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ネコモルビリウイルスの発見 〜ウイルス性腎不全の可能性〜
特別寄稿 ネコモルビリウイルスの発見 〜ウイルス性腎不全の可能性〜 宮沢 孝幸・坂口 翔一 京都大学ウイルス研究所 つては新規のウイルスを見つけるためには、ウイルス分 はじめに 離が必要であった。しかし、ウイルスの中には、培養細 胞で増殖しないものも存在する。そのような場合も、ウ ゲノム解析技術は日進月歩であり、不可能だと思わ イルスゲノムデータベースを利用して、既知のウイルス れてきたことが次々と可能になってきている。1980 年 の配列を比較し、その共通配列をもとにユニバーサルプ 代は、数キロベースの塩基配列を決定するのにラジオア ライマーを設計し、PCR や Reverse Transcription(RT) イソトープを用いて何カ月をも要した。ヒトゲノムプロ -PCR を行うことが可能となった。さらに現在では、サ ジェクトが 1990 年にスタートした時、ヒトのゲノムを ンプル中に存在する RNA や DNA の塩基配列を網羅的 全部読むのはたとえできたとしてもかなり遠い将来であ に決定する、 「メタゲノム解析」と呼ばれる手法が一般 り、当初計画の 15 年は無謀にさえ思えた。ところがそ 化しつつある。それらの技術により、今まで分離ができ の後の遺伝子解析技術はすさまじいスピードで進み、つ ずに発見されなかったウイルスが次々と見つかるように いに 2000 年にヒトゲノムの最初のドラフトシークエン なってきた。そればかりかウイルスが先に発見され、病 スが公開された。遺伝子解析技術はその後も進歩してお 気との関連を探るという逆方向の研究も行われるように り、今や多くの大学・研究機関に次世代シークエンサー なってきた(図1) 。2012 年に発見されたネコのモルビ が設置され、一回の解析で数十ギガベースも読めるよう リウイルスも、そういったウイルスの一つである。本稿 になってきた。この遺伝子解析技術の技術革新は、ウイ では、ウイルスの発見の経緯と今後の展望について紹介 ルス感染症研究においても革命を引き起こしている。か する。 疾病の発見 遺伝学的解析 病原体の同定・分離 病原体の同定・分離 遺伝学的解析 疾病の発見 図1.従来の感染症研究の流れ(左)と、メタゲノム解析などを用いた新しい感染 症研究の流れ(右)。 ※ NJK は、みなさんで作る雑誌です。症例紹介、御質問、御意見をどしどしお寄せください。 Aug 2014 7