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需要が拡大する 自動車制御OSを知る

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需要が拡大する 自動車制御OSを知る
需要が拡大する
自動車制御OSを知る
――機能向上に対応するには開発効率向上が必須
服部博行,森川聡久
システムの記事
現在の自動車制御では,搭載された多数のECUのうち,OSを
り,基本性能,環境性能,快適性能,安全性能などを実現
利用しているものはごく一部である.しかし今後は,要求され
するために必要不可欠な部品となっています(図1).
る性能の向上やECU の統合により,OS を必要とするECU が
ECUは,マイクロプロセッサと周辺装置(入出力機器な
増えていくと考えられている.本稿では,自動車制御の現状
ど),通信モジュールによって構成されています.ECUは
と,自動車制御 OS に求められる機能について解説する.ま
各種センサからの入力値に基づいて動作に必要な判断(演
オーゼック
た,欧州の自動車メーカなどによるプロジェクト「OSEK/VDX」
算)を実行し,各種アクチュエータに指示を出すことによ
が策定した自動車制御OS仕様や,筆者らが開発した自動車制
り,装置の動作を制御します.
御用OS「TOPPERS/OSEK」について述べる.
例えば,パワー・ウィンドウ・システム注 2 用のECUに
(編集部)
は,動作指令スイッチや状態表示LED,窓位置検出用セン
サ,モータ過熱検出用の温度センサ,アクチュエータとな
1
欧州主導で規格化が進む
自動車制御OS
るモータなどが接続されています(図2,p.98のコラム「パ
ワー・ウィンドウにもECUが必要なの?」を参照).
現在の自動車には,ECU(electronic control unit)と呼
注1
● ECUの機能統合によりソフトウェア開発量が増大
ばれる自動車制御用のコンピュータが多数 搭載されてお
初期(1970年代後半∼1980年代初頭)のECUは,「エン
ジン制御」,「AT(automatic transmission;自動変速機)」
注1:2003年発売のある高級車には,約50個のECUが使われている.2007
年には,75個の搭載が見込まれている.
注2:電子制御により自動で窓を開閉する機構のこと.最近の乗用車にはほ
ぼすべてに装備されている.
など,ユニットごとにそれぞれ単一機能を担っていました.
そのため,ソフトウェア規模も比較的小さいものでした.
インフォメーション・パネル制御
キーレス・
エントリ・
システム
ドア制御(ロック,パワー・ウィンドウ)
ライト制御
ブレーキ制御
ドア制御
図1
自動車には多数の制御コンピュータ(ECU)
が組み込まれている
コラムとは,ウィンカやワイパなどのスイッチ
が付属している部分のことである.イモビライ
ザとは,エンジン・キーに埋め込まれているID
チップのコードを車両側で照合し,正規のキー
と確認されないとエンジンを始動できないよう
にする盗難防止装置である.プリクラッシュ・
セーフティ・システムとは,レーダによって前
方走行車との距離を測定し,衝突しそうな場合
のブレーキ・アシストやシートベルトの巻き込
み(乗員の安全確保)を行うシステムである.
シート制御
バック・モニタ
イモビライザ制御
ステアリング・センサ制御
ブレーキ制御
オーディオ
車両姿勢制御
ライト制御
ステアリング・ロック
ドア制御
ナビゲーション・システム
AT制御
空気圧センサ
GPS
ミラー制御
ブレーキ制御
シート
エアコン
ドア制御 ベルト制御
ステアリング制御
コラム制御
ライト制御
エンジン制御
ABS(アンチロック・
ブレーキ・システム)
エア・バッグ制御
ライト制御
空気圧センサ(通信モジュール付き)
ブレーキ制御
プリクラッシュ・
セーフティ・システム
:ボディ系ECU
:制御系ECU
:情報系ECU
Design Wave Magazine 2004 December
Design Wave Magazine (p.97
;
;
;
)
97
しかし,1980年後半からECU間で情報を共有し,連携し
御)や安全走行系(ABSやエア・バッグなど)を含む制御系
て動作させたり小型化を進める動きが出てきました.1990
システムでは,ソフトウェア規模と開発工数は1990年代中
年代に入ると協調制御によるち密な制御(統合制御)が可能
ごろから急激に増えました注4.そこで,共通仕様のソフト
となり,安全性能,環境性能が向上しました(右掲のコラ
ウェア部分を部品化し,組み込みや置き換えを容易にする
ム「統合制御」を参照)
.一方,ECUに組み込まれるソフト
ことを目的として,OSが利用されています.
