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HEROICA − エロイカ

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HEROICA − エロイカ
HEROICA − エロイカ −
どっかの誰か
!18禁要素を含みます。本作品は18歳未満の方が閲覧してはいけません!
タテ書き小説ネット[R18指定] Byナイトランタン
http://pdfnovels.net/
注意事項
このPDFファイルは﹁ノクターンノベルズ﹂﹁ムーンライトノ
ベルズ﹂﹁ミッドナイトノベルズ﹂で掲載中の小説を﹁タテ書き小
説ネット﹂のシステムが自動的にPDF化させたものです。
この小説の著作権は小説の作者にあります。そのため、作者また
は当社に無断でこのPDFファイル及び小説を、引用の範囲を超え
る形で転載、改変、再配布、販売することを一切禁止致します。小
説の紹介や個人用途での印刷および保存はご自由にどうぞ。
︻小説タイトル︼
HEROICA − エロイカ −
︻Nコード︼
N6291DM
︻作者名︼
どっかの誰か
︻あらすじ︼
エロイカ。それはエロエロな触手を持つファンタジー世界に存在
する伝説の魔物イカである。
ーーというのは嘘です。
連載のペースは月1くらいで考えています。
1
1 始まり
たきぎ
パチリ、パチリと暗い森を照らす薪が音を立てる。
わき
それを囲むのは3人の若者だ。
背丈ほどもある大きな剣を傍において眠るのは、このメンバーで
一番年下の青年ヘスターだ。
彼はこんな時だというのに大きな道具袋を枕にして寝息を立てて
いる。
特段手入れなどをしているわけでもないのに、いつ見てもくせ毛
や枝毛のないすらすらとした美しい金色の髪が、地面の砂をかぶっ
て汚れてしまっている。
一度見れば忘れられないような青いサファイアのような瞳も、今
は固く閉じられて見ることができない。
これから大事をなそうという人間とはとても思えないような不用
心な姿だった。
もちろんそれはヘスターがそうしているのは仲間を信頼し、自分
が今すべきことが体力の回復であると感じているからだったが、そ
れを端から見ているエルマからすれば肝が据わっているとしか言い
ようがない。
エルマはこの中で唯一の女性である。
他の青年たちとは同じ村の出身で、貧困と魔物の襲撃に喘ぐ故郷
を救おうと立ち上がった彼らに、女性の身でありながら付き従った。
初めは村を襲う魔物の巣を蹴ちらすという、身近なものだった。
しかし、魔物たちはいくら巣を潰しても村を襲撃した。
彼らの魔物を退治する足も次第に遠くに伸びていった。
そしてその旅はいつしか、魔物の襲撃の根源である魔の首領イグ
・・
ニシオスを討伐するという大それた目的を持つようになった。
それでも、彼らの旅は常に4人だった。
2
その長く苦しい旅の中で、エルマは常に3人の男たちのサポート
に回っていた。
旅の道中では彼らの夜の世話をしたことも何度もある。
毎晩代わる代わる彼らの相手をした。
強大な敵を倒し、気の高ぶった彼らを3人まとめて相手取ったこ
ともあった。
ごうかん
エルマはなぜ仲間に対して娼婦のような振る舞いをしたのか。
はばか
いや
義を持って旅をする彼らが、立ち寄った街や村などで強姦や人買
いなどを行うことは憚られたのだ。
ゆえに年長者でもある彼女が、彼らの旅の疲れを癒すべく立ち回
ったのである。
とりこ
茶色いはねっけの強い髪の毛にそばかすの目立つ顔は決して万人
に認められるような美人ではない。
しかし、彼女は持ち前の包容力によって彼らを虜にし、町娘など
に手を出させることを防いでいた。
エルマは今でも自分が道を誤ったとは思っていない。
なぜなら彼女がサポートしてきた青年たちは誠心誠意守るべき人
たちのことを考えていたし、エルマのことも単に欲望をぶつけるだ
けではなく、愛情を持って接してきたからだ。
﹁エルマ、いいか?﹂
エルマと同様にしばし、ヘスターののんきな寝相を眺めていたロ
ビンが声をかけてきた。
