...

SAGA16プログラム(PDF形式:1.24MB)

by user

on
Category: Documents
8

views

Report

Comments

Transcript

SAGA16プログラム(PDF形式:1.24MB)
目
次
・スケジュール・プログラム
P2
・会場地図
P4
・開催挨拶
P7
・特別セッション「ダイヤとサクラ:ふたごチンパンジーの4年半」
講演要旨
P9
・シンポジウム「子育てを支援する:大型類人猿の場合」
講演要旨
P 13
・シンポジウム「野生動物保全・未来へつなぐ」
講演要旨
・ポスター発表要旨
P 19
P 23
《プログラム》
1日目
11月9日(土)
会場:どうぶつ科学館動物シアター
10:00
オープニング
開会挨拶
園長挨拶
10:10
特別セッション「ダイヤとサクラ:ふたごチンパンジーの4年半」
司会:福守 朗(鹿児島市平川動物公園)
◆ダイヤとサクラの4年間
山田 信宏(高知県立のいち動物公園)
◆ふたごチンパンジーの発達にともなう社会関係の変化
市野 悦子(京都大学霊長類研究所)
◆2歳のふたごチンパンジーに対する母親以外の大人による世話行動
岸本 健 (聖心女子大学)
◆チンパンジーのふたごとヒトのふたご どこが似ていてどこがちがう?
安藤 寿康(慶應義塾大学)
10:10
10:35
10:50
11:15
司会:友永 雅己(京都大学霊長類研究所)
SAGA 代表 伊谷 原一(京都大学野生動物研究センター)
高知県立のいち動物公園 園長 多々良 成紀
<昼食>
12:00
13:00
13:05
13:30
13:55
14:35
15:00
15:25
特別講演 シンポジウム「子育てを支援する:大型類人猿の場合」
司会:友永 雅己(京都大学霊長類研究所)
◆人工哺育で育てたニシゴリラを両親の元に戻しました
長尾 充徳(京都市動物園)
◆人工哺育のチンパンジーが群れに戻るまで∼多摩での事例∼
木岡 真一(上野動物園)
◆人工哺育から実母との群れ復帰 チンパンジーの2組の母子について
山内 直朗(日立市かみね動物園)
<休憩>
◆オランウータンの母親はどのようにして「ひとり」で子育てできるようになるのか
∼単独性のオランウータンが子育てに成功する為に必要なこと∼
久世 濃子(国立科学博物館・日本学術振興会)
◆野生チンパンジーの子育て
橋本 千絵(京都大学霊長類研究所)
◆大型類人の子育てをもっと知るために、サルや他の哺乳類の子育ても見てみよう
中道 正之(大阪大学大学院人間科学研究科)
<休憩>
16:00
ポスターセッション
17:30
懇親会( 19:00 まで)
会場:のいち動物公園内
-2-
レストラン「ラクーン」
2日目
11月10日(日)
会場:どうぶつ科学館動物シアター
10:00
10:00
10:30
11:00
11:30
シンポジウム「野生動物保全・未来へつなぐ」
司会:本田 祐介(高知県立のいち動物公園)
◆ニホンカワウソに学ぶ、考える
多々良 成紀(高知県立のいち動物公園)
◆高知県における野生ニホンザル保護管理の現状と課題
葦田 恵美子(四国自然史科学研究センター)
◆四国山地に生息するツキノワグマの絶滅回避へ向けた取り組み
山田 孝樹(四国自然史科学研究センター)
◆高知県産オオイタサンショウウオの保護活動
渡部 孝(わんぱーくこうちアニマルランド)
閉会挨拶
12:00
SAGA 代表
伊谷
原一
13:00
エクスカーション
園内見学
「温帯・熱帯の森コース」
「アフリカ・オーストラリアコース」
「ジャングルミュージアムコース」
14:00
閉会
■類人猿の絵画展
11 月 2 日(土)∼ 11 月 10 日(日) 9:30 ∼ 17:00
場所:のいち動物公園内 チンパンジー屋内展示場
■ブース出展
場所:のいち動物公園内
どうぶつ科学館前
-3-
会場
高知県立のいち動物公園
高知県香南市野市町大谷738
0887−56−3500
■高知自動車道
南国 IC より車で20分。
■高知龍馬空港より車で10分。
■ J R土讃線「後免駅」乗り換え
「のいち駅」下車。
→
土佐くろしお鉄道 ごめん・なはり線
徒歩20分または車(タクシー)で5分。
■ J R土讃線「土佐山田駅」下車。車(タクシー)で20分。
<電車・飛行機の時刻のご案内>
電車
高知駅発
のいち駅着
7:46
8:14
8:30
8:54
飛行機
のいち駅発
高知駅着
20:13
20:42
21:58
22:23(最終)
-4-
羽田発
高知着
7:40
9:10
伊丹発
高知着
7:30
8:10
-5-
-6-
SAGA16の開催にあって
SAGA16 を開催するにあたり、世話人を代表して一言ご挨拶を申し上げます。
SAGAは 1998 年に発足してから、今回で 16 回目のシンポジウムを迎えます。当初は大学や研
究機関が主体となって進めてきましたが 、2006 年からは動物園と大学が連携して開催しています 。
SAGA とは、 "Support for African/Asian Great Apes"(アフリカ・アジアに生きる大型類人猿を支援
する集い)の略称です。しかし、動物園との連携が定着してからは、大型類人猿だけでなく他の動
物の研究、飼育、保全についても取り上げられるようになりました。地球上には多様な野生生物種
が生存していますが、国際自然保護連合( IUCN)のレッドリストでは 5,668 種の動物が絶滅危惧
種として挙げられています。 SAGA の目的は、そうした動物たちや人も含めた動物同士の関係につ
いて理解を深めるとともに、野生での保全や飼育下での福祉を推進することにあります。それを踏
まえれば、 SAGA という名称は "Support for All Great Animals"(全ての偉大な動物たちを支援する集
い)と読み替えても良いのかもしれません。
SAGA では( 1)大型類人猿ならびにその生息地の保全のための活動を行う 、( 2)飼育下の大型
類人猿の「生活の質( QOL: Quality of Life)」を向上させる 、( 3)大型類人猿を侵襲的研究の対象と
せず、非侵襲的手法による科学的研究によって彼らへの理解を深める、という 3 つの提言を掲げて
きました。これまでに、大型類人猿を対象とした侵襲的医療実験が 2006 年に廃絶され、 2012 年に
は医療実験施設で飼育される類人猿数がゼロになりました。また、今年は昨年の京都市動物園に続
いて、名古屋市東山動植物園でもゴリラの赤ちゃんが誕生するという、嬉しいニュースがありまし
た。
しかしその一方で、多くの動物園で希少な動物たちの繁殖、血統、個体数維持が大きな問題とな
りつつあります。今後は類人猿だけでなくあらゆる動物の保全、飼育下の QOL 向上、科学的理解
に努めるとともに、野生動物の飼育に携わる私たち自身の責任を真剣に考え、これまでに蓄積され
てきた成果や技術をより実戦に向けた形で推進していくことが重要なのだと思います。
今回の SAGA16 開催にあたっては、高知県立のいち動物園の関係者の方々に多大なるご尽力を
賜りました。この場を借りて深く御礼申し上げます。また、四国での初めての SAGA 開催の実現
に向けてご努力いただいた世話人会及びワーキング・グループのメンバーに心より感謝の意を表し
ます。
平成 25 年 11 月吉日
SAGA 世話人、京都大学野生動物研究センター
伊谷
-7-
原一
SAGA16の開催にあたって
四国で初めて、この南国土佐の高知県において SAGA が開催されますこと、大変光栄に存じま
す。心から歓迎申し上げます。
のいち動物公園は平成 3 年の開園以来、チンパンジーを群れ飼育していますが、人工哺育個体が
主体であったため社会性が低く、繁殖にも結び付かない状況が長く続きました。平成 20 年に旧 チ
ンパンジー・サンクチュアリ・宇土(現 京都大学野生動物研究センター熊本サンクチュアリ)の全
面的な支援・協力を頂いて群れの再編を行い、早くも翌年には予想以上の成果、希少な双子の繁殖
に成功しました。そして群れ社会はさらに多様化・活性化され、続いての繁殖にも結び付いていま
す。正直、これほどの変化が生じることは驚きでした。これら一連の流れには、いつも SAGA と
そのメンバーの方々のアドバイスやご支援がありました。本当に感謝いたしております。
前記の事例は、大型類人猿を始めとした希少動物の域内・域外保全のために、別々の組織や機関
が縦に横に連携し協力していくことがいかに重要であるかを証明しました。これからもその目標に
向かって SAGA の皆さまと共に歩めることを喜びとし希望としています。
高知県は県土の 84%を森林が占める全国一の森林県です。四万十川に代表される豊かな自然が
思い浮かぶことでしょう。しかし人工林率が高い上に、過疎化による里山荒廃、シカの過剰増殖に
よる被害や山林荒廃など、四国の山林や自然には黄色信号が点っています。そうした状況を考えま
すと、今回の SAGA 開催は高知・四国にとりましても大きなチャンスです。実りある催しとなりま
すよう開催園として努力しますので、何卒よろしくお願いいたします。
高知県立のいち動物公園園長
多々良
-8-
成紀
特別セッション
∼ダイヤとサクラ:ふたごチンパンジーの4年半∼
ダイヤとサクラの4年間
山田信宏 1 、小西克弥 1 、笠木靖 1 、木村夏子 1 、福守朗 2 、友永雅己 3 、市野悦子 3 、藤森唯 3 、
安藤寿康 4 、岸本健 5 、西内章 6 、吉井喜美 6 、木村元大 7
(1 高知県立のいち動物公園、 2 鹿児島市平川動物公園、 3 京都大学霊長類研究所
4 慶応義塾大学 、5 聖心女子大学 、6 のいち動物公園ボランティアーズ 、7 岐阜大学 )
高知県立のいち動物公園では 1991 年の開園時からチンパンジーを飼育している 。2009 年 4 月 18
日にサンゴ( 推定 33 歳 )が二卵性の双子を出産し 、オスを「ダイヤ」、メスを「サクラ」と命名した 。
チンパンジーでの双子出産例は国内外を見てもきわめて少数で 、日本国内では6例目である 。また 、
両方の子どもが母親の自然哺育により無事に成育しているのは日本で初めての例である 。そのため 、
サンゴの育児負担軽減のためサポートに努めると共に、飼育職員以外にもいくつかの大学など、複
数の協力を得て行動観察を行った。栄養面では母乳が不足する場合に備えて 102 日齢から離乳食と
してバナナを与えた。行動面では 654 日齢にサクラは給餌用遊具(ヤムヤムキャッチャー)にて初
めて竹を使って餌を落とした。更にダイヤとサクラの存在は既存の人工哺育個体の社会性にも多く
の影響を与えながら 2013 年 4 月に 4 歳の誕生日を順調にむかえた。今回はその4年間の観察結果
について報告する。
-9-
ふたごチンパンジーの発達にともなう社会関係の変化
市野
悦子 1 、木村
元大 2 、友永
雅己 1
( 1 京都大学霊長類研究所、 2 岐阜大学)
チンパンジーは、生まれてからしばらくはほとんどの時間を母親と過ごす。成長と共に母親から
離れ、群れのメンバーとの関係を築き、社会関係を広げていく。われわれは 2010 年 11 月から、ダ
イヤとサクラというふたごチンパンジーの行動を継続的に観察し、発達にともなう彼らの社会関係
の変化を調べてきた。 1 ヶ月に X 回程度、 1 回につき 60 分間、 1 分ごとに各個体の最近接距離個体
( Nearest Neighbor, NN)とその時の行動を記録した 。その結果 、ふたごの NN になる個体を見ると 、
ダイヤではサンゴ(母親)が、サクラでは非血縁個体であるチェリー(女性)が高くなった。それ
ぞれの割合と、その時間的推移は類似していた。これは、チェリーがサンゴに代わり、サクラの乳
母的役割を果たしていたからだと考えられる。ふたごが 36 ヶ月齢を過ぎた頃から、ふたご同士で
NN になる割合が増加している傾向にある。母親から離れ、子ども同士で行動するようになり、社
会的関係の質的な変化が起こってきている。今回の発表では、この継続地調査の報告を行う。
- 10 -
2歳のふたごチンパンジーに対する母親以外の大人による世話行動
岸本
健(聖心女子大学)
高知県立のいち動物公園では、 2009 年に 1 組の二卵性のふたご(女の子と男の子)が誕生し、
母親による哺育が今日まで継続している。チンパンジー・コミュニティの母親によるふたごの自然
哺育は、のいち動物公園が日本で初めての成功例である。この成功の理由の 1 つは,子どもたちの
世話に他の大人たちも参加することで,母親の育児負担が軽減されているためと推測される。それ
では,母親以外の大人は自分と血縁関係にない子どもの世話をすることをいかに決定しているので
あろうか。本講演では,ふたごたちが 2 歳齢の時に実施された観察データから ,「ふたごが母親の
近くにいるかどうか」が母親以外の大人による世話行動の生起に影響を与える可能性について検討
した結果を紹介する(写真は,母親が近くにいない場合に生じた,女の子と母親以外の大人の女性
との近接の様子である )。
- 11 -
チンパンジーのふたごとヒトのふたごどこが似ていてどこがちがう?
