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LTE-AdvancedのIS
LTE-Advancedの概要
Application Note
LTE-Advanced(LTE-A)は、3GPPが開発を進めているLTEの進化バージョ
ンのプロジェクト名で、IMT-Advancedと呼ばれる第4世代(4G)無線通信規
格に関する国際電気通信連合
(ITU)の要件以上の性能を実現すると期待されて
います。LTE-Advancedは、2011年3月の機能確定を目指して、3GPP仕様の
リリース10の一部として仕様化が進められています。LTE仕様の開発は、今
後の3GPPリリースでも続けられる予定です。
2009年10月には、3GPPのパートナーが、4G IMT-Advancedの候補として、
LTE-AdvancedをITUの 無 線 通 信 部 門(ITU-R)に 正 式 に 提 出 し ま し た[1]。
2011年3月までには、ITUによりIMT-Advancedの仕様が公開されるものと思
われます。次世代ネットワークでのLTEの配備計画を発表する無線通信プロバ
イダの増加に伴い、LTE-Advancedへの関心が高まりつつあります。
このアプリケーション・ノートでは、以下について説明します。
• 4Gに関するITUの要件の概要
• LTE-Advancedに関する3GPPの要件の概要(予定スケジュールを含む)
• LTE-Advancedのソリューションに関する主な提案
• リリース10以降:検討中のテクノロジー
• 予想されるデザインおよびテスト上の問題
このアプリケーション・ノートでは、早期採用メーカ向けにAgilentのLTEAdvancedデザイン/テスト・ソリューションも紹介しています。これらのソ
リューションは、LTE-Advanced仕様の公開に伴って継続的に機能が拡張さ
れます。
このアプリケーション・ノートを最大限に活用するには、LTEテクノロジーの
基本概念を知っておく必要があります。詳細については、Agilentの書籍『LTE
and the Evolution to 4G Wirelss:Design and Measurement Challenges』
(ISBN 978-988-17935-1-5、www.agilent.co.jp/find/ltebook で提供)
およびアプリ
ケーション・ノート『Agilent 3GPP Long Term Evolutionシステムの概要、
製品開発、テスト上の問題』
(カタログ番号5989-8139JAJP、www.agilent.co.jp/
を参照してください。
find/LTE で提供)
リリース10仕様の最終的な適用範囲と内容は未定のため、このアプリケーション・ノートに掲載されている
情報は変更される場合があります。
目次
はじめに ..............................................................................................................1
LTEおよびLTE-Advancedの概要 .........................................................................3
無線規格の進化 ......................................................................................... 3
LTEの主な特長 ............................................................................................4
LTE-Advancedの最新情報 ...........................................................................6
LTE-Advancedに関する3GPPのドキュメント .........................................6
LTE-Advancedのスケジュール ...................................................................7
4G規格に関するITUの要件 ...............................................................................8
LTE-Advancedに関する3GPPの要件 .................................................................9
システム性能要件 .....................................................................................9
スペクトラムの柔軟性 ...........................................................................10
LTE-Advancedなどのリリース10のソリューションに関する提案 .........11
リリース10の新しいUEカテゴリ ..........................................................12
LTE-Advancedの主なテクノロジー ........................................................13
キャリア・アグリゲーション .......................................................13
拡張アップリンク多元接続 ...........................................................15
拡張マルチアンテナ伝送 ...............................................................16
リリース10以降:検討中のテクノロジー..........................................20
協調マルチポイント送受信 ...........................................................20
リレー .................................................................................................21
ヘテロジーニアス・ネットワークのサポート..........................22
LTE自己最適化ネットワーク ..........................................................23
HeNBモビリティ拡張 ......................................................................23
固定無線宅内機器(CPE).................................................................25
デザインおよびテスト上の問題 ..................................................................26
キャリア・アグリゲーション...............................................................26
拡張アップリンク多元接続 ...................................................................29
拡張マルチアンテナ伝送 .......................................................................30
リレー ........................................................................................................31
LTE-Advancedの展開に関する展望 ................................................................32
LTE-Advanced開発者向けのデザイン/テスト・ツール ..........................32
参考資料 ............................................................................................................33
略語
.............................................................................................................34
2
LTEおよびLTE-Advancedの概要
第4世代の無線テクノロジーが長い間待ち望まれてきました。4GおよびLTEAdvancedの進化を理解するには、これまでの進化を簡単に振り返ることが有
用です。
無線規格の進化
無線通信は、デジタル・セルラ・テクノロジーが初めて導入された1990年代
前半のいわゆる第2世代(2G)のシステムから、より高速なデータ通信ネット
ワークを備えた第3世代(3G)システムの配備へと進化し、現在は、待ちに待っ
た第4世代のテクノロジーの開発が進められています。図1は、この進化過程
を図示したものです。以前の世代に比べて、4Gの規格に関する提案が少なく、
現在積極的に開発が進められている4Gの候補が2つしかないことがわかりま
す。3GPP LTE-AdvancedとIEEE 802.16mは、Mobile WiMAXTMとして知
られているWiMAX規格の進化版です。
効率、帯域幅、データ・レートの増加
2G
IS-136
TDMA
GSM
802.11b
IS-95A
cdma
PDC
802.11a
2.5G
GPRS
HSCSD
iMode
IS-95B
cdma
E-GPRS
EDGE
IS-95C
cdma2000
802.11g
802.11n
3G
W-CDMA
FDD
HSDPA/
HSUPA
FDD & TDD
3.5G
3.9G/
4G
W-CDMAE
TDD
HSPA+
4G/IMTAdvanced
TD-SCDMA
LCR-TDD
EDGE
Evolution
LTE
FDD & TDD
Rel-8/9
LTE-Advanced
Rel 10および
それ以降
1xEV-DO
Release
0 A B
802.16e
Mobile
WiMAXTM
WiMAX 2
802.16m
802.16d
Fixed
WiMAX TM
WiBRO
802-11ac
802.11ad
図1. 無線通信の進化(1990年∼ 2010年およびそれ以降)
初期の3Gシステムの内の5つは、ITUが目標にしていた2 Mbpsのピーク・デー
タ・レートを理論上は可能でしたが、実際の配備ですぐに実現することはでき
ませんでした。それでも、それ以後も規格の改良が行われ、当初の3Gの目標
に近いシステムが配備されるようになり、今では当初の目標をはるかに上回る
システムが配備されています。
3
表1に、1999/2000年の最初のリリースから始まる、広帯域CDMAテクノロジー
をベースにした、3GPPの第3世代のユニバーサル・モバイル通信システム
(UMTS)の進化を示します。さまざまなUMTSがリリースされて来ましたが、
通称3.5Gの先駆けとなったリリース5では、高速ダウンリンク・パケット・ア
クセス(HSDPA)が追加されました。その後、高速アップリンク・パケット・
アクセス(HSUPA)として、拡張専用チャネル
(E-DCH)が追加され、3.5Gが
完成しました。HSDPAとHSUPAは現在、総称して高速パケット・アクセス
(HSPA)と呼ばれています。LTEが最初に登場したのは2008年に発表された
リリース8で、現在はリリース10の一部としてLTE-Advancedの策定作業が進
められています。LTE-Advanced無線アクセス・ネットワーク
(RAN)機能は、
2010年12月までに確定される予定で(ASN.1の定義を除く)、リリース10全体
の機能確定は、2011年3月を目指しています。
表1. UMTS仕様の進化
リリース
機能確定
リリースの主な無線機能
Rel-99
2000年3月
UMTS 3.84 Mcps(W-CDMA FDD/TDD)
Rel-4
2001年3月
1.28 Mcps TDD(別名TD-SCDMA)
Rel-5
2002年6月
HSDPA
Rel-6
2005年3月
HSUPA(E-DCH)
Rel-7
2007年12月
HSPA+(64QAMダウンリンク、MIMO、16QAMアップリンク)、
LTE/SAEの実現可能性の調査、EDGE Evolution
Rel-8
2008年12月
LTE作業項目:OFDMAエア・インタフェース、SAE作業項目、
新しいIPコア・ネットワーク、3Gフェムトセル、
デュアル・キャリアHSDPA
Rel-9
2009年12月
マルチスタンダード無線機(MSR)、デュアル・セルHSUPA
LTE-Advancedの実現可能性の調査、SON、LTEフェムトセル
Rel-10
2011年3月
LTE-Advanced(4G)作業項目、CoMP調査、4キャリアHSDPA
LTEの主な特長
Long Term Evolutionプロジェクトは、2004年に開始されました[2]。LTE導
入の動機付けには、1ビット当たりのコスト削減に対する要求、サービス・コ
ストの削減とユーザ体感の向上の実現、新しい周波数バンドと既存の周波数バ
ンドの柔軟な使用、オープン・インタフェースによるネットワークの簡素化/
低コスト化、端末の複雑さの低減による消費電力の削減があります。
このように目標が高く設定されていることから、パケット遅延の低減や、スペ
クトラム効率の向上
(リリース6の高速パケット・アクセス
(HSPA)のダウンリ
ンクで3 ∼ 4倍、アップリンクで2 ∼ 3倍)など、LTEに対する期待が高まりま
した。LTEの主な特長の1つである柔軟なチャネル帯域幅ついては、アップリン
クとダウンリンクで1.4、3、5、10、15、20 MHzと仕様化されています。この
ため、LTEは、GSMなどの狭帯域システムや1.25 MHzベースの米国の一部のシ
ステムなど、他のシステムが現在存在している場所で柔軟に配備できます。
4
LTE関連の最大の特長は速度です。表2に、20 MHzチャネル帯域幅のダウン
リンクとアップリンクのピーク・データ・レートの例を示します。ダウンリン
クの値がシングル入力シングル出力
(SISO)およびマルチ入力マルチ出力
(MIMO)アンテナ構成で、変調次数が固定の64QAMの場合であるのに対して、
アップリンクの値は変調次数の異なるSISO構成の場合です。これらの数値は、
シグナリング・オーバヘッドを考慮した、理想的な無線条件でのLTE周波数分
割デュプレックス
(FDD)無線アクセス・モードの物理的限界を表しています。
特定のUEカテゴリに対しては、より低いレートが仕様化されています。また、
理想的でない無線条件下の性能要件も作成されました。LTEの時分割デュプ
レックス(TDD)無線アクセス・モードの場合の数値も同等で、さまざまなアッ
プリンク/ダウンリンク比でスケーリングされています。
表2. LTEのピーク・データ・レート
ダウンリンクのピーク・データ・レート(64 QAM)
アンテナ構成
ピーク・データ・レート
(Mbps)
SISO
2x2 MIMO
4x4 MIMO
100
172.8
326.4
アップリンクのピーク・データ・レート(シングル・アンテナ)
変調方式
ピーク・データ・レート
(Mbps)
QPSK
16 QAM
64 QAM
50
57.6
86.4
これまでのシステムとは異なり、LTEは、MIMOテクノロジーを使用するよう
に最初から設計され、HSAPなどの従来のシステムにMIMOを追加するよりも、
高度なアンテナ・テクノロジーを活用できます。
最後に、モビリティの面では、LTEは主に、最高の性能が得られる、0 ∼ 15
km/hの範囲のモビリティの低いアプリケーションを対象にしています。しか
し、より速い速度でも使用できます。15 ∼ 120 km/hでは高い性能をサポー
トし、120 ∼ 350 km/hでの動作もサポートしています。350 ∼ 500 km/hで
のサポートは検討中です。
5
LTE-Advancedの最新情報
LTE-Advancedの実現可能性の調査において、3GPPは、LTE-Advancedが
ITU-Rの4Gに関する要件を満たすと結論付けています。調査の結果は、3GPP
テクニカル・レポート
(TR)36.912に掲載されています。さらに、3GPPリリー
ス8 LTEは、アップリンクのスペクトラム効率とピーク・データ・レートを除
く、4Gの要件のほとんどを満たすと結論付けられています。これらのより高
い要件は、以下のLTE-Advancedの機能の追加によって満たされます。
• 帯域幅の拡大。キャリア・アグリゲーションによって実現可能
• 効率の向上。拡張アップリンク多元接続と拡張マルチアンテナ伝送(高度な
MIMO手法)によって実現可能
この他の性能の向上もリリース10以降で検討中ですが、4G要件を満たす上で
不可欠ではありません。
•
•
•
•
•
•
協調マルチポイント送受信(CoMP)
リレー機能
ヘテロジーニアス・ネットワークのサポート
LTE自己最適化ネットワーク(SON)の機能拡張
ホーム・エンハンスド・ノードB(HeNB)モビリティ拡張
固定無線宅内機器(CPE)のRF要件
これらの機能およびこれらの機能がATE-Advancedシステムのデザイン/テ
ストに及ぼす影響については、このアプリケーション・ノートの後半で詳しく
説明します。
LTE-Advancedに関する3GPPのドキュメント
3GPPは、LTE-Advancedの開発に関するドキュメントをすべて発行していま
す。これらのドキュメントは公開されていて、
3GPPのWebサイト(www.3GPP.
