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3.シンポジウム・森林見学ツアーの報告

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3.シンポジウム・森林見学ツアーの報告
3.シンポジウム・森林見学ツアーの報告
3-7.九州「市民が守り育てる地域の里山生態系」
1)基調講演
「足の下の生物多様性−森林と土壌動物の世界−」
福岡教育大学 准教授 唐沢重考氏
片足の下にはどれぐらいの土壌生物がいるだろうか。バクテリアを除いて
も、片足の下に8万匹もの土壌動物が生息している。地上に住む動物は、5,000個体/m2で、土壌
(深さ15cm)は50,000∼100,000個体いる。圧倒的に土壌動物の方が多い。大型の土壌動物のミミ
ズなどは、針葉樹林よりも広葉樹林の方に多く生息している。そのため、針葉樹林の土壌では分解が
進まず、広葉樹林よりも有機物が多く堆積する。また森林の上部は、有機物層が厚く、小型(ダニな
ど)が多く、大型(ミミズなど)が少ないという特徴がある。逆に森林の下部は、有機物層が薄く、
小型が少なく、大型が多い。大型の土壌動物で良く知られているものは、オオムカデなどである。オ
オムカデは、噛んで毒を打ち込むので危険である。他にもゴキブリ、ハサミムシ、ザトウムシ、ホタ
ル、ナメクジ、サソリなどである。ゴキブリは、3億年前から生息している。ホタルは、光らないもの
も多い。あまり知られていないものは、チャタテムシ、サソリモドキ、シミなどである。知られてい
るもの、知られていないものに関わらず、カブトムシの抗菌性ペプチドのように、何かに役立つ可能
性があるので保護する必要がある。
土壌動物の中でも、特にダニとダンゴムシの研究をしている。ダニは、足が8本で、クモ、サソリの
仲間である。触角が無く、昆虫であるノミ、シラミとは違う仲間である。ダニの種類は、ササラダニ
類、トゲダニ類、コナダニ類、ケダニ類、マダニ類などがある。コナダニ類はハウスダストの原因と
なる種類である。ケダニ類は、身近なところだと赤ダニなどがいる。マダニ類は、他のほ乳類から人
へ移るダニである。ササラダニ類は人に寄生せず、落ち葉を食べ、分解する益虫である。ダンゴムシ
は、足が14本で、エビ・カニの仲間である。規則的な迷路で実験をすると、出口から出られるという
能力がある。左→右→左→右に動く性質があるためである。昔は海に生息しており、川から土へ生息
出来るように進化してきた。オカダンゴムシやクマワラジムシは、明治時代頃に地中海沿岸から横浜
へ伝わり、日本全国に広がった外来種である。日本の在来種の多くは森林に住むコシビロダンゴムシ
などである。
林業の専門家と協力して、間伐による生物多様性への影響等を調査・研究している。土壌動物は、
簡単に捕まえることができ、季節の影響を受けにくいという利点があり、環境評価(アセスメント)
に役立つ。林業の視点では人工林は間伐が必要であるが、土壌動物の視点では、間伐したところ、未
間伐のところ、照葉樹林で違う生態系を形成している。未間伐の森林ではアリが少なく、甲虫が多い
という特徴がある。土壌動物を捕獲するために、ピットフォールトラップを設置して、調査してい
る。場所による違いも調査中である。海の側は生物が少なく、広葉樹林では多いということは分かっ
ている。サソリモドキ(おしりから酢酸を出す)は、1975年の北限は、熊本県の天草だったが、最近
では、関東でも発見されている。ダンゴムシとワラジムシも青いものがあり、ウィルスに感染してい
る。それらをもし発見されたら、ぜひ教えて欲しい。
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2) 事例発表1
「森への扉」
油山自然観察の森 森を育てる会 鎌田隆氏
森を育てる会の活動の目的は、たくさんの人に身近な自然の生きものや
植物ことを知ってもらうことである。活動場所は、「自然観察の森」内のカ
ブトムシの森やアカマツ林である。
1992年にスギやヒノキの人工林を伐採し、クヌギ、コナラの苗を植え、
カブトムシの森が作られた。当時は、木が小さかったため、下草刈りが主な