安藤
寿康(慶応義塾大学)
ヒトのふたごとチンパンジーのふたごを、生後3,4歳くらいまで比べてみると、意外な発見があ
ります。なによりも、かなり似ています。二人でじゃれ合う様子や、案外と一人ひとりてんでんば
らばらに勝手なことをしている時間が長いことなど、そんなに変わりません。しかし違うところも
あります。ヒトのふたごは早いときから互いに見つめ合いをします。またヒトは自分から相手を気
遣い助けようとするけれど、チンパンジーは頼まれないと助けないようです。そしてなによりもお
母さんとのかかわりがちがいます。こんな比較をしながら、ヒトとは何かについて、ダイヤとさく
らからこの4年間で学んだことをお話ししたいと思います。
- 12 -
シンポジウム
子育てを支援する:大型類人猿の場合
人工哺育で育てたニシゴリラを両親の元に戻しました
長尾
充徳(京都市動物園)
2011 年 12 月 21 日,京都市動物園でニシゴリラの赤ちゃん(オス)が誕生した。母親は出産直
後より赤ん坊を抱き,正常な育児行動が見られたが,母乳の分泌が不十分で衰弱したため,出産 5
日目より人工哺育となった。霊長類では人工哺育による弊害が多数報告されているため,欧米の動
物園での人工哺育個体の群れ復帰事例を参考にして導入案を検討し実行した。その過程は 5 段階に
分け,各過程には時間的制限を設けずに各段階を進めて行った。群れ復帰の目安を生後 1 年から 1
年半とした。生後約 2 か月から両親と日常的な見合いを開始し,両親の飼育環境への馴致を行った
結果,生後約 10.5 か月で母親との同居に成功した。そして,生後約 11.5 か月で父親を含めた群れ
復帰が完了した。群れ復帰成功の要因は,母親の強い母性が残っていたことと,赤ちゃんを取り上
げてから約 1 ヶ月の短期間で両親とお見合いを開始したために,母性が呼びさまされたことだと考
えられる。
- 13 -
人工哺育のチンパンジーが群れに戻るまで∼多摩での事例∼
木岡
真一 1
、黒鳥
英俊 1 、永田
(1 東京都恩賜上野動物園、 2 東京都多摩動物公園
裕基 1 、東川上
純2
2013 年 3 月退職)
東京都多摩動物公園(以下、当園とする)では今までに 11 例の人工哺育を行ってきた。人工哺育
になった個体は、早期に群れに戻すことが大切であるため、当園では、こどもを養母に預ける方法
で、養母に仲介してもらい、群れに入れる試みを 2 例行った。このうち 1 例は、係から養母に託し
た後 、群れ入れの途中で急性肺炎による心不全によって死亡したが 、2008 年から試みたもう 1 例(ジ
ン、雄、 2008 年 7 月 2 日生)において、群れに入れることに成功したので、その経過について報告
する。
当時直面した難しさ、反省点などを再考し、今回の発表に経過とともに合わせて話をしたい。
- 14 -
人工哺育から実母との群れ復帰
チンパンジーの2組の母子について
山内
直朗(日立市かみね動物園)
2008 年の新チンパンジー舎建設にともない、複雄複雌からなる群れづくりを始める。オス親子
とメスの3頭飼育だったところに 2006 年からこれまでに4頭の大人のメスを導入し 、2011 年 、2012
年に待望の繁殖にいたる。2例とも子供は人工哺育になるが、それぞれ早期に母親に戻すことがで
き、母親とともに群れ復帰をはたす。
2011 年の子供の母親は出産時38才、前飼育園で3回出産していたが、すべて子供は人工哺育
となっていた。今回も出産時子供を触ることはなかったが、3週間後、突然子供を受入れ、抱いて
くれた。約1年間かけて関係づくりを行い、1才4ヶ月で群れに復帰する。
2012 年の子供の母親は 、4園目の移籍先として 2008 年に来園し 、34才で初めての出産だった 。
出産時、子供をしっかり抱いていたが、子供の体があまりにも小さく( 950 g)人工哺育とする。
10カ月で母親に戻し、ちょうど1歳で群れに復帰できた。
人工哺育をしながらの対面、接触、同居、また、母親の母性の様子などについて紹介する
- 15 -
オランウータンの母親はどのようにして『ひとり』で子育てできるようになるのか
∼単独性のオランウータンが子育てに成功する為に必要なこと∼
久世
濃子( 国立科学博物館・日本学術振興会 )
オランウータンは単独性が強く、基本的に母親がひとりで子育てをする。しかし動物園で人工哺
育された雌や、子どもの時に母親を殺され、孤児となって人間に保護された雌が出産した場合、育
児放棄が高い頻度( 50%以上)で見られ、乳児の死亡率も高い( 20 ∼ 60%)。一方、野生では乳児
の死亡率は非常に低く( 7 ∼ 17%)、出産の間隔も長く( 6 ∼ 9 年 )、哺乳類でも有数の「 少子社会 」
を形成している 。本発表では 、人工哺育で育った母親が育児において直面する問題とその解決策を 、
野生下での雌の成長過程やオランウータンの社会関係、生態などを踏まえて考察する。
- 16 -
野生チンパンジーの子育て
橋本
千絵( 京都大学霊長類研究所 )
ヒトに最も系統的に近い動物である、チンパンジー。野生のチンパンジーは、複数のオスと複数
のメスが一緒に属する社会構造をもっていますが、その中で小さいパーティとよばれるサブグルー
プに分かれて暮らしています。母子のチンパンジーは、母子だけで過ごす時間が長いことがわかっ
ています。時々、他の母子パーティや、雄たちと出会うこともあります。チンパンジーの子どもが
母親から独立するのは 10 歳前後と言われていますが、他の霊長類に比べて長い子育て期間、チン
パンジーの母親はゆっくり子育てをしていきます。こうしたチンパンジーの子育ての様子をお話し
したいと思います。
- 17 -
大型類人の子育てをもっと知るために、サルや他の哺乳類の子育ても見てみよう
中道
正之( 大阪大学大学院人間科学研究科 )
チンパンジー、ゴリラ、オランウータンなどの類人の子どもたちは、サル類や他の哺乳類に比べ
て、母への依存期間が長く、結果的に、母の出産間隔は長くなる。この他にも、類人の母たちは、
生後 1, 2 歳になってから死んだ子を運んだり、年齢の異なる自分の子どもを同時に運搬したりす
るが、他方、子育てを順調にしていた母が急に育児放棄をするなど、サル類の母にはほとんど見ら
れない行動を示すことがある。類人の母性はこのように豊かであると同時に、個別的でもある。こ
の類人の母性や子育てを十分に理解するためにも、サル類やその他の哺乳類、特に、 1 年を超える
授乳期間のある大型草食動物の子育てと見比べることも大事かもしれない 。「置き去り」育児のキ
リンや「追従型」育児のクロサイの動物園での子育て、様々な飼育環境と野生場面でのサル類や類
人の子育てを眺めながら、飼育下での子育て支援をするために、私たちにどのようなことができる
のかを考えてみたい。
- 18 -
シンポジウム
野生動物保全・未来へつなぐ
ニホンカワウソから学ぶ、考える
多々良
成紀( 公益財団法人 高知県のいち動物公園協会 )
2012 年、環境省によりニホンカワウソが絶滅種に指定されました。絶滅の真偽は別にして、こ
れがいろんな意味で良い切っ掛けになればと思います。ニホンカワウソは何者なのか、どういった
生活をしていて、なぜこうした窮地に陥ったのか、そして私たちは彼らに何をして何ができなかっ
たのか 、実はそうしたことを私たちはきちんと振り返って整理できていないのではないでしょうか 。
高知県は本種が最後まで生き残っていた地域とされていますが、残念ながら文献にしても標本に
しても充分に残されていません。後世のために今、埋もれた情報や資料をかき集め保管することが
大事です。また、これまでの本種に関わる活動の問題点の一つに、様々な組織や有志の力が充分に
結集されてこなかった経緯があります。各方面の専門家、地域住民、行政などが一体となって取り
組む体制が必要です。
私たちがニホンカワウソでの“失敗”からしっかり学び、そしてしっかり考えることが、本種と
それに続く希少種の保全に役立つものと確信します。
- 19 -
高知県における野生ニホンザル保護管理の現状と課題
葦田 恵美子( NPO法人 四国自然史科学研究センター )
高知県には山間部から沿岸部までの広域にニホンザル(以下、サル)が生息しており、多くの地域
では農作物被害が問題となっている。現在、市町村ごとに有害捕獲がすすめられているが、この捕
獲は頭数や性別を考慮せず無計画に行われている状況である。これまでの調査により、捕獲により
頭数が減少しても群れの遊動域の変化はみられず、捕獲による被害の軽減効果は小さいと考えられ
る。むしろ急激に個体数が減少し群れが攪乱されることで、遊動域の変動や群れの分裂などを引き
起こし、被害は軽減されないばかりか、増加する可能性が大きい。一方で、無計画な捕獲を続ける
ことにより、小規模な孤立個体群では地域個体群の絶滅を引き起こす可能性もある。
被害の軽減と適切な個体群管理を実施するためには、群れの分布や遊動域サイズなどサルの生息
状況を明らかにすることが必要である。そこで高知県では平成 24 年度よりサルの生息状況調査事
業により、近年のサル分布域や被害の現状等の把握に努めている。
今後、効果的な被害防除対策を行うには、隣接した市町村や県と情報を共有し連携した対策を行
うことが不可欠である。また、保護管理計画の指針を構築し、ニホンザルによる被害の軽減と地域
個体群の維持の相互解決を目指した対策を確立することが望まれる。そのための基礎資料を今後も
蓄積していきたい。
- 20 -
四国山地に生息するツキノワグマの絶滅回避へ向けた取り組み
山田
孝樹( 四国自然史科学研究センター )
四国のツキノワグマ個体群は、高知県と徳島県にまたがる剣山地及びその周辺に、十数頭から数
十頭程度が生息していると推測され、環境省によって「絶滅のおそれのある地域個体群」に指定さ
れている。国内で最も絶滅が危惧される地域個体群にも係らず、保全のための基本的な生態等情報
が不足しているため、有効な対策が取られているとは言い難い状況にある。そこで四国自然史科学
研究センターは、2012年7月から4年間の計画でWWFジャパンと共同で「四国地方ツキノワグマ地
域個体群絶滅回避のための総合調査」を実施している。調査では、ツキノワグマの生息地利用を明
らかにするため、 GPS( Global Positioning System)首輪を用いた追跡調査や秋季の重要な餌食物で
あるドングリ類の資源量調査を行っている。
本発表では、これまでに総合調査で得られた結果を報告すると共に、調査の過程で確認できた親
子グマの撮影事例などを紹介し、絶滅回避へ向けた取り組みの現状を報告する。
- 21 -
高知県産オオイタサンショウウオの保護活動
渡部
孝( わんぱーくこうちアニマルランド )
オオイタサンショウウオは日本固有種で大分県を中心に宮崎県と熊本県の一部と、高知県の 1 地
点のみに生息する小型サンショウウオである。環境省レッドリストでは絶滅危惧Ⅱ類とされている
が、高知県レッドリストでは絶滅危惧 IA 類にランクされ、高知県においては最も絶滅の危険性が
高い種類である。わんぱーくこうちアニマルランドでは、 2000 年から現地調査に着手するととも
に、生息域内および生息域外保全に取り組んでいる。
本種は、限られた狭い範囲だけにしか生息確認がなく生息地の状況も産卵場が干上がるなど危機
的な状況であった。そのため、安定した産卵場を確保するため人工池の造成・維持管理を行い、人
工池において毎年産卵・ふ化・変態上陸が確認できるようになっている。さらに、飼育下において
も 2011 年から 3 年連続で自然繁殖に成功し 、飼育個体数を増やすことができている 。このような 、
当アニマルランドが取り組んでいる種の保存を目的とした保護活動について紹介する。
- 22 -
ポスター発表要旨集
番号
筆頭発表者
所属
1 久川 智恵美 わんぱーくこうちアニマルランド
発表タイトル
飼育下チンパンジーの皮膚及び口腔内常在菌の検索について
2 寺本 研
京都大学野生動物研究センター熊本サン
クチュアリ
3 森 裕介
京都大学・熊本サンクチュアリ
4 郡 健一郎
宮崎市フェニックス自然動物園
5 西内 啓太
のいち動物公園ボランティアーズ
のいち動物公園ボランティアーズの取り組み
京都市動物園 生き物・学び・研究センター
/京都大学野生動物研究センター
(公益財団法人)東京動物園協会 恩賜上
野動物園
(公益財団法人)東京動物園協会 恩賜上
野動物園
動物園における研究と教育の可能性−京都市動物園 生き物・学
び・研究センターの活動紹介−
6 田中 正之
7 木岡 真一
8 木岡 真一
9 石塚 真太郎 京都大学農学部資源生物科学科
飼育チンパンジーにおける慢性的ストレスとなる要因の因果的解明
音声による飼育チンパンジー(Pan troglodytes)の個体識別技術の
開発
超簡単・安価なチンパンジーの環境エンリッチメント
∼これであなたもエンリッチメントキーパー∼
ゴリラをゴリラらしく ∼ゴリラにとっての当たり前!?∼
ゴリラがゴリラを群れで産む!∼個別暮らしから群れでの生活へ∼
京都市動物園のチンパンジー群における母子に対する社会行動の
調査
10 吉井 喜美
のいち動物公園ボランティアーズ
のいち動物公園ボランティアーズによるふたごチンパンジーの観察
11 金川 弘哉
高知大学大学院
高知県須崎市におけるキクガシラコウモリ類の人工洞利用状況
12 山本 修悟
四国自然史科学研究センター
高知県中山間地域における中・大型哺乳類の出没状況
13 谷岡 仁
香美市
四国産コウモリ類の超音波音声採集
14 谷地森 秀二 四国自然史科学研究センター
高知県四万十川周辺におけるユビナガコウモリの人工洞利用状況
15 美濃 厚志
(株)東洋電化テクノリサーチ
人造物を用いたコテングコウモリMurina ussuriensis 調査手法の検
討
16 金城 芳典
四国自然史科学研究センター
四国におけるアライグマの分布拡大状況
17 早川 卓志
京都大学霊長類研究所, 日本学術振興会
野生チンパンジーゲノムにおける全エクソン配列決定と遺伝的多様
性の解析
18 中西 一則
愛媛県立とべ動物園
高齢チンパンジー・メスへのカウフマン療法について
19 萩原 慎太郎 福山市立動物園
ボルネオゾウ における身体測定値と血中プロジェステロン濃度の
成長に伴う変化
20 西尾 志保
福山市立動物園
群飼育におけるボタンインコの繁殖について
21 堀田 里佳
札幌市立大学大学院デザイン研究科
チンパンジーのタワー利用状況比較調査−札幌市円山動物園・名
古屋市東山動物園
22 丸 一喜
旭川市旭山動物園
冷温帯で飼育されるチンパンジー(Pan troglodytes )の気象環境
23 友永 雅己
京都大学霊長類研究所
チンパンジーは火星に顔を見るか?
