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精研だより第9号 - 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター

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精研だより第9号 - 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター
National Institute of Mental Health, NCNP
精研だより
題字:吉川武彦 名誉所長
2012 年 3 月 1 日発行 第 9 号
国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所
〒187-8553
東京都小平市小川東町 4-1-1
Tel:042-341-2711
Fax:042-346-1944
<今号の記事>
研究部紹介
社会精神保健研究部
p2
東日本大震災支援活動の記録
p4
精神保健研究所 60 周年記念祝賀会
p6
精神保健研究所の動き(2011.9.1〜2012.2.29)
9.6
第 3 回精神科医療従事者自殺予防研修(〜7)
9.13
第 25 回薬物依存臨床医師研修、第 13 回薬物依存臨床看護等研修(〜16)
9.28
第 4 回発達障害精神医療研修(〜30)
10.12
第 5 回司法精神医学研修(〜14)
10.18
第 3 回アウトリーチによる地域ケアマネジメント並びに訪問型生活訓練研修
第 9 回 ACT 研修
10.18
動物慰霊祭
10.24
国際ミニシンポジウム『記憶の強化と睡眠』(センター内)
10.26
第 8 回摂食障害看護研修(〜28)
10.31
国立精神・神経医療研究センター・メルボルン大学合同カンファレンス(〜11.1 コ
ンファレンススクエア M+)
11.8
第 2 回自殺予防のための自傷行為とパーソナリティ障害の理解と対応研修(〜9)
11.19
第1回 NCNP 駅伝大会
11.24
自殺予防総合対策センター、第 3 回メディアカンファレンス開催(全国町村会館)
11.29
第 4 回精神科医療従事者自殺予防研修(〜30)
12.2
自殺予防総合対策センター、メディアカンファレンス開催(秋田市民交流プラザ)
12.6
病院機能評価認定・新小型実験動物棟完成記念祝賀会
H24.1.16
第 6 回犯罪被害者メンタルケア研修(〜18)→P8
1.20
精研創立 60 周年記念祝賀会→P6
2.8
第 12 回発達障害支援医学研修(〜9)
2.24
自殺予防総合対策センター、第 4 回メディアカンファレンス開催(全国町村会館)
2.27
第 23 回精研研究報告会
所長室の窓から
雛祭りに思う
国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所
所長
加 我 牧 子
精研だより第 9 号をお届けします。
あの東日本大震災の日、3 月 11 日から早くも一年になります。
「もう」一年なのか、
「まだ」
一年なのかは悩み深いところですが、山のように問題を残しながらも、復興への地道な努
力は引き続き進んでおります。現地の方々の深い志と、悲しみや辛さを超えて持続する大
きなちからに心から敬意を表します。
当国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所は平成 24 年元旦に創立 60 周年を迎え
ました。そこで 1 月 20 日に厚生労働省担当課の方々をはじめ、研究所にご縁の深い方々
をお招きし、研究所の同窓会員とともに 60 歳の誕生パーティを都内で開催することができ
ました。御来賓の皆様とともに、スタッフ一同、研究所の還暦の場に居合わせた幸運を思
い、これまで以上に研究に邁進し、社会的に大きな責任を負う意志を確認しあい、なごや
かな時をすごすことができました。関連の記事を本号に掲載しましたのでご覧ください
(p6)。厚生労働省医政局国立病院課からは原稿のご依頼を頂いて広報誌「厚生労働」2 月
号に、研究所の過去現在未来についての紹介記事を掲載して頂くことができました。
3 月といえば雛祭り、桃の節句の季節です。その昔、学生時代に旅先の山口で買い求めた
小さな大内人形は鮮やかな金色や赤、緑、黄色を散らした漆黒と朱の漆塗りで、真ん丸な
