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撮影 藤澤 順一氏
劇 映 画 八日目の蟬 2011年4月29日(金) より全国公開 製作: 「八日目の蝉」製作委員会 製作プロダクション:ジャンゴフィルム 配給:松竹 出演:井上 真央、永作 博美、小池 栄子、森口 瑤子 ほか ◆ストーリー 1985年2月、妻のある男と不倫関係にあった野々宮希和子(永作博美) は、ある雨の日、 その男の家に侵入し、眠っていた恵理菜という赤ちゃんを衝動的に誘拐してしまう。子 どもを持つことが出来なかった希和子は赤ちゃんを薫と呼び、自分が母親として育てる ことを決意する。そして、 「エンジェルホーム 」 、小豆島のそうめん工場などに身を隠し ながら薫を育てるが、やがて警察に逮捕されてしまう。後に薫は秋山恵理菜(井上真央) として、17年後には大学生となっていた。自分を可愛がって育ててくれた優しい母が誘 拐犯だった…という衝撃の事実を忘れようとしていたが、恵理菜自身も気がつけば不倫 をし、相手の子を身ごもっていた・・・。 女性としての悲しみと生きる強さを描く、 角田光代さんのベストセラー小説を映画化 この作品の原作は、直木賞作家 角田光代さんが手掛けた初の長編 サスペンスで、2005年11月から読売新聞で連載され、第2回中央公論 1950年、千葉県生まれ。1985年、鈴木清順監督作品「カポネ大いに泣く」 でカメラマンデビュー。 「月はどっちに出ている」 (1993年) で第15回ヨコハ マ映画祭撮影賞、 「ターン」 (2000年) 、 「狗神」 (2001年) 、 「ココニイルコト」 (2001年) で第56回毎日映画コンクール撮影賞を受賞。最近の主な撮影 作品として、 「クイール」 (2003年) 、 「空中庭園 」 (2005年) 、 「しゃべれども しゃべれども」 (2007年) 「 、犬と私の10の約束(2008年) 」 「 、フレフレ少女」 (2008年) 、 「ラブファイト ( 」2008年) 、 「孤高のメス」 (2010年) などがある。 3 また、希和子が警察の目を逃れるために髪を切るシーンがあります。 場合には欠くことできないものですね。 当初台本では美容室で切ることになっていましたが、ヘアメイクの方 の提案で、トイレで希和子が自分で切るというシーンに変更になりま で、男と妻との間にできた赤ちゃんを連れ去る野々宮希和子を演じる この映画は、現在と過去、四季の移り変わりなど長い時間軸の中で展 のは、女優の永作博美さん。そして、その誘拐犯・希和子に薫として 開される物語です。時間の階層が入り組んだシーンが100以上ありま した。女性の命である髪を自分の手でバッサリ切る。これによって、 希和子の追い詰められた状況が、より鮮明になったと思います。この 作品の撮影現場は、スタッフそれぞれがこのようにアイディアを出し 合って、作り上げて行きました。 育てられ、後に両親のもとに戻るが心を閉ざしたまま大人になる秋山 したので、撮影にあたってはまず台本をマーカーで色分けして、それ 恵理菜を、女優の井上真央さんが演じています。誘拐という犯罪へと ぞれのシーンをどう表現するか細かく構成していきました。時間軸や 走らざるを得なかった希和子の心の葛藤。 「今日まで母親だと思って 季節ごとにフィルムを変えていこうかと思い、フィルムテストを行いまし 映画における感動とは、 携わった人の想いが映像を通じて観える、感じられること いた人が、自分を誘拐した犯人だった」 という恵理菜の衝撃の過去。 たが、結論としてはE TER NA 500 (8573) 一品種で通すことにしまし フィルムはいい。きっと誰しもが感じていることだと思いますが、フィ 蟬は何年も土の中にいて、地上に出て七日目に死ぬ。しかし、もし八日 た。現在のシーンには暖色系のフィルターを使い、過去の回想シーンは ルムに匹敵するようなデジタル機器が登場してきていることも事実で 目まで生きている蟬がいたとしたら、その蟬は幸せなのだろうか?自 フィルター無しで撮ることにより、時間の差を表現することにしました。 す。しかし、心配なのは、デジタルから入った若い撮影部のスタッフた 分の未来がどうなるかもわからない、まるで八日目を生きているような E TER NA 500は、感度、粒状性、カラーバランスなど総合的にみて ちが、フィルムを知らずに育ってしまうことです。