org)または以下に示されている各アドレスからダウンロードできます。ここに
示されているバージョンおよび日付は、本書作成時点のものです。
Study Item RP-080599
LTE-Advancedの全体的な目標について概説しています
ftp://ftp.3gpp.org/tsg_ran/TSG_RAN/TSGR_41/Docs/RP-080599.zip
Requirements TR 36.913 v9.0.0(2009-12)
4Gシステムに関するITE要件に基づいて要件を定義しています
ftp://ftp.3gpp.org/Specs/html-info/36913.htm
Study Phase Technical Report TR 36.912 v9.3.0(2010-06)
第1段階の開発作業の概要を示しています
ftp://ftp.3gpp.org/Specs/html-info/36912.htm
Study item final status report RP-100080
ftp://ftp.3gpp.org/tsg_ran/TSG_RAN/TSGR_47/Docs/RP-100080.zip
Physical Layer Aspects TR 36.814 v9.0.0(2010-03)
第2段階の物理層の開発の概要を示しています
ftp://ftp.3gpp.org/Specs/html-info/36814.htm
Study phase Technical Report on E-UTRA UE Radio Transmission and Reception
TR 36.807
CA、拡張マルチアンテナ伝送、CPEに関する調査の概要を示しています
ftp.3gpp.org/Specs/html-info/36807.htm
第3段階の技術仕様が2010年9月からリリース10のドキュメント(36冊)に掲載
され始めています。
6
LTE-Advancedのスケジュール
リリース8 LTEの作業は、テスト開発を含め、2010年に完了する予定です。
Global Certification Forum(GCF)は、2010年の初めに、テスト検証の方
法を発表しました。また、LTE商用ネットワークの立ち上げの第一波が押し
寄せると予想される2010年後半までには、ユーザ機器(UE)の認証方式を発表
す る 予 定 で す[3]。 配 備 は、 今 後 数 年 間 続 く も の と 予 想 さ れ ま す。LTEAdvancedの配備スケジュールは、LTEの市場での成功に左右される可能性
があります。
図2に、IMT-AdvancedとLTE-Advancedの開発スケジュールを示します。
図の一番上には、第4世代の要件の策定を進めているITU-Rのスケジュールが
示されています。第4世代の要件については、次のセクションで詳細に説明し
ています。2008年3月、ITU-Rは、新しい無線機インタフェース・テクノロジー
(RIT)に関する提案募集を公表しました。候補RITの提案の提出期限は2009
年10月です。テクノロジー評価レポートのITUへの提出期限は2010年6月で
し た。2010年10月 に は、ITUの 作 業 班5D
(WP 5D)に よ っ て、IMTAdvancedの 要 件 に 適 合 す る 最 初 の2つ のRITと し て、3GPPのLTEAdvancedとIEEEのWirelssMAN-Advanced(802.16m[4]とも呼ばれる)が
選定されました。WP 5Dでは、無線機インタフェースの仕様提案の策定を
2011年2月までに完了する予定です。
図2の下側に、ITUによる要件の策定と並行した、3GPPのLTE-Advancedへ
の取り組みを示します。3GPPは、図の一番下にリストされているドキュメン
トをとりまとめ、IMT-Advancedの候補テクノロジーとしてLTE-Advanced
を正式にITUに提示しました。
2008年
2009年
2010年
2011年
2012年
2013年
提案
評価
ITU-R
合意
仕様
3GPP
早期配備?
リリース9調査項目 リリース10調査項目
2009年9月ITU-Rに提出
TR36.912v 2.2.0
R1-093731、特性テンプレート
R1-093682、コンプライアンス・テンプレート
R1-093741、リンク・バジェット・テンプレート
図2. IMT-Advanced
(4G)とLTE-Advancedの開発スケジュール
7
IMT-Advanced(4G)に関するITUの要件
第3世代のセルラ無線テクノロジーは、ITU-RによりIMT-2000
(International
Mobile Telecommunications 2000)プロジェクトで定義されました。1997
年に定義されたIMT-2000の要件は、ピーク・ユーザ・データ・レートで表さ
れました。
• 2048 kbps:屋内オフィス
• 384 kbps:屋外から屋内および歩行者
• 144 kbps:乗り物
• 9.6 kbps:衛星
3Gではスペクトラム効率に関する要件が定義されていませんでした。この状
況は、IMT-Adavancedの場合はまったく異なります。
ITUのIMT-Advancedに関する上位レベルの要件を以下に示します[5]。
• 幅広いローカル・サービスやアプリケーションをコスト・パフォーマンス
の高い方法でサポートする柔軟性を維持しながら、高度な共通機能をワー
ルドワイドで実現する
• IMT内と固定ネットワークとのサービスの互換性
• 他の無線方式との相互運用性
• 高品質の移動体サービス
• ワールドワイドでの使用に適したユーザ機器
• 使いやすいアプリケーション、サービス、機器
• ワールドワイドのローミング機能
• ダウンリンクのピーク・データ・レートの向上による、高度な移動体サー
ビスやアプリケーションへの対応(高速移動時で100 Mbps、低速移動時で
1 Gbpsを実現)
ほとんどの部分は、ある程度実効性のある規格では達成可能な要件です。これ
までの規格とは異なり、4G規格を定める主な要件は最後の項目に反映されて
いて、モビリティの低いアプリケーションの場合で1 Gbps、モビリティの高
いアプリケーションの場合で100 Mbpsのピーク・データ・レートの実現を期
待しています。これは、屋内のモビリティの低いアプリケーションの場合で2
Mbps、乗り物の場合で144 kbpsとピーク・レートが仕様化されていた3Gか
ら大幅に向上しています。4Gのピーク・レート目標は、システムのデザイン
に根本的な影響を及ぼす可能性があります。
4G候補として提出したテクノロジー提案が要件を満たしているかどうかを評
価するために、現在まで14の業界団体がITUに登録しています。
上記の一般的な要件に加えて、スペクトラム効率に関する特別な要件がありま
す(表3を参照)。
8
LTE-Advancedに関する3GPPの要件
3GPPによる4Gの候補となる無線機インタフェース・テクノロジーの定義作業
は リ リ ー ス9で 始 ま っ て い て、LTE-Advancedに つ い て は 研 究 段 階 で す。
LTE-Advancedの 要 件 は、3GPPテ ク ニ カ ル・ レ ポ ー ト(TR)36.913
『 Requirements for Further Advancements for E-UTRA( LTEAdvanced)』[6]に定義されています。これらの要件は、ITUの4Gに関する要
件と、進化するLTEに関する3GPPプロバイダ独自の要件をベースにしていま
す。技術面での主な考慮事項を以下に示します。
• LTEの無線テクノロジーとアーキテクチャの継続的な改良
• 従来の無線アクセス・テクノロジーとの相互運用を実現するためのシステ
ムと性能要件
• LTE-AdvancedのLTEとの下位互換性。LTE端末はLTE-Advancedネッ
トワークで、LTE-Advanced端末はLTEネットワークで動作しなければな
りません。例外については、3GPPで検討される予定です。
• 既存の周波数バンドはもちろん、新しいIMTスペクトラムに関する最近の
世界無線通信会議(WRC-07)の決定を考慮して、20 MHz以上のチャネル割
り当てに使用可能なスペクトラムにLTE-Advancedを地理的に対応させる
必要があります。また、要件では、広帯域チャネルが使用できない地域を
認識する必要があります。
3GPPは、LTE-AdvancedをIMT-Advancedと協調させる理由の1つとして、
IMTに適合するシステムがWRC-07によって確認された新しいスペクトラム・
バンドの候補となるということを挙げています[7]。さらに、これまでIMT2000(3G)用として認定されていたスペクトラムはすべてIMT-Advanced
(4G)にも適用可能であると考えて、ITUがIMT-2000スペクトラムを”IMT”
スペクトラムと改名したことには大きな意義があります。3Gスペクトラムや
4Gスペクトラムといったものではなく、IMTスペクトラムの集まりという点
で、これは重大な意味を持ちます。このため、特定のバンドでの特定のテクノ
ロジーの配備が何によって促進されるかは、地域の状況によって異なります。
このようなITUの決定は、業界による地域に合った決定を可能にするだけでな
く、市場細分化の可能性を高める効果もあると言うことができます。初期の
2Gおよび3Gシステムの周波数バンドの選択肢ははるかに単純で、1つか2つの
主要なバンド(GSMの場合900 MHz、W-CDMAの場合2.1 GHz)に業界は関心
を示していました。LTEとLTE-Advancedに対しては同じような集中は見ら
れず、リリース10では、30以上のバンドが最初から定義されています。
システム性能要件
LTE-Advancedのシステム性能要件は、ほとんどの場合、IMT-Advancedの
システム性能要件を上回る予定です。ITU要件の1 Gbpsのピーク・データ・レー
トは、LTE-Advancedでは4x4 MIMOと約70 MHzを超える伝送帯域幅を使用
することによって実現されます[8]。スペクトラム効率の点では、現在のLTE
(リ
リース8)では、4Gのダウンリンク要件を満たしていますが、アップリンク要
件は満たしていません。
表3では、LTE、LTE-Advanced、IMT-Advancedのスペクトラム効率の目
標値を比較しています。LTE-Advancedのピーク・レートが4Gの要件を大幅
に上回っていることがわかります。このため、平均性能の目標値がITUの要件
に近いにも関わらず、4G LTEのピーク性能を高める必要があります。ピーク
目標値は、理想的な状況では達成可能なので、通常は平均目標値よりも実証が
簡単であるということは注目に値します。ただし、TR 36.913では、ピーク・
スペクトラム効率やVoIP容量などの他の機能の目標値よりも、平均スペクト
ラム効率やセル端ユーザのスループット効率の目標値を優先する必要があると
しています5。このため、LTE-Advancedでは、平均性能とセル端性能を高め
ることに重点を置く必要があります。
9
表3. LTE、Advanced-LTE、IMT-Advancedの性能目標
項目
ピーク・
スペクトラム
効率(b/s/Hz)
LTEAdvanced
(4G)の
IMTAdvanced
(4G)の
目標値[10]
目標値[11]
サブ
カテゴリ
LTE(3.9G)
の目標値[9]
ダウンリンク
16.3
30
(4x4 MIMO) (最大8x8 MIMO)
4.32
15
(64 QAM SISO) (最大4x4 MIMO)
1.69
2.4
1.87
2.6
2.67
3.7
アップリンク
ダウンリンクのセル・
スペクトラム効率
(b/s/Hz)、
3 km/h、500 m ISD
ダウンリンクの
セル端ユーザ・
スペクトラム効率
(b/s/Hz)、
5パーセンタイル、
10人のユーザ、
2x2 MIMO
4.2 MIMO
4x4 MIMO
2x2 MIMO
4x2 MIMO
0.05
0.06
0.07
0.09
4x4 MIMO
0.08
0.12
15
(4x4 MIMO)
6.75
(2x4 MIMO)
