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第34回ソフトウェア工学国際会議ICSE2012 参加報告

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第34回ソフトウェア工学国際会議ICSE2012 参加報告
Vol.2012-SE-177 No.5
2012/7/19
情報処理学会研究報告
IPSJ SIG Technical Report
第 34 回ソフトウェア工学国際会議 ICSE2012 参加報告
亀井 靖高1,a)
伊原 彰紀2,b)
畑 秀明3,c)
吉村 健太郎4,d)
吉田 則裕2,e)
概要:本稿では,2012 年 6 月にチューリッヒで開催されたソフトウェア工学の国際会議 ICSE(International
Conference on Software Engineering)2012 に参加した際の会議の内容について報告する.
1. はじめに
盛り上げていたように思う.
ICSE2012 では,高い品質の研究論文発表,新しい研究
今 年 で 34 回 目 を 迎 え る ソ フ ト ウ ェ ア 工 学 国 際 会 議
成果に対するポスター発表,ツールデモンストレーション
(ICSE:International Conference on Software Engineering)
など,様々な発表が行われた.以降,本稿では 2 章で採録
は,スイスのチューリッヒで開催された(図 1,図 2).
された論文の傾向について紹介を行う.3 章で本会議の模
ICSE は,ソフトウェア工学分野を扱う国際会議の中で最
様を紹介し,4 章で併設イベントの模様を紹介する.5 章
も権威のあるものの 1 つである.例年,5 月あるいは 6 月
で筆者らの所感を述べる.そして,最後に 6 章で 2013 年
に開催され,本年の会期は 6 月 1 日から 9 日までの 9 日間
以降の ICSE について紹介する.
であった.開催期間のうち,本会議は 6∼8 日の間の 3 日間
であり,本会議で採択されたソフトウェア工学全般の様々
な研究に関する発表が行われた.その前後の日程では,ソ
フトウェアリポジトリマイニング,ソフトウェアプロセス,
自己適応システムという 3 つのテーマに関する国際会議
と,特定研究テーマに関する研究者が集まる 27 件のワー
クショップが開催された.
ICSE2012 の参加人数は,6 月 5 日の時点で 50 ヶ国・
1,280 人(本会議への参加人数は 850 人)と発表され,過
去 12 年の間で最も多くの参加者数であった.例えば過去 3
年間の参加者数は,2009 年のバンクーバー開催では 1,103
名,2010 年のケープタウン開催では 700 名弱,2011 年の
ハワイ開催では 1,063 名 [3] である.ICSE2012 では国別の
参加者数に関する報告はなかったが,全参加者のうち 3 割
図 1
チューリッヒの景色
以上が学生であるとの報告があった.著者の印象でも,多
くの学生が活発に発表,および,質疑を行い,会議全体を
1
2
3
4
a)
b)
c)
d)
e)
九州大学
Kyushu University, Fukuoka, Japan
奈良先端科学技術大学院大学
Nara Institute of Science and Technology, Nara, Japan
大阪大学
Osaka University, Osaka, Japan
日立製作所
Hitachi Research Laboratory, Hitachi, Ltd., Japan
[email protected]
[email protected]
[email protected]
[email protected]
[email protected]
c 2012 Information Processing Society of Japan
⃝
図 2 会場となった国際会議場
1
Vol.2012-SE-177 No.5
2012/7/19
情報処理学会研究報告
IPSJ SIG Technical Report
Notification㛵㐃
Desk Rejects
7ᮏ䠖408 -> 401
Author
Clarifications
Second Round
Reviews Due
䛭䛾௚
Early Rejections
146ᮏ䠖401 -> 255
Notification
168ᮏ䠖255 -> 87
First Round
Reviews Due
10᭶
11᭶
PC Meeting
(Zurich)
12᭶
1᭶
2012
2011
図 3
2᭶
3᭶
査読の流れと各時点での論文数
表 1 投稿数,および,採録数上位5つのトピック
2012 年
投稿数順
2011 年 [3]
採録数順
投稿数順
採録数順
Empirical SE
Tool and Environments
Testing and Analysis
Testing and Analysis
Software Maintenance
Empirical SE
Empirical SE
Empirical SE
Testing
Software Maintenance
Tools and Environments
Tools and Environments
Tools and Environments
Testing
Architecture and Design
Rev. Eng. and Maintenance
Analysis
Analysis
Rev. Eng. and Maintenance
Depend., safety, reliab.