これは合図である。
エルマは頷くと木陰に移動した。
その位置はエルマとロビンからヘスターを確認でき、なおかヘス
ターからは首をひねっただけでは彼らを見ることができない絶妙の
位置取りだった。
3
﹁疲れがたまってはいけないでしょう? すぐに済ませて﹂
そう言ってエルマはロビンに尻を向けて目の前の木に手をついた。
も
ロビンは﹁ああ﹂と短く答えると、エルマの上におぶさって彼女
の胸を服の上から揉みしだいた。
小粒のメロンほどもあるたわわに実った乳房が彼の手に押しつぶ
される。
するとエルマの口からわずかに吐息が漏れる。
ーー何かと理由をつけてはいるが、結局のところ彼女は好きものな
のだ。
ロビンはくすりと笑うと、彼女の胸に手をなじませながら自らの
股間を押し付ける。
彼の硬さを知ったエルマが、先ほどよりも甘い感情のこもった吐
息を漏らす。
そしてその声は徐々に強くなっていく。
﹁やっぱたまんねぇな。お前のデカチチは﹂
﹁ふふ。ありがとう﹂
ほ
下品な褒め言葉に対し、エルマは怒る様子もなく笑って返す。
もう3年にもなるのだ。
あごひげ
ロビンが口悪くても、実際には気の良い青年だということはとっ
くに知っている。
体格も良く、黒い髪と黒い瞳に、黒く茂った顎髭は多くの女性を
虜にするような野生的な男らしさがあった。
みりょくてき
ヘスターのどちらかと言えば温室育ちの貴公子然とした見栄えよ
りも、ロビンのこの荒々しさがこと性行為においては魅力的なのだ。
ロビンはエルマのブラウスを下着ごとたくしあげ、彼女の胸を直
接わしづかみする。
4
﹁いたっ!?﹂
﹁へっ。悪いな。だが早く済ませなきゃならんのだろう?お前もも
っと気分出せよ﹂
その声に呆れたようにエルマはため息を漏らす。
この男は本当にムードも欠片もない。
心の底でほんのわずかばかり褒めてやったら、その評価を自分で
殺すかのようなタイミングでこういうことをしてくる。
言い分はもっともだが、もっとなんとかならないのか。
そう言い募りたい気持ちをエルマはぐっと抑える。
彼はわざとやっているのだ。
それも、いたずら心や悪意などではなく⋮⋮。
・・
エルマは木についていた手の一方を後ろへと移動させる。
彼のものを探す。
しかし不意にロビンはエルマから距離をとり、エルマの手は宙を
切った。
﹁何?﹂
﹁んや。俺のはいいよ。もうビンビンだしな。それより自分のほと
をあっためな﹂
﹁ん﹂
エルマは自身のロングスカートをたくし上げ、下着の中に手を突
き入れた。
ほお
そして恥じ入ることなく。否、わずかばかり残った羞恥が彼女の
じい
頰を朱に染めていた。
みつつぼ
ロビンは自慰を行うエルマの手を上からそっと、その動作を邪魔
しないように当てる。
彼女の手が突起に集中し始めると、その手を離れ、彼女の蜜壺へ
と侵入する。
5
初めは抵抗が強く、指が一本入るかというほどだったが、次第に
その入り口は彼の手を受け入れていく。
しばらくして彼女の秘部からちゃぷちゃぷと水音が立ち始める。
それは次第に大きく激しいものとなった。
﹁よし、もういいだろう﹂
そう言って、ロビンが自身の剛直を取り出そうとしてガサゴソと
いう物音が聞こえた。
二人は慌てて音の方を向く。
﹁ああ、お楽しみだったか? へへ、悪いな。っとそうそう、偵察
ていさつ
だが⋮⋮やっぱりあの城でまちがいないぜ。あそこに魔族の親分イ
グニシオスがいる﹂
﹁⋮⋮そうか﹂
現れたのはオニキスだった。
先ほどまでイグニシオスがいると見込まれる城の偵察に出ていた
のだ。
オニキスは中肉中背で軽薄そうな顔を浮かべた男だった。
器用な男で、もじゃもじゃの髪の毛の中にはいくつもの彼の秘密
道具が入っているらしい。
単純な筋力で言えば、ヘスターにも劣るであろうその腕は見事な
あなど
動きでレイピアを操り、幾多の魔物たちを倒してきた。
侮れない。
その言葉が彼にはよく似合う。
そんな見た目以上の実力を持った男はやはり軽薄な笑みを浮かべ
て林間に立つ二人に歩み寄って行く。
﹁一仕事したんだ。混ぜてくれよい﹂
6
は
ば
