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岩石の授業改革 - Biglobe
平成 20 年度 日私小連理科部会発表資料 退屈、わかりにくい、岩石学習の改革を! 岩石実験ネタ、授業展開の提案 岡田 篤 1,提案のきっかけ 先日、進学塾の講師しているかつての教え子が来校した。私が岩石の実験を見せると、「え っ?岩石ですか?あれは講義でしか教えようがないですね。私自身も岩石の実験をしたことが ありませんし。でも、岡田先生のようにやれば、その講義の内容がすっきり伝わります。」と いう会話があり、岩石実験のマイナー性をあらためて認識した。 確かに、教科書、問題集を見ても、難しい用語はでてくるが、その用語を理解するための実 験は乏しい。観察をするにも、現地へ出て行く、標本を収集してくるなど苦労が絶えない。 岩石を使って、何をどう実験し、どう学んでいくと効果的か、ここ数年試みてきたことを紹 介しつつ、岩石実験の授業を考えたい。 2.岩石分類も複雑だが実験で理解する 堆積岩。堆積岩という用語そのものは、基本的に問題集で教えることになる。 礫岩、砂岩、泥岩の区別は、その粒の大きさが決定条件である。 レキ(小石)…2mm 以上の粒 砂・・・2mm以下の粒。泥・・・1/16mm以下の粒。 泥はさらに細かいシルト、粘土に分けられる。含まれている質は問わない。 (鉱物でも火成岩質でもいい) ■意外な難問と授業の流れ さらさらの火山灰(桜島のもの、教材として購入できる)を見せる。 「この火山灰が固まると何岩になるでしょうか。」 何人かの子が、凝灰岩と答える。 (実は前年度旅行行事で学習している) 泥岩という子もいる。 1 「凝灰岩、泥岩どちらでしょうか。 」 これは、悩む。火山灰が固まったのだから、凝灰岩、粒の大きさからして泥岩。 「どちらも正解。詳しく言うとは、粒の大きさからすると泥岩。でも、火山灰が固まった のだから、凝灰岩。すなわち火山灰の性質を持った泥岩。つまり、凝灰質の泥岩。 」 神奈川県丹沢産の有名な凝灰岩を見せる。 これまでは、凝灰岩と教えられてきた。しかし、泥岩とも言えることをここで教える。 次に、石英閃緑岩を砂状にしたものを見せる。 この石英閃緑岩も、学習している。 「おなじみの石英閃緑岩です。これを粉々にしました。さて、今、何になったでしょうか。」 石英閃緑岩という子、砂、泥という子がいる。 「正解は、砂。大きさだけから考えると、砂です。 」 「では、この砂を固めて岩石にした場合、何という岩石でしょうか。」 砂岩、石英閃緑岩で答えが分かれる。 「正解は、砂岩、というより砂岩と言った方がいい。石英閃緑岩質を持った砂岩とも言えそ うだ。」石英閃緑岩質砂岩とは、一般的な言い方ではない。あくまで考え方を述べていること になる。 次に、石英閃緑岩を泥状にした物を見せる。 「おなじみの石英閃緑岩です。これを粉々にしました。明らかに先の物より細かいですね。 さて、今、この粒1つ1つは何と言うでしょうか。 」 答えを予測でき、泥、という子は多くなる。 「では、固まる何岩でしょうか。 」 2 「正解は、泥岩、というより泥岩と言った方がいい。石英閃緑岩質を持った泥岩と言えそうだ。 」 (同じ仲間の花崗岩の場合、花崗岩質砂岩、花崗岩質泥岩という言い方はあるようだ) 「次に皆さんに、石英閃緑岩から、砂岩、泥岩を作ってもらいます。 どうやるとできるか知っていますか?」 「川の水で削る」 、という子がいるが、過去の学習経験が生きている。(4 年次に学習済み) 「今日は、実験で砂岩、泥岩を、この石英閃緑岩から作り出してみます。 