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みずほ欧州経済情報 - みずほ総合研究所

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みずほ欧州経済情報 - みずほ総合研究所
みずほ欧州経済情報
2015年1月号
[欧州経済の概況]
[トピック:欧州版QEと独国債市場への影響]
◆ 欧州中央銀行(ECB)は、1月22日の理事会において、国債を含む追加
資産購入プログラム(欧州版QE)を発表した。既存プログラムを含め、
毎月600億ユーロの資産が購入される。欧州版QEの狙いは、バランスシ
ートの拡大を通じて中期的なインフレ期待を持ち上げることにある。
◆QE発表当日から翌日にかけて、為替市場では、ユーロが一時1ユーロ=
1.11ドル目前まで下落した。株式市場は、DAX株価指数が史上最高値を
更新し、独10年国債利回りは0.3%台まで低下した。
◆ECBのQE開始によるドイツ国債需給への影響を試算すると、2016年9
月末までに、民間が取引可能なドイツ国債は現状と比べ約1,780億ユーロ
減少する。期間別には、5~10年の中期ゾーンでの残高減少が大きく、同
ゾーンを中心とした金利低下圧力に繋がる可能性がある。
[ユーロ圏経済]
◆12月のユーロ圏経済センチメント指数(ESI)は、3カ月連続で横ばいと
なり、実質GDP成長率はゼロ%近傍に止まった可能性が高い。一方、1
月のユーロ圏合成PMIは2カ月連続して上昇し、ユーロ圏景気の持ち直
しの兆しを示した。
◆12月の消費者物価指数は、前年比▲0.2%と2009年10月以来となるマイナス
圏に低下した。エネルギー物価の急落(同▲6.3%)が主因であり、原油
価格の反転上昇が無ければ、物価は当面マイナス圏で推移するだろう。
[英国経済]
◆10~12月期の実質GDP成長率は前期比+0.5%と8四半期連続のプラスと
なった。12月のインフレ率は、前年比+0.5%と14年半ぶりの水準に低下
し、BOEは1月のMPCで政策金利の据え置きを全会一致で決定した。
2015年 1月 3 0 日
発行
欧米調査部上席主任エコノミスト 吉田 健一郎
03-3591-1265 kenichi ro.yoshid a@mizuho- ri.co.jp
●当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではあり
ません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき作成されておりますが、その正確
性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されるこ
ともあります。
1.トピック:欧州版QEの概要と独国債市場への影響
ECBは欧州版QEを発
表
欧州中央銀行(ECB)は 1 月 22 日に開催された政策理事会において、国債や
政府機関債の購入策(拡大資産購入プログラム、欧州版QE)を発表した(図表
1)
。理事会後の声明文において「毎月 600 億ユーロの購入」を行う旨が明記され、
プログラムは 2015 年 3 月から少なくとも 2016 年 9 月まで行われる。最低でも総
額 1 兆 1,400 億ユーロ規模の資産購入になる公算だ。更に、欧州版QEは、物価
の持続的な回復が見られなければ、
2016 年 10 月以降も実施されることとされた。
欧州版QEの狙いは、中
期インフレ期待の改善に
欧州版QEの狙いは、ECBのバランスシート拡大を通じて、中期的なインフ
レ期待を持ち上げる点にある。ECBのバランスシート残高と、中期インフレ期
待の間には連動がみられるためだ。2013 年以降、市場ベースでの中期インフレ期
待を示す指標としてECBが重視しているインフレスワップ・フォワードレート
(5 年先スタート 5 年物、5 年後から 5 年間の平均インフレ率の予想を示す)は、
ECBのバランスシート縮小とともに低下した。そのためECBは、QEによる
能動的なバランスシート拡大を通じて、インフレ期待の反転を狙ったのである。
ECBが目指すバランス
欧州版QEには、既に実施されているカバードボンド購入プログラムや、資産
シート拡大目標の達成を
担保証券購入プログラムも含まれる。欧州版QEには含まれない貸出条件付き長