お姿に真ん丸なお顔、細い下がり目が愛らしく微笑んでおり、私の雛祭りには欠かせない、
大好きなアイテムになっています。大内人形は 14 世紀の山口県、周防の国の領主大内弘世
が、京都から迎えた愛妻である美しいお姫様のために作らせたお人形に端を発し、夫婦円
満、家内安全のお守りでもあるそうです。山口は西の京ともよばれ、室町時代には大内家
の支配の元で繁栄し、市内の瑠璃光寺境内には 15 世紀に完成した、高さ 31.2m、3 間四方
の土台を有する見事な五重塔がそびえています。大内人形の伝統はこのような文化の花開
く地方都市で作られ、長く愛され続けて今日に至っています。
地震や津波で大切なお雛様を失ったこどもたちにも、大内人形に伝わるあたたかいこころ
が届くことを願う今日この頃です。
◆ 研究部紹介 ◆
医療の質を高める研究
〜社会精神保健研究部・伊藤弘人部長に聞く〜
−社会精神保健研究部では、どのような研究をしていますか
研究の内容としては、(1)身体疾患と精神疾患の関連についての研究 (2)医療の質・安全を
向上するための研究 (3)政策研究(自殺対策、診療報酬、家族・地域研究)、の 3 本の柱が
あります。
まず、循環器疾患や糖尿病などの身体疾患と“うつ(depression)”との関係に関する研究
です。1993 年、「心筋梗塞後に“うつ”になると、ならない場合と比較して死亡率が 5 倍
程度高くなる」という衝撃的な研究結果がアメリカで発表されました。現在のメタ解析で
は 2 倍前後とされていますがそれでも高く、循環器疾患患者さんの 2 割くらいの方が“う
つ”を併発していることを考えると、優先順位の高いテーマと考えられます。
循環器疾患の場合、急性期後は心臓や身体の機能を維持向上させるためにリハビリテーシ
ョンを取り入れるとよいのですが、うつ状態になると身体を動かさなくなり、食事制限や
服薬も守れなくなりがちです。これまでは厚生労働科学研究で奥村研究員が担当して地道
に進めてきましたが、2010 年に「共同ケア」が循環器疾患の予後もうつも改善するという
研究結果が発表されて社会的関心が急速に高まりつつあります。共同ケアとは身体科医と
精神科医との間にコーディネーターを置き、必要があれば精神科診療へつなぐ仕組みが基
本となるケアです。現在国立高度専門医療研究センターおよび関連学術団体と共同でナシ
ョナルプロジェクトを立ち上げ、臨床研究基盤の整備と包括的うつ管理コーディネーター
(仮称)養成研修の準備をしています。
−次の「医療の質をあげる研究」とは、具体的にはどのようなものですか
2000 年に、Institute of Medicine(アメリカ医学研究所)は医療事故が原因で年間 4 万〜
10 万人のアメリカ国民が亡くなっているという報告を出し、医療の質の評価・改善が注目
されています。精神科医療の質を上げるための指標づくりも国際的に始まり年 1 回の国際
会議に日本から出席しています。
精神科医療の質を上げるポイントは、行動の制限や精神科での薬の処方を必要最小にした
いと考えている専門家の取り組みを支援することです。代表的な行動制限には入院中の隔
離や身体拘束があります。当部では、日本精神科救急学会等と連携して、野田室長と佐藤
流動研究員が中心となり、センター病院と共同で NCNP に eCODO 注 1)(行動制限等最
適 化 デ ー タ ベ ー ス ) セ ン タ ー を 設 置 し ま し た 【 図
1 】
(http://www.ncnp.go.jp/nimh/syakai/ecodo/index.html)。精神科医療の質を測定するもの
で、全国の病院で導入が始まっています。2012 年度中には各病院が他の病院の医療の質を
相互評価できる仕組みが稼働します。匿名化された 2 次データの分析結果のフィードバッ
クを活用して、各病院での医療の質を客観的に把握し、精神科医療の継続的な質管理
(Quality Control, QC)に役立てていただきたいと考えています。
また、向精神薬(こころに効く薬)関連では、奥村研究員を中心に、東京医科歯科大学や
産業医科大学と共同で DPC/PDPS 注 2)のデータを解析しています。さらに「向精神薬が
心臓に与える影響」について池野流動研究員は PMDA(日本医薬品医療機器総合機構)へ
の副作用報告のデータベースなどを用いて整理しています。
−3 つめの柱である政策研究ですが、システムや政策を変えると現場も大きく変わりそうで
すね
医療は、基本的に医療法、診療報酬(健康保険法)、精神保健福祉法といった法律をベース
