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化学物質の相互作用と複合影響モデル

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化学物質の相互作用と複合影響モデル
化学物質の安全管理に関するシンポジウム 2016年2月26日
化学物質の相互作用と複合影響モデル
田中嘉成
生態リスクモデリング研究室
化学物質の複合影響(毒性)とは?
化学物質A
化学物質B
AとBの混合物
個々の成分の毒性から混
合物の毒性がどのように
定量的に予測できるか?
?
重要なトピック
① どの複合影響モデル(濃度加算モデル、独立作用
モデル)が有効かは、混合物の作用機序等によるカテ
ゴリーと、どう関係するか?
② 低濃度曝露では、複合影響はどのように予測し、
規制に結び付けたらよいか?
③ 複合作用のパターン(濃度加算、独立作用等)に
依存しない一般的な複合影響モデルはできないか?
主な複合影響モデル
① 独立作用 (Independent Action, IA):作用機構
の異なった化学物質を想定し、毒性反応は確率論的な独立事
象と仮定する。
𝑅𝑀 𝐜 = 1 − 1 − 𝑅1 (𝑐1 ) 1 − 𝑅2 (𝑐2 ) ⋯ 1 − 𝑅𝑛 (𝑐𝑛 )
RM : 混合物の反応, ci:各成分の濃度、Ri:各成分による反応
例: 2物質曝露による曝露による死亡率が 0.1, 0.2 のとき、
1-(1-0.1)(1-0.2)=0.28
𝑅𝑀 𝐜 ≅ 𝑅1 𝑐1 + 𝑅2 (𝑐2 ) ⋯ 𝑅𝑛 (𝑐𝑛 )
すべての成分で Ri << 1 のとき
主な複合影響モデル
② 濃度加算(Concentration Addition, CA):作用
機構が類似の化学物質を想定し、毒性反応は各成分濃度の加
算値(毒性単位の加算値)に従うと仮定する。
希釈原理(Dilution principle): ある成分は、他成分を一定倍率
で希釈したものと同一の毒性反応を示す。
化学物質B
化学物質A
=
AとBの混合物
濃度加算による混合影響予測
仮定: 濃度反応曲線の形が同じである(希釈原理)。各成分の
濃度反応関数は、互いに線形に変換できる。
反応
濃度を g 倍
成分Bの濃度
成分Aの濃度
𝑅𝑀 𝐜 = 𝑓 𝐩, 𝑐1 +
𝑛
𝑔𝑖 𝑐𝑖
𝑖=2
RM : 混合物の反応, f:適当な濃度-反応関数, p:モデルパラメータ,
ci:各成分の濃度,
gi:各成分の成分1に対する効力比(potency factor)(希釈倍率)
濃度加算の概念:
𝑐𝐴
𝐸𝐶50𝐴
+
𝑐𝐵
𝐸𝐶50𝐵
成分A
+
𝑐𝐶
𝐸𝐶50𝐶
=1
成分B
0.5
0.5
CA
CB
EC50A
EC50B
混合物
成分C
0.5
0.5
EC50M
CC
EC50C
CA
CB
CC
濃度加算の概念(公式)
“Concept of concentration addition”
(Berenbaum 1985; Faust et al 2001)
n 成分からなる混合物が x パーセントの反応を示
すとき、各成分濃度の各成分のECx に対する比
率の和は1になる。
𝑛
𝑐𝑖
=1
𝑖=1 𝐸𝐶𝑥𝑖
𝑐𝑖 𝐸𝐶𝑥𝑖 はTU(毒性単位)なので、
「毒性単位の和は1になる。」
に等しい。
複合影響モデル
独立作用 (Independent Action, IA) : Dissimilarly-acting substances
濃度加算 (Concentration Addition, CA):Similarly-acting substances
“No alternative models to IA and CA”
(Kortenkamp and Altenburger, 2010 in ”Mixture Toxicity” ed by van Gestel et al 2010)
Backhaus et al (2000) Dissimilarly acting chemicals
Altenburger et al (2000) Similarly acting chemicals (phenol derivatives)
2つの課題
 作用機構が類似と考えられる物質でも、濃度-反
応曲線の形が同じとは限らない。反応曲線の形が
違う物質を濃度加算して混合物の反応を予測する
方法はないか。
 非相互作用的(加法的)な場合と、独立作用の場合
を含むより一般的な複合影響モデルはできないか。
一般理論 Hewlett and Plackett (1957) Nature
2成分の濃度が、C1, C2 の場合、各成分の反応曲線の形が同じであるかどうか
にかかわらず、複合作用による反応 R は次式で予測できる。
𝑅 =1−
2𝜋
𝑄
−1
2
2
𝑥
−
2𝜌𝑥𝑦
+
𝑦
1 − 𝜌2 −1 𝑒𝑥𝑝 −
𝑑𝑥𝑑𝑦
2 1 − 𝜌2
𝛾1 = 𝜀1 + 𝜃1 𝑙𝑜𝑔𝐶1
𝛾2 = 𝜀2 + 𝜃2 𝑙𝑜𝑔𝐶2
r : 耐性の相関
Q : 積分の定義域で、次の範囲を示す
ℎ
𝛾1 +𝑥 𝜃1
𝜈ℎ
+ 𝜈ℎ
𝛾1 +𝑥 𝜃1
+ℎ
𝛾2 +𝑦 𝜃2
≤1
𝛾2 +𝑦 𝜃2
≤1
 = 0 ⇒ Independent action
 = 1 ⇒ Simple similar action
有用な数理モデルの条件
① 数学的に複雑でなく、理解しやすいこと。
(少なくとも、予測式は単純であること)
② パラメータの数が少なく、標準的な毒性試
験で推定が可能なこと。
濃度-反応関数(曲線)と化学物質の相互作用
加法性/相互作用とは何か?
