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キヤノン電子 「自分の身に置き換え て
キヤノン電子 イチ ピカ一で全員が つける 「考える力」 「私はみんなに自分で考える癖が を立て直すため、キヤノンの常務か ピカ一運動は全従業員に対して、 ら転じた酒巻社長は、1999年の社 「テーマは何でもいいから自分が世 キヤノン電子の酒巻久社長は謙 長就任から6年で同社の売上高経常 界一になる」ことを奨励した取り組 遜してみせる。だが、全従業員に 利益率を1.6%から12.9%に跳ね上 み。酒巻社長は「楽しみながら世界 「自分で考える癖」を付けさせるこ げた。その原動力は現場が「自分 一を目指せばいい。工場の草むしり で考える力」だった。 でもペンキ塗りでも朝早い出社でも つくように仕向けただけ」 とは並大抵のことではない。これは トヨタが目指す究極の職場環境に 酒巻社長はどうやって、そんな状 等しい。トヨタでは「社員が自ら考 況を作り出せたのか。酒巻社長は 何でも構わない」と笑う。大事なの は自分でテーマを考えることだ。 イチ えて行動する自律性」を重んじる。 赤字スレスレだったキヤノン電子 自身が始めた「ピカ一運動」を例 に挙げて説明してくれた。 そして達成できた社員を酒巻社 長が表彰する。次は達成したテーマ て え 換 き 置 に 身 「自分の 酒巻 久 社長 写真撮影:北山 宏一 238 日経情報ストラテジー MAY 2006 特集2 を「維持する方法」を考えてもら 「自分はどういう状況なら変われる うこと。ゴミ拾いを通して小さな変 い、できればまた表彰する。これを か」 ということだった。結論は「上の 化を見つける訓練を進めた。それが 何度か繰り返すうちに、 「誰でも自 人の意識が変われば自分も変わる」 。 理解できたら、次は「なぜゴミが出る のか」を考えさせる。管理職相手に 然と自分で考える癖が身に付く。そ の雰囲気が生まれたら改善は早い」 孫に聞かせるようにやさしく説明 ここまで目線を落として説明した。 酒巻社長は工場を歩きながら証 酒巻社長は毎日7時半から朝会 それに対し、どの管理職がどんな 拠を見せてくれた。例えば、生産現 を開き、役員や管理職に自分の考 行動をとるか。酒巻社長は「人を 場の入り口に、生産性や品質の向 えを「孫に話すような簡単な言葉で 見た」 。社員に上司の評判を聞いた 上を従業員に意識してもらうための 語って聞かせた」 。例えば、工場の り、メールの中身までチェックし、 掲示物が置かれている。 ゴミ拾い。 「どうしてゴミが落ちて 誰が誰にどんな話をしているかを調 「これらはすべて現場のリーダー いる異常な状態を放置しておくの べ上げた。そのことをキヤノン電子 が考えて作ったもの。私が作らせた か」 。このレベルから話を始める。 の社員なら皆知っている。 酒巻社長は言うだけでなく、自 人間観察を1年続けた後、 「改革 キヤノンで製品設計をしていた技 分からどんどんゴミを拾った。言っ の意識が低い人を役職から一気に 術屋の酒巻社長は、 「いい設計者は たことをやってみせる。伝えたいの 外した」 。降格人事は頻発したが、 課題を自分に置き換えて考える」と は「ゴミが落ちていない理想的な状 指摘する。着任して考えたことは 態からズレたら、すぐに直す」とい ものは1つもありませんよ」 「1度役職を外れてから心を入れ替 え、復帰した人は非常に強くなる」 。 」 流 子 電 ン ノ ヤ キ が の る 考え 酒巻社長の発案で始まった 「立ったままの会議」 。 短時間に集中して議論する代わりに、会議の回 数を増やしてコミュニケーションを活発に ホンダ 終業後に で改善 「ワイガヤ」 「身近な問題をとらえて、小さな ホンダの改善をこう表現した。 ンダグループ全体では、実に1万 ことから解決していく。これはトヨ NHサークルとは、同社が1973年 8500ものサークルがある。国内だけ タさんも同じでしょう。違いをあえ から取り組んでいる小集団活動。誰 でなく、世界30カ国で14万人が活 て言うなら、成果よりもプロセスを でも自由に10人前後でチームを結 動している。福井威夫社長が「NH 大事にしていること」 成し、自らが考えた課題を解決す サークルはホンダの現場力そのもの」 本田技研工業(ホンダ)の業務 るため終業後に1時間ほど自主的に と評するほど年季が入っており、33 改善活動「NH(ニュー・ホンダ) 集まって活動する。自分たちで改善 年かけて進化させてきた(38ページ サークル」の事務局を務める品質改 テーマを見つけて取り組むといった のトップインタビューを参照) 。 革センターの小柳正法・四輪品質 現場のボトムアップ活動だ。 改革部品質企画室生産技術主任は 部品メーカーや販売会社などホ 小柳主任が言うプロセスとは、改 善の手順のことではない。課題を解 小柳 正法 NHサークル事務局 を 」 ス 流 セ ダ ロ ン プ ホ も が り の よ る 達成 重視す 標 「目 写真撮影:早川 俊昭 240 日経情報ストラテジー MAY 2006 特集2 決するためにみんなで集まって議論 のものづくりやチャレンジ精神を継 するという行為そのものを指す。自 承していく場なのだ。 分たちが抱える困りごとに対して、 NHサークルは自発的な活動であ った13人でチームを結成した。 このチームが取り組んだテーマは、 クランクシャフトを製造する過程で 皆で集まって意見を出し合い、改 るため、モチベーションを維持する 打痕や傷の発生率を低減すること。 善テーマに決めていく。これこそホ 工夫が欠かせない。1年に1回各事 サークル活動を通して、品質不良 ンダ用語でいう「ワイガヤ」の議論 業所から選抜されたチームが自らの が発生した際の原因を特定する。 であり、役職関係なく自由に発言 成果を発表する全国大会がある。そ 誰もが的確な対策を講じられる できる場作りなのだ。業務時間中 れに加えて 2 年に 1 回は世界大会 ように発生個所を特定できるフロー は各自の仕事を達成するのに精一 (今年は英国で開催予定)を開く。 チャートをまとめた。発生率も取り組 み前の0.85%から0.36%に低下し、 杯でも、就業後のちょっとした時間 にワイガヤで交流の場を作る。 ワイガヤの過程で、思いもよらな 打痕の形状から絞り込む 「成果を追いかけない」とはいえ、 1日33分の工数削減につながった。 エンジン工場エンジン機械モジュ い気づきが見つかることがある。若 改善効果は確実に出ている。その ールの小川義男マネージャーは、 「課 手はベテランから物事の考え方など 一例が、2005年に鈴鹿製作所から 題解決のためだけに、自主的に集 を受け継ぎ、逆にベテランは若手の 全国大会に出場したチームだ(下 まるところがいい」と評価する。33 斬新な発想に刺激を受ける。NHサ の写真) 。入社2年目から10年以上 年間脈々と続く理由は、こうした ークルは課題解決を通して、ホンダ のベテランまで幅広い年齢層が集ま 自主性に任された運営にある。 鈴鹿製作所で活動するNHサークルの1つ「タニ ムレンジャー」のメンバーは、 「ワイガヤルーム」に 集まって身を乗り出しながら意見を出し合う