作業だった。保全作業の他に活動の成果や現状を把握するためにクヌギの成長調査(現在は幹回り50
∼60cm)やアカマツの実生苗、昆虫の調査なども行っている。活動の中で分からないことや知りたい
ことは、大学や県の研究機関の先生に来てもらい、勉強会を開催している。今年は油山の昔を知るた
め、麓の古老に講師として来てもらった。他に安全な保全作業をするための講習会や私たちの活動を
知って頂くための活動説明会を催し、市民や企業(CSR活動)を受入れ、HPやパンフレットを作成し
て、活動の広報にも努めている。また、同じような活動をしている方々との交流を通じて、自分達の
活動を振返り、改善を行っている。カブトムシの森は、人にとっては、気持ちの良い森になってきた
が「生物多様性の視点」では色々と課題があり、まだまだ改良中である。森づくりのテーマはシンボ
ルとなるクヌギの大木を育てることや萌芽更新、食 木(草)の育成、生き物の生息場所作りであ
る。
保全管理の方向性としては、1つ目に間伐・除伐を進め、暗い森を明るい森にすること、2つ目に単
一種の森を多様な植生になることを目指して保全すること、3つ目に単純林から複層林にすること、4
つ目に動植物とのふれあいの場として利用してもらえる森にすることなどを目指して活動をしてい
る。先日、カブトムシの森にフクロウの羽が落ちていて、豊かな森になってきたことが分かり、とて
も嬉しかった。今後もフクロウが暮せるような森づくりをしていきたい。
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3) 事例発表2「里山の生物多様性への取組み」
NPO法人福岡グリーンヘルパーの会 平野照実氏
九州大学は移転のため、移転地伊都キャンパスに12ha生物多様性ゾーン
を作り、開発されたゾーンから植物を中心に移植をした。林床移植地、高木
移植地、根株移植地、水生生物移植地などを作った。側溝退路階段を設置し、
側溝にはまってしまった動物を助けられるようにしている。日本イシガメ、
アカネズミ、タヌキなどが生息している。生態系システムは、生産者(植物)
、分解者(土壌生物)、消費者(動物)で構成されていると考えると。
この中で生産者、つまり無機物を有機物に出来るのは植物だけなので、私た
ちは植物を守ることで生態系を守る活動を行っている。活動の1つ目は里山
の保全事業である。竹を伐採し照葉樹林を再生している。竹林を伐採すると枯れた梅の木やミカンの
木が出てきた。2つ目は、遺伝子保全を考慮した苗作り事業である。地元のドングリから苗を作ってい
る。3つ目は、里山の再生事業である。植林、下草刈りをしている。4つ目は、子供たちの環境体験学
習を企画しており、ドングリの森づくりをしている。11年間で2,000人が参加した。その他にも、観
察路作り(看板・木の名札作り)、田圃作り、環境省モニタリング1000活動(572種の植物の調査。
かやねずみや蛙などは別団体が調査している。)などを行っている。
4) 質疑応答・パネルディスカッション
モデレーター:鈴木
パネラー:茂野氏、唐沢氏、鎌田氏、平野氏
Q:民有林の管理は重要視されていないように感じる。協働して管理している事例はあるか。
A:(茂野氏)綾町では九州森林管理局や綾町などの協働で保護・復元をしている。屋久島は殆どが国
有林だが、現地の方々と一緒に保護林を設置し、保全している。自然を誇りにしている。林業をして
いる地域では、放置林などの問題が出てきていて、保全が難しい。伐採後植栽をせず、放置している
放置林では、シカ被害がひどく、禿山や草地になっている。国有林、民有林共に連携して保全する必要がある。
Q:森林や生物多様性を民間に広めるためにどのような取り組みをしているのか。
A:(茂野氏)市町村の各小中学校で森林教室をしている。小学校へ授業をしに行ったり、国有林に来
てもらったりしている。森林に触れ、生物多様性についても理解してもらっている。
Q:福岡グリーンヘルパーの会はどのようにどんぐりの森活動を広げているのか。
A:(平野氏)1回に200名以上参加という目標を作った。親子で来てもらっているが、最初は集客に
苦労をした。児童数の多い小学校の校長先生にチラシを持って行ったら、教育委員会に先ず相談する