Analysis などのトピックが上位を占めていた.研究論文の
2. 論文の査読に関する情報
本会議への論文投稿本数は 408 本であり,そのうち 87
本の論文が採録された.採択率は 21.3%である.ここ近年
の採択率と比べると本年の採択率はやや高めである.例
えば過去 3 年間の採択率は,2009 年で 12.3%(=50/405),
2010 年で 14.2%(=54/380),2011 年で 14.1%(=62/441) で
あった.
会議のオープンニングでは投稿された論文に対する査読
のプロセスが紹介された(図 3).まずはじめに,査読者
が割り当てられる前に 7 本の論文が不採録となり(Desk
Rejects)
,次に,それぞれ,まず 2 名の査読者が割り当てられ
る(First Round Reviews)
.この第一回目の査読の段階で
良い評価を得られなかった論文の著者らに対しては,12 月
中旬の段階で不採録の通知が送られる(Early Rejections)
.
そして,良い評価を得た論文のみに 3 番目の査読者が割り
当てられる(Second Round Reviews).論文の著者らは,
査読者が指摘した論文の疑問点について回答文を提出する
ことができ(Author Clarifications),プログラム委員は,
その回答を考慮した上で議論を行い(PC meeting),最終
的な採否を決定する(Notification).今年は 168 本の論文
が最終段階で不採録と判断され,結果として 87 本の論文
が採録された.
投稿および採録された研究論文のトピックの上位 5 件
が紹介された(表 1).今年採録された論文の上位 5 つの
トピックとしては,Tool & Environments,Empirical SE,
Software Maintenance,Testing,Analysis であった.去年
と同様,Tool & Environments,Empirical SE,Testing,
c 2012 Information Processing Society of Japan
⃝
評価では優れた手法を提案するだけでなく,その手法を
データに基づき評価することが重要な要素である.そのた
め,データの収集が他のトピックと比べてしやすい分野の
論文のトピックが,採録されやすい可能性があると考える.
本年度の Distinguished Paper Award は,以下の 7 本で
あった.
• Tobias Roehm, Rebecca Tiarks, Rainer Koschke, and
Walid Maalej: How Do Professional Developers Comprehend Software?
• Michalis Famelis, Rick Salay, and Marsha Chechik:
Partial Models: Towards Modeling and Reasoning
with Uncertainty
• Pingyu Zhang and Sebastian Elbaum: Amplifying
Tests to Validate Exception Handling Code
• Mehdi Mirakhorli, Yonghee Shin, Jane ClelandHuang, and Murat Cinar: A Tactic-Centric Approach
for Automating Traceability of Quality Concerns
• ThanhVu Nguyen, Deepak Kapur, Westley Weimer,
and Stephanie Forrest: Using Dynamic Analysis to
Discover Polynomial and Array Invariants
• Anders Moller and Mathias Schwarz: Automated Detection of Client-State Manipulation Vulnerabilities
• Will Dietz, Peng Li, John Regehr, and Vikram Adve:
Understanding Integer Overflow in C/C++
国別の投稿数の上位は順にアメリカ,ドイツ,中国,カ
ナダ,イギリスであり,国別の採録された論文数はアメリ
カ(34 本)
,カナダ(8 本)
,中国(6 本)
,ドイツ(6 本)
,イ
2
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図 4
オープニングの様子
ギリス(5 本)であった.残念なことに会議のオープンニ
ングでは採録論文数の上位 9 カ国の報告のみであったが,
図 5
参加者に配布されたスイスの多機能ナイフ
3.1 基調講演
1 日 目 の 基 調 講 演 は ,Columbia University の Saskia
筆者らがプログラムを調べたところ,筆頭著者が日本の研
Sassen による “Digital Formations of the Powerful and
究機関に属する論文は下記に示すとおり研究論文が 2 本,
the Powerless”(図 6).このプレゼンテーションでは,2
その他に実践論文が 1 本,ポスターが 1 本であった.