2.6
0.075
500 m ISD
* 注記:ISD=サイト間距離
スペクトラムの柔軟性
LTEリリース8用として現在定義されているバンドに加えて、TR 36.913では
以下の新しいバンドを決定しています。
• 450 ∼ 470 MHzバンド
• 698 ∼ 862 MHzバンド
• 790 ∼ 862 MHzバンド
• 2.3 ∼ 2.4 GHzバンド
• 3.4 ∼ 4.2 GHzバンド
• 4.4 ∼ 4.99 GHzバンド
これらのバンドの一部は、現在では3GPPリリース9およびリリース10の仕様
に正式に盛り込まれています。周波数バンドはリリースとは無関係の機能と考
えられているので、初期リリース製品をその後のリリースで定義されるバンド
に配備することが可能です。
LTE-Advancedは、性能の向上とデータ・レート目標を実現するために、異
なる大きさのスペクトラム割り当て
(リリース8では20 MHzより広いスペクト
ラム割り当て)で動作するように設計されています。20 MHz以上の帯域幅を
隣接スペクトラムに配備する必要がありますが、スペクトラムの可用性は制限
されているので、より広い帯域幅要件を満たすためには異なるバンドの集約が
必要です。これについては、IMT-Advanced仕様で考慮されています。
10
LTE-Advancedおよびその他のリリース10ソリューションに関する提案
LTE-Advancedの無線機インタフェースの性能目標を達成するためのソ
リューションに関する提案は、3GPP TR 36.814『Further Advancements
for E-UTRA Physical Layer Aspects』に定義されています[12]。無線、ネッ
トワーク、システム性能など、LTE-Advanced全体に関する提案は、第1回
IMT-Advanced評価ワークショップに対する3GPPの包括的な提案にまとめて
示されています[13]。このアプリケーション・ノートの残りの部分では、LTEAdavancedおよびその他のリリース10機能の1つである無線機インタフェー
スに焦点を当てます。
LTE-Advanced無線機インタフェース・ソリューションに関する現在の提案
を以下に示します。
LTE-Advancedの主なテクノロジー
• キャリア・アグリゲーション
• 拡張アップリンク多元接続
• 拡張マルチアンテナ伝送
リリース10では、この他にも、LTE-Advancedを補完するものであっても、
ITUの要件を満たすために不可欠であるとは見なされていない作業が進められ
ています。
リリース10以降:検討中のテクノロジー
• 協調マルチポイント送受信(CoMP)
• リレー機能
• ヘテロジーニアス・ネットワークのサポート
• LTE自己最適化ネットワーク(SON)
• HNB/HeNBモビリティ拡張
• CPEのRF要件
これらの各カテゴリを物理層の観点から検討するとともに、関連するデザイン
およびテスト上の問題点をいくつか検討します。
36.101でのリリース10のUEの無線仕様の詳細の作成に先立って、テクニカル・
レポート
(TR)36.807[14]のドラフトの作成作業が進められています。このレ
ポートには、以下の機能が盛り込まれる予定です。
• キャリア・アグリゲーション(CA)
• 拡張ダウンリンク・マルチアンテナ(DLMA)伝送
• アップリンク・マルチアンテナ(ULMA)伝送
• 固定無線CPEのRF要件
ほとんどのテクニカル・レポートと同様に、このドキュメントには、要件が策
定された背景に関する有益な情報が含まれています。
11
リリース10の新しいUEカテゴリ
表4に、リリース8およびリリース9の既存のUEカテゴリ1 ∼ 5を示します。
LTE-Advancedの機能に対応させるために、3つの新しいUEカテゴリ6 ∼ 8が
定義されました[15]。
表4. リリース10のUEカテゴリ
ダウンリンク
最大
データ・
最大
最大
全ソフ
レート
DL-SCH DL-SCH ト・チャ
UE
(DL/UL) TBビット ビット数
ネル・ 最大空間
カテゴリ (Mbps) 数/TTI
/TB/TTI ビット数 レイヤ数
カテゴリ1
カテゴリ7
10/5
50/25
100/50
150/50
300/75
300/50
300/150
10296
51024
102048
150752
299552
[299552]
[299552]
10296
51024
75376
75376
149776
[未定]
[未定]
250368
1237248
1237248
1827072
3667200
[3667200]
[未定]
1
2
2
2
4
*
*
カテゴリ8
1200/600
[1200000]
[未定]
[未定]
*
カテゴリ2
カテゴリ3
カテゴリ4
カテゴリ5
カテゴリ6
アップリンク
最大
最大UL-SCH
TBビット数/
TTI
UL-SCH
ビット数
64QAMの
/TB/TTI
サポート
5160
25456
51024
51024
75376
[未定]
[未定]
×
5160
25456
51024
51024
75376
[51024]
[150752/102048
(RAN4まで)]
[600000]
[未定]
×
×
×
○
×
○/×
(RAN4まで)
○
* 表5および6を参照
カテゴリ8はIMT-Advancedの要件を大幅に上回っています。
さまざまなレイヤとキャリア・アグリゲーションの組み合わせが可能であれば、
多くの構成を使用して表4のデータ・レートに対応することができます。表5
と6に、性能要件が策定される可能性が最も高いケースを定義しています。
表5. ダウンリンク構成
表6. アップリンク構成
DL層
DL CA機能
CC数/BW(MHz) 最大レイヤ数
UEカテゴリ
[暫定]
[暫定]
カテゴリ6
カテゴリ7
カテゴリ8
1/20 MHz
4
2/10+10 MHz
4
2/20+20 MHz
2
2/10+20 MHz
4(10 MHz)
2(20 MHz)
1/20 MHz
4
2/10+10 MHz
4
2/20+20 MHz
2
2/10+20 MHz
4(10 MHz)
2(20 MHz)
[2/20+20 MHz]
[8]
UEカテゴリ
カテゴリ6
カテゴリ7
カテゴリ8
12
UL層
UL CA機能
CC数/BW(MHz) 最大レイヤ数
[暫定]
[暫定]
1/20 MHz
1
2/10+10 MHz
1
1/10 MHz
2
2/20+20 MHz
1
1/20 MHz
2
2/10+20 MHz
2(10 MHz)
1(20 MHz)
[2/20+20 MHz]
[4]
LTE-Advancedの主なテクノロジー
キャリア・アグリゲーション
4Gの1 Gbpsのダウンリンク・ピーク・データ・レートの目標を達成するには、
LTEリリース8で現在仕様化されているチャネル帯域幅より広いチャネル帯域
幅が必要です。現在のところ、LTEでサポートされているチャネル帯域幅は最
大20 MHzです。このため、現在のLTEの目標を大幅に上回るスペクトラム効
率の向上は見込めません。したがって、データ・レートを著しく高めるための
唯一の方法は、チャネル帯域幅を広げることです。IMT-Advancedでは上限
を100 MHzに設定し、最低でも40 MHzを期待しています。
大部分のスペクトラムが占有されていることや、ほとんどのプロバイダが100
MHzの隣接スペクトラムを使用できないことから、ITUでは、隣接/非隣接の
コンポーネント・キャリアを集約して帯域幅を拡大することを許可しました。
これにより、複数のトランシーバに対応するUEの1つのバンドのスペクトラム
を別のバンドのスペクトラムに加算することができます。図3に隣接集約の例
を示します。ここでは、2つの20 MHzチャネルが並行して存在しています。
この場合、集約帯域幅は40 MHzの最小要件を満たしているので、1台のトラ
ンシーバで対応できます。ただし、この例のチャネルが非連続の場合(すなわち、
隣接していなかったり、別の周波数バンドにある場合)は、UEに複数のトラン
シーバが必要になります。
図3. アップリンクの2つのコンポーネント・キャリアの隣接集約
ここでの説明に関連して用いられているコンポーネント・キャリアとは、リリー
ス8/9のLTEに定義されている帯域幅のことです。ITUの4Gに関する要件を満
たすために、LTE-Advancedでは、帯域内隣接集約、帯域内非隣接集約、帯
域間非隣接集約の3つのコンポーネント・キャリア・アグリゲーション・シナ
リオをサポートする予定です。連続的に集約されたコンポーネント・キャリア
の中心周波数間の間隔は、300 kHzの倍数となり、リリース8/9の100 kHzの
周波数ラスタと一致すると同時に、サブキャリアの直交性(15 kHzの間隔)を
保持します。アグリゲーション・シナリオに応じて、n×300 kHzの間隔は、
隣接するコンポーネント・キャリア間に少数の未使用サブキャリアを挿入する
ことにより簡単に確保できます。隣接集約では、コンポーネント・キャリア間
にギャップを多用することができますが、少し広いコンポーネント・キャリア
を新たに定義する必要があります。
送受信キャリア・アグリゲーション機能を備えたLTE-Advanced UEは、複数
のコンポーネント・キャリア上で同時に送受信できるようになります。ただし、
リリース8/9のUEは、単一のコンポーネント・キャリアでしか送受信できま
せん。コンポーネント・キャリアは、LTEリリース8/9と互換性がなければな
りません。
13
リリース10では、簡素さおよび下位互換性の点から、現在の100個を超えるリ
ソース・ブロックが仕様化される見込みはありませんが、単一のコンポーネン
ト・キャリアの最大サイズは110個のリソース・ブロックに制限されます。最
大5個のコンポーネント・キャリアを集約できます。コンポーネント・キャリ
アの数がダウンリンクよりアップリンクの方が多いLTE-Advanced UEを構成
することはできません。代表的なTDDの配置では、アップリンクとダウンリ
ンクのコンポーネント・キャリア数
(帯域幅)は同じでなければなりません。
物理層(PHY)-媒体アクセス制御(MAC)層インタフェースでのマッピングで
は、スケジュールされたコンポーネント・キャリアごとにトランスポート・ブ
ロック(空間多重化を行わない場合)とハイブリッドARQエンティティが1個ず
つ存在します。
(ハイブリッドARQは再送信制御方式です)。各トランスポート・
ブロックは、1つのコンポーネント・キャリアだけにマッピングされます。複
数のコンポーネント・キャリアで同時に1台のUEのスケジューリングを行うこ
とも可能です。複数のキャリアでの制御シグナリングの詳細な処理方法はまだ
策定中です。
集約手法は4Gの新しい機能ではなく、HSPAや1xEV-DOリリースBでも用い
られていますが、複数のバンドで集約を100 MHzまで拡大させるという4Gに
関する提案は、UEのコストと複雑さを増大させることになるため、さまざま
な技術上の問題が生じます。さらに、プロバイダは、集約するバンドを決定す
るという問題に対処する必要があり、合意に達し、メーカ団体を動かすように
なるまでにはかなり時間がかかる可能性があります。3GPPでは、スプリアス・
エミッション、最大パワーなど、1台の機器で異なる無線周波数を使用するこ
とに伴う要件を確認するために、調査のための12種類の有望な配備シナリオを
最初に決定しました。しかし、シナリオの数が多く、時間も限られていたこと
から、リリース10のLTE-Advancedの調査は当初、2つのシナリオ
(帯域内
TDDの例と帯域間FDDの例)に限定されていました。2010年6月には、バンド
3と7に関する3番目のシナリオが追加されました(表7を参照)。現在GSMに割
り当てられている十分に利用されていない1800 MHz帯の再割り当てが大きく
見込まれている欧州には、このシナリオは重要な組み合わせです。
表7. 3GPPの調査のためのリリース10のキャリア・アグリゲーション(CA)に関するシナリオ[16]
アップリンク(UL)バンド
ダウンリンク(DL)バンド
UE送信/BS受信
UE受信/BS送信
チャネル
チャネル デュプ
