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論文 / 著書情報 Article / Book Information 論題(和文) 地デジ日本方式の南米普及の経験に見る国際規格競争で日本が勝てる 戦略 Title(English) 著者(和文) 寺崎 明 Authors(English) Akira Terasaki 出典(和文) テレコミュニケーション 2012年1月号, , , p. 60-63 Citation(English) , , , p. 60-63 発行日 / Pub. date 2012, 1 Powered by T2R2 (Tokyo Institute Research Repository) インサイト 1 湘馬i c 地デジ日本方式の商米普及の経験に見る 国際規格競争で 日本が勝てる戦略 日本主導の通信規格には、技術面では評価 されても海外に普及 しないもの が多い。地上デ ジタルテレビ規格の南米への導入を進めた寺崎明氏に、日本 が規格競 争で世界 に勝つ秘訣 を尋ねた。 聞 き手◎ 土 谷 宜 弘 ( 本誌 編集長) 1 1 0 月にインド洋のモルディブ共和 国が導入を表明 したことで、日本方 式 の 地 上 デ ジ タル テ レビ 放 送 ) を採用 した国は全部で1 2 ( i S D BT‐ 不況、少子高齢化 などで国内市場 ラジルでは2 0 0 7 年か ら、ベ ル ー とア カ 国になりました。特 に南米 では1 0 の伸 びが 見込 めない 中で、日本企業 ルゼンチ ンでは2 0 1 0 年か ら放送が 始 カ国 に採用 されていて日本方式が圧 の目が改めて海外 に向いている。 まってい る。さらにアフリカやアジア 倒的 に強 い。これを南米 に売 り込ん 通信機器 や端末 も例外 で はない 。 など多 くで 導入 の機運が高 まって い だのが寺崎 さんでした。 だが、この分野 では、国内の規 格 が るとV ヽ う。 寺崎 0 8 年 7 月か ら総務 省 を退任 す 海外 と異 なることが 多 く、規模 のメリ ットがlgJき 難 いことが、日本 メー カー 何 が これ を可能 にしたのか 。総務 省在職 中にI S D B ―T 注1 の南米 へ の普 るまで の2 年 間、国際担 当総務 審議 の海外展開 の足籾‖となってい る。 及 に尽力 、現在 は野 村 総合研 究所 0 6 年に初 めてブラジルで採用 され この 問題 の 本質 は、日本 が技術 開 で顧 問を務 める寺崎明氏 に、規格競 て以 降、なか なか導入が広 が らなか 発 では最先端 を走 りなが らも、自らが 争 に日本が勝 つ ための秘訣 を語 って ったので すが、南米 の他 の 国 で もよ 主 導 す る技術 規格 を世 界 に普 及 さ もらった。 うや く地上 デジタル放送 の 方式 を決 官 として海外普及 を担 当しました。 せ る戦略 を描 き切 れてい なか ったこ とにあ るとい ってよい。 図表 1 南 米で日本方式地上デジタル放送を採用 した国 (10カ 国) こうしたなか 注 目され るのが、日本 の 地 上 デ ジタル 放 送 規 格 で あ る ISDB― Tの 動 きだ。日本以外 に、南米 など計 12カ 国 で採用 されてお り、ブ 注l tiSDBttT(日 本方式) N H K が 中心になって開発 された日本 のデジタル テレビ放送の標準規格。O F D M 技 術 の採用で干 渉 を回避、電波 を有効に活用できる。同一帯域 をハイビジョン放送 、マルチチャンネル放送、携 市電話向け放送 ( ワンセグ) など多様な使 い方が できることも特徴。2 0 0 3 年に放送が開始 された。 _々_十 ‐ J3 注2 : D V B t t T ( 欧州 方 式 ) 欧州の地上デジタル放送の標準規格。i S D B ヽ Tと 同様O F D M 技 術 を採用する。1 9 9 8 年にイギリス で放送が始まった。 日式 ) 注3 : i S D B = T i n t e r n a t t o n a l伯( 方 SDB― T の国際仕オ 革。ブラジル導入に際し同国の 要求条件に合わせてl s D B ― T を拡張 したものを標 準化 した。海外で採用 されている S D B ‐ T はすべ てこの仕様である。日本のi S D B ‐ T と共通する部 分が多いが、動画圧縮にH 2 6 4 / 1 1 / P E4G ‐ AVCを 導入するなどの改良が図られている。 