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「夜警国家」とポプリスト政権 - So-net

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「夜警国家」とポプリスト政権 - So-net
FIAL 論壇(2014 年 1 月)
「夜警国家」とポプリスト政権
小林利郎
「夜警国家」という言葉がある。国民の生命財産の安全を維持する最低限の国家権力の行
使以外は政府は何の介入もしない理想的な Small Government の自由主義国家を指してい
る。言い換えれば、政府は余計なことは何もしなくてよいが国民の安全だけは護らなけれ
ばいけない、という意味でもある。
ブラジルでは暴力スリや強盗・誘拐・殺人等安全を脅かされるケースが少なくない。2013
年 10 月 23 日付のブラジルの新聞”Folha de Sao Paulo”によれば「サンパウロの住民の半分
は何らかの犯罪の犠牲になっている」。企業の事務所への出入りには厳重なチェックがある。
銀行の店舗への入り口はサファリーパークのように二重になっていて、最初のドアをはい
って金属携帯が感知されると二番目のドアは開かない。企業の幹部の公用車はほとんど防
弾仕様になっている。一般住宅は集合住宅も一軒家も周囲を囲む柵はますます高く、門番
は外部の訪問者を厳重にチェックする。それでも最近は arrastao と呼ばれる集団強盗が横
行していて、ホテル、マンション、高級レストランが軒並み襲われている。
一般にポプリストとされる政権は強盗や殺人を真剣に取り締まろうとしないように思わ
れる。かって 1992 年最初の世界環境会議が開かれたとき、日経新聞の主催でブラジル進出
のセミナーがリオデジャネイロで開かれたことがあり、筆者はその司会をやった。そのと
きある日系有力企業の代表がブラジルの治安の問題に懸念を表明したのに対し、ポプリス
トとして知られるブリゾラ・リオデジャネイロ州知事は「ブラジルの犯罪はニューヨーク
やシカゴのような凶悪な組織犯罪ではない。世界のどこの大都市にもあるチンピラの小犯
罪だ」とたいした問題ではないと憤然と反論した。チンピラでも一般市民には恐ろしいし
真っ平御免だが、その後リオデジャネイロやサンパウロの犯罪は凶悪化していて、チンピ
ラどころではなくなっている。
ポプリスト政治は大衆の人気に迎合するために、民生支援に多額の財政支出を行う Large
Government であるにもかかわらず、犯罪取締りは必ずしも充分とはいえない。前述のよ
うに Small Government の夜警国家でも治安維持はミニマムの要件とされる。ましてポプ
リズムの Large Government ではもっと真剣に犯罪を制圧する政策が採られるべきであろ
う。実はそれがポプリスト政権が迎合しようとする大衆の望むところでもあることが昨年
6月の反政府デモの要求の一つが「治安維持」だったことを見ても証明されているのであ
る。
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