種類の社会システム(電子的に普及した経済網と,グロー
研究論文
バルに展開するローカルな社会活動網)について比較・紹
• Hideaki Hata (Osaka University, Japan), Osamu
介された.グローバリゼーションが専門の Sassen によっ
Mizuno, and Tohru Kikuno: Bug Prediction Based
て,今までに氏が取り組んだ研究分野について述べられ,
on Fine-Grained Module Histories
ソフトウェア工学研究者にとっても興味深い講演であった.
• Katsuro Inoue (Osaka University, Japan), Yusuke
2 日目の基調講演は,SAP の Frank-Dieter Clesle による
Sasaki, Pei Xia, and Yuki Manabe: Where Does This
“Supporting Sustainability with Software – An Industrial
Code Come from and Where Does It Go? - Integrated
Perspective”(図 7).ソフトウェアによるエネルギー削
Code History Tracker for Open Source Systems -
減に関する講演である.“Green IT(IT 機器自体のエネル
実践論文
• Futoshi Iwama (IBM Research, Japan), Taiga Nakamura, and Hironori Takeuchi: Constructing Parser
for Industrial Software Specifications Containing Formal and Natural Language Description
ポスター
ギー消費の削減)” と,“Green by IT(社会におけるエネ
ルギー消費の削減のための IT ソリューションの役割)” に
対する SAP での取り組みについて紹介された.
3 日目の基調講演は,Imperial College London の Jeff
Kramer による “Whither Software Architecture?”(図 8)
.
ソフトウェアアーキテクチャのインパクト,企業でなぜソ
• Rina Nagano (Kyushu University, Japan), Hiroki
フトウェアアーキテクチャの研究成果の適用に関して広
Nakamura, Yasutaka Kamei, Bram Adams, Kenji
く普及しないのか,今後の本研究分野の方向性,について
Hisazumi, Naoyasu Ubayashi, and Akira Fukuda: Us-
紹介された.聴衆からも多くの質問があり,聴衆のソフト
ing the GPGPU for Scaling Up Mining Software
ウェアアーキテクチャに対する興味・関心の高さが伺えた.
Repositories
3. 本会議
3.2 研究論文トラック
研究論文は,2 章で述べたように,プログラムの解析,
本会議は,General Chair である Martin Glinz(Univer-
テスト,エンピリカルに属する論文が非常に多かった.以
sity of Zurich)のオープニングの挨拶から始まった(図 4)
.
降,著者らの研究の興味の範囲で,いくつか特徴的な論文
今年の会議では,記念品としてスイス発祥である多機能ナ
を紹介する.
イフが配布された(図 5)
.今回,論文集は完全なオンライ
Fault Handling セ ッ シ ョ ン:Jian Zhou ら の Where
ン配布となっており,参加者はそれぞれ会場の無線 LAN
Should the Bugs Be Fixed? - More Accurate Information
を使って閲覧することができた.
Retrieval-Based Bug Localization Based on Bug Reports
以降の各節では,著者らが参加した範囲で,本会議の様
子を紹介する.
という論文は,Bugzilla などの障害管理システムに障害報
告が行われた際に,障害報告に記載されたキーワードから
修正対象である可能性の高いソースコードファイルを自動
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⃝
3
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図 6 Saskia Sassen(Columbia University)による基調講演
図 7
Frank-Dieter Clesle(SAP)による基調講演
ストケースの実行ログからバージョン管理システム)
.本発
表以外にも,複数の種類のソフトウェアリポジトリをどの
ようにリンクするかを扱っている論文はいくつかあり,今
後,複数のソフトウェアリポジトリをリンクし,その上で
分析するような研究論文が増える可能性があると考える.