市場は確実視
期オペ
(TLTRO)
も併せれば、
ECBの資産総額は 1.5 兆ユーロは増える見込みで、
同行が目指す 2012 年初の水準(約 3 兆ユーロ)へのバランスシート拡大の目標は
今や市場では達成がほぼ確実視されている。
実際、欧州版QE発表を受けて、インフレスワップ・フォワードレートは小幅
ながら上昇している。物価安定という責務に向け、ECBは出来ることを全てや
った状況であり、今後は政策効果を確認するステージに入る。
図表 1
欧州版QEの概要
購入規模
既存の資産購入策(カバードボンド購入プログラム、資産担保証券購入プログラム)と併せて、月額600億ユーロ。
購入金額については、週報にて資産タイプごとに公表される。
追加購入資産
ユーロ圏中央政府、ユーロ圏で設立された一定の政府機関、ユーロ圏にある一定の国際機関、超国家機関により
発行される債券。
実施期間
2015年3月から、少なくとも2016年9月まで行うことを意図。更に、インフレ率の持続的な持ち直しが確認出来なけ
れば2016年10月以降も続けられる。
購入シェア・期間 追加購入資産は、各国のECBへの資本拠出割合に応じて実施。期間は残存期間ベースで2年~30年。
購入上限
単一銘柄の25%まで、同一発行者銘柄の33%まで。ギリシャ国債については既存の証券市場プログラム(SMP)
により、33%ルールに抵触しているため、大口償還後の7月より購入可能だが、金融支援プログラムのレビューに
よりポジティブな結果が出ていることが必要。
損失分担
政府機関債(追加購入資産のうち12%)と国債の一部(同8%)は損失を各国で分担。残りの国債(同80%)は各
国中銀が損失を負担。
(資料)ECBウェブサイトよりみずほ総合研究所作成
1
みずほ欧州経済情報(2015 年 1 月号)
QE発表当日から翌日に
かけての金融市場の動き
欧州版QEは、どのような影響を金融市場に起こしたのだろうか。QE発表当
日から翌日にかけて、為替市場ではユーロが下落し、ユーロドル相場は 2003 年以
来の 1 ユーロ=1.1 ドル台前半まで急落した。株式市場では、独DAX株価指数
が10,000ポイントを上抜けし、
史上最高値となる10,500ポイント台に上昇した。
国債市場では金利が低下しており、独 10 年国債利回りは、史上最低水準となる
0.3%台半ばまで低下した。南欧国債も同様に利回りが低下している。
欧州版QEのドイツ国債
市場への影響
今後の注目点の一つは、低下を続けるドイツ長期金利への影響だ。同国では、
2014 年に均衡予算が達成される見込みで、
2015 年予算案では新発債の発行が予定
されていない。供給面の弱さに中銀による国債購入が加わることで需給はよりひ
っ迫し、更なる金利低下に繋がるのではないかとの見方が強まっている。
以下では、独国債市場の需給環境にQEがどのような影響を与えるかを試算し
た。試算における仮定として、供給側では、ドイツは 2016 年も均衡予算が続き、
同年の新発債発行がゼロ、2016 年中に期日が来る中長期債については同額、同期
間で借り換えが行われると想定した。
欧州版QEの各国別の資産購入金額はECBによる資本拠出割合(ドイツは約
25%)に応じて行われるため、ここから計算するとドイツの国債購入額は約 2,000
億ユーロとなる。従って、毎月の購入額は 106 億ユーロと仮定した。更に、毎月
の国債購入額の期間別割合は、各購入月時点の発行残高の年限別シェアに比例す
ると仮定した。欧州版QEで決まった銘柄ごとの購入額上限(1 銘柄あたり 25%
まで)は考慮していない。
QEと供給減で、1,780 億
上記の仮定に基づいて、QEが開始される 2015 年 3 月から、終了が見込まれる
ユーロの独国債が市場か
2016 年 9 月までの、民間の市場参加者が購入可能な国債残高を推計したものが、
ら消える
図表 2 となる。新発債を想定していないため残高に大きな変化は無いが、借り換
えによる発行があるため、2 年超 30 年以内の独国債残高は、2016 年 9 月時点でお
よそ 250 億ユーロ増加する。しかし、中銀による国債購入(2,000 億ユーロ)の
結果、民間の市場参加者が購入可能な国債残高は約 1,780 億ユーロ減少する。
1,780 億ユーロの減少額を期間構成別にみると、減少額が最も大きいのは、5 年か