60 ニケーショ コミュ ン」 テレ anuan/2012 南米 以外 で は、フィ リピ ン ( 人 口 8 8 5 7 万 人) が2 0 1 0 年 6 月 に 、モル デ ィフ ( 同 4 0 万 人) が 2 0 1 1 年 1 0 月 に 採 用 を決 め てい る 1 紫 字 は導入決定時期 1 赤 字 は各国人口 めようとい う動 きが本格化 してきた。 そ こで07年 の 夏 に当時 の 菅 (義偉 ) 総務大 臣が アルゼ ンチ ンやチ リを訪 問して日本方式 の導入 を働 き掛 けま した。私 のミッションは、それ を具体 化す ることでした。 ところが 、当時 はライバ ルの 欧州 方式 (DVB‐ T注2)陣 営 も南米 へ の売 らさき・ あきら) 氏 寺 附 明( て 1 9 5 2 年生まれ。7 4 年東京工業大学工学 部卒業、7 6 年東京工業大学大学院修士 総務省) 入 課程修了、同年、郵政省 ( 現・ 省。電気 通信局電波部電波利用企画課 長 、同移動通信課長 、北陸総合通信局 長などを経 て2 0 0 7 年7 月に総合通信基盤 局長 に。0 8 年8 月からは総務審議官とし て2 年間、日本方式地上デジタル放送の 海外普及 を推進 した。現職 は野村縦合 研究所顧間、東京工業大学害員教授 り込みに非常 に力 を入 れて いて、07 年8月にウル グアイが、私 が着任 した 翌月の08年 8月にはコロンビアが欧州 方式 の導入 を決定、日本 は2連 敗 して しまいました。 コロンビアの発表 の際、私 はちよう ど現地 にいたのです が、記者会見 を 見 ていて 驚 きました。選 定委 員 の 1 人が 「なぜ 欧州方式 に決 め たのか」 NHKが 見 せ てくれ た とい う質 問 に 「 サ ービスが 非常 に素晴 らしか ったか ら」と答 えた ので す。お い、それは日 一一 。 本方式 だろうと 技術 の優劣 とは別 の次元 で決 まっ てしまっているのです。それで、決意 しました。南米 を日本方式 で席巻 し、 コロンビアを孤立 させ てやると。 夫 と 直 に構 をす る '実 際 に南米 は日本方式 の独 り勝 ち といえる状況 になりました。勝因は どこにあつたのでしょう。 寺崎 全 部 で4つのポイントを挙 げ ることができると思います。 まず大 きかったのがブラジルとの 協力関係 ができていたことです。 ブラジルには1997年 頃 か らNHK や電波産業会が日本 の地デジを紹介 していて、早 くから伝送品質 の 良さ などで評価 されていました。 こうした下地があったところに、ブ ラジルの担当大臣が日本 に来た際に 竹中平蔵総務大臣 (当時)が 、ブラジ ルが日本方式 を採用す ることになれ 白=ブ ラジル)方 ば、それを「日伯 (イ 式注3」として_緒 に広めていこうと提 一 り込み も、同様 に担 当者 レベ ルで 生 懸 命 や って い たので す が、トップ ヘ のアプ ローチが弱かった。 ところが 海外 で の ビジネス、特 に インフラが絡 むような条件 はトップと 案 したのです。 このメッセージが日本方式導入 の の 直接 交渉 で 大勢 が決 まってしまう 決定打 になりました。実際 にブラジ ルとは、他 回 との導入交渉 からビジ ポルトガル語 国 のブラジルを除くと旧 宗 主 国 のスペ インとの 結 び付 きが強 ネスまで多 くの面 で協力 してこの方 式 の普及 に取 り組 んでいます。 く、欧州勢 はその コネクションをフル 加 えて、欧州 のや り方 を徹底的に 研究 し、我 々の戦略に取 り込んだこ とが功 を奏 したと思います。 ですか 。 れが次のポイント 'そ ことが多 いのです。特 に高米 の場合、 に!舌用 してい ました。 ベ ル ーでの採用が これ らの スペ イ ン語 国 の 国 に日本方式 が広が る突破 口になったのですが、そ の決定前 に はスペ イン国 王 か ら2回 、さらにEU 寺崎 は い 。特 に重要 だつた のが、 決定権 を持 つ 大統 領 や大 臣 に直接 アプ ローチするようにしたことです。 の 首脳 か らも大統領 に電話が入 った 最近 は少 し変 わってきましたが、日 本 の企 業 で は大 きな契約 を結 ぶ 際 手 に、日本流 の積 み上 げ方式 で 聞 っ に、部長 レベ ルで交渉 を積 み上 げ て 9 % ま で 回めてか ら最後 に双方 の 99・ 一 社 長が サインをするとい う形 が 般 的 だ ったと思 い ます。