に成り立っていますので、医療機関は医療政策とダイレクトにリンクしています。当研究
部では、政策立案の参考となるデータを常に先読みをしながら整理・分析し、必要に応じ
て専門的観点からの提案をしてきました。平成 24 年度診療報酬改定のベースとなる中医協
調査の検討委員、精神保健福祉法改正に伴う精神科救急体制検討会での eCODO の紹介(野
田室長)、交通バリアフリー施策に関して国土交通省の委員会への参加(堀口室長)、保護
者制度の在り方の検討での国際的状況の報告、健康日本 21 改定検討会での「こころの健
康・休養」部分に関する提案などがあります。さらに、各都道府県が平成 25 年度から実施
する医療計画で、従来の 4 疾病(急性心筋梗塞、がん、脳卒中、糖尿病)に加えて精神疾
患が加わることになりました。厚生労働科学研究で策定指針に資する研究を行っています。
家族地域研究は堀口室長が、
「共生社会」の実現に向けた取り組みとして障害がある方の権
利擁護を研究しています。千葉県の「障害者条例」以降、各地で同様の条例を作ろうとす
る動きが活発になっています。国の障害者差別禁止法(仮称)の制定に向けた課題につい
て関係者と意見交換を実施しています。また、地域特性を測定する方法としてソーシャル・
キャピタル(社会資本)を指標とした住民調査を、地方公共団体のご協力を得て実施して
います。
−最近の日本人の健康について、気がついたことを教えてください
2000 年から始まった第三次国民健康づくり運動である「健康日本 21」の改定が進められ
ています。休養・こころの健康づくりでは、ストレスへの対応、十分な睡眠、自殺者の減少
と飲酒関連指標の改善に関する指標が用いられてきました。調査によると睡眠はとれるよ
うになってきたものの睡眠導入剤やアルコールを摂取する人が増えています。自殺率も下
がっておらず引き続き重要な課題です。
加えてここで指摘したいのは、身体疾患を持っていることが“こころの健康”に大きく影
響するということです。自殺直前にかかりつけ医や内科を受診しているケースも少なくな
く、精神科以外の専門家に“こころ”の問題に関心を持ってもらい、ゲートキーパー注 3)
の役割を担ってもらえればと考えます。前述の包括的うつ管理コーディネーターも、総合
病院精神科機能を補強・補完して国民の健康増進に寄与することを願っています。
今後も、救急場面や循環器疾患・糖尿病・がんなどの治療現場で、専門家間の連携がシス
テム化する取り組みを進めていきたいと思っています。
注 1)Coercive measures Database for Optimization の略
注 2)特定機能病院等の急性期病院での診療報酬請求に採用されている
Diagnosis Procedure Combination / Per-Diem Payment System (DPC/PDPS)のデータ。
注 3)ゲートキーパー:悩んでいる人に気づき、声をかけ、話を聞いて、必要な支援につ
なげ、見守る人のこと(内閣府 HP より)
社会精神保健研究部のスタッフ
前列左より、野田寿恵室長、伊藤弘人部長、堀口寿広室長、奥村泰之外来研究員、後列左
より垣内累美子研究助手、稲井由紀子研究助手、佐藤真希子流動研究員、池野敬流動研究
員、熊谷珠樹研究助手、後藤貴誉加研究助手
東日本大震災に関する精研の支援活動(平成 23 年 9 月~平成 24 年 2 月)
平成 23 年
9月
東日本大震災トラウマ対策技能研修(6.22)の Web 視聴システ
ム開始(~H24.2 月)【金吉晴】
9月1日
秋田県精神保健福祉協会研修会にて大震災と心のケアについて
講演/秋田市【金吉晴】
9月8日
仙台市にて児童生徒の心の健康調査に関する打ち合わせ/仙台
市【鈴木友理子】
9月8日
東日本大震災による地域患者の心理的支援および診療支援/郡
山
市
針
生 ヶ
丘
病 院
【
安 藤
久
美
子
】
(9/29,10/6,10/27,11/10,11/24,12/22 も)
9月9日
福島県健康診査専門委員会に出席/福島市【鈴木友理子】
9 月 11 日~12 日
国際専門家会議「放射線と健康リスク-世界の英知を結集して福島
を考える」参加/福島市【鈴木友理子】
9 月 13 日~15 日
岩手県精神保健福祉センターにおけるデータ整理/盛岡市【鈴木
友理子】
9 月 14 日
岩手県気仙沼地域精神福祉担当者等連絡会に出席/気仙沼市【鈴
木友里子】
9 月 15 日