ら 10 年の中期ゾーンとなる(図表 3)
。こうした試算からは、QEによって中期
ゾーンへの金利低下圧力が一段と強まる可能性が示唆される。
図表 2
市場参加者が購入可能なドイツ国債残高
図表 3
期間別にみた残高減少額
(10億ユーロ)
800
10年超~30
年以内,
363億ユーロ
▲1,784
億ユーロ
700
600
2年超~5年
以内, 421億ユーロ
500
400
300
200
合計
1,784億
ユーロ
100
0
2016年9月時点で市場参加者
の購入可能な独国債残高
QEによる累積購入額
供給側の影響による2016年9
月末時点までの変化額
QE開始時(2015年3月末)の
予想残高
5年超~10年
以内, 1,000億ユー
ロ
(資料)独Finance Agency、ECB等よりみずほ総合研究所作成
(資料)独Finance Agency、ECB等よりみずほ総合研究所作成
2
みずほ欧州経済情報(2015 年 1 月号)
2.ユーロ圏景気全体観:10~12 月期は低成長となる見込み、1 月は明るい材料も
10~12 月期は低成長に止
まった模様
企業や消費者の景況感を合成した指数で、GDPとの相関も高い 12 月の経済セ
ンチメント指数(ESI)は、100.7 と 3 カ月連続で同水準となった(図表 4)
。
ESIを構成するサブインデックスをみると、サービス業信頼感指数の上昇傾向
が続く一方、鉱工業信頼感指数は低位推移が続いており、製造業の減速がESI
を押し下げた。10~12 月期(100.7)は、前期(100.9)から僅かながら低下した。
ESIから判ずる限り、10~12 月期のユーロ圏の実質GDP成長率は、ゼロ%近
傍の低成長に止まった可能性が高い。
年明け後は明るい材料も
年明け後については、明るい材料も出ている。1 月のユーロ圏合成PMI(速
報値)は、52.2 と前月(51.4)から小幅ながら上昇した(図表 5)
。業種別には、
製造業PMI(51.0)
、サービス業PMI(52.3)ともに前月(各 50.6、51.6)
から改善した。公表されている独仏のPMIから判断すると、フランスの製造業
PMIが 49.5 と前月(47.5)から上昇したことと、ドイツのサービス業PMIが
52.7 と前月(52.1)から上昇したことが、指数全体を押し上げた模様だ。発表元
の Markit によれば、フランスのPMIを構成するサブインデックスのうち、新規
受注指数は昨年 3 月以来の高い伸びを示しており、明るい材料と言える。ドイツ
では 1 月のIFO景況感指数も 106.7 となり前月
(105.5)
から改善した
(図表 6)
。
1 月はまずまずのスタートを切ったと言えそうだ。
QEは金融市場の変化を
前述の通り、ECBは欧州版QEに踏み切った。QEは、金利低下、ユーロ安、
通じて景気に一定の押し
株高といった金融市場への影響を通じて、
景気を一定程度押し上げるとみられる。
上げ効果をもたらす見込
ECBが各国の国債市場への介入を通じて低金利の継続に強くコミットすること
み
で、各国国債の利回りは低位で抑制される状況が続こう。国債利回りの低下は、
ユーロ圏の国債に対する投資妙味を薄れさせ、結果としてユーロ建ての資産から
海外への投資を促す、いわゆるポートフォリオ・リバランス効果が期待される。
この過程で起こるユーロ安は、輸出拡大に繋がる可能性がある。同様に、株式市
場に資金が向かえば、資産効果を通じて個人消費が押し上げられる。
この他、原油価格の下落は消費に追い風となるが、昨年来、ユーロ圏経済の減
速要因となっている新興国経済の先行きの不透明性は引き続き燻っている。不確
実性の残存は新規投資に対する企業の慎重姿勢を強め、設備投資の押し下げ要因
になる可能性が高い。
QEや油価下落の押し上げ効果が出るまでにはラグもあり、
2015 年は緩やかな回復に止まる公算だ。
図表 4 ユーロ圏ESI
(過去の平均値=100)
110
図表 5
(DI)
10
経済センチメント指数(ESI、左目盛)
鉱工業信頼感指数(右目盛)
105
5
拡
張
サービス信頼感指数(右目盛)
0
100
ユーロ圏合成PMI
図表 6
独IFO景況感指数
(2005=100)
(Pt)
120
56
54
115
52
110
50
105
▲5
