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高速電磁弁を用いた空圧システムのエネルギー回生

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高速電磁弁を用いた空圧システムのエネルギー回生
高速電磁弁を用いた空圧システムのエネルギー回生
Energy harvesting of pneumatic system using high-speed valve
高知工科大学 大学院
工学研究科 基盤工学専攻
知能機械システム工学コース
1175028
岡部 昂希
指導教員 岡 宏一 教授
― 目次 ―
1. 緒言
1.1
1.2
1.3
……………2
……………2
……………3
……………3
研究背景
研究目的
油圧と空圧の違い
2. 回生システム
…………… 4
2.1 PWM 制御形油空圧シリンダ駆動装置
2.2 回生方法
2.2.1 チャンバ内発生圧力の回生
2.2.2 作動流体慣性力を利用した回生
3. チャンバ内発生圧力の検証
3.1 実験装置
3.2 シミュレーション
3.2.1 空気圧系の計算
3.2.2 モデルの検討実験
3.3
……………
……………
……………
……………
4
5
5
6
…………… 8
…………… 8
……………11
……………11
……………14
実験およびシミュレーションとの比較
3.3.1 駆動方法
3.3.2 結果と考察
3.4 両ロッドシリンダ装置の検討
……………15
……………15
……………16
……………27
4. 作動流体慣性力を利用した回生の検討
4.1 1自由度シミュレーションによる検討
4.2 2自由度シミュレーションによる検討
……………29
……………29
……………32
5. 結言
……………34
謝辞
参考文献
1
……………34
……………34
1. 緒言
1.1
研究背景
エネルギ問題は種々の分野で論議されており,化石燃料を直接消費する自動車の燃費
改善や,電動機における効率などに厳しい要求が課されるようになってきている.油圧
ショベルなどに代表される建設機械は1台でのエネルギ消費量が大きく,省エネ化が最
重な課題の一つとなっている.このような大きなパワーを必要とする建設機械の駆動装
置は,単位質量当たりのパワーが電動モータと比べて大きい油圧駆動装置が用いられる
ことが多い.その利点から工場のプレス機や加圧装置等にも利用される.しかし,油圧
駆動装置は電動モータと比べてエネルギ効率が悪いことが知られている.特に従来から
よく用いられているバルブの圧力損失で圧力の制御を行う方法では,多くのエネルギを
無駄に消費している.
この対策として,ハイブリッド自動車のように不要なエネルギを回収して一時的にバ
ッテリに蓄電し,必要な時にエンジンの駆動力の補助として利用するシステムが開発さ
れている.(1) また似通ったものとして,ブームの運動エネルギを回生するハイブリッド
建機が開発され製品化されている(2).これはブームの旋回方向や位置下げ方向の運動にお
いて,減速時などの運動エネルギを発電機(ハイブリッドモータ)を介することにより
電気エネルギとしてキャパシタに貯え,そのエネルギを電動モータ駆動の補助に利用す
るものである.このような電力への変換によるバッテリ蓄電の回生システムは,これま
でも様々な研究開発が重ねられており高い実用性と信頼性を保持していると言える.し
かし,エネルギ変換による損失やバッテリが高価であるなどの問題も抱えている.そう
いった理由からバッテリを利用したエネルギ変換を行う回生方法ではなく,圧力エネル
ギを直接高圧源に回収し回生を行うシステムが開発され特許として挙がっている.(3)(4)
斜板式可変流量モータポンプを利用したハイドロトランスフォーマや CVT を間に介した
モータポンプを用い,流量と回転トルクの変換により低い圧力から高い圧力へ作動流体
を流すことで圧力エネルギを回収するというものである.しかしこの回生システムも,
作動流体の漏れや発生する摩擦の問題から高い回生効率を実現することは難しく実用化
は確認されていない.
このように,様々な手法において圧力駆動装置の効率化は試みられているが未だエネ
ルギ消費効率は悪く,その省エネルギ化技術の需要は高いと言えるだろう.
2
1.2
研究目的
前述のような力学系から電気系へ変換し蓄電する方法では,貯えられたエネルギを使
用する場合に電気系から力学系へ変換する必要があり,2 度のエネルギ変換が必要であ
り損失が大きいと考えられる.この変換による損失を失くすために,電気系を介さず油
空圧系のエネルギを直接回生するような新しいエネルギ回生技術を開発することが本研
究の目的である.本稿では油圧機器よりも取扱いが簡単な空圧機器において同様の方式
によりエネルギ回生の可能性について検討・考察したのでその結果を報告する.
1.3
油圧と空圧の違い
油圧機構では主に潤滑性に富む石油系作動油が駆動媒体であるのに対し,空圧機構で
は入手の容易な空気を用いる.このことから,油圧系と空圧系には表 1.1 のような長所・
短所の違いが発生する.特にシステムとして重要な相違点は圧縮率の違いである.実験
装置による性能検討を行う場合,油圧装置では油漏れの危険性や作動油の保全などの問
題があることが表 1.1 からもわかる.そのため,本研究では油圧機器よりも取扱いが簡
単な空圧機器においてエネルギ回生の研究を進め,その結果から油空圧系全体の検討・
考察を行う予定である.
表 1.1 油圧と空圧の長所・短所
油圧
空圧
●無断変速が容易に行へ且つ変速範囲が広い(力,ト
ルクを広い範囲に於いて容易に調節できる)
長
所
●使用圧力が一般であり,軽作業に適する
●気体の圧縮性のため,エネルギの蓄積が容易であり緩
●力,速度,位置などを正確に且つ高応答速度で制御
衝効果がある.また高速作動や短時間に高出力が得ること
できる.特に電子式情報処理と組み合わせると,優れ
が可能である.
