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21 ドイツ語の格習得に関する授業実践 磯村尚弘

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21 ドイツ語の格習得に関する授業実践 磯村尚弘
ドイツ語の格習得に関する授業実践
磯村尚弘
(愛知教育大学非常勤講師)
Teaching the German case system: A report on classroom practice
Naohiro Isomura
(Part Time Lecturer; Aichi University of Education)
概要 ドイツ語は英語と比べると習得が難しいといわれる。習得が難しい理由として挙げられるのがドイツ語
の格変化である。これまでのドイツ語教科書は 1 つの課で 4 つの格すべてを扱い、格変化を一度に学習するよう
に編集されたものが多く出版されてきた。しかし近年格習得の研究の成果をもとにした 4 格重視の新しいタイプ
の教科書が出版されるようになってきている。本報告では、また言語類型論の視点から格の解説を行っている先
行の実践を参考にしながら、新しいタイプの教科書を使用した授業実践について報告する。
Keywords :ドイツ語、格変化、格習得
1. はじめに
ドイツ語は一般的に習得が難しい言語であるといわ
れる。
習得が難しい理由として挙げられるのが、
名詞、
代名詞が有する格と、名詞の格を標示するために用い
られる冠詞、冠詞類の変化の煩雑さである。
ドイツ語の名詞と代名詞には 1 格(Nominativ)、2
格(Genitiv)、3 格(Dativ)、4 格(Akkusativ)という 4
つの格があり、こうした格は冠詞類の変化、そして男
性名詞単数形、中性名詞単数形については冠詞類の変
化とともに名詞自身の語尾によって示される。また人
称代名詞は人称代名詞自身が語形変化することによっ
て格が示される。ただこうした語形変化で格が明確に
識別できる訳ではなく、女性名詞単数形 2 格、3 格な
どのように語形変化の形が同じものがあるので、実際
には語形変化だけではなく他の語句との文法的な関係
や意味的関係なども手掛かりとして意味役割を識別し
ている。1
今井田 (2003)をみると、格の理解と格変化の習得は
大学でドイツ語を履修した学生が履修を断念する一つ
の大きな要因となっていると思われる。そこで本報告
では、今井田 (2003)と吉田 (1997)といった先行研究
をもとに 2014 年度後期に実施した授業実践に関する
報告を行う。
比べて比較的遅いことが明らかとなった。また被験者
達は文成分を理解するために語順・格形態素の両方を
利用しており、またドイツ語を母語とする子供たちに
比べて語順のストラテジーに頼る傾向が強いことがこ
の研究で指摘されている。2 またそれぞれの格を取得
する順番も第一言語の習得のときと同じであり、1 格
→4 格→3 格→2 格の順となっている。
2-2. 初級ドイツ語教科書への影響
初級学習者向けに編集された教科書ではこれまで格
変化に関しては 1 つの課で 4 つの格すべてを扱い、格
変化を一度に習得できるように編集されたものが多く
出版されてきた。3 おそらくカリキュラムや授業期間
(15 回授業なのか 30 回授業なのか)、授業内容(すべて
の格が 1 つの課で扱われていても複数回の授業で分け
て扱う、または一度にすべての格の用法を説明して練
習を繰り返す)など、教員の指導方法や授業計画でこう
した伝統的な教科書が現在でも多く用いられているの
だと思われる。
しかし前述した格習得の研究成果は、最近日本で出
版されている初級学習者向けの教科書にも影響を与え
ていると思われ、定冠詞、不定冠詞の 1 格、4 格を学
習したのち 3 格、2 格を学習するよう編集されたもの
が出版されるようになってきている。4
2.ドイツ語の格習得に関する先行研究
この節ではドイツ語の格習得に関する先行研究に
ついて、今井田 (2003)をもとに述べる。
3. 格習得に関する授業実践
ここではドイツ語の格習得に関する授業実践として
吉田 (1997)を取り上げる。吉田は日本語話者である大
学生がドイツ語の格変化習得で感じる困難さを「格ア
レルギー」と名づけ、
「最初の大きなハードル(障害物)」
5 と指摘している。しかしこうした「ハードル」であ
る格変化習得について、これまでのドイツ語教育は単