95
▲ 10
90
▲ 15
85
▲ 20
80
12
(資料)欧州経済総局
13
14
(年)
縮
小
48
製造業PMI
46
サービス業PMI
44
合成PMI
100
IFO景況感指数
95
現状指数
42
先行き指数
13
90
14
(注)PMIは50が景況感判断の節目となる。
(資料)Markit
3
(年)
12
(資料)IFO
13
14
15
(年)
みずほ欧州経済情報(2015 年 1 月号)
3.ユーロ圏内外需要動向:11 月の生産は微増、失業率は横ばいが続く
11 月のユーロ圏域外輸出
11 月のユーロ圏域外輸出(国際収支統計ベースの財・サービス輸出)は、前月
は 2 カ月連続で減少
比▲3.9%と、前月(同▲4.8%)に続き、2 カ月連続の減少となった(図表 7)
。
財・サービス別に見ると、財輸出が同▲3.9%と 2 カ月連続で減少した一方、サー
ビス輸出は同+1.0%と 2 カ月連続で増加した。財輸出については、夏季休暇の実
施時期のずれなどにより、9 月に大きく上振れした反動が出た可能性がある。な
お、労働日調整の違いによると推察されるが、欧州統計局のデータでは、11 月の
財輸出は前月比+0.2%と増加している。同統計で国別の財輸出額をみると、EU
その他国向け(同+1.1%)や米国向け(同+1.5%)が全体の押し上げに寄与し
た。中国向け(同▲1.3%)やEU域外欧州向け(同▲2.6%)は減速している。
11 月の鉱工業生産は 2 カ
11 月のユーロ圏鉱工業生産は、前月比+0.2%と前月(同+0.3%)に続き 3 カ
月連続で増加
月連続で増加した(図表 8)
。財別には、耐久消費財(同+1.9%)
、非耐久消費財
(同+0.5%)
、中間財(同+0.3%)の生産が増加した。一方で、エネルギー(同
▲0.9%)は 2 カ月連続、資本財(同▲0.2%)は 3 カ月ぶりの減産となった。国
別には、ドイツ(同 0%)は前月比横ばいとなり 2 カ月連続で伸びが鈍化、フラ
ンス(同▲0.3%)では 4 カ月連続、スペイン(同▲0.1%)では 2 カ月連続の減
産となった。一方でイタリア(同+0.3%)やオランダ(同+0.5%)では 3 カ月
ぶりの増産となり、11 月の生産を下支えした。
失業率はユーロ圏全体で
雇用所得環境に目を転じると、11 月のユーロ圏失業率は、11.5%と 4 カ月連続
は横ばい続く。スペイン
で同水準となった。
国別には、
ドイツ
(5.0%)
は前月より横ばい、
フランス
(10.3%)
は 19 カ月連続で改善
は前月(10.2%)より僅かに上昇している。スペインでは 23.9%と横ばいを挟み
19 カ月連続の改善が続く一方、イタリア(13.4%)では 3 カ月連続で悪化した(図
表 9)
。なお、25 歳以下の若年層に限れば、11 月はユーロ圏全体では 23.7%とな
り、小幅ながら 2 カ月連続で上昇した。ドイツ(7.4%)で低下傾向を辿っている
他は、スペイン(53.5%)
、イタリア(43.9%)
、フランス(25.4%)と極めて高
水準での推移が続いている。
11 月の小売売上高は 2 カ
11 月のユーロ圏実質小売売上高は、前月比+0.6%と前月(同+0.6%)から 2
月連続で増加
カ月連続で増加した。10 月が+0.4%から上方修正されたことも、前向きな材料
だろう。非食料品が同+1.4%と 2 カ月連続で増加したことに加え、原油価格が下
落する中で、ガソリン消費が同+1.4%と増加した。
図表 7
ユーロ圏域外輸出
(10億ユーロ)
230
(前月比、%)
10
輸出前月比(右目盛)
225
8
輸出合計額
3カ月移動平均
220
6
215
4
210
2
図表 8
ユーロ圏鉱工業生産
1.5
14
102
1.0
13
101
0.5
0
200
▲2
195
▲4
190
▲6
13/1
7
14/1
(注)国際収支統計ベースの財・サービス輸出
(資料)ECB
7
0.0
8
▲ 1.5
7
▲ 2.0
6
▲ 2.5
12
13
14
(年)
25
10
▲ 1.0
(資料)Eurostat
30
スペイン(右目盛)
97
95
(年/月)
フランス
イタリア
98
鉱工業生産指数
35
11
▲ 0.5
前月比(右目盛)
(%)
ドイツ
12
99
96
各国の失業率
(%)
103
100
205