そう言って問答無用でエルマを木から引き剥がすと、四つん這い
にさせて一気にその口に股間を突き入れた。
﹁んがっ!?﹂
エルマは声にならない苦悶の息を吐く。
そして、抗議の目線をオニキスに向けた。
当の本人は素知らぬ顔で、ピロリロと口笛を吹きながら腰を打ち
付けてくる。
エルマは諦めてオニキスの動きに合わせて下をすぼめて吸い付け
る。
﹁お、おお。気持ちいい﹂
オニキスの口からふやけたような声が漏れる。
この男はいつも率直な感想を言ってくるのだ。
この男もなんだかんだで悪い男ではない。
優しさにおいてはこの中では最も欠けている気がするが、それで
も正直さとマイペースさはいつも彼らの空気を和ませていた。
今も気ままに腰を振る彼は、確かにらしかった。
﹁っふ!?﹂
一瞬緩みかけたエルマの体が、一気に引き付けられる。
後ろからロビンが彼女の秘所に突き入れたのだ。
すでにしとどに濡れたそこは、異物を拒むことなくぬるりと奥ま
しぼ
で招き入れた。
みりよう
男の精を搾り取るように、奥へ奥へと脈動するエルマの中は常に
3人の男たちを魅了し続けてきた。
7
たけ
今もロビンは気を抜けば一気に放出してしまいそうな暴力的な快
感にめまいを覚えていた。
何度やってもたまらない。
緩やかに腰を動かし、ロビンは猛りが収まるのを待つ。
ロビンが出し入れを繰り返すたびに、エルマのほとからはいやら
ひわい
しい液体がポトポトと垂れてくる。
前の口からは、唾液をたらし、卑猥な水音がせわしなく森の中に
響いた。
﹁ん。んん﹂
ふんとう
もはや隠すこともなく混じり合う彼らの激しい破裂音やら水音に、
起き上がったヘスターが目をこする。
その晩、3人になった男たちを相手取ってエルマの奮闘は続いた。
★
チュンチュンという小鳥の囀りが、森の中にこだまする。
朝の陽気な日差しが木の間から彼ら4人に降り注ぐ。
むさぼ
彼らは裸のまま、身を寄せ合って眠っていた。
結局、彼らは力つきるまでエルムの体を貪ったのだ。
もしかしたら、それは圧倒的な力を誇っているだろうイグニシオ
スと戦う恐怖から逃れるためだったのかもしれない。
いんとう
景気付け、半分はやけくそになりながら最後になるかもしれない
夜を楽しんだのだ。
彼らはいつもこうしてきた。
ふけ
大きな戦いの前の夜には、決まって願掛けのように激しく淫蕩に
耽るのだ。
8
そして、エルムがいつも先に起きて彼らのための食事を作る。
のろのろと起き上がってきたヘスターたちが喉を鳴らす。
﹁う、んまそうだねぇ﹂
﹁ほんと、ほんと。この戦いが終わったら俺のお嫁さんになってよ﹂
﹁おいおい、お前ら抜け駆けするんじゃねぇよ﹂
男たちが自分を奪い合うように口喧嘩をするのを見て、エルムは
微笑む。
多分にお世辞も含まれているのはわかっているが、やはりこうい
う風に言ってもらえるのは女として嬉しい限りだ。
エルムは戦いでは役に立たない。
この地に残り、彼らの無事を祈るだけだ。
いつもいつも、彼らを見送った後は胸が張り裂けそうになる。
あの恐ろしい魔物たちの元に、この気の良い青年たちを送り出す
など本当は絶対にしたくないのだ。
それでも彼らは止まらない。
エルムのいつも以上に腕をふるった食事を完食した彼らは、強い
決意を瞳に宿らせていた。
今度も無事に帰ってきてくれるのだろうか。
どんどんと不安が募ってくる。
不意に彼女の頰を伝って落ちた涙をヘスターの手が受け止める。
へんたいてき
きちく
﹁大丈夫。俺たちは帰ってくるさ。だからそんなに心配しないで。
ね?﹂
ヘスターの言葉はいつも優しい。
身を重ねるときには他の二人以上に変態的で鬼畜なプレイを要求
してくるこの青年は、街を歩いていれば、あらゆる女性を振り向か
せるような甘い爽やかなマスクで優しい言葉を放ってくるのだ。
9
こら
エルムは涙を堪えることもせず、ただひたすらにその優しさに浸
っていた。
ささや
だんがい
やがてエルムが泣き止むと、﹁よし﹂と言ってヘスターがエルム
に囁いた。
﹁俺たちは行くよ﹂
エルムは今度は強く頷いた。
そして3人の男たちはエルムに背を向けて歩き出す。