なる「詰め込み」でしか対応してこなかったと彼は批
2-1.第二言語での格習得
今井田によれば、Wegener (1995)は自然環境におけ
る子供の第二言語習得の研究を、
トルコ、
ポーランド、
ロシアからの移住者の子供を被験者とした文解釈のテ
ストおよび発話を分析して行った。その結果第二言語
としてのドイツ語の格習得はトルコ語など他の言語と
21
判し、6 授業実践において言語類型論の基礎知識を授
業で紹介しつつそのアレルギーを解消しようとの試み
を行っている。そしてそのためには(回り道にはなる
が)言語類型論の基本的な情報を授業で示しながら格
変化の授業を行い、格変化の習得と共に学生としての
年齢に十分対応できるような知的充足感も与えようと
試みたと述べている。7
吉田はまず「主語(S)」
、
「動詞(V)」
、
「目的語(O)」の
語順を用いて言語の分類を行い、日本語のような SOV
言語が英語やドイツ語のような SVO 言語よりも多い
こと、さらにドイツ語について、子どもがドイツ語を
第一言語として習得する過程において、ドイツ語の語
順を SOV として使うことがあるという事例も紹介す
る。そしてこうした事例から、語順の違いこそあれ、
人間の言葉には普遍的な要因があるのではないかと指
摘する。8
次に吉田は日本語の格とドイツ語の格の比較を行い、
日本語は名詞に対する文の意味付与がいわゆる「格助
詞」によって行われるのに対し、ドイツ語は冠詞を名
詞の前に置くことによって名詞の役割が明示的になる
と解説する。吉田は学生に、
設問文:父+□ 私+□ お金+□+V
という設問文を見せ、
「それでは上の設問文の□に適当
な「何か」を埋めることによって意味のある文にして
みてください。なお、V には適切な動詞を選択してみ
てください」9 と学生に指示して文を書いてもらい、
(1) 設問文だけみてもある種の意味関係が、頭の中で
成立しているということ。つまり「父/私/お金」とい
う 3 つの名詞に生じうる有意味(relevant)な関係性が
「発話」される前に、あらかじめ頭の中で何通りか想
定されているということの理解。
(2) 「助詞」を付与することによって、初めてそれぞ
れの名詞が文という伝達単位の中である意味役割を担
うということの再確認。
(3) 最初の名詞(NP1)「父」が、S〔動作主体〕として
比較的立ち上がりやすいかもしれないこと。
(4) (3)とは反対に、最初の名詞「父」が、必ずしも「主
語」とはならないこともあるということ。したがって
最初の名詞(NP1)の意味は、談話、文脈依存的である
ということの理解。
では名詞の前に冠詞を置くことによって名詞の役割が
明示的になること、例えば der Vater ならば「ガ+父」
と並べられているというように便宜的に考えられるこ
とを解説している。11
4. 愛知教育大学における授業計画
これまで 2 節、3 節で挙げてきた先行研究から、2
節であげた研究成果をふまえたテキストを採用し、3
節であげた授業実践をもとにした解説を授業で行うこ
とで、格変化の定着が順調に行われるのではないかと
考えた。そこで今回の授業実践では今井田亜弓他
(2012)をテキストとし、格に関する基本的な解説を 3
節の事例をもとに行うこととした。ただし格習得以外
の会話練習や数詞、食べ物や飲み物などといった分野
の単語やそれを用いた表現を学習するために、前述し
たテキストと共に Niers 他 (2013)も用いた。そしてこ
の実践で学生はどのような点で困難さを感じているか
を課題や小テストのコメントや授業中の発言で、課題
や小テストの得点から定着の度合いをみることとした。
5.愛知教育大学における今回の授業について
今回の授業は、本学の共通科目 1 年生向けの「ドイ
ツ語Ⅰ」であり、2014 年度後期に 15 回行った。第 1
回の授業でアルファベートを、第 2 回から 7 回までの
授業で単語の発音やアクセント、
挨拶などの基本表現、
動詞の人称変化のうち、規則変化、動詞 sein の人称変
化、語順(定形二位)、否定表現を扱った。第 8 回の授
業で名詞の文法上の性と冠詞、不定冠詞の基本的な用
法について解説し、文法上の性に分類された名詞に適
切な冠詞を当てはめて用いる練習を行った。格の解説
と格変化の練習は第 9 回目の授業から行った。なお各
授業の最後にその日の授業の内容を振り返る課題を行
ったが、格変化を扱った授業のうち第 10 回、13 回、
14 回、15 回では授業の進度が計画よりも遅かったた
め、この課題を行うことができなかった。
5-1.