Defect Prediction セッション:Fayola Peters らの Privacy and Utility for Defect Prediction: Experiments with
MORPH という論文は,データのプライバシーという問題
を扱っている.バグ予測モデル*2 の構築には学習データが
必要であるが,開発データの計測・蓄積を行っていない企
図 8
Jeff Kramer(Imperial College London)による基調講演
業や,新規開発プロジェクトではモデルの導入は困難であ
る.近年,その問題解決の一手法として,他組織が収集し
的に検出する手法・BugLocator を提案している.4 つの
オープンソースプロジェクトを対象に評価実験を行った結
果,提案手法は効率的に修正対象のソースコードファイル
を検出できたと報告している.例えば,Eclipse プロジェ
クトの約 3,000 件の障害報告それぞれに対して,提案手法
によって提示される修正候補ファイルの上位 10 ファイル
を調べたところ,62%の確率で実際に修正されたファイル
が含まれていたことがわかった.
Francisco Servant ら の WHOSEFAULT: Automatic
Developer-to-Fault Assignment through Fault Localization という論文は,テストケース実行時にテストが失
敗した際に,その欠陥を修正するのにふさわしい開発者を
自動的に見つけ出す手法を提案している.ここで,ふさわ
しい開発者とは当該プロジェクトでその欠陥を修正するた
めに最も専門性の高い開発者を指す.iBugs*1 で公開されて
いる AspectJ の開発履歴を用いて実験を行った結果,提案
手法によって提示される上位 5 名の候補者の中に,90%以
上の確率で実際に修正を行った開発者が含まれていたと報
告している.
これらの発表に共通することは,2 つ以上のデータソー
たデータを用いる方法が提案されているが,データ提供側
は未加工のままでデータを共有することを嫌う.Peters ら
は,メトリクスの一部を比例尺度から順序尺度に変換する
ことでデータのプライバシーを守りつつも,バグ予測モデ
ルの精度を保つ方法を提案している.
Hideaki Hata(第三筆者)らの Bug Prediction Based on
Fine-Grained Module Histories という論文は,従来行われ
いるバグ予測研究をより細粒度に行うためのバージョン
管理システム・Historage を提案している.従来研究では,
パッケージ単位などの粗粒度よりもファイル単位などの細
粒度でバグ予測を行うほうが実践的であるという知見は得
られており,それらの知見から,より細粒度であるメソッ
ド単位の予測を行う方が好ましいと考えらている.しかし
ながら,従来のバージョン管理システムはファイル単位ま
ででしか履歴を管理しておらず,メソッド単位での分析方
法は困難であった.Historage はバージョン管理システム
の 1 つである Git の特徴を活用し,メソッド単位のリポ
ジトリマイニング環境を実現している.また,本発表では
Historage を用いたメソッド単位のバグ予測の実験結果を
報告している.
今までにもバグ予測の研究は盛んに行われてきた.近年
スをどのようにリンクするか,という点にある(1 件目は障
害管理システムからバージョン管理システム,2 件目はテ
*1
http://www.st.cs.uni-saarland.de/ibugs/
c 2012 Information Processing Society of Japan
⃝
*2
ファイルのメトリクス(コード行数やサイクロマティック数等)
を説明変数とし,欠陥の有無を目的変数とする数学的モデル
4
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の研究発表や今回の ICSE での発表も踏まえて,バグ予測
た量的な分析を行った.分析の結果,例えば,障害報告を
の研究は「単に予測手法を提案し予測精度の向上を達成す
行った開発者と,修正を担当した開発者が異なる国にいる
るか」という段階を経て,
「より現実的な問題をとらえ,そ
場合,Reopen の発生確率が高くなると報告している.
れをどのように解決するか」という段階にシフトしている
ように思う.
3.4 Most Influential Paper Award
Human Aspects of Process セッション:Minghui Zhou
Most Influential Paper Award は,10 年前の ICSE で発
らの What Make Long Term Contributors: Willingness
表された論文のうち,その後の研究に最も影響を与えた論
and Opportunity in OSS Community という論文は,どう
文に贈られる賞である.本年は,ICSE2012 のプログラム委
いった要因がオープンソースコミュニティにおいて長く貢
員によって下記の 4 本の論文がノミネートされ,最終的に
献する参加者(LTC: Long Term Contributors)をもたらす
Aldrich らの “ArchJava: connecting software architecture
のか,について分析している.分析のために,Willingness,
to implementation”[1] が選ばれた.