」 ガスバーナーで岩石を 30 分熱する ↓ 氷水で、急冷却する ↓ ハンマーで軽くたたく ↓ 乳鉢ですりつぶす 砂状 砂岩のもとになる。 さらにすりつぶすと 泥状 泥岩のもとになる。 ↓ 3 演示をした後、各グループで実験させる。 ここで、すりつぶす際、砂状でやめることを指示しておく。 実験をしながら、 「これは、砂、いやもう泥岩のもとになっている、粉末だから泥岩になる、」 と、砂と泥の区別を意識しだすことに、意味がある。 この作業をすると、見事に黒い有色鉱物と白や透明の無色鉱物に分かれて砂状になる。 また、黒白くっついたものもできてくる。完全に分離しないものも多数ある。 「石英閃緑岩からできたこの砂とは、粒の大きさを言っているだけにしかすぎません。 黒いもの、白い物、透明な物がありますが、これは何ですか?」 これは鉱物である。 白の多くが長石、黒の多くが角閃石である。 4 年生の時の河原の岩石採取で、その岩石のイメージから、ごま塩石(ごましおおむすび) =石英閃緑岩と学んできた。 (神奈川県でもそう呼ばれて親しまれている) 今回のこの実験で、黒ごま部分とご飯の部分が分離されてくる。 黒い鉱物=角閃石(他にも磁鉄石や輝石もある) 白いご飯の部分は長石や石英である。 4 年生の時の不思議を今回実験的に解明?したことになる。 この用語を教えた上で、 「黒と白に、ピンセットを使って、鉱物を2つに分けなさい。 そして、ビニール袋に入れて保管します。 」 この作業は、さらに2時間かけて行った。 4 3.この実験、作業から気づくこと 砂から、黒と白の鉱物に分ける作業は、熱中してやってくれる。大人がやると大変疲れる。 たくさん集めるとコレクション的に大切な逸品になる。 これが砂であり、鉱物であり、角閃石や長石という問題集でのみ知っている?ものの実物に 触れることになる。 また、ここで重要なことに気づく。 作業の途中で、実験ではなく、自然の中で浸食されて砂となったものとを比較する。 ・浸食の中で、白と黒の分離作業が見事に成されるものが多い。 ・自然浸食の砂の方が丸みを帯びている。 石英閃緑岩は、深成岩であり、ほぼ全て鉱物からできている。よって、この作業で得られる ものは、ほぼ全て鉱物と考えてよい。 次に、火山岩である安山岩から、鉱物探しの観察をさせてみる。 (こちらは教師側で既に砂状にしたものを見せた) 鉱物が非常に少ないことがわかる。 安山岩(火山岩)は、マグマが急激に地表付近で冷えたから結晶が成長しない、できにく い。 石英閃緑岩(深成岩)は、マグマが山の奥深くでゆっくり冷えたから結晶が成長する、と いう原則が、体験的に理解されていく。 鉱物=結晶 → 5年生の時に作ったミョウバンの結晶へと話をつなげる。 ミョウバン水溶液を急激に冷却すると、結晶の形が整わず、小さい。作品にならない。 しかし、1 日以上、恒温器の中で、ゆっくり冷却した。結晶が大きく、形が整い、作品にな った。 この原理が、大自然の中で、行われている。 5 4.顕微鏡を使って理解を深める 石英閃緑岩と安山岩の岩石薄片(プレパラート、市販品)を使って顕微鏡観察させる。 深成岩は、 (結晶)鉱物の組織が整っている、数が多い。(等粒状組織) 火山岩は、 (結晶)鉱物の組織が散らばっている、数が少ない。 (斑状組織) この顕微鏡観察と、前述の岩石人工浸食による観察が一致する。顕微鏡、プレパラートの観 察の視点から、結晶鉱物の理解を深めることができる。→スケッチさせる 石英閃緑岩顕微鏡観察 安山岩顕微鏡観察 玄武岩質スコリア (自作) 5.砂浜からの鉱物探し 砂の中に鉱物が含まれている、砂浜の砂から鉱物探しができる。 