日本 方式 の 売 そ こで、我 々も国際会議 で の2国 と聞 いています。他 の 国 に対 しても 同 じようなことをしてい る。こうした相 ても勝 ち目はありません。 間首脳 会議 などあらゆ る機会 で、首 相 に日本 方式導入 の働 き掛 けをして いただきました。 ン コミュニケーシヨ テレ コanuary2012 6 1 インサイト 私 自身 も外務省 の協力 を得 て、大 統領 や大 臣 と会 える機会 を作 り、そ の 関係 を維持 してきました。2 年で2 5 回も南 米 に出張 したのです。 ビジネスモデルの差を埋める れで欧州勢と 同じ 土俵に立てた 'そ とい うことですね。その上で何 をア ピール したのです か。 寺崎 そ れが、3つ目のポイントです。 日本方式は、少なくとも技術面では 伝送特性や画質、携帯端末向け放送 へ の対応 のしやすさなど、欧州方式 よりも優位に立っていると思 います。 しか し選んでもらうには、さらにプ ラスアル ファの提案が必要です。欧 テレビに置 き換 えるだけですぐに出 せるのです。 すが、生産はどこでやってもかまわな Vヽ 。日本 のメーカーは、国内の工場で ればならず、日本 での調整が大変で 開発から最終製品まで一 貫してやっ てい ることが多 いので、海外 に工 場 を出すのは一大事 になる訳です。 した。逆にこれが出来たことで、その 欧米の企業 は輸出額 を落 としてい 後 の展開は非常に楽になりました。 このメニューを作 る際に思 ったの るがブランドのシェアは維持 していま す。日本 は両方落 としてしまいました。 が、日本 と欧米 のビジネスモ デル が かなり違ってきているということです。 、日本方 1他 の条件が欧州 と却 え1ゴ 式の優位性 がアピールできますね。 日本はこうした用意が ありませんか ら、支援策 の 内容から作 り上 げなけ 放送 システムなどを売 り込みにい くと、 先方から必ずといっていいほど、 現地に工場 を作 って欲 しいと要望 さ れます。これに欧州勢 は、その場で イエスと答える。即答 です。 片や日本 はとい うと、メーカーが持 寺崎 い や、そう簡単 にはい きませ ん。彼 らはメッセー ジの 出し方が非 常 にうまいのです。技術者ではなく、 マスコミや 一 般市民、そして政治家 に受けるコメントを事有 るごとに出し てきました。 州勢は世界市場 での豊富なビジネス の経験 を持っていて、そのための体 ち帰って検討 しても結論が出ない。 今回はブラジルか ら工場 を出す こ ような余計 な技術が入 ってい るので 制 を整 えてい る。この点 で学 がこと とを提案したので問題がなかったの が多か ったと思 います。 ですが、そうでなければ勝敗 は逆転 高 い。貧 困層 は買 えない」という訳 で先 でも、調べ てみると欧州方式 よ 例 えば、彼 らは売 りこみに際して、 していたかもしれません。 技術協力、技術移転、経済支援、産 業育成 などをパ ッケー ジにして出し なぜ欧州勢 が即 容 できるかという と、欧米のメーカーは最初か ら生産 てきます。実 はこれ には、別 の分野 のひ な型があって、それ をデジタル を海外 に委せることを前提 にしてい るのです。設計 だけ は本国でやりま 例 えば 「日本方式 にはワンセグの り日本 の地デジの方が安 い。日本 の 製品 ・ 技術 は高 いというイメージを払 拭するのにエネルギーを使 いました。 最後 は、地デジをアナ ログテレビ で見 るためのSTB(簡 易チューナー) の値段 を取 り上 げて 「 日本方式は100 図表2 寺 崎氏が語る地デジ規格成功の秘訣 ①最終決定権者は、大統領と大臣 ②旧宗主国の国家元首やEU首脳は、直接、電話などで大統領へ方式の働き掛け ③日本も首脳会識 ・ 電話で働き推卜 け(私は2年間で24回南米へ出張) ドル以上。欧州方式は30ドルで買え る」とアピール してきました。日本 のメ ーカーに聞くと、数が期待できないの ①日伯方式として共同で普及活動 ②スペイン語圏では、ペルーの最初の日伯方式採用がポイント で30ドルで作 るのは無理 だとい うc そ こで 国内ベ ンチャー企 業 に 「 30ド (5大 臣 で リマ 宣言 ) ルで なら」とい う回答 をもらい、対抗 相手国との直接交渉も大事だが、相手国にそれなりの具体的な提案が必須であり、 日本国内の調整における腕力が重要 ①技術 (競合方式の弱点を指摘)② 値段(要工夫) ③経済支援(設備協力、融資等)④ 技術移転(人材育成・ 基本標準特許の開示等) ⑤産業支援(工場の設置要求等)⑥ 二国間の連携協力(回研・ 大学との共同研究等) ①政(官邸) ②官(総務省、外務省、在外大使館、財務省、」iCA、 JBiC等) ③民(NHK、民間放送会社、メーカー、電波産業会等) ニケーショ ン」 テレコミュ anuary 2012 1最 後 の4つ 目のポイントは 寺崎 熱 意―― 。