Macro-climate,および,Micro-climate という 3 つのカテ
• James A. Jones, Mary Jean Harrold, and John
ゴリから計 9 種類のメトリクスを定義している.Gnome
Stasko: Visualization of test information to assist
プロジェクトと Mozilla プロジェクトを対象に分析を行っ
fault localization
た結果,例えば,報告したバグがきちんと修正された参加
• Martin P. Robillard, and Gail C. Murphy: Concern
者は,継続してコミュニティに参加し,LTC になる確率が
graphs: finding and describing concerns using struc-
高いという知見を得ている.
tural program dependencies
Multiversion Software セッション:Katsuro Inoue ら
• Sudheendra Hangal, and Monica S. Lam: Tracking
の Where Does This Code Come from and Where Does It
down software bugs using automatic anomaly detec-
Go? - Integrated Code History Tracker for Open Source
tion
Systems -という論文は,オープンソースリポジトリのた
• Jonathan Aldrich, Craig Chambers, and Notkin,
めのコード履歴の追跡に関するアプローチを提案してい
David: ArchJava: connecting software architecture
る.本論文ではコード片を入力として与えることで,その
to implementation
コードクローンを含むコード片を出力するプロトタイプシ
この論文は,ソフトウェアアーキテクチャの意図を正
ステム・Ichi Tracker を開発し,3 つのケーススタディに
しく引き継いだ実装を行うための枠組みを提供すること
Ichi Tracker を適用した.適用の結果の 1 つとして,ソー
を目的として,Java を拡張した言語・ArchJava を提案し
スコードの不正な再利用(ライセンス違反)の発見に有用
ている [1].具体的には,アーキテクチャと実装を統合す
であることがわかった.
る,つまり,ソースコード中にアーキテクチャを記述す
Code Recommenders セッション:Abram Hindle らの
る方法を提案している.その実現のために ArchJava では
On the Naturalness of Software という論文は,ソースコー
components,connections,ports といった構文を定義して
ドの記述を英語といった自然言語の一つとして解釈し,
おり,アーキテクチャ設計において重要なコンポーネント
ソースコードに対して自然言語分野(発話認識や自然言語
間の接続関係や協調動作をプログラム中に記述し,実装が
翻訳)のアプローチを適用した.具体的には,ソースコー
アーキテクチャ制約に適合することを保証する.ArchJava
ドのコード補完タスクに対して n-gram モデルを適用した.
は,アーキテクチャー設計と実装をつなぐ枠組みを提供し,
実験によって n-gram の適用の有用性を示した上で,ソフ
その後のアーキテクチャー設計の研究に大きな影響を与え
トウェア工学分野における自然言語翻訳の応用に関する研
た.また,概念の提案だけでなく,ArchJava をコンパイル
究の方向性・将来のビジョンを示した.
するためのツールも公開しており*3 ,多くの研究者・実務
者に大きな影響を与えた.
3.3 実践論文(SEIP: Software Engineering in Practice)トラック
4. 併設イベント
Debugging セッション:Thomas Zimmermann らの Char-
ICSE は,本会議の前後に併設されるイベントが多いと
acterizing and Predicting Which Bugs Get Reopened と
いう特徴がある(表 2).今年は 27 のワークショップと 3
いう論文は,実践論文トラックのベストペーパーに選ばれ
の国際会議・シンポジウムが併設された.これらの併設イ
た論文であり,一度修正完了と判断された障害報告が実は
ベントは,特定のテーマに興味のある研究者が集うため,
正しく修正されておらず再開されるという事例(Reopen)
そのテーマに関する最新の研究動向が報告されたり発表に
について分析を行っている.Microsoft の開発者 358 名へ
対して深い議論が行われたりすることが多い.