運用
帯域幅
帯域幅 レック
F
(MHz)– FUL_high(MHz)
F
(MHz)– FDL_high
(MHz)
バンド バンド UL_low
(MHz) DL_low
(MHz) ス方式
E-UTRA
CA_40
CA_1-5
CA_3-7
40
1
5
3
7
2300
1920
824
1710
2500
–
–
–
–
–
2400
1980
849
1788
2570
[未定]
[未定]
[未定]
20
20
2300
2110
869
1805
2620
–
–
–
–
–
2400
2170
894
1880
2690
[未定]
[未定]
[未定]
20
20
TDD
FDD
FDD
CAの物理層の定義は80 %完了していると見られています。CAの概念は単純
で す が、 シ グ ナ リ ン グ に 対 応 す る た め の 物 理 層 の 変 更 内 容 は 複 雑 で、
PCFICH、PHICH、PDCCH、PUCCH、ULパワー制御、PUSCHリソース割
り当て、PUSCHのUCIの変更が伴います。無線性能に関しては30 %しか完了
していません。これは重大なことで、表7からわかるように、CAの適用範囲の
記述が開始されたばかりです。プロバイダが求めている組み合わせの数につい
ては、TR 36.807の付録Aを参照してください。仕様に盛り込む組み合わせを
すべて、必要なガードバンド、スプリアス・エミッション、パワー・バックオ
フなどの側面から評価する必要があります。
14
CAによって新たにもたらされる無線仕様の問題点の1つは、可変TX/RX周波
数分離の概念です。この属性は特に、基準感度とレシーバ・ブロッキングの仕
様に影響を与えます。リリース8とリリース9では、19個の既定の各FDDバン
ドのTX/RX分離は固定です。CAの導入により、アップリンクとダウンリンク
の割り当てが一般に非対称になるため、これが変更されます。3つのシナリオ
(アップリンクとダウンリンクで異なる数のCC、アップリンクとダウンリンク
で異なる帯域幅のCC、さまざまな帯域幅/数のCCの組み合わせ)によって、
非対称性が異なります。テスト・シナリオの数を最小限に抑えるために可能な
割り当てを制限する方法については、今もなお検討中です。
拡張アップリンク多元接続
今日のLTEのアップリンクはSC-FDMAをベースにしています。SC-FDMAは、
OFDMの柔軟な側面の多くと、シングル・キャリア・システムの低いピーク対
アベレージ・パワー比
(PAPR)を兼ね備えた、高度なテクノロジーです。しかし、
SC-FDMAでは、連続するスペクトラムのブロック全体に搬送波を割り当てる
必要があるので、純粋なOFDMの特長であるスケジューリングの柔軟性が多少
低下します。
LTE-Advancedは、クラスタ化SC-FDMA(離散フーリエ変換拡散OFDM
(DFT-S-OFDM)とも呼ばれる)の採用により、アップリンクの多元接続方式を
向上させます。この方式は、SC-FDMAと似ていますが、非連続的な
(クラス
タ化された)サブキャリアのグループを1台のUEによる伝送に割り当てること
ができるという利点があるので、アップリンクの周波数選択スケジューリング
に対応でき、リンク性能も向上します。PAPRの大幅な増加を防ぐために、ク
ラスタ化SC-FDMAが純粋なOFDMよりも優先的に選択されました。この方式
の採用により、LTEとの下位互換性を維持しながら、アップリンクのスペクト
ラム効率を高めるための要件を満たすことができます。
図4に、拡張アップリンク多元接続(クラスタ化したSC-FDMA)プロセスのブ
ロック図を示します。スケジューリングされたコンポーネント・キャリアごと
に、トランスポート・ブロックとハイブリッドARQエンティティがそれぞれ1
個だけ存在しています。前のセクションで説明したように、各トランスポート・
ブロックは1つのコンポーネント・キャリアにマッピングされます。また、キャ
リア・アグリゲーションを使用することにより、複数のコンポーネント・キャ
リアで同時に1台のUEのスケジューリングを行うことも可能です。
0
0
0
0
0
0
0
0
0
MAC
PDU
コード化
DFT
変調
IFFT
マッピ
ング
0
0
0
0
0
0
0
図4. 拡張アップリンク多元接続のブロック図
15
CP挿入
図5に、リリース8およびリリース10のさまざまなアップリンク構成の例を示
します。重要なポイントは、リリース8の構成がすべてシングル・キャリアで
あり、PAPRがQPSK/16QAM変調方式より大きくなることがないのに対して、
リリース10では、複数の搬送波を伝送できるので、PAPRがリリース8の場合
より大きくなることです。ここでマルチ・キャリアはクラスタ化SC-FDMAの
構成要素であり、1つのコンポーネント・キャリア内にPUCCHとPUSCHが同
時に存在していることに注意してください。CAの複数のコンポーネント・キャ
リアと混同しないでください。
リリース8:PUSCHとPUCCHが
交互に存在するSC-FDMA
(本質的
にシングル・キャリア)
提案中のリリース10:PUSCHとPUCCHが
同時に存在するクラスタ化SC-FDMA
(潜在的にマルチキャリア)
部分的に割り当てられた
PUSCH
部分的に割り当てられた
PUSCH
部分的に割り当てられた
PUSCH+PUCCH
部分的に割り当てられた
PUSCH+PUCCH
下側PUCCH
部分的に割り当てられた
PUSCH+2つのPUCCH
上側PUCCH
部分的に割り当てられた
PUSCHのみ
フルに割り当てられた
フルに割り当てられた
PUSCH
PUSCH+PUCCH
図5. リリース8のアップリンク構成とリリース10のアップリンク構成提案の比較
最初の仕様では、SC-FDMAのクラスタ数が2つに制限される可能性があり、
明確なピークが複数見られる周波数選択チャネルを経由して伝送すれば、シン
グル・クラスタのスペクトラム効率が向上します。
拡張マルチアンテナ伝送
図6に、リリース8 LTEのアンテナのポート数と空間多重化のレイヤ数に関す
る制限を示します。ダウンリンクは最大4つの伝送空間レイヤを(4x4、UEレ
シーバ4台と仮定)、アップリンクはUE 1台当たり最大1つの伝送空間レイヤを
(1x2、eNBダイバーシティ・レシーバ1台と仮定)それぞれサポートしています。
リリース8では、マルチユーザ空間多重化
(MU-MIMO)はサポートされていま
すが、ベースラインのUEを簡素化するために、マルチアンテナ伝送はサポー
トされていません。MU-MIMOの場合は、2台のUEが同じ周波数で同時に送信
を行うために、eNBはUEを空間特性に基づいて区別する必要があります。こ
のマルチユーザ空間多重化方式では、アップリンクの容量が増加しますが、シ
ングル・ユーザ・ピーク・データ・レートは向上しません。
最大4個のレイヤ/アンテナ
最大1個のレイヤ/アンテナ
図6. リリース8 LTEのアンテナ・ポートと空間レイヤの最大数
16
シングル・ユーザ・ピーク・データ・レートを高め、ITU-Rのスペクトラム効
率要件を満たすために、LTE-Advancedでは、ダウンリンクで最大8レイヤと
仕様化されているので、UEに8台のレシーバがあれば、ダウンリンクで8x8の
空間多重化を実現できます。UEでは最大4台のトランスミッタのサポートが仕
様化される予定で、4台のeNBレシーバと組み合わせれば、アップリンクで最
大4x4の伝送が可能です。図7を参照してください。
最大8個のレイヤ/アンテナ
最大4個のレイヤ/アンテナ
図7. LTE-Advancedのアンテナ・ポートと空間レイヤの最大数
ダウンリンクの機能拡張の定義作業は、80 %近く完了しています。最大8本の
アンテナをサポートするように、UE固有の復調基準信号(DMRS)のパターン
が変更される予定です。CSIコードブック・デザインのUEからのフィードバッ
クについては、チャネル状態情報基準信号
(CSI-RS)とそれに関連する変更が
行われます。ダウンリンク制御シグナリングについても、同様の変更が行われ
る予定です。
ランク1 ∼ 4のDMRSの仕様を図8に示します。ランク5 ∼ 8のDMRSのサポー
トは、リリース10では定義されていませんが、今後のリリースで除外される
とは限りません。リリース10では、純粋な8レイヤ空間多重化方式ではなく、
4本のアンテナによるビームステアリングによって強化された2レイヤ空間多
重化に重点を置いていますが、この方式ではピーク・レートは向上しますが、
UEに受信アンテナが8本必要です。
ダウンリンクのその他すべてのサブフレーム
R7 R7
R7 R7
R7 R7
R7 R7
l =6 l =0
偶数のスロット
l =6
奇数のスロット
アンテナ・ポート7
R 8 R8
R 8 R8
R7 R7
R7 R7
l =0
R 8 R8
R10 R10
R10 R10
R9 R9
R9 R9
R10 R10
R10 R10
R9 R9
R9 R9
R10 R10
R10 R10
R 8 R8
l =6 l =0
偶数のスロット
R9 R9
R 8 R8
R8 R8
l =0
R9 R9
l =6
l =0
奇数のスロット
l =6 l =0
偶数のスロット
アンテナ・ポート8
l =6
奇数のスロット
アンテナ・ポート9
図8. UE固有の基準信号のマッピング。アンテナ・ポート7、8、9、10(ノーマル巡回プリフィックス)[17]
17
l =0
l =6 l =0
偶数のスロット
l =6
奇数のスロット
アンテナ・ポート10
CSI-RSがダウンリンクに導入されているので、RSにUE固有の重み付けをし
て、CSIのフィードバックに基づいてUEのチャネル測定を行うことができま
す。このように、UE固有のRSの動作はプリコード・データ
(PDSCH)の動作(す
でにUEごとに最適化済み)をトラッキングします。この他にも、CSI-RSのデ
ザインは、
より大きな再利用係数を使用できるという点で従来のCRSより優れ、
セル間干渉キャンセル(ICIC)の導入がより現実的になっています。図9に、
2/4/8アンテナ・ポートに対するCSI-RSのマッピング提案を示します。
R15 R15
R16 R16
R18 R18
R17 R17
l =6 l =0
l =0
l =6
l =6 l =0
l =0
R19 R19
l =6
l =0
l =6 l =0
l =6
l =6 l =0
偶数のスロット
l =6
R 20 R 20
R 21 R 21
l =0
l =6 l =0
l =0
l =6
奇数のスロット
l =0
l =6 l =0
偶数のスロット
l =6
奇数のスロット
l =0
l =6 l =0
偶数のスロット
R 22 R 22
l =6
l =0
奇数のスロット
l =6 l =0
偶数のスロット
l =6
奇数のスロット
図9. CSI基準信号のマッピング(CSI構成0、ノーマル巡回プリフィックス)[18]
図10に、シングル入力のUEのアンテナに見られるような、EPAチャネル経由
で伝送される10 MHz FDD信号に対するリソース・ブロック(RB)の割り当て
を示します。この特殊なシグナリング構成は、Agilent SystemVueとその
LTE-Advancedリリース10ライブラリの「ベータ」版を使用して作成されま
した。
図10. LTE-Advancedにおけるリソース・ブロックの割り当て例
図10に示されている割り当ては、10 MHzのFDDダウンリンク信号の最初の2
つのサブフレーム内の中央の12個のRBから抽出されています。ノーマル巡回
プリフィックスが採用されています。各サブフレームの最初の2個のシンボル
は、PDCCH用に確保されています。リリース8ではチャネルの中央がPDSCH
に使用されてきましたが、リリース10では外側のRBがPDSCHに使用されま
す。割り当てには、セル固有のRSとリリース10のDMRSが含まれています。
18
8Txの場合については、新しいコードブックの原則について合意しましたが、
2Txと4Txの場合については、リリース8のコードブックで十分であるとして
再利用される予定です。ただし、MU-MIMOとSU-MIMOの両方のCQI/PMI/