岩手県こころのケアチームの相談記録票(全国統一版)の作成開
始/盛岡市【鈴木友里子】
9 月 15 日
日本精神神経学会(JSPN)第 11 回対策本部会議/東京都【金吉
晴・鈴木友理子・中島聡美】 (10/12 第 12 回会議,11/9 第 13
回会議)
9 月 18 日~23 日
15th World Congress of Psychiatry に参加/ブエノスアイレス
【金吉晴・鈴木友理子】
9 月 23 日
東日本大震災におけるメンタルヘルス対策について討論/パリ
【金吉晴】
9 月 26 日
宮城県教育庁福利課にて健康調査打ち合わせ/仙台市【鈴木友理
子】
9 月 26 日~28 日
岩手県精神保健福祉センターにて東日本大震災後のこころのケ
アにかかる技術支援/盛岡市【中島聡美】
9 月 29 日
福島県自殺対策推進行動計画担当者研修会にて、災害時の心のケ
アと自殺対策について講義/福島県県北保健福祉事務所・福島市
【金吉晴】
10 月 10 日
日本トラウマティック・ストレス学会にて、シンポジウム「災害
による遺族のメンタルヘルスとケア」のコーディネートおよび講
演/神戸国際会議場・神戸市【中島聡美(コーディネーター)、
鈴木友理子(講演)】
10 月 11 日
カナダ大使館にて震災シンポジウムに関する打ち合わせ/東京
都【鈴木友理子】
10 月 13 日
仙台市教育局にて児童生徒の心の健康調査検討委員会に出席/
仙台市【鈴木友理子】
10 月 18 日~21 日
岩手県精神保健福祉センターにて、岩手県こころのケア活動相談
記録の整理と解析支援/盛岡市【鈴木友理子】
10 月 20 日
和歌山県御坊保健所「災害時の地域精神保健活動とメンタルヘル
ス」にて「災害とこころのケアについて」講演/御坊市【金吉晴】
10 月 21 日
江東区にて福島県からの被災避難者のメンタルケアについて打
ち合わせ/東京都【金吉晴】
10 月 24 日
宮城県庁にて、宮城県支援者調査打ち合わせ/仙台市【鈴木友理
子】
10 月 26 日
シンポジウム「東日本大震災の復興計画と中長期的支援」司会/
東京都【金吉晴】
10 月 27 日
江東区保健所長と打ち合わせ/東京都【金吉晴】
11 月 3 日
国際トラウマティック・ストレス学会にて、「福島第一原発事故
による心理的影響について」「日本における大災害時の精神的サ
ポート:神戸と東北の経験から」を講演/ボルチモア【金吉晴】
11 月 9 日
産業医科大学国際シンポジウムにて、「原子力災害対応労働者の
産業保健」について講演/北九州市【金吉晴】
11 月 17 日~18 日
岩手県精神保健福祉センターにて、岩手県におけるこころのケア
活動のまとめに関する打ち合わせ及びデータ整理/盛岡市【鈴木
友理子】
11 月 20 日
岩手県精神保健福祉センターへの支援活動(トラウマ技能研修会
講師)/盛岡市【中島聡美】
11 月 22 日
「大震災と災害・紛争時等における精神保健・心理社会的支援に
おける IASC ガイドライン」について講演/パリ【金吉晴】
11 月 23 日
岩手県平成 23 年度地域自殺対策研修会にて「トラウマ・気分障
害」について講演/盛岡市【鈴木友理子】
11 月 27 日
日本行動療法学会研修会にて、企画シンポジウム「東日本大震災
後に求められるケア」講演/東京都【金吉晴】
12 月 1 日
「災害後のメンタルケア(PTSD)-製薬会社が貢献できる情報提
供活動とは-」を講演/ファイザー社・東京都【金吉晴】
12 月 1 日
宮城県公衆衛生学会学術総会にて「災害後のメンタルヘルス:中
長期の課題と対応」を講演/仙台市【鈴木友里子】
12 月 2 日
山形県にて精神保健科学研修会(23 年度特別講義)「災害後のメ
ンタルヘルス~危機から回復に向けて~」/山形市【鈴木友里子】
12 月 8 日
心の健康フォーラムにて「災害時における心のケア」について講
演/鳥取市【金吉晴】
12 月 8 日
カナダ大使館にて東日本大震災後の精神衛生についての討議会
/東京都【鈴木友里子】
12 月 13 日~14 日
岩手県こころのケア相談分析/岩手県精神保健福祉センター・盛
岡市【鈴木友里子】
12 月 14 日~15 日
第 2 回東日本大震災トラウマワークショップ IN みやぎにて「ト
ラウマと悲嘆について」講演/気仙沼市・石巻市【金吉晴】
12 月 16 日
宮城県の公立学校教職員のストレス対応に関する助言/宮城県
庁・仙台市【鈴木友里子】
12 月 18 日~19 日