24 藤野 愛美
日本大学生物資源科学部
飼育下インドゾウで観察されたマスト期における雌雄の行動変化
25 滝沢 浩司
愛媛県立とべ動物園
チンパンジーの後肢にみられた筋肉溶融を伴う壊死性疾患につい
て
26 大栗 靖代
日立市かみね動物園
かみね動物園における「チンパンジーの森植樹祭」の取り組み
27 五百部 裕
椙山女学園大学・人間関係学部
名古屋港水族館の来館者の意識と行動
28 大地 博史
わんぱーくこうちアニマルランド
高知県におけるオオサンショウウオの分布生息調査
29 山崎 由希
わんぱーくこうちアニマルランド
ショウジョウトキの人工孵化・育雛について
30 岡本 宏昭
わんぱーくこうちアニマルランド
イラストやマンガをツールとして用いた動物解説について
31 山崎 博継
わんぱーくこうちアニマルランド
32 吉澤 未来
わんぱーくこうちアニマルランド
高知市を流れる鏡川と流域の自然について学ぶ場「鏡川自然塾」
における動物園職員の講師活動
高知県下の猛禽類における薬剤耐性食中毒原因菌汚染とその経
路∼傷病保護および飼育下個体の症例をもとに∼
- 23 -
番号
筆頭発表者
所属
発表タイトル
33 山梨 裕美
京都大学野生動物研究センター・日本学術 チンパンジーの毛からホルモン測定∼コルチゾルとテストステロン
振興会
の関係について∼
34 久保 統生
岐阜大学応用生物科学部
名古屋市東山動物園における協働事業「東山こどもガイド」の紹介
35 平栗 明実
日本大学生物資源科学部
性周期をもつチンパンジーの女性の移入に伴う社会関係の変化
36 長野 秀美
京都大学農学部
放飼場の拡大とシマウマとの同居がキリンの行動にもたらす影響
37 金 智娟
大阪大学人間科学部
王子動物園のカバにおける採食行動の変化と遊び
38 喜多田 廉平 大阪大学人間科学部
天王寺動物園のフクロテナガザル集団の子育てにおける父、母、
年長のきょうだいの役割
39 平賀 真紀
横浜市立よこはま動物園ズーラシア
チンパンジー(Pan troglodytes )母子2組みの育児行動の比較
40 田和 優子
京都大学理学研究科生物科学専攻
カメラトラップを用いた、半島マレーシアに生息する哺乳類の塩場で
の行動調査
41 河野 穂夏
大阪大学人間科学部
飼育アビシニアコロブス集団における未成体個体の発達変化
42 奥村 太基
岐阜大学応用生物科学部
東山動物園との協働事業「東山動物園検定」の紹介
43 福守 朗
鹿児島市平川動物公園
鹿児島市平川動物公園におけるチンパンジー飼育の歴史
44 有賀 菜津美 日本大学野生動物学研究室
群れ飼育のチンパンジーで観察された子の発達に伴う母子間距離
の変化
熊本市動植物園におけるチンパンジー群れ合わせの事例とその効
果
熊本市動植物園にて日常使用している塩ビ管フィーダーの活用報
告
45 竹田 正志
熊本市動植物園
46 穴見 浩志
熊本市動植物園
47 大橋 岳
日本モンキーセンター
ボッソウからニンバへ:緑の回廊と国境を越えたチンパンジー調査
48 鈴木 詩織
岐阜大学応用生物科学部
岐阜大学サークル「動物園学生くらぶ」の活動紹介
49 綿貫 宏史朗 京都大学霊長類研究所
侵襲的医学研究が日本のチンパンジー個体群に与えた影響
50 植田 想
京都大学霊長類研究所
チンパンジーにおける「盲視」
51 櫻庭 陽子
京都大学霊長類研究所、日本学術振興会 名古屋市東山動物園における左腕を切断したチンパンジーの群れ
特別研究員(DC1)
復帰
52 竹下 秀子
滋賀県立大学人間文化学部
ゴリラの赤ちゃんの姿勢反応と物の操作の発達
53 島田 かなえ 京都市動物園
タンザニア連合共和国における野生動物生息地の視察研修報告と
その伝え方
54 村松 明穂
京都大学霊長類研究所
チンパンジーにおけるアラビア数字1から19の系列学習
55 落合 知美
京都大学霊長類研究所
血統登録書に記載されていないチンパンジーたち
56 多々良 成紀 公益財団法人高知県のいち動物公園協会 高知県におけるマドボタル属の調査
57 藤田 志歩
鹿児島大学共同獣医学部
飼育下ゴリラの繁殖プログラムにおけるストレスレベルの評価
58 Hyun Ho Lee
Seoul Zoo
Case report: Constipation in an Orangutan
Primate Research Institute, Kyoto
59 Hyun Tak Park
University
Reintroduction of a baby orangutan to the biological mother at
Seoul Zoo
60 金子 祐希
京都大学理学部
ワシミミズクの雛の成長にともなう行動変化
61 澤田 直子
公益財団法人高知県のいち動物公園協会 ビデオ教材の開発と貸出について
62 木村 夏子
公益財団法人高知県のいち動物公園協会 ブチハイエナの群れ飼育
63 牛腸 典代
公益財団法人高知県のいち動物公園協会
高知県立のいち動物公園でのアサギマダラのマーキング調査につ
いて
- 24 -
1.飼育下チンパンジーの皮膚及び口腔内常在菌の検索
について
久川智恵美、早川大輔、吉川貴臣(わんぱーくこうちアニ
マルランド)鵜殿俊史(京都大学野生動物研究センター熊
本サンクチュアリ)森村成樹(京都大学霊長類研究所)
群れ飼育のチンパンジーでは、咬傷により皮膚裂
創が生じることが多い。皮膚裂創に対する有効な抗
菌剤選択に必要な情報の提供を目的として、これま
で報告例がなかった口腔内、皮膚表面、皮膚裂創の
優勢菌を検索し、同時に薬剤感受性調査を実施した。
地域の異なる 2 施設間での比較を併せて目的として、
京都大学野生動物研究センター熊本サンクチュアリ
の 14 個体およびわんぱーくこうちアニマルランドの
3 個体から口腔内、項部皮膚、下腿後面皮膚および皮
膚裂創のスワブを採取して解析した。両施設とも、
皮膚軟部組織感染症の起因菌とされることの多いブ
ドウ球菌、レンサ球菌が主に検出され、主にペニシ
リン G 及びアンピシリンに対する耐性を確認した。
本結果と実際の診療においては経口抗菌薬の使用が
多いことと併せて、皮膚裂創における抗菌剤の選択
としてはまず第一世代セフェム系薬またはアモキシ
シリン/クラブラン酸が、その後の選択としてニュ
ーキノロン系薬の使用が有効である可能性が示唆さ
れた。
する。
2.飼育チンパンジーにおける慢性的ストレスとなる要因
の因果的解明
寺本研(京都大学野生動物研究センター熊本サンクチュ
アリ)、山梨裕美(京都大学野生動物研究センター)、野
上悦子(京都大学霊長類研究所)、森裕介(京都大学野
生動物研究センター熊本サンクチュアリ)、森村成樹(京
都大学霊長類研究所)
慢性的ストレスは、病気や繁殖抑制などにもつな
がるため、動物福祉を考えるうえで非常に重要であ
る。ストレスについて物理的要因、化学的要因、生
物的要因、心理的要因が知られているが、チンパン
ジーにとってどのストレス要因が大きな影響を与え
るかは分かっていない。近年、慢性的ストレスの指
標となる体毛中コルチゾルが注目され、チンパンジ
ーでもその測定法が確立されている。そこで京都大
学野生動物研究センター熊本サンクチュアリでは、
飼育している 59 個体のチンパンジーを対象に、体毛
中コルチゾル濃度の長期モニタリングを開始した。
体毛中コルチゾル濃度と各ストレス要因との相関関
係を調べ、飼育チンパンジーに影響を及ぼす主要な
ストレス要因を明らかにすることを目的としている 。
将来的には、動物園で飼育されているチンパンジー
にも対象を広げ、飼育チンパンジーのストレスモデ
ルの構築へとつなげる。この取り組みについて紹介
4.超簡単・安価なチンパンジーの環境エンリッチメント
∼これであなたもエンリッチメントキーパー∼
郡健一郎、福地善信、浜脇幸一、長友茂美、竹田正人
(宮崎市フェニックス自然動物園)
宮崎市フェニックス自然動物園では、来園者に向
けた解説付きの環境エンリッチメント「チンパンジ
ーの知能実験」を実施している。その概要を報告す
る。当該動物園では、現在 16 頭のチンパンジーを 4
つに分けて飼育展示している。そのうち雄 3 頭と雌 1
頭、雄 2 頭と雌 7 頭の群れを作り、それぞれを 2 ヶ
所の檻式屋外運動場で展示している。それぞれの展
示場には、木製ジャングルジム 1 基と消防ホース製
ハンモック 2 基を設置した。展示場の天井の格子か
らは「 打ち出の小箱」2 基を各々吊るした。更に、
「打
ち出の小箱」を改良した「 つつき箱」4 基を設置した。
また、各々の屋外展示場では、格子中段外側に「ヨ
ーグルト釣り装置」を、格子下段外側に「餌串刺し
装置 」を設置し、給餌しつつ解説を加えた。この「餌
串刺し装置」には、後に「 餌すくい器」を追加した。
更に、夏場には、天井の格子に消防ホースを編み込
み日陰を作ると共に、その上に 1 日数回餌を置いて
給餌した。今後は、実施している環境エンリッチメ
ントの評価を行い、新たな環境エンリッチメントを
開発したい。また、野生や飼育下のチンパンジーの
3.音声による飼育チンパンジー(Pan troglodytes)の個
体識別技術の開発
森裕介、森村成樹(京都大学・熊本サンクチュアリ)
「いつ・だれが」という情報は、動物の飼育管理
で最も基本的かつ重要な情報である。熊本サンクチ
ュアリでは 2003 年以降雄のみの集団を形成し、1 集
団が 5 ∼ 15 個体の比較的大きな集団を安定維持して
きた。概ね良好な社会関係で生活している一方で、
個体の相性が原因と考えられる攻撃交渉による負傷
が低い割合ながら続いてきた。いつ、だれが、闘争
に関与しているのかをモニタリングすることは、社
会関係の変化を把握するために重要だが、そもそも
闘争頻度が低いために目視による観察は困難である。
またビデオカメラを設置したとしても、死角のない
ように放飼場全体を監視するには多数のカメラが必
要で、それらに録画された映像を見直すのも現実的
ではない。一方、音声による個体識別が可能であれ
ば、遮蔽物に遮られることはなく、長時間録音も可
能である。そこで闘争の際に発せられるスクリーム
音を採集し、音声スペクトル分析による個体識別法
を試みた。
- 25 -
現状についても解説し、来園者に向けてチンパンジ
ーの能力や生態だけでなく、動物園の取り組みや彼
らを取り巻く環境の保全についても訴えていきたい 。
5.のいち動物公園ボランティアーズの取り組み
西 内啓 太 、西 村 澄子 、小松 和幸 、松 木正 子 、森 田さ わ
子、山本太一、小松由美、ニ江千鶴子、山﨑英男、山崎
幸(のいち動物公園ボランティアーズ)
のいち動物公園ボランティアーズは教育やレクリ
エーションの場としての動物公園をより良いものに
する為、動物公園と協力して活動を展開しています。
動物ガイド、かみしばい、おりがみ、フェイスペイ
ンティング、ぬいぐるみパレードやモルモットふれ
あいコーナーのお手伝いなど個性豊かなメンバーの
活動内容をみなさんにご紹介いたします。
6.動物園における研究と教育の可能性−京都市動物園
生き物・学び・研究センターの活動紹介−
田中正之、和田晴太郎(京都市動物園 生き物・学び・
研究センター/京都大学野生動物研究センター)、吉田
信明(京都高度技術研究所)、石塚真太郎、長野秀美(京
都大学農学部)、金子祐希(京都大学理学部)
京都市動物園は,京都大学野生動物研究センター
( WRC)との野生動物保全にかんする研究・教育に
関する連携を開始した 2008 年以来,様々な取り組み
をおこなってきた。 2013 年 4 月には生き物・学び・
研究センターを設立し,研究と教育の機能をさらに
強化しようとしている。研究面では,チンパンジー,
テナガザル,マンドリルを対象としたアラビア数系
列の学習研究を 2008 年から継続している。この他に
も, WRC の共同利用・共同研究に採択された,ゴリ
ラ,キリン,ペンギン,レッサーパンダの行動研究
を進めている。さらに京都高度技術研究所との共同
研究で総務省競争的資金の支援を受け,リモートセ
ンシング技術を用いた動物園動物の行動研究を進め
ている。教育面では,科学技術振興機構の理科教育
支援のための資金を得て,とくに動物園に来る頻度
が少なくなる中学生・高校生を対象とした教育プロ
グラムを実施している。発表では,これらの研究・
教育の取り組みを紹介する。
7.ゴリラをゴリラらしく∼ゴリラにとっての当たり前!?∼
木岡真一、北田祐二、川上壮太郎、大滝亜友美、阿部勝
彦(恩賜上野動物園)
恩賜上野動物園ではニシローランドゴリラをハオ
コグループ(雄 1、雌 5)と単独で 2 頭(雄 1、雌 1)の
計 8 頭を管理している。彼らの生活はメリハリがな
く、好きなものばかりを給餌され、夜間も個別管理
という状況だった。肌艶や毛艶も悪く、ほとんどの
個体は肥満傾向であった。国内には 25 頭のゴリラが
暮らしているが、世界との交流がなくては、個体群
の維持をしていくことが困難である。世界からも評
価を受けるようなレベルでの管理を目指していくた
め、 2011 年 11 月から、給餌内容、飼育環境、管理方
法などの抜本的な見直しを行った。ゴリラが健康で、
生き生きと生活できるにはどうしたらいいのか、ゴ
リラがゴリラらしく暮らすためにはどうしたらいい
のか 、ゴリラにとって当たり前の生活とは何なのか。
これらを常に意識し、ゴリラに一番近い存在である
我々が試みてきた、様々な取り組みを紹介する。
8.ゴリラがゴリラを群れで産む!∼個別暮らしから群れ
での生活へ∼
木岡真一、北田祐二、川上壮太郎、大滝亜友美、阿部勝
彦(恩賜上野動物園)
恩賜上野動物園ではゴリラの飼育を開始して、約 60
年が経過する。これまでに 2 例の出産があった(2000
年雄、モモタロウ、2009 年雌、コモモ)。しかし、い
ずれの事例おいても安全上の理由から、母親は出産
時隔離された状態のことであった。また、管理スタ
イルにおいても、群れとして他個体と接触し、同居
状態になるのは、放飼中のみであった。世界にも評
価されるレベルでの飼育管理を目指し、ゴリラ達の
QOL( Quality of Life)の向上 を目的に、 2012 年 1 月
から、群れ全頭(当時 5 頭)を夜間も同居し、24 時間
一緒にファミリーが暮らせる環境を整えた。今回、
2013 年 4 月 24 日に群れのメンバーが見守る中、モモ
コ(雌、30 歳)が 3 回目の出産をした。血縁以外の他
個体が見守る中での群れ内での出産は日本で初めて
のことである。その詳細と取り組んできた試みにつ
いて報告する。
9.京都市動物園のチンパンジー群における母子に対す
る社会行動の調査
石塚真太郎(京都大学農学部資源生物科学科)、松永雅