政 と官 と民が協 力 して本気 でスタンダードを売 り込 ん だということです。 出典 :寺 崎氏諾浪資料 62 しました。 日本 ではNHKや NTT、 そしてメー カーも素晴 らしい技術 を持 っていて、 図表3 主 要モバイルサイトの月間PV 放 送 システム市 場 へ の 効 果 関連分野 への波 及効果 受信機市場 への効果 7局中2局→5局 に拡大 │ 錨 欧ナ H ー メカ 1 、 : : : と : : : メ カ 日 本 ■ / ︲ % 軒 ー カー」 日 本メ 2009年 │ 」 │ ーカー│ \ ーカー」 米国メ 本メ ミ、日 ` 薄型テレビ販売台数 2007 ( 万台) 1o0 米国 メーカー 2008 276 ーカーlュ 米国メ /二 _ 2009 430 2010 和勺560 2011 許 870 旬 2012 約 990 ( 主要6 割! 市) 円十約‖O f i a 円 約8 1 書 ( シェア6 S % ) 薄型テ レビ販売シェア 義 国 メー カー 3 8 ヮ6 韓 国 メー カー 2 2 々 日本 メー カー 1 4 , t 欧州 メー カー 1 3 , 3 日本 メー カ ー 6 9 ぅ そ の他 2013 約 110o (出 7% (20091124)) 典t 読売t l 聞 一 ( 参考) 今後、南米諸国の放送システムの 市場規模 1 0 年間で約1 兆円 そ の多 くは国際標準化 されています。 しか し実際 に売 り込 むには、それぞ れの国の標準規格 として認 められ な ●A社 は販売倍増 を目標 ●B社 は製 品ライ ンを増強 ●C社 は商 米事業統指拠点 を フラジル に 新設予定 (参考)今 後、南米詰国の受信機の市場規模 10年間て約55ツし円 テレビを一 番売 つているのは韓国 の メーカーなので、日本 の企 業 にはメリ 出典 : 寺崎氏講浪資料 は日本 メーカー にも責任 があるでしょ う。数年前 に技術 者 を大量 にリス ト ラした結果、そ の 人達か ら韓 国 メー けれ ばい けませ ん。これが あまり出 ットがないとい う批判 もありますね。 寺崎 そ れは一 面的な見方 です。イ 来 ていな くて、ビジネス 以前 の段 階 ンフラでは、日本 メーカー の受注が増 前 の収益 だ けで はな く、自前 の技術 で止 まって い るものが 多 い 。国内で えて い ます。日立 国際 は、ブラジルの 送信機 メーカー を買 い取 って市場 に を大切 にして欲 しい と思 います。 ある程 度商売 になったために、あま り熱心 ではなかったのです。 しか し、国内の 市場 が縮小 してき てい るので、メーカーも海外 へ の規格 の売 り込みに本腰 を入れてきました。 参入 しました。 また、シャープが ブラジルに再進 出 カー にノウハ ウが流 れてしまった。目 1 地 上デ ジタル 放送 では欧州方式 が すで に1 0 0 カ 国以上 に採用 され主要 国 を押 さえてい ます。日本方 式 の 普 しましたが、ワンセグ効果 で携帯電話 及 も、限界 なのではありませんか。 が売 りやす くなったと言 っています。 寺崎 そ うではあ りません。1 0 0 カ国 とい っても実際 にサ ー ビスを行 って で、欧州 勢 とも闘 えることが証 明 で テレビにしても、アナ ログ時代 には 1 害J だった日本 メーカー のシェアが 今 きました。日本 の産業 の未来 にとって では2 害J まで上が って い ます。日本 の 欧州 に取 られ たウルグアイは、私 の もかなり重要 なことだと思 います。 規格 が普及 す るメリットは大 きいの 退任後 の2 0 1 0 年1 2 月に日本方式 に切 です。 り換 えました。 今 回、政 と官 と民 が協 力 す ること 規格競争に勝機あ り ルで ても、 ブラジ 本方式が普及し '日 問題 は、韓 国 メーカー の方が数 を 売 っているとい うことで す が、これ に い るの は欧 州 など、まだ 一 部 で す。 むしろこれか ら、アフリカや アジア 等 の 国に広が ってい くと思 います。 ニケーシヨ ン」 テレコミュ anuar72012 63