ように言われた。九州大学の後援活動とすることで、教育委員会にも受け入れてもらえた。その後、
各小学校の校長先生がチラシを生徒にわたしてくれた。
Q:福岡グリーンヘルパーの会の九州大学の移転計画は誰が作成したのか。
A:(平野氏)九州大学の先生方が計画してある。九州大学のHPに開発地の案内が出ている。市民に
開かれた場所にする構想。生物多様性を保つために、持ち出さず、持ち込まず、という基本理念を元
に保全ゾーンとして残してある。
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Q:森を育てる会のカブトムシの森の5カ年計画で指標生物の目標はどうなっているか。
A:(鎌田氏)指標生物は特に設定していない。多くのいきものが観察できる森とするため、1年ほど
議論を重ねて、保全計画(5カ年計画)の見直しを行った。会員は50名ほどいるが、活動に出てくるの
は、十数名なので作業がなかなか らない。現在1年目であるが、昆虫の生息環境を多様化するために
林床の野草を「管理するエリア」と「管理しないエリア」を設け、植生の多様化を調査・研究中であ
る。その他、夏場の甲虫調査を行っているが、近年は日蔭の昆虫であるカマドウマやシデムシの数が
減っている。これは明るい森になって来たことに起因すると推測する。この甲虫調査では、森の中に
トラップを12カ所に設置して調査しているが、キャンプ場のお客さんが入った昆虫を持って行ってし
まう場合があり、正確な調査をするのは難しい。
Q:森を育てる会で土壌動物も5カ年計画の指標に入れることは考えているか。
A:(鎌田氏)是非やってみたいので、唐沢先生にご協力頂きたい。
Q:土壌動物の視点から見て、森を育てる会や福岡グリーンヘルパーの会へアドバイスはあるか。
A:(唐沢氏)九州大学の事例は、保存生物学の先生方が積極的に加わって活動されているので、学術
的にも基盤を持っており、土壌生物学の分野でも生態学という分野でも非常に有名なプロジェクトで
ある。世界的に見ても有名になっている。福岡グリーンヘルパーの会は、植物と水生植物を全て残す
という明確な目標があるので、結果の評価がしやすい。森を育てる会は、カブトムシにフォーカスす
るのか、明るい森にフォーカスするのか、指標を明確に決めると良いのではないか。全ての生物多様
性要素を良くするのを目指すのは難しい。
Q:福岡グリーンヘルパーの会は、クヌギの伐採後何かに利用しているか。
A:(平野氏)体験活動でシイタケの栽培や甲虫を育てるために利用している。いろいろな形で使って
いくことが保全活動を長く続けられる秘訣である。
Q:林野庁のシカ被害対策でオオカミの導入などは考えられているのか。
A:(茂野氏)オオカミの導入はやり過ぎという話を聞く。オオカミがいなくなったからシカが増えた
のかどうかは分からない。その他の被害を考えると導入は難しい。
Q:孟宗竹を減らす対策はあるか。
A:(茂野氏)国有林では、保護林における竹被害がある。竹の勢力を押さえるために切っているが、
効率的な方法があれば教えて欲しい。
(平野氏)竹を切った実例から話をすると伐採初年度3∼4年生の成竹をきるのは大変であるが、全伐
すると後は楽になる。切った後はタケノコの処理を5∼6年完全に続ければ再生はしない。小さい竹が
出てくるが、それはその都度切るしかない。(効果的な伐採時期は、竹が筍から伸び切った状態にな
る6∼7月。竹の痛手がもっとも大きい。)経済として竹が管理されている間は良かったが、現在竹を
紙、竹炭にして販売しても竹の消費が追いつかない。竹を消費する良い方法があれば、教えて欲しい。
Q:COP10の目標の中で、具体的に日本で進められているプロジェクトはあるのか。
A:(鈴木)COP10で決められた愛知目標の中の海洋保護区10%という目標で、どのように保護して
いくかという議論が進んでいる。国立公園の管理や特別鳥獣保護区などは管理がされていたが、海洋
保護区は水域を決めるのが難しく、進んでいなかったが、様々なNGOとか水産省、環境省などで議論
されている。
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