岩手県精神保健福祉センターへの支援活動/盛岡市【中島聡美】
12 月 21 日
被災地のこころのケア(主催:内閣府)連携会議出席/東京都【金
吉晴】
平成 24 年
1 月 13 日
WHO(世界保健機関)関係者(サクシーナ部長ほか)と災害関
係の打ち合わせ/東京都【鈴木友里子】
1 月 22 日
こころの県民講座にて「災害時のこころのケア~いま、一人ひと
りができること~」を講演/前橋市【金吉晴】
1 月 22 日
岩手県精神保健福祉センターへの支援活動/盛岡市【中島聡美】
1 月 27 日
都内城東地区学術講演会にて「自然災害と精神医療対応:東日本
大震災から」を講演/東京都【金吉晴】
1 月 30 日
宮城県行政職員支援会議に出席/仙台市【鈴木友理子】
1 月 31 日
管理監督者メンタルヘルス研修会にて「健康調査を踏まえた管理
監督者の役割とメンタルヘルス対策」を講義/仙台市【鈴木友理
子】
2 月 19 日~20 日
岩手県精神保健福祉センターへの支援活動/盛岡市【中島聡美】
学会受賞者
塚田 恵鯉子(精神生理研究部/センター病院精神科)
The 6th World Congress of the World Sleep Federation(Worldsleep 2011)Poster Award
を受賞(2011 年 10 月)
日本の小中学生を対象とした睡眠関連呼吸障害の症状と眠気との関連:大規模横断調査
塚田恵鯉子、北村真吾、亀井雄一、朝田
隆、小山智典、神尾陽子、三島和夫
小中学生の睡眠呼吸障害は、記憶・知能・活動能力の低下、注意欠陥/多動性障害を引き起
こすリスクなどがあると言われるが、日本で大規模調査の報告はなかった。そこで 2009
年 12 月~2010 年 4 月に、全国 10 カ所、148 小学校、71 中学校から抽出した小中学生を
対象に、両親記入型の調査を行った。その結果、
「いびき、息つまり、息止まり、眠気」が
週に 2 回以上ある児童は、それぞれ全体の 8.7%、1.1%、1.3%、7%、週に 5 回以上ある
児童は、それぞれ 1.5%、0.2%、0.2%、0.9%であった。解析の結果から、睡眠関連呼吸
障害の 3 症状(いびき、息つまり、息止まり)は、小児においても日中の強い眠気を引き
起こす独立したリスク因子である可能性があることが明らかになった。
嶋根 卓也(薬物依存研究部)
第 46 回日本アルコール・薬物医学会
優秀演題賞(臨床分野)を受賞(2011 年 10 月)
「薬局薬剤師を情報源とする向精神薬の乱用・依存の実態把握に関する研究」
嶋根卓也、松本俊彦、和田
清
近年、向精神薬等の過量服薬と自殺との関連が報告され、適正処方が求められている。院
外処方化が進むなかで、患者の多くは薬局薬剤師から向精神薬を受け取ることになり、薬
剤師には過量服薬者のゲートキーパーとしての役割が期待されている。
本研究では、調剤報酬明細書(レセプト)における加算に着目し、重複処方の実態把握を
試みた。埼玉県薬剤師会の会員薬局におけるレセプト(平成 22 年中)から、計 119 件の
重複処方症例が報告され、地域の薬局薬剤師が重複処方を未然防止している実態の一端が
明らかになった。最頻薬剤はエチゾラム(デパス、他)、内科と整形外科との組み合わせが
最も多かった。エチゾラム重複の背景として、
「向精神薬の指定がなく、処方日数の上限が
ない」、「適用症が幅広く、複数の診療科から処方される機会がある」などの理由が考えら
れた。
肥田 昌子(精神生理研究部)
第 18 回日本時間生物学会学術大会
優秀ポスター賞受賞(2011 年 11 月)
「生体組織を利用した生物時計機能評価-概日リズム睡眠障害者への応用-」
肥田昌子、大澤要介、北村真吾、榎本みのり、片寄泰子、野崎健太郎、守口善也、亀井雄
一、池田正明、三島和夫
ほとんどの生物は、約 24 時間を周期とする概日リズムをもつが、それを制御する生物時計
システムの異常により睡眠障害を生じることがある(概日リズム睡眠障害)。その病態を明
らかにするためには、患者さまの生物時計機能を評価する必要があるが、従来法では数週
間にわたる隔離実験を行うため負担が大きく、より実用的な評価法の開発が求められてい
る。そこで、ほとんどの細胞に生物時計機能が備わっていることに着目し、皮膚由来の培
養細胞において時計遺伝子発現リズム(末梢リズム)の測定を行った。この末梢リズムは
個人の生物時計機能を反映する有用なマーカーであることが明らかとなり、概日リズム睡
