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わたしの好きな昔話( 21 ) 小川 遥香
わたしの好きな昔話( 21 ) (ちりめん本) 小川 遥香 ( ● ) Good memories of your school days 学生と図書館 皆さんは「昔話」という言葉を聞いて、どん 物語としてはここで終わりです。さてこの後、 なお話が頭に浮かびましたか。悪人には罰が、 娘は鏡の中の正体に気づいてしまうのでしょう 正直者や心の優しい者には褒美が下る、といっ か。この物語が示唆するのは、やはり娘が今ま た結末を迎えるお話を思い浮かべた人は多いの で見守ってくれていた鏡の中の母が偽物であっ ではないでしょうか。 たと知って嘆き悲しむ「オチ」なのでしょう。 今回はその中でも昔話としては異彩を放つ物 しかし、詳しい結末はありません。ならば、こ 語「松山鏡」を紹介したいと思います。 んな結末はどうでしょうか。 以下があらすじです。 ≪鏡の中の美しい自分の姿を知った娘は母が ≪昔、越後の松山で幼い娘と両親が暮らして 危惧したように自惚れ、やがてその美しさで自 いた。ある日、父が仕事で都へ行き、妻への土 分の身を滅ぼしてしまうのだった。≫ 産に鏡を買ってきたが、彼女はそれを大事にし 無いとは言いきれない「オチ」の一つです。 まい込み、数年後、母に似て美しく成長した娘 これなら私たちの知る強烈なオチを備えた「昔 には自惚れさせないために見せずにいた。その 話」に近づくのではありませんか。これが昔話 後、母は病にかかり、いまわの際に母が死んで の面白いところなのです。子供の頃、昔話を読 も鏡の中に母の姿を見て、いつまでも見守って むとわくわくしませんでしたか。何が待ち受け いることをわかって欲しいと娘に鏡を渡した。 ているのか分からない展開が私たちの想像力を 娘は母の死後、言いつけ通り毎日鏡の中の元気 自由に掻き立て、読む人によって印象を大きく でずっと若い頃の母に話し続け、それに慰めら 変えてくれるのです。大人になった今はどうで れ育った。娘の行為を不審に思った父は、事情 しょう。これを機に、もう一度昔話を読み返し を聞くと娘の健気さが不憫で、それは母に似た てみませんか。 うぬぼ ふびん 娘自身の顔だとはとても言えなかった。≫ (京都外国語大学付属図書館ホームページより) 22 おがわ はるか(英米語学科3年次生)