図表 9
(前月比、%)
(2010=100)
9
20
15
5
10
4
09
10
11
12
13
14
(年)
(資料)Eurostatよりみずほ総合研究所作成
4
みずほ欧州経済情報(2015 年 1 月号)
4.ユーロ圏物価動向:低インフレが継続、住宅価格はまちまち
インフレ率は 2009 年 10
12 月のユーロ圏消費者物価指数(HICP)は、前年比▲0.2%となり、2009 年 10
月以来のマイナスへ
月以来となるマイナス圏に低下した。エネルギー物価が同▲6.3%と、前月(同▲
2.6%)から下落幅が拡大したことが主因で、エネルギー物価だけで 12 月の CPI
を 0.7%ポイント押し下げた。細目別には、レストラン・カフェ(同+1.4%)
、
家賃(同+1.4%)
、タバコ(同+2.6%)などが物価上昇に寄与した一方、輸送燃
料(同▲10.8%)
、暖房油(同▲20.4%)
、通信(同▲2.9%)が物価を押し下げた。
国別にはまちまちで、ドイツ(同+0.1%)は 3 カ月連続、フランス(同+0.1%)
スペイン
(同▲1.1%)
は 2 カ月連続でインフレ率が低下した。
イタリア
(同▲0.1%)
でもインフレ率はマイナスに転じており、
ユーロ圏 19 カ国のうちインフレ率がプ
ラスを維持しているのは、もはや 7 カ国に過ぎない(図表 11)
。しかし、この 7
カ国のうち、ドイツでは 1 月のCPIが前年比▲0.5%と、マイナスに転じた。
当面インフレ率はマイナ
エネルギーや食料品等の影響を除くコア・インフレ率は、非エネルギー産業財
スでの推移が続く公算
の反転もあり同+0.7%と前月と同水準になった。サービス価格が同+1.2%とな
り、底堅く推移している。しかし、原油価格の低迷が続く中で、今後もヘッドラ
イン・インフレ率はマイナス圏での推移が続く可能性が高い。原油価格が 1 バレ
ル=40 ドル台での推移が続いた場合、年央までに最大で 0.9%ポイント程度の物
価押し下げ要因になると予想される。
住宅価格はスペイン、オ
2014 年 7~9 月期のユーロ圏住宅価格は前年比+0.5%となり、2 四半期連続の
ランダで下げ止まり
上昇となった。
国別にはまちまちで、
スペイン
(同+0.3%)
やオランダ
(同+1.2%)
などで住宅価格の下落が一服している(図表 12)
。一方、イタリア(同▲3.8%)
は 10 四半期連続、フランス(同▲1.2%)は 9 四半期連続のマイナスとなった。
オランダやスペインでは、
住宅価格下落が収まった 2013 年ごろから景気回復が進
み出している。ユーロ圏域外ながら、英国も状況は似ており、家計部門のバラン
スシート調整が一巡し、消費の下支えに繋がっている可能性もあるだろう。その
他の国では、エストニア(同+13.2%)
、ラトビア(同+11.7%)
、リトアニア(同
+10.1%)などバルト 3 カ国や、アイルランド(同+15.0%)で価格上昇のペー
スが速まっている。
いずれの国も 2007~2008 年の既往ピークは下回っているもの
の、今後の価格動向が注目される。
図表 10
ユーロ圏インフレ率
2.5
コア
エネルギー
2.0
1.5
図表 11
各国インフレ率(12 月)
(前年比、%)
(前年比、%)
3.0
食料品等
消費者物価指数(CPI)
1.0
115
0.5
110
0.0
105
▲ 0.5
100
▲ 1.0
ギリシャ
スペイン
キプロス
ルクセンブルク
アイルランド
ベルギー
イタリア
リトアニア
ポルトガル
スロベニア
(資料)Eurostatよりみずほ総合研究所作成
オランダ
(年)
エストニア
▲ 3.0
ドイツ
▲ 0.5
スロバキア
▲ 2.5
フランス
0.0
90
ラトビア
▲ 2.0
マルタ
0.5
各国住宅価格
95
フィンランド
▲ 1.5
オーストリア
1.0
▲ 1.0
図表 12
(2010=100)
85
ドイツ
フランス
80
イタリア
スペイン
オランダ
75
70
06
07
08
09
10
11
12
13
(資料)Eurostat
(資料)Eurostat
5
みずほ欧州経済情報(2015 年 1 月号)
14
(年)
5.英国動向:10~12 月期GDPは増加続く、CPIは 14 年半ぶりの水準に低下
10~12 月期GDPは 8 四