そこで、神奈川県城ヶ島(夏季教室でいくところ)の砂を取ってきて、顕微鏡で見せる。 その中から、かんらん石という鉱物を見つけることができる。 実は、城ヶ島でも特定の場所でしかこのかんらん石は、見つからないという。 ここでかんらん石探しをさせ、みつかったものはビニール袋に入れていく。 とても熱心に集めていく。 6 こうして、長石、角せん石、かんらん石といった鉱物を集めたことになる。 自前の「地球の鉱物コレクションである」 生命の星地球博物館 学芸員 平田大二氏が以下の図を示してくれた。 (岡田加筆) 岩石(地球のでき方)サイクル 自然の中で、どの現象を捉えているかという視点が大切。 ①山=岩(石) ・岩石 ②雤・風による風化・侵食 マグマ ↓ 崩れる ③小石(鉱物を含む) ・砂・土 ④運搬 ↓ ⑤堆積 ↓ 溜まる ⑥地層 柔らかい(柔らかくても地層・海岸で見られる。 未固結ならレキ層・砂層・泥層) ⑦固結 ↓ 固まる ⑧礫岩・砂岩・泥岩=堆積岩 → 再び①へ 自分たちが実験・観察しているものは、このサイクル図を見せながら、どこに当たるのか。こ こを考えさせる。また、教師側にもその意識は必要である。 ・本校での 4 年生の石集め ③or⑧になったものの採取 ・川の3作用の学習 ②④⑤ ・今回の岩石人工浸食 ②過程を実験化 ③のものを使用して実験観察 ・本校 6 年生の地層観察会 ⑦の状態になったものの観察 ・本校 6 年生の火山観察 ①の観察 ・今回の鉱物集め ③の観察 7 6.その他、岩石実験観察の工夫 ネタ ①岩石マップづくり 「神奈川の岩石マップ」というものを作らせる。 丹沢地区 石英閃緑岩 凝灰岩 結晶片岩 = 火山活動によって作られた岩石や鉱物 角せん石 長石 箱根地区 安山岩 = 火山活動によって作られた岩石 三浦地区 玄武岩質スコリア かんらん石 = 横浜地区 関東ローム層 火山活動によって作られた岩石や鉱物 = 火山活動によってできた地層 このように、神奈川県は、火山の影響を大きく受けている土地であることが見えてくる。 高価な岩石標本は、個人での購入及びその内容理解も難しい。さらに自分のモノにすること まで結びつかない。しかし、このように採取、作業、仕分けといった作業を通したものを標本 にすると自分のモノになる実感がある。コレクションとして飾るにしても学習的意味を持たせ ることができる。 ②岩石薄片を作る 次頁(平成 17 年度 関東地区研修会発表) 作品の実物演示と作り方の簡単紹介 8 資料 岩石プレパラートをつくろう 簡単、熱中そして、感激! 1.岩石を顕微鏡で見たときの美しさを見せてあげよう 石を顕微鏡で見るとどうなるか、その美しさをほとんどの子は知らない。 また、石の中に含まれているもの(鉱物)が、石の歴史、大地、地球の歴史を物 語っていることも考えたことがないだろう。 大きな山→大きな岩→小さな岩石→小さな石→砂 →そして最小単位である結晶鉱物 となる。つまり、岩石を顕微鏡で見るとは、地球の最小単位を見ることになる。 2.優しく子どもにもできる方法 岩石プレパラート、すなわち岩石薄片は、岩石切断機、研磨機、偏光顕微鏡な ど本来専門的な機械、当然費用も必要である。これでは教室ではできない。そこ で、教室で全員で楽しめる方法を提案する。 3.手順 ①小さい岩石を集める できるだけ薄く平らな面を持っているものがいい。ハン マーでたたいて、割ってもよい。 ②岩石の片面を平らにする 城ヶ島の玄武岩質スコリアを例 に 深成岩は硬い。 火山岩の方が柔らかいようだ。 9 玄武岩質スコリアの大きさ もともとこんな小さい物を使いました。 