Comments
Description
Transcript
資料2_3
土木学会応用力学委員会 逆問題小委員会 応用事例の紹介・1 河川・流域における逆問題 〜⽔⽂・⽔理解析への適⽤ 2016年3月5日 13:00~ 講師:田中((株) 建設技術研究所) 内 容 ¾ 河川流域の管理 ¾ 逆問題として河川流域で起きる現象を捉える前に ¾ 河川流域における逆問題 ¾ 適用例 流出解析における逆問題~洪水流量の 推定事例 ¾ まとめ 1 河川流域における管理 河川流域を管理 観測値 予測値 管理者の 意志決定 2 河川流域における管理 ¾ 河川流域を対象にした様々な問題 • 河川の形状を決め、安全に洪水を海に流す • 洪水が襲来したら、氾濫に備えるために、住民に避 難勧告や避難指示などの防災情報を発信する • 河川の中に生息する植物による流水への阻害を軽 減する 等 平成25年台風18号 京都・大阪など近畿 地方で発生した洪水~初めての特別警報 平成27年鬼怒川氾濫による孤立者の救 出・救助 3 河川流域における管理 ・テレメータ 地点雨量・水位 ・レーダ雨量 気象庁・国土交通省 ・C Band (MP) Radar ・X Band MP Radar ・Faced Array Radar www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000049078.pdf www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000049078.pdf 4 河川流域における管理 • 河川管理 特に、高水(洪水)管理で必要なデータ – 雨量(点・面) – 水位(点)、流量(点) → 過去から現在まで そして、将来 ` さらに・・・将来、河川、堤内地はどうなるのか? 流量観測 5 内 容 ¾ 河川流域の管理 ¾ 逆問題として河川流域で起きる現象を捉える前に ¾ 河川流域における逆問題 ¾ 適用例 流出解析における逆問題~洪水流量の 推定事例 ¾ まとめ 6 逆問題として河川流域で起きる現象を捉える前に ¾ 降雨・流出(流量)現象をいかに予測するのか – 貯留関数モデル(一つのタンクとしてモデル) – 分布型流出モデル(流域をメッシュ単位に分割し、 メッシュにタンクを配置) ¾ 流量・水位の変化をいかに予測するのか – 河道内における洪水流の不定流モデル(一次元・ 二次元) 7 逆問題として河川流域で起きる現象を捉える前に ¾逆問題で何をしたいのか • 例えば・・・ • 洪水(水位や流量)を予測したい • ある時点の流量を推定したい • 水位流量の関係を明らかにしたい 等 ¾流域内の観測値の確からしさ • 水位流量の関係が確かな精度を持っているなら、流量 は既知量(観測値)となる。 • 水位は確かな観測値でも、流量の精度が低い場合、そ のまま、観測値として扱うのは、問題が発生する。 → 上記の予測を行う際に、精度の悪い流量を信頼してしまうと、 予測の精度が低下する可能性がある。 8 内 容 ¾ 河川流域の管理 ¾ 逆問題として河川流域で起きる現象を捉える前に ¾ 河川流域における逆問題 ¾ 適用例 流出解析における逆問題~洪水流量の 推定事例 ¾ まとめ 9 河川流域における逆問題 順解析によるアプローチ 水文水理現象を支配する方程式 (システム) 流出解析 洪水追跡 流出解析モデル ・・・ 雨量 → 流量 流量 → 水位 観測値 雨量 既知量 未知量 流量 計算値 洪水追跡モデル 観測値 流量 既知量 未知量 水位 観測値 計算値(未知量)を、観測値と比 較し、観測値と適合性高い支配 方程式中のパラメータを推定 10 河川流域における逆問題 逆解析によるアプローチ 水文水理現象を支配する方程式 (システム) 流出解析 雨量 → 流量 洪水追跡 流量 ← 水位 流出解析モデル ・・・ 観測値 雨量・水位 既知量 計算値 流量・パラメータ 未知量 洪水追跡モデル 実際の観測は、水位だけであり、流 量は水位からの換算値から推定され る。 観測値 水位 既知量 計算値 流量 未知量 流量は流出解析では正しいとし、一 方で洪水追跡では疑わしいと見る。 