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オリックス本町ビル 四つの機能を満たすサステイナブルオフィスビル
── 実 施 例 ── オリックス本町ビル 四つの機能を満たすサステイナブルオフィスビル ㈱竹中工務店 大阪本店 設計部 隅 直 人 ■キーワード/省エネルギー 1.はじめに 2.建築概要 オリックス本町ビルは,大阪市の東西軸である中央大 所 在 地 大阪市西区西本町 通りと,四ツ橋筋との交点,二つの高速道路と三つの地 主 要 用 途 事務所 下鉄に接続しており,この地域では突出するスケール感 建 築 主 合同会社 西本町デベロップメント をもつランドマークオフィスビルである。 監 また,貸床面積の過半には,オリックスグループの西 設計・監理 ㈱竹中工務店 日本の拠点が入居するため,従来の機能に加えて,事業 施 工 ㈱竹中工務店 継続性にも配慮したオフィスとしている。 工 期 2008年12月〜2011年3月 修 ㈱昭和設計 敷 地 面 積 2,694.91㎡ 建 築 面 積 1,409.82㎡ 延 床 面 積 41,555.80㎡ 構 造 RC造,S造,SRC造 免震 建 物 規 模 地下3階,地上29階 最高高さ 133.054m 3.設備概要 ⑴ 受変電設備 方式:3φ3W 22kV 本線・予備線 2回線受電 変圧器容量: 1φ3W 22kV/210−105V 500kVA×6台 3φ3W 22kV/210V 1,000kVA×2台 3φ3W 22kV/210V 1,250kVA×2台 ⑵ 空調設備 方 式:ビル用マルチエアコン 設備容量:冷房 6,100kW 暖房 6,440kW 4.計画のコンセプト オリックス本町ビルは, 「機能性」「安全性」 「環 境性」「バリアフリー」の四つの機能を満たすサ ステイナブルオフィスの実現を計画のコンセプト としている。 機能性 安全性 環境性 バリアフリー 写真-1 建物外観 図-1 コンセプト概念 ─ 21 ─ ヒートポンプとその応用 2012. 3. No.83 ── 実 施 例 ── 3-1 「機能性」の向上 テナントオフィスビルの「機能」には,使いやすく, 什器・備品がレイアウトしやすい専有部の計画が第一に 求められる。一般的に専有部に出る柱型は,オフィスの 居住性を低下させるとともに,有効なスペースを減少さ せるため,テナントの大きな不満となる。 そのため,限られた敷地条件の中でできるだけ広い床 面積を確保した上で,専有部の無柱空間を実現するため に,外装 (仕上げ)と躯体 (柱)を一体化した,厚み500㎜ のスキンウォールを開発するとともに,3.2m×3.2mグ リッドを基本モジュールとして,隅々まで使いやすいス 写真-2 デジタルサイネージ クエアなオフィスを実現している。 3-3 「環境」への配慮 3-3-1 周辺環境への配慮 大阪は,ヒートアイランドなどの影響により,全国の 主要都市と比較しても真夏日の発生が多い。また,周辺 環境への影響を配慮すると,空調排熱の抑制が課題とな る。そのため,当建物では,各階バルコニーに配置され た空調室外機に散水を行い,排気温度の低下をはかって 37.6m いる。これは,環境省のクールシティ中枢街区パイロッ ト事業として認定され,補助金を得て実施している。 37.6m 図-2 基準階平面図 3-2 「安全性」の確保 安全性・事業継続性にも配慮したオフィスビルを実現 するために,今後30年以内に50〜70%の確率で発生する 写真-3 室外機散水 といわれている東南海地震・南海地震をはじめとする地 震に対応するため,超高層RC造免震構造としている。 3-3-2 エネルギー消費量の低減 設備的には,受変電の二重化や非常用発電機の長時間 外装(仕上げ)と躯体(柱)を一体化したため,断熱性 運転対応などは当然実施するととともに,淀川の決壊時 能が向上し熱負荷が小さくなり(PAL=231.5),空調に に想定される浸水対策を考慮して,重要な設備は3階以 よる消費エネルギーの低減をはかっている。この他, 上に設置している。さらに,3階には防災備蓄倉庫を設 LED照明などの高効率機器の積極的な採用やBEMSに加 けることにより, 非常時のライフラインの強化をはかり, え,テナント用BEMS(テナントがWEB上で日常の消費 オフィスビルとしての事業継続性に配慮している。 電力量を確認するシステム)を導入することにより,エ また,災害発生時にはテナント企業の案内やプロモー ネルギーの高効率化を行い,単位面積あたりの消費エネ ションに利用しているデジタルサイネージを利用して, ルギーを年間1,500MJ/㎡で運用することを目標として 緊急災害放送を実施するように計画している。 いる。 ヒートポンプとその応用 2012.3.No.83 ─ 22 ─ ── 実 施 例 ── 3-3-3 資源の循環利用 当建物では,屋上に太陽光パネル (CIS薄膜系10kW) 特高 22,000V 特高−低圧設備 特高−高圧設備 高圧 6,600V を設置している。