RIの確度を向上させるために、いくつかの提案が検討されています。
• 不定期PUSCH CQIモード3-2(サブバンドのCQI+サブバンドのPMI)
• リリース8の定期PUCCH CQIモード2-1の拡張(サブバンドのPMI)
• MUのCQIの向上
• CQIに関する干渉測定機能の向上
• UEのMU-MIMOとSU-MIMOの両方のPMI目標値の導出手順
定 期PUCCHモ ー ド
(1-1お よ び2-1)の 拡 張 に 加 え て、 リ リ ー ス8の 不 定 期
PUSCH CQIフィードバック・モードの一部(1-2、2-2、3-1)の拡張が提案さ
れています。
以下を含む、ダウンリンク制御シグナリングのさまざまな変更について合意し
ています。
• MU-MIMO動作用の2個の直交DMRSポートと2個のスクランブル・シーケ
ンスのサポート
• 1個のRBが複数のUEにスケジューリングされるMU-MIMOの場合の追加シ
グナリングなし
• SU-MIMOとMU-MIMOの間の新しい8Tx SU-MIMOモードの動的切り替え
のサポートの追加
アップリンクのマルチアンテナ伝送の定義についても、同様の作業が進められ
ています。リリース8とリリース9ではシングル・アンテナ・アップリンク伝
送しか定義されていなかったため、リリース10の作業はマルチ・アンテナ・
ダウンリンク伝送の場合と同様の機能拡張ではありません。マルチ・アンテナ・
ダウンリンク伝送は、リリース8では4本のアンテナに対して定義されていた
ため、リリース10では8本のアンテナに拡張されます。重要な課題は、2つ以
上のPUSCH間のアップリンク制御情報
(UCI)の多重化の方法です。これはま
た、キャリア・アグリゲーションでも問題となります。HARQ、RI、CQI、
PMI用のリソースのサイズについては、基本的な合意に達しています。アップ
リンクSU-MIMOのダウンリンクでのPHICHのマッピングと、アップリンク
DMRSの巡回シフト/直交カバー・コード(OCC)の定義については、合意に
達しています。さらに音声基準シンボル(SRS)の機能拡張が提案されました。
UEとeNBの無線性能に関してはまだ議論の初期段階で、2011年6月までに作
業が完了する見込みはありませんが、マルチ・アンテナ伝送の物理層の定義は
かなり進んでいます。
19
リリース10以降:検討中のテクノロジー
協調マルチポイント送受信
協調マルチポイント(CoMP)は、MIMOの進化バージョンで、高負荷/低負荷
シナリオで高いデータ・レート、セル端スループット、システム・スループッ
トを実現するための性能向上の手段として、研究が進められています。
図11では、従来のMIMOダウンリンク空間多重化と協調マルチポイントを比
較しています。この2つの方式の最も明確な違いは、協調マルチポイントでは、
トランスミッタを物理的に同じ位置に配置する必要はなく、何らかのタイプの
高速データ接続によってリンクすることにより、ペイロード・データを共有で
きることです。
従来のMIMO:同じ位置での送信
協調マルチポイント
Tx0
Rx0
Tx0
Rx0
Tx1
Rx1
Tx1
Rx1
eNB
UE
eNB 2
UE
図11. 従来のダウンリンクMIMOと協調マルチポイントの比較
ダウンリンクに協調マルチポイントを採用することにより、2箇所以上の物理
的に離れている場所からの協調スケジューリング/ビームフォーミングを実
現できます。これらの機能では、移動機に送信するのに必要なデータがサービ
ング・セルの1つだけに存在していなければならないため、CoMPの潜在能力
を最大限に活用できません。ただし、コヒーレント結合(協調MIMOまたはネッ
トワークMIMOとも呼ばれる)を使用した場合は、より高度な伝送が可能です。
CoMP MIMO手法では、すべての送信エンティティ間でシンボル・レベルの
データを高速に通信する必要があります
(図11の右側のeNB1とeNB2の間の
ラインを参照)。ベースバンド・データの共有には、LTE X2インタフェース(基
地局間のメッシュ・ベースのインタフェース)による物理リンクが使用される
ものと思われます。
CoMPで使用されるコヒーレント結合は、同じ信号が異なるセルから送信され
るCDMAシステムでよく知られているソフト結合またはソフト・ハンドオー
バと多少似ています。ただし、コヒーレント結合を用いた場合は、基地局から
送信されるデータ・ストリームは同じではありません。これらの異なるデータ・
ストリームは、UEが異なるデータ・ストリームをデコードできる可能性を最
大化するように処理されます。アップリンクでは、基地局間協調の採用はそれ
ほど進んでいませんが、これは単に、2台以上のUEが異なる場所から送信し
ている場合に、UE間でデータを共有してプリコード化するための現実的な仕
組みがないからです。このため、アップリンクでは、より単純な協調スケジュー
リング手法を使用するしかありません。その反面、eNBのレシーバで復調前
に受信データを共有できる可能性が高いので、より高度な復調が可能です。欠
点は、10 MHzの信号の場合で、関係するeNB間のバックホールで5 Gbpsの
短い接続遅延が生じる可能性があることです。
20
協調マルチポイントのシミュレーションから、システムに十分に負荷がかけら
れていない場合には、CoMPプロセスで高い性能利得を実現できることがわか
ります。しかし、システムにかかる負荷が増加するにつれて、こうした利得は
低下して行きます。3GPPの最近のシミュレーション・データからは、初期の
性能向上が5 %∼ 15 %の範囲であったことがわかります。仕様の最終決定ス
ケジュールから、協調マルチポイントをリリース10で提案し続けるにはこれ
では不十分であると見なされました。また、EASY-Cテストベッドでの最近の
検証結果からは、干渉が最小限もしくは干渉がない負荷の軽いネットワークで
は、性能利得に限界がありました[19]。協調マルチポイントは、3GPPリリース
11に向けてさらに検討が続けられる予定です。システム・レベルの性能利得
が大きく、エミュレートするのが困難なので、CoMPのeNBテストに何が必要
かははっきりしないままです。
リレー
困難な状況においてカバレージを向上させるもう1つの方法は、リレー方式を採
用することです。リレーは主に、
都市部/屋内のスループットの向上、
デッドゾー
ン・カバレージの追加、農村部におけるカバレージの拡大に使用されます。
リレー方式の概念は新しいものではありませんが、高度化が進んでいます。図
12に代表的なシナリオを示します。リレー・ノード(RN)は、ドナー・セル経
由で無線アクセス・ネットワークに無線接続されます。リリース10に関する
提案では、RNは以下のいずれかの方法でドナー・セルのeNB(DeNB)に接続
されます。
• 帯域内(チャネル内)。DeNB-RNリンクがRN-UEリンクと同じ搬送波周波
数を共有します。
• 帯域外。DeNB-RNリンクがRN-UEリンクと異なる搬送波周波数で動作し
ます。
最も基本的な従来のリレー手法は無線リピータを使用するもので、ダウンリン
ク/アップリンクの信号を受信し、増幅してから転送することにより、カバレー
ジが狭い領域に対応します。この図では、セル端またはカバレージの狭い他の
領域に、リピータを配置できます。無線リピータは、RFレベルでだけ動作す
る比較的シンプルなデバイスです。通常は、周波数バンド全体を受信/転送す
るので、慎重に配置する必要があります。一般に、リピータはカバレージを向
上させることはできますが、実質的な容量を増やすことにはなりません。
DeNB
無線
バックホール
eNB
RN
セル端
RN
RN
マルチホップ・リレー方式
バックホール配線されていない
カバレージが狭い領域
図12. チャネル内リレーとバックホール
21
レイヤ2のより高度なリレーは、送信データを転送前にデコードすることがで
きます。このため、トラフィックを選択して、RNに対してローカルにあるUE
との間で転送することができるので、すべてのトラフィックを転送する従来の
リレーによる干渉を最小限に抑えることができます。この種のリレーの場合は、
RNでプロトコル・スタックが終端されるレベルによっては、リレー固有の規
格を作成する必要があります。RNのプロトコル・スタックをレイヤ3まで拡大
して通常のeNBと同じように動作する無線ルータを構築し、標準的なエア・イ
ンタフェース・プロトコルを使用して、独自のリソース割り当てとスケジュー
リングを実行することにより、これはおおむね回避できます。
中継局の概念は、最適なバックホールがないとセルラ・ネットワークが使用で
きなくなる可能性のある密度の低い配備にも適用できます。帯域内またはチャ
ネル内バックホールの使用は、高速ポイントツーポイント接続を使用してネッ
トワークの残りの部分で不要な干渉が発生しないようにすることによって最適
化できます。マルチホップ・リレー方式も可能です
(図12を参照)。この場合は、
信号はDeNBから最初のRNに送信され、さらに次のRNを経由して、最後に
UEに送信されます。UEから戻ってくるアップリンク信号は、複数のRNを経
由して、DeNBに送り返されます。チャネルをUEとバックホール・トラフィッ
クに分割できるので、この手法はOFDMAシステムのチャネル内で実行できま
す。DeNBとRNの間のリンク・バジェットが良好になるようにして、リレー・
トラフィックのバックホールにサブフレームの一部を使用できるようにするこ
とができます。これらのサブフレームは、MBSFN
(Multimedia Broadcast
in a Single Frequency Network)用に割り当てられていた可能性のあるフ
レームです。
リリース10では、リレー方式のRANの側面については進展しつつありますが、
ネットワーク・セキュリティの側面はリリース11まで遅れる可能性がありま
す。この遅延がRANの規格化に影響を及ぼすことはないかもしれませんが、
配備に影響が及ぶ可能性があります。
ヘテロジーニアス・ネットワークのサポート
リリース10では、消費電力の小さいノード(ピコセル、フェムトセル、リピータ、
RNなど)とマクロセルが混在するヘテロジーニアス・ネットワークのサポート・
ニーズに対応する予定です。評価中の配備シナリオは、TR 36.814の付録Aに
記載されています[20]。
ネットワークの複雑化が進むにつれて、無線リソースの管理の問題の重要性が
増しています。新しい自己最適化ネットワーク
(SON)機能など、無線リソー
スの高度な管理方法を開発するための作業が進められています。リリース10
の仕様ではまた、ネットワーク効率の向上とインフラ・コストの削減を実現す
る方法として、リリース9で導入されたフェムトセルやホーム基地局
(HeNB)
の使用に引き続き重点を置いています。
22
LTE自己最適化ネットワークの機能拡張
今日のセルラ・システムは非常に中央集権的に計画されていて、ネットワー
クへの新しいノードの追加には、コストと時間のかかる作業や、最適化のた
めのサイト訪問などの配備上の問題を伴います。多少制限のあるSON機能が
リリース8で導入されましたが、リリース9およびリリース10ではさらに入念
に検討されています。
SONの目的は、新しいノードの導入とネットワークの管理に要する労力を大
幅に軽減することです。基地局に接続するための運用保守(O&M)インタ
フェースはもちろん、無線計画にも影響を及ぼします。
SONの主な側面は以下のようにまとめることができます。
• 自己設定:O&Mインタフェースとネットワーク管理モジュールにより、新
しいフェムトセルの導入などの特定のイベントの1回限りの自動化プロセス
• 自己最適化:UE/基地局測定などの環境データを使用して、構成プロセス
で設定された制約の範囲内で現在のネットワークの設定を最適化する連続
プロセス
• 自己回復:劇的に変化する干渉条件や、UEのマクロセルとフェムトセル間
の切り替えが途切れることのないピンポン状態の検出など、異常な状況に
起因する例外イベントからの回復プロセス
HeNBモビリティ拡張
リリース10の中で重要な位置を占めるネットワーク機能の拡張にフェムトセ
ル、すなわち、ホームeNode B
(HeNB)があります。