眠障害患者を対象に末梢リズム測定法の臨床応用を試みた。
栗山 健一(成人精神保健研究部)
The 6th World Congress of the World Sleep Federation (Worldsleep 2011:4 年ごとに開
催)において、
国際睡眠協会(World Sleep Federation)より、若手研究者賞が授与された。また、第 18 回
日本時間生物学
会学術大会(2011 年 11 月)において、日本時間生物学会学術奨励賞(臨床・社会部門)が授与
された
この 2 つの賞は、各研究領域で顕著な業績をあげ、今後の活躍が期待される若手研究者に
贈られる賞であり、栗山室長の研究テーマである「睡眠中の神経可塑性が精神疾患の病態
に与える影響および精神疾患の予防・治療法の開発」および「時間認知や記憶機能におけ
る概日リズム特性が精神に及ぼす影響」に関する、一連の研究成果が評価されたものであ
る。
栗山室長は近年、PTSD の予防・治療法の開発に関わる研究成果を複数報告しており、中
でも PTSD 等のストレス性精神疾患予防法としての睡眠剥奪の有用性や、抗結核薬である
D-サイクロセリンや抗てんかん薬のバルプロ酸による、不安障害・PTSD の認知行動療法
増強効果に関する一連の研究は、新たな疾患アプローチとして国際的に広く注目を集めて
いる。これらの予防・治療効果はいずれも、ヒトが本質的に備える、記憶・認知機能の概
日特性や、睡眠時特有の潜在的記憶増強プロセスの有効利用に基づいており、このような
独創性および実用性の高さから、ますますの研究発展が期待されている。
注目論文−editor’s choice−
金
吉晴(成人精神保健研究部)
British Journal of Psychiatry 誌に掲載され、英国王立精神医学会からプレスリリースさ
れた(2011 年 11 月)
独立行政法人国立精神・神経医療研究センター
精神保健研究所創立 60 周年記念祝賀会
2012 年(平成 24 年)1 月 1 日、精神保健研究所は創立 60 周年を迎えました。これを記念
して、去る 1 月 20 日、千代田区のアルカディア市ヶ谷にて記念祝賀会を開催しました。
精研にかかわる 70 名余りが集い、精研の来しかたを振り返り、前途を祝し、共に精研の還
暦を祝いました。
司会
和田清所長補佐
伊藤順一郎社会復帰研究部長
▲ 加我牧子所長
皆様のお力に支えられ 60 周年を迎えることができました。今後も患者さんやご家族、国民
全体の精神健康を維持向上するための研究を進め、成果を世の中に還元してまいります。
▲ 厚生労働省医政局国立病院課長・片岡佳和様
精研の研究は非常に重要な分野であり、さまざまな研究にチャレンジしてほしい、との言
葉をいただきました。
▲ 厚生労働省障害保健福祉部精神・障害保健課長・福田祐典様
精研の研究とつながりの深い障害保健福祉部より、精研への期待が語られました。
▲ 高橋清久名誉総長
精研は優れた社会的研究や政策提言につながる研究をしてきました。小平に移転後はさら
に発展し成果をあげています。今後も「国立精神保健研究所」にふさわしい研究を続けて
ください。
▲ 今田寛睦元所長(12 代)
国府台時代に精研でご活躍だった方々の懐かしいお名前が次々と飛び出してきました。
▲ 上田茂元所長(13 代)
神経センターと精神保健研究所が統合した際の、
「精神・神経センター」という名称の誕生
秘話が語られました。
▲ 吉川武彦元所長(10 代)
私が精研にいた昭和 40 年前半には、精研創設以来の先生がおられたのです。その先生方は
ほとんど鬼籍に入られました。今日、お若い研究者たちとお会いし、とてもうれしく思い
ます。
▲ 北井暁子前所長(14 代)
自殺予防総合対策センターが起ち上げられ、皆さんの研究の成果が現れてきていると思っ
ています。いま、研究所再編検討委員会のメンバーですが、今日の皆さんの熱気を受け止
めて会に臨みます。
▲ 大川匡子元精神生理部長
当時、睡眠という分野での研究を受け入れていただいたのが精研でした。今 も若い研究者
が睡眠の研究を発展させていることをうれしく思います。
▲ 白井泰子元社会文化研究室長
研究に協力して下さった方々へのプライバシー保護などのルールを守り良い研究をしてく
ださい。
『創立 60 周年記念誌』が発行されました
会場では、開所当時から独法化後の写真まで、数百枚の写真が映し出されました
◆ 祝
辞 ◆〜 60 周年を迎えて 〜
国立精神・神経
医療研究センター総長