11 河川流域における逆問題 • 降雨~流出モデルの支配方程式 【分布型流出モデルの事例;岡山県吉井川水系】 12 河川流域における逆問題 • 降雨~流出モデルの支配方程式 【貯留関数モデル;香川県土器川水系】 r (t ) = ra (t − Tl ) + rb (t ) s (t ) = kq (t ) 1/ 2 s (t ) Q (t ) = q(t ) 1 2 f (t )Aq (t ) = a (t )(H (t ) − b(t )) 3 .6 13 河川流域における逆問題 • 河道内の洪水追跡モデル 【淀川水系洪水予測システム】 連続式 ∂Q ∂A + =q ∂x ∂t 運動方程式 1 ∂Q Q ∂A ∂H = − 2 4/3 + − 3 gA ∂t gA ∂x ∂x A R 2 n2 Q Q http://www.yodogawa.kkr.mlit.go.jp/acti vity/summary/section/ 14 河川流域における逆問題 • 流出解析および河道内の洪水追跡解析の支 配方程式は、非線形性が強い。 • 流出解析モデルである貯留関数法は、単独 であれば、非線形性は弱く、かつ工夫次第で 線形問題に近似できる。 – 従来から様々な研究が行われている。 • しかし、近年、逆解析が実用的になってきた ことを受け、支配方程式をそのまま使うことが 予測をする際の精度を十分に確保することが 期待できる。 15 内 容 ¾ 河川流域の管理 ¾ 逆問題として河川流域で起きる現象を捉える前に ¾ 河川流域における逆問題 ¾ 適用例 流出解析における逆問題~洪水流量の 推定事例 ¾ まとめ 16 適用例 流出解析における逆問題~洪水流量の推定事例 • 背景 – ダムやその下流の水位を予測し、出来るだけ早く防災情 報を、河川に隣接する地方自治体やそこに住む流域住民 に周知したい。 – 早めに避難し、命を守る行動に繋げるような予測方法を 提供したい。 • 逆問題を適用する際の条件 – 流量の観測が行われているが、その精度は低い可能性 がある。(水位流量の関係) – 水位は、10分毎に観測されている。 – 流域内の雨量は、レーダ、地点ともに10分毎に観測され ている。 17 適用例 流出解析における逆問題~洪水流量の推定事例 • 逆問題の設定 – 流量観測をしているが、水位から換算される流量 の推定値が、雨量から推定される流量と整合が とれない。 – このような河川で洪水予測するためには、水位か ら換算した流量を使って、モデルのパラメータを 推定すると、精度が低下する可能性がある。 – したがって、観測値である水位、雨量から流量を 推定する方法を考える必要がある。 18 適用例 流出解析における逆問題~洪水流量の推定事例 • 降雨量と流出量の関係 500 総流出量(流量を時間積分し たもの)を雨量換算した総流 出高と総雨量を比較すると、 洪水により総流出高の方が大 きくなっている。 総 流 出 高 (mm) 400 300 200 100 0 0 100 200 300 総雨量(mm) 400 500 流量の信頼性がない可能性が 高い。 19 適用例 流出解析における逆問題~洪水流量の推定事例 • 逆問題の設定 – 流量を介さず、洪水予測ができないか? 従来行われてきた洪水予測におけ 今回設計した洪水予測における現時 る現時刻までの状態量を推定する方法 刻までの状態量を推定する方法 xt t −1 xt t −1 xt t xt +1 t xt t xt +1 t 20 適用例 流出解析における逆問題~洪水流量の推定事例 • 水位予測モデルの導出 – 貯留関数法 – 合理式 – 水位流量換算式(HQ式) ds (t ) = r (t ) − q (t ) dt r (t ) = ra (t − Tl ) + rb (t ) s (t ) = kq (t ) Q (t ) = p r (t ) = ra (t − Tl ) + rb (t ) 流 域 s (t ) Q (t ) = s (t ) = kq (t ) 1/ 2 q(t ) 水位観 測所 1 2 f (t )Aq (t ) = a (t )(H (t ) − b(t )) 3.6 水位予測モデルの概念図 k 1 d (H (t ) − b(t )) (H (t ) − b(t ))2 = c(t )r (t ) − dt c(t ) ⎛ f (t )A ⎞ ⎟⎟ c(t ) = ⎜⎜ ⎝ 3.6a(t ) ⎠ 1/ 2 1 f (t )Aq (t ) 3 .6 Q (t ) = a (t )(H (t ) − b(t )) 2 ※上記の式は、解析的に求まる。 