注3
ウェアの開発量は増大しました .
現状では,OSを必要とする規模のECUはごく一部(エン
ジン制御ECUなど)に限られ,車両全体でのOS搭載率は
● 現状ではごく一部のECU だけがOSを利用している
低いのが実態です.しかし将来的には,先ほど述べた統合
制御やソフトウェア開発効率向上のために,より多くの箇
自動車内には多様な制御対象があり,要求される信頼性
所にOSが利用されるものと思われます.
や開発規模(プログラム・サイズ)はそれぞれ異なります
(図3).パワー・ウィンドウやミラー制御といったボディ
● 自動車向けの標準仕様となりつつあるOSEK/VDX
系システムは,制御系ほど信頼性を要求されず,プログラ
ム・サイズが小さいため,現状ではOSの利用要求はない
国内では,トヨタ自動車が1999年からITRON仕様に準
と言われています.一方,パワートレイン系(エンジン制
拠したリアルタイムOSを一部の車のエンジン制御に採用し
ています.一方,欧州では自動車メーカや部品メーカが中
心となって自動車用リアルタイムOSの標準化活動を推進し
ており,
「OSEK/VDX」というプロジェクトがリアルタイ
ムOSの仕様を提案しています(1995年に仕様書のVer 1.0
を公開した)
.この仕様は,欧州の自動車メーカで採用され
外部通信
て着実に普及しており,自動車制御の標準OS仕様となりつ
LED
出力
モータ
回
転
セ
ン
サ
温度
センサ
図2
運転席スイッチ
スイッチ入力
通信
モジュール
SW
つあります 注 5.今後は国内においても,部品の国際調達な
どを目的として,OSEK/VDX仕様OSが広く浸透すること
助手席
スイッチ
が予想されます.
パワー・ウィンドウ SW 後部席
スイッチ
ECU
SW 後部席
注3:例えば,トヨタ自動車におけるソフトウェア開発量は,1994年から
2003年の10年間で15倍以上になったという(4).
注4:トヨタ自動車では,1994年から1997年までの間に制御システムのソフト
ウェア規模が4倍になり,開発に要する工数が36倍を超えたという(5),(6).
注5:OSEK/VDX が提案した仕様は,2004 年 7 月に ISO(International
Organization for Standardization;国際標準化機構)の最終ドラフト投
票で承認された.訂正がなければ,3ヵ月以内に国際規格となる予定.
スイッチ
パワー・ウィンドウECU
パワー・ウィンドウECUは,動作指令スイッチや窓位置検出用センサなど
の入力値に基づいて,状態表示LEDやモータなどを制御する.
情報系
プ
ロ
グ
ラ
ム
・
サ
イ
ズ
32ビットCPUを使用.
OSが必須
エンジン制御などの
パワートレイン系,
ナビゲーション・
ABSなどの安全走行
システム,マルチ
系を含む
メディアなど
パワー・ウィンドウにもECUが必要なの?
電子制御で「窓を開閉する」だけなら,わざわざECUを利用しな
くても,モータとスイッチ,リレー回路でパワー・ウィンドウを
パワー・ウィンドウ,
ミラー制御など
制御系
実現できます.しかし,スイッチとモータのみでは,異物を挟ん
でいるかどうかを判断できません.パワー・ウィンドウECUは状
況をつねに監視し,挟み込みがないかを判断しています.このよ
ボディ系
うに,ECUは基本性能だけでなく,安全性能も実現しています.
16ビット以下のCPUを使用.
OSは必須ではない
また,一部の高級車のパワー・ウィンドウECUは,ほかの
ECUと連携して制御するための通信モジュールを備えています.
要求される信頼性
図3
これにより,窓の開閉に連動してエアコンの風量を調整すると
自動車に搭載されているソフトウェアの分類
いったことができます.このように,ECUは環境性能や快適性
要求される機能が増え,プログラム・サイズが大きくなった制御系システム
において,OS利用の必要性が高まっている.なお,この図はあくまでもめや
すであり,すべてのECUがこのように実装されているということではない.
98
能も実現しています.
Design Wave Magazine 2004 December
Design Wave Magazine (p.98
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)
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