た特性が得られる
●配管や装置化が容易
●作動が確実であること
●過負荷に対する安全性
●動力伝達媒体自身が潤滑性に富んでいること
●防爆性(発火性なし)
●構造や特性上の適度な柔軟性
●検出器や理論演算の可能性
●過負荷に対する安全性
●戻り配管の必要性なし
●大出力の制御が可能であること
短
所
●油洩れの発生
●気体の圧縮性に基づき,位置決め精度や応答性が劣る
●作動流体の保全の必要性
●圧縮機まで含めた効率が低いこと
●火災の危険性
●気体の潤滑性を補うため潤滑対策を要すること
●戻り配管の必要性
●圧縮気体中の水分(ドレン)の除去を要すること
3
2.回生システム
2.1
PWM 制御形油空圧シリンダ駆動装置
回生システムは PWM 制御形油空圧シリンダ駆動装置を使用したものであり,システム
概要を図 2.1 の回路図に示す.シリンダの2つのチャンバ各々が高圧タンクの圧力源(レ
ギュレータでほぼ圧力一定)と低圧(大気圧)タンクともに接続できるように計4つの
電磁弁を取り付ける.これらのそれぞれ2つずつの電磁弁を PWM 制御を用いて交互に切
り替えることにより,図 2.2 のように圧力はデューティ比によって決定され2つのチャ
ンバ内の圧力を2つの圧力の間にある目標の圧力へと自由に設定することができる.
図 2.1 回生システムの回路
図 2.2 電磁弁のよる圧力の PWM 制御
4
チャンバ内圧力を制御するという手法のため,両ロッドシリンダと片ロッドシリンダ
では制御特性に差異が生じる.片ロッドの場合左右のチャンバ内断面積に差があるため
であり,ロッド駆動制御にはそれを考慮に入れたデューティ比設定が必要となるだろう.
この駆動システムの利点は,従来の圧力系の制御方法であるバルブの開口断面積を変動
させる方法と異なり圧力損失が発生しない点である.また,高圧と低圧の2つの圧力で
もって PWM を行うことから,電磁弁を高速で開閉させることで極めて高い精密制御性と
応答性を実現することが期待できると思われる.
一方,問題点も存在する.まず,電磁弁の高速開閉に必要となる電力の問題.当然エ
ネルギ消費の大きな要素となり,低く抑えることができなければ効率の悪化に繋がる.
次に,電磁弁の高速開閉により発生する機器の振動及び作動流体の脈動の問題.機械的
な PWM 制御を行う場合,振動の発生は避けられない問題と言える.多くの工業機械や建
機と同じように振動・騒音対策が必要になるだろうことが予想される.また脈動に関し
てもサイドブランチ等の対策が必要になるだろう.最後に,電磁弁の摩耗・損耗による
破損の問題がある.一般的に電磁弁は連続して開閉し続けるような運用法を想定してい
る製品とは言えない.そのため,この制御方法によって電磁弁の耐久寿命が短くなると
考えられる.
2.2
回生方法
2.2. 1
チャンバ内発生圧力の回生
回生方法の1つ目として,チャンバ内に発生する圧力上昇を回収するという方法を提
案する.ロッドが駆動する際,作動流体は脈動しチャンバ内で圧力上昇が発生する.そ
図 2.3
シリンダチャンバ内に発生する圧力上昇
5
のチャンバ内に発生する上昇圧力を,高圧タンクが接続されている電磁弁を瞬間的に開
くことで高圧タンクに回収し回生を行う.特にロッドが高速で駆動した場合,図 2.3 の
ようにロッドの停止時には運動エネルギが進行方向のチャンバ内圧力を一時的に上昇さ
せるため,その瞬間にはより大きい圧力エネルギの回収が期待できる.また,より大き
な荷重でより高速に駆動することにより,圧力の脈動は大きくなり回収可能な圧力も多
くなると考えられる.
前述のように,片ロッドシリンダを使用した場合ロッドの有無によって左右のチャン
バにおける断面積に差が生じる.そのためロッドを押し出す駆動においては,押し出さ
れる側のチャンバ内圧力が大きく上昇し回収可能な圧力エネルギ大きい.逆に引き戻す
ロッド駆動においては,駆動方向であるロッドの存在しないチャンバの圧力は上昇しに
くい.一方,両ロッドシリンダの左右のチャンバ断面積は同じである.そのため双方向
共に制御特性は同じである.しかし,ロッドが左右に突き出しているためパッキンにお
ける摩擦等の問題から,片ロッドより駆動損失が大きいという問題がある.そのため,
両ロッドシリンダではこの回生方法はあまり適さないと言えるだろう.
2.2. 2
作動流体慣性力を利用した回生
回生方法の2つ目として,配管部において作動流体の慣性力による高圧タンクへの逆
流を回収する回生方法を提案する.電気系でのエネルギ回生に用いられる昇圧チョッパ
と同様の手法を油空圧システムに適用する.昇圧チョッパ回路は図 2.4 に示すような電
気回路で,スイッチが ON の時にリアクトル(コイル)に磁気エネルギが蓄積され,OFF
の時に入力電圧とリアクトルのエネルギが加算されて出力側に伝達されるので入力電圧
より出力電圧が高くなるというシステムである.これを油空圧システムに置き換え,慣
性力の効果を利用することで高圧をつくる回生システムを提案する.