21 適用例 流出解析における逆問題~洪水流量の推定事例 逆問題で状態量を推定 xt t −1 xt t 推定した現時刻までの状態 量で将来の水位を予測 xt +1 t 22 適用例 流出解析における逆問題~洪水流量の推定事例 Unscented Kalman Filterによる洪水流量の推定 ¾未知量 • 流量、モデルパラメータ • モデルパラメータ 水位流量の関係式、流出率、 ¾観測量 • 水位、雨量 ¾目的関数 • 残差2乗誤差 1 d (H (t ) − b(t )) ( ) ( ) (H (t ) − b(t ))2 k =c t r t − dt c(t ) ⎛ f (t )A ⎞ ⎟⎟ c(t ) = ⎜⎜ ⎝ 3.6a(t ) ⎠ 1/ 2 状態量として設定 ¾状態量の推定手法 • 事後確率分布で観測水位でフィルタリング • Unscented Kalman Filterを適用 • 上記の手法は、状態量を観測データから修正・更新する逐 次データ同化手法の一つ 23 適用例 流出解析における逆問題~洪水流量の推定事例 • Unscented Kalman Filter – 1990年代にEnsemble Kalman Filter(EnKF),Particle Filter(PF)などの非 線形モデルに対するフィルタリング手法が提案 – 両モデルは統計量をモンテカルロ近似しているため,CPUへの負荷が大き い. – 統計量の近似にU変換(Unscented Transform)を採用し,CPUへの負荷の 小さいUnscented Kalman Filter(UKF)が今回の計算には有利と判断 システムを近似するより、統計量を近似するほうが簡単 数カ所のサンプル点(Sigma Points)を選び、集合平均的に統計量を近似する x と Pxx が既知 y = g (x) y と Pyy を推定する Unscented Transformation (U変換) 24 適用例 流出解析における逆問題~洪水流量の推定事例 2つの状態量b,cで水位をフィルタリングできるが,洪水の初期の低水流 量時と洪水終了後の無降雨時の水位がうまく再現できない.そこで, ベースフローに相当する雨量rbを加えて,3つのパラメータとする. d(H(t) −b(t)) 1 2 k = c(t)r(t) − (H(t) −b(t)) dt c(t) ⎛ f (t )A ⎞ c(t ) = ⎜⎜ ⎟⎟ ⎝ 3.6a (t ) ⎠ 1/ 2 自己回帰係数 α b = 1.0 b(t ) = α b b(t − 1) + eb 1 1 = α c log + ec 自己回帰係数 log 1 − c(t ) / cmax 1 − c(t ) / cmax α c = 0.75 rb (t ) = α r rb (t − 1) + er 自己回帰係数 α r = 0 .8 上記のARモデルをカルマンフィルタの時間更新ス テップに組み込んだ。 25 適用例 流出解析における逆問題~洪水流量の推定事例 香川県を流れる土器川水系への適用 祓川橋 流域面積 107km2 http://www.skr.mlit.go.jp/kagawa/river/seibikeikaku/aboutdoki.html 26 適用例 流出解析における逆問題~洪水流量の推定事例 ¾ 香川県土器川水系での予測の適用性 祓川橋地点 2004年10月台風23号 2011年9月台風12号 2.0 150 2.0 係数 c 日/時 22/05 baseflow 0 1.0 -5 定数b(m),c 係数 b(m),c 定数 b 21/12 baseflow(mm/hr) 21/0 2.0 0.0 0.0 3.0 2/0 200 20/12 100 150 現時刻におけるフィルタリング結果 現時刻におけるフィルタリング結果 0.0 3.020/0 4.0 雨量(mm/hr) 100 50 2/12 3/0 定数 b 3/12 係数 c 200 4/0 5 baseflow 2.0 0 1.0 -5 0.0 baseflow(mm/hr) 4.0 0 流域平均雨量 観測水位 信頼区間上限値 期待値 信頼区間下限値 6.0 50 水位(m) 水位(m) 6.0 8.0 0 流域平均雨量 観測水位 信頼区間上限値 期待値 信頼区間下限値 雨量(mm/hr) 8.0 係数b,係数cおよびbaseflowの変化 -1.0 -10 実績水位がおおむね95%信頼区間にはいっていることがわかり, フィルタリングの結果に大きな問題はない。 係数bは河床の上下方向の変化を示していると考えられる。洪 水ピーク付近で,ベースフローrbによる誤差の調整ができなく なると,bが小さくなり,実測水位との調整を行う傾向がある。 