向かうは諸悪の根源イグニシオスの居城ある。
彼らは森を抜け、イグニシオスの城を臨むことのできる断崖の上
にやってきた。
城は海上、四方を切り立った崖に囲まれた山のような小島の頂上
にある。
船を使っていくことはできない。
小島の周囲には不規則に発生する大きな渦ができていて、海から
近づこうとするものを拒んでいた。
ではどうするか。
魔物たちを見ればそれがわかる。
彼らは、あの完全に孤立した城から空を飛んで行き来していた。
ゆえに城の入り口も上の方にある。
それもたった一つ。
頂上にあるテラス以外に入り口らしきものは外から見当たらない。
ヘスターたちは1年半ほど前に一度ここに来てそのことを知った。
そして空を移動する手段を探して旅をした。
この地に戻ってきた彼らは当然今、それを持っている。
﹁いいかい。呼ぶよ?﹂
﹁うん﹂
﹁頼む﹂
10
オカリナ
仲間二人が頷くのを確認して、オニキスが土笛を取り出す。
かな
その音色は優しく、そして勇ましかった。
オニキスが奏でるメロディに誘われて、一羽の巨大なペリカンが
現れた。
ものすごい勢いで彼らの元に急降下してくると、そのまま彼らを
かつくう
丸呑みにしてしまった。
そしてペリカンの滑空はまだ止まらない。
勢いよく旋回し、その先にあった大きな木に頭をぶつける。
﹁ぐが、があ!?﹂
間抜けな声を出して、ペリカンはオニキスたちを吐き出す。
たしな
転び出てきた彼らも間抜けな顔をして、しばし立ち尽くしてしま
う。
その中でいち早く正気を取り戻したロビンがペリカンを嗜める。
﹁ったく。どんくせえんだから、いちいちかっこつけようとすんじ
ゃねぇよ。ほら、さっさと運べ﹂
そう言ってペリカンにげんこつを入れると、ガバリとその口を開
いて再びその中に入る。
残る二人もやれやれと方をすくませながら、その後に続いた。
ぬ
気を取り直して、ペリカンは翼を大きく羽ばたかせると、大空に
舞い上がり魔物たちの間を縫って城までたどり着いた。
﹁ああ、やればできるじゃん。ありがとう﹂
﹁そうそう。あんがとよ﹂
ヘスターたちはペリカンに感謝して、彼が立ち去るのを見送った。
11
ペリカンは空を優雅にかけていく。
そして、その姿が遠くに消えるのを待つことなく、彼らは城の中
へと目を向ける。
﹁誰もいない?﹂
その中は異常なほど静かだった。
外から見たときはあれほど往来があったというのに、彼らが足を
踏み入れてみれば人っ子一人いない。
否、トカゲの一匹。クモやネズミすらいなかった。
魔物特有のおぞましい気配も全く感じることができず、ヘスター
たちは不気味な城に背筋が寒くなるのを感じた。
オニキスはヘスターとロビンの肩を静かに叩くと、固く引き結ん
だ自分の唇の前に人差し指を立てた。
そして、その指をゆっくりと城の奥のある一点に差し向けた。
ヘスターとロビンは首を動かさず、視線だけをそちらに向ける。
そして二人はその目を見開いた。
その視線の先には幾重にも連なった扉がヘスターたちを招き入れ
るように開け放たれていた。
﹁罠だろうか﹂
オニキスがこそりと二人の仲間にだけ聞こえるように言うと、ヘ
スターが短く返した。
﹁行くしかないよ。罠だとしてもね﹂
どちらにしろ、彼らは城の構造などわかっていないのだ。
あれを罠だと思って違う道を選んだとして、実は裏をかいてそこ
に本当の罠があるのかもしれない。
12
考え始めればキリがないのだ。
そういう意味では、初めから道が示されているのは楽で良い。
3人は互いに頷いて、扉へと歩き始めた。
コツコツと3人の足音が大きく響く。
彼らは警戒を怠ることなく、ゆっくりと足場を確かつつ、罠がな
いか目を走らせつつ進んでいく。
3人が扉をまたぐたびに、後ろの扉が大きな音を立てて閉じてい
く。
閉じられた扉はどうやっても開くことができなかった。
後戻りすることができなくなった3人は、やはりそれでも警戒を
怠ることなくしっかりとした足取りで奥へ奥へと入っていく。
そして彼らの目の前に、待ち構えていたように巨大な扉が現れた。
﹁この向こう。⋮⋮いるな﹂
﹁ああ﹂
先ほどまでありえないほど全く感じられなかった魔物の気配が、