之、島田かなえ、田中正之(京都市動物園)
本研究では、大人のチンパンジーが、赤ん坊を抱
いたメスに対してどのように接するのかを調べるた
め、京都市動物園の群れの観察を行った。対象個体
は、コイコ(母)、タカシ(非血縁オス)、ジェームス
(父)、スズミ(非血縁メス)、ニイニ(2013 年 2 月 12
日生、オス)の 5 個体であった。観察期間は 2013 年 2
月 12 日から 10 月 1 日までの計 75 時間で、 1 日 2 時
間程度、1 分間のタイムサンプリングで、母子への社
会行動の有無と種類を記録した。この結果、母子へ
- 26 -
の社会行動の比率は、大人オスの間での大きな差が
あった。ジェームスでは高い水準から大きな変動が
あったが、タカシではほとんどゼロのままだった。
スズミは両者の中間的な比率で安定していた。赤ん
坊への接触前後の母親への社会行動は、ジェームス
では少なかったが 、スズミでは多く見られた 。また、
出産前後での各個体の母親への社会行動の割合を比
較したところ、ジェームス、スズミでは大きく増加
していた。
10.のいち動物公園ボランティアーズによるふたごチン
パンジーの観察
吉井喜美、西内章、佐藤典里子(のいち動物公園ボラン
ティアーズ)
長年の試行錯誤で誕生したチンパンジーの赤ちゃ
ん、それもダイヤ・サクラと言うふたごの誕生。母親
による子育てを見守る中で「何かしたいね!」と当時
の担当飼育員・ボランティアの西内章氏の思いから
始まったふたごの成長観察。それが京都大学霊長類
研究所の友永雅己准教授方との共同研究に発展し、
ビデオ撮影・ NN 観察の形でお手伝いする中で見た、
ふたごの成長・母親サンゴによる子育ての成功の秘
訣・ふたごがもたらした群れのチンパンジーたちへ
の影響をまとめた。群れの中で、アリ塚使用などを
順調に覚えていき、ふたごだから、母親チンパンジ
ーだけでは守りきれない所を、カバーしてくれた群
れの仲間たち。群れの大人たちの成長にもつながっ
た子供の誕生・成長。群れの生き物が、群れで生きて
いくことの大切さが観察されている。
11.高知県須崎市におけるキクガシラコウモリ類の人工
洞利用状況
金川弘哉(高知大学大学院)、谷地森秀二(四国自然史
科学研究センター)、谷岡仁(香美市)、美濃厚志((株)
東洋電化テクノリサーチ)、加藤元海(高知大学)
高知県須崎市において、キクガシラコウモリ類が
利用する人工洞を複数確認し、それぞれの場所にお
ける利用状況を記録したので報告する。調査を行っ
た人工洞は須崎市内にある戦争遺跡 3 ヶ所、ショウ
ガを保存するための素掘りの穴 19 ヶ所、セメント工
場のトンネル 1 ヶ所の、計 23 ヶ所である。調査は、
2012 年 4 月より 2013 年 3 月にかけて 1 ヵ月に一度行
った。調査時には、確認した種の判別、種ごとの個
体数等を記録した。戦争遺跡では夏季にキクガシラ
コウモリの小規模な育児コロニーを確認した。また
冬季には 10 数頭の休眠状態のキクガシラコウモリを
確認した。ショウガ穴においては、ほとんどの穴で
キクガシラコウモリ類の確認は稀であったが、分岐
が多く規模の大きい穴「久通」ではキクガシラコウ
モリとコキクガシラコウモリの両種あるいはどちら
かを年間を通して確認できた。また冬季には 200 頭
ほどのコキクガシラコウモリの越冬コロニーを確認
した。セメント工場のトンネルでは、夏季に 1000 頭
ほどのコキクガシラコウモリの育児コロニーを確認
した。
12.高知県中山間地域における中・大型哺乳類の出没
状況
山本修悟、葦田恵美子、谷地森秀二、金城芳典(四国自
然史科学研究センター)
近年、中山間地域において過疎化や高齢化を背景
に野生鳥獣による農林業被害が深刻化している。高
知県では、平成 23 年度の農作物被害額は 2 億 6 千万
円である。県内では、平成 22 年度のシカおよびイノ
シシの捕獲数は共に 1 万頭を超え、平成 18 年度と比
べ 2 倍以上に増加しているのにも関わらず、農作物
被害額は 2 億円前後で推移しているのが現状である。
本研究は、高知県の 11 集落において、自動撮影カメ
ラを用いた調査を行い、中・大型哺乳動物の集落へ
の出没状況を明らかにし、今後の防除対策に役立て
ることを目的とした。調査は、高知県内 11 市町村の
それぞれ 1 集落の合計 11 集落で行った。 1 集落に 3
台の自動撮影カメラを設置し、基本的に 7 月から 12
月まで、合計 4943 カメラ日の調査を行った。この結
果を基に、加害獣の出没時間帯および月ごとの集落
への出没状況や集落の環境と出没状況の関係等につ
いて解析を行った。なお、本調査は、高知県委託「平
成 24 年度獣害に強い集落づくり事業」の一環として
実施した。
13.四国産コウモリ類の超音波音声採集
谷岡仁(香美市)、谷地森秀二(四国自然史科学研究セ
ンター)、美濃厚志((株)東洋電化テクノリサーチ)、金川
弘哉(高知大学大学院)
近年、コウモリ類の超音波音声モニタリングの研
究結果から、種の識別が可能となってきている。こ
の手法の前提条件として調査地域に存在する種の音
声構造を事前に把握しライブラリー化しておくこと
が必須とされている。筆者らは、 2012 年より四国周
辺のコウモリ類の録音による音声採集及び基礎的な
情報整理を開始した。その結果、現在までに四国で
確認されているコウモリ類 15 種のうち 11 種の音声
を採集し、それら音声のソノグラムから主に精査音
パルスの形状と周波数や持続時間を測定した。主に
リリース時の音声からなる合計 103 音声について整
理した。キクガシラコウモリ科ではパルス形状と波
- 27 -
形の計測値から種の特徴が明らかであった。ヒナコ
ウモリ科の種間の特性把握については主成分分析を
行うとともに、線形判別関数による判別分析によっ
て正解率を算出した。ヒナコウモリ科では、全般に
おおまかな特徴による区分が示唆されたが、重複す
る種もあった。
14.高知県四万十川周辺におけるユビナガコウモリの人
工洞利用状況
谷地森秀二(四国自然史科学研究センター)谷岡仁(香
美市)、美濃厚志((株)東洋電化テクノリサーチ)、金川
弘哉(高知大学大学院)
高知県四万十川周辺において、ユビナガコウモリ
が利用する人工洞を複数確認し、それぞれの場所に
おける利用状況を記録したので報告する。調査を行
った人工洞は高知県四万十市江川崎周辺の 4 ヶ所( 奈
呂、江川崎、用井および宮地)と愛媛県松野町の 1
ヵ所(松野)の、計 5 か所である。調査は、 2012 年 9
月 1 日より 2013 年 8 月 31 日にかけて行った。調査時
には、確認した種の判別、種ごとの個体数等を記録
した 。「用井」および「江川崎」の利用状況は、春期
と秋期に個体数が増加し、夏期と冬期に減少し、育
児や冬眠場所としての利用はみられなかった。
「 奈呂 」
および「松野」は夏期のみに利用し、育児コロニー
が確認された。「宮地」では、 2012 年 12 月より 2013
年 8 月まで 1,000 頭を超える集団の利用が確認され
た。確認された集団の中には、これまで他 3 ヶ所で
標識を装着した個体が多数確認された。
15.人造物を用いたコテングコウモリ Murina ussuriensis
調査手法の検討
美濃厚志((株)東洋電化テクノリサーチ)、谷地森秀二
(四国自然史科学研究センター)、谷岡仁(香美市)
コテングコウモリの調査手法としてアカメガシワ
等の枯葉トラップを用いた手法が有効であることが
報告されている。しかしながら,自然由来の植物を
導入する場合,腐食や脱落等により交換の必要が頻
繁に生じ,長期にわたる調査や多地点を設定した広
域的な調査では多大な労力が必要である 。筆者らは,
年間通じて安定した調査を行う手法として,竹筒,
麻製布,キムタオル,紙コップを用いたトラップの
検討を行い,コテングコウモリの利用を確認したの
で報告する。 2012 年 6 月から 2013 年 6 月の期間に高
知県土佐清水市今ノ山周辺の車道沿いに竹筒と麻製
布を設置し, 7 月∼ 10 月の間に 2 地点において合計 5
個体のコテングコウモリが麻製布のトラップを利用
していることを確認した。また,2011 年 10 月から 2013
年 6 月の期間に高知県香美市物部町の山林で設置し
た紙製トラップでは,秋季を中心に利用が見られ,
枯葉トラップと同程度に利用したものがあった。
16.四国におけるアライグマの分布拡大状況
金城芳典(四国自然史科学研究センター)
本研究は、アライグマの四国における分布拡大状
況について把握し、アライグマ対策を効果的に実施
するための基礎資料とすることを目的に実施した。
四国におけるアライグマの現在の分布状況を把握す
るため、 2006 年以降に得られた情報を整理した。整
理した情報は、捕獲記録、目撃記録および文献情報
である。目撃記録については、写真があるものなど
確実にアライグマと考えられる記録のみ整理した。
その結果、四国におけるアライグマの分布は 2006 年
時点と比較して西側に拡大していることが確認され
た。県別に見ると、香川県では県西部での捕獲地点
が増加していた。徳島県は大幅な分布拡大の傾向は
見られなかった。愛媛県では東温市でアライグマが
撮影された他、四国中央市、新居浜市および西条市
でアライグマが捕獲された。高知県では確実な情報
は得られなかった。発表ではこれに加え、分布拡大
速度などについても検討した。
17.野生チンパンジーゲノムにおける全エクソン配列決
定と遺伝的多様性の解析
早川卓志(京都大学霊長類研究所、日本学術振興会)、
岸田拓士、川口恵里(京都大学大学院理学研究科生物
科学専攻)、松沢哲郎(京都大学霊長類研究所)、阿形清
和(京都大学大学院理学研究科生物科学専攻)
遺伝的多様性は、行動表現型や自然選択圧に対す
る抵抗性などに影響するため、生態学研究において
調査集団の遺伝的多様性を把握することは非常に重
要である。私たちは、ギニア・ボッソウで個体識別
されている成体メスの野生ニシチンパンジー「 ジレ」
から、非侵襲的に採集された糞を用いて、ジレのほ
ぼ全てのエクソン DNA の配列(ゲノムの中でタンパ
ク質をコードする配列)を網羅的に決定した。実験
には DNA キャプチャー法と次世代シークエンサー
MiSeq を使用した。例えば、苦味感覚の表現型を決定
する苦味受容体遺伝子( TAS2R) ファミリーにおい
て、塩基あたりのヘテロ接合度は 0.09%であった。過
去に調査された日本の飼育ニシチンパンジーにおけ
る TAS2R ファミリーの塩基多様度は 0.08%であった
ため、ボッソウ集団の TAS2R ファミリーは飼育ニシ
チンパンジーと同程度の多様性を持っていることが
わかった。本研究は、野生チンパンジー集団におけ
るゲノムワイドな遺伝的多様性や表現型多型を知る
重要な手がかりとなる。
- 28 -
18.高齢チンパンジー・メスへのカウフマン療法について
中西一則、高岡浩幸、兵頭佳夫、滝沢浩司(愛媛県立と
べ動物園)、森村成樹、鵜殿俊史、野上悦子(京都大学野
生動物研究センター・熊本サンクチュアリ)
愛媛県立とべ動物園では、 2008 年 12 月 12 日から
2012 年 10 月 1 日まで、繁殖を目的として(株)三和
化学研究所チンパンジー・サンクチュアリ・宇土
(現、京都大学野生動物研究センター・熊本サンクチ
ュアリ)から複数のオスをブリーディングローン( BL)
にて導入し繁殖を試みた。交尾行動は確認されたが
繁殖には至らなかった。その原因としてメスの高齢
化による性周期の異常、特に無排卵が疑われたため、
2012 年 2 月から自然の排卵周期に類似したホルモン
の分泌となるように、前半は卵胞ホルモンのエスト
ロゲン剤、後半は卵胞ホルモンと黄体ホルモンの混
合ホルモン剤を併用し、そのリバウンド現象を利用
するカウフマン療法を施し、規則的な月経周期、排
卵周期の回帰を試みた。今回の試みで、カウフマン
療法により卵巣機能を上昇させ、自然排卵を促進さ
せる一定の効果は認められたが、その効果を次周期
より更に次へ持続させるには至らなかった。
19.ボルネオゾウにおける身体測定値と血中プロジェス
テロン濃度の成長に伴う変化
萩原慎太郎、井亀徹、久保岡達也、藤井修、鎌倉厚司、
向井康彦、原田昌治、杉之原鉄郎(福山市立動物園)、
楠田哲士(岐阜大学)、岡本智伸(東海大学)、田中正之
(京都大学WRC、京都市動物園)、伊藤秀一(東海大学)
アジアゾウの亜種であるボルネオゾウは絶滅が危
惧されていることから、生息国で保全管理され、孤
児や負傷した野生個体が保護され飼育されている。
しかし、飼育下のボルネオゾウの成長に関する知見
は少ないことから、日本で唯一のボルネオゾウにお
いて成長に伴う身体測定指標と血中プロジェステロ
ン( P4)濃度の変化を調査した 。2001 年 3 歳( 推定)
でボルネオ島にて保護され、同年、福山市立動物園
に搬入された個体を供試した。この個体は、日常的
にトレーニングおよび直接飼育が行われていた。体
重、および身体 11 部位の長さの計測と、血中 P4 濃
度の測定を行った 。身体測定は 2002 年より月に 1 度 、
1 名がゾウを制止させ、 2 名が器具を使用し計測、 1
名が記録を行った。また、2 週間に 1 度、耳静脈より
採血を行った。6 歳時より P4 の周期性がみられ始め、
春機発動した。また、体重および耳長を除く 10 部位
では、8 歳まで直線的な増加がみられたが、9 歳より
鈍化し、 12 歳時よりほとんど増加が見られなくなっ
た。
20.群飼育におけるボタンインコの繁殖について
西尾志保、萩原慎太郎、佐藤風、戸田文恵(福山市立動
物園)、岡本智伸、伊藤秀一(東海大学)
動物園で飼育されているボタンインコは、多数羽
の群飼育が一般的であるが、群飼育での繁殖に関す
る知見は少ない。繁殖管理として、定期的に卵数、
破卵数および雛数を記録した。対象は福山市立動物
園のボタンインコ群で、2012 年 3 月から 2013 年 9 月
において 2 週間に 1 度、 20 か所の巣箱を調査した。
調査期間中の群サイズは、繁殖による増加および繁
殖目的の移動により、最小で 53 羽、最大で 77 羽で
あった。調査時に前回記録分の卵が巣箱内に残って
いる可能性があるため、記録した項目より最少産卵
数を算出した。また、卵および雛の消失が確認され
たため、最少消失卵数と最少消失雛数も算出した。
群れ全体では、調査期間を通して少なくとも 430 個
産卵し、そのうち最少で 295 個の卵が消失した。ま
た、 87 羽がふ化し、そのうち約 24 %の雛が巣立ち前
に消失した。巣箱別の最少産卵数では 0 個から 38 個
