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年長園児へのIT教育を始めることで 見つめ直す『自園の教育』 21世紀型
年長園児へのIT教育を始めることで 見つめ直す『自園の教育』 21世紀型幼児教育のあり方を考える 聖愛幼稚園 園長 野口哲也 コンピュータとの「出会い」 私が初めてコンピュータに興味を持ったのは小学校4年生、大好きなマンガの影響でした。 以来、くっついたり、離れたりしつつも、コンピュータとの関係は続き、今に至ります。 聖愛幼稚園に就職し、事務方として仕事をするも、「別に自分がいてもいなくても関係がない」 という事実に気がついてしまい、少しでも存在感を出すべく、好きなコンピュータを幼稚園の実 務に使い始めました。それと平行して、中古のMacを数台買い、教育ソフトをインストールして 子どもたちと遊ぶようになりました。なので「ITを取り入れた教育に未来を感じていた」と言う より「園で私しかできないことをやれば、少しは周囲に認めてもらえるだろう」という何とも不 純な動機から聖愛幼稚園にコンピュータが導入さ れるようになったのです。 そして、今から数年前にスマートエデュケーション さんとの出会いがありました。子どもを馬鹿にし たようなアプリが多い中、「子どもだからこそ良 いものを」という信念を持ってアプリを作られて いるその姿勢に共感し、子ども用MacをiPadに乗 り換えました。でも、まだ「一遊具」として子ど もに自由に触らせる程度の位置付けでした。 KitSの導入 正課の授業としてiPadを使った教育を展開するという「KitS」のお話を池谷社長から聞いたとき、 正直、かなり悩みました。たしかに、「創造力、チームワーク力、IT力の、3つの生きる力を 育む」というKitSのコンセプトは素晴らしいし、大いに賛同できる。しかし「幼稚園でiPad」と いう単純化した情報だけが保護者に伝われば、「なぜ幼稚園でわざわざiPadなのか?」「ゲーム ばかりさせていいのか?」「本当に子どもの力が伸びるのか?」という批判が出てくることは予 想できましたし、それにしっかりと向き合い、説明できる度胸と覚悟が自分にはまだないと思っ ていたからです。 ただ、普段、教諭には「マンネリにならないように」「去年の焼き直しをするだけの保育に陥ら ないように」などと偉そうに言っているくせに、自分が「保護者からのツッコミが怖いから止め ておこう」というのでは情けないではないか!園長自ら「新しいこと」にチャレンジする姿を見 せるべきではないか!と考え方を切り替え、導入するに至りました。 導入する中で 保護者には「決して今までの保育をiPadに『置き換える』ようなものではないこと」「IT化は保 育の効率化を図るものではないこと」を折に触れて説明しました。また「21世紀型スキル」の中 に「情報リテラシー」が含まれており、ITをツールとして使いこなす能力がこれからもっと必要に なること、そして、子どもとスマホの出会いは 年々早期化している中で、ITを「単なる暇つぶ し」ではなく「有効なツール」と認識させる ためにも、幼児期でのITリテラシー教育は有 用であることも伝えました。いくつか質問が ありましたがひとつひとつ説明することで納 得していただけました。 一方の子どもたちは、初回からウキウキワク ワクして、大喜びでiPadに触れていました。 ただ、それは「iPadという新しい機器に触れ るのが楽しい」のであって、「私がおこなう 授業が楽しい」というのとは少し違う気がしま した。何回か授業を経て、子どもたちがiPadを「物珍しく感じなくなった時」からが授業の真価 が問われると感じ、カリキュラム作成にも熱が入りました。 スマートエデュケーションさんのアプリはどれも非常に高いクオリティを持っています。音楽アプ リ、絵本アプリ、お絵かきアプリ、どれも本当によくできています。でも、KitSにおいては「ア プリを使えるようになること」が目的では無く、アプリを使って子どもたちの創造力、チームワー ク力、IT力を伸ばすことが目的なので、その要となる「カリキュラム」の作成には細心の注意 を払いました。KitSには年間カリキュラムがあるのですが、それをベースにしつつ、「より聖愛幼 稚園の実情に合った形」になるようスマートエデュケーションのスタッフさんと一緒にチューニン グしていきました。 また、毎回の授業の振り返りを通して、「もう少し、子ども同士の会話が生まれるような形にし ましょう」「敢えて今回はiPad無しでいきましょう」「プレゼンを取り入れて発表力を伸ばしま しょう」等々、意見交換を重ねることで、カリキュラムはより充実していきました。 成長・発展 何度か教えただけでスリープボタンやホームボタンの位置を学び、スワイプして写真を変えたり、 ピンチイン・アウトを使いこなす。子どもの吸収力には改めて驚くばかりです。ITスキルは順調に 伸びています。彼らがiPadを「ゲーム機」としてでなく「ツール」として使いこなす日は決して遠 くないと感じます。 また、コミュニケーション力を育てるために、実際には1人1台ずつあるiPadを敢えて2人1台 で使わせてみたり、4人1台、時にはiPadを使わず「話し合う」授業もおこないました。KitSは あくまでも、子どもの成長のためのプログラムであり、そのためにiPadが必要であれば然るべき アプリを活用しますし、必要無ければ、き わめてアナログな授業展開もおこないます。 その甲斐あってか、自分なりの意見を相手 と交わし、より良い答えを模索する姿や、人 の発表に耳を傾け、それに対して質問をする といったコミュニケーションが増えてきまし た。これはもちろん、KitSの成果でもあり ますが、園長が子どもに対して「伸ばしてあ げたいこと」を各教諭がKitSの授業を通し て理解し、普段の保育においても意識してく れたからだとも思っています。 また、デジタルな授業が入ってくることで、 改めて「今までの保育の魅力」に私も教諭 も気付くことができました。「これはiPadにはできないこと」が分かることで、アナログならで はの保育を更に磨き上げることができると思うのです。黒船的な「KitS」が入ってきたことで園 内は大騒ぎとなりましたが、これまでの文化の長所と、新しい文化の長所を合わせて、「教育の 文明開化」が起こっていくような手応えを感じています。 これから これまで試行錯誤する中で、幼児期におけるITは非常に大きな可能性を持っていると感じてい ます。特にタブレットにはパソコンにはない可搬性や起動の速さがあり、従来の教育とコンピュー タとの親和性をより高めてくれると感じています。 しかし、惜しむらくは私のアイディアの乏しさであり、この程度で幼稚園園長を名乗ることに対す る後ろめたさもあります。ですが、こういうカンファレンスを通じ、多くの保育経験豊かな先生方 が、「デジタルならでは」「幼児期ならでは」「集団生活ならでは」のカリキュラムのアイディア を交換し合えたら素晴らしいと思っています。 リアルな楽器演奏とiPadとの合奏 何百曲のリクエストにも瞬時に応えます! 「食パン」に何をのせる? 正解はなく、アイディア勝負 失敗を恐れず伸び伸び描いています 自分の好きなものを発表します iPad版「show&tell」です 「らくがキッズ」で他の子の作品をチェック 「まねる」ことは「まなぶ」の 語源だとか 「これ何に見えるかな・・・」 二人でアイディアを出しながら描いています 担任の撮影会「面白い写真」を撮りましょう 多様な視点を持って制作に生かします