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ソブリン債務再編の国際規律をめぐる法秩序構想

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ソブリン債務再編の国際規律をめぐる法秩序構想
Annual Report No.28 2014
ソブリン債務再編の国際規律をめぐる法秩序構想
Sovereign Insolvency Law in Decentralized Legal Order:
Projects for the Global Governance on Sovereign Debt Restructuring
H26海人11
派遣先 第5回4学会国際会議、於・オーストラリア国立大学
(オーストラリア・キャンベラ)
期 間 平成26年7月1日~平成26年7月2日(2日間)
申請者 ジュネーブ国際開発高等研究所 PhD Candidate 中 島 啓
この点、民間事業者と異なり、主権国家は
海外における研究活動状況
自らの「事業」を終了することはできず、その
研究目的
国家領域を統治し、その国民を保護するため
本報告は、分権的国際社会においてソブリ
に存続し続けなければならない。倒産処理法上
ン債務再編を規律する国際法秩序がいかにし
の用語に引きつけるならば、破産した国家には
て成立しうるかを探究するという、申請者のプ
「清算」の選択肢は無く、
「再建」に向けた途を
ロジェクトの一環として、従前の議論状況を
辿ることを運命づけられているということにな
再訪するものである。
る。そうであるが故に、経済金融危機からのス
ムーズな脱却が重要であり、
「ソブリン債務再
海外における研究活動報告
編(Sovereign debt restructuring)
」と呼ばれる
民間事業者と同様、主権国家も自らが抱え
事後的な債務整理がその不可欠の一部を構成
る債務の不履行を宣言することがある。一般
する。
に、国家および政府関係機関が発行する債券
ところが、そうした債務再編は、必然的に
(ソブリン債)は信用格付けが高いと考えられ
債券保持者に「痛み」を求めることとなる(額面
ているものの、歴史的に見れば、国家による債
価値の目減りや、債券償還日の繰り延べなど)
。
務不履行(デフォルト)の宣言は必ずしも珍し
それ故、これを不服とする(少数の)債券保持
い現象ではない。金融危機や経済不況に伴い、
者は、債務再編プロセスへの参加を拒絶し、
とりわけ発展途上国は、対内・対外債務の不
代わりに、公債契約の紛争処理条項に基づい
履行を繰り返し宣告してきた。歴史的には欧
て仲裁や国内裁判所へと提訴し、債権回収を
州諸国においても、戦争後の疲弊状況や通貨
試みようとすることがある。こうした企てが、
危機に端を発するデフォルトの宣告例が見ら
ソブリン債務再編プロセス全体に悪影響を及
れる。今日でも、ギリシャやアイルランドといっ
ぼすことは、つとに指摘されてきた。というの
た債務超過国がデフォルトのリスクを抱えてい
は、再編参加債権者よりも有利な債権回収を
る。このように、ソブリン債務不履行は国際社
提訴債権者(再編不参加債権者)が行うことが
会における恒常的課題である。
できるのであれば、債券保持者が再編プロセス
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The Murata Science Foundation
へと参加するインセンティブが失われてしまう
際法の根本的課題を同根とするものである。
からである(いわゆる「集団行動問題」)
。例え
そこで本報告では、こうした従前の構想を
ば、上記アルゼンチンの債務再編は90%以上
今日的視座から振り返ることを通じて、分権
の債券保持者の同意を得たものの、額面価格
的国際社会おいてソブリン債務再編を規律す
の完全履行を求める一部の債権者による訴訟
る国際法秩序がいかにして成立しうるかを展望
(NML v. Argentina)において請求を認容する
した。こうした議論状況の整理は、ソブリン債
判決を米国裁判所が下した結果、国際通貨基
務再編に関する国際法規律に関する申請者の
金(IMF)は、同判決がアルゼンチン債務再編
研究プロジェクトにおいて序論的位置づけを占
に対して与える悪影響を強く懸念した。経済
めるものである。この点、申請者が参加した国
学者Joseph E. Stiglitzも、
「ハゲタカの勝利(the
際会議は、国際法のネットワークを通じたグ
vultures’victory)
」との表現で、現在の法状況
ローバル・ガバナンスの模索を主題とし、本プ
に懐疑的な見解を示している。
ロジェクトのいわば総論的部分を構成する本報
そうであるが故に、ソブリン債務再編プロセ
告のブレインストーミングを行う場として適切
スに秩序を与えるべく、これまで様々な構想が
であり、有益なフィードバックを得ることがで
提案されてきた。もっとも、その内容は多様
きた。
であり、国家の倒産法制(米国の連邦倒産法)
この派遣の研究成果等を発表した
の類推適用を説く議論(論者によっては「国際
破産裁判所」の設立)や、IMFが提唱したソブ
リン債務再編メカニズム(SDRM)
、債務再編
プロセスを「国際公権力(international public
authority)
」の行使として捉えようとする近年の
議論など、多岐にわたる。とはいえ、その最大
公約数を抽出するならば、分権的国際社会に
著書、論文、報告書の書名・講演題目
Kei Nakajima,‘Traditional and Modern Designs for
International Law of Sovereign Debt Restructuring:
Towards Sovereign Insolvency Law in the Decentralized
Legal Order’, Experts, Networks and International
Law, the Fifth International Four Societies Conference
(ANZSIL/ASIL/CCIL/JSIL), Australian National
University, Canberra, Australia, 1-2 July 2014.
おいていかに法秩序を構築していくかという国
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