のサーベイによる質的な分析,および,Windows の開発プ
ロジェクトの障害管理システムに蓄積されたデータを用い
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⃝
*3
http://archjava.fluid.cs.cmu.edu/
5
Vol.2012-SE-177 No.5
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表 2
併設イベント一覧
ワークショップ
• AST — 7th IEEE/ACM International Workshop on Automation of Software Test
• MiSE — 4th International Workshop on Modelling in Software Engineering
• CHASE — Co-operative and Human Aspects of Software Engineering
• CTGDSD — Collaborative Teaching of Globally Distributed Software Development: Community Building Workshop 2
• FormSERA — Workshop on Formal Methods in Software Engineering: Rigorous and Agile Approaches
• SESENA — Third International Workshop on Software Engineering for Sensor Network Applications
• GREENS — First International Workshop on Green and Sustainable Software
• HotSWUp — Workshop on Hot Topics in Software Upgrades
• SE-SmartGrid — First International Workshop on Software Engineering Challenges for the Smart Grid
• TOPI — 2nd Workshop on Developing Tools as Plug-ins
• WETSoM — 3rd Workshop on Emerging Trends in Software Metrics
• SEHC — 4th International Workshop on Software Engineering in Health Care
• IWSC — Sixth International Workshop on Software Clones
• PESOS — 4th International Workshop on Principles of Engineering Service-Oriented Systems
• PLEASE — 3rd International Workshop on Product LinE Approaches in Software Engineering
• RSSE — 3rd International Workshop on Recommendation Systems for Software Engineering
• UsARE — International Workshop on Usability and Accessibility focused Requirements Engineering
• MTD — Third International Workshop on Managing Technical Debt
• RAISE — Realizing AI Synergies in Software Engineering
• SUITE — Fourth International Workshop on Search-Driven Development: Users, Infrastructure, Tools, and Evaluation
• USER — User evaluation for Software Engineering Researchers
• S-Cube — European Software Services and Systems Research - Results and Challenges
• EduRex — First International Workshop on Software Engineering Education based on Real-World Experiences
• GAS — 2nd International Workshop on Games and Software Engineering: Realizing User Engagement with Game
Engineering Techniques
• SEES — 2nd International Workshop on Software Engineering for Embedded Systems
• WEH — 5th International Workshop on Exception Handling
• WRT12 — Fifth Workshop on Refactoring Tools
国際会議
• MSR — 9th Working Conference on Mining Software Repositories
• SEAMS — 7th International Symposium on Software Engineering for Adaptive and Self-Managing Systems
• ICSSP — International Conference on Software and System Process
第一著者は,併設国際会議のうち,MSR(The 9th Work-
ing Conference on Mining Software Repositories)に参加
5. 所感
した(図 9・図 10)
.これはソフトウェアリポジトリ(版
亀井の所感:2011 年についで 2 回目の参加でした.今回
管理システムやバグ管理システム)を扱う国際会議で,リ
も前回と同様,本会議と MSR2012 に参加してきました.
ポジトリの分析手法の提案や,リポジトリを分析して得ら
ICSE の大きな魅力の 1 つは,非常に品質の高い研究論文
れた知見の報告など,様々な研究が発表された.今年の参
の発表から,新しい研究のアイディアをたくさん得られる
加者数は 150 名を超えており,併設イベントの中で最も大
ことだと思います.それ以外にも,ICSE には若手のトッ
規模,かつ,活気のあるイベントの 1 つであった.MSR
プ研究者がいっぱい参加しているので,自身が抱える研究
Challenge*4 と
課題を議論しながら,自身の研究者ネットワークを増やせ
いうセッションを設けて共通のデータセットを用いた競技
るのも大きな魅力です.今後も出来る限り本会議,もしく
大会を設けている.今年は Android プロジェクトのリポジ
は併設の国際会議に論文を投稿して,参加をしていきます.
トリデータを公開しており(2012 年 6 月現在も公開中),
伊原の所感:今年初めて ICSE に参加し,本会議と MSR2012
MSR 分野の研究者を支援している.
に参加しました.本会議に参加して驚いたことは参加者の
では研究論文のセッション以外に,Mining
人数です.参加者が 1000 人以上であるため,容易に同じ
*4
http://2012.msrconf.org/challenge.php
c 2012 Information Processing Society of Japan
⃝
6
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2012/7/19
情報処理学会研究報告
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図 9
図 10
MSR2012 の講演の様子
MSR2012 の夕食会
動機を持つ研究者と巡り合うことができ,世間話が共同研
にも大いに価値のある会議と感じています。次回は米国西
究に発展することが他の会議と比べて起こりやすいと思い
海岸での開催となります。日本企業からも多くの参加があ
ます.私自身も 2 人の研究者と現在取り組んでいる研究に
ることを期待しています。
ついて話が弾み,共同研究の準備を始めることになりまし
吉田の所感:2 章にあるように,開発ツールや環境に関する
た.同じ動機を持つ研究研究者と出会うとモチベーション
発表が例年より多かったことが印象に残りました.特に,
も上がるため,良い刺激になります.来年こそは,発表者
リファクタリングとコード推薦については,それぞれ本会
として本会議に参加できるよう研究に励みます.
