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光をむだなく電気にかえる新しい太陽電池の研究をしています。

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光をむだなく電気にかえる新しい太陽電池の研究をしています。
 ● 乾電池は電気の貯金箱
太陽電池はどのようなしくみで光を電気にかえるのでしょうか。それを説
光をむだなく電気にかえる
新しい太陽電池の研究をしています。
かん
しょうかい
明する前にまず、身近な乾電池のしくみから紹介しましょう。
乾電池に導線と豆電球をつなぐと、電流が流れて豆電球が光ります。乾電
池の中には、外に出て豆電球を光らせたりモーターを回すなどの仕事をする
つぶ
ことができる「電子」という粒 が入っています。その電子の流れが電流です。
外に出て仕事をすることが
どうやってむだをなくすの?
できる電子を、ここでは“起
乾電池のしくみ
よ
きた電子”と呼ぶことにしま
しょう。起きた電子は、外に
たが
電子が互いに手をつないでいる物質で起きる
ふ し ぎ
不思議な現象を利用します。
かわ さき まさし
川﨑雅司
そうはつ
博士 創 発 物性科学研究センター 副センター長
きょう そ う か ん か い め ん
強 相 関 界 面 研究グループ グループディレクター
ねむ
出て仕事をしたあと、“眠 っ
もど
た電子”となって電池に戻っ
〈乾電池〉
てきます。
乾電池は、起きた電子がた
つ
くさん詰まった電気の貯金箱
のようなものです。でも、起
きた電子を使い切ると眠った
電子だけとなり、乾電池が切
● エネルギー問題や地球温暖化の解決に役立つ太陽電池
れた状態になります。貯金箱
みなさんは理科の授業で、光を電気にかえる太陽電池(光電池)を使った
のコインをすべて使い切って
ことがありますよね。太陽電池は家の屋根の上など、いろいろなところで使
しまった状態です。
起きた
電子
外に出て仕事をすることができる「起きた電子」が
たくさんたまっています。仕事をして戻ってきた
眠った電子は、二度と目覚めることはありません。
充電池のしくみ
き
一方、ゲーム機やスマート
われています。
し げん
太陽電池は、石炭や石油などの限りあるエネルギー資 源 を使わずに、地球
ふ
に降 り注ぐ太陽の光で発電することができます。また、発電するときに、地
おん だん
フ ォ ン な ど は、 電 池 が 切 れ
起きた電子に
変身
〈 充電池 〉
ても充電すると再び使える
ようになりますね。中には充
エネルギー問題や地球温暖化の解決に役立つと期待されています。
電池が入っていて、一度仕事
しかし今の太陽電池は、光のエネルギーの一部しか電気にかえることがで
をして戻ってきた眠った電
きません。光のエネルギーの多くがむだになっているのです。
子を、電気のエネルギーで目
め
ざ
ふたた
私たちは、光のエネルギーをむだなく電気にかえる新しい太陽電池の研究
覚めさせて、再び起きた電子
をしています。それが実現できれば、エネルギー問題や地球温暖化の解決に
に変身させることができる
大いに役立つはずです。
のです。
1
2
電気の
エネルギー
じゅう でん
球温 暖 化の原因となる二酸化炭素などを出しません。そのため太陽電池は、
わたし
豆電球
眠った
電子
充電池は、一度仕事をして戻ってきた眠った電子
を、電気のエネルギーで目覚めさせ、再び起きた
電子に変身させて仕事をさせることができます。
3
2
● 光で眠った電子を目覚めさせる太陽電池
光の粒と同じように、
さて、いよいよ太陽電池のしくみです。太陽電池には最初から起きた電子
仕事をする起きた電子に
ねむ
じゅう
がたまっているわけではありません。眠 った電子だけです。充 電池は電気の
も、いろいろな価値(エ
エネルギーで眠った電子を起きた電子に変身させますが、太陽電池は光のエ
ネルギー)のものがあり
め
ざ
つつ
ネルギーで目覚めさせるのです。
かん
ます。よく使う筒 型の乾
太陽電池のしくみ
光のエネルギー
〈 太陽電池〉
こうしてできた起きた
電池を見ると「1.5V(ボ
電子は太陽電池の外に出
ルト)」と書いてありま
ていき、電流となって仕
す。その中には150円の
事 を し ま す。 そ し て 仕
価値の起きた電子がた
事をすると電子は眠った
ま っ て い て、 そ れ が 外
状態となり、太陽電池へ
に出ていくと電子1個が
太陽の光
光子
紫
紫外線
赤
300円
(3eV)
200円
(2eV)
赤外線
100円
(1eV)
光のエネルギー
高い
低い
太陽に光には、紫から赤までの目に見える光以外に
し がい
せき がい
も、紫 外 線や赤 外 線などが混じっています。赤外線
の光の粒は100円(1eV)、目に見えるだいだい色は
戻 ってきます。太陽電池
150 円 分 の 仕 事 を す る
200円(2eV)、紫は300円(3eV)といった価値(エ
は、光が当たっている限
よ、という意味です。乾
ばれています。
り、眠った電子を起きた
電池は電気の貯金箱だと
※eVはエネルギーの単位で、エレクトロンボルトと読みます。
電子に変身させて電流を
いいましたが、このタイ
流すことができます。つ
プの乾電池に入っているコインはすべて 150円で、100円や200円のコイン
まり、光で電気をつくり
はありません。
だし太陽電池は、充電池のように、起きた電子をため
続けることができるので
太陽電池の中にできる起きた電子にも価値があり、それは太陽電池をつく
ておくことはできません。
す。