フィルム撮影の魅力や ものだと思って生きてきた女性たちが、女性として生まれたことの悲し 非常に撮りやすいフィルムです。彩度もでしゃばり過ぎず、フィルムなら メリットを学べなくなってしまうことは大きな問題だと思います。35ミリ みと、その事実を受け止めて生きる強さを描いた衝撃の人間ドラマで ではの温もりというか、人間味が感じられ、この人間ドラマにはすごく があって、16ミリがあって、H Dもある。テーマに合った撮影手法を選 す。この作品を観た皆さんが、それぞれの女性の姿を通して、何かを フィットしていると思いましたね。 択する。使い分けが大切です。そして、撮影の現場では、カメラの横で 感じてもらえたらと思っています。 ポジフィルムは新製品のE TER NA - CP DI(3514)を使用しています 監督の話し声が聞こえ、スタッフの顔が見え、会話が行き交う。皆が が、従来品にあったシアン味が抜け、グレーバランスが改善さました。 それぞれの体温の感じ合える距離にいることが重要なのだと思いま 人物描写に適応しており、作品の想いが伝わりやすかったですね。 す。画作りをモニターに縛られるようではいけません。これは映画製 作では絶対に必要なことで、良い作品とはそうした場から生まれてく だき、今回が3本目の作品です。監督は、本当にまじめな方で、映画づ スタッフそれぞれが、 アイディアを出し合い、作り上げた「こだわりの映像」 くりに関しては一切の妥協を許さない方です。私自身も見習わなくては 秋山家のある住宅街、同じキャメラポジションからの演出。赤ちゃんを と思うことが実に沢山あります。監督は芝居や画づくりについてあまり 誘拐した希和子が豪雨の中、住宅街の坂道を逃げて戻るシーン、両親 成島 出監督とは、 「ラブファイト」 、 「孤高のメス」 でご一緒させていた Junichi Fujisawa 特に今回のようにこども (赤ちゃん) が作品の重要なパートを担っている 不実な男を愛して子を宿しながら、母となることが叶わない絶望の中 芝居の臨場感を大切にする監督と阿吽の呼吸で、 約80%を手持ち撮影でこなす 藤澤 順一 氏 密着焼きの写真プリントを用意するなど、細部にまで気を使いました。 ETERNA 500の持つ、 フィルムならではの温もりで人間ドラマを描出 文芸賞 (2007年) を受賞し、多くの賞賛を集めたベストセラー小説です。 撮 影 ようです。手持ち撮影は機動性に富んでおり、役者の表情を追うこと、 るのではないでしょうか。私は、さまざまな映画を観ながらいつも 「感 動とは何だろう」 と考えています。人によってさまざまな意見があると は思いますが、私はその映画に携わった方々の数々の想いが、芝居や 映像を通じてリアルさを加え、それが大きな感動に繋がっていくのか なと思っています。 細かな指示を与えたりする方ではありません。監督の考えていること のもとに引き取られた薫=恵理菜が雪の降る中、同じ坂道を駆け下り を自分なりに解釈し、それが監督の頭の中のイメージと同等、あるい てくるシーンが象徴的でした。雨や雪のシーンは大掛かりになるため、 はそれ以上の映像表現をしていくことが私の役割だと思っています。 台本に書いてあるとスタッフは皆ドキッとするのですが (笑) 、この作品 また、ご自身が原作を相当気に入っていらっしゃり、長い構想期間を はそれがかなり重要なポイントでしたので、全員で相当集中して撮影に 経て実現した作品でしたので、監督から 「この作品で、ようやくお互い 臨みましたね。大人になった恵理菜が、希和子と一緒に撮った写真を がわかってきましたね。 」 と言われたことは意義のあることと受け止め 求めて、写真館を訪ねるシーンでは、写真館の店主が昔のネガを暗室 ています。監督の作品は長回しの撮影が比較的多いですね。それは で現像するのですが、現像液に入れた印画紙に人物が徐々に浮かび もちろん芝居の臨場感を大切にしたいからですが、この作品は、長回 上がってくる様子を、雰囲気を出すために、セーフライトだけの光量で 使用機材 カメラ:ARRICAM LT レンズ:ツァイスセットレンズ(25mm、35mm、50mm、65mm) 65mm、14mm、Zoomレンズ しの他、作品全体の約80%を手持ちで撮影しています。私自身が台 撮影したのは苦労しました。それと、実際の写真プリントの映像をスク 撮影ネガフィルム 本を読み、この方法がいいと判断しましたが、監督も同じ思いだった リーンサイズに拡大するとどうしても粗くなってしまうので、精度の高い 上映ポジフィルム 500 CP DI 4