この回生における弁部の流れの変化を図 2.5 に示す.PWM 制御を行うため電磁弁は高圧
タンクと低圧タンクの双方接続で交互に開閉する.低圧タンク接続電磁弁が開放される
時,
図 2.5 の(a)のように作動流体はその圧力差からタンク方向に加速されながら流れる.
図 2.4
昇圧チョッパ回路
6
その後,開閉が切り替わると図 2.5 の(b)のように高圧タンク接続電磁弁が開かれる.こ
の時作動流体は加速されているので,その運動エネルギを使い切るまでの間高圧タンク
へ流れることができる.これにより高圧タンクに圧力を戻すことで回生となる.この手
法は開閉 PWM 制御を行うためチャンバ内圧力の制御を行うと同時に周波数の一周期ごと
に定常的な回生が可能である.また,図 2.5 の(b)の切り替えにおいて運動エネルギが無
くなっても電磁弁を開けておくと,当然作動流体は圧力差からシリンダ方向へ流れ大き
なエネルギの損失となる.そのため装置が大型で十分な配管長さがある物であれば低周
波数の開閉 PWM で十分だが,小型で小さい運動エネルギしか発生しない装置の場合には
高周波数の PWM 制御を行うことができる高速開閉が可能な電磁弁が必要であると考えら
れる.
この回生方法の問題点は作動流体によって得られる運動エネルギに差が生じることで
ある.ニュートン力学において、物体の運動エネルギは物体の質量と速さの二乗に比例
する。そのため質量の大きな作動油と違い,質量の小さい空気などでは十分な運動エネ
ルギは発生しない.また,圧縮性流体の特徴の一であるチョーク(閉塞)により,圧縮空
気は流速が音速に達した時点でそれ以上質量流量が上昇しない状態となってしまう.こ
れらの理由から作動流体が空気である場合,発生する運動エネルギは非常に小さいもの
になってしまうことが予想される.また,空気と油では体積弾性率が異なることも問題
の一つとして挙げられる.非圧縮性流体である作動油と違い,圧縮性流体である空気に
よるこの方法での回生は難しいものであることが予想される.
図 2.5
電磁弁切り替えによる流れの変化
7
3.
チャンバ内発生圧力の検証
前述のチャンバ内発生圧力の回生を実験とシミュレーションによって検証する.この回
生システムの空圧実験装置におけるチャンバ内圧力の推移を確認し,回生に利用可能な圧
力上昇の発生を確認することで回生方法が妥当であるかどうかを検証した.
3.1
実験装置
実験装置として PWM 制御型空気圧シリンダ駆動装置を製作した.その全体図を図 3.1
に示す.構造は図 2.1 の回路図と同じものである.前述のように,駆動時の摩擦が少な
いという理由から片ロッドのスムースシリンダを使用する.ガイドレールの上にエアシ
リンダを設置し,作業台の天板ごと高さを調節する鉄製の台座と共に穴を開け,ネジで
固定することにより装置の駆動部であるシリンダとガイドレールを固定した.これによ
り,駆動の際の振動はほぼ抑えられている.また,荷重はレール台の上に穴の開いた鉄
板を積み重ねネジで固定している.レール台は L 字固定具によりシリンダロッドヘッド
と固定されている.固定にはゴムワッシャを間に挟むことで,高さの微小な誤差による
摩擦増大を防いでいる.
圧力源である空気圧ポンプとの接続を図 3.2 に示す.図 3.2 のように空気圧ポンプは
高圧タンクに接続され,最高で 0.85MPa までの一定の圧力を供給し続ける.空気圧ポン
プは空気清浄化機器であるエアードライアが搭載されており,作動流体として理想的な
乾燥空気を供給する.空気圧タンクを図 3.3 に示す.高圧用と低圧用の2つを設置し,
一方は空気圧ポンプに接続しもう一方は大気開放状態とした.ポンプ接続には図 3.4 の
ようなレギュレータを間に挟むことで設定した一定の圧力を高圧タンクに供給し続ける.
また,高圧タンクの圧力の目安として図 3.5 のようなアナログ空気圧メータも配置して
いる.各配管のネジ型の継手部には,シールテープを巻いて接続することで可能な限り
の空気漏れ抑制を行っている.
各チャンバに2つずつ,計4つの図 3.6 のような電磁弁を配置している.この電磁弁
が駆動する際,ある程度の振動は発生するが微小であるため固定はしていない.次に,
設置した空気圧圧力センサの接続を図 3.7 に,レーザー変位計を図 3.8 に示す.図 3.7
のように双方の空圧シリンダ接続口の根元に空気圧圧力センサを設置することで各チャ
ンバ内圧力を測定する.また,図 3.8 のようにシリンダ脇にレーザー変位計を設置し,
レーザーをレール台に当てることでロッドの駆動位置を測定する.電磁弁と空気圧セン
サ・レーザー変位計は図 3.9 のような制御ボードに配線を繋ぎ,それぞれの制御および
測定値電圧の取得を行う.制御ボートの接続された PC において,Dspace を用いてこの
実験装置を駆動させる.
8
図 3.1
実験装置全体図
図 3.2 空圧ポンプ接続
9
図 3.3
空圧タンク
図 3.4
図 3.5 空気圧計
図 3.7
レギュレータ
図 3.6 電磁弁
空圧センサー接続
図 3.8
10
レーザー距離変位計
図 3.9 制御ボード
この装置のエアシリンダの内径は 50mm でストロークは 300mm,シリンダロッド直径は
20mm,配管チューブ内径は 10mm でシリンダから弁部までの合計配管長さは 600mm 程度で
ある.また,シリンダロッドと L 字固定具,ガイドレール台と荷重用鉄板の質量を合計
することで,約 20kg の荷重として働く計算となっている.次に,図 3.3 の空圧タンクは
10L の容量を持っており,電磁弁は仕様上 50Hz までの開閉 PWM 制御が可能なものとなっ
ている.
