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ニートの増加は日本社会の構造的問題の縮図 - Nomura Research

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ニートの増加は日本社会の構造的問題の縮図 - Nomura Research
07-NRI/p104-105 05.6.13 13:44 ページ 104
NRI
NET
RESEARCH
ニートの増加は日本社会の
構造的問題の縮図
2005
07
人は合わせて93%と、極めて高い比
率となっている(図1)
。
ニート増加の原因としては、「家
庭」と回答した人(55.5%)以上
野村総合研究所(NRI)は2004年10月にインターネットを利
に、「不況などの経済状況」と回答
用し、ニートの増加に関する意識調査を行った(回答者数1000
した人(64.9%)が多く(図2)、
人、属性や詳細データについてはhttp://www.nri.co.jp/news/
家族や友人にニートがいる場合に
2004/041101.htmlを参照)。その結果、単純な就労問題という
どうするかという問いに関しては、
「本人と十分に話し合う」が最も多
よりも、現在の日本社会が抱える多くの課題を内包した複合的
い回答(62.5%)であった(図3)。
問題であることが、生活者の意識からも浮かび上がってきた。
また、ニートの増加が社会に及ぼ
す影響としては、「社会保障制度の
崩壊」をあげる人が71.6%と最も多
増加するニート
「ニート」とは“Not in Education,
いう状況から、「ニートの増加に対
く、経済環境、就労環境、年金問題
してどう取り組むか」という段階に
などとニートとを関連づけて捉える
移っているといえる。
傾向がうかがえる(図4)。
ニートの増加に対する
生活者の認識
さまざまな側面で捉えられる
ニートの増加という社会現象
Employment, or Training”の頭文字
を並べた“NEET”からきており、
「働こうとしないし学校にも通って
いない。仕事につくための専門的な
訓練も受けていない人たち」と定義
されている。
このようなニートと呼ばれる若者
生活者は「ニートの増加」という
の増加を、一般の生活者はどのよう
社会現象をどのような思いで見てい
厚生労働省が2004年9月に公表
に捉えているのだろうか。ニートの
るのだろうか。全体的な傾向は上述
した『労働経済白書』の中では、
増加について、「非常に大きな問題
したとおりだが、より詳細に生活者
「非労働人口のうち、特に無業者と
である」「問題である」と解答した
の思いを見るため、アンケート調査
して、年齢15∼34歳、卒業者、未
婚であって、家事・通学をしていな
図1
い者」という定義で該当する人数を
ニートが過去数年間で増加していることをどう感じるか
全く問題にならない 1.3
あまり問題にならない
N =1,000
算出した結果、「2003年の平均で52
問題である 44.4
非常に大きな問題である 48.2
万人に上り、前年と比べて4万人増
加している」としている。
わからない 2.1
また、内閣府の「青少年の就労に
図2
学校教育
には85万人だったとする集計を公表
家庭
昨年秋以降、ニートに関する記事
やニュースが格段に増え、公的セク
60
80
100
ニートの増加の原因はどこにあるか(複数選択)
てニートに含めて計算し、2002年
している。
40
20
0%
関する研究会」は、「家事手伝い」
も勤労意欲のないケースが多いとし
4.0
38.6
55.5
地域コミュニティ
15.1
政府や自治体の取り組み
36.0
不況などの経済状況
64.9
ターの就労支援などの取り組みも本
格的に始まろうとしている。また、
社会の経済状況
ニートと呼ばれる若者の実態に関す
その他
る研究事例も紹介されるようになっ
わからない
てきており、「ニートとは何?」と
104
59.4
4.8
2.3
0%
N =1,000
20
40
60
知的資産創造/2005年 7月号
当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
Copyright © 2005 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
80
07-NRI/p104-105 05.6.13 13:44 ページ 105
の自由記入欄に寄せられた意見を分
図3
析したところ、以下の3つの問題意
識に集約することができた(図5)。
家族や友人にニートがいた場合にはどのような行動をとるか(複数選択)
30.1
本人の意思に任せる
62.5
本人と十分に話し合う
これらは、生活者が日本社会に対し
て思い抱く危機感に重ね合わせるこ
とができると考えられる。
①希望や生き甲斐の欠如などがニ
自治体に働きかける
ート増加の要因になっていると
同じ悩みを持つ人たちと
情報交換し対策を練る
いう考え
6.1
3.7
29.8
3.4
その他
希望や生き甲斐を見出せないこと
10.1
わからない
がニートの増加につながっていると
する考えが極めて多い。たとえば、
5.0
学校などに働きかける
自治会などの地域コミュ
ニティに働きかける
図4
N =1,000
20
0%
40
60
80
ニートの増加は社会にどんな影響を及ぼすか(複数選択)
「サラリーマンとしての生活スタイ
「働くことの意義を見出せない」「一
社会保障制度の崩壊
所懸命頑張ることが無意味な社会に
経済成長の鈍化
なってきている」などの考えが社会
国際競争力の低下
に広まっていることを問題視してお
知識・技術力の低下
り、ニートの増加を表層的な問題で
57.7
犯罪の増加
ルに希望を見出せない若者が多い」
71.6
59.4
41.0
56.2
社会への影響は少ない
3.3
はなく、社会構造の深い問題として
その他
捉える層がかなり存在していること
わからない
を示唆している。
3.6
図5
N =1,000
20
0%
②家庭内教育や家族のコミュニケ
ーションの問題がニート増加の
2.6
40
60
80
「ニートの増加」という社会現象を通じて生活者が抱く問題意識
要因となっているとする考え
働くこと、生きることの価値観の変質
――意欲を持ち続けることの難しさ
ニートの増加を家庭内にその原因
があると考える人は多く、「子ども
を甘やかす親の責任が重大である」
「無職で収入がなくても生活できる
状況を許している家庭の問題」など
と捉えている人は多い。また、家庭
内での親子のコミュニケーション不
足・欠如などから家族の絆の崩壊や
家庭内教育やコミュニケーションなど
家族のあり方の問題
――家庭を通じ、地域・社会とつながる
ことの難しさ
労働市場など社会構造上の問題
――働くこと、働き続けることの難しさ
地域とのつながりの低下に至ってい
ることを問題視する考えもあり、ニ
ートの増加を家族のあり方や地域コ
つけてニートの増加を捉える考えも
的な問題が浮かび上がってくるとい
ミュニティの見直しに結びつける傾
ある一方で、「若者の労働意欲を受
えるのではないだろうか。そして、
向が浮かび上がっている。
け入れる場の減少」や「若者の労働
社会の抱える構造的問題の1つの発
意欲を育てる場の欠如」などを問題
露としてニートの増加を位置づけ、
視する意見も多い。
社会的対策を検討していくことが極
③労働市場や社会構造上の問題と
してニート増加を捉える考え
めて重要となろう。
「就職環境が厳しく、就職を望んで
も希望が叶わないため、結果として
このように「ニートの増加」とい
ニートという存在になってしまって
う現象を通じて生活者の問題意識を
野村武司(のむらたけし)
いる」という現状の景気動向と結び
見てみると、日本社会の抱える構造
広報部広報課長
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ニートの増加は日本社会の構造的問題の縮図
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