とばらつきがみられた。今後、適正な飼育管理をす
る上で、巣箱別の最少産卵数および雛数のばらつき
や、卵および雛の消失の原因を明らかにする必要が
あると考えられた。
21.チンパンジーのタワー利用状況比較調査−札幌市
円山動物園・名古屋市東山動物園
堀田里佳、羽深久夫(札幌市立大学大学院デザイン研究
科)、柴田千賀子(札幌市円山動物園)、近藤裕治、山本
光陽、今西鉄也(名古屋市東山動物園)、田中正之(京都
大学野生動物研究センター、京都市動物園)、小倉匡俊
(京都大学野生動物研究センター、日本学術振興会)
本研究の目的はチンパンジータワーを材料や形態
により構成要素に分解し、エンリッチメントに有効
な要素を見つけ出すことにある。札幌市円山動物園
の高さ 15 mのタワーと名古屋市東山動物園の高さ 10
mのタワーを対象にタワー利用の概況を把握するた
めに、録画画像を再生しタワー上での個体の位置と
状態を使用要素・高さと共に 1 分間隔のスキャンサ
ンプリングで記録、同時に身体運動を伴う三次元行
動について使用したタワー要素と共に全生起記録す
る方法で調査を行った 。その結果、樹上率は円山の 79
%に対し東山は 49 %、三次元行動の発現頻度は円山
の 3.5 回 /分に対し東山は 1.7 回 /分と、両者とも観客
の目に留まると期待できる数値であった。個体位置
の平均高さは円山が 8.1 mとタワー中心よりやや高
く、東山は 3.8 mとタワー中心より低い位置であった
が、これは主に使用されていたデッキ高さの影響を
受けていると思われた。また使用頻度の高い要素の
傾向が把握された。
- 29 -
22.冷温帯で飼育されるチンパンジー( Pan troglodytes)
の気象環境
丸一喜(旭川市旭山動物園)、森村成樹(京都大学霊長
類研究所)
一般に、気象環境は霊長類の行動に大きく影響す
る。多くの霊長類は、高温下ではその活動が著しく
制限される。野生チンパンジーはアフリカ大陸の赤
道周辺、熱帯雨林∼乾燥疎開林に分布しているのに
対し、日本では冷温帯∼亜熱帯気候でチンパンジー
が飼育されており、野生本来の気象条件とは大きく
異なると考えられる。飼育環境の温度管理は様々な
ガイドラインで指摘されているものの、実際の飼育
環境の気象条件についてのデータは極めて乏しい。
そこで本研究では、旭山動物園で飼育されている 13
個体のチンパンジーを対象として、屋内・屋外の飼
育施設の温湿度環境とチンパンジーの活動性との関
係を調べた。北海道では 10 月∼翌年 4 月にかけて降
雪があり、チンパンジーは多くの時間を屋内で過ご
す。それ以外の季節では気温 30 度を超えることは希
である。冷温帯気候で飼育されるチンパンジーの行
動におよぼす気象条件の影響について報告する。
23.チンパンジーは火星に顔を見るか?
友永雅己(京都大学霊長類研究所)
わたしたちヒトは、影やモノの中に 、「顔」などの
意味のあるパターンをよくみいだす。有名なものと
しては、火星の人面岩などが挙げられるだろう。こ
のような現象は広くパレイドリア(pareidolia)と呼ばれ
ている。特に、顔知覚との関連で言えば、無意味な
物体やパターンの中に水平に並んだパーツや逆三角
形状の構造が含まれていると 、そのパターンを「 顔」
として認識してしまう。これは、わたしたちの顔認
識が、顔の持つ一次の空間配置情報(目は鼻の上で水
平に離れて位置する、など)にきわめて強く影響を受
けていることを示唆している。そこで
本研究では、この現象を手がかりに、チンパンジー
における顔知覚について検討することとした。視覚
探索課題を用いて、顔的なパターンを含む写真とそ
うでない写真の弁別を行い、その際の反応傾向から、
彼らがこのようなパターンを「顔」として見ている
のか検討した。その結果、顔的なパターンを含む顔
については、そこに含まれる顔要素の配置を崩す操
作を加えることによって成績が低下することが明ら
かとなった。チンパンジーにもパレイドリアが存在
する可能性が強く示唆された。
24.飼育下インドゾウで観察されたマスト期における雌
雄の行動変化
藤野愛美、木倉有佳里、金澤朋子(日本大学生物資源科
学部)、半澤紗由里(横浜市立金沢動物園)、村田浩一
(日本大学生物資源科学部)
野生のインドゾウは、マスト期において雄から雌
への社会的コンタクトが増加すると報告されている。
しかし、動物園ではこの期間中、雄が繋留されたり
雌雄が分離飼育されたりすることが多いため、雌雄
間での社会行動変化に関する観察例は少ない。そこ
で本研究では、マスト期に雌雄同居が行われている
飼育個体を対象として、雄の直接的接触による雌の
行動変化を明らかにすることを目的とした。横浜市
立金沢動物園のインドゾウ 2 個体を調査対象とし、
2011 年 5 月から 2012 年 6 月間のマスト期と非マスト
期の各 5 日間、ビデオカメラで雌雄の行動を終日録
画し 、PC 画面上で再生し行動解析した。行動目録は 、
雄の「 雌個体への接触」、雌の「 前後運動 」、「 操作」、
「移動 」、「水浴び 」、「静止 」、「その他」の 7 項目に
分類した。雄の雌個体への接触はマスト期に有意に
増加し( P< 0.05)、雌は雄の接触時に前後運動のみ発
現せず、マスト期には 68.6 %減少した。このことか
ら社会的コンタクトは、雌の前後運動への影響要因
になり得ると考えた。
25.チンパンジーの後肢にみられた筋肉溶融を伴う壊死
性疾患について
滝沢浩司、中西一則(愛媛県立とべ動物園)、鵜殿俊史
(京都大学野生動物研究センター熊本サンクチュアリ)
複数飼育しているチンパンジーにおいて、外傷等
の症例は多々発生する場合があるがそのほとんどは
治療を要しないか、もしくは抗生剤の短日投与など
簡単な治療で済む事が多い。四肢の異常についても
明らかな骨折などが見られなければ経過観察とする
事がある。今回当園で飼育していたチンパンジーに
おいて、おそらく外傷が原因と考えられる右後肢の
筋肉が広範囲に解けて腐るという症例が発生した。
本症例は筋肉が広範囲に溶けて腐るという重篤な状
態にも関わらず、外観的な異常が右後肢の挙上のみ
であり、発生から約一ヵ月半後に患部皮膚の変色及
び脱毛が認められたため、麻酔下にて確認したとこ
ろ既に足の切断が必要なほど症状が進行していた。
本症例は今までに無い症状であり、表面的な異常か
ら判断することが難しいことから、注意喚起のため
にその詳細について報告する。
- 30 -
26.かみね動物園における「チンパンジーの森植樹祭」
の取り組み
大栗靖代、山内直朗(日立市かみね動物園)
かみね動物園では2008年にチンパンジー舎の
リニューアルを行いました。以前のコンクリートに
囲まれた環境から 、
「 より広く、より高く、より近く」
をコンセプトに3本のタワーと土、緑からなる環境
へと変化しました。しかし 、「チンパンジーの森」と
名付けられた新しい施設は「森」と呼ぶにはほど遠
い量の緑しかありませんでした。そこで来園者の方
から植木を持ち寄って頂き、一緒に運動場に植える
ことで森を目指す「植樹祭」というイベントを開催
しました。2013年には第5回を迎え、自分たち
が植えた木をチンパンジー達が利用している姿を見
ることができるため来園者の方にも楽しんで頂いて
います。植樹した木はチンパンジー達が折って遊ん
だり、食べたりするためすぐに「森」にはなりませ
んが、少しずつですが緑豊かな環境に近づいていま
す。これまでの植樹祭の様子、運動場の変化を紹介
します。
27.名古屋港水族館の来館者の意識と行動
五百部裕(椙山女学園大学人間関係学部)
名古屋市の名古屋港水族館において、来館者を対
象にアンケート調査と行動観察を行った。アンケー
ト調査は入館時と退館時に行い、来館者の関心の変
化を調べた。その結果、 1)入館時に 30 %を超える
人が関心を持っていたシャチの展示は、退館時の割
合が 20 %あまりに低下した、2)入館時に 4 %だっ
たマイワシの群れは、退館時に 11%まで上昇した、
といったようなことが明らかになった。また来館者
の滞在時間や行動を四つの展示施設で観察したが、
滞在時間、来館者の行動とも、施設によって異なっ
ていた。例えばシャチの展示前では、滞在時間が長
いと「動物を見る」という行動の割合が高かったの
に対して、サンゴ礁の海では、滞在時間が長いと「 と
なりの人に話しかける」という行動の割合が高かっ
た。このようにそれぞれの展示施設前での来館者の
行動の違いが、滞在時間の相違や来館者に与える印
象の強弱に影響していると考えられた。
28.高知県におけるオオサンショウウオの分布生息調
大地博史、渡部孝、山崎博継、吉澤未来、久川智恵美、
吉川貴臣、岡本宏昭、早川大輔、山崎由希(わんぱーくこ
うちアニマルランド)
2002 年に発行された高知県レッドデータブックに
おいてオオサンショウウオは DD(情報不足)とされ
ているように、高知県をはじめ四国については本格
的な調査は行われていなかった。こうしたことから、
四国の動物園水族館が協力して調査活動を展開して
いくという申し合わせが行われ、高知県について平
成 14 年から 18 年までの間、高知県立のいち動物公
園とわんばーくこうちアニマルランドにおいて、地
域を分けて調査を実施した。
そして、その調査終了後においても生体発見時の正
確なデータ蓄積を目的に調査を継続することが本種
の生態解明につながるものと考え、平成 19 年度より
当アニマルランドにおいて高知県全域の調査に着手
した。今回、平成 19 年度以降に生体が発見された 7
例の調査結果について報告する。
29.ショウジョウトキの人工孵化・育雛について
山崎由希、吉川貴臣(わんぱーくこうちアニマルランド)
ショウジョウトキ Eudocimus ruber はコウノトリ目
トキ科に属する南米北部沿岸部に生息する鳥である。
わんぱーくこうちアニマルランドでは 1993 年 3 月よ
り 9 羽を導入し鳥類放飼施設バードハウス( 370 ㎡)
にて混合飼育を開始した 。( 2012 年 3 月末時点、 13
種 72 羽) 1994 年 8 月 4 日には初めて自然繁殖に成功
した。その後は産卵には至るものの産卵期が 4~9 月
ということもあり、ヘビによる食害や台風の影響に
よる卵の落下などが続き、十年間自然繁殖には至っ
ていなかった。そこで 2004 年より人工孵化・育雛を
試みた。以降 2011 年まで連続してショウジョウトキ
の人工孵化・育雛を行い、計 61 羽の成育に成功した。
これまでに得られた知見及び経過を報告する。
30.イラストやマンガをツールとして用いた動物解説につ
いて
岡本宏昭(わんぱーくこうちアニマルランド)
わんぱーくこうちアニマルランドでは、機関誌「 ア
ニマルランドニュース」を年 4 回発行している。そ
の中で 、「岡ちゃん日記」と題してマンガによるコラ
ムを連載しており現在 4 年目( 16 作 )となっている。
このコラムは、動物の特徴ある行動や日常の飼育作
業中のエピソードなどを題材として取り上げ、子供
から大人まで広く一般の方々に、動物に対する興味
を持つきっかけになることを意図してはじめた。ま
た、園内の動物解説板などにもイラストを用いるこ
とにより、今までに比べてより注意を引くようにな
った。さらに、小学校などへの出前授業において、
紙芝居形式のプレゼンを行ったところパワーポイン
トよりも集中して児童が話を聞くという効果があっ
た。このような事例について報告する。
- 31 -
31.高知市を流れる鏡川と流域の自然について学ぶ場
「鏡川自然塾」における動物園職員の講師活動
山崎博継、吉川貴臣、渡部孝(わんぱーくこうちアニマル
ランド)
鏡川自然塾は、県内の大学、研究団体、行政、塾
生などとの連携・協働の基に NPO 法人環境の杜こう
ちが実施主体となって平成 23 年度に開設された。そ
の目的は、高知市域に源流から河口までが存在する
二級河川である鏡川と流域の自然について、体系的
に学べる場を市民に提供する。また、自然の仕組み
を科学的に理解し調査し記録する市民を育てる。さ
らに、大学、研究機関、市民団体、市民が連携して
鏡川と流域の自然を調査することにより、鏡川の今
を総合的に明らかにすることである。開講科目は、
哺乳類、鳥類、水生昆虫 、、陸生昆虫、植物、両生類
・爬虫類、貝類、淡水魚類、汽水域魚類、浦戸湾干
潟の 10 部門があり、それぞれに講義とフィールド実
習を行っている。わんぱーくこうちアニマルランド
から、両生類・爬虫類部門に吉川貴臣と渡部孝が、
貝類(陸産担当)部門に山崎博継が講師として活動
を展開しており、その概要について報告する。
32.高知県下の猛禽類における薬剤耐性食中毒原因菌
汚染とその経路∼傷病保護および飼育下個体の症例を
もとに∼
吉澤未来、早川大輔、山﨑博継、渡部孝(わんぱーくこう
ちアニマルランド)、池田裕計(わんぱーくこうちアニマル
ランド、現:桐生が岡動物園)
野生動物における薬剤耐性菌の問題については、
救護施設内での院内感染や野生復帰の際の野外拡散
の可能性が指摘されている。高知県中部でトビの雛
が保護され、糞便検査においてカンピロバクターお
よび ABPC 耐性サルモネラの両菌が検出された。治
療後再び行った糞便検査において両菌は検出されな
かったが、FOM 耐性病原性大腸菌 O86 が検出された。
その治療後は検出されていない。その後傷病保護お
よび飼育下の猛禽類の糞便検査を行った結果、飼育
下ハヤブサから ABPC、 MINO、 ST 耐性病原性大腸菌
O15 が、給餌鶏頭から ABPC、 MINO、 ST 耐性病原性
大腸菌 O153 が検出された。これらの結果を受け、園
内の衛生管理を徹底させる等の処置を行った。本報
告は傷病鳥獣保護および飼育リハビリそのものの在
り方において指摘されていた問題を改めて提起する
ものである。また、餌からの検出は飼育施設におい
て給餌担当者への食中毒原因菌の感染リスクが無視
できないことを示す。
33.チンパンジーの毛からホルモン測定∼コルチゾルと
テストステロンの関係について∼
山梨裕美(京都大学野生動物研究センター・日本学術振
興会)、森村成樹(京都大学霊長類研究所)、平田聡、寺
本研、野上悦子、森裕介、木下こづえ(京都大学野生動
物研究センター)、田中正之、松永雅之(京都市動物
園)、林美里(京都大学霊長類研究所)、村山美穂、伊谷
原一(京都大学野生動物研究センター)
動物の毛はたくさんの情報を含んでいる。これま
での研究から、チンパンジーの毛からコルチゾルと
呼ばれるストレス時に増減するホルモンが測定でき
ることがあきらかになってきた。同時に施設によっ
てオスの体毛中コルチゾル濃度が異なることも見え