3.2
シミュレーション
実験装置のステータスを元に同条件のシミュレーションを作成した.なお,シミュレ
ーションの作成には MATLAB の Simulink を使用している.
3.2. 1
空気圧系の計算
数値シミュレーションを行うための空圧装置のモデル化を行った.必要な記号を以下
に示す.
p: 圧力(Pa), ρ: 密度(kg/m3), mc: チャンバ内質量(kg),
V: チャンバ内体積(m3),
κ: 比熱比, Ac: シリンダ断面積(m2),
Lc:シリンダ有効長さ(m), Vp:配管部体積(m3),x: ロッド変位位置(m),
g: 重力加速度(m/s2), ri,rj: 各配管からの質量流量の積算値, M: 荷重(kg),
Pu: 弁の上流側圧力(Pa),
Pd: 弁の下流側圧力(Pa), r: 弁を通過する質量(kg),
R: ガス定数, Ta: 温度(K), m: 物質量(kg/mol), a: 弁の有効断面積(m2),
P1, P2: 高圧側および低圧側チャンバ内圧力(Pa),
11
油圧では密度と弾性率が一定だが空圧では異なる.そのため質量流量を変数として考
える.圧力は p/ρκ=const の関係であるため次式が成り立つ.
p = cρκ = c(mc/V)κ
(1)
c は空気1気圧のときの密度から求まる定数とする.式(1)で密度から圧力を計算する
ので,まずは密度を計算する.密度はシリンダ要素(配管も含む)内の質量 mc をシリン
ダ要素の体積 V で除したものである.そこでまず,シリンダや配管に出入りする質量を
計算する.シリンダ要素の初期体積は以下のようになる.
V0= AcLc+Vp
(2)
シリンダ要素の式は左右で異なり(左側チャンバを1、右側チャンバを2)次のように
なる.
V1 = V10+Ac1x
(3)
V2 = V20-Ac2x
(4)
次に要素の質量は次式から求まる.
mc = ρ0V0-(ri+rj)
(5)
最後にメインとなるシリンダの運動方程式は以下のようになる.
M𝑥̈ = -Cm𝑥̇ +p1Ac1-p2Ac2
(6)
電磁弁を通過する質量流量を次式で与えた.
𝑟̇ = a Pu√
2𝑔
𝑅𝑇𝑎
y(z)
(7)
ただし,z = Pd/Pu である.y(z) は上流側圧力と下流側圧力の比 z によって,次式のよ
うになる.
・亜音速流れのとき(0.528≦z≦1)
𝜅
2
y(z) =√𝜅−1 (𝑧 𝜅 − 𝑧
𝜅+1
𝜅
)
(8)
・チョーク流れのとき(0≦z<0.528)
𝜅
2
2
y(z)=√𝜅−1 (𝜅+1)𝜅−1
12
(9)
圧縮空気の流れは,図 3.10 のグラフように上流と下流で徐々に圧力差を増大させ流速
を増加させてやると,その速度が音速に達した時点でそれ以上質量流量の値が増加しな
い流れの閉塞状態に陥るという特性を持っている.このため,シミュレーションにおい
て弁部の流れを計算するには,音速を境とした2つの異なる特徴を反映した計算式が必
要となる.上流側と下流側の圧力差が小さく圧力差の増大と共に質量流量も増大する低
速状態の流れを亜音速流れ,圧力差が大きく流速が音速に達して質量流量が飽和する流
れの閉塞状態をチョーク流れという.
この流量特性により質量流量の計算式(7)において y(z) を計算する場合,圧力比が
0.528 より大きい場合は亜音速流れとして(8) 式を,圧力比が 0.528 より小さい場合はチ
ョーク流れとして(9) 式を利用する.これにより,圧力差によって変動する弁部におけ
る圧縮空気の質量流量を算出することができる.
また,各シリンダチャンバ内の空気質量 W の計算式は理想気体の状態方程式より次式
(10)で与えられる.
W =
𝑃𝑉𝑚
𝑅 𝑇𝑎
図 3.10 圧縮空気の特徴
13
(10)
3.2. 2
モデルの検討実験
弁部における質量流量の計算式が妥当であるか確認するため,空気圧シリンダのチャ
ンバ内圧力の変化を計算と実験により比較し,その妥当性を確認した.一方のチャンバ
内体積が最大となるような端の位置でロッドを固定する.その状態において大気圧の圧
力状態にした最大限の体積を持つチャンバに電磁弁を介して高圧タンクを配管する.こ
のような構造の装置において,実験開始と同時に電磁弁を開けて高圧タンクから圧縮空
気を流入させることで空圧センサにより圧力の立ち上がりを確認した.弁の有効断面積
は 1.5×10-6m2 であり,初期状態のチャンバ内圧力は大気圧,接続する高圧源はゲージ圧
で 0.5MPa とした.同様のステータスにおいて Simulink を用い簡単なシミュレーション
を作成し,その結果を実験結果と比較したので図 3.11 に示す.図の赤い線は実験結果で
あり青い線が計算結果である.この結果より,シミュレーションの初期の立ち上がりが
実験結果よりも遅いということが確認された.しかし,最終的な圧力値の収束までの時
間はほぼ変わらないという結果も確認できる.今回の検討では,立ち上がりでの差異は
誤差として扱える許容範囲であると判断し以後のシミュレーションはこの質量流量の計
算式を用いて行った.