る材料によって異なります。例えば、光を当てると100円の起きた電子がで
もど
起きた電子に変身
太陽電池では、眠った電子を光のエネルギーで起きた
電子に変身させて、仕事をさせることができます。た
ちが
こう し
よ
ネルギー)の違 いがあります。光の粒は「光 子 」と呼
きる太陽電池では、50円や150円の起きた電子はできません。
● おつりがむだになる今の太陽電池
そこに100円の光の粒1個が当たると、100円の起きた電子1個をつくるこ
今の太陽電池は、太陽の光のエネルギーの多くがむだになっています。そ
とができます。しかし300円の光の粒1個が当たっても、100円の起きた電
れはなぜでしょうか。
子が1個できるだけです。300−100=200円のおつりはどこに行ってしま
にじ
まず太陽の光について説明しましょう。みなさんは虹 を見たことがあるで
あま つぶ
わた
うのでしょう。眠っている別の電子に渡 すことができないので、その200円
しょう。太陽の光が空気中の雨 粒 などに当たると、色ごとに分かれて7色の
のおつり(エネルギー)は熱となって消えてしまうのです。
虹として見えます。太陽の光には、いろいろな色の光が含まれているのです。
おつりを使えないことが、今の太陽電池で太陽の光のエネルギーの多くが
実は、光はごく小さな粒からできています。そして、太陽の光には、赤や
むだになってしまう理由です(次のページのイラスト)。
ふく
むらさき
黄、紫 などさまざまな色の光の粒が混ざっています。色によって光の粒のエ
こと
ネルギーは異 なります。赤い粒はエネルギーが低く、紫はエネルギーが高い
か
ち
● おつりを手渡して使える新しい太陽電池
わたし
のです。つまり太陽の光には、100円や300円など、いろいろな価 値(エネ
おつりがむだになってしまうなんて、もったいないですね。私 たちはおつ
ルギー)の光の粒が混じっています。
りをむだにしないで使えるように、300円の光の粒1個で、100円の起きた
4
3
5
4
光のエネルギーの多くが
むだになる今の太陽電池
300円の光の粒
〈 今の太陽電池 〉
光のエネルギーをむだにしない
新しい太陽電池
300円の光の粒
〈 新しい太陽電池 〉
電子が互いに手を
つないでいる
200円のおつりを手渡す
200円のおつりは熱となって消える
100円の起きた電子が1個しかできない
100円のおつりを手渡す
おつりを手渡すことで100円の起きた電子が3個できる
300円の光の粒が当たっても100円の起きた電子が1個しかできず、200円のおつりは熱と
電子が互いに手をつないだ材料は、おつりを隣の電子へ手渡すことができるので、光のエ
なって消えてしまい、むだになります。
ネルギーがむだになりません。
今の太陽電池の材料は、シリコンなどからできていて、電子は手をつないでいません。
互いに知らんぷりで無関係。それでは、おつりを手渡すことができません。
せん もん
電子が3個できる太陽電池ができたらいいなと考えました。
きょうそう かん
けい
電子が互いに手をつないだ材料は、専 門 的には「強 相 関 電子系 」といいます。身の回り
じ しゃく
の磁 石 も、強相関電子系の一種です。
たが
そこで、電子が互 いに手をつないだ材料に注目しました。この材料なら、
つぶ
300 円の光の粒 1 個が当たると、まず 100 円の起きた電子が 1 個でき、余っ
円の起きた電子ができる太陽電池をつくることをめざしています。そうすれ
た 200 円のおつりは隣 の電子へ手 渡 されます。するとその電子は 100 円を
ば、太陽の光に含 まれる100円に満たない光の粒もむだなく使えるし、300
使って変身します。そして残りの100円のおつりを、さらに隣の電子に手渡
円の光の粒からは50円の起きた電子を6個つくることができます。350円の
して、その電子も変身します。こうして 100 円の起きた電子が 3 個できるは
光の粒なら7個できて、むだになることがありません。
となり
て わた
ずです。
● おつりも使える太陽電池を実際につくる
わたし
ふく
● 不思議の向こうにおもしろさが
ふ
電子が互いに手をつないでおつりを手渡すことができるなんて、とても不
し
ぎ
私 たちは現在、おつりもむだなく使える新しい太陽電池を実際につくる実
思 議 ですね。電子が互いに手をつないだ材料では、ほかにもいろいろと不思
験を進めています。
議な現象が起きます。私たちは、まだ知られていない新しい現象を見つける
電子が互いに手をつないだ材料にも、いろいろな種類があります。いろい
実験も行っています。そして、そのような新しい現象を利用して、電力をほ
ろな種類のものを使って、うまくいくかどうか試しました。そして 2014年、
とんど使わないメモリーやコンピューターをつくる研究も進めています。そ
ある材料を使うと、光の粒1個から起きた電子が1個以上できているらしいこ
れらも、エネルギー問題の解決に大きく役立つはずです。
とがわかりました。おつりを隣の電子に手渡しているらしいのです。
みなさんも、身の回りで不思議だな? と思うことがあるでしょう。そう
私たちの目標は、まず 300円の光の粒から100円の起きた電子が3個でき
思ったら、そのしくみを学校の先生に聞いたり本で調べたりしてみてくださ
ることを証明することです。さらに、100円ではなく50円の光の粒で、50
い。きっとおもしろい自然のしくみに出会えるはずです。
(文:立山 晃/フォトンクリエイト イラスト・デザイン:岩崎邦好デザイン事務所)
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