樋口 輝彦
精神保健研究所は、昭和 25 年に精神衛生法が制定された国会の付帯決議に基づき、昭和
27 年 1 月に国府台に設置されました。開設当時は 5 部 30 名と小さく生まれたわけですが、
その後社会の要請により、大きく育っていきました。(中略)
戦後、この研究所ができた時には、戦後の劣悪な精神保健の環境を整備するために国が政
策立案するワーキンググループの色彩を帯びていたと思います。また、1970 年代以降は国
の精神保健行政の一翼を担い、疫学統計データを提供し、シンクタンクの役割を担ってい
たものと思われます。1980 年代以降は、少し国の行政から離れて、研究所の本来の姿、す
なわち社会心理学、疫学の手法を用いた仮説検証的な研究や一部には生物学的研究も行わ
れるようになりました。今や社会的関心の高い研究課題(自殺、薬物依存、災害とメンタル
ヘルス、発達障害、睡眠障害、統合失調症の地域移行など)の大半をこの研究所が担ってい
ます。(中略)
当研究所は狭い意味での研究に加えて、啓発、現場での支援、研修などの機能を担ってい
ます。このために、研究所の評価は狭い意味での研究を評価するのとは異なった観点で行
われる必要があると思います。しかし、中には仮説検証的な研究も行われているので、評
価軸の設定が難しいわけです。
(中略)しかし、一方では、今後ますます国際的評価が求め
られることになるのは確かであります。
(中略)このように社会的関心の高い領域の研究を
推進する上でも研究所の将来構想は重要であります。
今、研究所のあるべき姿、それは個々の研究所のあるべき姿というよりも当センターの研
究所全体のあるべき姿の検討が始まっています。精研60 年の歴史を振り返ると共に、次
の 60 年の研究所の発展に向けて大いなる理想と知恵出しを関係者にお願いしたいと思い
ます。最後に精神保健研究所の還暦を祝すと共に当研究所で働くすべてのスタッフのます
ますのご発展を祈念して、私のご挨拶を終えたいと思います。
精研 60 年のあゆみ
昭和 25 年 5 月
精神衛生法の国会通過に際し、精神衛生研究所設置の附帯決議採択
昭和 27 年 1 月
千葉県市川市に国立精神衛生研究所設置。総務課、心理学部、生理学形態学部、優生学部、
児童精神衛生部及び社会学部の 1 課 5 部により研究業務開始
昭和 31 年 7 月
図書館落成
昭和 32 年
創立 5 周年記念
昭和 35 年 10 月
心理学部→精神衛生部、社会学部→社会精神衛生部に、生理学形態学部→精神身体病理部、
優生学部→優生部に名称変更。精神薄弱部を新設
昭和 36 年 4 月 6 月
医学科、心理学科、社会福祉学科及び精神衛生指導科の研修開始
昭和 37 年
創立 10 周年記念
昭和 41 年 7 月
本館庁舎改築完工
昭和 42 年 4 月
創立 15 周年記念
昭和 48 年 7 月
老人精神衛生部を新設
昭和 50 年 7 月
社会復帰部→社会復帰相談部に名称変更
昭和 53 年 12 月
社会復帰相談庁舎完成
昭和 54 年 4 月
研修課程に、精神科デイケア課程を新設
昭和 55 年 4 月
研修庁舎完成(講義室、図書室、研修生宿舎)
昭和 57 年 4 月
創立 30 周年記念
昭和 61 年 5 月
国立高度専門医療センターの一つとして、国立武蔵療養所、同神経センターと国立精神衛
生研究所を統合し、国立精神・神経センター設置。ナショナルセンターの 1 研究所として
精神保健研究所に改組。精神身体病理部と優生部を統合し精神生理部としたほか、精神保
健計画部及び薬物依存研究部を新設、1 課 9 部 19 室となる
昭和 62 年 4 月
国立精神・神経センターに国立国府台病院が統合し、2 病院、2 研究所となる
心身医学研究部を新設
平成 11 年 4 月
精神薄弱部→知的障害部に名称変更
平成 14 年
創立 50 周年記念。公開市民シンポジウム開催
平成 15 年 10 月
司法精神医学研究部を新設
平成 17 年 4 月
千葉県市川市から東京都小平市に移転
平成 18 年 10 月
自殺予防総合対策センターの新設
成人精神保健部に2室を増設
平成 22 年 4 月
独立行政法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所となる。8 つの研究部の名
称を変更(精神保健計画研究部、児童・思春期精神保健研究部、成人精神保健研究部、精
神薬理研究部、社会精神保健研究部、精神生理研究部、知的障害研究部、社会復帰研究部)