図 3.11
圧縮空気流入実験の結果とシミュレーションとの比較
14
3.3
実験およびシミュレーションとの比較
回生が可能であるか評価するために,シリンダのロッドを駆動し途中で停止するとい
う動作でどれだけのエネルギがロッド駆動方向側チャンバ内で圧力として発生するかを
確認する実験を行う.
3.3. 1
駆動方法
エアシリンダの駆動方法には様々な手法が存在する.しかし,高圧を回収するという
回生方法であるため,初期状態のチャンバ内圧力が低すぎると圧力上昇に時間がかかり
目標の圧力が得られない場合がある.そのため本実験では,予めシリンダチャンバ内を
高圧に保ち,駆動方向チャンバ内の圧力を低下させることでロッドを動かすという方法
を選択した.また,使用するエアシリンダが片ロッドであるため,双方のチャンバ内を
同じ高圧源の圧力に保つとそのシリンダ断面積の差からロッドが停止せず駆動してしま
う.よって初期状態でロッドの駆動方向チャンバ内圧力は高圧源圧力,もう一方のチャ
ンバ内圧力を大気圧とすることで,ロッドを端の位置に停止した状態から駆動を開始で
きるようにした.
図 3.12 にシリンダモデルにおける駆動方法を説明する図を示す.図 3.12 の様な配置
においてシリンダロッドは初期位置を左端の状態として右方向にロッドを押し出し,一
定時間が経過した時点で各電磁弁の開閉を停止して閉じるような駆動で実験を行った.
高圧側チャンバ P1 は駆動時には高圧タンクと接続される電磁弁を常に開放し,逆に低圧
タンクに接続される弁は常に閉じる.右側チャンバに接続される電磁弁のみ PWM 開閉制
御を行うことでロッド駆動を制御する.
図 3.12
15
駆動方法
3.3. 2
結果と考察
高圧タンク圧力 0.3MPa(ゲージ圧),電磁弁の開閉 PWM 周波数は 20Hz ,電磁弁駆動時
間を 1,5 秒と設定する.電磁弁駆動時間を 1,5 秒に設定した理由は如何なるデューティ
比であってもロッドが右端まで到達しない時間であるからである.以上の条件でデュー
ティ比を 10%,30%,50%,70%,90%の 5 パターンで実験を行い,左右のチャンバ内
圧力とロッドの変位位置を測定した.さらに,同条件においてシミュレーションを作成
し,その値を比較したので結果をそれぞれ図 3.13,図 3.14,図 3.15,図 3.16,図 3.17
に示す.
各図の(a)のグラフが実験結果であり,(b)のグラフがシミュレーション結果である.
青色の線は左側チャンバ内圧力 P1(MPa),
赤色の線は右側チャンバ内圧力 P2(MPa)であり,
緑色で示されている線がロッドの変位 x(m) である.また,全ての圧力の値はゲージ圧で
ある.
(a) Experiment
(b) Simulation
図 3.13
実験とシミュレーションの比較結果 (デューティ比 10%)
16
(a) Experiment
(b) Simulation
図 3.14 実験とシミュレーションの比較結果 (デューティ比 30%)
(a) Experiment
(b) Simulation
図 3.15 実験とシミュレーションの比較結果 (デューティ比 50%)
17
(a) Experiment
(b) Simulation
図 3.16 実験とシミュレーションの比較結果 (デューティ比 70%)
(a) Experiment
(b) Simulation
図 3.17 実験とシミュレーションの比較結果 (デューティ比 90%)
18
図 3.14,図 3.15,図 3.16,図 3.17 の実験とシミュレーションの値より,目標である
回生に利用可能な高圧タンクの圧力(0.3MPa)を上回る圧力上昇が確認された.図 3.13 の
結果において目標圧力が得られなかった理由として,低圧タンク接続電磁弁の開度が大
きいため圧力が下がり過ぎてしまったことが挙げられる.また,20kg の荷重を更に大き
くすることで得られる運動エネルギを増加させれば,ロッド停止時に目標の圧力を得る
こともできるだろうと予想される.次に図 3.17 の結果では,特に実験値(a)においてロ
ッド停止時の圧力上昇が微小であるという問題点が確認された.これは低圧側電磁弁開
度が低いためロッド駆動速度が遅く,発生する運動エネルギが少ないためである.しか
し,圧力が常に高く維持されることから目標圧力を上回る圧力で P2 が収束するため,あ
る程度の回生は可能であると思われる.だが,瞬間的な到達圧力の低さから,図 3.15 の
ような十分に運動エネルギを得られる駆動よりも回生効率は落ちると予想される.以上
の結果より,電磁弁開閉 PWM 駆動のデューティ比は高すぎても低すぎても問題があり,
デューティ比は 50%に近いほうが回生には望ましいという結論を得た.
ほとんどの実験結果でシミュレーション結果と符合するような測定値を得ることがで
きた.しかし,圧力値は各図の実験結果(a)の P1,P2 の値のように,全体的にシミュレ
ーションよりも低い値となり,ロッドの変位位置 x の到達距離も実験値の方が短いとい
う結果となった.これはシミュレーションには計算要素として入れていない空気漏れに
よるものである.考えられる空気漏れは,配管継手部およびシリンダロッドパッキン部
における外部漏れと,エアシリンダ内の左右のチャンバを隔てるピストン部のパッキン
における内部漏れの 2 種類が存在する.各図を見て分かるように,実験値(a)の圧力の値
はシミュレーション値(b)に比べ P1,P2 の値は時間経過と共に減少する傾向にある.こ
れは外部漏れによるものである.また PWM 停止直後において,高い圧力にある P2 は大き
く圧力を減少させ P1 圧力の減少が緩やかである傾向にある.これは内部漏れによるもの
であると考えられる.これらの要素により,各図の圧力 P1,P2 の上昇とロッドの変位位
置 x の動きが低調なものになっていると思われる.