また,雨水を植栽散水として利用した り,雑排水を浄化してトイレ洗浄水として利用するな ど,再生可能エネルギーや資源の循環利用にも配慮して いる。 低圧 210V 105V 特高 22,000V 高圧−低圧設備 低圧 210V 105V 特高→高圧,高圧→低圧,の2段階 変圧方式では,設備スペース・変圧 器ロスが大きい 高圧 6,600V (外観) 図−3 特高低圧受変電システム概念図 図-3 特高低圧受変電システム概念図 本線 ① 予備線 ② ③ ④ ⑤ 本線 本線 ⑥ ① 予備線 本線 ⑥ ① 予備線 ② ③ ④ ⑤ ⑥ 予備線 写真-4 太陽光パネル ① ② ③ ④ ⑤ ② ③ ④ ⑤ ⑥ 図−4 二重化システム 図-4 二重化システム 3-3-4 CASBEE-Sクラスの認定 上記の環境配慮を行った結果,CASBEE評価認証機 関より,Sクラスの認証を受けている。 4-2 テナント用BEMS BEE値は3.4となっている。 近年,設備機器などの運転管理によってエネルギー消 3-4 「バリアフリー」の実現 費量の削減をはかるため,BEMSを導入する事例が一般 バリアフリーを実現するために,多目的トイレの各階 的となっており,当建物においても,建物管理者が取り 設置や,階段の幅を広くし勾配を緩やかにするなどの配 扱うBEMS装置を導入している。 慮を行うことにより,大阪市の事務所建築では初めてバ さらに,当建物では建物に入居する各テナント企業 リアフリー新法対応オフィスビルの認定を受けている。 に対して,専有部のエネルギー消費量を用途ごと (空 調,照明・コンセント)にWEB上で開示するテナント用 4.電気設備の特長 BEMSを導入している。これにより各テナント企業は, 4-1 特高低圧受変電システム エネルギーの使用状況を容易に把握できるとともに,前 当建物では,電力会社より22kVの特高電圧により受 年・前日比較などの機能により省エネルギー施策の立案 電している。 などに利用可能としている。 特高受電した場合,いったん高圧6.6kVに変圧して配 電し,さらに機器の使用電圧である100V・200Vに変圧 テナント BEMS用 外部ホスティング サーバ して使用することが一般的であるが,当建物では,高圧 6.6kVを省略し,特高22kVから直接100V・200Vに変圧 する特高低圧受変電システムを採用している。 ダウンロード これにより,変圧器損失の低減 (約100,000kWh/年)や インターネット 電気室スペースの低減 (100㎡程度レンタブル面積を拡 テナント PC 大) ,さらには初期投資の低減にも寄与している。 エネルギー管理 データ閲覧 また,当システムは,本線・予備線の2回線で受電す (テナント範囲) るとともに,変圧器などを各系統でバックアップできる ようにシステムを二重化して信頼性の向上をはかってい る。 空調冷媒あん分 CSV データ アップロード BEMS装置 ファイヤー ウォール付 ルータ 空調監視装置 TG−2000 電力使用量 データ 中央監視装置 図-5 テナントBEMSシステム図 図−5 テナント BEMS システム図 ─ 23 ─ ヒートポンプとその応用 2012. 3. No.83 ── 実 施 例 ── 5.空調設備の特長 空調延長予約および温度設定 Web公開 空調 スケジュール 5-1 空調システム 空調システムは,冷暖フリータイプのビル用マルチエ Webサーバ 温度調整 変更前+変更後 アコン方式を採用しており,約40㎡ごとの個別空調を可 能としている。 また,室外機は各階に設けた専用のバルコニーに設置 している。これにより超高層ビルにおいて課題となる垂 直方向の熱搬送をなくしており,空調の省エネルギーと スペースの有効利用をはかっている。 その一方で,室外機を各階のバルコニーに積層して設 置することに対して, 機能上の問題が発生しないように, 事前に十分な気流シミュレーションなどを行い,給排気 図−7 プラウザリモコン 図-7 ブラウザリモコン のショートカットの防止 (室外機ファンの高静圧化),騒 6.おわりに 音防止 (静音モード細分化+排気フードによる吸音)など オリックス本町ビルの建設にあたり,オリックス不動 の対策を実施している。 産㈱の方々をはじめ,多大なるご協力をいただきました 関係者の皆さまに深く感謝申しあげます。 躯体 PC 躯体 PC B−FUE 図-6 室外機設置断面図 図−6 室外機設置断面図 5-2 ブラウザリモコン 専有室内の空調の温度設定や運転予約を容易に行うた めに,ブラウザリモコンを導入している。これは,イ ンターネットに接続しているパソコンのWEB画面にて, 設定や予約を行うシステムである。 この導入により,空調設備専用の端末 (空調リモコン など) を不要とするとともに,操作性を向上させている。 〔ブラウザリモンコンは㈱竹中工務店の登録商標〕 ヒートポンプとその応用 2012.3.No.83 ─ 24 ─