3GPPのUMTSへのフェムトセルの導入作業はリリース8を通して進められて
いましたが、リリース9ではLTE HeNBにまで拡大されました。リリース9では、
着信時のモビリティ(マクロセルからHeNBへ)だけが完全に仕様化されまし
た。リリース10では、HeNB間のモビリティを実現するための機能拡張がさ
らに追加される予定です。現在、HeNB間のモビリティの実現に関する3つの
提案が検討されていて、2010年12月には決定される見込みです。この機能は、
企業向けに展開するには非常に重要です。フェムトセルの概念はLTE/LTEAdvancedに固有のものではありませんが、LTEでは、UMTSやGSMなどの
従来のシステムに昔ながらのデザインを取り入れるのではなく、このテクノ
ロジーを最初から導入することができます。図13に、フェムトセルの配置を
示します。
移動体通信
サービス・
プロバイダの
ネットワーク
インターネット
HeNB
ローカル
UE
HeNB
ローカル
UE
間
NB バ
He オー
ド
ハン
図13. ヘテロジーニアス・ネットワークにおけるフェムトセルの配置
23
無線機の配備という観点からは、フェムトセルは大きなセル内の一部で動作し
ます。無線チャネルは、大きなセルと共有されるチャネルか
(同一チャネル配
備と呼ばれる)
、専用チャネルです。フェムトセルの概念は基本的にはリレー
方式とは異なります。これは、フェムトセルのコア・ネットワークへの接続が、
マクロセルへの無線接続ではなく、既存のDSLまたはケーブル・インターネッ
ト接続によってローカルに提供されるためです。ほとんどのフェムトセルは屋
内に配置されるため、フェムトセルとマクロセルを簡単に分離できます。図
13に示されているのも、マクロセルのカバレージ領域外のフェムトセルです。
この図からは、フェムトセルを使用することにより、DSLサービスは提供され
ているが自分でプロバイダを選択することができない農村部でも、ローカル・
セルラ・カバレージを提供できる可能性があることがわかります。
「フェムトセル」という用語からは、既存のシステムとの大きな違いがカバレー
ジ領域であるということがわかりますが、フェムトセルの特性を定義する方が
カバレージ領域だけを定義するよりもはるかに困難です。インフラ・コスト/
資金調達、バックホールの方法、ネットワークの計画/配備/サービス品質/
制御、モビリティ/データ・スループット性能などを考慮する必要があります。
フェムトセルの主な配置シナリオは、以下の2つの地域への配置です。
• 同一チャネル配備を使用しているカバレージが狭いまたはない農村部への
配置
• 高速データ・レートと大容量を実現するための密集地域への配置
どちらの場合も、プロバイダは、フェムトセルを限定された加入者グループ
(CSG)のUE用に配備するか、オープン・アクセス用に配備するか決定しなけ
ればなりません。同一チャネルCSGの場合は、密集地域へのフェムトセルの配
備がマクロセルの障害となる可能性があることが問題となりますが、価格設定
などのこの他の実用上の考慮事項は、商用上の問題と見なすことができます。
フェムトセルの導入にはかなりのメリットがありそうですが、問題も多くあり
ます。以下の問題の多くは解決が必要ですが、一部の問題については、リリー
ス10で取り組んでいます。
• マクロ・ネットワークへの干渉を低減するためのさまざまな認識手法
• 無線リソースの管理要件
• ユーザによる独自のセルラ・ネットワークの構築に関連するセキュリティ
上の問題への対処
• 地理的位置およびローミングに関するさまざまな側面の検証
• オープン・アクセス運用とクローズド・アクセス運用のビジネス・モデル
• 1つのフェムトセルでの複数のネットワークのサポート
• バックホールの所有権とネットワークの中立性の問題
• マクロセルとフェムトセルのバランスのとれた最適な相互運用による不要
なハンドオーバの最小化
• 固定広帯域バックホール接続、特に対称帯域幅、優先順位付け、輻輳管理が
必要なサービスを提供するアップリンクにおけるボトルネックの解消
• リアルタイム・サービス(音声サービスなど)や保証ビット・レートを必要
とするアプリケーションのQoSの管理
• アクセス制御による限定加入者グループへのローカル・アクセス/リモー
ト・アクセスの提供
• 自己設定、自己組織化、自己最適化、自己回復(障害管理や障害からの回復
を含む)機能
• セキュリティ、バックホール保護、デバイス/ユーザ認証
24
こうした問題はありますが、フェムトセルを導入することにより、マクロ・ネッ
トワークの約100倍の平均データ・レートと容量の向上を実現できることが、
調査によって判明しています。その反面、フェムトセルを導入してもマクロセ
ルラ・システムのモビリティは確保されません。また、表8に示すように、こ
れらのシステムの使用モデルには違いがあります。これらの理由から、フェム
トセル/ホットストップの配備は、マクロセル/マイクロセルに対抗するもの
ではなく、補完するものと考えるべきです。
表8. マクロセル/マイクロセルの使用モデルとフェムトセル/ホットスポットの使用モデルの比較
マクロ/マイクロセル
フェムトセル/ホットスポット
ユビキタス・モバイル・データ/音声
日和見的非定住データ
モビリティ/連続カバレージ
ホットスポット・カバレージ
QoS管理可能
価値の低いデータの限定的なQoS
容量/データ・レートの制限
コストの配分(安くはない)
高コスト、高価値トラフィックに対応可能
無料または有料
通常は屋外/移動時
屋内/固定
固定無線宅内機器(CPE)
3GPP仕様で用いられる宅内機器とは、固定位置にあるUEのことです。2つの
主な配備シナリオが、TR 36.807に示されています(図14を参照)。
CPEの主な利点は、より高性能のアンテナを使用することにより配置を最適化
できること、出力パワーが標準的なUE
(23 dBm)に比べて大きい
(最大27
dBm)と定義されていることです。また宅内機器は、バッテリ駆動されること
が少ないので、設計の自由度が高く、無線機の性能を最適化できます。屋内シ
ナリオには無指向性アンテナが必要になる可能性があるのに対して、屋外シナ
リオは何らかの指向性アンテナを使用して配備される可能性があります。
アンテナの位置調整が可能、出力パワーが大きい、固定位置、消費電力の心配
が少ないということから、代表的な移動UEで実現可能な性能が激変します。
このような優れた無線性能は、高性能の広帯域サービスを提供するためにLTE
が採用される可能性がある場所、例えば、農村部で特に有用です。このような
配備は、アナログ・テレビからデジタル・テレビへの切り替えによって解放さ
れるスペクトラムの有効な利用法であると考えられています。
CPEの屋内配備シナリオ
CPEの屋外配備シナリオ
図14. CPEの配備シナリオ(36.807の図9.2-1)[21]
25
デザインおよびテスト上の問題
LTEを進化させたLTE-Advancedおよびリリース10は、エンジニアに多くの
問題をもたらします。LTE規格は新しい上に、きわめて複雑であり、複数のチャ
ネル帯域幅、ダウリンクとアップリンクで異なる伝送方式、周波数ドメインと
タイム・ドメインの両方のデュプレックス
(FDDおよびTDD)伝送モード、
MIMOアンテナ手法などが採用されています。LTEとLTE-Advancedは、こ
こしばらくの間は、2G/3Gセルラ・システムと共存して行かなければならな
いため、相互運用の必要性や干渉の可能性が重大な問題であることに変わりは
ありません。障害の多い無線環境で、LTEは性能目標が非常に高く設定されて
いますが、LTE-Advancedではさらに高く設定されています。
キャリア・アグリゲーション
キャリア・アグリゲーションは、基地局にとって問題であるとは考えられてい
ませんが、UEにとって重大な問題となることは間違いなく、複数の同時送受
信機に対応する必要があります。隣接しない複数の同時送信機の追加により、
スプリアスの管理やセルフ・ブロッキングの面で非常に問題のある無線環境が
生まれます。必須のMIMOを用いた同時送受信は、アンテナのデザイン上の問
題に拍車をかけることになります。
キャリア・アグリゲーションが仕様に与える具体的な影響は、基準となるUE
のアーキテクチャによって異なるため、いくつかはまだ検討中です。結論が出
るまでは、キャリア・アグリゲーションの性能要件は決定されません。
キャリア・アグリゲーション信号の作成
キ ャ リ ア・ ア グ リ ゲ ー シ ョ ン の 概 念 を 説 明 す る た め に、 い く つ か の 例 を
AgilentのSystemVueデ ザ イ ン・ ソ フ ト ウ ェ ア を 使 用 し て 説 明 し ま す。
SystemVueは、上位レベルのシステムのデザイン/検証に使用できます。
キャリア・アグリゲーションをトランスミッタのアーキテクチャに実装するた
めにさまざまなオプションがありますが、主に周波数分離に依存します。周波
数分離は、コンポーネント・キャリアが以下の場所で組み合わされる場合に大
きな影響を及ぼします。
• デジタル・ベースバンド
• RFミキサの前のアナログ波形
• RFミキサの後で、パワーアンプ(PA)の前
• PAの後
26
図15に、これらのUE用のトランスミッタのアーキテクチャをいくつか示しま
す。
Txの特性
帯域内集約
概要(Txのアーキテクチャ)
オプション
L1
隣接(CC)
帯域間集約
非隣接(CC)
非隣接(CC)
RFフィルタ
可
A
D/A
IFFT
マルチプレクサ1
および2のBB
RF PA
シングル(ベースバンド+IFFT+DAC+ミキサ+PA)
マルチプレクサ1
のBB
IFFT
D/A
L1
RF PA
B
L2
マルチプレクサ2
のBB
IFFT
RFフィルタ
可
可
可
可
可
可
D/A
マルチ(ベースバンド+IFFT+DAC)、シングル(ステージ1 IFミキサ+コンバイナ/ステージ2 RFミキサ+PA)
RFフィルタ
マルチプレクサ1の
IFFT
D/A
BB
L1
C
RF PA
マルチプレクサ2の
IFFT
D/A
L2
BB
マルチ(ベースバンド+IFFT+DAC+ミキサ)、ローパワー・コンバイナ(RF)、シングルPA
RFフィルタ
マルチプレクサ1
のBB
IFFT
D/A
RF PA
L1
D
RFフィルタ
マルチプレクサ2の
IFFT
RF PA
D/A
L2
BB
可+(集約するEUTRA
バンドによる)
RFフィルタ
マルチ(ベースバンド+IFFT+DAC+ミキサ+PA)、1本のアンテナまたは2本のアンテナに接続するハイ
パワー・コンバイナ
X
その他
図15. 各種キャリア・アグリゲーション・シナリオのUE用のトランスミッタのアーキテクチャ
(36.912 V9.3.0 2010-06の図11.3.2.1-1)
図15に示されているトランスミッタのアーキテクチャはすべて、Agilent
SystemVueソフトウェアで簡単に実現できます。図16からは、キャリア・ア
グリゲーションを伴うLTE Advancedの信号源を簡単に実現できることがわ
かります。
20 MHzコンポーネント・キャリア
図16. Agilent SystemVueにおける帯域内キャリア・アグリゲーションの例
図16は、帯域内隣接キャリア・アグリゲーションの例を示したものです。こ
の構造では、各コンポーネント・キャリアが独立した信号チェーンによって処
理されると仮定しています。また、この構造は、帯域内と帯域間の両方の非隣
接キャリア・アグリゲーションに適用できます。
27
図17からは、バンド7
(2600 MHz)から選択された2つの20 MHzコンポーネント・
キャリアのスペクトラムが、20.1 MHzの中心周波数間隔
(必要な300 kHzの倍
数)で集約されていることがわかります。図18は、最初のコンポーネント・キャ
リア(2630 MHz)内の物理チャネルと物理信号のコンスタレーションを示したも
のです。
キャリア・アグリゲーション・スペクトラム
スペクトラム(dBm)
20 MHzコンポーネント・キャリア
20 MHz CC+20 MHz CCバンド7
周波数(GHz)
図17. 2つの隣接するコンポーネント・キャリアのキャリア・アグリゲーション・スペクトラム