また,図 3.13,図 3.14,図 3.15,図 3.16,図 3.17 の x を比較することで最終ロッド
位置の変化を確認できることから,この駆動システムにおいてデューティ比を変化させ
ることがロッド駆動制御に有効であることが確認された.前述のように実験値は圧力が
下がってしまうことからロッドの最終到達距離もシミュレーション値より短い傾向にあ
る.しかし,それぞれの図において x を比べることで,実験値とシミュレーション値の
双方ともに,デューティ比が小さい方がロッド駆動速度が上昇し最終到達距離も長くな
るという特性を確認することができる.
19
電磁弁の開閉 PWM 駆動における周波数を変動させた時の影響を確認するために,2Hz・
10Hz・50Hz に開閉周波数を変更して実験を行い同様のシミュレーションも行った.3つ
の周波数においてそれぞれデューティ比 30%,50%,70%の駆動を行いシミュレーショ
ンと比較を行ったので,その結果を図 3.18,図 3.19,図 3.20,図 3.21,図 3.22,図 3.23,
図 3.24,図 3.25,図 3.26 に示す.
それぞれの図より,周波数が変動しても同様の傾向において回生に利用可能な圧力上
昇が発生することが分かる.また,デューティ比によるロッド駆動距離も同じ特性であ
ることが確認できた.周波数の変更による変化が顕著な点として圧力の脈動が挙げられ
る.2Hz・10Hz・50Hz の圧力を比べると分かるように,電磁弁駆動時における圧力の上下
する幅が大きく異なることが確認でき,周波数が大きいほど脈動は小さくなることが分
かる.この脈動はロッドの駆動において振動の要素となる.10Hz・50Hz の場合では大き
な影響は確認できなかったが,2Hz では明らかに脈動がロッド駆動に影響を及ぼし振動し
ていることが確認できる.低い圧力のみを使用し圧縮率も大きい空圧系では影響は少な
いが,極めて高い圧力を使用し脈動の振幅も大きくなる油圧系の場合深刻な振動が発生
することが予想される.ロッドの精密駆動性を求める場合,電磁弁の開閉 PWM 駆動にお
ける周波数はより高い方が望ましいと言えるだろう.
(a) Experiment
(b) Simulation
図 3.18
周波数 2Hz に変更した比較結果 (デューティ比 30%).
20
(a) Experiment
(b) Simulation
図 3.19
周波数 2Hz に変更した比較結果 (デューティ比 50%).
(a) Experiment
(b) Simulation
図 3.20
周波数 2Hz に変更した比較結果 (デューティ比 70%).
21
(a) Experiment
(b) Simulation
図 3.21
周波数 10Hz に変更した比較結果 (デューティ比 30%).
(a) Experiment
(b) Simulation
図 3.22 周波数 10Hz に変更した比較結果 (デューティ比 50%).
22
(a) Experiment
(b) Simulation
図 3.23 周波数 10Hz に変更した比較結果 (デューティ比 70%).
(a) Experiment
(b) Simulation
図 3.24 周波数 50Hz に変更した比較結果 (デューティ比 30%).
23
(a) Experiment
(b) Simulation
図 3.25 周波数 50Hz に変更した比較結果 (デューティ比 50%).
(a) Experiment
(b) Simulation
図 3.26 周波数 50Hz に変更した比較結果 (デューティ比 70%).
24
最後に,圧力源となる高圧タンクの圧力を変更する実験を行った.これまで 0.3MPa で
あった圧力を 0.5MPa に変更し,それぞれデューティ比 30%,50%,70%の駆動を行って
シミュレーションと比較したので,その結果を図 3.27,図 3.28,図 3.29 に示す.
図 3.28,図 3.29 より,回生に利用可能な高圧タンク圧力(0.5MPa)を上回る圧力上昇を
確認できる.しかし,全体として 0.3MPa の圧力源を設定した場合よりも圧力が減少する
傾向となった.これは,設定圧力が増加したため配管継手部などにおける外部空気漏れ
がより増加してしまったためだと思われる.それに加え,低圧タンク接続電磁弁の開度
が高いことから大きく圧力が低下してしまったことが,図 3.27 の実験結果が目標の圧力
を得られなかった原因であると思われる.そのため各シミュレーション結果のように,
作動流体の漏れを完全に抑えることが可能であれば高圧タンクの圧力を変動させても回
生は可能であると考えられる.また,低下した圧力相応ではあるが,デューティ比によ
るロッド駆動制御性も確認できる.
(a) Experiment
(b) Simulation
図 3.27
圧力源を 0.5MPa に変更した比較結果 (デューティ比 30%).
25
(a) Experiment
(b) Simulation
図 3.28 圧力源を 0.5MPa に変更した比較結果 (デューティ比 50%).
(a) Experiment
(b) Simulation
図 3.29 圧力源を 0.5MPa に変更した比較結果 (デューティ比 70%).
26
3.4
両ロッドシリンダ装置の検討
片ロッドシリンダにおける実験とシミュレーションを行ったが,ロッドの存在の有無
により左右のシリンダチューブ断面積が異なるためロッド方向の駆動でしか回生可能圧
力を確認することができず、また駆動方向によって制御特性が異なるという問題が存在
する.