今度はこれでもかというほどに3人の知覚を刺激していた。
凄まじい威圧感。
扉越しでも感じられるほどの邪悪な気配は、これまで3人が死ぬ
ような思いをしてやっと倒してきた魔物の強敵が可愛く見えるくら
いにずば抜けていた。
勝てない。
3人の頭にほぼ同時に浮かんだ直感は、しばし彼らを硬直させる
ことになった。
鍛えていればいるほど、実力が高ければ高いほど、相手との力の
差は如実にわかってしまうのだ。
前に魔物の強敵を倒した時に比べれば、自分たちは確かに実力を
あげている。
13
それでも、扉の向こうにいる魔物に勝てる気が一向にしない。
しかし、すでに引き返す道は塞がれてしまった。
後戻りはできない。
彼らは完全な死の予感を持っていた。
もはやこの扉を開くしかなく、そして開けば最後、その向こうに
いる魔物にあっけなく殺されてしまうだろう。
﹁⋮⋮俺が開けるよ﹂
重く苦しい空気の中、決意したヘスターが歩み出る。
二人が扉に目を向けて、警戒する中、ヘスターが両手を扉につい
てぐっと押す。
そして、扉は開かなかった。
﹁お、重い。ごめん。二人とも手伝って﹂
﹁はあ? ったくしまらねぇな﹂
ぼやいたロビンとオニキスが一緒になって扉を押すが、やはり開
かない。
彼らは大変な間違いを犯していた。
そう、その扉は引いて開けるものだったのだ。
じゆうたん だんじよう
2、3分ほどして気がついた一行は、少しばかり顔を赤らませな
がら、その扉を開いた。
そこはまさに玉座の間だった。
扉からまっすぐに敷かれた赤い絨毯が壇上の玉座まで伸びている。
そして玉座は眩いばかりに黄金に輝いていた。
その座はやはし真紅であり、そこに体を載せているのはうら若い
14
女性だった。
と言っても、人間ではないことはすぐにわかる。
青白い肌に横に鋭く尖った耳、見ているだけで魅了されてしまい
そうなルビーの瞳。
3人は人型の魔物など見たことがなかったが、玉座に座るものが
魔物たちの主だと感じていた。
﹁お前が魔物の総領イグニシオスだな? 正義の名の下にお前を征
伐する﹂
ヘスターが勇気を振り絞ってはいた言葉に、玉座の魔物は首を傾
げる。
﹁イグニシオス? なんだ、それは? 私の名はカサンドラ。この
イーニアス城の主だ。何かと勘違いしているのではないか?﹂
﹁なにを!?﹂
3人はほんの一瞬、混乱した。
しかし、それがどうしたというのか。
そもそも名前などどうでも良いのだ。
こいつは明らかに強く、そして魔物たちの主だと自分で言ってい
るのだから。
3人が探していた魔物の総領であるならば、それでよし。
剣を構えるとカサンドラに向かって走り始めた。
﹁まあ、待て。少し話そうじゃないか﹂
カサンドラがそう言って腕を3人に向けてかざすと、彼らの足が
床を滑る。
否、まるで床が後ろ向きに動いているように一向に前へ進むこと
15
ができない。
焦れたロビンが勢いよく飛びかかると、突風に押されるようにし
て元の位置に送り返されてしまった。
﹁なんてやつだ﹂
その光景を見ていたあとの二人が足を止めると、床に流されるよ
うにして同じく元の位置に戻ってしまう。
呆然と立ち尽くす3人を見て、カサンドラがケタケタと笑う。
﹁威勢の割に大したことのない奴らだな。剣を振るうしか能がない
のか﹂
﹁くっ﹂
それは見事に彼らの図星を突いていて、3人は苦々しく顔を歪ま
せる。
もしも3人のうち誰かが弓を使えれば、この距離からでもカサン
ドラに一矢報いることができただろう。
しかし、悲しいかな。
彼らは見事に手に持った剣を振るうことしかできなかった。
ロビンとヘスターは大剣を、オニキスはレイピアをひたすらに極
めてきたのである。
ここまで全く接近できないとなれば、彼らにカサンドラを攻撃す
る手段はなかった。
そしてカサンドラが3人を攻撃する手段はというと。
﹁炎!? んなバカな? おとぎ話かよっ﹂
﹁くそ。魔物の首領は伊達ではないということかっ﹂
青い炎がカサンドラの手のひらの上に浮かび、それがゆらゆらと
16
燃ゆる。
た
それは静かに、音もなく部屋の中を焚き上げる。