虚数
コンスタレーション
実数
図18. 最初のコンポーネント・キャリアのコンスタレーション
28
図19では、3.5 GHzから選択された4つの隣接する20 MHzコンポーネント・キャ
リアが、20.1 MHzの隣接中心周波数間隔で集約されています。
キャリア・アグリゲーション・スペクトラム
スペクトラム(dBm)
4x20 MHzコンポーネント
隣接4x20 MHz CC
周波数(GHz)
図19. 4つのコンポーネント・キャリアのキャリア・アグリゲーション・スペクトラム
拡張アップリンク多元接続
アップリンクへのクラスタ化SC-FDMAの導入により、コンポーネント・キャ
リア内での周波数選択スケジューリングが可能になるので、リンク性能が向上
します。また、PUCCHとPUSCHを同時にスケジューリングできるので、遅延
が低減します。一方、クラスタ化SC-FDMAでは、PAPRが大幅に高くなるため、
トランスミッタのリニアリティの問題が生じます。PUCCHとPUSCHの同時ス
ケジューリングにより、PAPRが高くなります。どちらの機能もチャネル帯域
幅内にマルチキャリア信号を作成するため、チャネル内と隣接チャネルにスプ
リアスが発生する可能性が高くなります。テスト・ツールの機能を拡張して、
LTE-Advancedのパワーアンプのチャネル内マルチキャリア信号の作成/解析
機能を備える必要があります。
図20に、チャネル端での2つのPUCCH信号の同時伝送に起因するスプリアスの
発生例を示します。
振幅(dBm)
スペクトラムRBW=100 kHz
周波数(Hz)
図20. 2つの隣接RBに起因するスプリアスと2つのチャネル端RBに起因するスプリアスの比較
青のトレースは、チャネル端の2つの隣接するRBに起因するスプリアスを示して
います。赤のトレースからは、PUCCH信号の同時伝送による影響をシミュレー
トするためにRBの1つをチャネルのもう一端に移動したときに、スプリアスの発
生が増加したことがわかります。数箇所で、スプリアスが約40 dB増加していま
すが、パワーアンプ
(PA)のリニアリティを大幅に高めるか、最高動作レベルを
下げる必要があります。スプリアス関連の問題が決着するまでは、どの程度の拡
張アップリンクのRF性能要件がリリース10に盛り込まれるかは未定です。
29
拡張アップリンク信号のデザイン
図4に、LTE-Advancedのクラスタ化SC-FDMAのブロック図を示しました。
図21では、このアップリンクの伝送方式をAgilent SystemVueモデルを使用
して実現しています。各モデルの入出力をモニタできます。
その他の物理チャネルと物理信号
図21. Agilent SystemVueでのクラスタ化SC-FDMAの実現
拡張マルチアンテナ伝送
高次のMIMOでは、キャリア・アグリゲーションと同じように、同時トランシー
バの必要性が高まるものと思われます。ただし、MIMOにはアンテナ数が増え
るという問題もあるため、MIMOアンテナ間の相関を除去する必要があります。
LTE-AdvancedのUEの狭い空間で動作する、優れた相関除去機能を備えたマ
ルチバンドMIMOアンテナをデザインすることは特に困難です。運用ネット
ワークにおける実際の放射性能の予測に上位のMIMO端末のテストを使用する
ことはもうできません。3GPP規格のリリース10の調査項目の1つでは、LTEAdvanced用に定義された上位のMIMOまで拡大可能なMIMO無線(OTA)テス
トについて検討しています。
MIMOシステムにより得られる受信利得は、アンテナの個数の関数です。この
ようなシステムの理論的な可能性をシミュレートすることはできますが、実際
にはさまざまなことを考慮する必要があるので、商用配備はますます難しくな
ります。基地局では、すでに小型の4本アンテナ・システムが使用されています。
この数を8本に増やして空間多重化およびビームステアリングの可能性を高め
るには、塔頂設置型リモート・ラジオ・ヘッド
(RRH)を使用して、高価で損
失の多い8組のケーブルを塔に敷設しなくて済むようにする必要があります。
MIMOシステムの消費電力の増加も、見過ごすことのできない要因です。セク
タ当たりのアンテナ数とセル当たりのセクタ数の間にはトレード・オフがあり
ます。セクタ当たりのアンテナ数が8本の3セクタ・セルではなく、セクタ当
たりのアンテナ数が4本の6セクタ・セルを使用する方が適している場合もあ
ります。
UEにおける高次MIMOの主な問題点は、アンテナに必要な物理的な空間です。
ラップトップ型のデータ専用システムの方が、サイズ、許容パワー、スループッ
ト要件で、ハンドヘルド型のデバイスより優位にあることは明らかです。さら
に、小型のデバイスでは、チャネル内で空間ビームフォーミングを利用するた
めに必要なアンテナの空間分離を実現することは非常に困難です。この一般的
な解決策は、空間分離ではなく垂直偏波を使用して、アンテナ間の相関を低減
する方法です。
30
拡張MIMOシステムのデザイン
図22は、Agilent SystemVueでデザインした8x4 LTE-Advancedシステムの
例です。36.101 8.2.1.4でリリース8用として定義されている既存の閉ループ
空間多重化測定を外挿したものです。プリコード化マトリクス指標
(PMI)がレ
シーバからトランスミッタにフィードバックされ、スループットがUEの
ACK/NACKレポートから計算されます。さまざまなチャネル・モデルを使用
して、IMT-Advancedのさまざまな動作環境に対応することができます。
スループット
チャネル・モデル
図22. リリース8用のDLの閉ループ空間多重化測定(36.101 8.2.1.4)の、LTE-Advanced用8x4への拡張例
UE CQIレポート含めることにより、空間多重化性能のより高度なテストを現
実的な条件で実行でき、適応変調/コード化(AMC)をダウンリンクで使用で
きます。
リレー
UEから見ると、リレーは完全にトランスペアレントなので、デザイン上の問
題はすべてネットワーク側にあります。システムが動作するには、RNからマ
クロeNBまでのリンク・バジェットが良好でなければなりません。つまり、見
通し線を確保する必要があります。リレー方式の運用上の主な問題点は、UE
の管理にあります。サービス範囲内にあるRNにハンドオーバし、UEがサービ
ス範囲外に出た時にRNを解放するように、UEに命令する必要があります。こ
のプロセスが適切に管理されていない場合は、セルの性能が意図するとおりに
向上せずに、実際には低下する可能性があります。バックホール配線されてい
ない谷間などでは、UEが関係することがないので、マルチホップ・リレー方
式のカバレージの管理作業を容易にする必要があります。
まとめ
LTE-Advancedおよびリリース10が無線デザイン・エンジニア/テスト・エ
ンジニアにもたらす可能性のある問題はごくわずかです。4G仕様が発表され、
認証プロセスが前進するにつれて、テスト・ベンダも、製品の性能を高め、進
化する4Gシステムの性能を検証するための方法を新たに生み出す必要があり
ます。
31
LTE-Advancedの配備に関する展望
業界が支援しているフィールド・テストでは、LTE-Advancedの技術的な概
念の多くの実現可能性がすでに実証され、ITUに対する3GPPの提言には、提
案の自己評価が盛り込まれ、4Gとして正式に認定するための4Gの要件をLTEAdvancedはすべて満たしていると結論付けています。それでもやはり、
LTE-Advancedを配備するタイミングを予測することは難しく、業界の需要
と、今日のリリース8/9 LTEの配備の成功に左右される可能性があります。
規格化の観点からは、LTE-AdvancedはLTEより2年近く遅れています。しか
し、LTE-Advancedの配備は、多くの理由から、LTEより2年以上遅れる可能
性があります。例えば、スペクトラムの利用が限られているためにLTE自体の
配備が遅くなる可能性があることや、2G/3Gシステムの配備/成功が続くこ
とがその理由に挙げられます。さらに、LTE-Advancedではシステムやデバ
イスの複雑さが非常に増加するので、業界が対応するようになるまでには時間
がかかるものと思われます。
LTE-Advanced開発者向けのデザイン/テスト・ツール
LTE/無線通信用のデザイン/テスト製品のリーダとして、Agilentは、複雑な
LTEテクノロジーの実装を詳細に解析するために必要なツールを提供していま
す。
Agilent SystemVueを使用すれば、LTE Advancedの機能を初期の研究開発
の段階で検証でき、最新規格に準拠したシステムのアルゴリズム・デザインや
製品開発が容易になります。SystemVueは、無線通信システムの物理層(PHY)
に 重 点 を 置 い た、 エ レ ク ト ロ ニ ッ ク・ シ ス テ ム・ レ ベ ル の デ ザ イ ン 用 の
Agilentのエレクトロニック・デザイン・オートメーション(EDA)環境です。
SystemVueは、システム・アーキテクトやアルゴリズム開発者向けの革新的
な信号処理技術、正確なRFシステム・モデリング、テスト機器とのリンク、
アルゴリズム・レベルのリファレンスIP/アプリケーションを兼ね備えていま
す。
3GPP LTEデザイン・コミュニティ向けには、演算/C++/グラフィカル・アル
ゴリズム・モデリング・インタフェース、LTEリリース8専用の「ゴールデン・
リファレンス」ブロックセット(コンパイル済み/ソース・コードIP)、デジタ
ル・プリディストーション、8x8 MIMOチャネルのレイアウト・モデリング/
フェージングを提供しています。LTE-Advancedにも間もなく対応する予定
で す。 概 念 か ら ハ ー ド ウ ェ ア の 作 成、 テ ス ト ま で の リ ン ク に よ り、
SystemVueは、LTE Advancedレイヤ1システムのアーキテクチャの検証と
モデル・ベースのデザインを加速します。また、エンタープライズ・レベルの
デザイン・フローにもリンクしているので、全体的な検証作業を軽減できます。
SystemVueは、ハードウェアの性能を実際に提供する前に詳細に解析できる
有用な補完的環境で、次世代のシステム性能の実現に取り組むクロスドメイン
RF/ベースバンド製品チームは、初期の規格調査から製品開発に簡単に移行で
きます。
Agilentでは、ベースバンド・エミュレータ、シグナル・アナライザ、信号源、
基地局エミュレータ、パワー・メータ/センサ、ロジック・アナライザ、オシ
ロスコープ、信号作成ソフトウェアなどの、LTEデザイン/テスト製品を豊富
に取り揃えています。トランスミッタ/レシーバ・テストでは、Agilent Xシ
リーズ・シグナル・アナライザ/信号発生器と既存のLTEソフトウェアを組み
合わせて、リリース8と互換性のあるLTE-Advancedコンポーネント・キャリ
ア(CC)を作成/解析できます。
LTE-Advancedはリリース10以降で定義されるため、Agilentの製品は、規格に
準拠した高度な機能拡張や機能により、最新のテスト要件に対応する予定です。
32
参考資料
[1]
3GPPプレスリリース、“3GPP Partners propose IMT-Advanced
radio”、ジュネーブ、2009年10月8日。
[2]
http://www.3gpp.org/LTE
[3]
http://www.globalcertificationforum.org/WebSite/Public/LTE_Certification.aspx
[4]
http://3gpp.org/ITU-R-Confers-IMT-Advanced-4G
[5]
ITU-R M [IMT-TECH]、“Requirements related to technical
performance for IMT-Advanced radio interface(s)”、2008年8月。
[6]
3GPP TR 36.913 V9.0.0(2009-12):http://www.3gpp.org/ftp/Specs/
archive/36_series/36.913.
