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フロンティア
点と線と、時々ピクセル ──フィールドワーカーにとってのGPS・GIS
古澤拓郎 ふるさわ
たくろう / 京都大学、Fieldnet運営委員、AA研共同研究員
本誌第4号の特別企画で
はじめに:
サービス/JICA専門家派遣)は、これに答える、
ご紹介したFieldnet(フィールドネット)。
フィールドワークにGPS・GISは必要なのか?
とても良い事例を提供した。彼は、アフリカに
今回はその活動の中から生まれた
フィールドワークする研究者を結ぶFieldnet
おける農村開発支援において、訪れた村々の場
活動の一環として、GPS(グローバル・ポジショ
所を「点」として記録し、事務所からのルートや、
について、編著者の古澤さんに
ニング・システム)とGIS(地理情報システム)
村を巡回するルートを「線」として記録し、活
ご紹介いただきながら、フィールドワークに
の使い方を、超初心者向けに、実践的に、説明す
動の効率化を行なったのである(図1、2)。
GPS・GISを取り入れる意義について
るムック『フィールドワーカーのためのGPS・
私が紹介したのは、南太平洋の漁撈社会にお
語っていただきます。(編集部)
GIS入門』を編集した。コンピューターや機械
いて、住民にGPSと心拍数計をつけてもらい、
『フィールドワーカーのためのGPS・GIS入門』
が苦手な方でも、無理なく始められるように配
活動の軌跡を記録したものだ。活動場所という
慮し、基礎知識、製品・ソフトの使い方ガイド、
「点」に、村人の漁場分類を重ねると、水深の浅
様々な分野での実例集で構成した。
い砂地、内海のサンゴ礁、広い外洋、そして外
ところで、そもそもこういった技術はフィール
洋とサンゴ礁のぶつかる淵など、場所に応じた
ドワークにどう役立つのか、としばしば問われ
活動が見て取れた(図3)。また、点と点を結ぶ
る。私自身も、人類生態学を専門にしており、い
「線」に、心拍数を重ねると、各場所やカヌーで
までも自分の目で観察し、聞き取り、計測・計
の移動における、身体活動量の上下動も見えた
量することが一番大切で、頭よりも足をよく使
(図4)。
う。このムックでは、地理学、考古学、生態人類
このように、ただの点と線に、他のデータを
学、開発援助など、様々な分野や立場のフィール
重ね合わせることで、フィールドでの情報が活
ドワーカーが寄稿した。私たちの、フィールド
きる、オリジナル地図になっていくのである。
ワークでの活用事例やアプローチ方法を俯瞰する
と、各分野、というより研究者ごとに工夫があり、
GPS・GISの意義が見えてくる。ここでは、点と
『フィールドワーカーのための
GPS・GIS入門』
古今書院 ISBN 978-4-7722-7111-0
価格:3,150円(税込)
内容
Section 1 基礎知識
Section 2 GPS
Section 3 無料地図ソフト
Section 4 有料の高性能ソフト
Section 5 フィールドからの事例集
Fieldnetで寄せられた質問と回答
24
Field+ 2012 01 no.7
衛星画像や航空写真は、等間隔にならんだた
くさんの画素、つまりピクセルに、色をつける
線と、ピクセルという視点から、紹介したい。
古澤拓郎・大西健夫・近藤康久編
ピクセル
ことで、絵に見えている。「色」といっても、衛
点と線
星画像などでは、目に見えない近赤外線なども
まず、GPSは、人工衛星から発信される情報
感知できるようになっている。
を受信することで、正確な位置を計測し、記録す
大西健夫氏(水文学・岐阜大学)は、アムー
ることができる。携帯電話やカーナビで、なじみ
ル川流域の土地被覆・土地利用、つまり土地を覆
深いものになってきている。さて、緯度と経度を
うものが、森か、草地か、湿地かなどを分類して、
測ったところで、それを目に見える形にすると、
地図を作った(図5)
。地図ができた後、
「湿地」
地図上に点を打ち、線を引ける、ということしか
に分類されたピクセルだけを抽出することで、湿
ない。白い紙の上に、いくつか点と線を描いたと
地の分布や面積を知ることができた(図6)
。
して、それが何の役に立つだろうか?