片面をまず削る ③もう片面も削る 両面平らにする ④スライドガラスに岩石を貼り付ける 専門家からのアドバイス 鉱物専用スライドガラスが よいとのこと。 スライドガラスに強力接着剤で接着し数時間放置。 10 この際、以下のようにスライドガラスと岩石を暖める。 専門家からのアドバイス 岩石をホットプレートで暖 め水分とぬく。スライドガ ラスもあたため接着剤が均 一に、かつ気泡ができない ようする。 専門家からのアドバイス 専門家も使用の接着剤 ⑤スライドガラス面でない方岩石をさらに削る 専門家からのアドバイス 研磨剤を使わないでできる のは面白い。この方法で精 度を上げるように研究して 欲しい。 使ったヤスリは4枚 白いカスは、実は軍手のすり切れた跡、ヤスリには、水をつけながら研 磨100番3枚→400番2枚→1000番1枚を使用。薄くなるに従って、細かいヤスリに 変えていく。 11 ⑥ 適宜観察しながらさらに薄くする 専門家からのアドバイス 3D めがねのアイデアがお もしろい。高価な偏光顕微 鏡がなくても教室実践には 有効。しかし、ステージが 回転しないので、正確な鉱 物の同定は難しい。 3D めがねを、片目ずつ切り取る。片目を薄片の下(ステージの下)に、もう片目を薄片の上 に。偏光顕微鏡が買えませんから。市販の偏光板でよい。ここまで 専門家からのアドバイス 専用器具がなくてもここまでできるのは大変興味深い。教室で誰でもできると いうことにとても価値がある。精度があがるように取り組んで欲しい。 玄武岩質スコリアの斑状組織 (左右とも) 少し感激です。 専門家からのアドバイス 斜長石がきれいに出ている優れた作品。結晶の様子 がよくわかる。ヤスリでここまでいくのにはびっく りした。 12 こちら丹沢の石英閃緑岩 同じ手法で。何とか等粒状組織の感じがでてはいるが。 下は、丹沢の石英閃緑岩の市販されているプレパラートの写真。 専門家からのアドバイス 上のステンドグラスのように見 えるのは、まだ削れる証拠。あと 0.02mm ぐらいは薄くする必要 がある。虹色に見えているのはま だ厚い。左写真のように斜長石が 白くなってこないとホンモノで はない。 ■この授業の効果と教材としての価値 ・顕微鏡をのぞいたときの感動! 素直に喜ぶ姿。 ・自分で作ったプレパラートで観察できる。 ・生物関係のプレパラートはこれまで授業でほぼ自作を体験しているが、地学系だけは、経験 がなかった。ここの経験を埋めることができた。 ・何気なく扱っていた石がこんなにきれいなものを含んでいたということへの感動と不思議。 ・石と言っても、県内でも地域によって、顕微鏡レベルではこんなに違うのか、という気づき。 土地のでき方の多様性を学ぶ。 ・結晶鉱物の不思議さと規則性。5 年生時にミョウバンの結晶を作っているが、 同じ原理・法則が火山にも適用して考える事ができる。面白さの実感。 ・休み時間でも理科室へやってきて研磨作業をするあの必死さはいったいどうしてであろうか。 子どもを夢中にさせる教材の持つ力があると思われる。 13 (落ち着きがなく対応に困っていた子も必死になった、そして成功へ) ・丹沢、箱根、城ヶ島と見学地で採取した岩石であることも意義がある。 ■その他 ・軍手、やすりの消費量がいかに押さえてやるか。 ・精度をいかに上げるか 正確に薄くする技術。 ・児童の成功率50パーセントをどうやってあげるか。 ・3D メガネでの鉱物同定の正確性、精度。 ・授業で使う岩石の選定。 ・大人で所要45分~1時間 1日放置 翌日1時間 この方法の原型は、中村理科の教材カタログ。 14