そこで,これらの問題が発生しない両ロッドシリンダにシリンダを変更した装置にお
ける駆動をシミュレーションにおいて検討した.両ロッドシリンダの場合,左右のシリ
ンダチューブ断面積が同じであるためどちらの方向でも駆動特性が同じであり,双方の
チャンバ内圧力を同じにすることでロッドを停止させることができる.しかし,ロッド
がシリンダチューブから2ヶ所突き出している為にパッキン部も倍増することから両ロ
ッドシリンダの駆動摩擦は非常に大きいという問題点を持つ.片ロッドシリンダにおけ
る実験において使用したスムースシリンダと呼ばれる極めて少ない駆動摩擦で動く特殊
シリンダも存在するが,両ロッドの製品は存在せず提案の回生手法を実現するような両
ロッドの実験装置の作成は不可能であった.そのため,シミュレーションでは回生に利
用可能であるような駆動摩擦が片ロッドスムースシリンダと同等である両ロッドシリン
ダを使用するという前提で検討を行った.
シミュレーションにおいて設定する数値はシリンダのチャンバ内体積および断面積以
外は全て同じ値を用い,使用する計算式も同様である.駆動方法は片ロッドのものから
変更を行う.両ロッドの特徴である双方のチャンバ内圧力が同値であればロッドが停止
する特性を利用し,双方のチャンバ内圧力を高圧源と同じ圧力にすることでロッドを停
止させ,連続して次の駆動が可能な状態で駆動を終了させる.よって,全ての弁を閉じ
て駆動を終えるのではなく高圧タンク接続弁を開口,低圧タンク接続弁を閉口という状
態で駆動を終えるように電磁弁の動作を変更した.また,初期状態の双方のチャンバ内
圧力も高圧タンク圧力とし,ロッドの初期位置をシリンダ中央部からに変更する.この
ような状態からロッドが 0.1m 移動した時点で電磁弁の開閉 PWM 制御を停止し,駆動を
停止させるようなシミュレーションを作成した.時間経過による弁の停止からロッドの
変位位置による停止に変更した理由は,初期位置変更によりロッドの変位量が減少する
ためデューティ比によっては十分な加速が得られないと予想されるためである.また,
今回はシミュレーションのみの検討であるため,応答性による誤差も考慮に入れる必要
はない.
このような内容におけるシミュレーション結果を図 3.30 に示す.図 3.30 の(a),(b),
(c)はそれぞれデューティ比が 90%,70%,50%の場合の双方のチャンバ内圧力とロッド
の変位値のグラフである.
27
(a) デューティ 90%
(b) デューティ 70%
(c) デューティ 50%
図 3.30 両ロッドシリンダにおけるシミュレーション結果.
図 3.30 より,デューティ比 90%と 70%の結果において回生に利用可能な高圧タン
ク圧力を上回る圧力上昇を確認することができる.しかし,デューティ比 50%の結果で
は目標としていた圧力は得られず,また 50%以下のデューティ比においても同様の結果
だった.これは片ロッドにおける場合と同様に,低圧タンク接続電磁弁の開度が大きい
為にチャンバ内圧力が下がり過ぎたことが原因である.また,両ロッドであるため片ロ
ッドより駆動方向チャンバ内圧力 P1 はより上昇しにくい傾向になり,最終的には高圧タ
ンク圧力である 0.3MPa に圧力が収束する.そのため,片ロッドに比べ回収可能な圧力が
微小であることが確認できる.また,今回は 0.1m ロッドが変位した時点で駆動が停止す
るため,デューティ比の変動により停止までの時間が前後することが確認できる.よっ
て,両ロッドにおいてもデューティ比の変更がロッド駆動制御性に有用である確認する
28
ことができたと言える.
4. 作動流体慣性力を利用した回生の検討
前述の作動流体慣性力を利用した回生を空圧装置での利用を想定したシミュレーション
によって検証する.この回生方法は配管部のみで行われるため,実験において検証するこ
とが難しい.流量計などを配置しても配管部流路構造に変化が生じ,悪影響が発生するこ
とが予想される.そのため,本稿ではシミュレーションにおいて空気の流れを確認し,回
生方法が妥当であるかどうかを検討した.なお,シミュレーションの作成にはチャンバ内
発生圧力の回生のものと同様に MATLAB の Simulink を使用している.
4.1
1自由度シミュレーションによる検討
まず,理解しやすさを優先してシリンダと高圧・低圧タンクとの間にある空気質量を
1自由度としたモデルでシミュレーションを作成した.そのモデルを図 4.1 に示す.必
要な記号を以下に示す.
M: 荷重(kg), K: ばね定数, x: 空気質量変位 (m),
x0: ピストンの駆動変位(m),V: ピストン駆動速度(m/s),
t: 時間(s), Ph: 高圧タンク圧力(MPa), Ac: チャンバ内断面積(m2),
Lc: チャンバ内有効長さ(m), Ap: 配管内断面(m2), Lp: 配管有効総長さ(m),
図 4.1
1自由度の空気の流れのモデル
29
ピストンである x0 は定速で動くものとし,圧力の設定をゲージ圧とすることで Ph と 0
の圧力を高速で切り替えることで PWM 制御を行う.よって,低圧側に接続している場合
の運動方程式は以下のとおりである.
M𝑥̈ = K( x -Vt )
また,高圧側に接続している場合の運動方程式は以下のとおりである.
M𝑥̈ = K( x -Vt ) -Ph
バネ定数は以下の式で計算する.