し、発達障害支援研究室を新設、11 部 33 室となる。所長補佐および自殺予防総合対策セ
ンター副センター長を置く
平成 24 年 1 月
創立 60 周年記念誌発行、祝賀会開催
① 開所式。黒沢良臣初代所長
② 開所当時の精神衛生研究所
③ 創立 5 周年記念
④ MD(mental deficiency=精神薄弱)集団療法施設(S38〜S42)
⑤ 昭和 41 年当時の女性職員
⑥ 村松常雄第 3 代所長の書による精神衛生研究所のプレート
⑦ 本官庁舎改築完工式での神事
⑧ 社会復帰相談庁舎
⑨ 第 1 回精神科デイケア課程研修
⑩ 研究所3号館(小平市)
⑪ 金澤一郎元センター長による自殺予防総合対策センターの看板
⑫ 学生研修
⑬ 独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所発足
■ Information ■
第 6 回犯罪被害者メンタルケア研修(1 月 16 日~18 日)
2012 年 1 月 16 日から 18 日に精神保健研究所の主催で犯罪被害者メンタルケア研修会が
開催された。この研修会は、犯罪被害者等基本法(2004 年)、および基本計画(2005 年)
で求められている犯罪被害者に理解のある医療・メンタルヘルス従事者の育成のため、
2006 年より開催しているものである。
現在まで 120 名以上の精神科医師、精神保健福祉士、臨床心理士等の犯罪被害者支援・治
療に関わっているあるいは関心のある医療関係者等が受講してきた。今回の研修では定員
40 名を大きく超える応募があり(受講者 56 名)、犯罪被害者の支援に関して医療関係者の
関心が高いことが示された。
この研修会では、犯罪被害者等基本法や警察での支援、関連する司法制度など犯罪被害者
支援の基礎的な知識及び、PTSD や複雑性悲嘆など犯罪被害者に多い精神疾患の病態や治
療などメンタルヘルスの基本的な理解の講義のほか、精神医療の現場で扱うことの多い子
ども虐待やドメスティック・バイオレンスの被害者への治療・対応の講義も行っている。
また単なる知識にとどまらないように、実際に犯罪被害にあわれたご家族からお話しをい
ただいたり、リラクゼーションや心理教育、事例に基づいた実習など実践的な講義も含ま
れている。
今年度の参加者は、警察の犯罪被害者支援室等で実際に被害者に関わっている人も多く、
大変熱心に受講され、質疑も活発に行われた。参加者がこの実習で得られた知識や交流を
通して一層、各地で犯罪被害者支援が促進されることを望むものである。
(文責:成人精神保健研究部 犯罪被害者等支援研究室長 中島聡美 )
◆ 次回・第 7 回犯罪被害者メンタルケア研修は平成 25 年 1 月 21〜23 日開催予定。参加
希望者は下記URLをご参照ください。
http://www.ncnp.go.jp/nimh/kenshu/h24/h24_07_03.html
退任挨拶
小牧 元
元心身医学研究部長
このたびは精研を離れることになり皆様方には色々と大変お世話になりました。当時、千
葉県の市川市国府台にありました研究所に赴任しまして、かれこれ 12 年も経ち、時の流れ
る速さに改めて驚いているところです。小平の新しい立派な建物に移ってからは、神経研
と一緒になりメンタルヘルス研究を担う責任が、以前にも増して大となったように感じま
す。
そのような時、国府台時代には古い建物ではありましたが、若い流動研究員の皆さん方全
員が机を並べる専用の大部屋が施設にはあったことを思い出します。なくなったことは非
常に残念でした。昨今は短期的な研究成果が常に要求されるようですが、
“無駄な”会話が
日常的に自由にできるスペースがあることが、そこから案外ドラスティックなアイデアが
生まれ、長期的視点からオリジナリティを誇れる研究がより生まれていくのではないだろ
うか、と思ったりするところです。失礼ながら去る者の“希望”です。
先生方におかれましては、健康に気をつけられ、益々ご活躍されんことを祈念いたします。
● 編集後記 ●
去年の夏、息子の使い残した青春 18 切符を手に東北の山をめぐった。青森、秋田、山形、
福島…。新幹線は山を切断し、突き進むが、各駅列車は山をかわし、森をくぐって人を運
ぶ。時間をかけることでしか、味わえない世界があることを、ときどき思い出さなくちゃ・・
ね(S)
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