てきたが、背景にある要因はわかっていない。そこ
で今回は、オスの性行動や攻撃性などに関連してい
るといわれている性ステロイドホルモン(テストス
テロン)も同時に測定し、その関連を調べることに
した。熊本サンクチュアリ・霊長類研究所・京都市
動物園のチンパンジーの腕より根本近くから毛を切
り、 EIA 法を用いて測定した。結果、オスにおいてコ
ルチゾルとテストステロン濃度に正の相関がみられ
た。メスでは明らかではなかった。この関係はオス
のみの群れとオス・メス混合の群れで違いもあった。
メスの存在やオス間の闘争により、テストステロン
濃度が上がったことが間接的にコルチゾルを増加さ
せている場合があるのかもしれない。
34.名古屋市東山動物園における協働事業「東山こども
ガイド」の紹介
久保統生、奥村太基、鈴木詩織(岐阜大学応用生物科学
部)、櫻庭陽子、井上立也、柴田軒吾、佐藤和哉、落合知
美、堤創(NPO法人東山動物園くらぶ)
市民が動物園と協働で事業をおこなうことにより、
動物園の目的でもある「環境教育」の充実を図れる
可能性がある。 NPO 法人東山動物園くらぶは名古屋
市東山動物園と協働で、動物の正しい知識や理解の
獲得、次世代の育成や子どもたちの社会貢献意識の
向上を目的として「東山こどもガイド」をおこなっ
ている。イベント参加者は小学校 4~6 年生で、 1 日目
に子どもたちは先生役の大学生から担当動物につい
て教わり、動物園での実習で実感を伴った学習をす
る。 2 日目に得た知識をもとにガイドグッズを作成し
ガイドの練習をする。最終日に 1 日中来園者に担当
動物のガイドをする。最終日はシールラリーを同時
開催し、来園者にガイドを聴いてもらえる工夫をし
ている。今年のこどもガイドは「環境エンリッチメ
ント」に焦点を当てて実施した。子どもと来園者へ
正しい動物の知識を提供するとともに、次世代の育
成にも貢献しているだろう。毎年動物園からの実施
- 32 -
を依頼されていることから 、「環境教育」に一役買っ
ていると考えられる。
回の観察時間以外も含めた一日の行動を評価する必
要がある。
35.性周期をもつチンパンジーの女性の移入に伴う社会
関係の変化
平栗明実(日本大学生物資源科学部)、秋吉由佳、森こ
との(岐阜大学応用生物科学部)、林美里(京都大学霊
長類研究所)
京都大学霊長類研究所では、チンパンジーをアキ
ラ群とゴン群の 2 群に分けて飼育してきた。 2012 年 6
月、計画的妊娠を実施するためにゴン群に居たパン
(29 歳・F)と娘のパル(11 歳・ F)をアキラ群へ移入さ
せた。避妊のためピルをのませていたが、パンはそ
れを中止して、性周期を戻した。本研究では、移入
母子と群れの社会関係の変化を調べるために、 2012
年 6 月からの 1 年間、アキラ群 8 個体(2 個体の男性
と 6 個体の女性)を対象に、 1 分毎のスキャンサンプ
リングで、アキラ(36 歳・ M)、アユム( 12 歳・ M)、
パン、パルの 4 個体の最近接距離個体(Nearest Neighbor
: NN)を記録した。発情期のパンは娘のパルと NN に
なる頻度が増加した。アキラとアユムは、発情期に
移入女性のパンとパル以外の個体と NN になる頻度が
増加した。今回の移入により、性周期のある女性が
移入することで群れ全体の社会関係が変化すること
が示された。今後は 3 個体以上が近接している場合
のまとまりについて調べていきたい。
37.王子動物園のカバにおける採食行動の変化と遊び
金智娟、中道正之、山田一憲(大阪大学人間科学部)
本研究では 2012 年 10 月神戸市立王子動物園で生
まれた子カバを対象とした縦断的観察を行い、カバ
の行動発達と母子関係の変化に関するデータを収集
した。観察期間は 2012 年 12 月から 2013 年 10 月であ
り、この期間子は母親と一緒に飼育されていた。食
行動に関して、子は生まれた直後から生後6カ月ま
では授乳に依存したが、生後7カ月から草に興味を
持ち始めて、草の匂いを嗅ぐ行動や口に入れようと
する行動の生起率が増加した。生後8カ月になって
から、子は採食を始めた。これと比べて授乳は生後
7カ月になってから減少する傾向を示したが、生後
1年経っても授乳が観察されたことから、完全に離
乳したとはいえなかった。本研究ではカバの遊びも
観察することができた。子から母親に誘いかけを行
い、母親が反応することで遊びが開始することが多
かった。遊びは生後4カ月に初めて見られて、生後 10
カ月になってから生起率が減少する傾向を見せた。
36.放飼場の拡大とシマウマとの同居がキリンの行動に
もたらす影響
長野秀美(京都大学農学部)、高木直子、田中正之(京都
市動物園)
京都市動物園では、2012 年の秋から 2013 年の春に
かけて、キリンの放飼場が 223m2 から、 1097m2 に拡
大された。また、キリンとグレビーシマウマが同一
の放飼場で展示されるようになった。 2013 年の春に
は雄の子供が生まれ、現在は父母とその 2 子、計 4
頭が飼育されている。本研究では、 2012 年 5 月から
2013 年 10 月の期間に、主に 14 時半 ?15 時半までの約
1 時間のキリン 4 頭の行動と場所を 1 分間隔のスキャ
ンサンプリングにより記録し、放飼場の変化とシマ
ウマとの同居がキリンの行動に及ぼす影響を調べた 。
計約 80 時間の観察の結果、放飼場の面積が約 5 倍に
増えても、キリンが主に利用する範囲は、1.5 倍ほど
にしか増えず、利用頻度も一様ではなかった。少な
くとも今回の観察時間帯においては、キリンの行動
範囲に大きく変化は見られなかった。ただし,一日
を通して見ると,移動前とは明らかな違いが観察さ
れている。移動に伴う影響を評価するためには,今
38.天王寺動物園のフクロテナガザル集団の育児にお
ける父、母、年長のきょうだいの役割
喜多田廉平、中道正之、山田一憲(大阪大学人間科学
部)
フクロテナガザル( Symphalangus syndactylus) は一
夫一妻制の家族集団を形成し、父親が育児に参加す
ることが知られている。本研究では、大阪市天王寺
動物園のフクロテナガザル集団(父: 9 歳、母: 13
歳、第 1 子: 2 歳、第 2 子: 3 カ月齢)を対象に、2012
年 11 月から 2013 年 10 月まで、行動観察を行った。1
分間隔のスキャンサンプリングにより、 4 頭の檻内に
おける位置と個体間の距離を記録し、全生起法によ
り、育児に関する行動を記録した。父親は、第 1 子 、
第 2 子の両方に対し、 play、グルーミング等を行い、
父親による育児が確認された。これらの行動は、第 1
子から第 2 子に対しても行われ、第 2 子の育児に第 1
子も関与していると考えられた。また、第 1 子によ
る父母に対するグルーミングは 15 カ月齢を過ぎても
観察されなかったのに対し、第 2 子によるグルーミ
ングは 11 カ月齢の時点で観察されていることから、
年長のきょうだいの存在が、子ザルの発達を促進し
ている可能性が示唆される。
- 33 -
39.チンパンジー( Pan troglodytes)母子2組みの育児行
動の比較
平 賀真紀 、野 口忠孝 、小倉典子 、坂上舞、中嶌はるか
(横浜市立よこはま動物園)、森村成樹(京都大学霊長類
研究所)
横浜市立よこはま動物園では飼育環境を野生の状
態に近づけることを基本理念とし、 2009 年より大人
の雄 2 個体、雌 5 個体からなるチンパンジー( Pan
troglodytes)の複雄複雌集団を飼育している。社会管
理のため、2011 年 6 月より 行動観察を継続しておこ
なってきた。 2012 年に赤ん坊が 2 個体誕生し、それ
ぞれの誕生前後で社会交渉の頻度が大きく変動した
ことが分かっている。そこで本研究では、母子 2 組
みの子育てを社会的ネットワークから分析する。赤
ん坊誕生による母親の社会的ネットワークの変動、
赤ん坊と母親それぞれの社会的ネットワークの類似
度について比較する。また交渉頻度の継時的変化か
ら、赤ん坊が母親以外の同居する他個体と交渉する
過程および母親からの影響について明らかにする。
母子 2 組みの比較により、チンパンジーの子育ての
柔軟性について考察する。
40.カメラトラップを用いた、半島マレーシアに生息する
哺乳類の塩場での行動調査
田和優子(京都大学理学研究科生物科学専攻)、田中正
之(京都市動物園)、幸島司郎(京都大学野生動物研究
センター)
2012 年 9 月と 2013 年 9 月∼ 10 月に、マレーシア
北部に位置するベラム・テメンゴール森林地区にお
いて、カメラトラップを用いて塩場に来る哺乳類の
調査を行った。カメラは塩場とその周辺のアプロー
チルートに設置し、塩場での行動を記録するため主
に動画モードに設定した。その結果、インドゾウ、
マレートラ、マレーバクなどの絶滅危惧種を含む 14
種( 7 属)の哺乳類が塩場周辺にて確認された。地域
ごとに撮影される種、動物が塩場を利用する時間の
長さは異なった。乾季∼雨季の始まりであった 2012
年 9 月と比べ、例年より早く雨季に入った 2013 年 9
月∼ 10 月には動物が撮影される頻度が減少し、特に
マレーバクで著しく減少した。マレーバクは "湿った
塩場 "を利用する動物であることから、乾季には塩場
という限定的な場所にミネラル源が集中しているた
め頻繁に塩場を訪れるが、雨季には広範囲に流れ出
たミネラルを摂取できるようになり、塩場に出現す
る頻度が減少するのではないかと推察された。
41.飼育アビシニアコロブス集団における未成体個体の
発達変化
河野穂夏、中道正之、山田一憲(大阪大学人間科学部)
神戸市立王子動物園で飼育されているアビシニア
コロブス( Colobus guereza)の集団に対して、2012 年 12
月から 2013 年 10 月まで 11 か月間観察を行い、未成
体個体の発達変化を検討した。この集団では、成体
メス 2 頭を母親として、2011 年 6 月にオス 2 頭、2012
年 3 月にメス 1 頭 、2012 年 8 月にメス 1 頭、2013 年 1
月にオス 1 頭が生まれており、これらの未成体同士
の遊び行動がすべての組み合わせで生起したが、そ
の生起率は各月で個体ごとにばらつきが生じていた。
この差は、未成体個体の月齢の違いによって生じた
と推測される。また、母親との接触率は月齢が上が
るにしたがって減少が見られるが、母親以外の個体
との接触率および近接率は増加した。このことから、
未成体個体は発達に伴って、母親以外の個体とも社
会関係を拡大することが示唆された。加えて、離乳
後も母親との接触は少ないながらも生じていること
から、離乳後も続く母子の関係が考えられた。
42.東山動物園との協働事業「東山動物園検定」の紹介
奥村太基、久保統生、鈴木詩織、(岐阜大学応用生物科
学部)、櫻庭陽子、井上立也、柴田軒吾、佐藤和哉、落合
知美、堤創(NPO法人東山動物園くらぶ)
NPO 法人東山動物園くらぶは、より多くの市民が
飼育動物や東山動物園自体に興味を持ち、楽しみな
がら東山動物園について学べるよう、東山動物園検
定を開催している。参加できるのは小学生以上であ
る。当団体が 2012 年 3 月に発売した東山動物園公認
ガイドブックの内容を中心に、問題を「個体情報」
や「歴史 」、「施設 」、「時事 」、動物の「生態 」、「種」
という 6 つのカテゴリーに分け、50 問作成した。出
題形式は 4 択のマークシート形式である。 2013 年5
月の開催では、7 から 64 歳までの 58 人が参加した。
最高得点は 100 点で高校生が獲得し、平均点は 62 点
であった。この結果は前年度の平均点及び得点範囲
とはあまり変わらなかったが、高得点の取りにくい
点数分布が見られた。また前年度も、申し込まれた
方は全体の 22%で 5 分の 1 以上であった。来年度以
降も、この割合を維持しつつ新規の受験者を獲得し
ていきたい。
43.鹿児島市平川動物公園におけるチンパンジー飼育
の歴史
福守朗、小村圭(鹿児島市平川動物公園)
鹿児島市平川動物公園は前身の鹿児島市鴨池動物
園( 1916 年∼ 1972 年)時代も含めると、計 14 個体
- 34 -
のチンパンジーの飼育に関わっている。その内の 2
個体(いずれもオス)を現在も飼育している。園内
で死亡したのは4個体、搬出されたのは 8 個体であ
る。動物商に搬出された 2 個体はその後の行方が明
らかではない。国外に搬出された 3 個体は友好都市
である中国・長沙市に寄贈されている。14 個体中、飼
育下繁殖であることが明らかなのは 3 個体であり、
子孫を残した個体はいない。 1973 年から 1978 年頃ま
では 1 日 2 回のチンパンジー・ショーが行われてい
た。過去に群飼育は行われず、単独もしくはペア飼
育であった。2010 年に当時単独飼育されていたオス 2
個体を同居させ、現在に至っている。来年度は新チ
ンパンジー舎の建設が計画されている。これらの状
況をふまえ、今後は計画的な個体群管理と福祉の向
上を目指したい。
44.群れ飼育のチンパンジーで観察された子の発達に
伴う母子間距離の変化
有賀菜津美(日本大学野生動物学研究室)、平賀真紀
(よこはま動物園ズーラシア)、村田浩一(日本大学野生
動物学研究室)
霊長類の発達研究の多くは、母子間距離を指標と
している。しかし、チンパンジーについては隔離飼
育された母子を対象としたものが主で、群れ内での
子の発達に伴う観察例は少ない。そこで本研究では、
複雄複雌群の飼育下チンパンジーを対象とし、群内
での母子間距離の変化を明らかにすることを目的と
した。対象個体は、 2012 年 1 月と同年 9 月によこは
ま動物園ズーラシアで生まれた 2 個体で、 2012 年 5
月から 2013 年 9 月の間に観察記録した。記録項目は
「母子が接触 」、「母親の手が届く距離」および「母
親の手が届かない距離」とした。先行研究では、7 ヶ
月齢以降に母子の接触が減少し始めると報告されて
いるが、本研究では 8 ヶ月齡と 11 ヶ月齡に減少傾向
が認められた。これは他個体の存在が影響している
と考えた。また、母子の離合が「 起こらない時期 」
「起
こり始める時期 」「頻繁に起こる時期 」「頻度が一定
になる時期」の 4 段階を経ていることが示唆された。
45.熊本市動植物園におけるチンパンジー群れ合わせ
の事例とその効果
竹田正志、穴見浩志、福原真治、池田智則、本田公三
(熊本市動植物園)、鵜殿俊文、寺元研、野上悦子(京都
大学野生動物研究センター熊本サンクチュアリ)