その火の大きさ自体はカサンドラほどしかないというのに、それ
が出現した瞬間、部屋の中の温度がものすごい速度で上がっていく。
しやくねつ
それはまるでオーブンの中にいるようなものだった。
最早なすすべもなく灼熱に抱かれる男たちを見て、カサンドラは
笑って話しかける。
﹁どうだい? 話をする気になったかい?﹂
カサンドラが手のひらをぎゅっと握ると炎は消え、部屋の温度も
元に戻った。
しつた
しかし、ヘスターたちは干からびて、すでに汗も出ないほどにカ
ラカラになっていた。
しぼんで、前を見ることも難しくなった目を叱咤して、ヘスター
たちはカサンドラを見る。
それを同意と受け止めて、カサンドラが話を続けた。
﹁さっきも言ったけどね。私はカサンドラでこの城の主だが、魔物
の首領とやらにはなった記憶がない。それにイグニシオスというの
も初めて聞いたんだが、それはどこの誰が言っていたんだい?﹂
カサンドラは本当に不思議がっているようだった。
そもそも、完全に手玉に取った相手に対してわざわざ嘘をつく必
要もない。
真にカサンドラはイグニシオスではないのだろう。
もしかしたら、イグニシオスなどいないのかもしれないが。
3人が同様に頭の中で考えを巡らせて、オニキスが代表して答え
た。
17
﹁王都を襲った魔物が言っていたんだ。我々は首領イグニシオスの
配下だとな。その魔物がどこからやってきたのかは知らないが、こ
の城は常におびただしい量の魔物が往来していた。だからこそ、俺
うそぶ
たちはここが魔物の首領の居城だと思ってやってきたんだ。こんな
無様な結果になっちまったがな﹂
﹁ふうん。なるほどねぇ。きっとその魔物が嘯いただけなんだろう
けど、もしかしたら本当にいるのかもしれないねぇ。イグニシオス
とやらは。⋮⋮よし、いいだろう。お前たちを生かして返してやろ
う﹂
そう言うとカサンドラはその真紅の瞳を3人に向けて、光らせた。
その眩しさに3人が目を覆っていると、カサンドラが溶けたよう
に薄くなって、ヘスターの体に入っていった。
そしてカサンドラは音もなくヘスターを変質させる。
自分に合うように、内側から本人に気づかれることもなく。
眩しい光がたち消えて彼らが再び目を開いたとき、そこにカサン
ドラはいなかった。
﹁俺が倒したよ。この剣で﹂
不思議がるオニキスとロビンに、ヘスターが青い血の付いた剣を
二人に見せた。
その瞬間、彼らの頭に偽りの記憶が刷り込まれる。
﹁ああ、確かにお前が倒したな。よくやった﹂
﹁お前、スゲェな。どこにそんな力隠してたんだ?﹂
にご
そう言って、彼らは瞳の奥に濁りを残したまま城を後にした。
18
PDF小説ネット発足にあたって
http://novel18.syosetu.com/n6291dm/
HEROICA − エロイカ −
2016年9月17日12時46分発行
ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。
たんのう
公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ
うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、
など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ
行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版
小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流
ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、
PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル
この小説の詳細については以下のURLをご覧ください。
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