10~12 月期の実質GDP成長率(速報値)は、前期比+0.5%と 8 四半期連続
半期連続で増加も、市場
のプラスとなった(図表 13)
。しかし、上昇率は 2 四半期連続で低下し、市場予
予想は下回る
想(同+0.6%)も下回る結果となった。需要項目別の内訳は未詳ながら、産業別
にみるとサービス業のうち、金融・ビジネス業(同+0.9%)や流通・ホテル・レ
ストラン業(同+1.3%)が全体をけん引した一方で、建設業(同▲1.8%)や鉱
業(同▲0.6%)の減少や製造業(同+0.1%)の鈍化などが減速の要因となった。
2014 年は+2.6%の成長となり、英財務省が集計しているエコノミスト予測によ
れば、2015 年も+2.6%の成長が見込まれている。
雇用所得環境は改善が続いている。9~11 月の失業率は 5.8%となり、2008 年 6
~8 月以来の低水準となった。また、11 月の週間平均賃金(定例給与分)は前年
比+1.7%と前月(同+1.9)より鈍化したものの、引き続き高い伸びをみせてい
る(図表 14)
。民間部門が同+2.1%と前月(同+2.4%)から伸びが鈍化した一
方で、公共部門(同+0.8%)は、前月(同+0.5%)から伸びが拡大した。
12 月のインフレ率は 14 年
物価動向に目を転じると、12 月の消費者物価指数は前年比+0.5%となり、2000
半ぶりの低水準
年 5 月以来、約 14 年半ぶりの低水準となった(図表 15)
。エネルギー関連価格の
下落が主因であり、昨年 12 月の電気・ガス料金引き上げ後の反動や、油価下落に
伴う燃料価格の下落などが全体を押し下げた。英統計局によると、12 月の平均ガ
ソリン価格は 1 リットル当たり 116.8 ペンス、ディーゼル燃料価格は 122.8 ペン
スと、2012 年 4 月のピーク価格(各同 141.6 ペンス、147.7 ペンス)から大きく
下落している。エネルギーや食料品等の影響を除くコア・インフレ率は同+1.3%
と、前月(同+1.2%)から小幅に上昇しているものの、低下傾向が続いている。
1 月MPCは全会一致で
1 月の英金融政策決定委員会(MPC)では、9 対 0 で政策金利の据え置きと量
据え置きを決定
的緩和維持が決定されたことが議事録によって明らかになった(1/22)
。これまで
即時利上げを主張していたウィール委員とマカフィ委員が据え置きに転じた。議
事録の中では、
「インフレ率が 2015 年前半のどこかの時点で一時的にゼロ%を下
回る確率はラフにみて半々」とのスタッフ見通しが示された。上記の 2 委員は「短
期的なインフレ率の低下が家計や企業(のインフレ期待)に持続的な低下圧力を
与える可能性は低い」としながらも「利上げによる低インフレ長期化のリスクが
高まった」として、今回は据え置きに転じた。MPC議事録発表を受け、利上げ
観測は後退、英ポンドも一時的に大きく下落した。
図表 13
英GDP
図表 14
在庫等
純輸出
総固定資本形成
政府消費
個人消費
実質GDP成長率
英週間平均定例賃金
図表 15
3.0
4.0
2.5
3.5
2.0
3.0
1.0
1.5
2.5
0.5
1.0
2.0
(前期比、%)
2.5
英インフレ率
(前年比、%)
(前年比、%)
消費者物価指数
エネルギー、食料品等を除くコア
2.0
1.5
0.0
1.5
0.5
▲ 0.5
▲ 1.0
0.0
▲ 1.5
▲ 0.5
合計
民間部門
1.0
0.5
公共部門
▲ 2.0
12
13
(資料)ONSよりみずほ総合研究所作成
14
(年)
▲ 1.0
0.0
13
14
12
(年)
(資料)ONS
6
13
14
(資料)ONS
みずほ欧州経済情報(2015 年 1 月号)
(年)
巻末資料:欧州主要経済指標
実質GDP成長率(前期比、%)
ユーロ圏
ドイツ
フランス
イタリア
スペイン
英国
11Q4
▲ 0.3
0.0
0.2
▲ 0.8
▲ 0.4
▲ 0.0
12 Q1
▲ 0.1
0.3
0.2
▲ 0.9
▲ 0.6
0.1
Q2
▲ 0.3
0.1
▲ 0.2
▲ 0.4
▲ 0.6
▲ 0.2
Q3
▲ 0.1
0.1
0.2
▲ 0.4
▲ 0.5
0.8
▲
▲
▲
▲
▲
▲
Q4
0.4
0.4
0.2
0.8
0.8
0.3
13 Q1
▲ 0.4
▲ 0.4
0.0
▲ 0.9
▲ 0.3
0.6