「格」
「格変化」の解説、定冠詞、不定冠詞の 4
格の明示的指導
第 9 回から第 11 回の授業にかけて、格と格変化の
解説と「4 格」の用法を用いた練習を行った。教科書
では Lektion 2 に相当する。格についてはまず日本語
の格助詞を例に第 9 回授業で解説した。最初に黒板に
「私」
「その少女」
「本」
「贈る」と書き、
「これらの名
詞、代名詞を用いて一つの文を作るとしたらどのよう
な文ができますか?」と学生に質問し、指名した学生
に答えてもらった。指名された学生はたいてい並べら
れた語句の順を変えずに
「私はその少女に本を贈った」
と答えたので、その答えをもとに黒板に「私はその少
女に本を贈った」と格助詞をつけたして書き、以下の
を確認する作業を行った。10 そしてこの作業の後、日
本語では名詞の後にいわゆる「格助詞」を付与するこ
とによって、それぞれの名詞の文の中での役割あるい
は資格、すなわち主語としての資格、目的語としての
資格が明示されることと、これと同じ原理でドイツ語
22
ように説明した。
いま、
「私」
「その少女」
「本」という代名詞や名詞に
「は」
「に」
「を」という助詞がつきました。日本語の
名詞は助詞がつくことで、それぞれの代名詞や名詞が
文のなかでどのような役割と果たすか、つまり主語と
しての役割をはたすのか、目的語、さらにいえば間接
目的語もしくは直接目的語としての役割をはたすのか、
が決まります。
一方ドイツ語はどうするのかというと、
こうした「は」
「に」
「を」の役割は冠詞や語形変化し
た代名詞が担います。つまり冠詞や代名詞が形を変え
ることによって、その冠詞と名詞の句が、または代名
詞が文の中でどのような役割を果たしているか、を表
すのです。
次に教科書を用いてまず定冠詞、不定冠詞の「1 格」
「4 格」が男性、中性、女性名詞のそれぞれと共に用
いるときにどのような形になるのかを見て、
「1 格」が
日本語の「が・は」にほぼ相当し、動詞 sein の述語内
容語の役割も果たすこと(つまり sein の示す内容を表
す語であること)、そして「4 格」がほぼ「を」に相当
することを説明した。さらに前回までに練習してきた
冠詞の形は「1 格」の形であることも説明した。
この説明の後にまず「4 格」の格変化の練習を行っ
た。行った練習は空欄に適切な語句を入れる練習と作
文練習、会話練習である。この練習は授業中と課題と
に分けて行った。
例えば教科書に動詞 suchen「~を探す」と不定冠
詞 4 格を共に用いる作文問題が教科書に 6 問あり、欄
外にて指定された名詞にあわせて不定冠詞を適切な形
にして書くという作文練習を宿題で出して各自行って
もらった(例 1)。12
(例 2) 例にならって
に適切な冠詞・名詞・人称
代名詞を入れましょう。
(r=男性名詞、e=女性名詞)
r iPod
A: Wie findest du den iPod?
B: Ich finde ihn toll.
e Hose
A: Wie findest du
B: Ich finde
?
schick.
第 11 回授業の最後にその日の授業内容を振り返る
課題をしてもらった。この回の課題は会話練習で行っ
た基本表現も(「君は野球する?」など)問題に出した
が、4 格の格変化に関する問題は以下のような問題を
行った。
・私は辞書を(ein Wörterbuch)さがしている。
・君はボールペンを(ein Kugelschreiber)持ってる?
・君たちはこの眼鏡を(die Brille)どう思う?
1 限目は 33 名出席で 20 点満点中平均 17 点、
2 限目
は 35 名出席で平均点 16 点であった。1 格、4 格の格
変化に関しておおむね理解していたのだと思われる。
それぞれ課題の下部に授業に関する感想を書いてもら
ったが、
「難しくなってきてもうごちゃごちゃです」
「ものすごく難しくて本当に単位とれるか不安です」
「難しくなってきました...1 格と 4 格、不定冠詞と否
定冠詞のちがいがよくわかりません」
(例 1) 例にならって答えてみましょう。
(r=男性名詞、s=中性名詞)
例 r Rock
A: Was suchen Sie?