[7]
http://www.3gpp.org/LTE-Advanced
[8]
http://www.3gpp.org/IMG/pdf/2009_10_3gpp_IMT.pdf
[9]
3GPP TSG RAN Tdoc RP-070466
[10]
3GPP TR 36.913 V9.0.0(2009-12)、“Requirements for Further
Advancements of E-UTRA(LTE-Advanced)”。
[11]
ITU-R M.[IMT-TECH]“Requirements related to technical
performance for IMT-Advanced radio interface(s)”、2008年8月。
[12]
3GPP TR 36.814、www.3gpp.org/ftp/Specs/archive/36_series/36.814/
[13]
3GPP IMT-Advanced評価ワークショップに関する記事、http://www.3gpp.
org/ftp/ workshop/2009-12-17_ITU-R_IMT-Adv_eval/docs/
[14]
3GPP TR 36.807 ftp.3gpp.org/Specs/html-info/36807.htm
[15]
3GPP TS 36.211 V10.0.0
[16]
ftp://ftp.3gpp.org/tsg_ran/TSG_RAN/TSGR_48/Docs/RP-100661.zip
ftp://ftp.3gpp.org/tsg_ran/WG4_Radio/TSGR4_56/Documents/R4-102882.zip
[17]
ftp.3gpp.org/tsg_ran/WG1_RL1/TSGR1_61b/Docs/R1-104177.zip
[18]
ftp.3gpp.org/tsg_ran/WG1_RL1/TSGR1_61b/Docs/R1-104263.zip
[19]
http://www.easy-c.de/PublicWS_eng_Fachmedien.pdf
[20]
3GPP TR 36.814 V9.0.0, A2.1.1.2
[21]
http://www.3gpp.org/ftp/Specs/html-info/36807.htm
[22]
ftp://ftp.3gpp.org/tsg_ran/WG4_Radio/TSGR4_54/Documents/R4-100427.zip
33
略語
2G
3G
3GPP
4G
ACK/NACK
Second Generation(第2世代)
Third Generation(第3世代)
Third Generation Partnership Project(第3世代移動体通信システ
ム標準化プロジェクト)
Fourth Generation(第4世代)
Acknowledgement/Negative Acknowledgement(確認応答/否定
応答)
AMC
ARQ
BS
BW
CA
CC
CDMA
CoMP
CPE
CQI
CRS
CSG
CSI-RS
Adaptive Modulation and Coding(適応変調/コード化)
Automatic Repeat Request(自動再送要求)
Base Station(基地局)
Bandwidth(帯域幅)
Carrier Aggregation(キャリア・アグリゲーション)
Component Carrier(コンポーネント・キャリア)
Code Division Multiple Access(コード分割多元接続)
Cooperative Multipoint(協調マルチポイント)
Customer Premises Equipment(宅内機器)
Channel Quality Indicator(チャネル品質指標)
Cell-specific Reference Signal(セル固有の基準信号)
Closed Subscriber Group(限定加入者グループ)
Channel State Information Reference Signals(チャネル状態情報
基準信号)
DeNB
DFT-S-OFDM
Donor-cell Enhanced Node B(ドナーセル・エンハンスド・ノードB)
Discrete Fourier Transform Spread Orthogonal Frequency
Division Multiplexing(離散フーリエ変換拡散直交周波数分割多重化
DL
DLMA
DL-SCH
DMRS
DSL
EDA
Downlink(ダウンリンク)
Downlink Multiple Antenna(ダウンリンク・マルチアンテナ)
Downlink Shared Channel(ダウンリンク共有チャネル)
Demodulation Reference Signal(復調基準信号)
Digital Subscriber Line(デジタル加入者ライン)
Electronic Design Automation(エレクトロニック・デザイン・オー
E-DCH
EDGE
Enhanced Dedicated Channel(拡張専用チャネル)
Enhanced Data Rates for GSM Evolution(GSM Evolutionのエン
方式)
トメーション)
ハンスド・データ・レート)
eNB
EPA
E-UTRA
Evolved Node B
Extended Pedestrian-A(拡張歩行者A)
Evolved Universal Terrestrial Radio Access(次世代ユニバーサル
E-UTRAN
Evolved Universal Terrestrial Radio Access Network(次世代ユニ
地上無線アクセス)
FDD
GCF
GPRS
GSM
バーサル地上無線アクセス・ネットワーク)
Frequency Division Duplex(周波数分割デュプレックス)
Global Certification Forum
General Packet Radio Service(汎用パケット無線サービス)
Global System for Mobile Communication(移動体通信用グローバ
ル・システム)
HARQ
HeNB
HSCSD
HSDPA
Hybrid Automatic Repeat Request(ハイブリッド自動再送要求)
Home eNB(ホームeNB)
High Speed Circuit Switched Data(高速回線交換データ)
High Speed Downlink Packet Access(高速ダウンリンク・パケット・
HSPA
HSUPA
High Speed Packet Access(高速パケット・アクセス)
High Speed Uplink Packet Access(高速アップリンク・パケット・
ICIC
IMT
IMT-Advanced
IMT-2000
ISD
ITU
ITU-R
LCR-TDD
Inter Cell Interference Cancellation(セル間干渉のキャンセル)
International Mobile Telecommunications
International Mobile Telecommunications Advanced(4G)
International Mobile Telecommunications 2000 project(3G)
Inter-Site Distance(サイト間距離)
International Telecommunications Union(国際電気通信連合)
ITU-Radiocommunications Sector(ITUの無線通信部門)
Low Chip Rate Time Division Duplex(低チップ・レート時分割デュ
アクセス)
アクセス)
プレックス)
LTE
Long Term Evolution
34
LTE-A
MAC
MIMO
MU-MIMO
O&M
OCC
OFDM
LTE-Advanced
Medium Access Control(メディア・アクセス制御)
Multiple Input Multiple Output(マルチ入力マルチ出力)
Multiple User MIMO(マルチユーザMIMO)
Operations and Maintenance(運用/保守)
Orthogonal Cover Code(直交カバー・コード)
Orthogonal Frequency Division Multiplexing(直交周波数分割多
OFDMA
Orthogonal Frequency Division Multiple Access(直交周波数分割
PA
PAPR
PCFICH
Power Amplifier(パワーアンプ)
Peak to Average Power Ratio(ピーク対アベレージ・パワー比)
Physical Control Format Indicator Channel(物理制御フォーマッ
PDCCH
Physical Downlink Control Channel(物理ダウンリンク制御チャネ
重化方式)
多元接続)
ト・インジケータ・チャネル)
ル)
PDS
PHICH
Packet Data System(パケット・データ・システム)
Physical Hybrid ARQ Indicator Channel(物理ハイブリッドARQ
PHY
PMI
PUCCH
PUSCH
QAM
QoS
QPSK
RAN
RB
RF
RI
RIT
RN
RS
RX
SAE
SC-FDMA
Physical Layer(物理層)
Precoding Matrix Indicator(プリコード化マトリクス指標)
Physical Uplink Control Channel(物理アップリンク制御チャネル)
Physical Uplink Shared Channel(物理アップリンク共有チャネル)
Quadrature Amplitude Modulation(直交振幅変調)
Quality of Service(クオリティ・オブ・サービス)
Quadrature Phase Shift Keying(4相位相シフト・キーイング)
Radio Access Network(無線アクセス・ネットワーク)
Resource Block(リソース・ブロック)
Radio Frequency(無線周波数)
Rank Indicator(ランク指標)
Radio Interface Technology(無線機インタフェース・テクノロジー)
Relay Node(リレー・ノード)
Reference Signal(基準信号)
Receiver(レシーバ)
System Architecture Evolution
Single Carrier Frequency Division Multiple Access(シングル・
SISO
SON
SRS
SU-MIMO
TB
TDD
TD-SCDMA
Single Input Single Output(シングル入力シングル出力)
Self Optimizing Network(自己最適化ネットワーク)
Sounding Reference Signal(音声基準信号)
Single User MIMO(シングルユーザMIMO)
Transport Block(トランスポート・ブロック)
Time Division Duplex(時分割デュプレックス)
Time Division Synchronous Code Division Multiple Access(時
TR
TS
TTI
TX
UCI
UE
UL
ULMA
UL-SCH
UMTS
Technical Report(テクニカル・レポート)
Technical Specification(技術仕様)
Transmission Time Interval(伝送時間間隔)
Transmitter(トランスミッタ)
Uplink Control Information(アップリンク制御情報)
User Equipment(ユーザ機器)
Uplink(アップリンク)
Uplink Multiple Antenna(アップリンク・マルチアンテナ)
Uplink Shared Channel(アップリンク共有チャネル)
Universal Mobile Telecommunications System(ユニバーサル・モ
インジケータ・チャネル)
キャリア周波数分割多元接続)
分割同期コード分割多元接続)
バイル通信システム)
UCI
VoIP
W-CDMA
WP
Uplink Control Information(アップリンク制御情報)
Voice over Internet Protocol
Wideband CDMA(広帯域CDMA)
Working Party(作業班)
35
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アジレント・アドバンテージ・サービス、そ
れはお客様の満足を第一に考えているアジレ
ントの修理・校正サービスの総称です。
修理・校正サービスを通じて、お客様のビジ
ネスの成功に貢献できるよう努めます。
エンジニアは専門知識を積極的にお客様に提
供します。また、サービスの品質向上、サー
ビス内容の充実、納期の短縮に継続的に取り
組み、あらゆる面で業界のトップレベルを目
指します。こうした取り組みは、機器のCost
of ownership=維持管理費の削減にも繋がると
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Published in Japan, May 24, 2011
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