った。 表3の最終製品の行および、図 1.4-1 にベースラインと最終製品について、環境評価と経 済評価の比較結果を示した。 - Ⅱ- 1- 17 - 0.30 リサイクル・廃棄(前) 環境影響 (割合) 0.25 洗剤 0.20 素材~製造(前) 素材~製造(後) 水/使用(前) 0.15 輸送 0.10 リサイクル・廃棄(後) 電力/使用 0.05 水/使用(後) 販売・一般管理 0.00 0.0 図 1.4-1 流通 0.1 0.2 0.3 コスト (割合) 0.4 0.5 0.6 ベースラインから最終製品に移行した時の環境および経済側面の変化 図 1.4-1 では横軸に LCC への寄与、縦軸に LCA への寄与を示す。節水型シナリオの 採用により、素材から生産までのコストが増加する一方、ベースラインでは最も大きかっ た使用時の水消費に伴う費用が大きく削減された。鉛フリーの採用は素材部分での費用は 増加するものの、その増加はわずかであり、リサイクル・廃棄時における化学物質の削減 効果が非常に大きいことが示された。 参考文献 ISO 14044 (2006): International standard, Environmental management – Life cycle assessment – Requirements and guidelines Pre consultants 社(2006): LCA ソフトウェア Simapro7 Swiss Center for Life Cycle Inventories(2005) :LCI データベース Ecoinvent Weidema, B. P. and Wesnas, M. S. (1996): Data quality management for life cycle inventories – an example of using data quality indicators, Journal of Cleaner Production, Vol.4, No.3-4, pp.167-174 伊坪徳宏・稲葉敦 (2005):ライフサイクル環境影響評価手法:(社)産業環境管理協会 (2005.9) 環境省 (2005): 環境会計ガイドライン 2005 年版, http://www.env.go.jp/policy/kaikei/guide2005.html 久保利晃・伊坪徳宏(2005) :第 1 回 LCA 学会講演要旨集―WEB 版(2005.12) 東京二十三区清掃一部組合(2001): 「平成 12 年度清掃工場等搬入先ごみ性状調査報告書」 - Ⅱ- 1- 18 - (2001) pp.312-349 経済産業省(2006): 家電リサイクル工場の経済産業省によるモデルケース試算, (財)家電製品協会 「平成 16 年版 家電リサイクル年次報告書」 http://www.aeha.or.jp/02/JISSEKI16.pdf, p.68(2006.1)p.68 (独)産業技術総合研究所(2005): LCA ソフトウェア AIST ver.4。 JEMAI-LCA Pro と して(社)産業環境管理協会より販売。 総務省・内閣府・金融庁・財務省・文部科学省・厚生労働省・農林水産省・経済産業省・ 国土交通省・環境省(2004):平成 12 年(2000 年)産業連関表 南斉規介,森口祐一,東野達(2006):国立環境研究所「産業連関表による環境負荷原単位 データブック(3EID)2000 年度版」 http://www-cger.nies.go.jp/publication/D031/jpn/img/sub_ttl08.g 日本石鹸洗剤工業会(2006) :洗濯科学専門委員会「全自動洗濯機と洗濯乾燥機の普及と行 洗濯行動の変化」 http://www.jsda.org/a_seminar01.html 日本電機工業会(2006) 洗濯機製品調査結果 http://www.jema-net.or.jp/menu.htm(2006.10) 日立アプライアンス㈱(2006):多賀事業所調査による(2006.5~10) 日立アプライアンス㈱(2005):洗濯乾燥機 BeatWash 技術資料(2005) (社)産業環境管理協会(2005): JEMAI-LCA Pro マニュアル - Ⅱ- 1- 19 -