B: Ich suche einen Rock.
等の、格変化に慣れず困難さを感じているコメントが
多数あった。しかし、
「4 格の意味がやっと分かってきた!変換まちがえや
すい。うむ...」
「やっといろいろなんとなくわかってきました」
s Auto
A: Was suchst du?
B:
.
また動詞 finden「~を…であると思う」と定冠詞 4
格を共に用いる問題が教科書にあり、欄外で指定され
た名詞に合わせて定冠詞を適切な形にして空欄に書く
練習を行い、同時に同じ問題で、定冠詞と名詞からな
る名詞句を適切な人称代名詞におき替えて空欄に書く
練習を行った。次にそれを音読する形で会話練習を行
った(例 2)。13
といったコメントも少数であるがでており、最初に行
った格変化の解説を理解しつつある学生も出てきてい
たと思われる。
5-2.定冠詞、不定冠詞の 3 格、2 格の格変化、人称代
名詞の格変化の指導
第 12 回から 15 回の授業では、4 格の復習を会話練
習形式で行い、名詞の複数形と格変化の 3 格、2 格、
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gehören(~3 格のものである)、helfen(~3 格を手伝う、
助ける)など、3 格の目的語をとる動詞、そして人称代
名詞の格変化と 3 格目的語、4 格目的語の語順を扱っ
た。教科書では Lektion 3 に相当する。
まず 3 格と 2 格の解説を行い、次に 3 格と 2 格につ
いて、教科書にはまず下線部の穴埋め問題が最初にあ
ったのでそちらから行った。14
※Das ist + 1 格 「これは~1 格です」
(例):Das ist die Gitarre einer Frau.
(1 格)
(2 格)
(これはある女性のギターです)
・これはその女性(dieFrau)の自動車(das Auto)です。
・ こ れ は あ る 男 性 ((r)ein Mann) の 自 転 車 (das
Fahrrad)です。
・これはこの子供たち((pl)die Kinder)のボール(der
Ball)ですか?
下線に正しい格語尾を補いましょう。
(e=女性名詞)
Das ist d
Wörterbuch d
Freundes.
(これは友達の辞書です。)
Sie schreibt d
Bruder e
Mail.
(彼女は兄にメール(e)します(メールを書きます)。)
2 格に関しては、日本語と修飾-被修飾の関係が逆で
ある点、また男性名詞と中性名詞の単数形では名詞の
語尾に s かまたは es がつく、という規則に困難さを感
じているようであった。そのため最初は日本語の語順
で 2 格と他の格の名詞を配置してしまったり、名詞に
つけるべき語尾をつけられず間違えたりしていた。
第 12 回の授業の最後に、格変化についてその日の
授業に学習したことを振り返る課題を作文問題形式で
10 問行った。
次に筆者が作成したプリントを用いて、schenken「~
3 格に…4 格を贈る」の人称変化とこの動詞を用いた作文
練習を行った。以下のような問題である。
(練習)カッコ内の語句を適切に変化させて以下の日本
語をドイツ語にしましょう。
(注意:r=男性名詞 e=女性名詞 s=中性名詞 pl=複数
形)
以下の文をドイツ語にしましょう。(2 点×10)
(r=男性名詞、s=中性名詞、e=女性名詞、pl=複数形)
・母は(die Mutter)父に(der Vater)ネクタイを(eine
Krawatte)贈る。
・君は彼女に何を贈るの?
・これはある男性の(r. ein Mann)の原付(das Moped)
です。
・彼はガールフレンドに(die Freundin)ブレスレット
を((s) ein Armband)贈る。
・君は子供達に((pl) die Kinder)何を(was)贈るの?
・彼女は彼にネクタイを(eine Krawatte)贈るの?