K=
𝛽
𝐴𝑐 𝐿𝑐
質量 M はメーターアウト側チャンバ内有効質量 mc と配管内質量 mp を加算したものと
する.それぞれ mc と mp は以下の式で計算する.
mc =
1
3
𝜌
𝐿𝑐
𝐴𝑐
𝐿
mp = 𝜌 𝐴𝑝
𝑝
以上の計算式でシミュレーションを作成した.切り替えを繰り返しているうちに流
量・圧力は定常になる.質量 M の速度が負にならなければエネルギは順調に回生する.
実際には減衰が存在し,より早く定常化すると予想できるが,現象の本質は変わらない
と思われる.
計算結果を分かりやすくするため,また質量の小さい空気で確認しやすい結果を得る
ためモデルを極めて大型の装置として各数値を設定した.チャンバ内断面積 Ac を 1m2,
チャンバ内有効長さ Lc を 10m,配管内断面 Ap を 1m2,配管有効総長さ Lp を 10m とす
る.このモデルにおいて,ピストン速度 3m/s,電磁弁の切り替え周波数 100Hz,デュー
ティ比 50%のときの流速のシミュレーション結果を図 4.2 に示す.図 4.2 は振動が定常
状態になった時間において,流速の振幅が見やすいように拡大した図である.流速は定
常的に負の値になっていることから,運動エネルギを消費し終わっても弁を開け続けて
いることにより高圧タンクからの逆流が発生していることが分かる.
30
図 4.2
1自由度流れモデルの流速
図 4.2 より,
このモデルでは 100Hz の開閉速度は遅すぎることが確認できたので,500Hz
に周波数を変更し回生の改善を行った.その結果を図 4.3 に示す.
図 4.3
周波数を改善した1自由度流れモデルの流速
図 4.3 より,周波数を上げることで高圧タンクへの逆流がほぼ無くなったことが確認
できる.よって,周波数を変動させることでより効率的な回生ができたと言える.しか
し,今回設定したモデルに使用した数値のいくつかは現実的なものではない.これは,
モデルが1自由度であるため,シリンダ断面積と配管断面積を同じ値に設定したためで
ある.
31
4.2
4自由度シミュレーションによる検討
より現実的なモデルにおいてのシミュレーションを行う為に,1自由度シミュレーシ
ョンを元にして4自由度のシミュレーションを作成した.使用した計算式は全て前述の
1自由度のものに類似した式である.作成した4自由度のモデルの質量の配置を図 4.4
に示す.
図 4.4
4自由度モデルにおける質量配置
4自由度モデルはチャンバ内断面積 Ac を 1m2,チャンバ内有効長さ Lc を 10m とする.
M2,M3,M4 の配管内断面 Ap を 1m2,配管有効総長さ Lp を 1m とする.このモデルに
おいて,ピストン速度 1m/s,電磁弁の切り替え周波数 5Hz,デューティ比 50%のときの,
回生が行われる M3 における変位・流速のシミュレーション結果を図 4.5 に示す.
図 4.5 のように,M3 において高圧側電磁弁が閉まるごとに流速は 0m/s になり変位も
停止する.図 4.5 の(a)のように,変位の値が徐々に上昇することから高圧タンクに空気
が回生されていることが確認できる.しかし,弁を開ける時間が長いことから高圧タン
クからの逆流が発生している.そこで,電磁弁開閉周波数を 10Hz に上げることで回生を
改善し,その変位・流速のシミュレーション結果を図 4.6 に示す.図 4.6 より,このモ
デルにおいて 10Hz の周波数であれば理想的な回生が行われることが確認できる.モデル
の大きさと駆動方法によって最適な周波数は変動するため,発生する運動エネルギに対
応するような周波数制御を行えば最適な回生を続けられると思われる.
以上の結果より,作動流体慣性力を利用した回生方法が油空圧系駆動機構の回生に有
用であることが確認できた.
32
(a) Displacement
(b) Velocity
図 4.5
4自由度モデルの変位と速度
(a) Displacement
(b) Velocity
図 4.6
周波数を改善した4自由度モデルの変位と速度
33
5.
結言
PWM 開閉制御電磁弁を使用した油空圧シリンダ駆動装置を使用した回生手法を2つ提案
し,同じ回路で空圧の実験装置における回生システムの可能性を実験とシミュレーション
によって検討した.その結果,チャンバ内発生圧力を回生する方法では,実験とシミュレ
ーションの双方で提案の方法による回生に利用可能な圧力上昇を確認することができた.
また,電磁弁の PWM 開閉制御が圧力の制御およびロッド駆動制御に有用であることも確認
された.作動流体慣性力を利用した回生方法では,シミュレーションにおいて高圧タンク
への作動流体の流入を確認することで回生方法が妥当であることが確認された.
謝辞
本研究において,研究を行う機会を与えて下さり,親身にご指導いただいた,高知工科
大学の岡宏一教授に深く感謝致します.そして本研究において貴重な意見をいただき,ご
指導いただきました,高知工科大学の井上喜雄教授に深く感謝いたします.
参考文献
(1) 株式会社小松製作所. 建設機械. 特許第 4179465 号. 2008-11-12.
(2) 落合正巳,園田光夫,建設機械のハイブリッド化とハイブリッドショベル,建設の施工
企画, No.707, 35-39,(2009.1)
(3) 新キャタピラー三菱株式会社.流体圧回路.特開 2007-40393.2007-02-15.
(4) 株式会社小松製作所. 油圧エネルギー回収回生装置. 特開 2004-28233 号. 2004-01-29
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