熊本市動植物園では、チンパンジーの複雄複雌群
による繁殖起点を目指している。今年度、当園既存
のチンパンジー 4 頭( アルファ雄 1 頭 33 歳 、雌 3 頭 35
歳、 34 歳、 22 歳)の群れに、新たに 1 頭(雌 35 歳、
京都大学野生動物研究センター熊本サンクチュアリ
からのブリーディングローン個体)を導入して群れ
合わせを試みた。方法は、既存群れでの順位、性格、
新たな個体と顔見知りか否か等、個体情報を考慮し
ながら段階的に実施した。段階途中で雌同士の闘争
が一度みられたため、闘争相手との群れ合わせを後
日にし、アルファ雄と先に合わせたことで、その後
の群れ合わせは滞りなく進んだ。また、新たな個体
が入ったことで、特定の既存個体にみられていた異
常行動がなくなるという効果も得られたので報告す
る。
46.熊本市動植物園にて日常使用している塩ビ管フィー
ダーの活用報告
穴見浩志、竹田正志、福原真治、池田智則、本田公三
(熊本市動植物園)、鵜殿俊文、寺元研、野上悦子(京都
大学野生動物研究センター熊本サンクチュアリ)
熊本市動植物園では、現在5人のチンパンジーが
水モートグラウンド、全天候型グラウンド、屋内展
示室、寝小屋の各部屋を移動し生活している。通常
の給餌方法に加え、採食時間の延長、順位の低い個
体への採食を考慮し、メンテナンスが容易で、清潔
を保て、内部が見える透明塩ビ管フィーダーを活用
している。筒に穴を開けた単純な作りだが、開ける
穴の大きさでそれを使用する個体の選別ができるこ
と、中に入れる食材の種類、カットの大きさで採食
時間が変わってくること、食材の冷凍及び保冷によ
り腐敗を防ぐことなど、当園のフィーダーの種類、
使用時間、利用個体について若干の知見を得たので
報告する
47.ボッソウからニンバへ:緑の回廊と国境を越えたチン
パンジー調査
大橋岳(日本モンキーセンター)
ギニア共和国のボッソウでは 1976 年以来、野生チ
ンパンジーの研究がおこなわれてきました。アブラ
ヤシの種子を台石のうえに置き、別の石をハンマー
にして叩き割るなど、多くの道具使用をおこなうこ
とが知られています。しかし、集団の構成に目を向
けると、少子高齢化がすすみ、存続がきわめて危ぶ
まれる状況です。ボッソウの東には世界自然遺産の
ニンバ山があり、チンパンジーがすんでいます。チ
ンパンジーの往来を促進するために、緑の回廊とよ
ぶ植林活動をつづけています。 2012 年度には 18000
本の木を植えました。ボッソウから南東側は、国境
があり、それを越えるとリベリアのニンバ州になり
ますが、ボッソウから森は続いています。過去およ
び将来、ボッソウのチンパンジーと交流可能な地域
- 35 -
でチンパンジーの生息状況とその生態を探っていま
す。本発表では、こういった活動の報告をいたしま
す。
考慮した飼育管理がより重要だと思われる。
48.岐阜大学サークル「動物園学生くらぶ」の活動紹介
鈴木詩織、奥村太基、久保統生(岐阜大学応用生物科学
部)、櫻庭陽子、井上立也、柴田軒吾、佐藤和哉、落合知
美、堤創(NPO法人東山動物園くらぶ)
動物園学生くらぶとは、岐阜大学に拠点を置く大
学サークルである。本サークルには動物園就職希望
の学生も多く、 NPO 法人東山動物園くらぶの活動の
お手伝いをするとともに、動物園就職に必要な知識
や技術の取得など、自らのキャリアアップをも目指
している。日々のサークル活動は毎週水曜日にイベ
ントの準備やイベントをより良いものにするための
ディスカッションをおこなっている。また、毎月 1
回は東山動物園を、長期休暇には他県の動物園を訪
れ展示の方法などについてサークル内で意見を出し
合っている。また、東山動物園くらぶのイベントに
運営側としてかかわることで、他大学生、社会人、
動物園スタッフと交流することができ、実際にサー
クル卒業生の中には動物園に就職したり動物に関す
る研究に携わったりする者も出てきている。動物園
就職を希望している学生にとっては、このサークル
での活動の意義は大きいと考えられる。
50.チンパンジーにおける「盲視」
植田想(京都大学霊長類研究所)、兼子峰明(京都大学
文学研究科)、友永雅己(京都大学霊長類研究所)
第一次視覚野に損傷を受けた患者では、主観的な
見え(知覚経験)は成立しないが行動には視覚情報
が反映される「盲視( blindsight)」という現象が起き
ることが知られている。盲視を調べることで、視覚
処理における意識と無意識の役割を考えることがで
きるのではないだろうか。本研究では、大脳右半球
後頭部にくも膜のう胞を持ち、視野の問題も持つチ
ンパンジー( Miyabe et al., 2013; Kaneko et al., 2013)
を対象に盲視の可能性を検討した。盲視における、
主観的な見えと、視覚情報の行動への反映という 2
つの側面を調べるため、モニターに呈示される光点
の有無を報告させる検出課題と、先行呈示された光
点の位置を 2 点の候補位置から強制的に選択させる
強制選択課題を行った。検出課題において、先行研
究で確認されていた欠損領域での光点検出率は著し
く低かった。一方、強制選択課題では正答率がチャ
ンスレベルを超えた。この結果は、光点の存在を報
告できないにもかかわらず、強制選択では位置の再
認が可能であることを示し、盲視の可能性が高いこ
とを示唆している。
49.侵襲的医学研究が日本のチンパンジー個体群に与
えた影響
綿貫宏史朗、落合知美、平田聡、森村成樹、友永雅己
(京都大学霊長類研究所)、伊谷原一、鵜殿俊史(京都大
学野生動物研究センター)、松沢哲郎(京都大学霊長類
研究所
日本における医学研究施設でのチンパンジー飼育
は 2012 年に終了したが、医学研究が日本のチンパン
ジー個体群に与えた影響について調べられた例はま
だない。そこで、大型類人猿情報ネットワーク( GAIN)
に 2013 年 8 月までに登録した全 967 個体分の情報を
対象に分析をおこなった。その結果、医学研究施設
(のべ 8 施設)で飼育されたことのある個体は、判
明しているだけで 205 個体であった。その由来は、117
個体が野生または国内の動物園から来た個体で、 88
個体が研究施設内で繁殖した個体だった。 48 個体が
医学研究施設で死亡し、研究利用後、 36 個体が海外
へ輸出、 121 個体が国内の動物園またはサンクチュア
リへ移動した。国内移動した個体のうち 99 個体は現
在も生存しており、これは現在の国内生存個体数の
約 30 %に及んだ。医学研究により国内個体数が増加
する結果となったが、今後は福祉や遺伝的多様性に
51.名古屋市東山動物園における左腕を切断したチン
パンジーの群れ復帰
櫻庭陽子(京都大学霊長類研究所、日本学術振興会特
別研究員(DC1))、近藤裕治、山本光陽(名古屋市東山動
物園)、林美里、足立幾磨(京都大学霊長類研究所)
チンパンジーのように社会性の高い動物が障害を
持った場合、ヒト同様にその社会復帰は重要な目標
となる。しかし、これまでにそうした事例の報告は
ほとんどない。2012 年 12 月末に、名古屋市東山動物
園のチンパンジー、アキコ(♀ 35 歳)の左腕筋肉の壊
死が見つかり、2013 年 2 月 14 日に肘から下を切断し
た。本発表では身体障害をもったアキコの群れ復帰
の過程をまとめ観察結果を報告する。5 月 14 日にユ
リ(♀ 42)、 16 日にローリー(♀ 43)、カズミ(♀ 26)、
リキ(♂ 1)、27 日にチャーリー(♂ 35)、リュウ(♂ 16)
と、順にお見合いと同居をおこない、騒ぎはあった
がアキコは群れ復帰を果たした。アキコは失った左
腕の機能を補完しており、その行動範囲にはあまり
変化は見られなかった。また、ほかのメンバーのア
キコに対する行動も以前と変わらない印象である。
入念な準備が奏功するとともに、チンパンジーの適
応能力の高さも群れ復帰成功の要因であろう。障害
- 36 -
をもつチンパンジーの社会復帰に関して示唆に富む
事例といえる。
52.ゴリラの赤ちゃんの姿勢反応と物の操作の発達
竹下秀子(滋賀県立大学人間文化学部)、田中正之(京
都市動物園、京都大学野生動物研究センター)、三家詩
織(京都大学野生動物研究センター)、長尾充徳、釜鳴宏
枝(京都市動物園)、坂本英房(京都市動物園、京都大学
野生動物研究センター)、和田晴太郎(京都市動物園)
京都市動物園で 2011 年 12 月 21 日に出生したニシ
ゴリラ( Gorilla gorilla gorilla) の男児を対象に、2012
年 11 月 5 日に母親に戻されるまでの生後 22 週から
44 週まで、隔週 11 回、居室および周辺スペースにお
いて、11 試行からなる姿勢反応検査と新版 K 式発達
検査用具を利用した物の操作の行動観察を実施した 。
これにより、観察開始時 22 週齢の姿勢反応は前肢伸
展・後肢屈曲の段階にあったことを確認した。 24 週
齢には前後肢伸展の段階に移行した。この頃に体幹
直立座位であることが多くなったことが姿勢反応の
変化に対応していた。さらに 26 週以降は物の操作に
両手を使用することが多くなり、後肢伸展の傾向が
より強い姿勢反応が見られるようなった 32 週齢には
後肢を含めた動きの同期や協応を要する行動型や指
先の巧緻性も高まった。ポッピング試行の踏み出し
反応が確認された 34 週齢以降になると 、第 1 指と第 2
指によるピンチ把握がよく見られるようになった。
「片手に鐘をもち、もう一方の手で鐘舌をつつく」
両手の非対称的使用は 36 週齢に初出した。
53.タンザニア連合共和国における野生動物生息地の
視察研修報告とその伝え方
島田かなえ、米田弘樹、和田晴太郎、田中正之(京都市
動物園)
京都市動物園では,職員研修の一環として,平成 21
年度から今年度までの計 5 回,タンザニア連合共和
国の野生動物生息地に職員を派遣してきた。今年度
は, 8 月 22 日から 31 日までの 10 日間の日程で行わ
れ, 2 名の職員が参加した。研修では,ゴンベとセレ
ンゲティの 2 つの国立公園を視察し,ゴンベでは 2
日間の滞在で合計 13 頭のチンパンジーを観察した。
出会ったチンパンジーは,飼育下のチンパンジーに
比べて体が小さいと感じた。また,ゴンベの森の環
境を知ることもできた。現地での野生動物の保全活
動も見学し,野生動物を取り巻く環境の厳しさと人
々の暮らしについて実感することができた。研修後 11
月には,野生チンパンジーの暮らしや野生での状況
などについて解説したポスターとゴンベ国立公園で
撮影した写真を類人猿舎で掲示した。また,園のホ
ームページでの報告や講演会も行う予定である。今
後も,今回の研修で得られたことを,教育普及や動
物園動物の飼育環境の向上に活かしていきたい。
54.チンパンジーにおけるアラビア数字1から19の系列
学習
村松明穂、松沢哲郎(京都大学霊長類研究所)
数の概念の学習に関するヒトとチンパンジーの比
較研究のあらたな段階を目指して,チンパンジーに
おけるアラビア数字の系列 1 から 19 までの系列学習
に取り組んだ。ヒトにおいては,十進数に代表され
るような位取り記数法を学習することが,数の概念
を獲得するうえで重要である。そこで,本研究では,
チンパンジーに「 桁上がり」をふくむ数系列 1 から 19
を学習させること,学習過程につて分析することを
目的とした。対象は,京都大学霊長類研究所で暮ら
すチンパンジーのうち,すでにアラビア数字の系列 1
から 9 を学習している 6 個体である。 6 種類の課題に
よる学習にくわえ,呈示刺激個数(刺激 3, 4, 5 個)
×数系列の範囲(1から 9, 1 から 19)×刺激の連続性
(連続,非連続)×記憶の負荷(記憶あり,記憶なし),
の各要因の組合せで 24 条件についてのテスト課題を
おこない,各要因がパフォーマンスに与える影響を
調べた。これらの結果についてご報告する。
55.血統登録書に記載されていないチンパンジーたち
落合知美(京都大学霊長類研究所)綿貫宏史朗、鵜殿俊
史、伊谷原一、友永雅己、平田聡、森村成樹、松沢哲郎
(京都大学)
現在、国内 51 施設で 324 個体のチンパンジーが飼
育されている(10 月 20 日現在)。これらのチンパンジ
ー は すべ て 公 益社 団法 人日 本動 物園 水 族館 協会 (以
下、日動水)により血統登録されているが、大型類人
猿情報ネットワーク(Great Apes Information Network 略
称 GAIN(ゲイン))では、 2002 年より国内の大型類人
猿について情報整備をおこない、飼育施設の訪問や
過去の資料などから血統登録に未掲載のチンパンジ
ーについてもデータベースに登録してきた。その結
果、血統登録書が本格的に整備される 1980 年代以前
のチンパンジーの飼育の状況が明らかになったので
紹介する。チンパンジーは 1921 年にイタリアのサー
カスによって初めて日本に持ち込まれ、その後、大
阪、名古屋、神戸、京都などで 20 個体が飼育された
(すべて血統登録書には未掲載)。戦争で生き残った
のは 1 個体のみであり、1951 年以降に再び全国の動
物園でチンパンジーが飼育され始め、個体数は急に
増加する。なお、未掲載個体は 2013 年 10 月 20 日現
在 227 個体であり、その各個体の詳細は、 GAIN のウ
- 37 -
ェブサイトでも確認することができる。
http://www.shigen.nig.ac.jp/gain
56.高知県におけるマドボタル属の調査
多 々 良 成 紀 ( 公 益 財 団 法 人 高 知 県 の い ち動 物 公 園 協
会)、杉村光俊(公益社団法人トンボと自然を考える会)、
石川憲一(高知県立高知海洋高等学校)
四国には幼虫期も陸上に住む「陸生ホタル」が 8
種前後生息するとされるが、ヒメボタルを除いて成
虫が群れたり強く発光することがないため、それら
の生息状況はほとんど明らかになっていない。 2005
年、陸生ホタル生態研究会( 旧板当沢ホタル調査団)
の要請により、高知県におけるマドボタル属
( Pyrocoelia)の生息調査を開始し、 2012 年、さらに
調査を重ね、いくつかの知見を得た。
生息地については、西から四万十市、土佐市、高
知市、香南市、室戸市において幼虫が確認された。
それらの生息環境は低い標高の山裾や林道端の湿潤
な草地や低木帯で、 6 ∼ 9 月の夜間に発光していると
ころが多く観察された。それらの内、土佐市と香南
市においては雄成虫が 1 尾ずつ観察されたが、いず
れ も 前 胸 赤 斑 は 長 方 形 で 、 オ オ マ ド ボ タ ル ( P.