反応 R(c)
DR2
DR1
c1 c1+Dc
Dc
毒性
c2 c2+Dc
濃度 c
ある量の化学物質がすでに
曝露されている状況で、同じ
化学物質を添加する場合の
考える。
曝露濃度の増加分(添加分)
が同じでも、既存曝露量に
よって、添加による反応増分
は異なる。
Dc
毒性
毒性発現において、化学物
質は同一物質間でも相互
作用している。(線形の反
応関数は、相互作用がな
いことを示す)
濃度-反応曲線の形(関数)は、化学物質に対する
毒性反応における物質間の相互作用の規則を表す
と考えられる。
加法的
非加法的(相互作用的)
R1+2+3
R1+2+3
R1+2
R1+2
R1
R1
C1
C2
C3
C1
C2
C3
毒性相互作用規則(toxic interaction rule: TIR):個体または集団が、特定
の化学物質に曝露されるとき、曝露濃度(投薬量)の増分に対する反応の
増分を、曝露量の関数として導き出す規則。
濃度加算性(Concentration addition)の意味
① 混合物における化学物質成分が同じ TIR を持つ(濃度反
応曲線の形が同じである)。
② 異なる化学物質成分の濃度を加算することによって混合
物の毒性反応が予測できる(成分間の混合が各成分の毒性
反応規則と同じ規則に従う)こと。
濃度加算性 ≠ 加法的 (additive)
≠ 非相互作用的 (non-interactive)
濃度加算は、化学物質の毒性作用が加法的であることや、相互作用が
ないことを必ずしも意味しない (Berenbaum 1985)。
一般濃度加算モデル
Generalized concentration addition model
仮定:成分間の相互作用の規則 (TIR) が混合物特異的に存在し、混合物の毒
性は、成分ごとの濃度加算と、成分間の濃度加算の和から予測できる。(混合
物のTIR:特定の成分組成を持つ混合物ごとに決められる)
成分A
反応
bA
成分B
反応
RA
RB
CA
濃度
CB
複合反応曲線
A
A
B
B
bB
RM
RA
RB
CB*
CB* CA*
CA* +CB*
濃度
bM 成分加算の反応勾配パラメータ
異なる成分を混合する際の
TIR を理論的に導出する方法
はなく、各成分の濃度-反応曲
線と複合影響試験の結果か
ら推定する。
成分間相互作用に関する一般的な記述が可能
各成分の濃度-反応曲線
成分A
反応
bA
RA
成分B
bB
反応
RB
CA
濃度
濃度
CB
複合反応曲線(Case 1)
複合反応曲線(Case 2)
反応加算(独立作用 IA)
RM = RA +RB
CA以上の相互作用
bM
bM
RM
RM
RA
RB
CB*
CB*
CA* CA* +CB*
RA
RB
CB*
CB*CA*
CA*+CB*
一般濃度加算モデル
各成分の濃度(c)-反応(R)関数:
𝑅(𝑐) = 𝐹
𝑐
θ
β
β:反応勾配パラメータ
θ:スケール(EC50など)
F[ Z]:反応関数
ロジットモデルの場合:
1
𝐹 𝑍 =1−
1 + exp log10 𝑍
ワイブルモデルの場合:
𝐹 𝑍 = 1 − exp −𝑍
混合物の反応関数(RM):
𝑛
𝑅M (𝐜) = 𝐹
𝑖=1
𝑐𝑖
θ𝑖
β𝑖 βM βM
βM:成分加算の反応勾配パラメータ
βi:成分 i の反応勾配パラメータ
θi:成分 i のスケール(EC50など)
ロジットモデルの場合:
𝑅M 𝐜
=1
−
1
1 + exp βM log10
𝑛
𝑖=1
𝑐𝑖
θ𝑖
β𝑖 βM
必要なデータ
① 各成分の EC50 と b (反応勾配)
② 混合物中の各成分濃度
③ 混合物の毒性反応
bM
最低1濃度区
複合作用の
解釈(予測)
成分間の相互作用の強さに関する評価
βCA:濃度加算(CA)が成立しているとしたときの反応勾配
各成分の反応
βM > βCA
CAより相互作用的 (interactive)
Component 1
b1
混合物の反応
bM
Z%
X%
bCA
Z*%
ECX1
Y%
Component 2
b2
Y%
X%
0
ECY2
u1
u* 1
u2
u* 2
u1+u2
u*1+u*2
適用例 ①: 亜鉛および銅のオオミジンコ急性遊泳阻害に対する
複合影響
Cu
濃度
mg/L
Zn
% 阻害
濃度
mg/L
7.3
20
10.6
反応勾配
Cu + Zn