Q2
0.3
0.8
0.7
▲ 0.2
▲ 0.1
0.6
Q3
0.2
0.3
▲ 0.1
0.0
0.1
0.7
Q4
0.2
0.4
0.2
▲ 0.1
0.3
0.4
14 Q1
0.3
0.8
▲ 0.0
▲ 0.0
0.3
0.6
Q2
0.1
▲ 0.1
▲ 0.1
▲ 0.2
0.5
0.8
Q3
0.2
0.1
0.3
▲ 0.1
0.5
0.7
ユーロ圏統計
*設備稼働率(%)
雇用者数(前期比、%)
妥結賃上げ率(前年比、%)
労働生産性(前年比、%)
雇用コスト指数(前年比、%)
*経常収支(10億ユーロ)
名目GDP比(%)
11Q4
79.9
▲ 0.2
2.0
0.8
2.8
5.3
0.2
12 Q1
80.0
▲ 0.1
2.1
0.7
1.9
12.7
0.5
Q2
80.1
▲ 0.2
2.2
0.9
2.7
40.7
1.7
Q3
78.2
▲ 0.2
2.2
0.6
2.4
48.1
2.0
Q4
77.2
▲ 0.3
2.2
0.7
2.4
45.6
1.9
13 Q1
77.6
▲ 0.4
1.9
1.1
2.0
51.7
2.1
Q2
77.5
▲ 0.1
1.7
0.3
1.0
60.0
2.4
Q3
78.3
0.0
1.7
0.7
0.8
46.2
1.9
Q4
78.4
0.1
1.7
0.6
1.0
54.7
2.2
14 Q1
80.1
0.1
1.9
0.5
0.7
59.3
2.4
Q2
79.5
0.3
1.9
0.7
1.6
60.2
2.4
Q3
79.9
N/A
1.7
N/A
1.2
70.9
2.8
前月比
Jul-14
102.2
4.1
0.8
0.2
0.2
Aug-14
100.6
4.5
▲ 1.2
▲ 0.4
0.5
Sep-14
99.9
5.4
0.5
0.7
▲ 1.1
Oct-14
100.7
5.6
0.3
1.6
1.1
Nov-14
100.7
5.1
0.2
▲ 1.1
▲ 0.1
Dec-14
100.7
6.6
N/A
N/A
N/A
前年比
Jul-14
Aug-14
Sep-14
Oct-14
Nov-14
Dec-14
1.8
3.5
▲ 0.5
▲ 0.6
1.2
1.5
0.2
1.6
▲ 2.3
1.0
4.3
0.3
▲ 0.3
2.1
2.2
N/A
N/A
N/A
*貿易収支(名目、財・サービス、10億ユーロ)
域外輸出(同上)
域外輸入(同上)
25.1
▲ 1.2
▲ 1.1
25.0
▲ 4.1
▲ 4.6
31.1
9.0
6.9
24.2
▲ 2.9
0.1
26.5
▲ 2.6
▲ 4.1
N/A
N/A
N/A
2.5
2.5
▲ 1.0
▲ 1.2
7.1
3.7
3.3
2.0
0.7
0.7
N/A
N/A
*消費者信頼感指数
*失業率
小売数量指数
乗用車新規登録台数
▲ 8.3
11.6
▲ 0.3
0.7
▲ 10.1
11.5
0.6
0.1
▲ 11.4
11.5
▲ 0.9
▲ 1.3
▲ 11.1
11.5
0.6
3.0
▲ 11.6
11.5
0.6
▲ 2.6
▲ 10.9
N/A
N/A
5.3
0.6
5.7
1.6
4.5
0.4
2.9
1.6
4.6
1.5
0.4
N/A
0.4
1.8
▲ 0.0
0.4
0.8
2.0
▲ 0.2
0.4
0.9
2.5
▲ 0.2
0.3
0.8
2.5
▲ 0.2
0.4
0.7
3.1
▲ 0.2
0.3
0.7
3.6
N/A
▲ 0.2
0.7
前年比
Jul-14
Aug-14
Sep-14
Oct-14
Nov-14
Dec-14
2.8
5.9
4.7
▲ 1.9
▲ 2.1
0.4
0.0
2.1
2.0
1.3
2.6
4.4
▲ 0.6
▲ 1.4
1.1
N/A
N/A
N/A
0.3
▲ 0.3
▲ 0.4
1.2
▲ 0.2
0.3
▲ 0.9
▲ 0.1
▲ 2.6
▲ 1.1
N/A
N/A
1.3
1.4
0.8
1.0
1.1
N/A
▲ 4.6
▲ 4.2
2.5
▲ 5.0
▲ 7.5
3.7
▲ 1.9
▲ 4.9
2.3
0.2
▲ 3.7
4.5
0.1
▲ 5.5
6.3
N/A
N/A
4.3
1.6
10.6
▲ 1.0
4.5
1.5
11.0
▲ 1.4
4.7
1.2
9.4
▲ 2.5
4.7
1.3
9.0