議に研究論文のセッションが設けられていました.これら
畑の所感:2008 年の初参加から間が開いて 2 回目の参加で
論文の中には,既存ツールとの比較や,大規模な実証実験
した.米国などではトップカンファレンスでの複数回発表
をしていないものもあり,優れたツールの開発が研究論文
が PhD 取得条件のようで,PhD の学生発表が多かったと
として積極的に評価されていると感じました.リファクタ
思います.プロシーディングでは,関連研究の網羅ぐあい,
リングやコード推薦は,私の研究テーマであり良いチャン
評価や議論の徹底度から,どの文献も間違い無く最新かつ
スだと思いますので,本会議で発表できるよう努力してい
最高ランクの研究成果と言えます.また今回印象的だった
く所存です.
のは,発表のうまさ,サービス精神です.分かりやすくお
もしろく,議論に巻き込み,議論に耐える発表者が高く評
6. 2013 年以降の ICSE について
次回の ICSE2013[2] は,アメリカ合衆国のサンフランシ
価されると感じました.
また自身は,2 章で報告されている日本からの発表者の
スコ*5 にて 2013 年 5 月 18 日から 26 日までの計 9 日間,開
一人でもあるので,その観点からも報告いたします.発
催される.テクニカルペーパーの締切は 2012 年 8 月 17 日
表論文「Bug Prediction Based on Fine-Grained Module
である(ICSE2012 年の際よりも締切が一ヶ月ほど早いこ
Histories」の着想は 2010 年ごろなので 1 年以上かけて,ま
とに注意されたい).また,2014 年はハイデラバード(イ
た ICSE レビュアーからのコメントも受けて,ICSE レベ
ンド)で,2015 年はフィレンツェ(イタリア)で開催され
ルの内容に出来たと思います.直前の ESEC/FSE 2011 で
ることが決定されている.日本からも,本会議および併設
もオープンイシューとして挙げられていた,細粒度な予測
ワークショップに数多くの論文が投稿されることを期待し
(Fine-grained prediction)へのタイムリーな取り組みが特
たい.
謝辞 会場写真の一部は大阪大学の崔恩瀞さんが撮影し
に評価されたと感じています.ホットトピックへのタイム
リーな貢献は重要と思われます.一方,発表の面では満足
たものをいただきました.
な質疑応答が出来なかったのが今後の大きな課題となりま
参考文献
した.
[1]
吉村の所感:私はワークショップ(IWSC)での発表と、ソ
フトウェア工学研究の技術動向の把握を目的として ICSE
に参加しました。ICSE への参加は今回で 4 回目となりま
す。本会議の特徴として、自分の研究対象とする領域だけ
ではなく、ソフトウェア工学分野全体での最新技術や、実
[2]
[3]
用化が期待できる技術の動向を知ることができるというこ
とが挙げられます。大学研究者だけではなく、企業研究者
c 2012 Information Processing Society of Japan
⃝
*5
Aldrich, J., Chambers, C. and Notkin, D.: ArchJava: connecting software architecture to implementation, Proceedings of the 24th International Conference on Software
Engineering (ICSE2002), pp. 187–197 (2002).
ICSE 2013 Conference Website:
. http://2013.
icse-conferences.org/.
石尾隆, 吉村健太郎: 第 33 回ソフトウェア工学国際会議
(ICSE2011) 参加報告, 情報処理学会研究報告. ソフトウェ
ア工学研究会報告, Vol. 2011, No. 12, pp. 1–7 (2011).
ICSE2013 Trailer: http://goo.gl/KJPBr
7
Fly UP