27 適用例 流出解析における逆問題~洪水流量の推定事例 2004年10月台風23号のフィルタリング結果 20/12 21/0 係数 b(m),c 定数 b 21/12 係数 c 日/時 22/05 baseflow 2.0 0 1.0 -5 0.0 baseflow(mm/hr) 3.020/0 係数b,係数cおよびbasefolwの変化 -10 21/0 流量(m3/s) 日/時 22/00 流域平均雨量 H-Q換算流量 逆算流量 貯留関数法による推定流量 1,500 1,000 50 100 流量の逆算結果 500 150 0 30020/0 20/12 21/0 21/12 定数a 定数aと流出係数fの分離 定数a 21/12 日/時 200 22/01.5 流出係数f 200 1.0 100 0.5 0 20/0 20/12 21/0 21/12 雨量(mm/h) 20/12 日/時 0.0 22/0 流出係数f -1.0 2,00020/0 貯留関数法により算定し た流量を推算流量 逆算流量は,降雨と水位 の関係を統計的に誤差が 最小となるように推定し たH-Q式から算定した流量 係数aが次第に大きくなる 傾向 洪水期間中の流出係数fは, 単調増加等の仮定が成立し ない可能性 28 適用例 流出解析における逆問題~洪水流量の推定事例 2011年9月台風12号のフィルタリング結果 2/12 3/0 定数 b 3/12 係数 c 4/0 5 baseflow 2.0 0 1.0 -5 0.0 baseflow(mm/hr) 定数b(m),c 3.0 2/0 係数b,係数cおよびbaseflowの変化 3/0 流域平均雨量 H-Q換算流量 逆算流量 貯留関数法による推定流量 流量(m3/s) 1,500 1,000 流量の逆算結果 500 0 2/12 300 2/0 定数aと流出係数fの分離 定数a -10 4/00 3/12 3/0 3/12 定数a 流出係数f 50 100 150 雨量(mm/h) 2/12 200 4/0 1.5 200 1.0 100 0.5 流出係数f -1.0 2,000 2/0 逆算流量と推算流量 が大きくずれている場 合は,フィルタリングに より,流出モデルの他 にベースフロー rb ,係 数bが調整されている 0.0 0 2/0 2/12 3/0 3/12 4/0 29 内 容 ¾ 河川流域の管理 ¾ 逆問題として河川流域で起きる現象を捉える前に ¾ 河川流域における逆問題 ¾ 適用例 流出解析における逆問題~洪水流量の 推定事例 ¾ まとめ 30 まとめ • 河川管理における逆問題は、洪水予測や河道特性などの予 測に利用されることが多い。 • その一例として、簡単な貯留関数モデルで適用した洪水予測 の事例から、線形フィルタリング手法の一つであるUKFの適 用性を示した。その結果、予測手法としては精度を確保して いるものと考えられる。 • 一方で、水文・水理現象をモデル化する際に、支配方程式の 非線形性の問題があるために、従来から観測値からシステム を更新すると発想はあまり見受けられなかった。ここ数年、流 量推定、粗度係数の推定など、非逐次型や逐次型データ同 化手法を利用した研究が徐々におこなれている。 • ま た 、 洪 水 予 測 に お い て は 、 Ensemble Kalman Filter , Particle Filterを適用する事例が増えつつある。 31 参考となる論文等(水文・水理分野に特化して) ¾ ¾ ¾ ¾ ¾ ¾ ¾ ¾ ¾ ¾ 立川康人,佐山敬洋,寶馨,松浦秀起,山崎友也,山路昭彦,道広有理:広域分布型物理水文モデルを 用いた実時間流出予測システムの開発と淀川流域への適用,自然災害科学 26-2,pp.189-201,2007. 佐山敬洋,立川康人,寶馨:バイアス補正カルマンフィルタによる広域分布型流出予測システムのデータ 同化,土木学会論文集,土木学会論文集B,64(4),pp.226-239,2008. 工藤亮治,近森秀高,永井明博:粒子フィルタを用いた河川流域における実時間洪水予測,農業農村工 学会論文集,No.259,pp.17-25,2009. 立川康人,須藤純一,椎葉充晴,萬和明・キムスンミン:粒子フィルタを用いた河川水位の実時間予測手 法の開発,水工学論文集,Vol.55,pp.S511-S516,2011.2. 田中 耕司,辻倉 裕喜,大八木 豊,杉浦 正之:予測雨量誤差を考慮した洪水予測システム開発,水工 学論文集,第57巻,2013年2月 田中耕司,辻倉裕喜,大八木豊,杉浦正之,森田宏,志鹿浩幸,井川智博:淀川三川合流区間を対象に した水位予測システムの開発,河川技術論文集,第19巻,2013年6月 杉浦 正之,田中 耕司:中小河川の水位予測モデルにおける非線形フィルタリング法の適用性評価,河 川技術論文集,第20巻,2014年6月 佐々木昌俊・辻倉裕喜・田中耕司・白波瀬卓哉・藤井未知:河口砂州崩壊の影響を受ける河道区間の水 位予測手法の開発,河川技術論文集,第20巻,2014年6月 一言正之・櫻庭雅明・清 雄一:深層学習を用いた河川水位予測手法の開発,水工学論文集,Vol.60, 2016.2 吉田圭介・前野詩朗:洪水時の河道内植生による流水抵抗の逆推定手法の検討,水工学論文集, Vol.60, 2016.2 他 多数 32