画像でピクセルを分類することは、もっと小
三好崇弘氏(開発経済学・有限会社エムエム・
さな地域にも使えるのであり、私は堡礁島にお
図1 ザンビア農村にてGPSを使って説明をする
青年海外協力隊員(撮影:三好崇弘)
。
図2 ザンビアで農村の位置とそこへ至る経路をGPSで記録した
地図(三好崇弘作成)
。
図3 ソロモン諸島で12人の村人が
漁撈活動した軌跡をGPSで記録した
地図。
図4 ソロモン諸島でラグーン内から外洋へとカヌーで
漕ぎだして戻ってくるまでの経路と心拍数を記録し3Dで
表示した地図。
ける耕作地の変遷や、熱帯雨林における商業的森
林伐採の影響評価に用いた。こういった画像の解
析は、リモート・センシングつまり、「遠隔から
感知する」ことであり、現地に入り込むフィール
ドワークと反対の概念だが、両方を組み合わせる
ことで、新しい発見ができるのである。
GPSとGISをフィールドワークに役立てる
前述の大西氏や私は、環境の変化を知るため
に、過去に撮影された航空写真や衛星画像データ
1930年代
1930年代
2000年
2000年
図5 アムール川流域の土地利用を分類した地図:
1930年代と2000年を比較(大西健夫)
。
図6 アムール川流域の湿地の分布(図5から湿地だけを抽
GPSによる点と線と、リモート・センシング
は、無料のソフトとデータを中心に取り上げた。
究会、集まり等で紹介し議論しあえる機会があれ
によるピクセルにすぎないデータを、私たちはこ
また、使い方ガイドも、わかりやすいように、た
ばと考えている。
のようにフィールドワークと組み合わせること
くさんの操作画面を掲載しており、手順に従うだ
で、それまではわからなかったものを、解明でき
けで、一通りの作業を行なうことができる。また
本ムックの専用サイトもご覧ください
てきたと思っている。ただし、役立て方は人それ
専門用語では、点と線はベクター型データ、ピク
URL: http://fieldnet.aacore.jp/category/
ぞれで異なり、研究のメインテーマになることも
セルはラスター型データと呼ばれ、分析方法や適
books/gps
あれば、補助的ツールにとどまる場合もある。実
切なソフトにも違いがあるが、このムックは、ど
際に使う中で、自分なりのテーマと手法を編み出
ちらもカバーしているので、多くのニーズに応
Fieldnet
して欲しい。
えられる。GPSや有料のソフトについても、安
URL: http://fieldnet.aacore.jp を用いて、過去と現在を見比べた。タイムマシー
ンが無い以上、過去を知るために有効な手段で
ある。
大西氏はまた、「水は高きから低きに流れる」
という原則に従い、地形データから水文を解析し
た事例も紹介している。近藤康久氏(考古情報学、
考古地理学・日本学術振興会PD)らが紹介した
研究会では、地理的条件に基づいて、経路算出を
した。これは、環境や人間の行動をモデル化する
例である。
事例集には、考古学の研究事例がたくさん挙
がっている。遺跡の精密な測量と、丁寧なビジュ
アル化によって、人や社会の営みを再現しようと
している。山口欧志氏(考古学、文化財科学・日
本学術振興会PD)・近藤康久氏によれば、「文化
に関わるさまざまな資料を総合する」という、人
文社会科学の新たな領域を切り開くべく、文献資
料、フィールド調査に加えて、高度な機材を使っ
た測量と画像解析を行なっている。これは、現代
出した)
(大西健夫)
。
の社会を研究することにも応用できるだろう。
価なものや、広く普及しているものを紹介してい
ぜひフィールドワーカーのネットワークにご参
まとめ:これから始める人のために
る。フィールドワークにGPSとGISを取り入れる
加ください。サイトにアクセスし、Join usから
さて、GPS・GISを始めてみようと思っても、
きっかけにしてもらえれば幸甚である。
登録してください。SNS型のウェブサイトにリ
敷居が高く感じるかもしれない。しかし、「習う
くわえてFieldnetワークショップ、そして本書
ニューアルしたばかりです。ワークショップ等、
より慣れろ」(編者一同)で、とにかく始めてみ
によって得たスキルをもとに、研究者それぞれの
Fieldnetの企画情報や登録者間のコミュニケー
ることが大事である。そのために、このムックで
GPS・GISの活用法を、Fieldnetの小規模な研
ションが得られます。
Field+ 2012 01 no.7
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