discicollis) の特徴を有していた。幼虫の背板斑紋変
異について、土佐市と高知市においては中央構造線
内帯の特徴を持つ幼虫が混在していた。
57.飼育下ゴリラの繁殖プログラムにおけるストレスレベ
ルの評価
藤田志歩(鹿児島大学共同獣医学部)、坪川桂子(京都
大学大学院理学研究科、日本学術振興会特別研究員D
C)、長尾充徳、釜鳴宏枝、伊藤二三夫、山本裕己(京都
市動物園)、伊藤英之(京都大学大学院理学研究科、京
都市動物園)、今西亮、北田祐二(上野動物園)、山極壽
一(京都大学大学院理学研究科)
動物園におけるゴリラの繁殖では、雄雌の相性、
同居のタイミング、人工保育になった場合の再導入
のタイミングなどを考慮する必要があり、個体のス
トレスレベルをモニタリングすることはこれらの判
断の一助となり得ると考えられる。本研究は、非侵
襲的手法を用いて個体のストレスレベルの変化を継
続的に調べることにより、安全な繁殖管理および個
体の健康管理に有用な情報を提供することを目的と
した。交配のために上野動物園からで京都市動物園
に移送されたオス(当時 12 才)と京都市動物園で飼
育されていたメス(当時 24 才)との交配、妊娠およ
び出産、人工保育後の親子再同居の過程において、
オス親、メス親および新生仔の糞便中コルチゾル濃
度を測定した。その結果、オスの移送によりストレ
スレベルが上昇したこと、交配のための同居や親子
再同居では、ストレスレベルの変化は雌雄差がある
ことがわかった。また、コルチゾル濃度の変化から、
メスの妊娠過程における胎盤機能やから新生仔にお
ける副腎の発育といった生理的な変化を観察できた。
58.Case report: Constipation in an Orangutan
Hyun Ho Lee、Yong Gu Yeo、Shin Geun Kang、Jong H
yeok Lee、Jeong Rae Rho(Seoul Zoo, Republic of Kor
ea)
A 10-year-old female orangutan displayed anorexia,
abdominal distension, and defecation disorder. The
orangutan had been hand-reared, and was currently nursing
her 6-months-old baby in an indoor enclosure. The
symptoms had started around 4 months after delivery to the
baby and included excretion of mucus, constipation and
diarrhea. After a gradual decrease in quantity and frequency
of defecation, the orangutan stopped defecating prior to the
experimental laparotomy. On abdominal auscultation, no
peristaltic sound in the low abdomen was observed but
retained feces were detected. After the administration of a
laxative and gastrointestinal prokinetic stimulants had no
effect, an enema was administered, but this measure also
failed to improve the situation. Experimental laparotomy
revealed the expansion of colon by gas and feces which had
the consistency of dried dough. After incision of the colon,
the retained feces were removed. The orangutan did not
recover from the operation, vomiting and eventually dying
1 hour after surgery. No abnormality in the gastrointestinal
tract was revealed by the autopsy.
59.Reintroduction of a baby orangutan to the biologi
cal mother at Seoul Zoo
Hyun Tak Park、Yoo Rok Park、Kyung Mi Woo、Kun S
uk Hwang、Joon Ho Cha、Dal Ju Lee(Seoul Zoo, Rep
ublic of Korea)、Yena Kim(Primate Research Institute,
Kyoto University,Japan)、Jung Rae Rho(Seoul Zoo, R
epublic of Korea)
The animals born and hand-reared in captivity often face
difficulties of rearing their offspring or of reproduction due
to the lack of knowledge or skills which can be learned
from their mother or other conspecifics during the
development. Bomi, a hybrid of Bornean and Sumatran
orangutans, was reared by a human caretaker at Seoul Zoo
and gave her first birth to a male infant in January 2013.
After the birth, she carried her infant and protected him
from other group members, but did not nurse him.
Caretakers helped the mother's nursing her baby by shaping
- 38 -
her posture consistently. However, due to the cold weather
the infant was hospitalized with hypothermia and had been
reared by a human caretaker for a month until he had fully
recovered his physical condition. To prevent the problems
caused by an artificial rearing and to provoke natural
behavior which could be learned from the mother, we
decided to reintroduce the baby orangutan to his biological
mother. Reintroduction processes were accompanied with a
positive reinforcement maternal care giving skills training
program provided by Dr. Carol Sodaro at Brookfield Zoo.
After gradual training, the mother had successfully taken
her baby into her arms and nursed him. As far as we know,
this was the first attempt of a reintroduction of a baby
orangutan to the biological mother in Korea. This will
provide practical information and significance on maternal
care giving in orangutans, and as a result will help to
reduce artificial rearing of wild animals in captivity.
のいち動物公園では、各種標本や自作ビデオ等の
資料を教材として団体レクチャーでの活用のほか、
貸出事業を行っている。利用数は年々増加傾向にあ
る中、特に小学校の教科書に取り上げられている動
物に関するものの需要が高い。今回( 平成24年度)
そうしたニーズを反映し、とりわけ人気が高いビー
バーに関するビデオ教材を制作することにした。内
容は「生態 」「巣作り 」「体の不思議」の3部構成と
し、授業時間と児童の集中力持続時間を考慮して約
11分間にまとめ、飼育担当職員も登場して解説す
る楽しい演出とした。構成から撮影編集に至るまで
は企画職員が一括担当し、約3ヶ月をかけて完成さ
せた。貸出は県内外を問わず行っており、併せて今
後のビデオ教材開発の参考とするためアンケート調
査も実施している。今後も教育現場のニーズや効果
を考慮して各種教材の改良や開発を進め、教材貸出
の利用促進を図りたい。
60.ワシミミズクの雛の成長にともなう行動変化
金子祐希(京都大学理学部)、釜鳴宏枝、田中正之(京都
市動物園)
京都市動物園にはペアのワシミミズクが飼育され
ている。産卵時期は 3 月下旬頃である。平成 24 年と
平成 25 年に産まれた 2 個体を対象に行動を観察し
た。観察中,雛が頻繁に鳴く場面が見られたが,こ
れが親に対する信号だとすれば,発達に伴って発生
頻度が減少することが予想された。観察期間は, 24
年は孵化後 7 か月,計 20 時間 ,25 年は孵化後 1 か月,
計 7 時間だった。アドリブサンプリングによって発
声を記録し,各観察日の 1 時間当たりの発声頻度を
算出した。頻度は成長に伴って減少し,孵化後 4 か
月頃にはほぼゼロになった。また,雛は成長ととも
に昼間に活発に動くことが少なくなった。雛の発声
に対して親鳥が反応することは稀であった。平成 24
年生まれの雛では、ビデオ設置による夜間観察も行
った。ビデオ設置は雛の昼間の発声頻度が 0 に近づ
いた 8 月に行ったが、夜間の映像では雛はよく鳴い
ていた。活動パターンが成鳥に近づいていることを
示すものではないかと考えられる。
62.ブチハイエナの群れ飼育
木村夏子、勝木泰、原浩二(公益財団法人高知県のいち
動物公園協会)
ブチハイエナ( Crocuta crocuta)は野生下において
多い時には 20 頭規模の群れで生活しているが、国内
ではこれまで両親と子を含む 3 頭以上の群れ作りに
は成功していなかった。今回、2013 年 4 月に両親と
子の 3 頭による群れ作りに成功したため、その事例
を報告する。当園では 2010 年 11 月にタンザニアよ
り本種ペアを導入し飼育を開始し、2012 年 10 月に子 1
頭(オス)が誕生した。子はメス親と同居飼育しオ
ス親とは分離した状態であったが、野生での群れ形
態に近付けることを目的として、子の体力、体格が
しっかりしてきたと判断できた 2013 年 3 月から 3 頭
同居に向けて見合いを開始した。見合いの状況は概
ね良好であったが、同居を開始した当初はメス親が
過剰に子を守ろうとして、オス親を追い回す行動が
頻繁に観察された。そうした状況はしばらく続いた
が、大きな闘争や激しい攻撃には至らず、子の成長
と共に親子 3 頭が展示場で安定して過ごすことがで
きるようになった。現在は第2,3子となる双子が
誕生したため、日中はオス親と子の 2 頭だけで過ご
しているが、メス親が不在でも関係は安定している。
今後さらに大きな群れにすることも視野に入れ、引
き続き個体関係を注視していきたい。
61.ビデオ教材の開発と貸出について
澤田直子(公益財団法人高知県のいち動物公園協会)、
吉井なつ美(公益財団法人高知県のいち動物公園協会
平成24年度まで在籍)、坂本美々、北村香、久川信子
(公益財団法人高知県のいち動物公園協会)、青野美紀
菜(公益財団法人高知県のいち動物公園協会 平成24
年度まで在籍)、牛膓典代、仲田忠信(公益財団法人高
知県のいち動物公園協会)
63.高知県立のいち動物公園でのアサギマダラのマー
キング調査について
牛腸典代、斎藤隼(公益財団法人高知県のいち動物公
園協会)
- 39 -
アサギマダラ( Parantica sita)はマダラチョウ科に
属するチョウで、世代交代をしながら渡りをするこ
とで知られる。近年、全国各地で移動ルートや生態
を調べるために、本種の羽に捕獲日、捕獲場所、記
入者名を油性ペンで記入するマーキング調査が盛ん
である。 2007 年、近隣の香南市野市小学校の児童ら
が総合学習の一環として、本種のマーキング調査の
ために高知県立のいち動物公園を訪れたことを機会
として、園内での本種の調査活動を開始した。園内
にある自然散策路には、アサギマダラの訪花植物で
あるアザミやツワブキ、ならびに少数のヒヨドリバ
ナが自生しているが、 2007 年のマーキング数はわず
か 11 頭であった。そこで 2008 年、野市小学校の児
童らと共に訪花植物として新たにフジバカマを植樹
したところ、その年のマーキング数は 308 頭を数え、
福島県や石川県など本州からの飛来や、室戸岬、足
摺岬、鹿児島県の喜界島等への移動が確認された。
その後も毎年、秋の南下シーズンにあたる 10 月を中
心に多数のアサギマダラが飛来することから、当園
は本種の移動ルート上に立地していることが示唆さ
れた。
- 40 -
Fly UP