3 格に関しては、すでに 1 格、4 格を練習していた
こともあり、比較的容易に適切な個所に当てはめてい
たようである。練習中、特に困難さを訴えるような発
言はきかれなかった。しかし授業最後の課題では
得点結果は、1 限目は 30 名出席して 20 点満点で平
均 19 点、2 限目は 27 名出席して 20 点満点中平均 17
点であった。この回の課題にも、
「3 格は活用の変化の仕方がバラバラで覚えにくいで
す...」
「格がたくさんあって難しいです」
「頭がぐちゃぐちゃです。整理しなければ...」
「また格変化が登場して文を書くときに考える時間が
のびてきた。あまり考えなくてもすぐ出てくるくらい
になりたいと思う」
といったコメントがあった。おそらく、例えば不定冠
詞では男性名詞、中性名詞単数形 3 格「einem」や女
性名詞単数形 3 格「einer」など新しい冠詞の形がでて
きたことに「バラバラ」という表現を用いて戸惑いを
表しているのだと思われる。
さらに 2 格についても筆者の作成した同様の形式で
練習を行った。
といったコメントが寄せられた。この段階ですべての
格が練習で出てくるようになったので、どこで適切に
格変化した名詞句をあてはめていくか、という点に複
雑さを感じていると思われる。
第 13 回の授業では、授業の最初に格変化の 1 格、4
格や否定表現を対象とした小テストを行った。形式や
空所を適切な語句で補充する問題(各 2 点×5 問)と、
否定疑問文にドイツ語で答える問題(各 2 点×5 問)、
そして作文問題(各 2 点×5 問)である。
2 格の練習:カッコ内の語句を適切な形にして以下の
日本語をドイツ語にしてください。
(注意:r=男性名詞 e=女性名詞 s=中性名詞 pl=複数
形)
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結果は、1 限目は 36 名出席で 40 点満点中平均 34
点、2 限は 36 名出席で平均 27 点であった。一部格変
化とは異なる問題もあったが、おおむね理解できてい
たと思われる。
6.まとめ
以上が格変化に関する授業実践の記録である。この
授業実践では、2 節で述べた第二言語における格習得
に関する先行研究をふまえて、4 格の格変化から練習
を行うよう編集されている教科書を用いて格変化の練
習を行った。さらに 3 節で述べた吉田の格習得の授業
実践をもとに、学生に日本語の助詞を意識させつつ格
変化を理解させることの重要性を意識して格変化の解
説を行った。
課題や小テストの得点を見る限り、おおむね格変化
という現象については短期的な視点からみれば理解し、
定着したのではないかと思われる。長期的な視点、つ
まり一定期間をおいて定着の度合いを検証するのは今
後の課題としたい。格の習得の順については、他のカ
リキュラムで行われたケースと比較できないのでこれ
が一番合理的であったのかどうかはこの実践では何と
も言えない。ただ私見ではあるが、格変化を一度に学
習するように編集された古いタイプの教科書に比べて、
格の定着率が上がったような印象を持っている。もち
ろん授業中の発言や課題でのコメントを見る限り、今
回の授業実践でも学生は格や格変化の理解について全
般的に相当難しく感じていたと思われる点は変わらな
いが…。
授業の進むスピードや授業内容について反省すべき
点は、授業回数の後半になるにつれて作文練習や適切
な冠詞の形を空欄に当てはめる練習に偏りがちだった
ことと、前述した通りすべての授業の最後にその日の
授業で行ったことを振り返る課題をやるよう計画して
いたが、進捗が遅れてできず彼らの感じていた困難さ
についてさらに詳細に尋ねることができなかった点で
ある。授業を進めるスピードや行う練習の内容につい
てさらに検討する必要があると思われる。
コメントから分析する手法に関しては須田 (2015)
の研究があるので今後こうした研究を参考にして、一
層深い分析ができるように努めたい。
注
1. 成田節他 (2004, 117 頁)。
2. 今井田 (2003 年, 69 頁)。
3. 例えば小野他 (2014)や林他 (2015)などがある。
4. 例えば藤原他 (2009)や今井田他 (2012)などがあ
る。
5. 吉田 (1997, 60 頁)。
6. 吉田 (1997, 59-60 頁)。
25
7. 吉田 (1997, 60 頁)。
8. 吉田 (1997, 62 頁)。
9. 吉田 (1997, 62 頁)。
10. 吉田 (1997, 63 頁)。
11. 吉田 (1997, 63 頁)。
12. 今井田他 (2012, 25 頁)。
13. 今井田他 (2012, 25 頁)。
14. 今井田他 (2012, 25 頁)。
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吉島茂、境一三『ドイツ語教授法:科学的基盤作りと
実践に向けての課題』三修社、2012 年。
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