▲ 2.6
4.9
1.0
8.5
▲ 2.8
4.8
0.5
7.2
N/A
N/A
*景況感指数(欧州委員会)
*鉱工業最終品在庫DI(同)
鉱工業生産指数
製造業受注指数(除く大型輸送機器)
建設業生産指数
マネーサプライ(M3)
生産者物価指数・最終財コア
消費者物価指数
コア(エネルギー・食品・アルコール・煙草を除く)
0.0
0.1
0.0
▲ 0.1
▲ 0.1
▲ 0.1
0.15
0.21
1.17
3,115.5
1.339
137.6
0.15
0.16
0.89
3,172.6
1.313
136.7
0.05
0.08
0.95
3,225.9
1.263
138.5
0.05
0.09
0.85
3,113.3
1.252
140.6
0.05
0.08
0.70
3,250.9
1.245
147.6
0.05
0.08
0.54
3,146.4
1.210
144.9
前月比
Jul-14
Aug-14
Sep-14
Oct-14
Nov-14
Dec-14
ドイツ
*ifo景況感指数(2005年=100)
鉱工業生産指数
製造業受注指数
同コア(除く大型輸送機器)
*失業率
*DAX株価指数(末値)
108.0
1.2
4.8
0.6
6.7
9,407.5
106.3
▲ 2.6
▲ 4.2
▲ 0.9
6.7
9,470.2
105.3
1.0
1.1
1.1
6.7
9,474.3
103.4
0.6
2.9
2.3
6.6
9,326.9
104.6
▲ 0.1
▲ 2.4
▲ 2.0
6.6
9,980.9
105.5
N/A
N/A
N/A
6.6
9,805.6
フランス
*INSEE製造業景況感指数
鉱工業生産指数(除く建設業)
家計財消費支出
*CAC株価指数(末値)
97.1
0.4
▲ 0.7
4,246.1
96.3
▲ 0.1
0.9
4,381.0
96.0
0.0
▲ 0.7
4,416.2
97.5
▲ 0.7
▲ 0.8
4,233.1
98.6
▲ 0.3
0.4
4,390.2
99.2
N/A
N/A
4,272.8
31
0.2
2.5
1.6
4.0
0.4
6.0
27
0.7
▲ 2.8
2.6
3.1
▲ 0.3
6.0
18
▲ 0.3
▲ 2.2
0.9
▲ 0.5
1.0
6.0
12
0.1
1.4
0.4
2.3
1.6
5.8
16
N/A
N/A
N/A
N/A
0.5
N/A
0.0
0.2
▲ 0.5
0.5
0.0
▲ 0.4
0.50
2.60
6,730.1
1.688
173.6
0.50
2.37
6,819.8
1.660
172.8
0.50
2.43
6,622.7
1.621
177.8
0.50
2.25
6,546.5
1.600
179.7
0.50
1.93
6,722.6
1.565
185.6
0.50
1.76
6,566.1
1.558
186.6
*ECB主要政策金利(末値、%)
*Euribor3カ月レート(末値、%)
*ドイツ10年国債利回り(末値、%)
*ダウユーロ50種株価指数(末値)
*ユーロドル(末値、$/€)
*ユーロ円(末値、円/€ )
各国統計
英国
*CBI製造業生産見通し
鉱工業生産指数
*貿易収支(名目、財・サービス、10億£)
輸出(同上)
輸入(同上)
小売数量指数
失業率(ILOベース、後方3カ月平均)
消費者物価指数(CPI)
Nationwide住宅価格指数
マネーサプライ(M4)
コア(その他金融の資金仲介を除く)
*イングランド銀行政策金利(末値、%)
*英10年国債利回り(末値、%)
*FT100株価指数(末値)
*ポンドドル(末値、$/£)
*ポンド円(末値、円/£)
26
0.2
▲ 3.7
1.3
2.8
0.1
6.2
▲
▲
▲
▲
▲
▲
▲
▲
(注) *は水準。ユーロ圏乗用車新規登録台数、同消費者物価指数、英国住宅価格指数は前月比を季節調整値、前年比を原数値で算出。
(資料) Eurostat、欧州委員会、ECB、ACEA、ドイツ連銀、ドイツ連邦統計庁、ifo、INSEE、ONS、BOE、CBI、Nationwide、Bloomberg、EcoWin
7
みずほ欧州経済情報(2015 年 1 月号)
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