% 阻害
成分比*
Cu / Zn
% 阻害
bM
bCA
377
35
1/0
35
-
-
55
533
45
0.8 / 0.2
95
13.7
5.68
14.9
90
753
45
0.6 / 0.4
90
11.5
6.32
15.2
80
779
60
0.4 / 0.6
85
11.0
6.86
16.9
80
889
60
0.2 / 0.8
50
-
-
19.2
100
1015
75
0/1
40
-
-
* 成分比は EC50 スケール
データ: 多田満(国立環境研)
適用例 ②: 非類似作用機構を持つ14物質の海洋バクテリア
Vibrio fischeri の長期生物発光阻害に対する影響
(Backhaus et al. 2000. Env.Toxicol.Chem.19:2348-2356)
破線: 濃度加算モデル(CA)
細実線: 独立作用モデル(IA)
太実線: 一般濃度加算モデル(GCA)
EC50-fraction
EC1-fraction
βM = 2 - 4
βM = 1 - 4
1.0
反応率
βCA=5.8
βCA=10.9
0.5
100
濃度 (mmol/L)(対数)
1000
100
濃度 (mmol/L)(対数)
1000
適用例 ② における濃度・組成依存的な βM
「成分加算の反応勾配パラメータ」
EC50-fraction
βM の値
EC1-fraction
5
6
4
5
4
3
3
2
2
1
1
0
0
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
1
1.5
2
2.5
混合物濃度
混合物濃度
(EC50の成分和に対する相対値)
(EC50の成分和に対する相対値)
3
適用例 ③: 重油水溶性画分(PAHs, alkPAHs)のジャワメダカ
急性毒性に対する複合影響
(鹿児島大学 小山次郎教授)
A重油0.6mL:急性毒性試験(LC50の推定)および化学分析(繰り返し:2)
TUを各成分で計算
ΣTU = 0.54, 0.60 だが、死亡率はいずれも10%だった。
0.25
A重油0.6mL-1
Toxic Unit
0.2
0.15
0.1
0.05
0
0.25
A重油0.6mL-2
Toxic Unit
0.2
0.15
0.1
0.05
0
適用例 ③: 重油水溶性画分(PAHs, alkPAHs)のジャワメダカ
急性毒性に対する複合影響
(鹿児島大学 小山次郎教授)
単成分の毒性試験結果
b
pyrene
1.97
phenanthrene
8.003
fluorene
8.33
1-methylpyrene
11.38
pyrene
1
0.5
死亡率
0
1
2
3
log (mg/L)
他の成分は b = 8.17 と仮定
1
1-methylpyrene
0.5
複合影響試験結果に対するGCAモデルの適合
bM
bCA
繰り返し - 1
6.95
8.29
繰り返し - 2
6.61
8.29
死亡率
0.5
1
1.5
log (mg/L)
濃度加算(CA)が成立してい
るとしたときの「反応勾配」
bM < bCA であり、これらの31成分間の相互作用は、濃度加算の仮定よりや
や弱いことを示唆している(低濃度ではsynergistic 高濃度では antagonistic)。
まとめ
 化学物質の複合影響を統計的に記述し予測するための新しい複合影響
モデル(一般濃度加算モデルGCA)を考案した。
 GCAモデルでは、各成分の濃度-反応曲線が異なった形である場合も、成
分間で相互作用(シナジー効果、補償効果)がある場合にも適用可能で
ある。
 必要なデータは、各成分の濃度-反応データのほかに、混合物の毒性
(最低1点)である。ある混合物毒性から推定した成分加算のパラメータ
から他の混合物毒性を外挿推定する範囲に応じて、混合物毒性の必要
データ数は異なる。
 既存の複合影響試験結果(重金属、除草剤、重油抽出物)にGCAモデル
を適合させ、従来のレファレンスモデル(濃度加算モデル、独立作用モデ
ル)より良好な適合性を示した。
 GCAアプローチは各成分の毒性データのほかに、複合影響試験結果が
少なくとも1混合物で得られている場合に有効な解析法である。
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